誰でも、どんな業種でも使える万能クロージング3ステップ
2025年1月9日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今月のテーマは「誰でも、どんな業種でも使える万能クロージング3ステップ」です。前回はクロージングがなぜ必要なのかを人間の心理に基づいて解説しました。今回はそれを踏まえて、誰でも、どんな業種でも、どんな商品サービスでも使える万能クロージングプロセスをお伝えします。営業の方はぜひ使ってみてください。
今回お伝えするクロージングの3ステップは次のようなモノです。
1. まずは、テストクロージングをする
2. 次に、クロージングをする
3. 反論を歓迎し、丁寧に対処する
そして、反論処理できれば、『1.2に戻る』を繰り返す。反論がなくなれば、最強クロージングへ進む。
以上です。とてもシンプルですが、これだけです。シンプルゆえ、誰でも、どんな業種でも当てはまります。ではひとつずつ詳しく解説していきます。
テストクロージングについては、前々回にお伝えしたので省略しますが、意思決定の手前のお客様が『答えやすい質問』をするということです。例えば、「お支払いいただくとすると現金とカード、どちらがよろしいでしょうか?」「ひとまず手配だけでもしておきましょうか?」など契約したわけではないが、その前提となる条件などをお尋ねします。「せいては事を仕損じる」ということで、急に決断をせまることによる失敗を避けます。
次にクロージングをすることになりますが、ここではお客様が発せられるサインを見逃さないことが大切です。サインというのはお客様の反応や答え方から「契約する気になられた」ことをとらえることです。お客様が発せられるサインの例として、金額の質問「このサービスの金額はいくらですか?」、支払方法の質問「一括払いだと割引がありますか?」、パンフレットに見入る「なるほど、よく分かりました」などです。
そのようなサインがみられたら、黙って契約書とペンを差し出します。これがクロージングです。ポイントは沈黙を活用することです。沈黙の時間によってお客様には「決断する時」が来たことを分かっていただきます。
ここでもお客様の心理を考えてみましょう。お客様の心の中では「決心しなくては…」「さて、なんと答えようか…」となっています。そして反論を唱えてひとまず先延ばししようとする『人間の基本的な弱さ』が出現するのです。だから「考えます」「検討します」などの決まり文句をおっしゃるわけです。
営業マンとしては、反論や「考えます」「検討します」に対してまったくひるむ必要はないです。なぜなら、それらはお客様が真剣に契約を考えてくださっている証拠だからです。しかも多くの場合、その反論にはさして根拠も理由もなく、ただの先延ばしです。
この反論に対して、丁寧に対処して差し上げましょう。反論に対して、一旦受け止め、今決断すべき理由や根拠、メリットを冷静にお伝えすればいいだけです。なかにはムキになって反論に対して真っ向論破しようとする営業マンも見られますが、逆効果です。なぜならお客様の反論は反対意見ではなく、納得したいがための単なる質問だからです。丁寧に質問に答えることで、お客様ご自身が納得して、最後は自らご契約いただけます。
次回はこの続き、反論処理について詳しく見ていきましょう。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅153 脱東京で成長を加速する
2025年1月9日
早嶋です。約1.9万文字。
都内には行政機関、大企業の本社機能、皇居、国立博物館や大学施設が集中しており、23区内に約956万人の人口がいる。東京と地方という言葉があるように、日本のメディアをはじめ、企業の商品開発やエンタメも東京を中心に地方に発信されている。しかしだ。その発想を捨て、それ以外のエリアでの商品開発や思想や取り組みを強化することを勧めたい。実は韓国、台湾、中国、米国郊外は、確実にそれ以外のエリアで開発された商品が受けている。そして、今後アジア30億人、そして次のアフリカ30億人の住人にも同様の可能性が考えられるのだ。つまり東京を捨てることで、超絶な事業チャンスがやってくるのだ、と言う仮説を論じてみた。
(日本型国土形成の特徴)
戦後、吉田茂は日本の戦後復興政策を指導した。軍事費を削減して、国家予算を経済インフラの復興と社会基盤整備に集中させることで、経済成長を促進させた。その恩恵は今でもあり、社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービスとして電気、ガス、水道、放送、郵便、通信、福祉、交通などが分け隔てなく活用できるようになった。
一方で、都内、特に東京23区内には行政機関、大企業の本社機能、皇居、国立博物館や大学施設が集中した。東京的なエリアとそれ以外のエリアに分かれている。それ以外のエリアは、鉄道沿線を皮切りに、国道沿いが栄え、昔からの商店街やアーケード街は廃れ、郊外の大規模商店街に生活基盤が揃う街並みが出来上がった。一部京都など、文化遺産や宗教法人が密集しているエリアは相続の心配が無く、結果的に文化的なエリアがそのまま残ったが、それ以外のエリアは見事にプレハブが似合う街並みと化した。代々引き継がれた文化的な建築も相続の度に売却され、気がつけば古き良き構造物が綺麗さっぱり除去されてしまった。
政府機関や文化施設が集中する東京的なエリアとそれ以外のエリアは構造的に異なっている。これは日本の国土形成の特徴の一つだと思う。本来、それ以外のエリアも東京的なエリアに迎合することなく独自性を大切にするべきだ。地域の歴史や文化、伝統的な生活様式を生かした街、戦前の昭和以前の街の姿だ。人口減少や高齢化が進む中で、地域資源の有効活用や観光産業の振興が地方の持続可能性を高める重要な要素という指摘はあるが実質的な取組は極めて弱い。
(日本型と同様の国・エリア)
上記で指摘した特徴を持つ国を日本型とした場合、同様の傾向で経済成長をした国を考えてみよう。その前に再度、日本型の特徴を以下の4つのポイントで定義する。
– 均一なインフラ整備:全国的にインフラが整備され、都市と地方の格差は縮小している。
– 画一的な街並み:商業施設や街の構造がどの地域も似通っており、独自性が薄れている。
– 歴史や文化の喪失:経済合理性や相続問題で古いものが失われている。
– 地方の衰退:結果的に都市部に経済や人口が集中し、2極化が進む。
このポイントに基づいて、日本型に似た国(エリア)を考えると、韓国、台湾、米国の郊外型の都市、中国の特定の地方都市などが相当すると思う。
韓国も、小さな国土で全国的にインフラが行き届いており、地方と都市の格差は少ない。高速鉄道(KTX)の整備や光ファイバー通信の普及など、日本と似た取り組みがある。韓国の地方都市には、日本と同じように、ショッピングモールや大規模商業施設が並ぶ国道沿いの開発が見られ、マンション群やチェーン店など、どこに行っても同じような景観が広がる点も共通している。そして経済成長期に都市開発が優先され、多くの伝統的な街並みが失われた。
台湾も、高速鉄道(台湾高鉄)や地方都市のインフラ整備により、地方と都市の差が小さくなっている。大都市以外では、地方都市にチェーン店や商業施設が進出し、昔ながらの街並みが薄れてきている。郊外にはショッピングモールが多く、日本型に近い発展をしている。ただ、台北は政治・経済・文化の中心であり、他の都市とは異なる個性を持っている。ここは東京的なエリアに似ている。
エリアになるが、米国の郊外型都市は近い。アメリカは都市と郊外、地方を結ぶインフラが整っており、どの地域も基本的な生活の利便性が確保されている。アメリカの郊外型都市には、チェーン店やショッピングモールが多く、どの都市も似たような雰囲気だ。これは日本型と似た特徴とも言える。ただし、アメリカには移民の影響で地域ごとの文化的独自性が色濃く残り、この点においては、日本型ほど完全な画一化は見られない。
中国でも急速な都市化により、地方のインフラ整備が進んでいる。特に高速鉄道網や空港が地方都市を結び、日本型の均質な国を目指している面があるように思える。中国は、社会主義の特徴から開発計画が国家主導で行われる。そのため、多くの地方都市が似たような構造や街並みになるっているのだろう。結果的に似たような街並みではなく、はじめから計画的に構造化された点は日本型とは異なる。ただ、経済発展の過程で古い街並みや文化財が失われるケースは多く、日本型と似た課題を抱えているようだ。
整理してみると、これらの国(エリア)に共通するのは、均質化による生活の利便性向上と、文化的多様性の喪失だ。ただ、例えばアメリカや中国のような国では、都市計画や多様性の受け入れ方が異なるため、日本型とは少し異なる発展モデルを辿っている。その意味で、日本型に最も近いのは韓国や台湾のような、国土が小さく均質化が進んだ国々だと言える。
(日本型と異なる国・エリア)
今度は、日本型と対局の国(エリア)を考えて見よう。生活の利便性が均一ではなく、文化的多様性を重視し、地方ごとに独自の成長や文化が持続している場所だ。そのように考えると、イタリア、スイス、インド、米国の地方都市中心のエリア、スペインなどが相当すると思う。
イタリアは、地域ごとに独自の文化、食、言語(方言)、建築スタイルがあり、それが維持されている。たとえば、北部はアルプス地方の影響を受けた文化や産業が発展しており、南部は地中海の文化や農業中心の経済が色濃く残っている。トスカーナ地方(フィレンツェ)やヴェネト地方(ヴェネツィア)は、それぞれの観光資源や歴史文化を活用し、経済成長を遂げている。一方で、地方ごとにインフラの整備状況や生活の利便性には差があるため、画一化とは対照的だ。
スイスは、カントン(州)が強い自治権を持ち、それぞれの地域で異なる言語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語)が話されている。この多様性が地方のアイデンティティを支えていると思う。そしてスイスの各地方は独自の産業や文化を育てている。例えば、時計産業で有名なジュラ地方や観光業が中心のツェルマット、金融業で栄えるチューリッヒなど、地域ごとに特色があるのだ。利便性については、地方間で大きく差がある。山間部の小さな村では、都市部と比べてアクセスが制限されることが多いが、その分、地元の伝統や生活様式が色濃く残っている。
インドは、地域ごとに言語、宗教、食文化、建築様式が大きく異なる。北部のパンジャブ地方と南部のケーララ地方では生活様式が全く異なるなど、多様性が非常に豊かだ。そしてテクノロジー産業で成長するバンガロールや、観光と宗教的遺産で栄えるバラナシ、経済と映画産業が盛んなムンバイなど、それぞれの地域が独自の発展を遂げている。利便性も非均質だ。都市部と農村部で生活の利便性やインフラの整備状況に大きな格差がある。しかし、それが地方の伝統的な文化や暮らしを保つ要因にもなっているのだ。
アメリカは、州ごとに法律、教育、経済が異なり、地方独自の文化が根付いている。ルイジアナ州のケイジャン文化やテキサス州のカウボーイ文化など、地域ごとの特色が明確だ。ワイン生産で有名なカリフォルニアのナパバレーや、音楽で知られるナッシュビル、テクノロジーハブであるシリコンバレーなど、地域ごとに経済の中心が異なる。そして国土が広いこともあるが、都市部と地方での公共交通機関やインフラに大きな違いがあり、地域ごとの個性が維持されている。
スペインは、カタルーニャ、バスク、アンダルシアなどの自治州が強い文化的アイデンティティを持っている。それぞれの州が独自の言語や伝統を保持しており、中央集権的ではない。バルセロナ(カタルーニャ)は観光や芸術の中心地であり、マドリード(首都)は政治・経済の中枢だが、ガリシア地方やアンダルシア地方も独自の文化や経済活動を続けている。そして、スペインでも都市部と地方のインフラやサービスには差があり、地方の独自性を維持する要因となっている。
整理すると、これらの国やエリアは、均質化を目指すのではなく、多様性を尊重し、地域ごとの独自性を維持・発展させている点で、日本型と対照的だ。これには歴史的背景や地理的条件、文化的価値観の違いが影響してきたのだろう。特にヨーロッパの国々やインドのような文化的多様性が顕著な場所は、日本型の対局に位置する例としてわかりやす。
(言語の影響と偏った情報)
日本型と異なる国・エリアの事例から、文化の形成、独自の成長を後押しする源泉に言語が最も強くでているのでは無いかと思う。日本にも標準語と方言があり、テレビやラジオは基本的に標準語だ。そして、書いていて気がついたのだが、テレビ情報の9割以上が東京的なエリア、つまり東京23区の限られたエリアで起きたことや、そのエリアに暮らしている人々が創作した情報を流している。地方は、その情報に一種のあこがれを持ち、結果的に似たような街並み、それ以外のエリアを形成したのではないだろうか。
日本では、標準語の普及が教育やメディアを通じて全国的に進んでいる。これにより、地方独自の方言や文化が時代遅れや恥ずかしいとされる傾向が生み出された。特にテレビ番組では、標準語が当たり前で、方言はお笑いや地方色として扱われることが多いのだ。ことばは、文化を支える柱の一つだ。標準語が広がる中で、地方の文化や価値観が均一化し、結果として東京的な生活スタイルや価値観が全国に広がったのではないだろうか。これが地方都市が東京を模倣する要因となった可能性があると思う。さらに、方言や地方独自の表現がメディアの中心から排除されることで、地方文化がマイナー化し、地方の人々自身が自分たちの文化を低く評価するようになった可能性も考えられる。東京的なエリアの住民が意図せずに日本中に言語統制を行ったのだ。
地上波テレビでは、ニュースやバラエティ番組の多くが東京23区を中心とした情報で占められている。政治、経済、文化、エンタメ、経済の多くが東京的なエリアを発信源とするため、地方から見ると東京が日本の中心として過剰に映る仕組みになってしまったのだ。それ以外のエリアでは、テレビを通じて東京的なエリアのライフスタイルや流行が正しい、新しい、かっこいいとご認識されたのだ。その結果、地方の人々が東京に憧れを抱いてしまっている。テレビや大手メディアが東京的なエリアの価値観を全国に押し広げ、地方独自の価値観や文化を埋没させてしまった。それ以外のエリアは、「東京的なエリアと同じでなければならない」という暗黙のプレッシャーを受け続けたのだ。
日本型の対局であるスイス、スペイン、インドは言語がそもそも別で、多様性の維持に貢献したとも考えることができる。スイスは、公用語が4つある。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語だ。そして見事に、地方の文化が言語とともに残っているのだ。スペインは、カタルーニャ語やバスク語などの地域言語がメディアや教育で使われており、地方独自の文化が保持されている。そしてインドもだ。州ごとに異なる言語が使われており、地域メディアが活発だ。これが地方文化の多様性を支えてきたのだ。
それ以外のエリアの改善の可能性は、地方メディアの強化、方言や地方文化の再評価、地方自治の強化と分権化といえるかもしれない。地方のテレビ局や新聞が地方独自の文化やニュースをより積極的に発信することで、地方の人々が自分たちの文化に誇りを持てる環境を作ることが重要だ。方言や地域文化を魅力として捉え直し、観光や教育の中で積極的に活用するのだ。地方のニュースは、標準語を亜流として、地元の方言での伝え方を本流にするのだ。各地域が独自のアイデンティティを育て、それを全国に発信するのだ。地方の文化や経済が独自に発展する可能性は存分にあるのだ。
(統計的な視点)
日本は、東京23区および東京都全体が総人口に占める割合が他国と比べて高い。特に東京への人口集中が顕著だ。一方、スイス、インド、イタリアでは、首都の人口割合が比較的低く、主要都市に人口が分散している。この人口分布の違いは、各国の歴史、経済、文化、行政の構造に起因し、都市計画や地域開発の方針にも影響を与えている。日本の東京一極集中は、経済活動や情報発信の中心が東京的なエリアに集約されていることが背景で、地方との格差や均質化の問題を指摘した。一方、他国は複数の都市がそれぞれの特色を持ち、文化的多様性や地域独自の発展を促進しているのだ。
日本の総人口は23年時点で1億2500万人。東京23区の人口は、23年時点で約956万人で全体の7.6%。東京都全体で約1,400万人なので11.2%。
20年時点でスイスの総人口は870万人。首都ベルンの人口は13.3万人で全体の1.5%。チューリッヒ43万人、ジュネーブ20万人、バーゼル18万人と他都市に人口は分散している。
21年時点でのインドの総人口は13億9340万人。首都デリーの人口は1930万人で総人口の1.4%。ムンバイが2000万人、コルカタ1490万人、バンガロール1270万人と複数の大都市に人口が分散している。
21年時点でのイタリアの総人口は5920万人。首都ローマの人口は287万人で総人口の4.8%。ミラノ136万人、ナポリ96万人、トリノ87万人とやはり分散している。
次に、国内の人口分布を確認してみよ。2025年1月現在で、日本の市町村の数は、790市、740町、180村で系1750市町村ある。これでも2000年代初頭の平成の大合併によって3200以上あった市町村は減少した。人口が1億2500万人なので、1750で割ると、6.8万人。実際、自治体(市町村)のボリュームゾーンは1万人から5万人の規模が中心だ。
100万人以上の政令指定都市の一部は全体の1%以下で、札幌、横浜、大阪、名古屋、福岡など限られている。30万から100万人の大規模都市に属する自治体は全体で5%から6%程度で、自治体数は90から100程度だ。10万人から30万人の地方都市は全体の15%から20%程度で自治体数250から300程度だ。他の約半数の自治体は人口が1万から10万人で800から850程度の自治体が属す。そして、1万人以下の自治体が350から400あり残りの2割強を占めている。
(自家用車の視点)
日本の車の登録台数は現在、7,800万台を超えており、一貫して増加している(2023年時点)。この背景は、それ以外のエリアを中心に車が主な移動手段であるこだ。東京的なエリアの東京23区をはじめとする大都市圏は鉄道やバス網が発達しており、住民の多くが公共交通を利用している。一方で、それ以外のエリアでは鉄道やバスの運行本数が少なく、今でも車が不可欠な移動手段となっている。車の依存が強まる傾向は今後も考えられ、車の登録者台数の増加につながっているのだ。
公共交通が発達した都市部では、移動が効率的で安価だ。従い、個人の車所有率が低い。この環境は、徒歩や自転車を含むコンパクトシティの生活文化を生み、公共の場での行動規範やエチケットの形成に寄与している。しかし、これも東京的エリアの縮図で、実際のそれ以外のエリアは自家用車の依存が依然として高い。常に車が生活の中心で、車が移動の自由と生活の基盤を支えてる。車は、距離の制約を小さくして、買い物やレジャーの範囲を広げる。それ以外のエリアは、車中心のライフスタイルが文化として根付いているのだ。
自家用車の運行は自分の都合で決めることが出来る。それ故に、時間に関しての考え方や縛りが東京的エリアとそれ以外のエリアでは違いがある。公共機関での移動が前提の東京的エリアは、時間に正確で効率的な生活スタイルが可能だ。結果、都市部特有の効率重視と計画的な行動という文化を形成した。都内で営業に同行したり、都内在住の人と一緒に移動するとかなり際どい時間で正確に電車を乗り継ぐ。福岡くんだりの私は余裕を持って現地にいないとドキドキする。そう、それ以外のエリアは車中心で自分の都合で動くことができるので一定の時間の融通が利くのだ。のんびりしたライフスタイルや自分のペースで動く文化がある。ただ、少し街なかでの移動の場合は、駐車場の確保や渋滞を予測してやはり余裕を持った移動が当たり前になる。
この弊害は、ナショナルブランドの開店時間にみることができる。それ以外のエリアにある大型ショッピングモールも、郊外や国道沿いに隣接するナショナルブランドのチェーン店も、皆東京的エリアで生活するサラリーマンが店舗開発している。そのため開店時間が1時間程度、感覚的に遅いのだ。東京的エリアは、その場所に行くまでに1時間は猶予が必要だろう。しかし、それ以外のエリアは、すぐに自分の車でいける距離にあるのだ。9時に開ければよいのに、東京的エリアに模倣して10時とか11時に開店する。車と公共交通の感覚的な違いを理解せずに、東京的エリアの勘違いが日本中に観察できるのだ。
公共交通圏は、徒歩圏内に便利な施設が集まる傾向があり、生活拠点が密集する。一方、車中心の地域では、郊外型ショッピングモールやロードサイド店舗が発展し、住居と施設が離れるため、生活範囲が広くなる。公共交通を利用する都市部は、駅やバス停などの公共の場が自然に人々の交流の場となり、車中心の地方は、家族単位や狭いコミュニティ内でのつながりが重視される。都市部では公共交通を利用することで、CO₂削減や環境への配慮が自然と生活に根付いてると思っている。しかし地方は車の利用が基本故に、環境意識が都市部ほど高くない。反省しなければならないが、一方でそうも言ってられないのだ。
(東京的エリア中心の考え方の過ち)
車の議論になると、地方での車依存を減らし、文化的な多様性を活かすために地方の公共交通の再整備、地域密着の都市計画、文化的なアプローチが重要だ。とおそらく東京的なエリアに本店や事務所を抱える政治家や官僚は考えてしまうだろう。
地方でも利用しやすい公共交通(小型バス、オンデマンド交通など)を導入し、車に代わる移動手段を提供する。公共交通の利用を促進するコンパクトシティを導入して、地方でも歩いて生活できるエリアを整備するのだ。そして、車を単なる移動手段としてだけでなく、シェアカーやEV化を進めることで、環境意識や地域文化との調和を図る等云々と。でも違うと思うのだ。それ以外のエリアに実際に住んでいる視点から見ると。
日本型の場合、例えば東京的なエリアでの暮らしをしている約1,000万人とそれ以外のエリアに暮らしている残りの人の自己肯定感や幸せを感じている度合いは、地方が高いのでは無いかと思うからだ。全てを東京的なエリアの基準や発想で考えるのではなく、むしろそれ以外のエリアを見直すことに取り組んだほうが、遥かに効率的で実現的だと思うのだ。既にあるそれ以外のエリアのインフラをベースにした街作りを考えるのだ。当たり前だが、人口が減少してエリアに点在し疎になる場所で公共交通を整備したとて初めから赤字で投資なんて回収できるはずがない。それ以外のエリアにコンパクトシティを提唱しても、そもそも車で移動して広い住環境に慣れている人が密を好むのか?を考えてほしいのだ。
それ以外のエリアの暮らしは、幸福度や自己肯定感が東京的なエリアの人々よりも実は高いのでは無いかと思う。地方には自然が身近にあり、広い住環境や四季の変化を感じながら生活することで、精神的な安らぎが得られるのだ。東京的なエリアの人は、アウトドアブームに乗っかり、時間をかけて田舎に出向き、お金をわざわざ払って、人が混雑しているキャンプ場に行く人種だ。何でもやってる感を演出しなければならない惨めな人種なのだ。
コミュニティの強さも、それ以外のエリアは強い。東京的なエリアのそれと比較して人間関係が密だ。人間関係は常に人の心を惑わす原因の一つではあるが、東京砂漠という表現は地方には無い。ただ、あまりにも密すぎて嫌になるときもあるかもしれないが、最近は高齢化が進んで、そんなに皆におせっかいをやく人種も少なくなってきた。人間関係に対しては東京的エリアくらいの冷めた感じのほうが良いという人もいるかも知れない。
それから生活コストが安く、一般に野菜や地元の産物が新鮮な状態で手に入り安い。東京的エリアは、一部の不動産ディベロッパーに騙されて、どこもかしこもバブっている。土地が高いのだ。猫の額のような空間に高い住居費を払わなければならない。万が一、車を所有しようと思ったら、駐車場は地方の家賃と同水準。土地が高ければ、それに乗じて全てが高くなる。人件費も材料費も何から何まで高い。したがって、対して美味しいわけでも、清潔なわけでも、サービスが良いわけでも無いのに物価が高いのだ。それ以外のエリアは少なくとも東京的エリアと比較すると経済的なストレスは軽減されている。
このように考えると、やはり地方バンザイ、その他のエリア、すんげーなのだ。もっとその他のエリアにいる人は、そこに居る、その土地を保有しいてる特権を活用して持続可能な未来永劫続く街作りをすべきなのだ。そのポテンシャルも十分にある。
それ以外のエリアの人は、東京的なエリアに数ヶ月住んで体験すべきだ。東京に変な憧れを持たないで東京を直視するために。すると、幸せの青い鳥同様に、いまのおらが村の良さがどんどん可視化されてくるだろう。今居るあなたの環境、自然、食文化、人間関係の良さ。それら全てが観光資源なのだ。東京的エリアの人々やインバウンドの人々にもっと発信しよう。東京的エリアに無い幸せが地方にはゴロゴロ転がっている。すると、東京的なエリアから、地方への移住やJターンやUターンがもっと増えていくことだろう。或いは、二拠点生活を促進させるのだ。
街は既存のインフラをベースにする。そう、車社会を前提とし、効率的な道路整備や駐車場の確保に重点を置いたまちづくりを進めるのだ。グーグルのウェイモが国内でレベル4の自動運転の取り組みをスタートするが、完全に無人で自動運転の状態になるまで、日本はまだ先だろう。それまでは、やはり所有者が車の運転手になるのだ。したがって、車を軸にした地方独自のライフスタイルを尊重した形でのインフラ整備がポイントになる。
それから地方をもっと特徴を付けて分散化させると良いと思う。今の地方自治体の発想はミニ東京をおらが村に作ることだ。何度も言うがこれは不可能だ。諦めよう。地方全体を都市化するのではなく、小さな拠点(地域の中心となる商業や公共施設)を点在させることで、生活圏を適度に広げつつ利便性を向上させるのがポイントだ。結果、人口密度の低さを保ちながら効率的な生活が可能になるのだ。その際、それぞれの拠点の産業を特定すると良いと思う。総花的な中途半端な取り組みをやめ、戦略的に地域資源を絞り込み、農業、観光業、地場産業を集中して支援するのだ。それぞれの拠点がクラスター化するとそれ以外のエリアにも違いが出てくるのだ。
IT化の発展と東京的エリアの渾身的なプロパガンダのお陰で、情報の非対称性が薄れて来つつあるそれ以外のエリア。地方にも東京の情報があふれるようになった。商品はアマゾンでクリックすると購入できるし、有名ブランド・ショップはEコマースに力を入れているので物理的な立地の優位性は薄れている。従い、実際に東京に行った時の衝撃は昔よりも薄れて来たのでは無いかと思う。もちろん、物質的な構造物はインパクト有り有りだが、情報として切り出した場合の違いの非対称性は薄れてきているのだ。
東京的なエリアでの暮らしとそれ以外のエリアの暮らし。当然に一長一短はある。が、現代において、それ以外のエリアの特徴である生活コストの低さと自由度の高さとゆとりの3点については、心理的な心の豊かさの観点から東京的なエリアの人々から注目されているのだ。そのためにも地方は東京化してはいけない。地方の良さを維持しつつ、都市部とつながる仕組みを作ることがポイントなのだ。
(生活コストの比較)
少し視点を変えて、どのくらい生活コストの違いが出るかをシミュレーションした。東京的なエリアとそれ以外のエリア、完全に2つに分けること自体難しいが敢えて2つのペルソナ像を考える。どちらとも4人家族にしよう。両親は共に40代で子供はどちらも小学生。
共通の前提
– R4年の平均所得は560万、可処分所得は440万。
東京的なエリアの家族の特徴:
– 子供は小学生から習い事三昧。塾と他の習い事に平日も休日も時間とお金を費やす。自主的に遊ぶ機会と時間が少ない。
– 親は共働き。子供は保育園に通った。小さい頃から家族と一緒に居る時間が少ないので子供の自立意識が高い。
– 休日や休みに出かける場合は、移動時間がかかり、車の場合は渋滞に巻き込まれる。公園などは充実しているが混雑しており人工的な場合が多い。
– 平均所得は全国より高めで700万。可処分所得は550万。
– 平日の親は、労働時間が共に8時間、通勤は往復2時間、家事・育児は2時間、自由は2時間、睡眠は2時間。
– 平日の子供は、学校6時間、塾・習い事2時間、宿題・勉強1.5時間、自由2.5時間、睡眠8時間。
– 休日の親は、家事・育児3時間、家族で外出4時間(移動含む)、自由5時間、睡眠8時間。
– 休日の子供は、家族で外出4時間(移動含む)、宿題・勉強1時間、自由7時間、睡眠8時間。
それ以外のエリアの家族の特徴:
– やや東京的な情報を信じて教育しているので塾にも通うが徒歩圏内。基本学校から帰るとそのまま小学校で再び遊ぶ。
– 共働きも多いが収入は夫が主で、妻はパートレベル。子供が帰る頃は母親が家に居る割合が高い。
– 週末は子供のイベントごとや家族で過ごす。車で30分から1時間も移動すると自然があり、渋滞に巻き込まれることは少ない。のんびり過ごせる環境がある。
– 平均所得は全国平均で500万。可処分所得は400万。
– 平日の親は、労働時間8時間、通勤往復1時間(車利用)、家事・育児2.5時間、自由2.5時間、睡眠8時間。
– 平日の子供は、学校6時間、塾・習い事1.5時間(徒歩)、自由3時間、睡眠8時間。
– 休日の親は、家事・育児3時間、家族で外出5時間(自然や公園)、自由4時間、睡眠8時間。
– 休日の子供は、家族で外出5時間(自然や公園)、宿題・勉強1時間、自由6時間、睡眠8時間。
大雑把だが、雰囲気は出ている。東京的なエリアは平均所得は高いが、生活費や教育費が高額になり、可処分所得は地方と比較しても大差が無い、もしくは低くなる可能性がある。時間に関しては、東京的なエリアは通勤や通学、習い事の移動に時間をかけており、自由に過ごす時間を圧迫する。それ以外のエリアでは移動時間が少なく、その時間を家族で過ごす時間や自由な時間に充てている。どちらの質が高いかは嗜好的だが、自然や家族と過ごす時間がそれ以外のエリアでは圧倒的に多いのだ。
(東京的なエリア視点の課題と活用)
平均で捉えるのは良くない。上記のペルソナも超大雑把だ。それらを理解した上で、それでも日本の企画部は東京的なエリアの住民が権利を持っている。特に東京23区内には行政機関、大企業の本社機能、皇居、国立博物館や大学施設が集中している。人口は、総人口の7.6%だ。ここの住民が日本全体をプロジェクションして販売する商品を企画している。その際に、それ以外のエリアの住民の実情を理解研究して商品企画や開発、街作りや運営、政策方針の議論をしているのだろうかと疑問が出るのだ。特に政治家とB2C企業はもっとそれ以外のエリアを研究対象としても良いのでは無いだろうか。
企画する場合、それ以外のエリアの生活実態の理解、東京的エリアの特殊性の理解、そして地方の購買力大きさを理解することだ。東京的なエリアの生活は、地方の大半の住民とは異なる環境や価値観で成り立っているのだ。それ以外のエリアの広い住環境、車中心の生活、自然との共生が日常といった特性を無視して企画された商品は、地方に響きづらいと思うのだ。それから東京的なエリアでは、家が狭く、公共交通が発達し、生活のテンポが速いといった特殊な環境が標準とされている。こうした条件に合わせた商品は地方ではニーズが低い場合もあると思うのだ。そして地方の住宅費の経済性、可処分所得が相対的に高いことから、地方住民は実は非常に重要な消費者層なのだ。地方にフィットした商品を開発することで、より大きな市場を獲得できる可能性があるのだ。
(トライアルカンパニー)
福岡の小売業でトライアルカンパニーは、それ以外のエリアを重視したビジネス戦略を展開し、独自のIT開発体制で急性長している。10年前の成績は売上高3300億円、経常利益30億円だった。直近24年は売上高7179億円、経常利益は約200億円の規模まで成長している。10年で2.15倍の売上、経常利益は約6.5倍だ。
トライアルは大都市の中心部ではなく、地方都市を主要なターゲットにした事業展開だ。地方の生活者に密着した価格設定や品揃えを提供し、地域のニーズに応じたサービスを展開している。本社のある福岡に開発拠点を構え、現場から近い視点でデータ活用や店舗運営を支えるITインフラの開発を進めている。福岡に根ざした企業であることを活かし、地方都市に特化したシステムや物流網を構築しているの。
IT関連技術はすべて中国の自社開発チームで設計・運用している。この仕組みにより、他社依存ではなく、独自のスピード感でシステム改良や新技術の導入が可能だ。特にAIやデータ解析を活用した効率的な店舗運営、在庫管理、顧客分析に注力している。一般的な大手小売業が東京的なエリアの中央市場を重視する一方で、トライアルは地方を基盤に全国展開を進めている。大都市と競争することなく、地域での地位を築くことに成功している。
トライアルの出店ルール等、人口や経済規模に基づく具体的な公式ガイドラインは公表されていない。しかし、いくつかのポイントは出店した店舗とその運営を見ると読み取ることができる。
まず、確実にそれ以外のエリアを重視している。都市部ほどの高い人口密度がなくても、周辺地域を含めて一定の購買層が見込めるエリアだ。人口密度が低い地域でも、大型駐車場を備えた店舗を構えることで広範囲からの集客を狙うのだ。更に、生活圏での競争環境に強い。トライアルは既存の競合が少ない地域での出店を優先している傾向がみえる。大手スーパーやディスカウントストアが少ない地方や郊外エリアをターゲットにしているのだ。周辺の商圏が競争過多ではない場合、未開拓のエリアにおいて生活インフラとしての役割を果たせるのだ。
トライアルはスーパーセンター型の大型店舗を基本としているが、地域の特性に応じて規模を調整する柔軟な戦略を採用する。大型の土地が確保できる地域ではフルスケールの店舗を建設し、より密な商品ラインナップを展開する。小規模な敷地面積に特化した店舗では、食品や日用品など日常生活に必要な商品を中心に取り扱う。大型店舗と比べて品揃えは限定的だが、生活必需品を低価格で提供する点は共通だ。大型店舗が設置されにくい地方の過疎地域や交通の便が悪いエリアでは、小規模店舗を展開し、地域住民の利便性を確保しているのだ。
選定についても秀逸だ。地域の購買力や消費者ニーズを分析し、低価格戦略が支持されるエリアを選定する。特に、物価や所得水準が全国平均より低いエリアでも安定した需要が見込める地域に出店を加速している。地方における店舗展開を支えるために、効率的な物流ネットワークをグループで構築し、新たに出店するエリアは、既存の物流拠点からアクセスしやすい地域が優先される可能性もあると思う。そして、常に地域活性化の一環として、地方自治体との協力関係を築くことで、地域に根ざした店舗運営を可能にしているのだ。
(アイリスオーヤマ)
同社は宮城県仙台市に本社を構え、生活者のリアルなニーズに応える製品開発を行い、特に地方での生活に配慮した企画を重視している。同社は、広い住環境に適した収納用品や家電製品など、地方特有の生活スタイルに合った製品を展開しており、顧客の暮らしをより便利で快適にすることを目指している。
アイリスオーヤマは非上場企業なので詳細な財務情報は公開されていない。直近23年の売上高は7540億円、経常利益は320億。2020年の売上は6900億円だ。アイリスオーヤマのWebサイトを見ると2018年から5年間で平均成長8%を超えていると報告がある。トライアル同様に地方に重きをおいた成長企業と言える。
アイリスオーヤマの販売チャネルは多岐にわたる。まずは卸販売だ。家電量販店、ホームセンター、スーパーなどの大手小売業者を通じて商品を提供している。アイリスオーヤマの製品は、全国の主要な小売店舗で購入可能で、卸販売を基盤として広く流通網を展開し、多くの消費者にリーチしている。一方で、直販サイトも運営している。アイリスプラザという直販サイトは、家庭用品や家電製品を中心に取り扱っている。更に、Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなどの主要なECプラットフォームでも商品を販売している。自社運営のオンラインストアだけでなく、外部のECプラットフォームを通じた販売を強化し、オンラインでのプレゼンスを高めているのだ。
アイリスオーヤマの強みは商品の企画開発力だと思う。常に真のユーザーインの開発で生活者目線での製品企画・開発を行い、実際のニーズに応える製品を作り出している。市場調査やアンケートだけでなく、社員が消費者となり、実際の生活シーンを観察することで新製品を企画している。開発体制もすごい。スピード重視の開発体制で、年間1,000点以上の新商品を発売する。従来型の家電メーカーと比較して、開発から市場投入までのリードタイムが短いのも特徴だ。特にトレンドや市場の変化に迅速で、新製品をタイムリーに投入する能力を持つ。
製品の多くが自社で開発・製造で、品質管理が徹底されている。プラスチック製品の成型技術やLED照明の開発など、多くの分野で自社の技術力を活用し、近年の家電製品やIoT製品の分野でも着実に成長している。技術の背景には、自社開発だけでなく、他社とのコラボレーションや技術提携を積極的に行うなどオープンイノベーションの活用がうまい。海外企業の技術を取り入れながら、日本市場向けに最適化した製品を提供することや、韓国や中国の工場と連携してコスト効率と技術力を両立するなどだ。
アイリスオーヤマの強みの厳正は地方にあることだと思う。製品開発も、地方都市での生活に適した製品(広い住環境に対応する収納用品など)が得意だ。それは、地方拠点で働く社員の声や意見が、製品開発に活かされているからだ。本社が仙台にあり、宮城をはじめとする地方の社員が実際にその地域の生活環境に基づいた視点を自然と提供しているのだ。地域に住む社員が、自身の生活や周囲のニーズをもとに企画提案を行う仕組みが開発企画力の源泉なのだ。
(ニトリ)
ニトリは、日本を代表する家具・インテリア用品を扱う小売業で、設計から製造、物流、販売までを一貫して行う製造物流小売業のビジネスモデルを特徴とする。ニトリは、商品の企画から製造、物流、販売までを垂直統合した独自のビジネスモデルを採用している。商品企画・設計は、自社で行い、トレンドや顧客ニーズを反映している。製造は海外拠点(主に中国や東南アジア)を活用したコスト効率の良い製造だ。物流は、自社物流網を構築し、迅速かつ効率的な供給を実現している。そして販売は、国内外の店舗やECサイトで販売し、価格競争力と利便性を提供している。
「お、ねんだん以上」ニトリの成績は、2024年時点で約800店舗(海外約100店舗)、売上高8958億円、経常利益1324億円だ。10年前の2014年は売上高3876億円、経常利益635億を見れば成長が著しい。
ニトリは、海外展開に積極的で、アジアや米国市場で店舗を展開している。地方でのニーズを満たす商品ラインが、そのまま海外郊外や地方の生活スタイルに適応しているのだ。ニトリの海外展開における成功要因の一つは、地方市場で培ったニーズに応じた商品開発力だ。それが、海外の郊外や地方生活にも適応できている。このような商品ラインは、シンプルで実用性が高く、価格競争力を持つため、特に新興国や北米郊外市場のようにコストパフォーマンスが重視されるエリアで支持されている。
ニトリは「お、ねだん以上。」という価値提案を海外市場にも適用し、現地の生活スタイルに合わせた商品展開や店舗設計を行うことで、消費者の心をつかんでいる。アジア市場では、都市部と地方の消費スタイルの差を捉えた柔軟な商品展開が特徴であり、米国市場では、日本の細やかな収納アイデアや機能性が新たな価値として受け入れられている。ニトリのグローバル戦略は、現地の生活文化に寄り添いながら、日本国内でのノウハウを活用して競争力を発揮する点にある。
ニトリの成長の源泉も開発にあると思う。そして国内の開発拠点は札幌だ。ニトリの創業地であり、本社機能を持つ重要な拠点だ。商品企画や開発の中心地として、多くのプロジェクトがここで進行する。
海外の開発拠点は深圳などにある。主に商品の生産に関わるサプライチェーン拠点として機能し、製造パートナーとの連携を深め、品質管理や商品開発を行っている。東南アジアはベトナム、インドネシアなどで、生産とともに素材調達や製造技術の研究を進める拠点だ。コストパフォーマンスに優れた商品開発に寄与しているようだ。そして、北米は米国市場の特性に合わせた商品の研究と開発を行っている。
ニトリは、商品開発から製造、物流、販売までを一貫して管理する製造物流小売業のビジネスモデルだ。商品開発のプロセスでは、現地での市場調査を重視し、地域ごとに最適化されたデザインや機能を商品に反映。これらの拠点が、ニトリのグローバル展開を支える基盤として重要な役割を果たしているのだ。
(地方拠点のメリットとグローバル展開)
B2Cメーカーは、地方に商品企画やマーケティング拠点を移し、現地の生活実態や消費者行動を徹底的に研究するべきだと思う。そして単にデータで理解するのではなく、究極のエスノグラフィの手法で自分がそれ以外のエリアの住人になることで、インサイトを研ぎ澄ませるのだ。事業の低迷を回復したいのであれば東京的エリアとおさらばして、それ以外のエリアに住むモニター家庭を定期的に調査し、生活習慣や商品利用状況をデータとして収集する一方で、自分のそれ以外の生活実態を加味するのだ。実態に基づく商品企画が可能になるとは当然だろう。
もちろん、デジタル技術の活用は当然だ。それ以外のエリアは多数ある。地方でのリアルな生活を観察しつつ、ビッグデータやAIを活用して地方消費者の潜在ニーズを分析し、新商品開発に活かすのは必須だ。商品開発時には、地方特有の文化やライフスタイルを尊重し、それを魅力として商品に取り入れるべきなのだ。
そして、ここからは仮説だ。地方発で成功している企業や商品のモデルは、海外展開においても非常に強いポテンシャルを持つのだ。特に、地方に開発拠点を持つ企業が企画・販売している商品がインバウンド需要で注目されている現象は、地方のニーズに適応した商品がグローバル市場でも評価される可能性を示唆しているのだ。
地方の生活者に寄り添った商品の特性(コストパフォーマンス、実用性、柔軟性)は、都市化が進んでいない地域や郊外の生活にマッチする傾向がある。地方特有の課題(広い住環境、車社会、急激な少人数家庭への移行など)を解決する商品は、日本国内だけでなく、似たような生活環境を持つ海外市場でもニーズが高い可能性があるのだ。
日本型の国(エリア)で考察した台湾、韓国、中国の地方や米国の郊外は、日本の地方と似た生活スタイルや環境が多く、地方発の商品が適応しやすい市場と考えることができる。台湾や韓国はグローバルでは規模は小さいが、出だしの国として実験すると良い。これらの国は、地方での生活においても質の高い商品を求める意識が高く、日本製品への信頼が厚い。中国の地方都市や農村部では、実用性が高く価格も手頃な商品が受け入れられる可能性が高い。そして米国の郊外では、広い住環境やDIY文化に対応した商品が求められる。地方発の商品開発は適応性が高いのだ。
インバウンド需要の研究は案外需要だ。インバウンドが有難がって購買している商品は、安いか、その国(エリア)には流通していない概念の商品なのだ。そのような視点でみてみると、インバウンドが地方のスーパーで大量に購入している商品は、実用性、独自性、高品質を兼ね備えたものが多い。これらは、日本国内の地方生活で生まれた知見が商品に反映されている証拠なのだ。
そのように考えると、地方発の商品がグローバル市場でも評価されるポイントは、価格競争力、実用性と信頼性、デザイン性となる。価格競争力は、地方の視点で効率的に設計・製造された商品なので輸出してマージンを乗せてもなお競争力が高いはずだ。実用性と信頼性は、日本の地方で成功した実績が、品質への信頼を支えることになる。そして、デザイン性は、日本特有のシンプルで実用的なデザインが良いのだ。ここもエリアに迎合することなく、そのままのパッケージやデザインで勝負しよう。グローバル市場でも受け入れられる傾向があるのだ。
B2Cメーカーは、東京的なエリアの思考を削除するのだ。それ以外のエリアの思考で戦うのだ。地方での成功は、国内の売上を牽引するばかりか、海外展開の可能性を高める重要なステップとなり得るのだ。特に、台湾、韓国、中国、米国郊外といった日本型の生活スタイルが親和性のある市場では、地方発の商品がそのまま受け入れられる可能性が高い。地方に根ざした企業が持つ強みを生かし、地域特性に応じた商品開発とグローバル戦略を組み合わせることで、さらなる成長が期待できるのだ。地方での成功モデルは、日本国内だけでなく、世界の地方や郊外へと広がる大きなチャンスを秘めている。
(さらなる可能性)
アジアとアフリカは今後の世界経済における成長の鍵を握る地域だ。これらの地域が日本型の街づくりに近い形で発展する可能性は現時点では非常に高いと考えられる。
まずはアジア30億人だ。アジアは既に世界経済の中心となりつつあり、中国、インド、ASEAN諸国がその成長を牽引している。この地域は人口ボーナスを享受しており、中間所得層が急増している。アジア全体で都市化が進み、インドネシア、フィリピン、ベトナムといった新興国は、地方から都市部への人口移動が加速している。
その中で、街作りが日本型化していると思うのだ。日本型の均質なインフラ整備は、多くのアジア諸国が参考にしているモデルなのだ。特に、中国の一帯一路構想を通じたインフラ支援は、アジア諸国の地方都市を日本型に近い形で発展させている。すると、アジア諸国では、地方都市も都市化が進み、均一的な商業施設や住宅街の発展が進行し、結果的に日本のケースをベースとしたタイムマシン経営が出来るのだ。アジアの新興中間層は、日本の商品やライフスタイルに憧れを抱いており、日本型の消費行動が浸透するのも見えている。
次にアフリカ30億人だ。アフリカは2050年までに人口が倍増すると予測され、労働力や消費力の拡大が期待されている。新興経済圏としてのポテンシャルは非常に大きいのだ。アフリカの都市化率はまだ低いものの、急速に進展しており、これに伴い、インフラ整備や住宅開発の需要は急増する。そしてダークホースは中国の存在で、それが日本型の後押しをしていくと予測ができるのだ。中国は一帯一路構想を通じて、アフリカ全土で道路、鉄道、港湾といったインフラ整備を進めている。このインフラ整備は、日本型の都市モデルに近い均質な基盤を提供している。この投資とインフラ整備が続けば、地方都市にも画一的な商業施設や住宅街を生み出す構造になり、日本の地方都市に似た便利で均質な街並みが形成されるのだ。その結果、アフリカでも、中国製品と並び、日本製品や日本的な商品設計が評価される。字指、その市場は拡大中だ。特に品質や信頼性を重視する層には、日本型の商品はマッチしている。
アジアやアフリカは、日本型の街作りをすることに対しは不可逆的だろう。とすると、日本型の街作り、都市モデルを提供する企業は早く進出すべきだ。特に、地方のインフラや街づくりに特化したノウハウを、アジアやアフリカの地方都市開発に活用することで、日本企業が市場拡大がイメージ出来る。
そして、生活必需品や実用商品は、上述した地方発の商品企画がやはり、アジア・アフリカの新興市場で非常に高い適応力を持つ可能性があるのだ。今後数十年で、中間所得層が急増するアジアの地方都市は、日本型の商品やサービスの主要ターゲット市場となるだろう。そして、アフリカの消費層も、地方都市を基盤とした生活必需品やインフラ商品に対する需要が大きくなると予測される。
アジアとアフリカの成長は、日本型の街づくりや商品の輸出にとって大きなチャンスだ。特に、地方型モデルがアジアの地方都市やアフリカの新興都市にマッチすることで、日本企業がグローバル市場で成功する可能性は非常に高い。地方発の商品企画の成功事例を活用し、アジア・アフリカでの市場拡大を目指すことは、未来の日本企業の競争力を高める重要な戦略となるのではないだろうか。
ということで東京的なエリアの憧れを捨てることが、日本の未来を切り開くことに繋がるのかも知れない。
新規事業の旅152 人的資本経営
2025年1月7日
早嶋です。約14,500文字です。
経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」では、企業の人材戦略を策定・実行する際に考慮すべき「3つの視点(Perspectives)」と「5つの共通要素(Common Factors)」が提唱されている(いわゆる、3P5Fモデル)。今回のブログでは、その概要に触れ、現場で生じているギャップの考察をする。
まず、3つの視点だが、企業が人材戦略を策定・実行する際に、経営戦略と連動させること、現状と目標のギャップを把握すること、それから組織文化へ定着させることを指摘している。
経営戦略との連動性とは、人材戦略が企業の経営戦略と連携しているかを確認する視点だ。「組織は戦略に従う」のアルフレッド・チャンドラーの命題通り、戦略は変えることが容易だが組織は変えにくいし、組織構造を変え、人事システムを再インストールするのには数年の年月を要す。当然に戦略実現のための経営資源であるヒト、モノ、カネ、時間、情報等の分配において、連動性は必須だ。しかし、人事の現場では、人事をすることが仕事になり、戦略との一貫性が乏しいのも観察できる。
2つ目の現状と目標のギャップ把握すること。マネジメントとしては当たり前だろう。目指すビジネスモデルや経営戦略と、現在の人材や人材戦略との間にどのような差異があるかを把握して、そのギャップを埋めるために日々行動を続ける。当たり前のようだが、事業部として動くより、機能部として動く人事部は、戦略や戦略ギャップがどの程度あるのかを把握せずに動いている現実があるのだ。
3つめは組織文化への定着だ。 人材戦略が実行される過程で、組織や個人の行動変容を促し、それが企業文化として根付いているかを評価する視点だ。無意識に定着している組織の考え方や雰囲気、行動を司る部分を文化とした場合、戦略実現の手段としてドラスティックに改造する必要がある。意識的に組織を動かし、変革を実現する過程で、考え方やマインドセットを徐々にその組織として「当たり前」のこととして無意識に出来る文化を創り出す必要がある。当然大切な取組だが、実現するのは年月と一定のインストールの継続が大切になる。ここにおいてトップのコミットと人事の連携は不可欠だ。
伊藤レポートでは、この3つの視点をベースに、実際に人事システムとしてインストールする共通要素を5つ上げている。それぞれ概略を見てみよう。
1つ目は、動的な人材ポートフォリオだ。将来のビジネスモデルや経営戦略の実現に向け、多様な人材が活躍できるような人材構成を構築すること。
2つ目は、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン。個々の多様な知識や経験が、組織内での対話やイノベーション、成果創出につながる環境を整備すること。
3つ目は、 リスキル・学び直し。将来の目標と現状とのスキルギャップを埋めるため、従業員に再教育や学び直しの機会を提供すること。
そして4つ目は、 従業員エンゲージメントだ。多様な個人が主体的かつ意欲的に業務に取り組めるよう、従業員のエンゲージメントを高める施策を推進すること。
最後に、時間や場所にとらわれない働き方を上げている。柔軟な働き方を推進し、時間や場所に制約されない労働環境を整備することだ。
3つの視点と5つの要素。整理すると当たり前だが、これらを実現するのは相当にハードルが高い事がわかると思う。少なくとも、マネジメント経験がある方や人事をかじった経験がある方は。以下、実情として現場で観察できるギャップや課題について議論してみた。
(実情:戦略と組織の連動)
伊藤レポートは、上記を3P・5Fモデルとして、 企業が人材戦略を策定・実行する際の指針として位置付けている。組織は戦略に紐づくという言葉どおりなのだが、現状の企業組織は戦略どころか部分最適のオンパレードになっているのだ。
例えば、デジタル化推進の遅れも戦略と組織の不一致によるものが多い。企業が「デジタル化」を掲げ、AIやデータ分析を活用した事業展開を経営戦略に据えているにもかかわらず、社内で必要なデジタルスキルを持つ人材が不足しているのだ。少なくとも、事業の全体像がわかり、かつデジタル分野に明るいマネジメントがいなければ、何をどうしてデジタル化を推進するのが良いのかを判断出来ない。それが出来ないトップが、どうして部下を育てる事ができるというのか。その根本に気がついていない。仮に、外部から専門的な人材を採用しようとするが、自分たちの数倍の給与を払って歓迎する発想など、これっぽっちも無いのだ。例えば、DXとは、デジタル技術を使って、トランスフォーメーションする。つまり、全くことなるサプライチェーンの実現やバリューチェーンそのものをデジタルを駆使してゼロベースで組み立てるなどを行う。その事によって10,000人で行っていた作業を例えば10人くらいで出来るようになるのであれば、通常の給与の10倍のコストの人材を雇っても費用対効果は十分にある。だが現実は、労働組合がそれ、マネジメントの給与規定がそれといって、誰もその条件を提示しないのだ。従い、Web技術を少しかじった、あるいはプラットフォームを少し導入した経験のある、なんちゃってDX人材ばかりを採用してしまい、結局は烏合の衆のままなのだ。
例えば、グローバル展開。海外進出を目標とする戦略があっても、そのエリアに精通している人材や現地の従業員採用を行わない。更に、経営陣は本社の机上から指示を出し、現場には中堅クラスのマネジメントがぽっと行って終わり。異文化理解や新規の取組の理解を経営人や組織長クラスが出来ていないので、なぜ資本を投下しているのに海外のプロジェクトは進捗が遅いのかを理解できずにいる。伝統的に日本の企業の海外進出は、メーカー主導だ。現地に輸入していた商品の販売が好調になり、メーカーは現地で製造をはじめる。その際に、周辺の部品メーカーや関連企業が一緒に海外にでていくパターンが多かった。そのためゼロから行うのではなく、企業城下町単位で海外に進出する感じで、1つの企業として、独立して専門人材を育成調達する考えは薄かったのかもしれない。
多様性やインクルージョンの独り歩きも同様だ。例えば、戦略に多様性と掲げている企業で、変化が10年単位で起きない企業は要注意だ。仮に技術本位の会社だったとする。現場の発言をすべて整理して、その実現に向けて商品(製品・サービス)を提供してきた企業は、収益制をあげるためには、それらの声を集約して、実現すること、しないことを企業として判断する必要がある。毎回、スクラッチで1点ものを商品として提供していると、提供コストが高くなる。相応の費用を受け取っていれば別だが、そのような企業に限って価格が安い。更に、そのような商品が15年から20年も使用されると、メンテナンスや不具合対応が発生する。商品が1つで、潤沢に従業員がいれば問題ないが、そうはいかない。ここ数年、過去15年から20年前に出荷した商品のトラブルが続出している。例えば、ここでいう多様という人材は、その考え方を否定して、きっちりと初動で費用を顧客から受け取る、それが出来ないのであれば断れる人材を意味する。それから短期的な周期で物事を考えるのではなく、戦略を理解して、15年、20年先のメンテナンスの仕組みまで考えられる人材がその企業によってダイバーシティを意味するのだ。つまり、企業が示した多様性の意味を理解しないまま、中間管理職あたりが多様性=外国人労働者、女性、若手と印象で捉えて採用や昇進を勧めてしまうのだ。当然、変化は生まれない。
結局、戦略立案できたとしても、それらを現場が理解できる概念と言葉で浸透する行動が伴っていないのだ。現場では単なるスローガンになり、また同じこと言っている。鼻から達成することなんて出来ないと、日常的な行動が変わらないというのがよくある風景だ。それもそのはず、戦略で新規に重きを置くと言いながら、現場のリソース配分は変化がなく、新しい意思決定に対しても挑戦をせずに、なにかあったら現場に責任がいく仕組みのままだと、誰も怖くて動かないのだ。
(実情:戦略目標と現状のギャップの把握)
戦略的な目標、例えば利益率を7%から10%にする。あるいは売上を300億から500億にする。などの目標を掲げる企業は多々あるが、その目標を細分化して、現状の取組や事業の中で、何がギャップで、その目標の課題を達成するための課題はこれだ!と特定して実行に移す企業が極めて少ないのだ。
実際、現状の分析が大雑把だ。仮にされていたとしても企画部門の数名のスタッフのみが理解していて、事業部長やその部下のマネジメントなどの理解や普及が全く進んでいない。現状の自分たちの実力を把握するためのデータ収集もなく、仮にあっても定期的にそれらを分析して行動を振り返るなど皆無なのだ。当然、ギャップの中には資源があり、人的資源でこんな能力がこの程度足りていないなどは示されない。更に、現状の従業員のスキルマップなども未整備で、戦略ギャップを埋める行動に教育や採用がはじめから連動していないのだ。企画と人事が日常的にやり取りをしない会議体になっていることも一因だし、企画は戦略的な理解はあるが、組織体制や人事システムの理解が乏しいことにも理由があると思う。
事業部門が複数あり、事業部制を敷いている企業の多くは、情報が縦割りになっている。更に、部門内部でも上層部と現場では情報が非対称になっている。常にトップは自分たちが現場にいた数年前から10年前のイメージで現状を語り、そしてそのことの怖さに気がついていないのだ。組織全体で現状を把握する視点と、それが出来ていないことに気がついていないのだ。このような組織は、常に上流工程の部門の態度が大きく、下流にいけばいくほど情報を出すことが難しくなる。例えば、商品開発や仕入の部隊、販売やマーケティングの部隊。インストールや提供の部隊。保守メンテナンスやコールセンター。となった場合、実際の顧客の不具合や顧客の声を聴く部門は下流工程の保守メンテナンスやコールセンターだ。ただし、この下流の機能は、外注化されたり、あるいは子会社化され、実際に発生している問題の深堀りや課題の特定をせずにただ仕事をこなしているだけなのだ。本来は、このような情報こそ、上流の研究や企画が定期的に分析して、全体のスループットをあげる取組をしなければいけないのに、その重要性に気がついていないのだ。
ギャップを明確に出来ない理由に、目標そのものが曖昧な事例も多々ある。例えば、「イノベーションを推進する」「顧客満足度を向上させる」等だ。「現状のイノベーションの推進状況と数年後に推進した状況の違いは何だ?」と質問を投げても誰も答えきれない。驚くことに、経営企画でもわからないのだ。したがって、本来大切になる目標の細分化もされていない。売上300億から500億にした場合、どの事業でどの程度貢献すべきなのか?不足する部分に足して、どのエリアで新規事業を行うのか?曖昧な場合が多いのだ。「生産性の目標7%を10%に」なども同じで、今の生産性7%のメカニズムを理解せずに10%の目標を設定している。仮に10%にするためには、どのインプットをどの程度高める必要があるのか?なんて誰も考えないで何となく、一生懸命に仕事を頑張っている状態が続くのだ。
(実情:組織文化の定着)
最も怖い過ちは、組織長や組織のトップがすべての評価を平均で捉えることだと思う。伊藤レポートは、失われた30有余年の低迷日本真っ只中の組織が変革や躍進をする際のフレームだ。組織の文化の実態がどうなのかを調査する際に、トップは自分で手足を動かさないで、調査会社に丸投げしている。ここがそもそも違うと思うのだ。トップや組織長として1,000人あるいは数千人の社員全員の声を聞けとは言わない。ただ、ランダムに実際の声を聴く努力を続けながら、調査会社を使うべきなのだ。調査会社のレポートも多岐にわたり、細分化した情報になっているだろう。しかし事業部長などの組織長以上に情報が提示される頃には、若手の離職率が高い、社員のエンゲージメントが低いとか、やはり抽象化した情報として集約されてしまうので。トップが組織を平均で見て判断している限り成果はでない。平均で見てよい状態は、上手くコントロール出来て、組織として好ましい動きになっているときだ。だけど、実際は人のメカニズムは毎日変わるし、感情や外的な要因によってもコロコロ変わる。それを全体の平均だけで捉えるのはやはり無理がある。
平均で捉えた結果、経営や企画は出来ている人も、出来ない人も、出来ている部署も、出来ない部署も、一律で同じ対策を導入する過ちを犯す。その結果、現場の負担感は更に増え、既に問題無い部署は謎の仕事が激増する。結果的に皆が組織長や企画や経営に対して不信感を持つのだ。一方で、トップは自分たちは施策を考えて実行しているのに、現場は一向に変わらない。と対立の構造が発生して文化の定着どころではなくなるのだ。
子育てをする時、同じことを4万回程度繰り返して言う事、というような趣旨の本を読んだ。10年、20年以上も同じような取組をしている組織に対して、一介の経営企画が示した文章を掲示しただけでは、当たり前だが浸透しない。企業の変革を真剣に行うなら1on1やタウンミーティング、定期的な意見交換の場。そして実行する組織に対してもフィードバックを得ながら戦略の検証を続ける取組は必要だ。そこにトップや組織長の顔が出てこないのは失格なのだ。抽象的なスローガンを独り歩きさせても現場には響かない。その言葉と共に、一定の規模の組織が動き、膝と膝を突き合わせながら、一定の回数、一定の期間以上、言葉を交わし続けて、ようやく現場が理解しはじめる段階にいくのだ。
(実情:動的なポートフォリオ)
動的な人材ポートフォリオは、企業の戦略や環境の変化に応じて、人的資源(スキル、経験、配置)を柔軟かつ戦略的に最適化する考え方だ。この概念は、人的資源を固定的に捉えるのではなく、動的に管理・運用することの重要性を強調している。しかし、大いにハードルがあるのだ。日本の人事採用は伝統的にメンバーシップ型の採用を続けた。仕事を人に付ける発想ではなく、人に仕事を付ける発想だ。そのため新卒採用を主軸に一括採用で、同じような階層教育を丁寧に行いながら企業文化をなじませ、長期間雇用を前提としてきた。
その結果、柔軟性が欠如すると同時に、雇用維持の圧力と戦わなければならない。環境変化に応じて業務内容が変化しても、既存の社員を他の業務に配置転換することを前提と考えるため、新しいスキルの習得が鈍く必要な業務に対応出来ないままでいる。逆に、一定の業務が構造的に不要になったとしても、企業は従業員を解雇することが出来ない。一定の無駄なコストを発生してしまうのだ。
労働組合が動的なポートフォリオを阻害する部分もあると思う。労働組合は雇用の安定や平等性を重視する余り、短期的な成果主義や成果報酬型の雇用を嫌ってきたのだ。そのため、時代の変化に合わせて一部の優秀な人材を獲得しようとも、その人材の市場価値に応じた報酬を支払うことを組合が反対して実現できないのだ。更に、プロジェクト単位での契約社員やフリーランスの活用も同様の理由で進みにくい。優秀な外部人材を一時的に活用することも難しいのだ。労働組合の均等処遇を過度に優先する発想があることで、内部の優秀な人材が流出する結果も招いている。
報酬体系も年功序列が根強い。組織内の上下関係を反映した報酬が一般だ。自分より高い報酬を得る部下をマネジメントすることに抵抗を示す心理的、あるいは文化的抵抗が強いのだ。本来、優秀な部下を多数持つマネジメントは、より多くの効率的な仕事に取り組めると考えるだろうが、そうはいかない。自分よりも優秀な人間を効果的にマネジメント出来る能力とマインドがないのだ。ここも年功序列の弊害で、結果的に仕事が出来る若手や、デジタルエリアに明るい人材は自分の成果を認めてもらえないフラストレーションが溜まり、他社に転職を促す結果となっている。
メンバーシップ型の採用が、社員に対して包括的な役割を果たす多数のジェネラリストを育成してきた。そのため未だに総合職という昭和の言葉が現場で蔓延している。専門性がなく、広範囲で応用の効く人材。一見、すごい人材のように聞こえるが、言ってしまえば専門性もなく、いい塩梅にしか仕事が出来ない集団だ。もし、伊藤レポートで指摘する動的なポートフォリオを実現するには、もっと専門的なスキルを持つ人材が必要になる。ジェネラリストをばかりを抱える組織は厳しいのだ。
興味深いのは、我が社は定期的に異動を行っているので、柔軟な動的なポートフォリオを満たしていると考える人事が多いと思う点だ。例えば、新規事業を任される部隊で、数年かけてようやくマインドセットしてチャレンジすることができるようになった矢先、従来の年功や慣例に基づく異動が派生する。異動には理由がなく、人事は突然やってくるを今でも実現している。その弊害は、引き継ぎをする余裕もないので、常に集団知が形成されない状態を続けている。
(実情:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン)
多くの組織ではD&Iが浸透していると思われるが、単なるスローガンで終わっている。目的や戦略との結びつきが不明確なまま進められるからだ。前述した通り、前提となる具体的な戦略目標がそもそもない、或いはあっても曖昧すぎるのだ。一方で一定規模の組織は、障害者雇用や女性の活躍、若手の起用といった施策が、「法令遵守」や「外部評価向上」など表層的な理由に基づいて導入されている。人事部門は一生懸命活動を進めるのは理解できるし、大変なご苦労を伴っていることは承知だ。
しかし、それが企業の収益向上や競争優位性構築にどう貢献するかが明確ではないし、はじめから考えていない組織が多い。繰り返し述べて来た通り、D&Iもトップダウンで進められるが、現場や中間管理職がその意義を理解することもなく、単なる「形だけの取り組み」になっているのだ。女性管理職比率や障害者雇用の比率がなぜ、自社にとって必要なのか?何を達成するための取組なのか?が現場や中間管理職で議論されることは皆無なのだ。
戦略が不明瞭なままD&Iが進んでいるということは、つまり戦略ギャップを埋める視点も欠如していることになる。障害者の雇用においては、雇用義務を果たすこと、企業イメージの向上が目標になるだけで、本質的な課題、つまり障害者を活用してどの事業課題を解決するかの議論が不足している。そのため障害者のスキルを活かした適材適所の配置や新たな事業機会創出が議論されず、単に定員を満たすだけの施策になっているのだ。
女性活躍についても同様だ。目標が例えば、女性管理職比率を増やすことになっており、具体的にどの部門で女性が活躍することが経営課題の解決につながるのかが不明なまま比率だけを追いかけている。本来は、自社の理解を踏まえて将来の姿から逆算してどの事業や役割に対して女性を増やし、戦略的に企業の競争力や収益性をあげるのかの議論と定期的な検証が必要なのだ。
結果、多様性は重要が独り歩きするだけでお、現場では不満がたまる一方だ。実務との親和性や将来の事業発展を伴わないので、実務効率が下がるとか、成果が上がらないとか現場からの不満は付きないのだ。
(実情: リスキル・学び直し)
本来は、将来の目標と現状とのスキルギャップを埋めるため、従業員に再教育や学び直しの機会を提供することなのだが、いきなりズレがある。人事に指示がおりた瞬間に、スキルギャップがなくなるのだ。これは動的な人材ポートフォリオの難しさとラップする部分がある。伝統的にメンバーシップ型の採用を行い、人を採用して一定の経験を積ませることで、人が仕事をこなしてきた過去があるので、スキルの定義や把握、その教育などを体系的に捉えることができていない。
コロナ前後で観察できたことだ。当時は、人的な接触が難しく動画で教育コンテンツを充実するチャンスが一気にやってきた。しかし人事は、自社にどのようなコンテンツが必要なのかを設計できないので、百科事典のようにすべてのコンテンツを持つ会社と契約をして、社員が隙間時間に自由に動画を見ることができる環境を整えたのだ。そして人事としては動画の環境を提供しただけで、やった感を出すのだ。が、蓋をあけると当たり前だが、やたらと出来る人材は動画コンテンツを自由に活用するが、8割、9割の見て欲しい人材ほど、動画のアカウントの開封作業すらしない状態が続く。2年程度もすると、サブスクで毎月払っている金額と効果が気になりはじめ、トップから費用対効果を求められ、その説明を人事が出来ないので業者に丸投げするという応答が繰り返されるのだ。
企業に必要なスキルセットの標準はあるだろう。規模が小さければ、すべてのコンテンツを時前で容易するのは難しい。その場合は、前提や内容を把握したうえで、百科事典のような動画サブスクを利用するのは問題ない。しかし、●事業部の●課にAさんは、戦略的に3年後に●の仕事の職位をするために、スキルセットとして●が不足している。それらのベースを補うために、百科事典動画セットの●のコンテンツと▲のコンテンツでベース理解を付けて欲しい。その上で、人事が企画する1日の研修で、●について理解を深めるディスカッションをして欲しい。などと、誰に対して、どのように活用するかを人事が理解することは大切だと思うのだ。
ということで、現在の人材に対してのスキルギャップが把握出来ていないので、リスキルや学び直しに対してもアタマを抱えている現場が容易に想像できるだろう。
理想は、企業戦略と現在の人材育成のギャップを整理できていること。そして、今後の人材採用の取り組みともリンクしながら誰に足して、どの時期に、どの程度のスキルを身につける必要があるかを一定のレベルで整理ができている必要があるのだ。そして、そこに対して、すべてを身に着けていただくことは出来ないので、優先順位を付け学習に機会を提供するのだ。その際に、OJTとOFF-JTという手段に加えて、オンラインコース、社内研修、プロジェクトベースの学習など、社員の労働環境に応じた柔軟な学習チャンスを提供できるようにセットする。学習は時間がかかる作業故に、人事マターで人材の変化や学習の進捗を管理しながら適宜、教育内容と実務の変化にフィードバックしながらチューニングすることまでがリスキルと学び直しの概念なのだ。
今のリスキルは、あなたは50歳になるから、デジタルコンテンツを見て、試験を受けてくださいな。程度の取り組みしかしてないのではないだろうか。或いは、そのような機会すら与えてもらえていないのではないか?リスキル・学び直し1つをとっても、大きな課題がはびこっていることが想像つくだろう。
(実情:従業員エンゲージメント)
多様な個人が主体的かつ意欲的に業務に取り組めるよう、従業員のエンゲージメントを高める施策を推進すること。というのが従業員エンゲージメントの解釈だ。しかし、ここにも平均の罠がある。多くの企業がメンバーシップ型の採用を行ってきて、仕事に人を配置していた。それを人事をジョブ型に変更するだの、戦略ギャップを埋めるための人事というように、急激に近い形で人事や人事システムにメスが入った。ぐたぐたな環境の中、更に授業員のエンゲージメントも高めなければいけない。と人事に司令がやってきた。直感的に、エンゲージメントと離職は比例するだろうし、さぁどうする?という感じになているのが今の人事だと思う。
伊藤レポートの背景は、企業の価値創造において、人的資本が投資対象から価値創造の原動力に進化すべしとの指摘がある。そして、「エンゲージメントの高い従業員は業務に対する意欲が高く、イノベーションや生産性の向上に直結する」という競争優位の源泉的な発想がある。それから従来の株主重視の発想から、従業員含む全ての利害関係者を重視する資本主義へと移行していて、従業員満足度(エンゲージメント)も企業価値指標の1つとして注目された。
更に、日本のマクロ的な要因で、慢性的な労働不足がある。労働人口は確実に減少。どの企業も一様に若手社員を欲し、若手社員はSNSを通じて自由に労働環境の情報を仕入れることが出来るようになったため転職が簡単になった。企業としては、エンゲージメントを高める事ができれば離職が減るという妄想を抱いているのかもしれないのだ。
エンゲージメントを高める取り組みは正しいが、やはり部分で考え、平均で全体を管理するのは間違っていると思うのだ。そもそもの目的が企業の価値創造だとしよう。すると全員のエンゲージメントを本当に高める必要があるのか?というマーケティング的な発想が重要になると思うのだ。つまり、一つの組織を総花的な市場と捉えるのではなく、1つの組織を細分化して、どこにフォーカスを充ててエンゲージメントの取り組みをするのか?という考えだ。
確かに、エンゲージメントが高い人は往々にして能力も高く、外部での競争力も持つ。そのため、組織への帰属意識や意欲が高くても、転職市場での選択肢を持つためにリテンション(引き留め)の問題が生じる。一方で、エンゲージメントが低く、仕事に対する意欲が薄い人にまで相場な的にアプローチした場合、「エンゲージメントを高める投資に見合った成果が出ない」「一時的に意欲が上がっても、能力やスキルの不足によりパフォーマンスには結びつかない。」「そもそもエンゲージメントが低い理由が、個人の問題ではなく組織の構造や文化の問題である場合、個別の取り組みでは効果が限定的。」などと当たり前の問にぶち当たるのだ。
そのため従業員を1つにするのではなく、例えばセグメントに分けて取り組む必要もあるだろう。例えば、(パフォーマンスの高低)×(エンゲージメント高低)のマトリクスだ。
高パフォーマンス×高エンゲージメント層は、おそらく組織にとって最も重要だ。この層の流出を防ぎ、さらに成長を促すことを優先する。キャリアパスの明確化や、さらなる成長機会の提供(役割拡大、専門性の強化など)を与えるのだ。最も集中して投資をするイメージだ。
高パフォーマンス×低エンゲージメント層は、退職リスクを減らし、組織への帰属意識を高める必要性がある。エンゲージメントが低い理由を個別に把握しながら何によってエンゲージメントがあがるのかを理解しなければならない。一律での対策に疑問を持たれたら外部市場での価値が高い人材なので転職の対象となってしまうのだ。
低パフォーマンス×高エンゲージメント層は、能力のポテンシャルを見極める必要がある。やる気があっても、パフォーマンスの限界があるのであれば投資に見合わない。従い、一定の集合研修やスキル向上プログラムのチャンスを提供してモニタリングして判断するのだ。やる気が高い層なので、なにかコツが掴めれば組織にとって非常に重要な戦力になる可能性があるのだ。
低パフォーマンス×低エンゲージメント層は、判断が必要だ。ここに費用をかけるより、一定の離職を許容することも大切だ。おそらく、離職しても組織の生産性は維持されう場合が多い。一律の作ではなく、企業として明確なフィードバックを与え、改善が見られない場合は適切な退職の支援を検討するのだ。
日本企業は、「暗黙の雇用保障」や「年功序列」といった慣習がまだ残っている。そのため仕事をしない人(低パフォーマンス×低エンゲージメント層)が温存されるケースがあるのだ。このそうに対して身分相応以上の評価を与えると、最も流出してほしくない高パフォーマンス×高エンゲージメント層が不満を持ち流出の対象になるかもしれない。従い、ドラスティックな仕組みを導入しなければならないのだ。その場合、成果主義を取り入れ、貢献度に応じた評価と報酬を実現するのだ。もちろん、縁故や忖度の評価はなくし公平なパフォーマンス評価制度の導入が必須になる。もちろん低パフォーマンスの人材にもチャンスは与える。貢献度が低い従業員に対しても、具体的な目標や役割を明示し、期待値を明確に伝え、改善が見られない場合は適切な対応(配置転換や退職の検討)をするのだ。
既にエンゲージメントが皆高く、一定の能力を全員が保持している場合は総花的な取り組みはOKだ。しかし、そうでないバラバラの組織に対しては、すべての従業員に対してエンゲージメントを一律に高めようとするのは効果が薄く、特に低パフォーマンス×低エンゲージメント層に対する投資は慎重に判断すべきだ。エンゲージメント向上は、高パフォーマンス層の維持・強化を優先し、必要に応じてパフォーマンス改善策や構造的な組織改革と組み合わせることで、最も効果を発揮するのだ。
(実情:時間や場所にとらわれない働き方)
近年の技術革新や社会の変化、従業員のニーズの多様化を背景に、働き方改革の中核となる要素だ。これは、生産性の向上やワークライフバランスの充実を実現するために欠かせないアプローチだ。そもそもこの背景は、技術革新、多様な価値観の増加と浸透、そして外部環境の変化がある。技術では、クラウド技術、オンライン会議ツール(Zoom、Teamsなど)、プロジェクト管理ツール(Trello、Asanaなど)の普及が可能になった。価値観においても、従業員が、仕事以外の人生(家庭、趣味、学習など)も大切にする傾向が強まった。そして、コロナをきっかけに仕事のスタイルをゼロベースで見直すことになったのが大きい。
時間や場所にとらわれない働き方の目的は、生産性の向上、モチベーションの向上、多様な人材登用、働きがいと働きやすさの両立だ。自由度の高い働き方であれば、従業員が最も効率的に働ける時間や場所を選べる可能性は高まる。自律的な働き方が可能になれば、従業員が主体性を持つかもしれない(実際は違うと思うが、このように考えている解釈は多いと思う)。地理的制約を超えて、多様なバックグラウンドを持つ人材を採用・活用できるはず。そして、ワークライフバランスが向上することで、企業へのエンゲージメントが高まると考えているのだ。
もちろん、これを実現出来ている企業は、そもそも3P5Fモデルが当たり前だと思う企業だ。なんせ、出来ない企業にとっては最もハードルが高い取り組みになるからだ。単にIT機器に投資をするだけではない。組織の根本をアップデートする必要があるのだ。場合によっては、組織のOSそのものを変える必要があるくらいハードルが高い取り組みだ。
イメージしやすいインフラの整備は、クラウド環境の導入とセキュリティ対策がセットだ。時間と場所の制約を無くすためには、社内外のどこからでもアクセス可能なデータやシステムの構築が不可欠だ。一方で、日常のルールや取り決め、概念的な仕事の流れが言語化出来ない企業組織は、そこから苦戦するだろう。更に重要な要素がセキュリティだ。データ保護やリモートワーク環境での情報漏洩リスクを最小限に抑えるなど、新たな取組が満載になるのだ。
次に柔軟な制度設計が必要になる。場所と時間の制約がないので、フレックスタイム制など、勤務時間を柔軟に調整可能にしなければならない。企業によては場所の制約を明記している場合もある。そして成果や裁量をどこまで与えるのかで収集がつかなくなる。リモートワークになれば、裁量労働制が標準になるので、どうしても結果に基づく評価が前提になるし、そのような働き方を従業員に委ねることになる。米国のダグラス・マクレガーのX理論とY理論ではないが、従来の日本の組織の多くがX理論を前提に組織を構築している。つまり人間は本性に対してネガティブで本質的に怠け者で可能であれば働きたくないという前提だ。しかるに、厳格な指示と管理、トップダウンで考えさせない仕組みだった。それがY理論に急変するのだから大変だ。
コミュニケーションのあり方もガラリと変わる。定期的なオンライン会議やオフラインの会議などを工夫して、チームの一体感を保つ仕組みが肝になる。成果を出せる人間は必要に応じていわゆる報連相を欠かさないが、実は出来ないのに出来ている勘違い君ほど、共有をしない。更にデジタルで共有すると曖昧な情報や不要な情報はすべて排除されるので、雑談や非公式なコミュニケーションを意図的に工夫する必要がでてくるのだ。当然に、X理論で仕組み化された管理職の教育もアタマを悩ませるだろう。時間と場所の制約を外すことで、アウトプット重視のマネジメントに変えなかれば上手くいかない。勤務時間というわかりやすい指標はなくなるのだ。そうではなく、成果やプロセスに注目し、信頼に基づく管理に変えていかなければならないのだ。
そう、このように時間や場所の制限を無くすと当然に、従業員の能力もアップしなければならない。デジタルスキルは人によってまちまちだろうが、底辺に合わせて丁寧に行うか、先に示したように、エンゲージメントも低く、スキルやポテンシャルも低い従業員を一度整理するかと合わせながら、この教育を行うのは結構大変なのだ。そもそもエンゲージメントが低い人材が自律的に仕事を進めるだろうか?というマインドがアタマをよぎりながら制度を変え教育をしなければならないのだからその苦悩は目に浮かぶだろう。だからと言ってチャレンジしないのはまずい。然るに、文化や風土そのものの言及にまで及ぶ取り組みになるのだ。
ただどうしても、すべての条件が整ったとて、一部業務に対しては適応しない仕事も残る。製造業やサービス業など、IT化が進んでも、まだ完全にリモートでの環境にシフトするには時間がかかる分野だ。ただ、そのような業務に対しても部分的でも試験的に実験して取り組む柔軟な姿勢そのものが大切になると思う。
(落とし穴の整理)
まとめると、日本企業の共通する根本課題は5つに絞られる。1つ目は、平等主義と一律の適用だ。全員に同じ施策を提供する文化が根強く、戦略的人材や事業部ごとの特性が考慮されない。そもそも戦略の要諦は「しないこと」を明示し、差別化することなのだ。平等や一律はありえない。次に、現状把握と戦略連携の欠如だ。戦略的なギャップ分析や社員の現状(スキル、適性)の可視化が不十分だ。ここは伊藤レポートの指摘のとおりだと思う。そして4つ目は、目的と手段の混同だ。例えば、「D&I」「リスキリング」「エンゲージメント」が目的化し、成果や戦略貢献が置き去りにされている。2つ目の根本課題がその意味で大きいと思う。そして、4つ目は管理職や現場リーダーが仕組みとして動かない状態にあることだ。柔軟な働き方や多様な人材を適切に管理し、育成する仕組みそのものが無いのだ。そして、最後は短期的な策に頼ること。すぐに小手先で取り組んだつもりになる。本質的な解決ではなく、すぐに成果が見える「やった感」重視の取り組みが実に多いのだ。
新規事業の旅151 価格と向き合う
2024年12月24日
早嶋です。9200文字です。
利益は、売上からコストを引いたあまりで、経営者は誰でも興味ある。しかし、多くの経営者は、コストを下げることで利益を出す努力を行い、高く販売することに情熱を注がない。不思議なのだ。売上は、価格と販売数量の2つの変数で決まる。たくさん売るか、高く売るかも重要な戦略だ。新規事業においては、まだ誰も知らない商品(製品・サービス)故に、価格戦略の自由は非常に高い。
(価格戦略:3つのアプローチ)
大きな方針として企業はその商品(製品・サービス)についてどのように戦いたいかを明確にしておくと良い。いらゆる戦略を明らかにすべきなのだ。競争戦略が曖昧だと、価格設定が場当たり的になり、市場でのポジショニングを失いかねない。戦い方の方向性は、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、ニッチ戦略の3つがある。
●コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップは、競合他社よりも低コストで製品やサービスを提供出来る自社資源を活用して、市場シェアを獲得する方針だ。単なる値下げや安売りではない。製造や商品の調達において何らかのメリットやノウハウを持つことが前提だ。また、製造や調達は通常、少量よりも大量に扱うことで規模の経済を得られる。このスケールメリットを活用して利益を確保する。更に、サプライチェーン全体を見直して競合と異なるやり方で業界の流通を管理する場合もある。当然に全体のコストを下げる目的だ。これらの取組を行いながら競合が模倣できないレベルでコスト構造を構築していき提供価値を下げても自社の利幅を確実に取ることを目指す考え方だ。
●差別化戦略
差別化は、コスト以外で他社にない価値を提供して、高い価格でも顧客が満足する市場ポジションを確立する方針だ。価値は、デザイン、使い勝手、性能、ブランド、顧客体験など多岐にわたる。重要なことは、自分達が差別化している!と一方通行に差別化して自己満足しても意味がない。その違いをターゲットとする顧客に理解頂くことが大前提になる。独自性のある商品(製品やサービス)。ブランドイメージや顧客ロイヤリティの構築。差別化ポイントを伝えるマーケティング力。差別化を実現する要素は無限にあり、その組み合わせも自由だ。差別化を実現しながらプレミアム価格(高価格)で提供する。成功すると、価格競争に巻き込まれるリスクが低下する。
●ニッチ戦略
私が大好きな取組だ。大きな池(メジャー市場)の大きな魚(大手)になるのではなく、小さな池(ニッチ市場)の大きな魚になることで、大規模市場ではなく、特定のセグメントや専門分野に焦点を当てて戦う方針だ。ただし、ニッチな市場そのものが成長すると大手の参入があるので、ストイックに成長をコントロールする必要がある。ニッチを実現するためには、特定のニーズや顧客層を深く理解することがポイントだ。小規模市場での圧倒的な優位性。他社が容易に参入しづらいポジションの確立など、実現するための切り口は無数にある。価格に対しては、顧客が価値を感じれば高価格が可能で、競合が少ない場合が多いので、利益率は高くなる。ただ、あまりにも顧客を無視するとたがを外されるので、顧客のニーズに合わせた柔軟な価格設定が求められる。
(2つの価格戦術)
コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、ニッチ戦略と、それらを実現するための価格設定方法にスキミング(上澄み)とペネトレーション(浸透)の2つの考え方がある。
●スキミング
スキミングは、商品(製品やサービス)の価格を高く設定して市場投入し、早期に収益を最大化する考え方だ。新規性や独自性が高く、価格感応度が低い顧客が存在する場合にフィットする。技術革新が明らかな製品や高級ブランド商品などをイメージするとわかりやすい。スキミングのメリットは、アーリーアダプター向けに高く価格を設定するため、商品開発コストなどを早期に回収することができる。ただし、諸刃の剣で高価格帯が故に、市場の初動が遅れるリスクもある。そして競合が追随して価格を下げられたらシェアを一気に奪われてしまうのだ。
●ペネトレーション
ペネトレーションは、市場参入時に低価格を設定して、大量販売と同時に市場シェアの獲得を目指す考え方だ。コストを度外視して、一定のシェアを獲得する必要がある際に採用される。価格感応度が高く、顧客が価格で比較する市場はフィットする。新しいブランドが既存市場に挑む場合、ペネトレーションが度々観察される。ペネトレーションのメリットは、迅速に市場シェアを拡大可能なことだ。しかし、シェア獲得を追求する余り、継続することで、自社の利益を食いつぶし、初期投資の回収に時間がかかる場合もある。更に、折角の新しい市場が、ペネトレーションを仕掛けることで儲かりにくい市場になる場合もある。
コストリーダーシップは低価格での大量販売を狙うため、高価格のスキミングとは相性が悪い。一方で、低価格を武器に市場シェアを獲得し、大量販売で規模の経済を達成するため、ペネトレーションとの相性は良い。差別化戦略は、独自の価値を提供し、高価格を設定することでプレミアム感を強調する。そのためスキミングとの相性は良い。一方で、低価格は差別化戦略の独自性を損ない、顧客に価値が低いと思われるリスクがあるため、ペネトレーションは注意が必要だ。ニッチ戦略は、特定の顧客に焦点を当てるため、高価格を設定しても受け入れられ安いのでスキミングとの相性は良い。しかし、そもそも市場を絞り込むため低価格でスキミングを狙っても利益を確保できる規模がないのでニッチとペネトレーションは戦略の意図が合わない。
(価格設定:3つのアプローチ)
価格設定アプローチは大きく3つある。原価ベース(自社)、ベンチマークベース(競合)、顧客の感応度ベース(顧客)だ。
●原価を基にした価格設定
多くの企業が、原価をベースにした価格設定を行う。商品(製品やサービス)原価に一定の利益率をかけて価格を決定する。この方法であれば、確実に原価をカバーでき、一定の利益率を確保することができる。また、コスト構造が明確な場合、すぐに価格の設定が出来るので楽ちんだ。
ただし、価格の設定に対して市場や競合を度外視するため、需要や顧客の支払い意欲を無視した価格設定といえる。本来は、競争が少ない市場や、ニッチ市場での提供時に適用しやすい考え方なのだ。
伝統的な日本の製造業は商品を直接販売しない。製造に徹する、小売の場合は、仕入れて販売するという役割があった。そのため昔から商品が良ければ売れるという発想が続いている。認識では、下流工程の販売や販売後のフォローは、パートナー会社や販社、下請け会社に依頼しておけば良いという発想だった。その際に、手数料やマージンの計算が必要になるが、原価に利益率をマークアップした価格の設定だと、一律で協力会社に対しても手数料を払いやすいという概念があったのだ。
例えば、メーカーが商品を作り、販売小売店に商品を提供する際に、掛率がある。メーカーや卸業者が小売業者(百貨店、スーパー、専門店)に商品を卸す際の卸値(仕入れ価格)を定める割合のことだ。
掛率70%だとすると、10,000円の販売希望価格に対して、卸値は1,000円×70%で7,000円。小売の利益は3,000円となる慣例だ。掛率は、高級ブランの場合、販売価格が大きく利幅が大きいとか、ブランドの力が強いとかで80%とかになる場合もある。
日用品や消耗品は掛率50%から70%で低利益だが回転率が高いので小売店は利益を獲得しやすい。一方で、高級ブランド品は掛率70%から90%と小売店の利幅は少なくなる。回転率こそ下がるが、1つの点数が販売出来た際に小売の利益は大きくなるのだ。
掛率は流通によっても一定の決まりがある。百貨店などは販売コストを掛けて商品を提供することからかけ率は高く70%から90%程度で、量販店などは掛率が低く50%から70%程度だ。これは利幅の中で量販店が価格を下げて提供するためだ。
当然に、メーカーや卸と小売店の関係は長年の取引や販売実績によって異なってくる。売上見込が高い場合は掛率を調整するなどを行うのだ。更に、競争市場が激しい場合、卸値を下げて掛率を低くすることで取引先を確保するなども行ってきた。
掛率を低くしてまで他社に販売してもらわないと難しいような商品を敢えて新規事業で行うか。という判断は、新規の企画段階から議論していくべきなので、価格と流通は同時に議論するのがポイントなのだ。
●競合ベンチマーク型価格設定
既に、同じような機能や価値を提供している商品がある場合、その商品の市場価格をベースに価格を設定するやり方だ。原価ベースの価格設定と比較して、顧客にとって受け入れやすい相場感を反映することになる。更に、競合との差別化ポイントを見極めやすい特徴もあるだろう。
価格帯を競合に寄せると自社のポジションを不明確にすることになり、競合よりも強気の価格を示すことで何らかの差異やポジションに違いを示すことにもなる。その意味で、スタートアップや新規事業において他社や他のエリアで似たような商品を既に展開している場合は有効な価格戦略となりえると思う。
ウーバーやグラブ。ドロップボックスやボックス。チャットワークやスラック。アマゾンやモノタロウ。カーブスやチョコザップ。多くの企業がこの方法を取り入れて市場シェアを獲得しようとしているのだ。
競合ベンチマーク型の価格設定は、消費者に対して他と同等の価値を、同じまたは低価格で提供すると伝えやすい。そして競合の価格帯に合わせることで、価格による拒否反応を減らし、サービスを試してもらうきっかけを作りやすくなる。
差別化を強調する場合は、競合と同じ価格帯でスタートし、追加の機能や独自の価値を提供することで差別化を図る。後で詳しく説明するが競合より低価格で提供するペネトレーション戦略との組み合わせも可能になる。
スマフォやサブスク商品のように、顧客がすでに商品に対しての価格感覚を持っている市場では、価格帯を参考にして設定することで、顧客の意思決定を容易にすることにもつながる。
いくつか事例をみてみよう。ウーバーとグラブだ。ウーバーがライドシェアの市場を開拓した際、グラブ(東南アジア)はウーバーの価格モデルを基準に自社価格を設定した。今も頻繁にポロモーションを行っているが、一定期間、プロモーション価格や割引を活用し、低価格で顧客を引きつけたあと、同様の価格に寄せるやり方だ。差別化要素としてグラブは地域特化型の戦略を採用している。よりローカライズされたサービスや支払い方法を追加(例: 現金対応)し、価格戦略に加えてサービス内容でも差をつけた。
次に、ドロップボックスとボックスだ。ドロップボックスが個人ユーザー向けクラウドストレージサービスを展開すると、ボックスも同様のモデルで参入した。価格戦略でユニークだったのがボックスは、個人向けの価格帯はドロップボックスと同水準にしながらも、企業向けプランで差別化したことだ。ボックスはビジネスユーザーを対象にしたセキュリティ機能や管理機能を強化し、価格以上の価値をアピールしたのだ。
チャットワークとスラックも興味深い。スラックが先行するビジネスチャット市場で成功を収めた後、チャットワークが同価格帯でサービスを提供した。チャットワークは日本市場で使いやすさや日本語対応サポートを前面に押し出し、差別化を図った。そして、チャットワークは日本企業向けの機能(例: タスク管理や会計システムとの連携)を追加した。
アンドロイドとアップルも面白かった。アップルが高価格でiPhoneを市場に投入した後、アンドロイド搭載デバイスは多様な価格帯で市場に参入した。アップルの高価格帯に対抗し、ローエンドからハイエンドまで幅広い価格帯を用意したのだ。更に、アンドロイドはオープンソース戦略を取り入れ、複数メーカーがアンドロイドを採用することで価格競争を強化した。
●顧客感応度ベースの価格設定
顧客の支払い意欲や価格感覚を調査して、最適な価格を設定する方法だ。メリットは、顧客の支払い意欲を最大限活用でき、プレミアム価格や値ごろ感を活用することで利益の最大化が可能だ。一方でデメリットだ。価格を設定する前の感応度調査にコストと時間がかかることや、顧客の反応を予測し損ねるリスクもある。
スターバックスは、商品そのものに加え、店舗での体験やブランドイメージに価値を感じる顧客をターゲットにしている。高感度の顧客層が贅沢なひとときに払う価値を重視し、一般的なコーヒーショップよりも高価格だ。季節限定のフラペチーノや特別な豆を使ったコーヒーは、価格感応度が低い顧客層を狙ってさらに高価格で提供している。成功要因は高価格でも特別な体験として受け入れられるため、プレミアム感を維持できていることだ。私が分析する成功要因は、プレミアムコーヒーと思わせながら地球上で最も砂糖とミルクを高額で販売することで利益を確保している点だと思う。
スポティファイは、音楽ストリーミングサービスの価格設定において、無料ユーザーと有料ユーザーの価値感覚の違いを分析している。無料プランで広告を表示し、広告が気になるユーザーには広告なしのプレミアムプランを提供する手法だ。一般にフリーミアムモデルと呼ばれる方法で、プレミアムプランの価格は、音楽に広告がないことに価値を感じる層の価格感応度に基づいて設定された。また、ファミリープランや学生プランなど、多様な価格帯を用意して顧客の幅広いニーズに対応している。無料プランで幅広い顧客を引きつけることで販促コストと鑑み、価格感応度が低い層に有料プランを訴求するのだ。ITが発達する前には、限界費用などを鑑みてみこの手の価格設定は不可能に近かった。一方で、電子的にコピペが可能で、瞬時にネットワークを介して配信出来る商品は、フリーミアムモデルを取ることで認知と試用を顧客に体験させ、一定の比率で有償プランの収益を得ることがでいる。従い、この手の事業に対しての成功要員は、認知と継続率だ。
イケアは、自分で家具を組み立てることに抵抗がない顧客をターゲットに、コストを抑えた価格設定を実施した。自己組み立てを許容する顧客層に向けて、低価格で提供しているが、ここには戦略的な要素が沢山ある。組み立てを前提にしているので、多くの部品は家具の商品に関係なく部品を共有化している。また、通常の家具屋は一定の完成形で運搬するため運送と保管コストがかかる。イケアの場合は、フラット梱包なので、輸送と保管が効率的だ。イケアの店舗は、流通拠点として利便性が高いエリアで展開して、顧客が倉庫に買いに来て、顧客が自分で商品をピックアップして、持ち帰り組み立てるスタイルだ。価格戦略を軸に、他のマーケティング・ミックスの要素もチューニングしているところが素晴らしい。もちろん、中には価格感応度が低い層もいるだろう。ここは別途有償で、配達や組み立てサービスを提供している。安価だが機能的でスタイリッシュな家具という価値を安売りするのではなく、合理的な考えのもと提供し、感応度の高い顧客層を引きつけているのだ。
ウーバーは、ライドシェアサービスの需要に基づき、リアルタイムで価格を変動させるダイナミックプライシングを採用した。混雑時やイベント開催時には料金を引き上げ、急いでいる顧客が支払える上限を考慮している。需要が少ない時間帯には料金を引き下げ、価格感応度の高い顧客を獲得している。時間や場所によって価格感応度が異なる顧客をターゲットに最適な価格を設定したのだ。このリアルタイムプライシングは、顧客がスマフォを片手に持っていること、需要をリアルタイムに推定して精度良くサービスを提示できることなど、ITの恩恵が高い。
時間や需要によって価格を変える企業の右代表がアパホテルだ。その日に、必ずそのエリアに宿泊を確保したい法人からすると合理性が高いが、アパホテルの数とシェアが高いことから一般の利用もあり、一部心象を悪く思う人もいるだろう。リアルタイムプライシングは需要が高い期間に価格を上げることで、収益を効率的に増やせる。これは、法人のビジネス用途のように高価格であっても、本当に必要だと思う顧客(その日にその場所に宿泊する理由)からすると利用できる仕組みと捉えられるので実は合理性は高い。更に、空室を最小限に抑え、需要が低い時期には安価で稼働率を上げることで、企業の持続可能性を高めている。ただ、販売を法人に限定しているわけではないので、繁忙期やイベント時の価格が極端に高くなると、普段あまり宿泊しない顧客が搾取されていると感じるリスクがある。また、近年の宿泊事情が不足する状況下では、常に高い宿泊費用を提示するためリピーターや固定客がホテルのブランドに対する信頼を失うリスクもあると思う。本来は、この手の価格戦略は差別化された製品や新しい価値を提供する場合や価格に対する弾力性が高い市場において適応できた。アパホテルは、ブランドの認知度は高いが、ラグジュアリーの印象は薄い故、コンフリクトが発生しているのだ。
ライカは、他のブランド商品同様に所有に駆られる。写真愛好家やプロフェッショナル層が品質とブランドに価値を感じることを重視しているのだ。そして価格感応度が低い高所得層をターゲットに、高価格設定を徹底している。更に、限定モデルやコレクターズエディションでは、よりプレミアム価格を設定する手法も取る。写真のテイストは、企業やモデルによって異なり、近年のデジタルでは同じような設定を再現出来るとしても、ライカは最良の写真体験を求める層に満足できる価格とブランドを保っている。
(その他の価格に関連する戦術)
価格の設定方法や収益モデルに付いては、網羅すると20以上の手法が存在する。ダブりもあるが、網羅してみる。
●伝統的な価格設定
既に議論した、コストプラスで原価をベースにした価格設定。競合ベンチマーク型の価格設定。顧客感応度をベースとした価格設定。加えて、需要や供給のバランスに応じて価格をリアルタイムに変動させるリアルタイムプライシング(もしくはダイナミックプライシング)、一部差別化で実現するスキミングの手法でもあるプレミアム価格設定。
●サブスク関連の価格設定
定額料金で商品(製品・サービス)を一定期間提供するサブスクリプション(定額制)。実際の使用量や頻度に応じて課金する使用ベース課金。基本サービスは無料で、一定の高機能を使う場合に有償になるフリーミアム。商品やサービスを分割して支払う分割払い。
●成果や価値に応じた価格設定
顧客が得た成果に基づいて報酬を請求する成果報酬型の価格設定。コンサルや医療機器等、製品やサービスが提供する価値に基づいて価格を設定する価値ベース型の価格設定。
●広告モデル関連の価格設定
広告収入をベースにサービス自体を無料にする広告モデル。特定のスポンサーからの収益を基にサービスを提供するスポンサーシップモデル。
●変動型やオークションモデル
商品を入札形式で販売するオークション価格設定。オンライン広告で広告主が特定のワードやターゲットに対して入札する入札型の広告に基づく価格設定。リアルタイムプライシングより、やや頻度を下げて需要が高い時間帯や期間に価格をあげるピークプライシング。
●まとめ買いや割引に応じた価格設定
製品やサービスをセットにして提供することで、単品より安く提供するバンドル価格設定。複数の価格設定を準備して顧客に選択してもらう分割価格モデル。クーポンやセールを一時的におこない割り引くディスカウントモデル。
●無料提供や寄付
Wikiのように実際は、一部の寄付ベースで、完全に無料で提供するモデル。アーティストやクリエイターのように価格が金額を設定して支払う寄付型の価格設定。
●他の価格設定
投資ファンドのように、成功した際に、一部をシェアする成功型の価格設定。当たり前だが一度購入すると永久に使用できる買取モデル。リスクに応じて料金を設定して、条件が満たされた時にサービスを受ける保険モデル。商品を一定期間貸出て期間終了後に返却するリースモデルやレンタルモデルや一時利用モデル。
と価格設定に対しては、今後も何かユニークなアイデアが生まれるだろう。ただ、ポイントとしては戦略と戦術があり、それらのベースの設定にはコスト、競合、感応度の理解はあったほうが良い。そして、価格設定が単独で機能するわけではなく、組み合わせで考えるほうがより自然になるだろう。
(事前準備と分析)
価格戦略を決定し、実現するためのスキミングやペネトレーション、具体的な価格設定手法(原価ベース、ベンチマークベース、感応度ベース)を採用する前には、事前の分析と準備が不可欠だ。市場や競合、顧客、内部リソースを正確に把握することで、価格戦略が成功する可能性を高めることができる。
●市場分析
市場全体を理解することは概念的な取組なので結論は不可能だ。それ故に、自分たちの仮説を明らかにする目的で分析が必要になる。更に、自社商品のポジションを決める上でも理解がある状態が望ましい。最低でも、市場規模と成長性、市場セグメントの整理は行いたい。
●顧客分析
セグメントを明らかにしながら、特定の顧客の価値観や購買行動を理解して、価格設定の基準を整理する。顧客のニーズやウォンツの理解、価格感応度、支払意思は貪欲に、定期的に把握したい指標だ。
●競合分析
ニッチな市場であても、競合を特定して、自社とのポジションの違いを把握したい。最低でも、競合の特定、競合が提供する商品の特徴と価格設定とポジション、差別化要因と顧客ターゲットの特定、競合の戦略には一定の理解を示したい。
●自社分析
自社のコスト構造や経営資源の把握、実現可能な価格戦略を決定するためには、内部の分析は必須だ。価格を設定する際に、コスト構造の把握、収益シミュレーションができる情報の整理、実際に価格以外のマーケティング(販促、流通、商品、サクセス)を実現するためのリソースの確認は、常に明らかにしたい。
価格戦略の成功は、市場、顧客、競合、自社の全てを包括的に分析し、それに基づいた戦略の選定と手法の実行が重要だ。マーケティングにおいて、流通(物流、商流、情報流)の設定と同じく価格の設定は重要だ。それなのに、国内の企業の多くは、原価をベースにした価格設定を中心と捉え、価格をあげる取組をあまり積極的に採用していない。経営者よ、もっと価値を向上する取組を議論しよう。
新規事業の旅150 リユースマーケット
2024年12月20日
早嶋です。2600文字です。
リセール市場が盛り上がりを見せているが、これはオールドエコノミーの成せる技で、数年から10年以内に枯渇してしまう市場では無いかと懐疑感を持っている。ニューエコノミー世代は、物質的な富にあまり興味を持たなくなるからだ。
(リユース市場の現状)
近年、日本における買取専門店の増加に伴い、ブランドバッグ、ブランドジュエリー、ブランド時計の買取市場も拡大している。
– 2022年のリユース市場全体の規模は約2兆8,900億円。そのうちブランドアイテムの市場規模は約3,000億円だ。
– 2023年の国内宝飾品小売市場規模は、前年比101.9%の1兆423億円と予測されている。 この増加は、富裕層を中心とした反動消費やインバウンド需要の回復によるものと考えられる。
– 2022年2月、ロレックスのデイトナが史上最高値となる740万円を記録し。その後12月には500万円にまで価格が落ちている。価格変動は、需要と供給のバランスや世界情勢の影響を直接的に受けている。
– 2024年の調査で、宝飾品の売却理由として「使用していないアイテムの整理」が多く、特に60代ではその傾向が顕著だ。 また、リユースジュエリーの購入経験者は約半数に上り、価格の手頃さやユニークなアイテムの発見を理由に挙げている。
上記が、直近の高級品(リユース含む)に関する一部のファクトだ。日本のリユース市場は近年拡大傾向で、2022年の市場規模、約2兆9000億円は13年連続での成長結果だ。2022年の販売経路別の市場は、店舗販売が1.6兆円、ネット販売が1.3兆円だ。リユース市場の中核は実店舗での販売で、大手リユースチェーンや地域密着型の店舗が含まれる。ネット販売はC2C取引などのフリマアプリやオークションサイト、個人取引とB2C取引などのリユース専門業者や企業が運営するECサイトに分かれる。メルカリやラクマの利用拡大によって市場が増加しているのは想像つくだろう。消費者がより手軽に取引出来る環境の整備が整っているのだ。
(世代消費の特徴)
世代ごとの消費でもコメントしたが、今後の消費の中心となるZ世代の消費傾向に変化が出ている。Z世代は、所有より、体験や他者との共感を重視する傾向がある。SNSやデジタル空間でのつながりを重視し、高級品のような現物よりもデジタルコンテンツや体験型の消費に資金を割くことが増えている。従い、高級品がもたらすステータスの価値は低下し、リサイクル、アップサイクル、共有経済など、環境に配慮した選択を求める傾向が強まっていく。この意識の変化は、高級品市場のリユース需要にも影響を与える可能性がある。メタバースやNFT、ゲーム内課金など、デジタル空間における所有や体験への支出が増加し、物理的な高級品への関心が相対的に低下していくのだ。
バブル世代やミレニアル世代にも変化がある。バブル世代が子育てを終えた後、可処分所得が増えるが、消費の方向性は高級品ではなく、旅行や趣味、健康、資産管理(投資・貯蓄)などにシフトし、自己充足的な領域にシフトしつつある。そのため、高級品をリユース市場で売買する動機が資産価値から実用性へと変化している。ステータスや所有欲そのものが減少し、投資対象と慣れば、結果的に、高級品全体の需要は低下すると思うのだ。
これらは必ずその出口であるリユース市場にも影響を及ぼす。高級バッグや宝飾品、時計、ジュエリーの需要が低迷すると、これらを主要商品とするリユースマーケットの一部が打撃を受けはじめるのだ。街を歩けば買取専門の店が溢れているが、買い取る商品が底を付けばリユース市場での商品が枯渇するので市場全体は冷え切る方向に行くのは理解できるだろう。高級なお酒が飛ぶように売れる時代も過去の産物だ。その代わり、エコ・サステナブル商品やデジタル関連商品のリユース市場、あるいは体験型サービスの再販市場など、新しいカテゴリのリユースが注目されるようになるだろう。ただ、元の価格が合理的なので市場全体の規模は縮小するのだ。
(高級品の市場)
国内における高級バック、ブランド品、時計、ジュエリーの市場規模と推移を調べてみた。アクセスできるリソースが限られていたので、代替的にジュエリー市場だけで考察してみた。2024年の国内宝飾品小売市場規模は約1兆953億円で、前年から4.7%増加すると予測されている。一方で、2025年の規模は約1兆514億円で、4%の減少傾向を予測している。
次に、年齢層ごとの購買動向に関するデータを追いかけてみたが、短い時間でアクセスできた情報によれば、20代から30代の若年層は、やはり所有より利用を重視し、レンタルやサブスクリプションサービスの利用が増加している。また、不要品の売買にも積極的で、フリマアプリやリサイクルショップの利用が一般に定着している。そして60代から70代のシニア層はデジタル技術の活用が進み、オンラインでの情報収集や購買活動が増加しているのだ。 若年層での高級品の所有に対する価値観の変化とシニア層でのデジタルチャネルを通じた購買活動の増加は確実な現象として確認できる。
ちょっとこれだけの傾向だけで今後、国内の高級市場が低迷すると考えるのは野暮だが、マーケット全体で情報収集の合理性が進み、若手が所有よりも利用に重視した瞬間に、提供される商品全体のボリュームは合理的な数に収束していくことを鑑みると、トップラインの売上全体は減ることは言えると思う。
(戦略体な考察)
ということで、リユース市場で競争力を今後も保つためには、高級品依存を脱し、Z世代や次世代消費者のニーズを満たす商品・サービスの提供に注力することが必要になる。具体的には以下のような方向性があると思う。サステナブルな商品のリユースモデルの構築。デジタル消費に対応したリユース、例えばNFTやデジタル資産の取引プラットフォームだ。そして、若い世代が重視する共感やストーリーを組み込んだサービスの展開だ。高級品市場の縮小をチャンスと捉え、次世代の消費トレンドに合致した新しいリユースマーケットの構築がそろそろではじめるのではないかと思う。
新規事業の旅149 世代ごとの消費の特徴
2024年12月9日
早嶋です。約3000字。
世代ごとに消費スタイルが異なるとした場合、背景となる価値観や経済環境を踏まえるとバブル世代、ミレニアル世代、Z世代と3つに分けることができる。一般に最近の世代になるに連れて消費が渋くなると考えがちだが、実はZ世代で独身親と同居というセグメントが最も自由に使える金額が大きいのだ。マーケターは、このセグメントの消費を活性化させることに躍起になっている。
(世代ごとの特徴)
バブル世代は、1960年後半から1970年代前半ば生まれで、経済成長期を背景に、所有や現物という形あるものに成功を示した。ブランド品や高級時計、ジュエリーや車などが代表だ。高価格帯の製品やサービスの支出を許容し、長期間使える物やステータスの象徴となる消費を好む。
ミレニアル世代は、1970年代後半から1990年代半ば生まれで、経済不況やIT革命の影響を受け、実用性やコストパフォーマンスを重視する傾向が高い。旅行やイベント、趣味など、体験型の消費に重きが移り、所有に加え利用への価値観の幅が広がっている。2010年頃より、音楽や動画配信のサブスクサービスが始まり、プラットフォームの普及と共に新品の購買に加えて中古品やリサイクル品などの合理的な消費や環境を配慮する動きも取り入れるようになる。
Z世代は、1990年後半から2010年前半生まれで、物心ついた頃よりデジタル環境が当たり前になり、物理的な所有よりもデジタル体験やオンラインでの存在感がより身近になった世代だ。そのため周囲に迎合することなく個性や自分たちが好きなコミュニティでの活動を中心に、時には推し活、持続可能や社会への共感を重視するようになった。ミレニアル世代よりも更にデジタル空間での課金に対して自然で、ゲーム内課金やアバターの衣装などデジタル空間の消費が当たり前になっている。
もちろん3つの世代は、完全にバラバラではなく、大きな傾向としてみたほうがよい。近年、旅行やイベントへの関心は世代を超えて増加しているし、従来のステータス重視のブランド志向も、価値観や共感に基づくブランド選びは3世代共通の傾向を見せている。一方で、バブル世代に対してはモノに象徴される所有によるステータスは一定のポジションを占める。ミレニアル世代には体験価値やコストパフォーマンスなど利用の満足度が高い。そしてZ世代はつながりや自己表現など、特にデジタル空間での存在感が鍵になっている。
この世代における価値観と消費の傾向は当然にその当時の時代背景が重なる。1990年代のバブル崩壊以降、長期的な経済停滞が続き、特に若い世代の可処分所得が減少している。実質賃金は停滞し、非正規雇用の増加、家計の固定費は増(教育費、通信費など)という状況だ。当然に、高額な所有型消費よりも、低コストで満足感を得られる利用型消費や体験型消費へのシフトする背景があるのだ。バブル世代が象徴する成功の証としてのブランド品や高級品は、Z世代にとって現実的な選択肢ではなくなったのだ。
そして、2007年のiPhone登場を皮切りに、スマートデバイスの急速普及と共にデジタル空間が日常生活の中心に置き換わった。情報へのアクセスが民主化されたことで、物理的な所有よりも情報や体験そのものに価値を見出す傾向が生まれた。更にSNSの影響により他者とのつながりや、自己表現が重要な価値として加わった。フォロー数やいいねの数という従来無かったデジタル空間での評価がステータスの一部に置き換わっている。スマートデバイスは、ゲーム内アイテム購入の促進やアバターのカスタマイズ、推し活やライブ配信への課金など、情報収集のツールとともに購買行動の道具としても進化した。その結果、世の中の商品がアプリを通じた個別最適なされた消費として加速しているのだ。NetflixやSpotifyはまさに象徴的なサービスだ。
バブル世代は所有、ミレニアル世代は利用、そしてZ世代はデジタル空間での存在感が加わり、デジタル化の進展と捉えるよりも、経済制約とデジタル技術の普及が生んだ価値観の進化が進んでいるのだ。
(世代ごとの可処分所得)
最近のデータを用いて20歳から70歳以上の5歳間隔での平均年収を調べてみた。例えば、20から24歳は273万円、25歳から29歳は389万円といった統計データだ。このデータを基に、世代ごとの平均年収を推定した。
バブル世代(50から59歳):約535万円
ミレニアル世代(30から49):約444万円
Z世代(20から29歳):約331万円
次に可処分所得を推定する。平均年収から税金や社会保険料を差し引いた金額を可処分所得と推定すると、年収の7割から8割程度になる。
バブル世代:約374万から428万円(平均401万円)
ミレニアル世代:311万から355万円(平均333万円)
Z世代:232万から265万円(平均249万円)
この推定からZ世代の可処分所得はバブル世代と比較して約6割り程度の水準であることが分かる。この数字を更に整理してみる。バブル世代でも扶養家族が居る場合や子育てが終了した夫婦二人では自由消費額は変わるだろう。そこで可処分所得を更に細分化して自由消費金として推定する。
バブル世代は結婚しているケースが多く、子育てや住宅ローンなど家庭に関連する支出が大きい。既婚者&扶養家族ありの場合、教育費、生活費、住宅ローンなどに大部分を割くため、個人で自由に使えるお金は少なくなる。一方で、子育て終了後の夫婦二人暮らしの場合は、支出が落ち着き、趣味や高額消費に再び資金を使いやすくなる。
扶養家族ありの場合、可処分所得平均の401万円の7割を生活費や扶養家族関連に支出したと考えると、自由消費金は約120万円だ。子育て終了後の夫婦ふたりの場合、生活費を年収の4割とした場合、自由消費金は約241万円だ。
ミレニアル世代は結婚率が低く、独身やDINKs(共働きで子供なし)の割合が高い。独身の場合、生活費や趣味に充てる金額が比較的多いが、住居費用など固定費がかかる。DINKsは、家計全体で支出を分担できるため、自由消費金は独身より多い。
独身は、可処分所得平均の333万円の約6割を生活費や固定費に使用すると考えると、自由消費金は約133万円だ。DINKsの場合、共働きで平均の1.8倍を年収として、約4割を固定費に使用すると考えると、自由消費金は約360万円だ。
Z世代は更に未婚率が高く、親と同居しているケースが多い。独身で親と同居している場合は、家賃や固定費(光熱費、食費など)を親に依存し、実質的に使える金額は高い。独立して一人暮らしの場合、住居費用など固定費がかかり自由に消費できる金額は大幅に少なくなる。
独身で親と同居の場合、可処分所得平均の249万円の約3割を個人消費(食費や交際費)としても、自由消費金は約174万円だ。独身一人暮らしの場合、固定費は7割とすると、自由消費金は約75万円だ。
ミレニアル世代(DINKs):約360万円 ※一人当たり約180万円
バブル世代(子育て終了後の夫婦ふたり):約241万円 ※一人当たり約120万円
Z世代(親と同居):約174万円
ミレニアル世代(独身):約133万円
バブル世代(扶養家族あり):約120万円 ※一人当たり60万円以下
Z世代(独身一人暮らし):約75万円
と整理すると、DINKsとZ世代で親と同居しているセグメントが最もお金を自由に使えるのだ。子育てが終了したバブル世代よりも自由に消費できる金額た大きいのがとても興味深い。
中東情勢の理解
2024年12月8日
早嶋です。約4000文字です。
中東エリアの混乱は、理解するのが難しい。複雑な要因が絡んでいることに加え、地政学的な理解が乏しからだ。少し整理した。
(国と非国家)
中東エリアには国家に加えて非国家主体の紛争や対立がある。主要な国家は、イラン、イラク、サウジアラビア、シリア、ヨルダン、イスラエルなどだ。この国家間では領土、石油や水資源、そして覇権をめぐる対立構造がある。例えば、サウジアラビアとイランは地域覇権を争う主要な競争相手で、イスラエルと周辺アラブ諸国も対立している。
非国家主体の影響は、ヒズボラ(レバノン)、アルカイダ、IS(イスラム国)など、国家に属さない武装組織が国境を越えて影響力を行使している。そして、この非国家主体は国際的な紛争にも波及している。
(宗教)
宗教で言うと、スンニ派とシーア派の対立がある。どちらもイスラム教の主要な宗派で、両者は共にイスラム教の基本的な教義を共有しているが、歴史的・神学的な違いがあり、それが現在の中東地域における宗教的・政治的対立の一因となっている。
スンニ派は、全世界のイスラム教徒の約85から90%を占める最大の宗派だ。起源は、預言者ムハンマドの後継者問題に端を発する。ムハンマドの死後、後継者を共同体の合意(ウンマ)に基づいて選ぶべきだと考えた人々がスンニ派の始まりだ。そこで初代カリフ(イスラム共同体の指導者)はムハンマドの側近だったアブー・バクルが選ばれた。特徴として、宗教指導者(ウラマー)や学者による解釈が重視され、政治と宗教の分離の程度が比較的高い。最大宗派だけあり世界中に広く分布しており、特にサウジアラビア、エジプト、トルコなどで多数派を占める。
シーア派は全世界のイスラム教徒の約10から15%を占める。起源は、ムハンマドの後継者は血統によって決められるべきだと考えた人々がシーア派の始まりだ。ムハンマドの従弟であり娘婿であるアリーを後継者と主張した。アリーは第4代カリフとなるが、暗殺される。その後、アリーの子孫を中心とするシーア派が形成されたのだ。特徴として、宗教指導者(イマーム)に絶対的な権威があり、イマームはアリーの血統を引く人物で、神聖で不可欠な存在とされる。イランやイラク南部、レバノン(ヒズボラを通じて)で多数派を占める。スンニ派と違い、シーア派は政治と宗教の結びつきが強い場合が多い。
スンニ派とシーア派の対立は、特に第7世紀のカルバラの戦いに由来する。この戦いで、シーア派の指導者フサイン(アリーの息子)がウマイヤ朝(スンニ派中心の政権)に敗れ、殉教した。この事件はシーア派にとって神聖な出来事であり、現在でも宗教行事、アーシュラーとして記憶されている。
シリア内戦、イラク戦争、イエメン内戦などでは、スンニ派とシーア派の対立が背後にある。現在、スンニ派中心のサウジアラビアとシーア派中心のイランの間での代理戦争が、中東全体の不安定化を引き起こしているのだ。
(他国の影響)
第一次世界大戦後、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国が中東地域を分割し、現在の国境線を作った。この過程では民族や宗教的要因がほぼ考慮されなかったため、現在の対立の原因にもなっている。例えば、クルド人は国を持たずにイラク、トルコ、シリア、イランなど複数の国に分かれて住居することになる。また、アメリカとソ連の代理戦争の舞台にもなり、多くの武器が流出して争いごとの種を拡大した。
中東はヨーロッパ、アジア、アフリカをつなぐ要所に位置し、戦略的に重要な地域だ。この地域を抑えることは、他地域への影響力を高めるための鍵だった。当時、ソ連は南方への影響力を拡大し、ペルシャ湾やインド洋へのアクセスを目指していた。これに対して、アメリカと西側諸はソ連の勢力拡大を阻止しようとしたのだ。アメリカはNATOの延長線上で中東を防衛ラインに組み込み、イラン、トルコ、イラクなどの国々を中東条約機構(METO)に組み込もうとした。一方で、ソ連はこれに対抗する勢力を支援したのだ。
冷戦の中心は、資本主義と社会主義という異なる政治経済システムの対立もあった。中東諸国の政府や勢力がどちらの陣営に属するかが、両大国にとって当時は重大な問題だった。第二次世界大戦後、中東の多くの国々が植民地支配から独立し、これらの新興独立国家は、どの陣営に属するかで冷戦の舞台となったのだ。ソ連は、社会主義を掲げる新興国家や反西側の独裁者であったエジプトのナセルを支援した。一方のアメリカは、西側寄りの保守的君主制国家や軍事政権であるサウジアラビア、イランのパフラヴィー朝を支援している。
アメリカは当時のソ連の勢力拡大を封じ込め、石油の安定供給を確保したかった。そしてイスラエルの安全保障を支援して、西側の要塞として利用したのだ。一方、ソ連の目標は中東諸国を西側陣営から引き離し、社会主義陣営に引き込みたかった。自国の南側の安全保障を強化したかったのだ。1991年に冷戦は終結した。しかし米ソの介入が生んだ政治的不安定や武器の流入は中東に残り、現在の地域紛争の火種となっているのだ。
(資源と経済)
中東は世界最大級の石油・天然ガス埋蔵地帯だ。当然にこの覇権をめぐる争いは絶えない。歴史を遡ると、中東の石油資源の発展は、20世紀初頭の発見から始まり、現在に至るまで世界経済や地政学に大きな影響を与えてきた。プロセスを追って誰が石油の覇権を握っているのか整理してみる。
中東の石油資源の発見は1908年で、現在のイラン、ペルシャだ。ここから中東での石油産業が始まり、イギリスやアメリカの石油会社が中東に進出する。主要な会社は英国のアングロ・ペルシアン石油会社で現在のBPと、米国のスタンダード・オイルで現在のエクソンモービルやシェブロンだ。
第二次世界大戦後、中東石油の価格は戦略的に上昇する。石油がエネルギーの中心にシフトしたからだ。サウジアラビア、イラク、イラン、クウェートなどで大規模な油田が発見され、産油国が重要な地位を確立しはじめるが、西側諸国の支配は続き、米国や欧州の石油大手が中東の石油産業を支配する。
1960年に、サウジアラビア、イラン、イラク、クウェート、ベネズエラが石油輸出国機構(OPEC)を結成。もちろん、石油価格や生産量を調整することで産油国として市場を支配することが目的だった。その後1970年大にオイルショックが起こる。中東戦争を受けてOPECが石油輸出を制限したため価格が急騰したのだ。同様に、1979年には2回目のオイルショックが起きた。イラン革命により価格が再び急上昇した。OPECの発足以降、西側諸国から中東産油国への権力が移行していくのだ。
1980年代頃から石油支配の動きが再び大きく動き出す。サウジアラビア(サウジアラムコ)、イラン(NIOC)、イラク(SOMO)などが石油の管理を行いはじめ、地域での管理から国家主導の運営にシフトしていくのだ。米国や欧州の石油会社、いわゆるセブンシスターズの影響力は低下する一方で、同時に価格競争が激化していく。OPEC内部での生産量をめぐる対立や新興産油国(北海油田、アラスカなど)の登場で価格が不安定化する状況だった。1990年に起きたクウェートでの湾岸戦争はまさに石油資源をめぐる紛争で私もかすかに記憶に残る。
中東を含めた現味の石油の覇権と影響力を確認する。主要な覇権国としてサウジアラビア、アメリカ、ロシアが存在する。サウジアラビアは、世界最大の石油輸出国であり、OPECのリーダーだ。サウジアラムコは世界最大の石油会社で、国の経済を支える柱となっている。アメリカは、2000年代後半のシェール革命により石油輸出国に転じた。世界市場での影響力を増し、米国の中東依存度を減少する要因にもなっている。そしてロシア。OPECと協調するOPECプラスの一員として、サウジアラビアと協力関係を構築している。
更に現在のOPECに影響を与える国がある。中東諸国メンバーに加え、先に示したロシアなどの非加盟国が協力して世界の石油共有の5割を管理する。しかし、サウジアラビアとイランの政治的対立や他のメンバー国(イラク、ナイジェリアなど)との生産量調整で意見の相違が常に置きている。現在、中東産油国の最大顧客は中国だ。米国がシェールオイルの開発により中東の依存を下げる一方で、急激な経済発展を伴う中国が、中東からの石油輸入を増加させているのだ。
今後は欧州を中心に再生可能エネルギーの移行にシフトしている。この傾向は世界的なトレンドになり、世界は化石燃料から脱却しつつあるため、中東産油国は経済多角化を進める必要があるのだ。
(現在の焦点)
上記を踏まえて、中東での現在の焦点はシリア内戦、イランとイスラエルの緊張、イエメン内戦がある。シリア内戦は、アサド政権(シーア派アラウィ派)と反政府勢力(スンニ派主体)による紛争だ。ここに対してロシアやイランがアサド政権を支持し、アメリカやトルコが反政府勢力を支援している。イランとイスラエルの緊張は、イランの核開発をめぐり、イスラエルやアメリカとの対立が激化している。そしてイエメン内戦は、サウジアラビアが支援するスンニ派政府と、イランが支援するシーア派系のフーシ派の対立が背景にある。
(まとめ)
中東エリアの混乱は一筋縄の理解では難しい。国と非国家、宗教、他国の影響、資源と経済などの要因の整理を試み、現在の焦点を整理した。理解するためのポイントは、要因を階層事に分け、主要プレイヤーを把握し、歴史を知ることなのだ。従い、中東は把握が困難だと思ってしまっていたのだ。
なぜクロージングが必要なのか
2024年12月5日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今月のテーマは「なぜクロージングが必要なのか」です。前回はテストクロージングについて書きました。今回は、そもそもなぜセールスプロセスにクロージングが必要なのか解説します。
あらためてクロージングの定義です。クロージングとは「今、目の前にいるお客様に対して、契約の決断を促すための行為」と私は定義しています。営業マンによる「意思決定を支援するサービス」とも言えるでしょう。
クロージングをしない営業マンの商談に立ち会ったことがあります。その姿は、「決めるのは、あなたです」といったスタンスが前面に漂っていました。そこには「精一杯、全力で取り組みます!ぜひ、私に任せてください。」という覚悟が感じられません。そのような姿勢では、お客様も決めてはくださいませんね。
さて、本日のテーマである、「なぜクロージングが必要なのか」ですが、結論は「人間には基本的な弱さがある」ためです。人間の心理を掴むことはセールスにとってとても大事です。人間には基本的な欲求と基本的な弱さがあり、商談中、お客様の心理は欲求と弱さの間を振り子のように行ったり来たりしているのです。どういうことか、説明しましょう。
「人間の基本的な欲求」とは、「生存の欲求」、「愛・所属の欲求」、「力の欲求」、「楽しみの欲求」、「自由の欲求」があるとされています(選択理論心理学より)。つまり、「家族のために、家を建ててあげたい」とか、「カッコいい車に乗って認められたい」とか、「旅行に行って楽しみたい」といった欲求があり、それを満たすために商品サービスを買います。
しかし、同時に「人間の基本的な弱さ」も顔を出します。「人間の基本的な弱さ」とは、「物事の決定を先に延ばす」、「いちばん抵抗の少ない楽な道を選ぶ(Noと言って済ます)」、「責任を回避し、現実に直面しようとしない」、「問題を解決しようとする意志に欠ける」、「先行きを心配する(支払えるか)」です。この弱さのために、特に明確な理由があるわけでもなくただ決断することができません。
このような基本的な欲求と基本的な弱さは誰もが持っています。そして、商談の最後、決断をしなければならない場面において、欲求と弱さの間を揺れ動くので決められないのです。最後、振り子が弱さの方に傾くと、「今回はやめておこう」、「もうちょっと検討します」、となり契約に至りません。
しかも人間の心理には「現状維持バイアス」といって、何かを変えることで得をする可能性があったとしても、その変化に伴う諸処のストレスを忌避し、現状維持を選択しようとする傾向があります。よって、営業マンが何もしなければ、現状維持つまり契約しない方に傾きがちです。
だからクロージングが必要なのです。営業マンがクロージングをすることにより、お客様の心理の振り子を欲求の方に導き、気持ちよくご契約いただくわけです。
これがクロージングというプロセスが必要な理由です。
本当に自社の商品サービスに自信があり、お客様のためにもなると信じられるなら、今、目の前にいるお客様のためにクロージングをして差し上げるのは営業マンの責務だと思います。よく強いクロージングは嫌われるのではないか、クロージングは迷惑な行為なのではないかと心配する営業マンがいますが、逆にクロージングしない方がお客様に不利益を生じると考えるべきですね。
次回は具体的なクロージングの方法をお伝えします。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅148 観光公害と言わないで正面から向き合う
2024年11月27日
早嶋です。6200文字です。
観光を次の産業にしようと言いながら、環境公害とかオーバーツーリズムという言葉を作るメディアがいる。何が問題になっているのか?
(訪日観光客のファクト)
まず、訪日外国人の推移は、コロナによって激減したが再び回復している。ピークは2019年の約3200万人。2022年から回復し、2023年は2500万人まで戻る。
年度 訪日外国人観光客数(人)※1
2013 10,363,904
2014 13,413,467
2015 19,737,409
2016 24,039,700
2017 28,691,073
2018 31,191,856
2019 31,882,049
2020 4,115,932
2021 245,862
2022 3,831,900
2023 25,066,100
訪日外国人の国や地域による傾向は2024年9月では以下の通りだ。韓国が1/4、中国が1/4で半数を占め、台湾が16%、香港が6%、米国7%と中国、韓国、台湾、香港で約7割を占めている。
国・地域 訪日客数(人) 全体に占める割合(%)※2
韓国 656,700 22.9
中国 652,300 22.7
台湾 470,600 16.4
香港 170,200 5.9
アメリカ 191,900 6.7
(観光客を取り巻く現象とリピーターの存在)
このようななか、国内の観光地での現象は、訪問地の集中、リピーターの増加、体験型観光への移行が鍵になっている。訪問地の集中は、東京、大阪、京都、北海道、福岡といった大都市や主要観光地に観光客が集中していることだ。多くの観光客は、食事やSNSで話題になっているスポットを訪れる傾向が強く、インスタや他のSNS媒体に自分の存在をマーキングしているのだ。しかし、リピーターに注目すると、何と約6割の観光客が2度目移行の観光なのだ。リピーターは、主要観光地以外の地方やディープな日本文化、自然体験に興味を持つ傾向があり、ここに注目することで地域であっても十分に観光事業をチャンスに変えることが出来るのだ。体験型観光への移行は、観光の目的が食事や観光に加えて、自然体験や伝統文化(例:茶道、陶芸、農泊など)に惹かれる人が増えていることがポイントだ。
当初、観光の目的が自然景観の鑑賞や、歴史や文化遺産の体験、食文化の堪能やショッピングなのだが、リピート観光客は、より日本を知りたい欲求が高まっている。具体的に2回目以上の観光目的は、地方エリアの探索、特定のテーマや趣味の追求と面白い。例えば、温泉巡りや伝統工芸の体験、アニメや漫画の聖地巡礼などだ。更に、その文化の興味は季節ごとのイベントや祭りへの参加などと深みも増していく。そして、究極には地元の人々との交流など日本にどっぷり興味を示す人がリピータの特徴だ。
●訪問目的の多様化
リピーターは、初回訪問者と異なり、観光地巡りやショッピングに加え、目的がより具体的になる。大都市以外の観光地として、北陸、四国、東北地方など、未開拓の観光スポットに足を運ぶ。テーマ別旅行として温泉、伝統工芸、アニメ・漫画の聖地巡礼、アウトドア活動(登山やスキー)など、自分の興味・関心に特化した旅行を計画する。季節限定の体験として、春の桜や秋の紅葉、冬の雪景色など、四季折々の風景やイベントを楽しむ。そして、文化体験として茶道、書道、着物着付け、農泊など、地元の文化や生活を直接体験するのだ。
●滞在期間の延長
リピーターは、日本の旅行事情や移動手段を事前に調べるため、初回よりも滞在期間が長くなる傾向がある。当然、地方を巡るため、宿泊地を複数設定することが多いし、都会での短期旅行よりも、ゆっくりとした旅を計画するのだ。
●費用配分の変化
初回訪問者が観光やショッピングに重点を置くのに対し、リピーターは費用を配分する傾向がある。地元の体験やツアーへの参加費や、高級旅館や地元の特産品、質の高いレストランでの食事など、資金には限界があるのが当たり前だが現状だ。
● 訪問国・地域別の傾向
中国・台湾・韓国からの旅行客は、家族旅行やグループ旅行で地方都市を訪れる傾向がある。そして温泉や美食、ショッピングを楽しむ。アメリカ・欧州からの旅行客は、自然体験や文化体験を重視し、山間部や農村地帯に足を運ぶ。英語が通じやすいエリアやガイド付きツアーは口コミで広がりやすく選ばれやすい。そして、リピーターの共通の傾向は、SNSや口コミを活用し、「まだ知られていない」「話題になりそうな」スポットを探索する意識が高いのだ。
(現時点で表面化している課題)
●Wi-Fi
訪日観光客の課題は以外にもWi-Fiだ。必ずアンケートにはWi-Fi環境が悪いという文言があるのだ。普通に見ると、Wi-Fi日本はつながっているだろう!と思うだろう。しかし盲点がある。日本人は通常、サブスクでキャリアにお金を払っているのでWi-Fiにそもそもあまり困っていない。子どもや学生はギガの制限があり、家庭や学校を離れた場合、無料のWi−Fiを探して上手く接続しているだろうが、訪日観光客の行動はそれと似ている。
そもそも、訪日観光客は、自国でもプリペイド(つまり使い切り)のSImカードが一般的で、日本のようにサブスク(定額の月払い)の契約は日本程普及していないのだ。特に通信料金が高いエリアでは、データ通信を使うときだけチャージするなどの従量課金も未だにある。実際、欧州や米国に旅行にいくと、短期滞在者向けのプリペイドSIMや柔軟なプランが多数用意されている。
米国や欧州などの多くの国では、カフェ、レストラン、公共交通機関、観光地は無料Wi−Fiが充実しているのだ。そのため日常的にWi-Fiを無料で活用する文化が形成されていてモバイルデータの必要性が低いのだ。
●コミュニケーション
公共交通機関を含め、訪日外国人は日本語を理解しているわけではない。かと言って、英語が通じる国民でも無い。そのため総合的にコミュニケーションに困難を感じている割合が多いのだ。更に、Web情報に至っても、多くが日本語のコンテンツばかりで英語や中国語、韓国語が少ない。仮に翻訳アプリを活用しようと思っても、上述のWi-Fiがつながっていなくてアプリが起動しないのだ。
そのため、たまたま訪日観光客が訪れてバズった場所に、情報弱者の訪日外国人がよってたかって向かうために慢性的な行列ができるのだ。オーバーツーリズムの背景も根本は同じだ。自治体や観光施設によって、事前予約を受け付けるが、そもそも多言語対応したサイトになっていない。そのためやはり偶然話題になった場所に物理的に行って並ぶしかないのだ。
(解決策の方向性:Wi-Fi)
基本的に、人口減少の日本が有能な人材を活用して多言語対応すること自体の方向性はみらいが無い。従い、ここは完全にWebやアプリの世界を充実するのが正解だ。具体的な解決策などもWiFi環境が充実していれば同時翻訳や、サイトの多言語化支援など難しくない。となると無料のWi-Fiを拡充するか、事前にポケットWi-Fiを借りてもらうかが大きな方向性になる。
●無料Wi-Fiの拡充
●入国前にWi-Fi環境は自己責任でという情報を出す
実際に、無料Wi-Fiを拡充するには、他国の事例は参考になる。
●政府や地方自治体
観光立国を目指すのであれば、訪日観光客の満足度向上は政府や自治体が準備するという考えだ。韓国は、地方自治体が地下鉄、公共バス、公園などで無料でWi-Fi環境を提供している。シンガポールは政府主導で市内全域を無料でWi-Fiを通している(「Wireless@SG」プロジェクト)。台湾も政府や観光地や公共施設では無料でWi-Fiを提供している(「iTaiwan」プロジェクト)。
●民間企業に
カフェ、レストラン、ホテル、ショッピングモールなどの民間施設では、集客や顧客満足度向上のため、無料Wi-Fiを提供している。費用負担は完全にその企業が負担し、顧客の利用は基本的に無料だ。スタバやマクドナルドなどのグローバルチェーンはWi-Fiを開放しているし、大型商業施設も同様に行っている。
●スポンサーシップ
一部の無料Wi-Fiサービスは、広告収入を得るために企業がスポンサーとなり、費用を負担している。ユーザーがWi-Fiに接続する際、広告動画を視聴するか、特定のページにアクセスすることで利用可能になる仕組みだ。欧州や米国の一部の空港では、広告を条件に1時間無料Wi-Fiを提供する。
費用負担を考えるのであれば、入国税や観光税を確実に訪日観光客からもらい、その資金を明確にWi-Fi整備やゴミや美化活動に充てる費用として予算化して、各自治体の温度を取って政府が整備すれば良い。
実際、東京都は宿泊税の全額を観光振興施策に充てている。主な事業として、Wi-Fiやデジタルサイネージなどの利用環境の整備、東京観光情報センターの設置・運営、都内の観光スポット等を記載したウェルカムカードの作成としている。Wi-Fi整備以外は効果があるか疑問だ。京都市も宿泊税徴収している。使徒は、市民生活との調和を最優先とした観光課題への対策強化、歴史的・伝統的な街並み景観や自然環境の保全・整備、文化芸術、伝統産業の振興と実態が不明だ。福岡県は、観光資源の開発・整備、観光プロモーションの強化、観光案内所の運営と発想がアナログかつ昭和なのだ。デジタルの世界に投資する発想が東京に若干あるのみで後は何をしているのか不明なのだ。
としても、ここは文化の違いなので、しばらく解決しないと思う。海外では、Wi-Fiがインフラとして重視され、政府や企業が積極的に投資する文化がある。一方、日本は、通信事業者の月額契約が一般的で、無料Wi-Fi整備の優先度が低くいのだ。その結果、外国人観光客にとっては無料Wi-Fiの少なさが不便と感じられる要因になっているのだ。
更に、日本ではセキュリティ意識が高く、無料Wi-Fiを使うことへの不安感が強い。無料Wi-Fiは盗聴やデータ漏洩のリスクがあると考えられ、企業や自治体が積極的に提供することを控える傾向も事実だ。ここも観光客向けWi-Fiの整備が遅れる一因でもある。
そして法規制の影響もある。無料Wi-Fi提供における日本の法律や規制が負担になっているのだ。利用者情報の収集やログ管理が義務付けられる場合があり、これが事業者にとってコスト増につながる。プライバシー保護や通信の監視などのルールが複雑なため、導入をためらうケースもあると聴く。
となると、2つ目の方向性で、Wi-Fiは日本ではインフラではないですよ!と事前に訪日外国人に普及する手もある。航空券のチケットを確約する際に、日本のWi-Fi環境を説明して事前にポケットWi-Fiなどの準備を促すのだ。
日本の観光問題は、Wi-Fiに自由にアクセス出来ると信じていた訪日観光客が実はネットに自由にアクセス出来ず体験価値を下げている。更に、仮にネットにアクセスしたところで、日本語のコンテンツが豊富で英語や他の国の言語での情報が少なく、結果的にメジャーな同様の人種が集まる場所に集中してしまっていることだ。
(解決策の方向性:多言語化)
インターネットの言語は1位が英語で約5割、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、、フランス語、日本語がそれぞれ4%から6%の割合で、以下ポルトガル語、トルコ語、イタリア語と続く。中国語や韓国語のコンテンツはそもそもインターネット全体の世界から少なく、日本語のコンテンツは他国の言葉と比較して少ないわけではない。ただ、その中身が観光地や訪日観光客が欲しい情報かどうかは分からないが、欲しい情報にアクセス出来ないと感じているのは事実だ。
近年多言語のWebサイトを母国語に翻訳する、あるいは変換する技術は進歩している。ニューラル機械翻訳(NMT)技術の進展により、Google翻訳やDeepLなどが非常に高い精度の翻訳を提供しはじめた。翻訳の文脈理解能力も向上し、単なる単語の置き換えではなく、文脈に合った自然な訳が可能になっている。更に、ウェブサイトの多言語化は、Google Cloud Translation APIやMicrosoft Translator APIを用いることで比較的容易に実現可能だ。Google Chromeなどを使えば、自動翻訳機能も使え、ユーザーにリアルタイム翻訳を提供される。更に、AIによるリアルタイム音声・テキスト翻訳(例: Google Lens、Microsoft Azure AI)は、観光やビジネスシーンでの多言語対応をさらに簡易化し実用レベルにある。
もちろん、技術的な課題も多数ある。機械翻訳は文脈や文化的背景の深い理解がまだ十分ではないため、特定の業界用語やスラングを正確に訳せない。日本語やアラビア語は、文法や表現が英語と大きく異なるため、微妙なニュアンスが失われたり、理解されにくくなる可能性は残る。観光地の名称、特定のイベント、料理名などは直訳では正確さを欠く場合もある。更に、一般的な翻訳エンジンは、特定のターゲット層や業界に特化した翻訳結果を生成するのが難しいとされている。そのため動的なウェブサイトなどの技術は汎用的なので、観光や来日観光客に情報提供するには、チューニングや技術の開発は必要になるだろう。
こられらをベースに考えると、国や自治体が日本として、観光地専用の翻訳データセットを構築してAIモデルをトレーニングするなどすれば、より正確な翻訳が可能になる。そして単に翻訳するだけでなく、文化的背景や利用者の慣習を考慮したローカライゼーションを実施するのだ。例えば、日本の「おもてなし」文化は他言語で伝えるのではなく、解説をつけて伝えるようにする。「いきがい」などの概念も翻訳するのではなく、概念を説明するようにするのだ。それから機械翻訳の初期段階を叩き台として、ウィキペディアのように、人間が文脈やニュアンスを調整するハイブリッドアプローチをはじめから導入するのも大切だと思う。
(というものの実態は・・)
日本は税金は国が決めて徴収する。そして中央集権のように地方の分配を国が決めるので中央が強い。一方で、観光のWi-Fiの課題など、国が関与せずに地方に丸投げしている。そのため感度が高いエリアは対策を講ずるが、低いエリアは放置(しているつもりは無いかも知れないが)される。更に、地方によって取り組みが異なり、日本を移動すると地域によってかなりばらつきがあるのだ。プラットフォームの概念を持ち、共通化した仕組みを作った上で、APIなどでローカルのカスタムをする。全体の仕組みは国が音頭を取り、カスタムできる設計にする。などとするとよいのだが、それが出来ないのが我が国日本だ。ということでWi-Fiの問題は当面解決されないだろうし、ウェブサイトの多言語化、しかも訪日外国人に特化したデータセットやAI、一部では進むかも知れないが、公共やインフラというレベルになるのは随分と先だろう。
(参照)
※1 ジェトロ 訪日外国人統計
※2 ジェトロ 同上
※3 訪日ラボ
新規事業の旅 147 ハルメクに学ぶ新規事業の初め方
2024年11月15日
早嶋です。
国内の雑誌市場規模は、過去10年で半減(14年に約8,500億が23年は4,400億)しているなか、また、インターネットやスマフォの普及により、情報収集手段が多様化した環境化に、「ハルメク」は50代以上の女性を対象とした月刊情報誌で売上を伸ばしている。健康、料理、おしゃれ、お金、著名人のインタビューなど、多岐にわたるテーマを取り上げるハルメクマガジンだが、書店での販売を行わず、定期購読者の自宅に直接届ける事業モデルで2022年12月時点で定期購読者は50万人を超えている。
ハルメクマガジンを運営する株式会社ハルメクは、出版事業と通信販売事業を展開する。また、シニアに特化した法人コンサルもスタートしている。同社は50代以上の女性を対象とした月刊誌の発行、関連する商品を取り扱う通販事業、法人向けのコンサルが主な事業セグメントだ。
ハルメクHDの売上高は、近年着実に増加傾向だ。2024年3月期の連結売上高は、前期比9.3%増の314億1500万円で過去最高を達成。2025年3月期の連結業績予想では、売上高を前期比8.2%増の340億円と見込んでいる。低迷する雑誌市場において、書店を中抜して直接エンドユーザーとつながるD2Cの事業を行い、その顧客との関係性の中で事業を拡大する。注目にあたいするモデルだ。
決算期 売上高(百万円)
2021年3月期 15,135
2022年3月期 25,233
2023年3月期 28,738
2024年3月期 31,415
2025年3月期(予想) 34,000
ハルメクHDの売上セグメントは、ハルメク事業(240億)、全国通販事業(77億)、法人事業(12億)だ。ハルメク事業は、月刊誌「ハルメク」の発行を軸に、物販(カタログ通販、オンラインショップ、店舗販売、新聞外販など)、コミュニティ(講座やイベントの開催)、先行投資(新規事業やサービスの開発)だ。全国通販事業は、ことせ物販という事業名でシニア向けの商品を取り扱う通販事業を展開している。法人事業では、シニア企業向けのマーケティング支援やコンサルティングサービスを行う。少子高齢化を上手く事業チャンスと捉えた事業モデルであることがうかがえる。24年3月期の内訳を示す。
セグメント 売上高(百万円) 前年同期比
ハルメク事業 24,029 +8.9%
全国通販事業 7,721 +10.2%
法人事業 1,246 +10.6%
調整額 -345 –
合計 31,405 +9.3%
(ハルメク事業)
ハルメクは、50代以上の女性を対象とした月刊誌で、定期購読者数は約50万人に達す。その人気の理由と特徴は以下のとおりだ。
●読者の声を反映した編集方針
編集部は毎月約3,000通の読者からの意見はがきを受け取り、これらを丁寧に読み込む。さらに、年間200回以上の読者との直接対話を通じて、読者の関心や悩みを深く理解し、誌面に反映する。
●多岐にわたるテーマ特集
健康、料理、おしゃれ、お金、著名人のインタビューなど、幅広いテーマを取り上げている。もちろんこのテーマは、読者層からのインタビューや統計から設定したものだ。例えば、スマートフォンの使い方特集などは、読者ニーズに即した企画から好評を博している。
●書店での販売を行わない直販スタイル
流通は書店での販売を行わず、定期購読者の自宅に直接届けるスタイルを採用している。これにより、読者との直接的な関係を築き、きめ細やかなサービス提供が可能となっているのだ。
●高い読者満足度と継続率
読者の声を積極的に取り入れた編集方針で、高い読者満足度を維持していると推察できる。具体的な継続率は公表されていないが、定期購読者数の増加からも満足度とともに高い継続率がうかがえる。
ハルメクの定期購読の料金は12冊1年コースで7,800円、36冊3年コースで18,900円だ。
50万×7,800円=390億円
50万×18,900円×1/3=315億
これから類推すると、定期購読で3年を選ぶ人が多いのだろう。24年3月の売上が240億なので定期購読の定義は少し不明瞭だが、雑誌単体に加え、一部物販やコミュニティがあるとしても、単体の雑誌の売上としては驚異的だ。
例えば、新聞売上トップ3(直近の売上高、発行部数、月間購読料)は2,000億から3,000億の売上だ。
日経新聞 3,500億 139万部 5,800円
朝日新聞 2,700億 414万部 4,900円
読売新聞 2,500億 642万部 4,400円
1つの媒体で200億から300億クラスは、地方新聞社の売上や発行部数に匹敵する。50代女性シニアの定期購読雑誌のみで50万部、240億の売上の凄さが分かる。
西日本新聞 335億 40万部
中国新聞 194億 40万部
北國新聞 184億 30万部
河北新報 170億 30万部
(全国通販事業)
ハルメクの通販事業は、シニア女性のニーズに応える多様な商品を取り扱う。特に、以下のカテゴリーが主力商品だ。
●ファッション関連商品
シニア女性の体型や好みに合わせた衣料品や靴などが人気のようだ。例えば、理学療法士の理論を基に開発された靴や、シニア女性の体型にフィットするインナーウェアなどが好評を博している。
●健康・ヘルスケア商品
健康維持や生活の質を向上させるためのサプリメントや健康器具などが取り揃えられている。これらの商品は、シニア女性の健康への関心の高さに応える形で提供されている。
●生活雑貨
日常生活を快適にするためのキッチン用品や掃除用具など、実用的な商品も多く取り扱う。これらの商品は、読者の生活を豊かにする提案として提供されている。
具体的な売上構成比や商品別の売上高については公表されていないが、ハルメクの雑誌の中で特集したり、読者の声からあがってくる「困りごと」や「あったらいいな」を企画しながら商品づくりをしているので、直接ターゲットに対して確実に販売できることが予想できる。素晴らしい事業モデルなのだ。
通常、新しい商品の認知を得るのに、ものすごい広告コストや販促コストを要す。しかし、ハルメクの場合は、読者が定期的にお金を払って情報を仕入れ、その中で自然と雑誌媒体や他のメディアを通じて商品の魅力や理解を伝えている。押し売りではなく、50代女性に寄り添った事業モデルなのだ。
(法人事業)
法人事業部門は、シニア女性市場に特化したマーケティング支援を提供している。具体的なサービスとして、マーケティングリサーチがある。30年以上にわたるシニア向け事業の経験を活かし、シニア女性のニーズや市場動向を分析し提供するのだ。次に、広告運用がある。自社媒体である雑誌ハルメクやウェブサイトのハルメク365を活用して、ターゲット層に効果的な広告展開を行うサービスだ。更に、クリエイティブの制作も提供する。シニア女性に響く広告クリエイティブの企画・制作を行い、クライアント商品やサービスの魅力を効果的に伝えるのだ。自社媒体で培ったノウハウを外部にも商品として展開しているのだ。
(新規事業の拡張)
ハルメクは、当初は雑誌事業からスタートし、その後、通販事業や法人向けコンサルティング事業へと事業領域を拡大している。お手本となる事業拡大のあり方だと思う。
●雑誌事業の開始
1996年に、50代以上の女性を対象とした月刊誌『いきいき』を創刊。この雑誌は、シニア女性のライフスタイルに焦点を当て、多くの読者から支持を得てきた。
●通販事業への進出
雑誌の成功を背景に、読者ニーズに応える形で、関連商品の通販事業を開始。読者は雑誌で紹介された商品を直接購入できるようになり、事業の多角化が進む。
●法人向けコンサルティング事業の展開
雑誌と通販事業で培ったシニア女性市場に関する知見やノウハウを活かし、他企業向けのマーケティング支援やコンサルティングサービスを提供する法人事業を開始。シニア市場に参入を検討する企業へのサポートを行っているのだ。
ハルメクは雑誌事業を基盤に、ターゲットである50代女性のニーズに応じた通販事業の展開、さらにはそのノウハウを活かした法人向けコンサルティング事業への発展と事業を発展させている。
今後の事業の肝として、一つの事業領域に徹底的に特化する。顧客基盤は直接自社で管理してデータベースを活用した事業にする。つまりビックハイアにフォーカスするのではなく、常にリトルハイアに目を向け、商品提供をゴールではなく、スタートと捉え、顧客との障害の関係構築の中で事業を展開するのだ。新規事業の取組においても、全くの飛び地を目指すのではなく、顧客基盤や特定分野で培ったノウハウを活用して徐々に領域を広げた事業モデルを開発するのだ。ハルメクの取組は、近年の事業開発の参考になると思う。
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