早嶋です。
ダイナミックプライシング。これは、需要バランスに応じ商品価格を高頻度に変更する仕組みだ。ホテルや航空業界では1980年頃より導入されている。自由化に伴い座席価格を航空会社が管理できるようになり、米国航空会社は季節や休祝日などの座席需要にあわせて価格を変化させたのが始まりだ。
この動きは、欧米を中心に広がった。ツアー料金、高速道路、電気料金などの商材にも拡大していく。日本では、ホテルや観戦チケット、ネット小売業等で導入が進み、ネットの普及とデータ取得が容易になり始め実店舗での導入事例も出始めている。
JALやANA、他の航空業界のチケット価格を見ると、盆暮正月やGW、シルバーウィークなどのチケットが高騰している。ホテルや宿泊業業界でも同様だ。ゴルフ場などでもシーズンによってプレー料金が異なっている。ここに対して大っぴらに文句を言う顧客はすくない。一定の文化として定着しているのだ。
USJは2019年頃よりダイナミックプライシングを導入し始め、細かな価格変更の導入で収益を改善している。アパホテルは立地条件毎に近隣のイベントとリンクして金額を瞬時に細かく設定する仕組みを取り入れている。例えば、近隣のホテルが1万円の部屋しか空きがなくなったことが分かれば、自分たちのホテルの部屋を1万1千円に値付けし販売するのだ。
手法は、航空業界や他の宿泊業界と変わらないのに、頻度や粒度が一定の顧客から不満の対象になっているのは事実だ。しかし、USJもアパホテルも需給バランスを近年のデータ分析の技術を活用し超合理的に実現している事例に過ぎない。当然に、固定費かさむ事業モデルで空気を貸すよりは安く提供するし、可能性が高い場合は高値で交渉することで収益を最大化できるからだ。
ホテル、飛行機、アミューズメント施設等々。一定時間に一定人数しか利用が出来ない設備投資型の事業は固定費が大きく、利用客がいない場合も、一定の固定費を負担しなければ事業が成り立たない。そのため需給バランスに応じながら価格をダイナミックに調整することで営業利益を最大化することができるのだ。
ここまで読んで顧客のことを考えていないのではと思う方もいるだろう。しかし顧客は一般的な言葉になったが企業における顧客はあくまで企業が定義した顧客だ。全ての市場にいるポテンシャルを顧客としているのではなく、その中から絞った一定の顧客を定義しているのだ。
例えば、従来の顧客は価格が一定だと思っている。あるいは、盆暮正月は高いが、普通の日に、隣の街でコンサートがあるから急に値段が上がるなんて。。という状況には嫌悪感や不信感を感じる顧客も居るだろう。一方で、金額に関係なく、その立地条件で一定のサービスを常に受けたい顧客もいるだろう。どちらの顧客が正しいかといえば、どちらも正しいのだ。
ダイナミックプライシングはまさに戦略だ。正しいか間違いかの判断はない、合法だし、合理的だ。しかし自社がターゲットにしている顧客にその合理性を説明して受け入れてもらうことができなければ導入できないだろうし、全てにいい顔をしてきた企業は到底意思決定はできないのだ。
戦略は正しい、間違いの判断を追求するのではなく、する、しないを決定する取り組みなのだ。このように考えたら日本企業、しかも固定費を沢山かかえて事業をおこなう取り組みを行っている企業の多くはダイナミックプライシングの議論をしたとしても、結局は意思決定できずに、業界全体の様子を見ているろころだろう。一部の意思決定できる企業のみが導入して、まさに先駆者的な益を獲得しているのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
2023年12月 のアーカイブ
新規事業の旅89 ダイナミックプライシング
新規事業の旅88 よく見る風景
早嶋です。
新規事業に関わるかな、比較的規模が大きい組織の中でよく見る景色がある。
・新規事業の方向性を示さない
・新規事業は飛び地を意識している
・新規事業は若手に任せている
・新規事業の担当者が既存事業のことを知らない
・M&Aで新規事業をなんとかできると思っている
(新規事業の方向性を示さない)
経営者の仕事は、事業ポートフォリオをどうするかだと思う。企業が掲げるミッションを達成するために自社のビジョンを示すが、その実現には既存、あるいは将来の事業ポートフォリオをどうしたいかの意志が極めて重要だ。そしてこれらを議論して意思決定することそのものが企業戦略になる。しかし、企業全体として新規事業を進める分野を絞り、資本をどのくらい投下すべきかの議論をせずに、新規事業に取り組む組織を多数観察している。
(新規事業は飛び地を意識している)
アンゾフのマトリクスがある。顧客や市場と、商品(製品・サービス)や技術を2軸に取り、既存と新規で軸の広がりを表現することで4つの領域ができる。新規事業とした場合、新規顧客✕新規商品のイメージ、いわゆる飛び地の事業を立ち上げる認識をなんとなく持ち取り組む企業が多い。が、うまくいく確率が極めて低い。城跡としては、既存顧客や市場に対して、ちょいと新しい商品や技術を提供することで商品や技術の領域を増やし、次のその取組をちょいと新しい顧客や市場に提案して売上を作るのだ。この行動を継続的に繰り返す中で、一定の時間軸が経過した場合、結果的に新規顧客✕新規商品の飛び地の事業ができているのだ。いきなり飛び地を目指すのではなく、プロセスをクリアにしていくことが大切だ。
(新規事業は若手に任せている)
新規事業だから若い社員の発送に任せたいという気持ちは分かる。しかし実際は、年齢を取った社員はアイデアや発想がなくて諦めている、若手よろしくね。的な丸投げにも聞こえる。しかしもし若手が新規事業を行うような要件を持っているとしたら、そもそもあなたの会社にはいらないだろう。と思うのだ。大きな組織で仕事をするのではなく、自分でベンチャーを始めるか、そのような組織にはじめから入り、能力を発揮しているはずだからだ。
(新規事業の担当者が既存事業のことを知らない)
若手を交えたチームを組むことが多いことにも関係するが、自社の他の事業がどのようなメカニズムで収益を挙げているのかを理解していないチームがあまりにも多い。従い、自社が有する資源を考えないで、まっさらのアイデアを出しまくる。一見よさそうだが、資源を有効活用しても難しい取り組みが、更にハードルが高くなっていることに気がついていない。活用する、しないは別にして、自社の資源や特徴や強みを徹底的に理解することが大切なのだ。
(M&Aで新規事業をなんとかできると思っている)
残念ながらM&Aは、これ以上収益を上げることが出来ないから、出口戦略の一手として売却を考えるのが売り手の発想だ。一部、成長過程において、安定株主のもと資本を入れてもらい成長を加速したいと考える売りては確かにいる。が、そのような企業は成長期の事業をバリバリ行っていて、普段からベンチャーや様々な資本家とやり取りをしている企業だ。それ以外の普通の事業会社がM&Aで新規事業を仮に変えたとしても、とても高い金額になるし、買ったあとのマネジメントができないので、M&A後、企業価値を落とし負ののれんの償却をする始末になるのだ。
新規事業を始めるためには、少なくとも自社のポートフォリオをどうするかを明確にして、新規事業の領域を企業として戦略的に決めることが最低限必要だ。その上で、自社で行う部隊、提携や資本提携を進める部隊、そしてM&Aを進める部隊の3つの手法を連携しながら進めていくのがポイントだ、。どれがあたるか分からないので、新規の立ち上げに対してもポートフォリオを組むのだ。そして、一定の期間で使える予算を確保して、丹念で使うのではなく期間で使えるような柔軟な資本を準備する。加えて、新規事業に携わる人財の評価を既存と分ける。一定期間の関与度合いに応じて、新規の評価を行うことがポイントだ。単年度や四半期で成果がでないからだ。
(過去の記事)
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自分ごととして受け止めて行動する
早嶋です。
今朝の日経で「複雑で分かりにくい防災気象情報を整理するため、気象庁が情報の名称や分類を見直す」なる趣旨の記事があった。
気象庁等、国が国民に情報提供する際に、様々な警報レベル、名称呼称があり、複雑でわかりにくいという親切心からだ。災害が増加し、被害が拡大する中(※1)、5段階に警戒レベルを分けて再編するという趣旨だ。
疑問だ。
国民の言い分としては、「毎回、災害が派生し、50年に一度とか、10年に一度とか言うけど、また?」と思っているのだろう。
国の言い分としては、「情報発信もしているし、適切に行動してね!」と言って、言い訳をしたい気持ちもわかる。
が、結局は自分の命は自分で守る。家族の命は家主が守る。など、自己責任で自己判断で動けない国民が増産していること事態に疑問を持つべきだ。誰かが言ったから行動するという無責任な状態は異常だ。災害レベルを見て、これはヤバいと思ったら、他人様に迷惑をかけずに自分の身を守るのが基本だと思うのだ。
今回のように、複雑な情報を集約して単純化すると、「単純すぎて分からない」となり、数年後に再び細分化される行動をとることが予測できる。自治体や政府もいい加減、自分で考える取り組みを示すべきだ。
と主張しても、大多数は疑問をもたない状態が常態化しているのだから、根本的な解決は非常に難しいのだ。
※1:我が国おける自然災害の状況 政府
フォロワーシップを実践するためのポイント
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは「フォロワーシップを実践するためのポイント」です。前回はフォロワーシップについて解説しましたので、今回は実践編です。
まずフォロワーシップについて、改めて確認しておきましょう。
フォロワーシップとは、「チームの成果を最大化させるために、自律的かつ主体的にリーダーや他メンバーに働きかけ支援すること」と定義しています。リーダーからの指示・命令で動くことに加えて、チームメンバーに積極的に関与することが求められています。またフォロワーシップはメンバー全てに求められます。(特にサブリーダーやNo.2に、というわけではありません)
フォロワーシップを実践するためのポイントは、大きく2点あります。
1点目は、「リーダーにも限界がある」ことを理解しておくということです。
リーダー(例えば、社長や部長、課長など)と聞くと、「経験豊富で知識がある」、「言っていることに間違いがない(少なくとも自分より)」、「あらゆる場面でチームを正しい方向に引っ張ってくれる」と思いがちではないでしょうか。しかし、変化が激しく価値観が多様化する現代においては、リーダーだけでいつも正解を導けるかと言うと極めて難しいと言わざるを得ません。以前上手くいった方法が、今回も通じる確証などないのです。
よって、フォロワー(チームメンバー)はそのような時代背景を踏まえ、リーダーの能力にも限界があることを理解する必要があります。その上でチームの生産性を上げるために適切にリーダーを支援していくという姿勢が求められます。
2点目は、健全な批判や提言ができる力を身に付けることです。
前回解説したクリティカルシンキングを行う力です。組織やリーダーの意思決定に対して「それは本当か?」「それがベストな選択か?」「問題の本質は何か?」「他にはないのか?」と、あえて批判的に考えてみることを常に実行することが重要です。
クリティカルシンキングは、単に否定をすればいいということではありません。批判的に考えてみる、別の視点でとらえてみることで、思い込みや感情に流されることなく物事を客観的に判断し、適切な提言を行うことができます。
この2点を実践することができれば、フォロワーはリーダーに対して、パートナーシップの関係を構築することができるようになります。パートナーシップこそが、フォロワー(全てのチームメンバー)の目指すべき役割です。
「ザ・フォロワーシップ」の著者であるアイラ・チャレフは、「リーダーがフォロワーの行動や業績に責任を負うように、フォロワーもリーダーに対して責任がある。リーダーを支え、必要があればリーダーの行動を修正する。それがパートナーシップの関係である」と述べています。
そのために、フォロワーシップには勇気が必要です。責任を担う勇気、役割を全うする勇気、異議申し立てをする勇気、改革に関与する勇気、倫理観に従う勇気です。
全てのチームメンバーがこの勇気を持ちたいものですね。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
女性活用推進:女性活用
安藤です。
今回のテーマは、「女性活用推進:女性活用」についてです。
民間・行政共に “女性活躍推進” をテーマとして、女性対象のキャリアデザイン研修、キャリア開発研修、また、管理者対象のアンコンシャス・バイアス研修依頼が増えています。
研修を担当させていただいて、着実に成果がでている組織とそうでない組織の差が明確です。成果を挙げている組織は、着実に制度活用・労働者が働きやすい仕組みについても柔軟に変化しようとしている点です。成果がない組織は、“研修のみ実施”で終わっています。
研修前に事前にテーマに合わせてアンケートにてヒアリングしていきますと、その組織の課題点が明確に示されています。その課題に向けての取組を、組織内の担当者及び経営側がどう捉え、組織の繁栄に活かすのかは年度目標として意識改革だけでなく、課題解決に向けての取組を中長期視点で前向きに計画立案と実践の有無が“鍵”のように感じています。
さて、今回は、改めてなぜ、“女性活用” が必要なのかと現時点での実態についてお書きいたします。
復習を兼ねて整理をしていきます。まず、”女性活用” が必要な理由は、4つです。
① 人口減少社会に伴う人手不足
② 女性の能力の発揮
③ 投資家からの目線
④ 企業業績の向上
女性活躍推進に向けた取り組みについては、まずは、目標の設定と現状把握です。どのような項目で目標をたてるべきか?については、人的資本経営の情報開示記のような事項を参考にされると良いかと存じます。
例としては、①属性別の社員・経営層の比率 ②男女間の給与の差 ③正社員・非正規社員等の福利厚生の差 ⑤育児休暇等の後の復職率・定着率 ⑥男女別家族関連休暇取得社員比率 ⑦男女別育児休暇取得社員数 ⑧男女間賃金格差を是正するための事業者が講じた措置があります。
目標の設定と現状の把握がわかれば、そのギャップを確認し、目標設定に至るまでの課題の把握や必要な対応について考えます。例)としては、多くの企業では、女性管理職の少なさや妊娠・出産後の退職率の高さなどが問題になっていますが、要因としては、一つだけでなく多くの理由がある場合があります。それが職場風土に表れています。例えば、①マネジャー層の理解不足 ②柔軟性のない働き方 ③女性従業員自身のモチベーションの低さ等。正しく課題を特定するためには、女性従業員の抱える不満や不安を正確に理解し、ニーズを聴きくみ取ることが必要になります。
【参考資料】
・総務省 令和4年労働調査、厚生労働省 令和4年度雇用等基本調査、世界経済フォーラム
内閣府 ジェンダー投資に関する調査研究報告書、内閣府 人的資本可視指針厚生労働省
【動画】経営者視点を持つ次世代リーダー研修
※本ページは、経営者視点を持つ次世代リーダー研修の参加者向けのページです。
(Day3後の参考動画)
Day3で議論した組織人事に関するインプット動画です。必要な方は視聴ください。
組織と人事
組織構造
人事システム
組織人事の課題
(Day2:11/2までの事前課題)
今回は、動画の視聴とDay1の事後課題に取り組んでください。
1)動画視聴
Day2の研修日までに、以下の動画を視聴ください。Day1のときに、物事を理解する一歩は、分解、比較、という話をしています。こちらの動画(論理思考の基礎)は、まさにその概念を話しています。
論理思考の活用
問題解決思考
ゼロベース
モレなくダブりなく考える
仮説思考
2)Day1の事後課題
Day1で議論した内容を活用しながら、『日本一』を実現するためのギャップ(問題)を整理してください。フォーマット等は自由です。Day2の午前中に、各自のワークを発表して頂きます。
(Day1:9/1までの事前課題)
Day1の研修参加日までに、以下の動画を視聴ください。
戦略思考の基礎1_戦略思考
戦略思考の基礎2_全社戦略
マネジメントの基礎6_不確実性
パスワードは別途事務局の指示に従ってください。
新規事業の旅87 無線給電
早嶋です。
東芝は12月5日に、マイクロ波を使い非接触で電力を給電するシステムを開発した。
(概要)
– 離れた場所に無線で狙いを定めて電力供給が可能
– 周辺で使用している無線LAN(Wi-Fi)通信と干渉しない
すごい技術だ。電子化が進む中、充電は常に課題に挙がっていた。この技術は、工場の製造現場や物流倉庫などにおけるDX可を更にすすめることになる。センサを付けてデータを取得してサーバーに送る際、各センサに電力を供給する必要があった。バッテリーか有線で電力を供給する必要があるため仕掛けが大掛かりになる。それが、今回の技術を活用することで、設置が非常に簡略化される。ありとあらゆるデータを連続的にクラウドにためてデータを解析する仕掛けが飛躍的に高まることが分かる。
IoT同士のデータは、10m以内であればBluetooth等で通信が可能だ。クラウドに送信する場合は、短距離の無線規格で情報を端末に集約して、その端末からクラウドに通信を行うなどの工夫をすると通信代も節約できる。この手の技術は別分野で進んでいる。
今回の東芝の技術が世の中に実装されるのは法的な整備を見て2025年頃になる。工場、物流、農業、医療、教育、道路交通、インフラ等々、ありとあらゆる業界でデータ化が当たり前の世界が日常になり、リアルタイムで現状を把握し、将来をシミレーションする世界がやってくる。
ワクワクするね。
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