早嶋です。
ジョブ理論では、ジョブのことを「特定の顧客が特定の状況において成し遂げたい姿」があるという。コンサルする際も私は、クライアントの話を注意深く聴き、適宜質問をしながらその方が「片付けたいジョブ」はなんだろうと考える。
先日の例だ。研修会社を運営するA社長とブレストした。コロナ期間に新規に開始した動画コンテンツを販売する事業に関連してのブレストだ。現時点で300タイトル、1000本程度の動画コンテンツを保有して、サブスクで従業員や社員教育目的に中小企業に販売する。対象は従業員50名から300名程度の中小企業で、300名を超えると既に導入しているケースがあり、この層に絞っている。単価は1ID辺り1,000円/月で、現在約150社、5000IDまで販売を伸ばしている。リテンション率も高く出だしとしては好調だ。
ただ、研修会社は大手で、更にIDの販売を増やさないと立ち上げたイニシャルコストを回収出来ない。ちなみに、私も戦略やマーケティングなどのいわゆる概念化能力に関するコンテンツを10種類程度提供しているので、状況は理解している。
A社長の見た目上のペインは、もっとコンテンツを増やして、IDを販売することだった。そこで複数の質問をして状況を整理した。例えば、既存の顧客はどのような顧客が多いか?逆に、提案しても導入しなかった顧客はどのくらいいて、その理由に傾向は無いか?導入した顧客がどのように社内に活用させ従業員に告知しているか等々だ。そして、いくつかの仮説が出てきた。
従業員50名〜300名の中小企業というよりは、その程度の規模で人事の教育担当が専任でいない企業が結果的に購入しているという点だ。中小企業の場合、人事は総務部の管轄で、規模が小さいと総務と人事と会計などを全て数名の総務で担当している。教育の重要性は理解しているが、自分の一存で決めることもできないし、仮に何か導入しようとすると、更に自分の仕事が忙しくなると考えている。ただ、そのような中でも10社に2社程度は、社員に広く教育を普及させたいとのことで契約しているのだ。
一方、現在150社程度の契約なので、その5倍の750社程度は検討したり、話を聞いた結果、自分が社長に説明ができないので断った。仮に導入しても自分の手間が増えそうだから断った。そもそもその動画の活用がわからないから断った。等々、値段が高いとかではない理由が複数出ていることが分かった。
A社長が解決すべき動画を導入する企業のジョブは、社員教育の仕組みを工数かけずに提供することなのだ。その障害となっている事実が、実現出来ない組織程、担当者や専任者が不在だ。当人も悪気はなく、ただ総務部で兼務などをして多忙と思っているし、本人の能力やキャパシティの問題で意思決定者の社長に説明が出来ない。50名から100名前後の中小企業のオーナーであれば、自分が営業をガンガン行うので、社員の教育に対して疎い方も一定するは居るだろう。また仮に導入したとしても、どのように従業員に活用いただけるかのイメージが全くつかない。など、複数の障害が混在しているのだ。
そう、コンテンツのIDを沢山導入頂きたいのであれば、それは動画作成の話ではなく、上記のジョブを提供するための仕組みを研究し、導入頂きたい企業が多くが抱える障害を取り除いてあげることが大切なのだ。
新規事業でも既存事業でも、始めは顧客のことを考えて事業を始める。その際は、商品開発をする際も、徹底的に顧客の声を聞いている。しかし、徐々にテストマーケティングを終え、拡大のフェーズに入ると仕事が分割される。その際に、顧客の声や開発する商品が顧客の何を解決するかを理解しないまま部隊が作られ、ひたすら自分たちの役割を淡々と作業しはじめるのだ。そのため、商品としては良いものができるが、結果的にその商品は、顧客の一部にしか受け入れられなくなるのだ。新規事業の営業パーソンは、通常は経験も無く、本社があってもその支援は受けにくい。結果的に一定の数には響くが、メインの顧客層には響かないで終わるのだ。
今回のA社長の親会社は人材を扱っており、ターゲットリストとしてバイネームで1,000社のリスト(50社から300社で可能性を抽出した後のリストでも)があった。このターゲットに対してA社長の部下複数人がアプローチして今回の提案を行っている。自分たちで商品を理解して導入できる層は、通常は3%から15%程度だ。そのため、この企業が更に商品を購入頂くためには、商品の見せ方や商品の導入の仕方を考える必要がある。通常は初期の市場とメインストリームの市場と表現するが、A社長はメインストリームの市場に入る前後で売上の低迷に悩んでいるのだ。
メインストリームの市場は、その商品の良さはなんとなくイメージ出来ても、実際に自社に導入する際に、もっと丁寧に手取り足取り教えて頂きながら提案してもらわないと中々判断できない層だ。その際に、その提案を聞いている顧客の障害は何なのか?という話を徹底的に理解して、それらを横展開して開拓することができれば投資をしてでも解決することを考える。その取組がメインストリームに入れる鍵なのだ。
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(その31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
2022年12月 のアーカイブ
新規事業の旅その31 ジョブと障害とキャズ
定着率向上や早期離職防止に向けた対策
安藤です。
今回は、「定着率向上や早期離職防止に向けた対策」です。
厚生労働省は20日、労働経済動向調査(2022年11月)の概況を公表しました。労働者の過不足判断D.I.(不足-過剰、11月1日現在・産業計)は、正社員等労働者プラス44ポイント、パートタイム労働者プラス30ポイントで、それぞれ46期、53期連続の不足超過。正社員等労働者では、「建設業」、「医療・福祉」、「情報通信業」、「運輸業・郵便業」で人手不足感が高い。生産・売上額等判断D.I.(10~12月実績見込)は、産業計マイナス3ポイントで前期から2ポイント上昇、「宿泊業・飲食サービス業」(プラス23ポイント)などでプラスとなる一方、「「サービス業(他に分類されないもの」(マイナス17ポイント)、「医療,福祉」(マイナス11)などでマイナスとなっていました。
そのような状況の中で、社員の早期離職は組織にとっても、大きな問題です。
若手の成長のためには仕事における負荷=挑戦が不可欠ではありますが、実際に負荷がかかった際には、不安が大きくなったり物事をネガティブに捉えすぎてしまい、パフォーマンスの低下やメンタル不調になってしまう社員も一定数います。
こうした状態が続くと、生産性の低下や早期離職に繋がる恐れがあるため、企業としても社員のストレス耐性を強め、ものごとの捉え方を鍛えることで自律型人財へと成長できるようサポートしていくことが大切です。
その為には、管理者も若手のストレス要因の認知・向き合い方を学ぶ必要があります。ストレス対処は、コーピング(coping)とも言われています。日常生活の中で私たちに負荷をもたらすと判断された外的・内的な刺激(ストレッサー)やそれによって生じるストレス反応を減らしたり、受け入れたりするために個人が行う認知的、もしくは行動的な努力のことを指します(Lazarus & Folkman,1984)。さらに、Lazarusら(1984)は、その努力は常に変化するものである、とも述べています。コーピング方略にはさまざまな種類があり、その分類方法は研究者によって多岐にわたっています。 そこで、今回は、ストレスフルな状況やその結果として生じるネガティブな情動に対して積極的にかかわっていく「接近型コーピング」と、それらを遠ざけようとるす「回避型コーピングについて説明します。
接近型コーピングとは、ストレスフルな状況に対して積極的に取り組んで解決を目指すためのコーピングです。
●問題点を明らかにし、解決策を考える ●経験者にアドバイスを求める ●どんな物事にも必ず良い面があるはずだと探してみる 等があります。
一般的に、接近型コーピングはストレッサー自体の解消を目指すものであるため、ストレス反応の低減に有効だと言われています。しかしながら、ストレスの原因の所在が自分以外にある、もしくは対処方法は分かっていても実行に移すのが難しい場合など、全てのストレッサーが解消できるものとは限りません。
解消できないストレッサーに対して働きかけを続けることで、疲弊してしまう恐れもあります。その場合は、ストレッサーから距離を置くことでストレス反応の低減を目指す回避型コーピングを選択することも必要となります。
回避型コーピングには、● 嫌なことをなるべく思い出さないようにする ● 自分の趣味を楽しむ時間を持つ ●問題解決を先送りする 等があります。
回避型コーピングを用いることによって、ストレッサーに直面した結果として生じるネガティブな感情を解消することができます。しかし、その効果はあくまでも一時的なものであり、 根本となるストレッサーの解消には至りません。 早期離職防止対策としては、社員がいつもと違う言動を早めにキャッチして、まずは、個別に傾聴することが優先かと思われます。
何かお役にたてることがありましたら、気軽に弊社にご相談くださいませ。
新規事業の旅 その30 OEは最早役に立たない
早嶋です。
日本全体の市場がまだ成長していた頃、欧米の企業をベンチマークし、同じような製品サービスを市場に出すために見様見真似で取り組んできた。そのため、経営者は戦略的なポジション(SP:Strategic Positioning)を明確にすることなく、模倣を繰り返しながら、現場の頑張りを踏まえて(OE:Operational Effectiveness)経営成績を上げてきた。そのため経営トップが企業の戦略を示さないままにやり過ごした感がある。
そして2010年頃より、日本が成熟期から衰退期を迎える頃、従来の方向を示さない経営がズタボロになってきた。上場企業は成長戦略を示すも、成長する方向性を見出す経営者が少なく、無機質な数字を増やすことのみ指し示した。例えば、300を500にするなどだ。しかし300を維持するのもやっとという状況下で不足する200をどうやって達成するのか、誰も具体的に示せない。
始めは既存の事業をすすめる中で200のギャプを埋めれると信じていたが、やがて不可能なことに気がつく。そこで今度は200のギャップを新規事業で埋めると宣言し始める。しかし従来、新たな枠組みで新規の事業を行った経験がある経営者はおらず、他探りで見様見真似で新規を行っても、成果が出ない。やがて2年、3年と経過した後、M&Aで新規事業をおこなえるかもということで、200のギャップを新規とM&Aで行う!という宣言が流行する。
しかし、相変わらずSPを示すことは無く、どのような分野にどのような新規事業を行うかの方針が不明なため、M&Aに対しての戦略もふわふわしたままになる。そして持ち込み案件を何度も吟味する中で、なぜか思い切って投資をするという行動にでる。当然、新規事業をM&Aする目的で行ったため、その事業のことを経営でいるマネジメントが自社にはおらず、M&Aには成功するがその後のシナジーを生むことが出来ないままでいる。
それでも経営トップは現場がなんとかするだろうと思ったのか、特にメスをいれることをしない。しかし流石に経験の浅い新規事業や異業種の事業はなんぼ頑張っても勘所がわからず、どうにもならない状態が続くのだ。本来は、新たな組織を明確に動かすためには、その企業のことがわかり、業界に明るい経営者が、方針を示して現場を動かす必要がある。仮に大きな方針を示すことが出来たとしても、現場がその方針を理解して、そのとおりに行動(OC:Organizational Capability)をしなければ成果は出ないのだ。
かくして現在、既存もガタガタで新規もガタガタの状態が続いている。
※SPとOEとOCの説明は、こちらを参照。
新規事業の旅(その31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
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新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
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新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
新規事業の旅 その29 売り手のトラブルは売り手の無知から
早嶋です。
M&Aは不動産の投資と異なる。不動産の場合、収益物件として購買した後、賃貸等で貸すと期待した利回りを獲得できる。そのために不動産の価格には合理性がある(築年数、広さ、リッチ、工法、間取り等で過去の賃料や売買価格のデータもあり余りヘマをすることが無い)。
一方、中小M&Aは、買い手が買収したからと言って、従来と同じ収益を獲得できるとは限らない。M&Aは、経営権を獲得し、通常は役員以上の人材を買い手が送り込み、買収後は買い手が経営するのだ常だ。しかし超大手企業を覗けば、売り手の経営者が一定の、あるいはそれ以上の影響を経営に与え収益を出してきた。従い、買収してしばらくは収益は続くだろうが、買い手が経営を切り替えて維持、拡大しないかぎり理想とするキャッシュフローは発生しない。
その理屈を分かっているのか、分かっていないのか。M&Aの経験が乏しい買い手は、売り手企業の単体の価値を計算して、お買い得か?否かを考えている。もしこのような発想を持った時点でM&Aはすべきではない。高いに決まっているのだ。
通常レベルの売り案件があったとする。債務超過でもなく、一定のキャッシュフローが望める案件だ。この場合、売り手1社に対して買い手は15社から20社のオファーがあるのが通常だ。多くの買い手企業は成長戦略を実現する目的で常にM&Aの案件を探している。従い、昨今は売り手が優位な状態にある。仮に、売り手と買い手の双方が計算する合理的な価格があったとしても、売り手は優位な立場を鑑み、合理的な価格より高い金額で売却したいと考える。それでも買い手が付くということは、買い手は更にその価格に上乗せした交渉で買収することになる。常に複数の買い手と競い合うからだ。
それでも買い手が買収する意味は、売り手単体の価値に加えて、自社と一緒に事業をした後の化学変化を考えているからだ。よくシナジーという言葉が使われるがまさにそれだ。製造業の場合は、売り手の仕入れ価格を鑑みて、自社と一体になればコストが下がることが想定できる。すると利益が一気に獲得できるなどの算段があれば、プレミアムを払っても投資回収できると考える。商品が優れている売り手に対して、買い手が強烈な営業のネットワークがあれば、販管費を大きく変えずに販売が期待できる。そのような買収した後のシナジーを考え想定できる企業はM&Aの成功を手に入れる可能性が高くなる。一方で、未だにM&Aそのものを金融取引のように考えている経営者は買収した時点で、マイナスとの戦いになるのだ。
ただ悲しいかな、世の中の70%の企業が赤字で、税金もろくすっぽ納めていない状況だ。M&Aアドバイザーの会社が次々に上場して、案件を青田買いしていくと、買い手の需要に対して、売り手の供給が賄わない状態に現在突入している。300万社の中小含めた会社の3割が利益を出しているとする。すると100万社が母数。仮に2割の企業が売っても良いとしても、売却可能性の市場規模はその時点で20万社だ。現在で、年間に4000件程度のM&Aが行われており、規模の大小を鑑みると1万前後はM&Aされている。10年で10万程度だと考えると、市場が枯渇するイメージは湧くと思う。
国が中小M&Aガイドラインを出した2019年頃はM&Aの業者は数百だったが、M&Aの補助金を活用するために登録を促すと1年ちょっとで、その数が2,000を超えた。実際にM&Aを実現しているアドバイザーは少ないとしても、アドバイザーの事業を考えるプレイヤーからみると昨今のこの状況はチャンスと捉えるのだ。その中で、案件は限られている。特にここ5年、M&Aの上場企業が一気に増えたため、確実に案件が枯渇しているのは事実だと思う。
そのため、M&Aアドバイザーは従来案件化出来なかった売り手に対してもアプローチを初めている。初めは、小粒の案件はネットマッチングで対応しようと考えて。しかし、実際は不動産と異なり、簡単に案件化ができない。しばらく大手も放置していたがリアルの事業で収益を得る体制が整った企業の一部はWebでアプローチしてきた売り手企業に対して直接営業をする体制を整えるようになった。実際、本誌を読んでいる経営者も個々数年、M&Aアドバイザー、それも大手の企業からのアプローチが増殖している実感があるだろう。そのくらい、案件がなければ商売が成り立たないビジネスモデルなのだ。
M&Aアドバイザーのビジネスモデルは単純で、売り案件を握って、ふさわしい買い手に提案して、M&Aに関わる一連のプロセスに対して助言を行い、成約までの助言やフォローを行う中でアドバイス料を得る。規模が小さい場合は、着手金も中間金も取らず、成功報酬で行う場合が多い。成功報酬の相場はレーマンレートを軸に取引価格の5%を手数料としてもらう。一方、大手企業は規模の大小に関係なく、売り手企業の案件化をすすめる場合に、着手金を100万から150万円程度を最低に受領し、案件化する際に企業査定をする手数料として50万円かそれ以上の費用を要求する。
売り手企業も、アプローチされた時に、色々とアドバイザーの状況や報酬体系、契約の中身を調べれば良いものの、大手の信用を過信して、契約を締結する傾向が昨今急増している。ここで勘違いしたらいけないのは、大手M&Aアドバイザーは全く悪くないのだ。自分たちも上場し、株主に対して成長を求められる。しかし、M&Aの案件は枯渇している。そこで少しでもキャッシュを獲得する必要があり、本来、自社のボリュームゾーンでなかった中規模小規模案件にも営業をしなければ、自分たちが維持できない状況になっているのだ。
売り手企業にも問題がある。自社の経営の状況を把握していないのに、何故か周囲の売却事例の話を聞いて、自社も1億で売れるんだと勘違いをする。債務超過で役員報酬もろくに払えない企業なのに、冷静に考えるとおかしな話なのに、それが出来ていない場合が多い。実際、相談が急増しているのが、本来は大手のM&Aアドバイザーが関与するレベルではない、小規模の売り案件を大手M&Aアドバイザーと契約した話だ。そして契約の内容を理解していない場合が多い。
例えば、案件自体はかろうじて2,000万円程度で売却できるとする。しかし大手のM&Aアドバイザーの着手金は100万から200万。そして、売買が成約した場合の最低報酬は1,000万とか2,000万になっている。ここをまず見逃している。更に、その契約は仲介をベースにしている。買い手企業が、該当の売り手企業に興味を持った場合、同じM&Aアドバイザーの会社が間に立ち、売買の取引をすすめる。その際、買い手もおそらく成功報酬として、売買の成約報酬に2,000万円の費用を別途アドバイザーに支払う仕組みだ。
売り手が勘違いしている点はいくつかある。まず成約した際の報酬は、売り手がアドバイザーに払わなくても良い勘違いだ。契約書を余り理解しないのだ。しかし、仲介の場合は、不動産の両手と同じで、買い手と売り手の双方からアドバイザーフィーをもらう。そのため売り手も支払う必要がる。次に、専属の契約であることだ。売りては契約を結んだ後に、アドバイザーの会社と馬が合わないとする。その際に、別の中小に寄り添う地域のアドバイザーに相談しても、彼らも困るのだ。セカンドオピニオンとしてアドバイスはできるものの、専属の大手企業が全てを取り仕切る契約になっているからだ。それから、3つ目はテール条項という考えだ。仮に、契約を結んで、契約解除をしたとしても、1年から2年は、M&Aの動きを別のアドバイザリーで行ったとして、大手のM&Aアドバイザリーのテール条項に抵触する可能性が高い。大手も案件の大小に関わらず、売り案件を握ったら買い手に営業をしているはずだ。その営業先が、M&Aアドバイザリーの会社を中抜して契約して手数料をセーブしようとされない為に、契約を打ち切った後に、M&Aアドバイザリーの会社がアプローチした企業とM&Aが成立した場合は、想定の金額を受領するという内容にしているのだ。この条文の理解をせずに売り手は安易にアドバイザリーと契約を結ぶのだ。
なんども言うが、大手のアドバイザリーは全くの合法だ。売り手も契約を結ぶ際に、ちゃんと契約の内容や、金額のこと、契約破棄した後のことについて理解を得れば、他のアドバイザリーを検討したり、色々とオプションが有るのだ。
上記のようなトラブル、というか売り手が内容を理解していないがための誤解から生じるトラブルが今後続発するとこが予想できる。これもM&Aが世の中にM&Aが本格的に普及し始めた証拠だと思う。将来自社の売却、事業承継、精算などの出口を考えている経営者がいたら、早めに準備をしていくことをおすすめする。その際は、私どもでも良いし、近くのM&Aアドバイザリーの会社でも良いし、日本M&Aアドバイザー協会でも良いし、気軽に相談してほしい。そして、滅多にないチャンスなのだから誰かに丸投げすることなく、書籍に1冊や2冊は読んでから望むことをおすすめする。
上記の事例で、1,000万〜数千万で実際に売れる案件で、買い手がプラスで手数料を2,000万円払う必要があれば、通常はその時点で諦めるだろう。そして、アドバイザリーと契約を破棄してもテール条項の関係でおそらく2年程度は、企業の売却が出来ない状態が続くだろう。一方で、初めから地場のM&Aアドバイザリーや1億以下を売買価格の中心にしているアドバイザリーと契約していれば、数千万円の案件の手数料は、150万円から350万円程度なので、売り手も買い手も納得の金額になるのだ。
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
新記事業の旅 その28 動画サブスクの落とし穴と処方箋
早嶋です。
企業の悩みの一つに、「成熟したポートフォリオをどう組み立て直すか?」がある。皆既存の事業運営コストを下げ利益体制にし、新規事業に夢を求めて躍起になる。既存と新規の両利きの経営には、社員教育は不可欠で、今まで以上に重要性が増す。そこにコロナの影響もあり、対面研修が激減し、変わりに動画やオンラインを活用した取組が急速に普及する中、危険な側面を観察できる。
例えば、動画のサブスクを社員全員に提供することで、教育を代替する取組だ。自社で作成した動画や監修した動画であれば一定の意味はあると思うが、サードパーティが汎用的に作成した動画を全社員が見れるようにIDを配布して教育を置き換えてしまう行為は大いに疑問を感じる。人事としては「公平性の観点から全員に動画のIDを渡して好きな動画を見て成長してほしい」というメッセージを出すが、余り意味が無いと思う。放題にした場合、ほとんどの確率で見る必要が無い人はどんどん見て、見る必要がある人程視聴しないのだ。
この事実に気がつくと、企業の対応が本末転倒になる。せっかく契約したからには社員に動画を見てもらわないと困る。ということで、視聴履歴を管理しはじめるのだ。するとやはり見てほしい社員ほど見ていないことが検証される。それでも契約期間がまだ残っているし、すでに投資した金額をサンクコストと捉えることは難しく、回収しなければならないと思ってしまう。そして半ば強制的に動画を見せさせる行動にはしる。すでに見ている人も、「履歴管理を初めたら再び見なさい」などと、意味不明な管理だ。
面倒だと感じる社員の中には、動画をすっ飛ばして倍速や3倍速、あるいは一気に早送りして1時間の動画を5分で見たことにして、視聴履歴を作る社員も続出する。そこで人事は、視聴した動画に確認テストを取り入れ、確認テストに合格しないと視聴を認めないなど、イタチごっこが始まるのだ。
本来、社員教育は、社員の自主性に任せるべきではない。そのため、社員のキャリアビジョンと自社の戦略の方向性を紐付け、各々の社員に必要な能力やスキルレベルを示しつつ、当人に不足する能力や概念を教育しなければならない。その場合、階層教育のように一定レベルの底上げをする教育以外は、個々人によってカスタマイズしなければ学びの意味は薄い。それらを放棄して、「動画を見て学習してね!」は潔さは感じるが、一方で怠慢感もたっぷりだ。
サブスク見放題であれば、「あなたは今、●●の問題を抱えている。だったら、△△の動画を見て、それをベースに再挑戦することで見通しが明るくなるよ」というように、本人の状況に応じて、タイミングよく動画やコンテンツを案内することができれば、動画サブスクも活用できるだろう。多くの社員は、動画が200シリーズとか300シリーズ用意されていても、どれを見れば良いのか検討もつかないし、強制的に見なければならないという動機のもとに視聴しても、入ってくる情報も蓄積されない。社員は自分のスキルレベルを把握しているわけではないし、自分に取っての不足が想像つかないのが当たり前の状態になっている。
サブスク動画を有効的に活用するのであれば、社員の能力レベルを仕組みで把握して、不足する情報を適切なタイミングで社員に案内する工夫など、コンテンツの提案がすごく大切になる。逆に、そのような提案が適切に行われるようになると、社員が自発的に学びはじめるので、動画でのインプットはかなり有益になるだろう。
また、放題の動画の中から人事や管理者が選定して、事前にインプットさせ、その内容を参考に、業務についてブレストさせるとか、何らかのお題を与えてワークさせるなど、視聴で終わるのでは無く、そのコンテンツを活用したアウトプットを組み合わせることも非常に重要だ。これらができれば動画のID投資も瞬殺で回収することになるだろう。
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり
【動画】2022年度「リーダー研修」
本ページは、西日本プラント工業の2022年度「リーダー研修」参加者向けのページです。
エネルギー業界の大変革が進む中、職場のリーダーが変革を促すことが不可欠です。研修は、指導職2級1年目を対象に、経営に対する当事者意識を養成、御社の将来形成のために職場で何を変革するか、そのための行動は何かを考えます。
当日の研修参加までに、以下の動画を視聴ください。PWは別途事務局からの指示に従って下さい。
マネジメントの基礎 不確実への対応(約30分)
なお、本動画はマネジメントの基礎(全6本)シリーズの抜粋です。不確実な世の中へ、リーダーとしてどう対応するかのヒントとして視聴ください。
人生100年時代の社会人基礎力
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは「人生100年時代の社会人基礎力」です。経済産業省の資料を基に社会人基礎力について説明し、人生100年時代に求められる能力を3つの能力・12の能力要素に分けて解説します。
まず「社会人基礎力」について説明しましょう。(参照:https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/)
社会人基礎力とは、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。その後「人生100年時代」を踏まえ、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」と新たに定義しました(2018年)。
経済産業省の説明資料では、社会人基礎力をパソコンの【OS】に例えています。つまり社会人としての基盤能力である「社会人基礎力」を身に付けた上で、その【OS】上に【アプリ】としての「業界スキル」や「社内スキル」など業界特性に応じた能力を活用すべきとしています。人生100年時代の働き手は【アプリ】と【OS】を常にアップデートし続けることが求められます。
必要とされる社会人基礎力は「3つの能力と12の能力要素」で構成されています。
能力➀前に踏み出す力(アクション):「一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」
能力要素は「主体性」、「働きかけ力」、「実行力」です。「指示待ちにならず、一人称で物事を捉え、自ら行動できるようになることが求められている」と解説されています。
変化の激しい時代に、前例踏襲では解決しないことがますます多くなります。その時に失敗を恐れず、果敢にチャレンジする姿勢が求められます。さらに周りを巻き込んで目標達成するリーダーシップも必要です。
能力➁考え抜く力(シンキング):「疑問を持ち、考え抜く力」
能力要素は「課題発見力」、「計画力」、「想像力」です。「論理的に答えを出すこと以上に、自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的な思考力が求められている」と解説されています。
物事を筋道立てて考える論理的思考(ロジカルシンキング)能力が必要です。ムダなことをやっているヒマはないということでしょう。周囲の協力を得るためにも納得感のある解決策や計画は必須です。
能力③チームで働く力(Teamwork):「多様な人々とともに、目標に向けて協力する力」
能力要素は「発信力」、「傾聴力」、「柔軟性」、「状況把握力」、「規律性」、「ストレスコントロール力」です。「グループ内の協調性だけに留まらす、多様な人々との繋がりや協働を生み出す力が求められている」と解説されています。
価値観が多様化し、色々な考え方の人が協働する時代です。自分と考え方が違う人ともコミュニケーションをしつつ、一緒に成果を作り上げていかなければなりません。個を活かしながら、ルールを順守するコミュニティの一員として活躍するイメージです。
このように人生100年時代では、企業や社会との長い関りの中で活躍し続けるために3つの能力・12の能力要素が基礎力になります。
そして、3つの視点「どう活躍するのか(目的)」、「どのように学ぶか(統合)」、「何を学ぶのか(学び)」のバランスを図ることが、自らキャリアを切りひらいていく上で必要と位置付けられています。
これからは自らの人生を自分で設計する、まさにライフデザインが重要であるということでしょう。逆の言い方をすれば、長い人生を自分らしく生きるためには3つの能力・12の能力要素が必要ですよということにもなりますね。
次回は社会人基礎力をリカレント教育の視点から読み解いていきます。個人の成長と企業の成長のすり合わせです。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
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