新規事業の旅66 ベンチャーキャピタルの実態

2023年7月29日 土曜日

早嶋です。

最近テレビや紙面でも見聞きする「ベンチャーキャピタル(VC)」の実態はどのようなものなのでしょうか?

想像以上にハードな仕事ではありますが、社会課題をクリアするために、世の中にイノベーションを起こすエコシステム。実は、VCは単なるマネーゲームではなく、我々の社会を良くする担い手でもあるのです。

(イノベーションを生むエコシステム)
ソフトバンクグループの孫さんは「世界はいつも「発明家(起業家)」と「資本家(投資家)」の2つによって進化を遂げてきた」といいます。19世紀は蒸気機関を発明したジョームズ・ワットと投資家のロスチャイルド家がその代表です。21世紀も同様でスティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツ、ジョフ・ベゾスのような起業家に対してベンチャーキャピタル(以下、VC)のお金が投資されたことで世界は大きく変化しました。

一方で多くの日本人ビジネスパーソンにとって、VCは縁の無い世界です。日本は伝統的な大企業のプレゼンスが強く、スタートアップは経済の主役になり得ていません。しかし歴史を見れば、発明家と投資家の関係が常に新たな産業を創造しているので無視できない存在になっているのです。

グーグルは、米国において12番目の検索エンジンで後発組でした。初期を支援したVCが名経営者のエリック・シュミットと資本を提供して成長しています。

コロナで有名になったスタートアップであるモデルナ。ウィルスの遺伝子データを入手してからわずか2日間でワクチンの設計図を作り、42日間で臨床試験に使う1本目を完成させました。

21年末時点で世界最大のユニコーン企業はショート動画SNSのテイックトック(TikTok)を運営するバイトダンスで直近の時価総額は39兆円で、当時トヨタが34兆、ソニーが18兆なのでその規模がわかります。

(ベンチャーの投資ステージ)
ベンチャー企業を見ると「なぜ銀行からお金を借りないのか?」と思うことでしょう。銀行の融資はローリスク・ローリターンです。何か事業を行う際に、確実に売上が手元に入り、それでも元本や利息が返済できない際には、土地や建物を担保にお金を貸す事業が銀行です。

しかしスタートアップの成功に保証はありません。ハイリスク・ハイリターンの事業に投資をします。しかし世の中に革新を与える企業はこうした不透明な事業であり、そこに資金を提供するのがVCの役割になるのです。

VCが投資をする際、成長段階により異なる投資ステージがあります。当然、創業間もない頃がハイリスクで、成長した後はスタートアップ企業でもリスクは低減します。

アイデアや事業計画をベースに、経営陣だけがいる時期が「シード期」です。次に、プロダクトやサービス開発を行い、初期の顧客を魅了すべくテストマーケティングを繰り返す時期が「シリーズA」です。更に、そこから急成長の道筋が見え、事業として本格的に立ち上げる時期が「シリーズB」です。そしてここまでが伝統的なVCが支援するステージです。

VCにも特徴があり経営陣を評価する、市場を評価する、プロダクトやサービスそのものや、その技術力を評価するなど様々です。スタートアップが成長するフェーズでは、徐々に体制ができる「シリーズC」や「シリーズD(上場等)」などもあり、このフェーズの調達額は数百億を超える場合もあります。また、近年のトレンドは上記のシリーズ後に「グロース投資」としてすでに成長したスタートアップに更に投資して成長を盤石にする取り組みも観察されます。ソフトバンクのビジョンファンドは、大きく分類するとこのグロース投資のプレーヤーになるのです。

(VCの誤解) 
国内ではVCに馴染みがない分、誤解も多いです。最も多い誤解は「品評会投資」です。VCはスタートアップに対してマネーの虎で放映されたように起業家の情熱やアイデアに投資をするという誤解です。

しかし実態は全く異なります。過去に成功した起業家(シリアルアントレプレナー)や優れた技術を持つ企業はあっという間に資金を調達します。従い、プレゼンをして売り込むのはVCである投資家サイドなのです。VCはマネーゲームを行うのではなく、社会課題などを解決するイノベーションを加速するための付加価値競争を行っているのです。そのためVCには自身もスタートアップで成功した経験を持つ方が多く属します。

2つ目の誤解は、「直感投資」です。話としては面白いでしょうが、一度プレゼンを聞いて投資を判断するなどあり得ません。可能性のあるスタートアップをリストアップしては情報を集めます。ステージごとに情報を整理しながら投資前の調査を繰り返し行うのです。またVCによっては過去の膨大な投資経験を活用して自分たちの投資リスクを下げる取り組みも当然に行っています。

従い、VCがスタートアップ企業に対して「一目惚れ」で投資をすることは有り得ないのです。

(VCの仕組み) 
VCの一般的な登場人物は3者に別れます。それぞれLP、GP、起業家です。LPはいわば資金の出し手です。米国では大学基金や年金基金、保険会社などの機関投資家がメインです。当然、業として投資を行うためロマンではなく長期にわたる高いリターンを期待します。日本では、機関投資家は少なく、一般の大手企業が出し手になることが多いです。LPとVCは約10年の付き合いになります。その間、投資したお金は自由に引き出せません。一定期間出資した金額が塩漬けされる代償として他の資産運用よりも大きなリターンをVCに期待するのです。ざっと10年で3倍以上を期待してLPはお金を預けます。

GPはまさに投資家そのものです。ファンドを立ち上げ、LPから預かったお金を投資しリターンを得ることを託された責任者です。預かった資金を手元に有望なスタートアップを見つけて投資をするリスクマネーのプロなのです。GPの成功要因はまさに「ダイアの原石」を見つけることです。

GPは通常LPから資金を預かり10年間かけて膨大なキャピタルゲインを狙います。ビジネスモデルとしては、預かり金額の2%ほどの運用手数料で事業を回します。例えば50億のファンドだと、毎年1億の手数料でファンドを運営します。スタッフの給与、オフィス、出張費、将来の有望な起業家への露出。全てを賄う必要があります。加えて、投資した金額を超えるリターンに対しては、超過した利益の20%を成果報酬として得ることができます。50億のファンドが3倍の150億のリターンを得たとすれば、上振れの100億の20%はGPに、80%をLPが出資比率で分けるのです。このように考えると想像絶する規模の資金を手に入れることが可能です。

起業家は事業を立ち上げる発明家です。わずか数人でスタートし、限られた資源で実現しなければなりません。お金は先に出ていき、プロダクトは後で出来上がります。その間常に資金ショートとの戦いです。そこで会社の所有権でもある株式の一部を譲渡する代わりに資金を得て事業の実現を達成するのです。

VCはお金の出し手であるLPと、リスクを見極める仲介者のGP、そして起業家によって成り立つイノベーションを実現するためのエコシステムなのです。

(まとめ)
GPの仕事は「美味しく」感じますが極めてハードな仕事です。少数精鋭で有望な投資先を掘り起こす日々。可能性ある企業のリサーチと投資先のCEOとの面談。毎年に数百人とのCEOとの面談から50社程度の企業とタームシートを使って投資額とシェアの割合を交渉。運良く投資できる企業は年に数社から10社程度。その後も資金面以外の支援を提供してリターンを得られるように支援するのがGPの役割なのです。


(過去の記事)
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