新規事業の旅65 高齢者をターゲットにした事業

2023年7月28日 金曜日

早嶋です。

高齢化問題。今後の日本がこのままでは心配ですね。確かにそうですが、視点を変えるとシニア市場は数少ない成長産業であり、彼ら彼女らが保有する金融資産を動かすことができれば、莫大な事業が可能になります。チャンスと捉えた場合、まだ本気で参入している企業はほんのわずかな市場でもあります。

国内では、総人口が減少する一方、65歳以上の人口が約3,600万人と過去最高を記録し、高齢化率でも世界一を誇ります。その超高齢化社会を社会問題として捉える報道は日夜続きますが、一方で数少ない成長ビジネスとして捉える企業、組織、団体、個人はまだ少ないです。

(日本の高齢化の現状)
2020年の日本の総人口は12,571万人で65歳以上は3,619万人でした。高齢化率は28.8%。65歳以上の高齢化率は日本が1位で2位はドイツの21.7%、3位はフランスの20.8%です。日本が世界に先駆けて高齢化社会を迎えています。

日本の高齢化の特徴は、65歳以上から90歳の人口が一定以上の人口があり、2020年と比較しても2030年の予測では減らない、むしろその数が会増加することです。そのため更に高齢化率は伸び、2030年は約33%になる予測です。

電通「電通報超高齢社会の課題解決ビジネスNo.1」を見ると、超高齢化社会の課題は、「消費高齢化」「労働力減少」「社会保障費高騰」「過疎化進展」「コミュニティ希薄化」「単身世代増加」「高齢者の詐欺、事故等のトラブル増」などがあります。そして、個人の課題としては、「歩行・動作困難」「感覚機能低下」「認知機能低下」「日常生活の困難」「社会的な孤立」等が考えられます。しかしこれらは、全てが問題解決の機会であり、経済低迷が続く日本には珍しいくらい、数少ない成長産業と見ることができるのです。

(シニア層の実態)
サントリーウェルネス「実感年齢白書2022」では、49歳からが「おじさん/おばさん」で、約62歳からが「シニア」のイメージ。「おじいさん/おばあさん」は69歳からで、「お年寄り」は約73歳からのイメージでした。従い、高齢化のターゲットの呼称はシニアとした場合が適切とし、以降シニアと表現します。

高齢化と捉えると、上述のように様々なマイナスのイメージがあるでしょうが、実際に身近なシニア(62歳以上)を想定してみてください。実際は、スマホも使えるし、ネットショッピングも、運動も普通以上に元気な方が多いことに気が付くと思います。

実際、各種調べを見てみると、77%のシニアはスマホを所有。23%がネットショッピングを活用。60代の7割、70代の4割がLINEを活用しています。更に労働の意欲も高く62%が働けるうちは働きたいと考えています。そして3人に1人の割合でお一人様です。そのためか75%のシニアは盆暮正月以外にも孫と会うための工夫やきっかけつくりを行っています。更に、五輪選手や身近な知事をTVの前で応援する「推し活」ならぬ、親子目線で自分の一押しの人に情熱を注ぐ活動を行っています。

実際、シニアの特徴は子育てや仕事が落ち着き、金銭的にも余裕が出てきたため、昔あこがれていた趣味や購買、旅行にもお金が時間をかけやすくなっています。

車ではBMWのMINIが人気で憧れの外車のエントリーカーとして親しまれています。バイクでは若い頃手が届かなかった高額のバイクや排気量の大きな機種が人気です。それからプロ以下アマチュア以上のスキルを持つ方々が多く、カメラや動画の編集など、自分の趣味を活用したボランティアや小遣い稼ぎに没頭する方も増えています。この特徴はあくまでも時間を楽しみ、社会に役立つことが目的なので、若手のクリエイターからするとある意味恐怖な存在です。

(シニアのセグメンテーション)
一言でシニアと言っても、実はかなり様々な傾向や特徴があります。これは凡その年代によって分けることができます。

85歳以上のシニア。戦前の生まれの方々で戦争経験者です。現在半数が介護認定者で両親は明治大正生まれです。終活、相続、介護、嚥下などが注目する市場になります。市場規模は約750万人です。

75歳以上のシニア。戦争を知る世代で学生運動が盛んな時代を過ごしています。約3割が介護認定者で三種の神器がTV、冷蔵庫、洗濯機でした。シニア住宅、資産形成、終活、国内旅行、健康食品などがキーワードで市場規模は約1,300万人です。

72歳から74歳。少し細かいですが段階の世代です。高度成長経済とマイホーム神話で日本を支えてきました。実に95%以上が現役バリバリの元気な方々です。健康、旅行、資産形成など市場としても魅力的な620万人です。

60歳以上。ここがポスト団塊と呼ばれ、約2,000万人の市場規模です。家電など物欲があり、朝ドラ、専業主婦、仕事人間、ジャンプ創刊、首都高開通、リタイア後の人生を志向中という状況です。起業や就労、社会参画、長期滞在mリゾート、海外、若さなどが刺さります。

そしてシニア予備軍のバブル世代。53歳から59歳です。1,200万人の市場規模です。徐々に生活が楽になり、まさに消費意欲が旺盛で、若い時のポップカルチャー、スキー、ジュリアナを憧れ、仕事半分遊び半分の充実生活を掲げて経済に活気を与えています。

(シニアビジネスの本命は埋蔵金にあり)
日本の家計金融資産の総計額は約2,000兆円にも上ります。そして約6割がシニアの所有です。金額にして実に1,200兆円です。上述のシニアのセグメントで見ても様々な需要があることが鑑みれます。

生活関連では、就業支援、住み替えやリフォーム。移住支援やレジャー、エンターテインメント、フィットネスや旅行に金融です。

医療・医薬関連では、医療品、医薬品、診断機器、医療関連サービス、リハビリ、メンテナンスなどです。

介護では、家事支援、介護施設、介護食品、介護用品などがあります。家庭の支援から考えると、非常に膨大なマーケットとして捉えることができますね。

そして、特徴的な分野はエンディングです。終活、生前葬、葬儀などは無視できないマーケットです。

(シニアビジネスのポイント)
統計的な情報だけを見た場合、明らかに成長産業です。しかし一方で、巨大な成長産業にも関わらず、シニアビジネスを上手く取り入れていない企業が多いです。その問題は、シニアの実態の理解が不足していることが問題です。事業を行う場合は、やはり社会課題として捉え、儲けばかりを考えないでシニアを満足させることにフォーカスすべきです。それからシニアビジネスは介護だけではなく、上述のシニア予備軍で見たように、長い人生フローを鑑みた設計が大切になるのです。

シニアが使えるお金の殆どを貯蓄に回して、実際に使うことなく天国に行く最大の理由は、日本の将来を誰よりも不安に思っているからだと思います。そこでシニアの目線になった老後の不安が何か、それは妄想か、事実かを理解して寄り添うことが大切です。そしてシニアの心理的なバイアスを取り出すこともポイントです。我々世代で理解しにくい悩みや不安や葛藤などをもっと研究して、セカンドライフの充実や人生の仕舞い方の手助けをする。そしてシニアの購買行動と意思決定のプロセスをもっと研究する必要があります。ポイントは安心して消費頂く工夫です。

それからシニアは80代、90代の介護だけではありません。50代をプレシニアと捉え、62歳のシニアから100歳前後の節目に向けて、全体の流れの中にシニアの事業を提供することです。そのように捉えるとシニア事業として取り入れる可能性の余白が限りなく広がることが分かると思います。



参照:
内閣府「令和3年版高齢化白書」
日本経済新聞 2022年3月27日の記事
日本銀行「資金循環統計」


(過去の記事)
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