グランドセイコーのブランディング

2023年11月27日 月曜日

早嶋です。

グランドセイコーは高級時計市場参入のため戦略を明確に実行している。オメガより人材を招き、職人技や日本らしさを全面に表現したポジションを取り、若年層にフォーカスした取り組みを行っている。

超高級時計といえば、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、A.ランゲ&ゾーネ、ブレゲ、ブランパン、ロジェ・デュブイなのだ。各々の時計ブランドは独自の伝統や歴史、技術を有し、時計を見るなりブランドが分かるほどの個性があり、愛好家から指示されている。

時計のイメージはスイス時計が圧倒的な地位であることは皆さんの想像通りだが、高級ブランドのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、リシュモングループなど欧州勢の勢いは強い。その中で、グランドセイコーは高級時計ブランドの牙城を崩そうとしている。日本人として嬉しい限りだ。

現在、グランドセイコーは、5,000ドルから1万ドルの価格帯で頭角を現している。現在円がとても弱く75万円から150万円程度と聴くと、腕時計に価値を見出さない人からすると高いと思うだろう。普段から時計愛がある人は、高級時計としてはリーゾナブルな価格帯だ。

ただ、上記高級ブランドの時計は、ステンレスのケースでも200万円前後に価格が高騰した。コロナの3年間、スイス時計業界も大きな影響を受け、加えて人手不足で職人が足りない状況が続く。更に、スイス時計の水平分業の体制も、大手コングロマリットにより合従連衡が進み、小さなケースメーカーや針メーカー、文字盤メーカーやインデックスメーカー等、次々に大手参加に吸収されている。大手ブランド傘下になり、部品一つひとつの値段も高騰している。

またマクロの視点で見ると、機械式時計の職人は、アナログ産業ど真ん中であり、若手の成り手の少なさと、職人に成るまでの時間がかかるが故に、急激な人手不足に悩まされているのだ。そこで大手時計メーカーを筆頭に、堂々と価格を上げ、そこに円安が続き、海外時計の価格高騰が止まらないのだ。

グランドセイコーは1960年代、セイコーの上位モデルとして販売が開始され、2010年に海外展開を始めた。当初はロレックスと同等の1万ドル前後を狙ったが、うまくいかなかった。2017年にオメガの米国法人だった社長をヘッドハントし、米国販社のテコ入れを始めた。

当時は、消費者にも流通業者にもグランドセイコー=ちょっと高いセイコーという認識で、セイコーの延長にしか過ぎなかった。当時、全米で4,000店舗のセイコー販売店があり、グランドセイコーの販売戦略は安易なものだった。4,000店舗の中で売れ行きが良い30店舗を選び、そこにグランドセイコーを卸すだけだったのだ。プロモーションも基本的にセイコーと同じ。いくら中身が良いとて、それは売れないだろう。と当時から筆者は提言していた。

そこで米国での販売店を30店から15店に絞り、更に、高級時計を販売している店舗に売り込みをかけ、セイコーと異なる独自の販売網を確立しはじめたのだ。ターゲットもロレックスとずらした。高級スイス時計の主要顧客は40代から50代の高収入層。グランドセイコーはその若年層に絞った。旗艦店舗も東海岸ではなく、西海岸のLAに出店。IT技術者で収入に余裕があり、グランドセイコー独自のスピリングドライブなどの技術に興味を持つ層に勝負をかけたのだ。スピリングドライブは、機械式とクオーツのハイブリットの機構でセイコー独自の技術だ。他者は追従できない。イノベーションを受け入れる西海岸にあえて絞り、伝統的なマーケティングと異なる取り組みを行ったのだ。

高級品のマーケティング・ミックスは、兎に角徹底的に絞ることだ。グランドセイコーは、開発力があり、次から次に新しいモデルを出す。ただ、まだまだポジション的には弱い。Webを見ると商品ラインナップは現時点でも234商品もある。まだまだ商品点数は多いと思う。24年1月に新たにNYに旗艦店舗を出すが、もっと希少性を出すなどしてブランドの価値を高めないのが不思議だと感じる。

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