新規事業の旅19 モノからコトへ転身できない企業

2022年9月29日 木曜日

早嶋です。

韓国製の兵器を購入する国が増えている。21年の防衛産業輸出額は70億ドルで前年の倍増。22年は100億ドルを超える資産だ。背景は綿密に各国の市場を調査して徹底したオーダーメイドを行う輸出で商機を掴んでいることだ(22年9月29日日経新聞参照)。

方や日本は防衛産業から撤退する企業も増えて折、国防の観点からも14年から輸出に取り組んでいる。しかし成約は未だに一桁台。指示通りに造ったモノを販売するという体制が垣間見られる。

同じくインドネシアのEV市場。ガソリン車で花咲いた日本の影は薄く今年の1月から8月のEV販売シェアは上汽通用五菱(中国)と現代自動車(韓国)で2分している。最も日本勢は東南アジアでのEV普及には時間がかかるという推測から米国と中国市場にフォーカスする戦略を取った結果とも言える。しかし、一方でインドネシアのガソリン車市場は、トヨタ3割で他ダイハツ、ホンダ、三菱で9割を占める勢いだ。中国と韓国は次のEV車に目を向けてゲームチェンジャーとして動いているとも伺える(22年9月29日日経新聞参照)。

上記2つの事例は、ハードを得意とする日本が他国に追い越されている状況をしめしている。この現象は国内メーカーに於いても観察できる。ハード主体からソフトに転向しようとする意思は示しているものの実際は全く何も出来ていない状況だ。例えば、「モノ売りからコト売りにシフト」とか「ソリューションカンパニーへの転身」等をうたっている企業も同じ状況だ。

ハード産業、モノづくり産業は、部分の調達や組み立てに微妙な現場のクセやノウハウが必要な産業だ。そのため商品化するまでに長い年月をかけて日々調整するというのを繰り返してきた。当然、そこにまつわる設備投資も大きく、10年、20年のスパンで設備を使用することを念頭に仕事をしている。投資の単位も、細かい調整の単位も、取引先との関係構築も、現場のエンジニアの育成も長い時間をかけて今を作っているのだ。

そこにオープンネットワークやオープンテクノロジーと言われても、関係性も無い企業が作った仕組みなど鼻から信用していない。知らない企業が作った商品は、規格があっても全てゼロから品質保証が調べる体質になっている。そこをクリア出来なければ自社の仕事の流れに組み入れられないのだ。ハード屋として市場に出した後の失敗は許されない。全て完璧な状態にして提供しなければ信用を失うと考え、ソフトのバージョンアップで使用体験を向上するなどの提案を一切受け入れないのだ。

そこにきて、トップは「モノ売りからコト売りにシフト」とか「ソリューションカンパニーへの転身」とか言い始めた。昔のように作れば売れた時代ではないので、方針は正しい。皆アップルのようにハードを提供し、利用者の状況に応じてソフトを提供する。適宜使っていただきながらバージョンアップを繰り返すイメージを抱いている。テスラのように、提供したハードの仕様を高めるソフトを販売後も提供するようなビジネスモデルに憧れを抱いている。

しかし出来ない。上述では、モノづくりの部分にフォーカスしたが他の理由もある。未だに自分たちをメーカーと称している通り、研究・企画・開発して製造した後の仕事の流れを小会社や孫会社、委託先にお願いしている企業が多い。そのため、下流に位置するエンドユーザーが何を考えていて、実際にどのように商品を使っているかを把握する手段が無いのだ。

仮に、ハードを売って、その後のソフトを提供する中で顧客体験を高める仕組みを持っていても、間に入る業者や小会社の調整が出来ず、商流の調整と情報の流れを全く管理出来ていないのだ。

少し考えて見たら分かるものだがそれが出来ないのだ。なぜだろう。「モノ売りからコト売りにシフト」とか「ソリューションカンパニーへの転身」とか言って現場の部隊を動かしているオジサンやオバサンたちは、どっぷりモノを作れば売れていた時代に社会人の基本を叩き込まれている。トップが変えようとしている概念は、実は会社を全く違う仕組みにすることよ。そのため、ビジネスモデルをゼロから見直し、組織もゼロリセット。従来の取引先や顧客へのアプローチも、みーんな全部まるごとガラガラポンすることだよ。ということを全く理解していないのだ。

だからソフト主体として、コト売りに成功している企業の多くは、起業して10年、20年の若い会社が多く、彼らからしたらその仕組やビジネスモデルが当たり前で、ハード企業や物売り企業の苦しみが実は良く理解できないのでは無いかと思う。

生きる道は2つ。自分たちで「モノ売りからコト売りにシフト」とか「ソリューションカンパニーへの転身」なる転換を諦め、最も活躍している企業のハード専業になる。か、今のオジサン、オバサンに与えた権限を全て剥奪して入社した5年から10年の、脂が乗った社員に舵取りをさせてガラガラポンすること。なのではないでしょうか。

新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり



コメントをどうぞ

CAPTCHA