
公務員のマネジメントに思う
2025年8月27日
早嶋です。
5年ぶりに、運転免許の更新に行った。場所は昔からあった、ゴールド免許センターが移転になっており、少し探した。しかし、会場の雰囲気は相変わらずだ。どことなく病院のような、役所のような、そういう空気をまとった空間。朝から多くの人が並び、流れ作業のように各ブースを回る。だが、ふと感じた。
「これ、20年前と何も変わっていないのではないか?」
案内の通知はハガキで届く。ハガキには、自分の講習区分や持ち物、手続き場所などがびっしり書かれている。ところが、このハガキには優良運転者も違反者も同じような説明が書かれていて、正直読みづらい。そして、予約は別途QRコードを用いてWebで取るのだが、その際にまた免許番号や生年月日などを手入力する必要がある。すでに本人宛てに通知を送っているのに、なぜここでまた本人確認のような手続きが必要なのか。
そう感じて、改めて一連のプロセスを観察してみた。
受付で紙のアンケートを記入し、窓口で手数料を支払い、視力検査を受け、30分の講習を聞く。最後に免許証が交付される。もちろん、ところどころに機械で読み取って、印字するなどの流れは改善されているが、トランスフォーメーションが起きていない。むしろ、マイナカードやQRコードといった要素が中途半端に入り込んだことで、むしろ余計に煩雑になっているようにも見える。
そもそも、なぜ免許更新の制度は、3年や5年という定期更新が原則なのだろう。安全運転をしているかどうかを定期的に確認するという意味では合理的かもしれない。だが、今は違う。すでに、過去の違反履歴や事故履歴、さらには運転スタイルに関するデータまで蓄積できる時代だ。であれば、更新の間隔は一律でなくてもよいはずだ。
たとえば過去10年間一度も違反や事故を起こしておらず、安全運転を続けている人には、10年更新でもよいだろう。一方で、違反が多かったり、事故歴があるドライバーには、1年から2年おきの講習とチェックを義務づける方が合理的だ。実際、そうしたデータドリブンな設計は保険の世界では当たり前になってきている。
また、高齢者についても同様だ。日本では70歳以上になると免許更新は3年おきに固定され、75歳以上になると認知機能検査が追加される。だが、年齢だけで一律に判断するのは、フェアではないと思う。80歳でも日常的に運転をしていて、認知能力も身体機能も保たれている人もいる。逆に、70代でもリスクが高い運転者もいる。重要なのは「年齢」ではなく、「能力」だ。
さらに言えば、「更新」という概念自体をパッケージで考えるのではなく、分解してもいいと思う。たとえば、運転に支障がないかの健康チェックは年1回、講習はオンラインで2年に1回、免許証そのものの物理更新は10年に1度。そんなふうに、要素ごとに柔軟に設計することだってできる。
こうした仕組みを支えるのは、もちろんデータだ。だが、そのデータはすでに持っている。警察も、行政も、保険会社も。あとは、それを使っていい制度設計に変えるかどうか。つまり、マネジメントの問題だ。しかし、公務員にはマネジメントの概念が損沿いしない。現場が悪いのではない。構造が、変えるインセンティブを持っていないからだ。
前例通りに粛々と手続きを回す方が、評価され、責任を問われずに済む。そこに改善やUXといった概念が入り込む余地は、あまりない。でも、それではもう通用しないと思う。マイナンバー制度を導入し、デジタル庁まで立ち上げた今こそ、行政の体験設計を抜本的に見直すチャンスだと思う。免許更新という、日常の些細な体験だが、社会全体の制度設計が滲み出ている。変えようと思えば、変えられる。誰でも同じような思いがあり、おおくの場合、解決策も見えている。テクノロジーは十分にあるのだ。
新規事業の旅208 SHEIN制裁が映し出す規制機関の存在論
2025年8月22日
早嶋です。約3700文字です。
(SHEINとACGMによるGreenwashingの概要)
中国発のファストファッションプラットフォーマーSHEINは2024年9月、イタリアの競争・市場保障局AGCMにより「環境に優しい」とする表現が、正確でなく、気を起こさせるものであるとして調査対象となった。
問題は「evoluSHEIN」コレクションなどで用いられた「リサイクルコットンの原料を使用した」「環境に優しい素材」などの文言だ。更に、実態や範囲を明示せず「素材の5%だけがリサイクル」といった例もあるのに、商品全体が環境配慮型であるかのような表現がされていたことだ。また、SHEINは2030年までに温度加減排出量を25%減らす、そして2050年までにネットゼロを達成すると宣言している一方で、実際には2022年から2023年間に排出量が増加していたこともAGCMの評価の一因となった。
結果として2025年8月4日、SHEINに対して100万ユーロの制裁金が科された。AGCMはその重要性を語り、「ファストファッションという高い環境負荷を持つ産業に属するなら、より高い責任が必要である」としたのだ。
(SHEINは欧州ファストファッションからの制裁の対象か?)
素直にニュースを受け止めないのが私の悪い癖だ。この制裁は、「エスタブリッシュメントからの排除メッセージの可能性が無いかな?」と思ったのだ。実際にSHEINはプライスでライバル会社の1/3程度で販売し、若者を中心にシェアを拡大している。確実に欧州ブランドにとって強い脅威なのだ。
しかし、諸々調べると中立な期間だった。委員は内閣からではなく議会によって選任される仕組みを持つ。そのため、政治的な意図や企業からの圧力に左右されにくい構造で、制度的に中立性・公正性が強く担保されている。また、調査・制裁の実施過程では公開された年次報告や第三者監査を通じて透明性が確保されており、制度的ガバナンスの水準は高い。
実際に、AGCMは国内外の主要ファストファッション企業に対して同様の基準で調査を行っている。その一例として、H&Mに対する「Conscious」コレクションの問題を見るとわかりやすい。このコレクションでは、商品タグに「持続可能な素材を使用」「高級なオーガニックコットン使用」などと記載されていたが、AGCMはその根拠となる具体的な割合・認証基準の不明瞭さや、検証可能性の欠如を問題視したのだ。また、同シリーズの一部商品が、従来品とほぼ同じ素材構成であるにもかかわらず価格が上乗せされていたことから、消費者を誤認させる不当表示に該当する可能性があると警告を発した。これによりH&Mには自発的な修正と情報開示の強化が求められた。
このような事例は、AGCMが特定のブランドを標的とするのではなく、市場全体に対して一貫したルールの適用を目指していることの証左といえる。
(ラグジュアリーブランド寄りの可能性は無いか?)
今度は、逆にファション全体に対して視野を広げて疑ってみた。SHEIN以外のファッションブランドに対するAGCMやEU、そして各国の規制当局による調査事例を見ることで、公平性を評価することができると考えたのだ。
たとえば、イギリスの競争・市場庁(CMA)は2022年、ASOSおよびBOOHOOに対して「サステナブル・コレクション」と題した一連のプロモーションが、消費者に誤解を与える可能性があるとして調査を開始した。具体的には、両社が展開する「Responsible Edit」「Ready for the Future」といったコレクションにおいて、素材の実態や選定基準が曖昧で、特に「リサイクル含有率が20%から25%にすぎない商品」に対しても「サステナブル」と称する表現が使われていた。さらに、独立した第三者認証が明示されていないにもかかわらず、環境に優しいという印象だけが強調されていたことも問題とされた。
このような手法は、あたかも企業が環境負荷の軽減に真摯に取り組んでいるかのような「グリーンイメージ」を演出し、いわば「意識の高い消費行動を装う」ためのマーケティングであったのだ。これに対し、CMAやAGCMは「消費者に誤った選択をさせるおそれがある」として、情報開示の明確化と根拠ある表示の徹底を求めた。
さらに、イタリア国内の例としては、Giorgio Armaniグループに対する措置が挙げられる。同社は「倫理と社会的責任を重視している」と繰り返し発信していたが、AGCMはその主張とサプライチェーンにおける実態との乖離に注目した。具体的には、南アジア地域の縫製工場における長時間労働、低賃金労働が報告されており、これが「エシカル・ファッション」を掲げる同社の広報姿勢と矛盾していると指摘された。この件に対しては、是正勧告とともに数十万ユーロ規模の制裁金が科されている。
これらの事例は、AGCMや他の欧州規制機関がファストファッション企業だけでなく、ラグジュアリーブランドに対しても同様の基準で監視を行っていること、そして市場全体に対して公平な規制を意図していることを示している。
(規制機関や組織の存在意義と役割についての考察)
規制機関や組織は、自らの存在意義を、一定の「成果」で示そうとする傾向がある。その成果は、調査件数や制裁金の総額といった数値で測られ、結果として次年度の交付金や予算規模の判断材料となる。
経済学者ウィリアム・ニスカネンは、官僚組織が自らの予算と存続を正当化するために、意図的に活動を拡大する傾向があると指摘した。これは「自己目的化する制度」の典型で、規制当局もまた、その例外ではないと思う。継続する制度は、むしろ問題が継続して存在することを必要とするという、逆説的な構造を内包する。
つまり、問題が過度に解決され、平穏な状態が長期化すると、これらの組織は自らの存在理由を見失いかねない。制度の維持と正義の実現が乖離するリスクがそこにあるのだ。
この構造に対して、フランスの思想家ミシェル・フーコーは、「視る者の権力」という概念を通じて、近代社会が制度と監視によって人間の行動や思考を形成していく様を描き出した。病院、学校、監獄、軍隊などの制度は、単なる管理装置ではなく、「規律と訓練」によって人間を構築する働きを持つ。その視点に立てば、正義の名を掲げる制度が、実のところ制度が制度であり続けるための装置として作用していることも理解できる。
また、歴史的に見ても、正義を名目とした制度が「義を対象化」し、最終的に「制度のための正義」へと変質する構図は繰り返されてきた。たとえば、フランス革命後に設けられた革命裁判所は、「人民の敵を裁く」という大義を掲げて設置されたが、次第に裁くこと自体が制度の存在理由となり、ロベスピエールの恐怖政治を正当化する装置へと変質していった。
また、20世紀においては、マッカーシズム期のアメリカで行われた共産主義者追放も同様である。共産主義という「脅威」への対抗という正義の名のもとに、多くの文化人や研究者が「告発されること」自体を目的とした制度的運用の犠牲となった。
このように、制度が一度「正義を執行する主体」として制度化されると、それは次第に対象を管理し続けること自体に意味を見出すようになる。そして、もともとの目的とは異なる軸で正当性を再生産しはじめる。
このことは、規制当局を「必要悪」として捉える観点を導く。不公正な存在であるとは限らないが、その評価には常に「誰が誰を継続的にチェックするのか」という視点が伴わなければならない。ゆえに、規制当局に対する態度は「不要」ではなく、「要監視」である。それこそが、正義を「独占するもの」から「共有され、問い直されるもの」へと転換させる契機となるのだ。
(感想)
今回のSHEINに対するAGCMの制裁から、AGCMなどの機関のリサーチで感じたのは、「正しさ」とは本当に一枚岩なのだろうか、という素朴な疑問だった。
SHEINのマーケティングが不透明であったことは否定できない。しかし、その一方で、消費者意識の高まりや、環境問題の可視化という求められる姿に、彼らなりに応えようとした側面も見える。問題は、その「応え方」が形式や言葉にとどまり、実態とのズレを生んでしまったことにある。
一方、規制当局もまた、正義を行う主体としては「非人格的な制度」である。制度が制度である限り、そこに完璧さはなく、常にどこかに摩擦やズレが生まれる。
SHEINは、急成長するプラットフォーマーとして、時代の要求に応じながらも制度の鋭さに照らされた存在かもしれない。そこに意図的な悪意を読み取るよりも、むしろ「制度と現実の間に立つ企業」がどう在るべきかという問いが残る。
この出来事は、SHEINだけでなく、規制当局や私たち消費者自身にも「持続可能であること」の意味を静かに問いかけているように思う。
【動画】25年度武者修行研修リーダー版
2025年8月21日
※本ページは25年度開催の武者修行研修リーダー版参加者向けのページです。
(Day1)
リーダー版武者修行研修の参加者は以下の事前課題をご準備の上、Day1の研修に参加下さい。
1)「自己紹介シート」の作成
2)「今、自社が注目する 世の中の社会課題、それに関連する事業チャンスの整理」
※上記、1)2)の詳細は事務局に従って下さい。
3)事前動画視聴(PWは別途事務局に従って下さい)
新規事業の基礎 新規ビジネス創造の前に考えること(約35分)
企業の多くは既存事業が成熟、もしくは衰退期です。そのような中、新規事業の開発の意味とは。その中でリーダーはどのような覚悟が必要か。今回、社会課題を解決するワークを行う際の心構えを確認する目的で視聴下さい。
新規事業の基礎 新規ビジネスの基礎(約40分)
新規事業を生み出すための流れを3つのステップで解説しています。アイデアの創造、ビジネスモデル、そして事業計画です。今回、ビジネスの手法を通じて社会課題の解決について、初めて議論する方もいると思います。動画を視聴して、その考え方や取組みイメージを掴んで下さい。
新規事業の基礎 事業チャンス(社会課題)の発見(約21分)
マクロ環境を見渡すことで事業チャンスを見出す場合があります。本動画は、いかに社会課題を見出すかについて理解します。
(Day2&Day3)
リーダー版武者修行研修の参加者は以下の事前課題をご準備の上、Day2の研修に参加ください。
1)セッション1で議論した課題を各グループでワークする。
・事業チャンス ✕ 強み = ビジネスアイデア
※「誰が?」「何に困っているか?」等を工夫して調べ、関係ある方にヒアリング等を行う
・上記のビジネスアイデアの整理目的でピクト図を整理する
2)事前動画視聴
10億ビジネスの創造
こちらの動画の「10億」はあまり意識する必要はありません。ビジネスモデルキャンパスを作る際の流れや考え方を理解する目的で視聴ください。
デザイン思考 試作
デザイン思考の試作(テストマーケティング)についての解説動画です。セッション2では、みなさんが議論したビジネスモデルを検証し、ブラッシュアップするために、試作について議論を行います。その際の参考知識として視聴ください。
DX戦略 DXの創造
こちらはDX戦略の4本目の動画です。今回のリーダー版の参加者は、
1)ビジネスモデルをどのように構築するか?のヒントとして視聴ください。
2)アイデアの出し方で強み✕チャンスについて議論を深めると、Howにとらわれて、「誰の」「どんな困ったことを」について意識が薄れます。ビジネスモデルは、この2つ「誰の」「どんな困ったことを」が極めて重要ですので再度復習ください。
3)その他、ビジネスモデルの課金やアイデアの考え方について説明していますが、流れをイメージする目的で深く理解する必要はありません。参考までに視聴ください。
(Day4)
受講の事前課題
事後課題として、セッション2で議論した(社会課題)のアイデアをブラッシュアップして下さい。
その際、1)ビジネス・モデル・キャンパスの視点を再び議論して深堀りしてください。また、その際に、2)MVPを作成して、実際の消費者や対象層にヒアリングを行ってください。サンプル数はできる範囲で結構です。セッション3では、各チーム25分の持ち時間の中で10分から15分程度、プレゼンして頂きます。3)各チームでプレゼン資料を整理してください。
1)ビジネスモデルキャンパスのブラッシュアップ
2)MVPの作成とMVPを活用した調査
3)セッション3のプレゼン発表資料の準備
上記をすすめる当たり、プレゼンテーションの基礎の動画を参照ください。
プレゼンテーションの基礎 概要編
プレゼンテーションの基礎 プレゼンテーションの流れ編
プレゼンテーションの基礎 準備編
プレゼンテーションの基礎 コンテンツ編
プレゼンテーションの基礎 デリバリー編
また、セッション2のリーダーシップの学びを深める目的で、以下のリーダーシップの基礎の動画を見て振り返りに活用ください。こちらの視聴は任意です。
新規事業の旅207 ソフトバンクがインテルに出資する理由
2025年8月21日
早嶋です。約3000文字です。
ソフトバンクがインテルに対して約20億ドル(約2,000億円)を投資することを決めた。
インテルは、かつてCPUの王者として世界中のコンピューターを席巻した企業だ。しかし、近年はNVIDIAやAMDに押され、AI時代の覇権争いから取り残された存在になっている。そのインテルに、いまソフトバンクが手を差し伸べた。それは単なる資金援助ではない。製造業の復権、トランプとの関係、そして西側同盟の再構築という、背景があると考えた。
(アメリカ製造への貢献・トランプへの布石)
孫正義さんは「半導体はすべての産業の土台であり、インテルは50年以上にわたり革新の信頼できるリーダーだ」と語っている。これは、単なるリップサービスではない。米国政府は現在、CHIPS法を通じて国内製造拠点の強化に躍起になっており、インテルはその象徴的存在だ。そこに、海外から信頼ある資本を注入するという今回のソフトバンクの動きは、米国の政策と足並みを揃えている。
さらに注目すべきは、トランプとの関係だ。過去にも孫さんは、トランプ政権に対して巨額の米国内投資を表明し、政権との関係を築いてきた。2024年以降、トランプが再び政権中枢に戻る可能性を見出した。今回のインテル出資は「次のアメリカ」に対する意思表明のようにも感じられる。
(出資概要と市場の反応)
今回の出資内容は明快だ。出資額は20億ドル、取得株価は1株あたり23ドル。これは当時の市場株価である約23.66ドルとほぼ同水準で、プレミアムはない。これによりソフトバンクはインテル株のおよそ2%を取得し、同社の上位10株主のひとりとなる。
今回の出資には一切の見返りがついていない。取締役会の席もなければ、製品の供給契約や販路への義務もない。あくまで「株主」として、資本注入を行っただけだ。
恐らく、市場はこの動きに敏感に反応したと考える。インテルの株価は7%上昇。一方でソフトバンクの株価は4%下落した。短期的には「儲かる投資」に見えなかったのだろう。しかしこの投資は、単なる株価上昇では測れない、むしろ、AIインフラの未来におけるポジショニング戦略の一部として見ることができると思う。
(インテルの低迷の理由)
AIの台頭とともにGPUへの需要が爆発的に伸びた。その中で、CPU中心のインテルは時代遅れになった、と説明されることがある。だが、実際にはもっと深い理由があると考える。
第一に、インテルはプロセス微細化の競争において著しく後れを取った。10nmプロセスの量産は何度も延期され、結果として5年以上14nm世代に留まるという遅滞が生まれた。その間にTSMCは5nm、4nm、3nmと世代を進め、設計企業は続々とファウンドリへと移行した。
第二に、インテルは自社での製造に固執しすぎた。垂直統合型モデルを守るあまり、外部ファウンドリの柔軟性や最新技術を活用できず、サプライチェーン全体が硬直化した。結果として新製品の市場投入のスピードも著しく劣り、スマートフォン、AI、エッジといった新興市場での存在感を失った。
しかし、この状況を単に「時代の流れ」として片付けるのは不十分だ。同じx86系CPUメーカーであるAMDは、設計に特化してTSMCと提携し、チップレット構造を導入するなど積極的な技術革新を推し進めてきた。チップレット構造(chiplet architecture)」とは、従来の「モノリシック構造、つまり1枚の大きなチップにすべての回路を詰め込む設計とは異なり、機能ごとに小さなチップ(チップレット)に分割して組み合わせる半導体の設計手法だ。ざっくり言うと、1枚岩の巨大チップからレゴのように複数の小さな部品を組み合わせる構造へと変化させることだ。そのチップレット構造を導入した結果、サーバー向けCPU市場でも着実にシェアを伸ばし、今やインテルと互角以上の評価を受けている。つまり、外部環境のせいではなく、経営の意思決定と構造の問題が、インテルの競争力を削いだのだ。
(イノベーションのジレンマだがCPUの重要案役割も)
AIとGPUが市場の主役になっているのは確かだ。しかしその一方で、AIの学習や推論が行われるインフラには、依然として大量のCPUが使われている。汎用性、安定性、価格性能比などを考えると、CPUはまだまだ必要とされる部品インフラだ。
それにもかかわらず、インテルはこの需要に応えることができなかった。その理由は、単に戦略ミスだったわけではない。むしろ、かつてのインテルの成功体験そのものが、変化への対応を鈍らせる原因になった。これは「イノベーションのジレンマ」と呼ばれる現象で、企業が既存のビジネスモデルや技術で大きな成功を収めると、将来的に主流となるかもしれない新しい技術や市場を軽視し、結果として革新に乗り遅れてしまうというものだ。
インテルにとっての成功体験とは、x86アーキテクチャによるCPU支配、そして自社工場でチップ製造まで完結させる「垂直統合モデル」によって築き上げた高収益なビジネス構造だ。この枠組みを崩せば、自社の強みそのものを否定することになる。そのため、AMDが行ったような外部ファウンドリ(TSMCなど)への依存や、x86以外の新しいアーキテクチャ(Armなど)への本格移行は、経営判断として採りにくかったのだ。
だがその間に、スマートフォンの爆発的普及や、GPU中心のAIコンピューティングの到来など、半導体を取り巻く構造は急速に変化した。そしてNVIDIAやAMD、さらにはAppleのような「後発組」が、柔軟に新技術を取り込み、時代に適応していった。気がつけば、かつての王者インテルは「次の波」に乗り損ねた側に回っていたのである。
成功が変化への抵抗を生み、その抵抗が競争力を奪う。まさにクリステンセンが指摘した通りの構造が、インテルの内部で繰り返されていたと推察できる。
(ASIのNo.1プラットフォーマー)
かつてソフトバンクは、アリババへの投資で中国市場に深く食い込み、大成功を収めた。だが今、孫正義さんはそのアリババ株を大部分売却し、方針転換している。その背景には、以下のような構造変化があった。
中国政府は民間テック企業への統制を強め、ジャック・マーの失脚やAnt Groupの上場中止など、国家主導の経済運営が強まっている。また米中間の技術冷戦により、中国企業への出資は地政学的リスクを伴うようになった。こうした中、ソフトバンクは「西側の半導体同盟」へとシフトしている。
アーキテクチャでは自社傘下のArm(英)、GPUではNVIDIA(米)と関係を維持し、CPUでは今回のインテル(米)への出資。そして、場合によってはAMD(米)との距離感も調整すると思う。これらに加え、台湾TSMCや韓国Samsungといったファウンドリ勢を組み込むことで、西側諸国のAIインフラを構成する中核連合を形作るのだ。その全体像の中心に、自らを位置付けようとしている。
このような構造転換の先に、孫正義さんが描くのが「ASI(人工超知能)のNo.1プラットフォーマー」になるという構想だ。2025年の株主総会で明言されたこのビジョンは、AIのその先、つまり人間を超える知性を前提とした世界で、ソフトバンクが最も重要な基盤となることを目指すものだ。そのために、Armを中核に据え、OpenAIとの連携やStargateプロジェクト、そして今回のインテル支援などを組み合わせて、次のAI時代における「知性のOS」そのものを支配しにいっている。
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新規事業の旅206 日本企業の構造的な惰性
2025年8月20日
早嶋です。3000文字です。
(構造的惰性)
複数の事業を持ち、本部機能と現場機能を内包する比較的大きな組織では、「壁」の存在が問題視される。本部と現場の壁。事業部間の壁。部門間の壁。こうした壁があることで、コミュニケーションは滞り、情報は共有されず、「言いたいことが言えない」空気が蔓延する。結果として、対処が遅れ、問題の発見も遅れ、課題が組織の中で停滞したままとなる。そして、その状態が当たり前になり、誰も本気で対処しなくなる。
その一方で、現場の多くの社員は「忙しい」と口にする。しかし、何に忙殺されているのかを問い直しても、その実態は可視化されておらず、行動と時間消費に対する妥当性の検証もされていない。「忙しい」が日常語となり、問い直されることのない前提として放置されているのだ。
さらに、恒常的に耳にするのは「人手不足」だ。しかし実際に人員が足りていないのかと言えば、話はそう単純ではない。問題は「人材の量」ではなく「質」、つまり「優秀な人材がいない」という論調にすり替わるのだ。だが、その優秀の定義を問うと、明確な答えは返ってこない。
このように、「壁」「忙しい」「人手不足」という言葉は、どれも現象としては認識されているが、具体的な中身に踏み込んで構造的に整理されていない。課題が言語化されず、過去の繰り返しを惰性的に回し続けているだけであり、それが組織の慢性的な停滞を生んでいるのだ。「惰性の安定」の先には、「ゆるやかな死」が待っている。悲しいかな、急激に崩壊することはないが、じわじわと競争力を失い、誰もその兆候に気づかないまま沈んでいく。そんな未来が見えてしまう。
(なんとなくの正体)
多くの企業では、人の採用を「学歴」で判断してきた。学歴はラベルである。本来見るべきは、その人のキャラクターや経験、ポテンシャルであるべきだが、採用は配置要員の確保という組織都合で行われた。採用後は、画一的な新人教育を経て、任意の事業部に割り振られる。この時点で、個人の能力や適性よりも、「組織の空きポスト」が優先されている。今の若手世代が「ガチャ」と表現する。言い得て妙だ。
教育についても、全社的には新人研修と階層別研修がある程度で、実践的な専門教育は事業部に丸投げされている。しかし、事業部側においても、教育が仕組み化されているケースは稀であり、ほとんどは「見て学べ」「先輩の背中を見ろ」という属人的な育成に依存している。上司にノウハウがあれば育つが、なければ放置。ここに、育成の再現性はないのだ。
その結果、「なんとなく人がいない」「なんとなく教育ができていない」「なんとなく通じ合えない」といった「なんとなくの不全」が蔓延する。これもまた、可視化されず、誰も問い直さない。
私の仮説だ。原因の一つは、日本社会が長年維持してきたメンバーシップ型雇用だと思うのだ。職務の定義がなく、人ではなく空席に人を入れる。そして、育成もキャリアも評価もすべて曖昧なまま回していく。キャリアプランなどはなく、定期的に配置を変えて突然の異動のあらし。逆らえば分が悪くなると思った社員は徐々に無気力になっていく。
(鍵はジョブ型だが進まない)
この構造を打破する鍵は、間違いなく「ジョブ型雇用」への移行である。しかし、日本におけるジョブ型移行は、掛け声だけが先行し、実態が伴っていない。
なぜか。最大の理由は、「制度・構造・文化のすべてが、ジョブ型と相容れない」からだ。考えられるポイントは6つある。
まず、日本の企業は 解雇規制が強すぎるのだ。ジョブ型は「仕事に人をつける」発想である。つまり、仕事が消えれば雇用も終了するのが本来の姿だ。しかし日本では、職務が消滅しても、人を解雇するのは非常に困難である。そのため、これまで解雇をせずに、職種を変えてでも雇用を守ってきたのだ。ただ、この運用は本来のジョブ型と相反するのだ。
次に、年功的な賃金カーブが足かせになっている。本来、ジョブ型では職務の価値に応じて報酬が決まる。しかし、伝統的な日本企業は、年齢や勤続年数による賃金カーブが残り続け、それがジョブ型設計の足かせとなっている。若手で適切な能力を持つ人員対して、適正な報酬を与えられず、ベテランの処遇を下げることもできないのだ。
3つ目は、労働組合との調整が不可避であることだ。労働組合は「雇用の安定」と「年功処遇」を前提に機能している。しかし、ジョブ型はこの思想と根本的に衝突する。そのため制度変更には慎重な交渉が必要となり、スピード感が削がれているのげ現実だ。
4つ目は、管理職に職務定義力が欠如していることだ。どのような職務に、どのような経験・スキルを持った人材が必要かを定義できる管理職が非常に少ない。なぜならば、これまで人事の采配で異動してきた人材に、今の仕事を行って貰えばよかったので、必要な能力やスキルを定義する習慣がなかったのだ。そのため人材要件の設計という発送が育まれなかった。
そして、人事部門も十分に機能していない。人事部門は制度運用に長けていても、業務設計や組織戦略に基づいた職務再編の能力を持っていないケースが多いからだ。現場理解も乏しく、形式的なジョブディスクリプションが形骸化している。
最後は、組織文化の壁だ。冒頭で議論した通り、日本企業は長年「あいまいな役割」と「気配り・助け合いの文化」で成り立ってきた。これ自体は素晴らしいことだが、ジョブ型の場合は役割が明確になる。しかし、従来の土壌では役割に忠実であることが必ずしも評価に繋がらない。むしろ自分の職務だけを果たす人は冷遇される土壌すらあったからだ。
(では、どうする?)
結論から言えば、ジョブ型への移行には、制度や運用を表面的に取り替えるだけでは不十分だ。組織の構造そのものを見直し、段階的にリデザインしていく覚悟が必要だからだ。
まず最初に取り組むべきは、組織全体の「仕事の棚卸し」をすることだ。自分たちの会社には、どんな仕事があり、どの仕事が本当に価値を生み出しているのか。そうした整理を行う過程で、一つひとつの業務や役割を洗い出し、それを再定義していくのだ。これがなければ、どんな人材が必要かを語る土台すら持てない。
次に重要なのは、管理職自身が「人材を定義する力」を持つことだ。誰かが来てくれたら育てよう、という受け身の姿勢ではなく、「この成果を出すには、こういう能力と経験が必要だ」と、逆算して考える力が求められる。職務記述書を作ることが目的ではない。成果から人材を設計する力こそが、これからのマネージャーに必要なスキルになる。
そして、変革はいきなり全社的に行わないことだ。まずは一つの部門、あるいは一つの職種で構わない。小さな範囲でジョブ型の仕組みを導入し、うまくいった例を丁寧に積み上げていく。その成功体験が、やがて他部門にも広がり、組織全体の変革へとつながっていくのだ。
(まとめ)
ジョブ型は「制度」ではなく「思想の転換」だ。人を組織の歯車として配置するのではなく、「価値創出の主体」として再定義することだ。役割を明確にし、責任と成果で評価する文化を、少しずつ育てていくしかない。
そのために、「なぜ壁があるのか?」「本当に忙しいのか?」「その人手不足は構造の問題ではないか?」などにもスルーしないで、整理していく。この問いと整理の連続の過程に、組織の変化が現れるのだと思う。
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新規事業の旅205 ポッキーの立体商標
2025年8月19日
早嶋です。約2300文字。
ポッキーが立体商標を取得した。そのニュースをみて立体商標に関して整理したので忘備録としてブログにまとめておく。
今回、ポッキーが立体商標を取得した目的は、「形そのものがブランドだ」と公に認めさせることだ。実際、立体商標を取得するのは時間も根気も要る。
ポッキーは、1966年から続くあの形が、文字やロゴ抜きで出所表示として機能する、と特許庁に認められた。登録番号は第6951539号。食品で中身の形状だけが保護された事例は少なく、今回も長年の販売や広告に裏打ちされた識別力(周知著名性)の立証がカギを握った。ここが難所で、単に奇抜な形というだけでは足りず、「形だけでそれと分かる」ことを客観的な証拠で積み上げる必要があった。
制度の話を少し整理する。日本で立体商標が制度化されたのは1997年。機能を確保するための形や、一般的・装飾的な形は原則NG(商標法3条1項3号・6号)。そのうえで、長年の使用により形だけで自他商品識別力を獲得した場合には、例外的に登録が開く(3条2項)。この例外ルートでどれだけ説得できるかが勝負になる。審査基準や運用文書にも、3D形状の同一性判断や取得識別力の考え方が細かく落ちている。
食品分野でも前例はある。明治は「きのこの山」(2018年、登録6031305号)と「たけのこの里」(2021年、登録6419263号)で中身の形状のみの立体商標を通している。自社の発表でも、食品で形状のみの登録は日本に少なく、両者はその稀少な例だと位置づけられている。つまり、ポッキーはこの系譜に連なるのだ。
容器の世界的古典はコカ・コーラのコンツアーボトルだ。日本でも裁判所判断を経て「形だけで識別し得る」とされ、3Dマークが認められる流れを切りひらいた。ヤクルトのプラ容器も同様で、知財高裁が2010年に形そのもので識別できると認め、登録に道がついた。両者は日本の3D商標実務を語るうえで外せない節目だ。
プロダクト本体が登録されるケースも着実に増えている。G-SHOCKは2023年、ロゴ無しの時計の形そのものが3D商標として登録(6711392号)。「四半世紀以上の継続使用により識別力を獲得」との評価だ。ホンダのスーパーカブは2014年、国内で乗り物として初の3D商標という快挙で、車体のシルエットがそのままブランドとして法的に認められた。
容器と言えば、キッコーマンの卓上びん(赤キャップのあの形)。2018年、日本でロゴなしの容器自体が3D商標に登録。まさに形だけでも認識できることの公的なお墨付きで、同社は公式にそう説明している。
こうした流れは店舗外観にも波及している。出光のガソリンスタンドやファミリーマートの店舗外装など、建築・店舗の場の形が立体商標として登録された例もある(店舗外観はロゴや文字を併せた態様が多い)。「見た瞬間にどこの店か分かるか」を、商標の言葉に落として守るアプローチだ。
では、なぜ企業はそこまでして形を守るのかだ。理由はシンプルだ。第一に、PB(プライベートブランド)や模倣品への抑止力が段違いになる。名称を変えられても形の無断使用で差止めの土俵に乗れる。第二に、越境ECや並行輸入を含む国際流通での通関差止の根拠が増える。明治は実際に税関への輸入差止申立てを運用しており、商標権の威力を実務で示している。第三に、商標は更新により半永久に守れる(10年更新)。意匠の存続期間を超えて、ブランドの顔つきを守り続けることができる。
もちろん、何でもかんでも登録できるわけではない。機能確保のための形(例えば噛み合わせ、握りやすさ等が主目的の形状)や、単なる美観のための造作は本来機能・審美の範囲として排除されやすい。玩具分野では、LEGOの人形などをめぐる日本の審決・審判でも、形が商品自体を普通に表示するにとどまるとして厳しく見られている。だからこそ、使用実績と認知データの積み上げがものを言う。
食品の中身そのものが通るケースは今もレアだ。明治は自社の資料で、「食品分野の形状のみの立体商標は日本で7例に限られる」と明言している。ポッキーは、この狭い門をまた一つ押し広げた格好になる。
歴史で振り返ると、コカ・コーラ瓶やヤクルト容器の裁判例が、3条2項(使用による識別力)を実務に根づかせ、そこにキッコーマンの卓上びんや明治の中身形状、G-SHOCKやスーパーカブといったハードプロダクトが続いた。いずれも「形だけで分かるか」を正面から問われ、広告・売上・市場シェア・露出、そして大規模な認知調査まで、地道な証拠が鍵を握っている。
そして今回のポッキー。スティックの比率や見た目を一貫して守り抜いたからこそ、形が記号になった。PB対策、輸入模倣対策という守りの意味合いはもちろん、ブランド資産の明文化という攻めの意味も大きい。形そのものを公式にPockyらしさとして宣言し、将来のコラボや海外展開、派生商品の設計自由度まで含めて、交渉力と抑止力を手に入れたことになる。
最後に、これから立体商標を狙うなら、教訓は三つある。1)発売当初から形を戦略変数に置き、一貫して磨き続ける。2)広告と露出で形の刷り込みを図り、必要なら第三者機関の認知調査で裏づける。3)機能・審美目的の説明は慎重に。形の意義を「出所表示」に寄せて語る。実務の基準は厳密で、3Dは例外で取得の可能性があることを前提に考えておくことだ。
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新規事業の旅その204 ヒューマノイドの今後の考察
2025年8月18日
早嶋です。2500文字程度です。
ヒューマノイドの領域で、最も激しい動きを見せているのは中国だ。すでに200社以上がこの分野に参入し、上海や深圳ではヒューマノイド専門の販売店まで登場している。そこでは単にモノを売るのではなく、いわゆる「4S」、Sales(販売)、Stock(在庫)、Spare(部品)、Search(検索・体験)までを含めた、ユーザーエクスペリエンスを丸ごと提供するモデルが確立されつつあるという。
中国のヒューマノイドロボット市場は、2024年時点で約2.76億元(約3.8億ドル)。2030年には750億元(約103億ドル)、日本円にしておよそ1,600億円規模に達すると予測されている。世界全体では、2024年に約21.4億ドル(約3,100億円)、2034年には696億ドル(約10兆円超)という巨大市場が形成される見通しだ。
この市場のうち、約7割を占めるのがハードウェアだ。センサーやアクチュエーター、駆動装置などがこれに含まれる。ソフトウェアとその応用は残りの3割だ。だが今後は、ChatGPTのような生成AIの進化とともに、ロボットの脳に相当するソフト領域が一気に伸びてくるだろう。つまり、これまで「動かすこと」が中心だった設計思想が、「何を考えさせ、どう振る舞わせるか」にシフトするのだ。
米国でも、テスラの「Optimus」に代表されるように、ヒューマノイド開発は進められてきた。しかしここに来て、明確な足かせとなっているのが、ハード供給の中国依存である。主要部品の多くが中国産である以上、米中対立の激化により、製品化・量産化が思うように進まない。実際、テスラも2025年からの量産計画に遅れが生じており、Optimusの実装は再設計のフェーズに入っていると推察される。
それでも2030年までの数年間で、ヒューマノイドは産業用・物流用・介護補助などの分野に一部導入される予測だ。家庭用としては、高価格帯での試験導入が先行し、一般家庭にまで浸透するにはまだ時間がかかる。しかし、2050年という長期の視点に立てば、風景は大きく変わっているだろう。
あるレポートによれば、2050年には世界中で9.3億体のヒューマノイドが稼働しているという。最多は中国の3.02億体、次いで米国の0.78億体。日本もそこに並ぶが、問題は台数ではない。「どう使われるか」というフェーズに、我々の文明は入りつつある。つまり、ヒューマノイドはただの道具ではなく、人間との関係性を持つ存在になるのだ。
そもそも、中国がヒューマノイドに巨額の資本を投下する理由は何だろうか。答えは明快だ。人口減少への備えと、国家主導の産業制御だ。中国は今、世界最大規模の高齢化社会に突入しており、製造業・物流業・介護などあらゆる現場で労働力の不足が確実視されている。ヒューマノイドは、この穴を埋める最も論理的な選択肢だ。そしてこれは単なる労働の代替ではない。人間ではない、ストライキも要求もしない労働力であることが肝要なのだ。
加えて、国家(共産党)が中央制御できる「非人間の人的資源」という意味合いも大きい。ヒューマノイドは行動ログを残し、映像を収集し、データを国家に還元する。つまり、労働と監視が一体化した装置として機能する未来を確実に描いているのだ。それはまさに、制御可能な未来人材とでも呼ぶべき存在なのだ。
ここに、あくまで私の仮説を提示したい。中国はヒューマノイドの中でも、特に「ロボット型ラブドール」の開発・輸出に力を入れている。深圳周辺の工場では、AIを搭載し、会話・感情・動作をリアルに再現する高機能ラブドールが大量に製造されており、欧米や日本へも輸出されている。私は、これを単なるビジネスとは見ていない。むしろ、中国はこの領域を文化的な麻薬として捉えているのではないかと感じている。
具体的には、各国の若者を仮想的な性愛体験に依存させ、リアルな恋愛や結婚、子育てを忌避させる。結果として、家族形成や社会参加が鈍化し、国家の「社会エネルギー」が長期的に削がれていく。戦車もミサイルも要らない。ロボットで人間の欲望を満たせば、その国の文明構造そのものが静かに崩れていくのだ。
これは、ある種の性的サイバー戦争の形態である。もちろん証拠はない。しかし、構造としては十分に起こり得る話だと感じている。
このような擬似人間が生活に入り込むとき、もっとも先に揺らぐのは倫理の境界だ。イギリスでは、児童型のSEXロボットの輸入がすでに禁止されている。倫理学者たちは、「これは性暴力の模倣であり、人間の関係性を破壊する装置だ」とまで言い切っている。
フランスやドイツでは、「電子的存在に人格を与えるべきか」という哲学的な議論がEUレベルで始まっており、ロボットを人間に準ずる準人格と見なすことに慎重な態度を取っている。一方でアメリカは、連邦法としてチャイルド型ロボットは禁止したものの、大人型のSEXロボットについては表現の自由との兼ね合いで、明確な規制には踏み込めていない。
では、日本はどうか。驚くほど静かだ。アニメ・マンガ・フィギュア文化の延長線上で、ロボット型性愛も自然に受け入れられてしまう。法的にも倫理的にも、整備や議論の土台がない。このままでは、無規制のグレーな欲望楽園として、外資系ラブドール企業の草刈り場になる可能性すらある。
我々は、技術の進化に熱狂する一方で、それによって生まれる新たな問題から目を逸らしがちだ。ヒューマノイドは、人間の代替として現れる。が、それ以上に、人間の本質や欲望を映し返す鏡として機能するはずだ。一国がこの技術に注力する理由は、単なる利便性ではない。文化と政治と支配の三位一体構造として、ヒューマノイドは未来の武器にもなりうるのだ。そのとき、我々は選択をしなければならない。技術か、人間か。利便性か、倫理か等々。
この問題は、いずれ必ず現実になると思う。だからこそ、今のうちから考えておく必要がある概念なのだ。
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日本版・選挙推し活モデル
2025年8月11日
早嶋です。2100文字です。
近年、米国のトランプ政権はラストベルトの有権者層を可視化し、選挙の主役へと押し上げることに成功した。その戦略は、単なる政策論ではなく、感情や誇りに注目し、日常の中に「推し活」的な関与を埋め込むという、参加型のモデルの実践だった。
参政党は、この構造を日本流にアレンジしていると考えられる。DIYスクールや街頭演説の配信は、政治に無関心だった層をまず「知る」という入口に導く。そして短いスローガンや身近なテーマで共感をつかみ、イベントやグッズを通じて仲間意識を醸成する。結果、支持は政策の細部ではなく「この人、この仲間、この雰囲気を推す」という感情の構造に移っていく。
日本では米国ほど激しい対立軸を前面に出さず、「守るもの」や「誇りの回復」といったソフトな感情トリガーを軸にしている点も特徴だ。食の安全や子どもへの支援、アイデンティティの再確認といったテーマは、専門的な政策知識がなくても「守るべき大事なこと」として受け止められる。
さらに、選挙期間だけでなく365日活動を続ける「常時キャンペーン化」も、日本版推し活モデルの重要な要素だ。動画や講座で知識を積み上げ、地元コミュニティで仲間と会い、定期的に接触を持つ。これは、参政党が「政治活動」を超えて「生活の一部」に政治を組み込もうとしている証左でもある。
こうした一連の流れは、単発のアピールや選挙戦術だけでは成立しない。無関心層を巻き込み、関与層へと育て、さらに熱狂的な拡散者に変えていくには、入口から出口までを設計する体系が必要になる。そこで整理したのが、次の5つの要素である。
(推し活型選挙戦略の5要素)
1.ファネル型の階段設計
無関心層 → 関心層 → 参加者 → 熱狂的支持者 → 拡散者。
各段階で必要なコンテンツや接点を設計し、徐々に関与度を上げる。
2.感情トリガーの設定
「守る」「奪われている感」「誇りの回復」「未来像」の4層で感情を刺激し、政策論より先に心を動かす。
3.常時キャンペーン化
選挙の有無に関係なく、演説・配信・イベント・グッズを通じて日常的接触を維持する。
4.推し活コミュニティ運営
小単位の仲間グループを作り、交流やストーリー共有で推しを自分ごと化させる。
5.成功条件の確立
感情の可視化、参加ハードルの低さ、象徴的リーダーの存在、仲間との接触頻度。
この4つを同時に成立させる。
(2020〜2025年の歩みとモデル適用)
2020年、参政党はYouTubeチャンネル「政党DIY」を母体として誕生。DIYスクールを通じて政治や社会問題を学び合う場を作り、無関心層を政治の入り口に誘った。初期は小さなコミュニティだったが、オンライン講座や街頭演説配信を重ね、政策よりも「この人たちに共感できる」という感覚を広げていった。
2022年の参議院選挙では比例代表で約177万票を獲得し、神谷宗幣氏が当選。国政政党としての地位を確立した。この選挙では、街頭とネット配信を融合させ、短いスローガンと生活に直結するテーマで関心層を一気に引き上げた。
2023年の統一地方選では県議や市議の当選が相次ぎ、地方に根を張る基盤が形成された。議員がDIYスクールを受講し政務活動費で計上する事例もあり、教育と動員のパイプラインが制度的に機能し始めていた。地方議員は地元の集まりを拠点に支持者との距離を縮めた。
2024年の衆議院選挙では比例で3議席を確保し、国政での存在感をさらに拡大。2025年の参議院選挙では議席を二桁に伸ばし、「躍進」と評された。海外メディアも「日本版トランプイズム」として紹介している。
参政党の5年間の動きを、この推し活型選挙戦略のモデルに照らしてみると、その対応は非常に明確だ。まず、①ファネル型の階段設計では、YouTube配信や街頭演説で知る段階をつくり、そこからDIYスクールの受講、党員登録、地方選への立候補、そして国政当選へとつながる昇格ルートを描いてきた。
次に、②感情トリガーとしては、子どもへの月10万円給付や教育国債、食の安全といった「守る」テーマを前面に押し出し、同時に「奪われている感」や「誇りの回復」を物語化することで、専門知識の有無に関わらず感情で理解できる構造を作っている。
③常時キャンペーン化も際立つ特徴だ。選挙の有無に関係なく、DIYスクールや講演会、通信講座を継続的に展開し、非選挙期でも接触の機会を途切れさせない。
さらに、④推し活コミュニティ運営では、地方議員や支部を核に小単位の仲間づくりを進め、地域イベントや勉強会などを自発的に展開している。これにより、地元から国政までをつなぐ下支えが形成された。
そして、⑤成功条件の確立として、感情を可視化するテーマ設定、参加ハードルの低さ、象徴的リーダーの存在、仲間との接触頻度の高さという4つの条件が揃い、無関心層を熱狂的支持層へと変えていったのである。
上記からわかるように、2020年から2025年までの参政党の歩みは、教育と動員が一体化したパイプライン、地方と国政の相互補完、感情と物語による関与設計が連動した、日本版「選挙推し活モデル」の実証例である。従来の政治の外にいた人々を政治の舞台へと引き上げる、この構造は他の政治運動や地域活動にも応用可能では無いだろうか。
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静かな退職・カタツムリ女子
2025年8月9日
安藤です。
今回のテーマは、「静かな退職・カタツムリ女子」です。
最近、「静かな退職」や「カタツムリ女子」という言葉をよくマスコミから耳にします。AIで検索をしてみると、2022年にアメリカのキャリアコーチが提唱した「Quiet Quitting」という言葉が広まり、日本でも注目されるようになりました。
「「静かな退職」の定義は、「会社には在籍しているものの、仕事への情熱や意欲を失い、与えられた業務を最低限こなす状態を指す」とありました。
特徴としては、下記が挙げられます。
①出世やキャリアアップへの意欲がない。 ②必要以上の残業や休日出勤をしない。③会社への貢献意欲が低い。 積極的に仕事に関わろうとしない。
原因として考えらえるのは、 ①仕事へのモチベーションの低下 ②ワークライフバランスの重視 ③将来への不安
そして背景には、①長時間労働や過度な仕事の要求に対する反発 ②仕事よりもプライベートを重視する価値観の変化 ③「ハッスルカルチャー」への疑問とありました。
*注)ハッスルカルチャーとは、仕事に全力を注ぎ、常に忙しく働くことを美徳とする文化のことです。仕事とプライベートの境界線をなくし、がむしゃらに働くことで生産性の向上を求め、それを称賛する価値観を指します。
「静かな退職」は仕事を辞めるわけではなく、必要以上の努力をやめるという考え方だ。業務はきちんとこなすけれど、「仕事が人生のすべてであるべきだ」というハッスルカルチャーの考え方からは距離を置くということだ。現実として、仕事が人生のすべてではない。そして、人としての価値は労働によって決まるものではない。」という捉え方もありました。
つまり、「静かな退職」は、与えられた職務をこなすことに変わりはないが、仕事が人生のすべてであり、仕事を全力で頑張る「ハッスルカルチャー(Hustle Culture)」には、もう従わないという姿勢とういうことです。
一方、「カタツムリ女子」は、英語の「Snail Girl」で、「成功を追い求めるよりも、自分を大切にしながらマイペースで働く女性」を意味します。女性起業家や、ビジネスにおいて主体的に活躍し、リーダーシップを発揮する女性を指す「ガールボス(Girl Boss)」とは反対の概念です。
「カタツムリ女子」という言葉は、オーストラリアのビジネスウーマンであるシエナ・ラドビー氏が2023年に『Fashion Journal』誌に寄稿した記事「“Snail girl era”: Why I’m slowing down and choosing to be happy rather than busy(カタツムリガール時代:私が忙しさよりもスローダウンし幸せであることを選択した理由)」に由来します。
ラドビー氏は、装飾用バッグのブランド「Hello Sisi」を立ち上げた人物です。記事の中で、元「ガールボス」と自認する彼女は、ガールボス的なスタイルを捨て、よりゆったりとした生活ペースを選ぶようになったと述べています。彼女は「カタツムリ女子」について、「依然として野心はあるが、自分のペースで歩み、成功のために身体的・精神的な健康や幸せを犠牲にしない生き方」だと説明。幸せと自己ケアを最優先する「カタツムリガール」のライフスタイルは、若い女性の間で広がりつつあり、TikTokやInstagramなどのソーシャルメディアには、森を歩いたり、ビーチや部屋でリラックスしたり、本を読んだりする彼女たちの動画がアップロードされています。
*注「ガールボス」とは、主に若い女性の起業家や、職場での女性管理職など、リーダーシップを発揮する女性を指す言葉です。自信を持って積極的に成功を目指す姿勢や、フェミニズムの文脈で女性の社会進出を称賛する意味合いも含まれます
そして、「静かな退職」や「カタツムリ女子」は、昔とは異なる新しい働き方であり、日本でも少しずつ認知され始めています。
「静かな退職」や「カタツムリ女子」という価値観は、従来の「仕事中心の人生」から、「自分らしさ」や「心の安定」を重視する生き方への移行を象徴しています。特に若い世代を中心に、キャリアの成功だけでなく、プライベートの充実や精神的な余裕を求める傾向が強まっており、企業側もこうした変化に対応した柔軟な働き方を模索する必要があります。
エンゲージメント、well-beingの働き方を益々、現実的に取り組むことが求められている時代になっているように感じています。
初回訪問で『この人から買いたい!』と思わせる雑談術
2025年8月9日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今月のテーマは「初回訪問で『この人から買いたい!』と思わせる雑談術」です。営業で初回訪問した時など、雑談に困った経験はないでしょうか?お客様もそうでしょうが、お互いまだ探り探りで、本題に入るまでの時間が少し緊張しますよね。「雑談」を効果的に使ってビジネスを進める方法を共有いたします。
まず、前提として雑談といっても、ただの世間話ではありません。
ビジネスにおける雑談の目的は、お客様の心のガードを下げ、「この人と話すのは楽しい」「信頼できそう」と感じてもらうことです。
では、どんな雑談をすれば、お客様の心のガードが下がるのでしょうか?
① 相手の“日常”にアンテナを立てる
初回訪問では、相手の仕事や立場よりも、まず“人”としての一面に目を向けることです。
・天気やニュースの話題に、その地域ならではの視点を加える
・デスクや会議室にある小物や写真に触れる
・最近の出来事(会社の周年記念やイベントなど)を事前に調べて話題にする
こうした話題は「自分に興味を持ってくれている」と感じてもらいやすく、距離感を縮めます。私もしていましたが、初めてお客様のオフィスに通していただいた時は、ぐるっと部屋の中を見まわしていました。社是や理念が掲げてあったり、古い写真や表彰状、感謝状、なかにはゴルフコンペの優勝トロフィーが飾ってあったり。それらは全てお客様が大切にされているモノです。話のネタとして振れない手はありません。必ず雑談の中でお尋ねします「これなんですか?」。すると快く話してくださるはずです。これがアンテナを立てるということです。
② 「質問+共感」で会話を広げる
雑談のコツは、話すよりも聞くことです。
特に初対面では、自分のことをアピールするより、相手に気持ちよく話してもらう方が印象に残ります。
たとえば、
「この観葉植物、すごく元気ですね。お好きなんですか?」
「お子さんの野球チーム、どのポジションをされてるんですか?」
相手が答えたら、「へえ、いいですね!」で終わらせず、さらに一歩踏み込んで尋ねます。
「実は私も○○やってたんです」と、自分の経験や感想を交えると、会話が双方向になりやすいです。
雑談が苦手だとおっしゃる方は、自分から話題を提供しないといけないと思い込んでいる方が多いです。相手の興味のある話題が分からない状況で話しを振り出すことができず、また自分の話しの引き出しにも限界があるため話が続かないのです。
それより、お客様が好んで話していただけることを、質問することによって引き出し、快く話していただく方がよっぽど楽で効果的です。
③ 雑談の終わり方も大事
雑談は長引きすぎると、かえって「何しに来たんだろう?」と思われかねません。
おすすめは、「雑談から本題への橋渡し」を自然にすることです。
例:
「そういえば、○○の話を聞いて思い出したんですが…実は今日ご提案したいのが、それに関連することなんです」
こうすると、雑談が単なる前置きではなく、本題への導線として機能します。自分の仕事や商談と関連しそうなキーワードを雑談の中に探しながら、進めることがポイントです。
以上、初回訪問での雑談は、単なる時間つぶしではありません。
①相手の日常に興味を持つ ②質問と共感で会話を広げる ③雑談から本題への橋渡しを意識する
この3つを押さえるだけで、「この人ともっと話したい」「この人から買いたい」という印象を残すことができます。
次回の初対面の場面で、ぜひ試してみてください。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
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