新規事業の旅76 TAM・SAM・SOM

2023年9月13日 水曜日

早嶋です。

ベンチャー界隈のイベントやピッチを見ていて感じる。なんとも言えない違和感。イベント感があり業界を盛り上げるのは良いのだが、一方でそれをどの程度本気で取り組むのか、あるいは取り組んでいるのかが謎なのだ。モヤモヤする。

スタートアップや新規事業を立ち上げる際に、TAM・SAM・SOMを算出する。TAMはTotal Addressable Marketで、ある事業全体の最大のポテンシャルで、2次データを中心に規模を想定する。SAMはServiceable Available Marketで、実際に想定する事業で獲得する最大の市場規模だ。ここは1次情報やテストマーケを繰り返しながらある程度の精度を意識して計算する。そして、SOM、Serviceable Obtainable Market。これは実際に顧客にアプローチできる規模だ。SOMを事業の売上目標に掲げることは良くある。

一方で、SAMの5%でSOMは●円規模です、などの表現を度々聴く。が、その先が一切検討されずに、極めて雑多な感じを受けるプレゼンやピッチが多い。顧客のアプローチ方法はさておいて、どのようにプロダクトを作るかの議論が続くのだ。

違和感の正体は、プロダクトリスク(どうやって商品化するか?)の議論ばかりにフォーカスして、マーケットリスク(どうやって販売するか?どうやって継続させるか?)の議論が浅いのだ。どのような理屈で、どのようなメカニズムでその商品が市場を形成していくのかの具体が見えない。ターゲットの反応や想定する顧客のイメージやテストマーケの結果も反映されていない。特に多いのはアプリなどのプロダクトで観察できる。便利そうなプロダクトであるのは間違い無いが、それをどうやって想定するSOMの売上を獲得する顧客にリーチするのかの議論が殆無いのだ。どのような優れた商品であったとしても、顧客がその存在を知らなければ売れないし、知っていても届ける媒体に工夫が必要になる。そして、ここには思った以上に泥臭い。

経営者や経営陣が、実際に泥水を飲みながらプロダクトの開発と共に、プロダクトの販売やマーケティングを実施し、あたりを付けていれば、そのせプロダクトを売るための業界のギャップなり、キーパーソンの存在なり、なにかプロダクトを良くする以外のボトルネックが複数見つかるはずなのだ。そして、その取り組みを思考しながら顧客へのアプローチや思わぬビジネスモデルの緒が見えてきたりするのだ。

すると資金調達の目的も変わってくる。単に、プロダクト開発のためや、議論していないプロモーションの予算を集める行為から、具体的に資金提供者にも動いてもらうアイデアがどんどん出てくる。つまり、資金提供者を選んで、自分たちで不足する資源やギャップを埋める可能性がある企業に自ら近づいていき提案をして、資金も調達するのだ。

起業する際に、いくばくのアイデアと、そのアイデアを形にするチャンス。そして大切なエッセンスにチームがいる。このチームの中に、販売を加速する仲間がいると心強い。単に資金調達をすると同時に、そのギャップを埋めれる企業に近寄り、提携やマイノリティ出資を募り、そのギャップを一緒に解決する提案などを行う人材だ。そのためベンチャー企業といっても、やはり進出する業界に一定の明るい人材を確保するオーガニゼーションリスク(それなりのメンツを揃える)は常に考えて置く必要がある。ただ、開発のように常に社員としている必要はないから、ストック・オプションを提示しながら肝となる活動を行ってもらったりして、そのようなベテラン人材の確保を着々とすすめていくのだ。

北米のVCあたりは、ひよっこベンチャーにも触手を広げるが、一定の業界のマネジメント層や若手で成果を出すビジネスパーソンに日々寄り添い、彼ら彼女らに起業の話を持ちかける。なんてことも当たり前のように行っているのだ。

要は、プロダクトに加えて、マーケティング、組織、そしてファイナンスを揃えながら事業を行っていくのが肝要なのだ。



(過去の記事)
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