
ディズニーがOpenAIを選んだ理由
2025年12月16日
早嶋です。約6400文字。
報道によれば、ディズニーはOpenAIに対して約10億ドル規模の出資を行い、同時に生成AI、特に動画生成AI「Sora」を含む技術について、ディズニーのIPを活用する契約を結んだとされている。単なる技術提携ではなく、資本関係を含んだパートナーシップである点は重要だ。ディズニーほどの企業が、この規模で出資を行う以上、短期的な実験ではなく、中長期の戦略を見据えた判断だと考えるのが自然だろう。
この提携を考察するために、まずOpenAIとディズニー、それぞれの立ち位置と目的を整理する。
多くの人にとって、OpenAIとは「ChatGPTをつくったAIの会社」という理解だと思う。質問に答え、文章を書き、要約し、ときには相談相手にもなる。その意味でOpenAIは、これまで「考えること」や「書くこと」を支援するAI企業として認識されてきた。そのため、OpenAIはディズニーやNetflixのようなIPホルダーではない。自社でキャラクターを生み出したり、長い時間をかけて世界観を育てたりする企業ではない。彼らが提供しているのは、物語そのものではなく、物語や表現が生まれるための技術や環境だ。
その延長線上にあるのが、動画生成AIのSoraだ。Soraは、完成された映画を大量に生産する。これまで技術を持たなかった人が映像表現に触れ、「こんな映像も作れるのか」「こういう見せ方があるのか」と試し、学ぶための入口に近い存在だ。文章においてChatGPTが「書くことの敷居」を下げたように、Soraは「映像をつくることの敷居」を下げる役割を担う。
ここで重要なのは、OpenAIが自ら物語の主役になろうとしていない点だ。OpenAIの価値は、特定のキャラクターや世界観を抱え込むことではなく、誰かの表現や物語が生まれる余地を広げるところだ。だから、ディズニーやNetflixのように、IPそのものを競争力の中心に置く企業とは、立ち位置が根本的に違う。
一方、ディズニーは、OpenAIと正反対の企業だ。一般にディズニーと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ミッキーマウスやプリンセス、マーベルやスター・ウォーズといったキャラクターや物語だろう。ディズニーにとってIPは、単なる映像コンテンツや商品企画の素材ではない。長い時間をかけて育てられ、親から子へ、さらにその次の世代へと受け継がれていく存在であり、企業価値の中核そのものだ。
この点を理解するうえで象徴的なのが、ミッキーマウスの著作権をめぐる話だ。ミッキーマウスは1928年に登場しており、初期作品については、アメリカの著作権保護期間の満了により、すでにパブリックドメイン化している。つまり、法律上は「誰でも使える」状態になっているミッキーマウスが、すでに存在しているもだ。
しかし実際は、ミッキーマウスの価値が公共化したとは誰も感じていない。むしろディズニーのミッキーマウスは、今もなお特別な存在だ。これは、ディズニーがIPを単なる権利としてではなく、物語、文脈、体験、そして長年の信頼の積み重ねとして育ててきたからだ。
ここからも、ディズニーが本当に恐れているものが読み取れる。それは、IPが使われなくなることではない。実際、使われること自体は歓迎してきた歴史があるからだ。ディズニーが警戒しているのは、IPが軽く扱われ、文脈を失い、「どれも同じ」に見えてしまうことだ。つまり、価値が希薄化していくことそのものだ。
だからディズニーにとって重要なのは、IPを守ること以上に、IPがどう扱われ、どんな入口から人々が触れるのかを管理することになる。権利が切れても価値が残る一方で、扱い方を誤れば、権利があっても価値は簡単に失われる。そのことを、ディズニー自身が最もよく知っているのだ。
生成AIとIPの関係を考えるとき、この違いは決定的だ。生成AIは、使い方次第でIPの接点を増やすこともできるが、同時に世界観を無秩序に拡散させ、希少性を薄めてしまう危険もある。ディズニーが目指しているのは、おそらく前者だ。つまり、AIを通じてキャラクターに触れる人を増やし、その先に「公式の物語」や「本物の体験」への関心をつなげることだ。
ここからは早嶋の仮説だ。ディズニーは生成AIを、IP消費の最終地点ではなく、あくまで入口として位置づけていると思う。AIで遊び、触れ、興味を持った人が、映画館やテーマパーク、正規の配信コンテンツへと進む。小売店がティッシュペーパーを安売りして本命の生鮮食品を買ってもらう。サイゼリアがドリアを安価で提供して、利益率の高いワインや小皿を注文してもらう。今回の提携には、そんな思考があり、その流れが作れるなら、IPの価値は薄まるどころか、むしろ強化されると考えることができるのだ。
では、ディズニーは、なぜそのパートナーにOpenAIを選んだかだ。この問いを考えるために、GoogleとOpenAIの違いを考えると良い。ご存知の通り、Googleもまた、生成AIをはじめとした高度な技術を持ち、動画や画像、文章を生み出す力を備えている。技術面だけを見れば、GoogleとOpenAIに決定的な差があるとは言いにくい、多分。
しかし、OpenAIとGoogleは、同じAI技術を扱っているように見えて、その思想とビジネスの構造は大きく異なる。OpenAIが技術提供に徹する企業であるのに対し、Googleは、検索、広告、YouTubeといった巨大なプラットフォームを通じて、人々の「注意」を集め、それを収益化してきた企業だ。Googleの事業モデルの中心にあるのは、注意、つまり「人が何を見て、何に時間を使うか」だ。検索結果も、YouTubeのおすすめ動画も、基本的には人の関心を引きつけ、滞在時間を伸ばす方向に最適化される。その先にあるのが広告で、Googleの収益の大半はここから生まれている。
この構造の中では、「本物かどうか」よりも、「どれだけ見られるか」「どれだけ反応されるか」が重視される。結果として、アルゴリズムは、人々の興味を引く要素を抽出し、似たようなコンテンツを次々に並べていく。「本物」と「それっぽいもの」の違いは、意図せずとも少しずつ曖昧になるのだ。これはGoogleが意図的にIPの価値を壊そうとしている訳では無い。ただ、注意を最大化する目的では、希少性や正統性よりも、反応の良さが優先される。その結果、強いIPでも、数あるコンテンツの1つになり、特別な文脈が薄れていく可能性があるのだ。
ディズニーにとって本当に怖いのは、IPを誰かに奪われることではない。むしろ、ミッキーマウスやスター・ウォーズが、無数の類似表現の中に埋もれ、「特別な存在ではなくなる」ことだ。TVしか媒体がなかった時、出演者の希少性は一定担保された。でもYoutubeの時代は、世界中の人にチャンスがあり、素人でも玄人でも大量の注目を得られたら、その人はGoogleに認知されるのだ。その意味で、Googleはディズニーにとっての競合というより、構造的なリスクになり得る存在なのだ。
同じ理由で、Netflixにとっても無関係ではない。NetflixはIPを自ら育て、物語の価値で勝負する企業だ。しかしGoogleがIPと素人を分け隔てなく競争させ平準化されたら、長期的な価値は揺らいでしまう。Googleはディズニーだけでなく、Netflixにとっても、無視できない脅威なのだ。
その意味で、ディズニーがOpenAIを選んだのは合理的だ。OpenAIは、少なくとも現時点では、IPの主導権を握ろうとしない。競合にもなりにくい。ディズニーにとっては、技術を借りながらも意味の主導権を手放さずに済む相手だと言える。
この選択は、今後のディズニーとGoogleの関係にも、少なからず影響を与えると考えられる。その理由はシンプルだ。OpenAIという有力なパートナーを得たことで、ディズニーは「Googleと組まなければ先に進めない」という状況から一歩離れたからだ。
企業間の関係では、選択肢の有無がそのまま立場の強さにつながる(BATNAの有無)。相手に代わりがないときは条件を受け入れざるを得ないが、別の道が見えてくると、交渉の前提そのものが変わる。今回の提携は、ディズニーにとってその「別の道」を現実のものにした。
もっとも、ディズニーは交渉の場で声を荒らげたり、相手を公然と批判したりする企業ではない。これまでの歴史を見ても、ディズニーは正面から対立するより、静かに別の選択肢を用意し、その結果として関係性を調整してきた。かつてNetflixと距離を取り、自前の配信サービスを立ち上げたときも、同じようなやり方だった。
今回のOpenAIとの関係も、その延長線上にあると考えられる。Googleとの関係を断つわけではないが、「唯一の相手ではない」という状況を明確に示す。そのこと自体が、Googleに対する1つのメッセージになる。つまり、条件や方向性によっては、ディズニーには他の選択肢がある、という静かな意思表示なのだ。
そう考えると、今回の動きは単なる技術提携ではなく、ディズニーが今後どのような距離感で巨大テックと付き合っていくのかを示す、象徴的な一手だと見ることもできる。
一方で、Googleが今後どのような戦略を取るかを考えることも重要だ。Googleは、ディズニーのような強力なIPを買収する方向には、必ずしも進まないだろう。むしろ、IPに依存しなくても成立する世界、つまり「十分それっぽい物語」や「Toutubeでワンちゃん狙う便利な素人」が無限に供給される世界を完成させようとする可能性が高い。これは効率的だが、IPホルダーにとっては最も警戒すべき思想だ。
ここで、AppleとAmazonを加えて見よう。より全体像がよりはっきりすると思う。
Appleは、ディズニーやNetflixのように強力なIPを自社で抱える企業ではない。ミッキーマウスや独自の巨大な世界観を生み出してきたわけでもないし、物語を量産する会社でもない。一方でAppleは、物語に触れる「最初の体験」を強く支配している企業だ。
多くの人は、映画やドラマ、音楽、ゲームに、まずAppleの製品を通じて触れている。iPhoneやiPadで動画を見始め、AirPodsで音を聴き、Apple TVやApple TVアプリを通じて配信サービスにアクセスする。さらにVision Proのような新しいデバイスが登場すれば、没入体験の入口もAppleが握ることになる。
重要なのは、Appleがそこで「どの物語を見せるか」を直接決めているわけではない点だ。Appleは、NetflixやDisney+、その他のサービスを同じ土俵に並べ、滑らかで快適な体験を提供することに注力している。つまりAppleは、物語の中身には深く踏み込まないが、物語に入る扉そのものを設計している。
この立ち位置は、IPホルダーから見ると非常に独特だ。AppleはIPを奪わず、勝手に代替を作ることもない。しかし、入口を押さえている以上、完全に無視することもできない。ディズニーにとってもNetflixにとっても、Appleは競合というより、「切り離すことのできない前提条件」に近い存在だ。
Apple TV+のような自社サービスを持っている点も、この関係をより微妙にしている。Apple自身もコンテンツを提供してはいるが、その規模や思想は、IPを中心に据えるディズニーやNetflixとは異なる。Appleは物語の王になろうとしているわけではなく、あくまで体験全体の質を高める役割に徹している。
その結果、Appleは、誰とも正面衝突しないまま、すべての物語の入口に関わり続けるという、独特のポジションを築いている。
Amazonは、AppleやGoogleとも異なる、さらに別の立ち位置にいる企業だ。一般的にAmazonと聞いて思い浮かぶのは、ありとあらゆる商品を扱う巨大なオンラインストアだろう。日用品から書籍、家電、食品まで、ほぼすべてが揃い、注文すればすぐに届く。その裏側では、膨大な商品データや購買データがデジタル上で管理されており、その基盤を支えているのがAWSに代表されるクラウド事業だ。
この構造を踏まえると、AmazonがどのようにIPを見ているかが見えてくる。Amazonにとって重要なのは、物語や世界観そのものよりも、「それがどれだけ売れるか」「どれだけ回転するか」だ。IPは信仰の対象ではなく、あくまで商品やサービスの一つとして扱われる。売上につながるなら積極的に扱うし、そうでなければ静かに棚から消えていく。その判断は極めて合理的で、感情や思想が入り込む余地は少ない。
Prime VideoやMGMの買収は、一見するとAmazonがIPを重視しているようにも見える。しかし、そこでもAmazonの姿勢は一貫している。物語を文化として育てるというより、サブスクリプションの価値を高め、会員の滞在時間や購買行動につなげるための手段としてIPを位置づけている。映像コンテンツも、最終的にはECや会員基盤と結びついた一つのレバーに過ぎない。
この姿勢は冷淡に見えるかもしれないが、短期的な実利という観点では非常に強力だ。Amazonは、IPを感情的に扱わないからこそ、効率よく広げ、効率よく回収できる。一方で、その構造は、長い時間をかけて世界観や文化を育てていくディズニーやNetflixとは、本質的に相容れない部分も持っている。
だからAmazonは、IPホルダーにとって「使えるが、預けきれない相手」になる。販売や流通、消費の局面では頼もしいが、物語の意味や文化の継承までを委ねる存在ではない。その距離感こそが、Amazonの独特な立ち位置をよく表している。
こうして整理してみると、ディズニーの今回の判断は、単なるAI活用の話ではないことが分かる。それは、IPホルダーが巨大テックとどの距離で付き合うべきか、という、より大きなテーマの一つの実例だ。
ディズニーは、IPそのものを企業価値の中核に据え、意味や世界観を長い時間をかけて育ててきた企業だ。Netflixは、そのディズニーと同じ土俵で、物語とIPを武器に競争する存在である。一方でGoogleは、検索やYouTube、広告という構造を通じて、人々の注意や意味づけを最適化し、結果としてIPの希少性を相対化していく力を持っている。Appleは、物語を奪うことも代替することもせず、デバイスやOSを通じて「体験の入口」を静かに押さえている。そしてAmazonは、ECとクラウドを基盤に、IPを文化ではなく商品として扱い、消費と回転の中で価値を引き出す企業だ。
それぞれが、まったく異なる立ち位置にいる。その中でディズニーが選んだのが、自らIPを持たず、物語の主役にもなろうとしないOpenAIだったという点は示唆的だ。ディズニーは、意味や世界観を他者に預けることはしないが、その入口を広げるための技術は積極的に取り入れる。そして最終的な主導権だけは、自分たちの手元に残す。その姿勢が、今回の選択に表れている。
この判断は、今後、IPを持つ多くの企業にとって重要な参照点になるだろう。AIの時代において、すべてを自前で抱え込む必要はない。しかし同時に、すべてを外に委ねてしまえば、意味や価値は簡単に薄れてしまう。何を他者に任せ、何を自分で守るのか。その線引きこそが、これからの競争力を左右する。
ディズニーは、その問いに対して、「入口は開くが、意味は渡さない」という1つの明確な答えを示したように思える。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
抹茶産業の行く末を議論すべき出来事
2025年12月14日
早嶋です。約4200文字。
前回、抹茶についてブログを書いたところ、いくつか問い合わせをもらった。その中で、私は1つの企業体の存在を知ることになった。その企業が販売している抹茶を仮に「C」と呼ぶことにする。Cは八女の抹茶として、観光客向けに広く流通している。特にインバウンドには人気のようだ。価格は30gでおよそ3,000円。裏千家御用達として知られる濃茶用の抹茶と同水準の値段で販売している。抹茶不足の昨今、多くの茶商やお茶屋さんが抹茶の販売を控える中、その企業が展開する店舗では抹茶の在庫が豊富でインバウンドの顧客が列をなして購入している。
企業の名前は、業界ではどうも歓迎されていない。そのCは抹茶として販売しているが、業界団体からすると抹茶ではないのでは無いか。という声が発端だった。そこで事実を確かめるべく、その企業が展開している店舗に出向きCを購入。そして、茶商や見識者と共に、実際に試飲を行った。
今回試した4種類の抹茶をAからDの呼称をつけた。今回、比較対象として用意したのは次の4種だ。
A:裏千家御用達として知られる、濃茶用の抹茶
B:同じ系譜にある、薄茶向けの抹茶
C:今回問題提起の対象となる、八女で流通している抹茶
D:中国産の緑茶をすり潰した、いわゆる抹茶パウダー
AとBはいずれも、長年の実績を持つ正統派だ。Dは、あくまで比較のために用意した「抹茶ではないもの」である。そしてCが、今回の焦点だ。
試飲の結果だ。Cは、率直に言って抹茶では無い。抹茶として成立していなかった。苦味が先に立ち、舌に残る。後味が切れず、生の葉を噛んだような不快感がある。低温では旨味が出ず、温度を上げるほど雑味が強調される。AやBにある、あの静かな甘みの立ち上がりはないのだ。Dと比べても、むしろDの方が用途が想像できる分、まだ分かりやすい。これは好みの問題ではないと思った。茶商も、見識者も、評価は一致していた。
「これは抹茶ではない」
では、なぜCはこうなるのかの仮説を立てた。味には必ず理由がある。工程、物性、味覚は、因果でつながっているからだ。
■仮説1:原料が「てん茶」ではない
抹茶の原料は、本来てん茶だ。覆い下栽培を行い、蒸した後に揉まず、酸化を抑えた茶葉である。Cには、その前提が感じられない。テアニン由来の旨味が乏しく、カテキン由来の苦味が前に出ている。これは、覆いが不十分、あるいは煎茶系の葉を使っている可能性を示す。
■仮説2:揉んだ茶葉を粉砕している
抹茶は「抽出しない茶」だ。そのため、細胞を壊す揉み工程を意図的に避ける。Cの味は、細胞破壊後の酸化が進んだ茶葉を、そのまま飲まされている印象に近い。これは、のび茶(揉み茶)を粉砕した場合に典型的に起きる。
■仮説3:高速粉砕による熱劣化
石臼で挽いた抹茶は、粒子が丸く、熱を持たない。一方、高速粉砕は摩擦熱を生み、クロロフィルや香気成分を壊す。Cの粉は、粒度が不均一で、光の反射が強い。香りは立たず、後味にだけ重さが残る。これは、機械粉砕の特徴と一致する。
■仮説4:茎・葉脈の除去が不十分
抹茶は、葉を飲む茶だ。だからこそ、飲めない部分は徹底的に取り除く。Cには、繊維質由来の舌触りと雑味がある。この工程を省いている可能性は高い。
見た目・色・香りは、工程の結果そのものだ。AとBは、深く落ち着いた緑色をしている。粉は均一で、光の反射が柔らかい。湯を注ぐ前から、香りが静かに立ち上がる。しかし、Cは違う。色は黄緑寄りで、どこか濁る。粉の主張が強く、香りが弱い。Dはさらに分かりやすい。明るい黄緑で、完全に別物だ。見た目は嘘をつかない。それは、工程の積み重ねがそのまま現れた結果だからだ。
Cの缶には「抹茶」と書かれている。原材料は「緑茶」。だが、「てん茶」「覆い下」「石臼」といった表現は一切ない。一方、AやBは表記こそ簡潔だが、保存方法や鮮度への注意が徹底している。これは、抹茶が極めて壊れやすいものであることを、売り手が理解している証拠だ。
ここまでCの評価を味覚と香りと色等で評価し、早嶋の推測を書いた。しかし、Cは決して違法を働いているわけではない。興味深いことに、現時点で「抹茶とは何か」を定義する法的基準が存在しないという点だ。てん茶を石臼で挽いたものでなくても、「抹茶」と名乗れてしまうのだ。しかし、仮にCがそれを理解したうえで抹茶として提供しているのであればモラルと文化的な破綻を感じる。
なおCは、同一の価格帯で、同様の抹茶商品を複数展開している。この手法自体は、マーケティングの観点から見れば理解できる。味に幅を持たせることで、評価を「良し悪し」ではなく「好み」の問題へと転換できるからだ。
実際、抹茶に詳しくない消費者にとっては、「これは合わなかったが、別の種類なら違うかもしれない」と受け止められる余地が生まれる。ただ、抹茶という飲み物が、本来は明確な工程と思想によって成立してきた文化的産物であることを踏まえると、こうした評価の曖昧化を前提とした商品設計には、違和感を覚える。
抹茶は本来、どの葉を使い、どの工程を踏み、どのような味に設計したのかが問われる飲み物であり、その問いを「好み」という言葉で回避する構造が常態化すれば、抹茶という文化そのものの輪郭が、徐々にぼやけていく。
戦略として巧妙であることと、文化的に健全であることは、必ずしも一致しない。
仮に法的に問題がなかったとしても、工程や定義を語らないまま消費者の理解不足に依存する売り方が広がれば、長期的には市場の信頼を損なうリスクを内包する。
早嶋は、その点にこそ、注意を向ける必要があると感じている。
そもそも抹茶とは、
●覆い下栽培した茶葉を、
●蒸した後に揉まず、
●茎や葉脈を除去し、
●低熱で微粉末化し、
●単体で飲めるよう設計された茶だ。
これは嗜好の話ではない。科学と工程の積み重ねだ。抹茶は、玉露や煎茶と決定的に異なる点がある。それは、抽出して飲む茶ではなく、葉そのものを摂取する茶だという点だ。
煎茶や玉露は、茶葉の成分を湯に溶かし出して飲む。一方、抹茶は粉末化した葉をそのまま体内に取り込む。この違いが、栽培方法から製造工程に至るまで、すべての設計思想を決めている。
まず、なぜ覆い下栽培を行うのかだ。茶葉は日光を浴びると、渋味や苦味の元となるカテキンを多く生成する。一方で、日光を遮ることで、旨味成分であるテアニンが分解されにくくなり、葉の中に蓄積される。抽出する茶であれば、多少の苦味は湯加減で調整できる。しかし、葉を丸ごと摂取する抹茶では、苦味が直接舌に現れてしまう。そのため、抹茶には覆い下栽培が不可欠になるのだ。
次に、なぜ蒸した後に揉まないのかだ。揉むという工程は、茶葉の細胞を壊し、成分を外に出しやすくするためのものだ。煎茶や玉露では、香りを立たせ、抽出効率を高めるために必要な工程である。しかし抹茶は、抽出を前提としない。細胞を壊してしまうと、酸化が進み、色や香りが劣化しやすくなる。抹茶では、細胞構造をできるだけ保ったまま乾燥させることで、旨味と色を葉の内部に閉じ込める。
さらに、なぜ茎や葉脈を除去するのかだ。抹茶は葉を飲む茶である以上、舌触りと消化性が極めて重要になる。茎や葉脈には繊維質が多く、苦味や雑味の原因にもなる。抽出茶であれば、これらは湯に溶けにくいため問題になりにくい。しかし抹茶では、そのまま口に入る。だからこそ、飲めない部分を徹底的に排除する工程が発達したのだ。
最後に、なぜ熱を与えないよう細心の配慮がなされるのかだ。抹茶の色や香りは、熱に極めて弱い。摩擦熱によってクロロフィルが変性すれば、色はくすみ、揮発性の香気成分は簡単に失われる。そのため、石臼のような低速・低温の粉砕方法が選ばれてきた。効率は悪いが、抹茶として成立するためには不可欠な工程なのだ。
こうして見ると、抹茶とは単に「粉にしたお茶」ではない。葉をそのまま食すという前提から、逆算的に設計された、極めて論理的な飲み物だと言える。AやBの色、香り、味は、この工程の必然的な結果だ。そして仮説だがCは、まったく別のものだと思うのだ。
これはもはや個社の問題ではない。構造的な問題だ。抹茶の定義が共有されていないこと。行政も、業界も、それを外に語っていないこと。その結果、「抹茶風の商品」が、本物と同等、或いはより高く沢山それとして売られているのだ。しかも、観光客という一見さん相手にだ。代々、茶道を行う方ではなく。そして、Cは、市や周辺組織からも大々的に支援されている。抹茶ブームに便乗し、文化的に成立していないものを、本来の抹茶より注目を集めているのだ。早嶋には、極めて歪な状態に見て取れる。
もし、このままの状況が進んだ場合、抹茶産業のシナリオはどうなるだろう。海外では「抹茶=苦い粉」という認識が広がる。本物の抹茶は「分かりにくい高級品」として埋もれ、工程を守る生産者ほど、報われなくなる。これは、すでに他の嗜好品産業で見てきた構図だ。
たとえばワイン。市場が拡大した初期段階では、「赤ワイン=渋くて酸っぱい酒」という雑な理解が広がった。大量生産された安価なワインが市場を席巻し、本来のテロワールや醸造思想を持つワインは、「分かる人だけの高級品」として隅に追いやられた。結果として、丁寧な畑仕事と醸造を続けてきた生産者ほど、価格競争に巻き込まれ、苦しむことになった。
ウイスキーでも同じことが起きている。ブームの中で、「スモーキーで強ければ良い」「熟成年数が長ければ価値がある」といった単純な物差しが独り歩きし、本来は原酒の設計や熟成環境で評価されるべき品質が、マーケティング用の言葉に置き換えられていった。結果として、粗製濫造と価格の乖離が起き、市場が一度冷え込む局面を迎えた。
日本酒も例外ではない。「フルーティで甘い=良い酒」という分かりやすさが消費者に受け入れられる一方で、地域性や造りの違いは語られなくなり、長年の技と思想を守ってきた蔵ほど、説明不足のまま埋もれていった。
これらに共通するのは、定義や工程が語られないままブームが先行し、市場が「分かりやすいが本質ではないもの」に支配されるという点だ。抹茶も、今まさに同じ分岐点に立っている。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
ワーナー争奪戦の正体、トランプはパラマウントを批判しているのか、支援しているのか
2025年12月11日
早嶋です。約2500文字。
連日、ハリウッドの巨大再編についてブログを書いている。トランプ政権の動き、パラマウントとスカイダンス、そしてネットフリックスによるワーナー買収。この一連の流れは、理解したつもりになっても、翌日には新しい情報が更新されていて、全体像が再び揺れ動く。そのスピード感が面白いと思うし、同時に「これは単なる企業買収ではなく、政治の力学そのものだ」と改めて感じている。
早嶋が1回目と2回目に書いたブログは、パラマウントを率いるデービッド・エリソンとその父ラリー・エリソン、そしてトランプ政権の関係について整理した。パラマウントの買収資金には、クシュナーの投資会社や、中東の政府系ファンドまで参加していること。こうした背景から、わたしは「トランプはパラマウントを後押ししているのではないか」と仮説を立てた。
ところが、その翌日。フォーブスが一本の記事を出した。読んでみると、まるでトランプがパラマウントを批判しているように見える内容だった。CBSの番組『60ミニッツ』で、自分に批判的な議員のインタビューを放送したことに対し、トランプは激怒し、新しい親会社(パラマウント・スカイダンス)を名指しで責めたのだ。記事を読むだけなら、「トランプはパラマウントなど支持していない」とも取れる書きぶりだ。
このフォーブスの記事を読み、わたしも一瞬、最初の仮説が揺らいだ。しかし、その後、色々一人ブレストを重ねた結果、トランプの動きには二層構造があると考えた。ここがとても重要だと思う。トランプは、個人的なレベルでは、パラマウントが持つCBSを長年敵視している。報道姿勢が気に入らない。『60ミニッツ』が自分を批判した。そこで、怒りの感情にまかせて「パラマウントは何も改善されていない」と投稿した。フォーブスの記事は、まさにこの「感情のレイヤー」を切り取っているのだと思う。
一方、政治的なレイヤーでは話がまったく違う。ネットフリックスによるワーナー買収が進めば、ストリーミング市場のシェアが30%に達する。市場支配力が強くなり、司法省も懸念するほどだ。トランプ政権は、この巨大なネットフリックスを警戒している。そこで、トランプは「この買収は問題になる」「私が関与する」と介入の意志を表明したのだろう。
日経新聞の記事がここを書いてくれている。これが重要なアップデートだ。日経の記事を読むと、パラマウント・スカイダンスとトランプ政権の距離は極めて近い、と明確に書いてある。ラリー・エリソンは共和党の大口寄付者であり、トランプの古くからの友人だ。エリソン家とパラマウントが一体となってワーナー買収に動く。資金面でも、クシュナーが動き、中東の政府系ファンドが動く。つまり政治的ネットワークが買収の背後にある。
ということは、フォーブスが切り取った個人的な怒りの投稿と、日経が報道した政治的な支援構造は、矛盾しているように見えて、実はまったく別のレイヤーの話をしているだけなのだ。早嶋はこのあたりを整理して腑に落ちた。
つまり、次のように整理できる。トランプは、個人レベルではパラマウント(正確にはCBS)を嫌っている。しかし、政治レベルではパラマウント陣営を支援している。
この二層構造を理解すれば、今回の動きがようやく整理できると考えた。政治的なM&Aの本質も見えてくる。企業の買収は、トップの感情やSNSの投稿で揺れ動くような安直なものではない。政治ネットワークと金の流れがすべてを決める。今回の案件は、その典型例のように見える。
さらに、日経が伝えた内容でもうひとつ重要だったのは、パラマウントの動きだ。彼らはネットフリックスに対抗して、16兆円という巨額の上積み提案をした。これは単に意地になっているのではなく、政治の風向きを読んだ上での勝負に見える。
なぜなら、規制当局(司法省、FTC)を動かせるのは政権だからだ。現在の政権はトランプであり、その周辺は明らかにパラマウント寄りだ。ネットフリックス案は市場シェアの問題で厳しい審査を受ける。一方、パラマウント案には「米映画産業の保護」「ハリウッドの再建」という言い訳が立つ。政治的に推しやすいと思う。だからこそ、パラマウントは金額を上げてでも勝負に出ている。企業の戦略というより、政治の戦略に近い。
ふり返えると、最初に書いた「トランプはパラマウントを後押ししているのでは?」という仮説は、結果的には間違っていなかった。ただし、その後押しは感情的な支持ではなく、トランプ陣営のネットワークが編み込まれた政治的支援という意味だろう。そして、フォーブスの記事が示したのは、トランプの感情面の発言。日経の記事が示したのは、トランプの政治的判断。この二つを総合すると、今回の買収戦の力学が整理出来たように思えた。
最後に、この件で強く感じたのは、ハリウッドの再編はもはや文化産業の話ではなく、政治と金融が完全に絡んだ国家戦略ということだ。ネットフリックス、パラマウント、スカイダンス、そしてワーナー。アメリカの映像産業を巡る戦いは、その裏に政治的な思惑が折り重なっている。
一連の議論を通じて、トランプの言動をそのまま表面的に捉えると、まったく違う印象になってしまうこともよくわかった。SNSでの怒りの投稿に振り回されると、全体構造を見誤る。政治レイヤーと感情レイヤーは切り分けて読まなければいけないという教訓だ。ハリウッド再編の行方は、ここからさらに動くだろう。規制当局がどう判断するのか。トランプがどの程度関与してくるのか。そして両社の提案に乗った資金の流れがどこへ向かうのか。M&Aの世界では、最終的に勝つのは金額ではなく、政治の風向きと根回しだ。
もう少しこのテーマを追ってみたいと思う。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
ワーナー争奪戦はM&Aではない!政治と資本が交差する地政学ディールそのものだ。
2025年12月10日
早嶋です。約5200文字。
アメリカのニュースは、日本人の感覚では理解できない出来事が多々ある。Netflixによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収劇も、その典型だ。
HBOマックスの利用者を代表する消費者団体が、「値上げが心配だ」として買収の差し止めを求めて集団訴訟を起こした。このニュースは日本の常識からすると事件に見えてしまう。しかし、アメリカではこうした訴訟は日常の風景だ。この一つの事象から、今回の買収劇がどういう構造で動いているのかを紐解くと、単なる企業間のM&Aでは終わらない、もっと複雑で興味深い物語が見えてくる。やっぱりNetflixが自らプロディースする作品よりも面白い。
まずは、軽く、この消費者団体による訴訟から話を始めてみよう。
(アメリカの「訴訟文化」とNetflixに向けられた怒りの正体)
HBO Max のユーザー代表が、「Netflixに買われたら値上げされる」「サービス品質が落ちるかもしれない」として、買収の差し止めを求めた。これを聞いて、「そんなこと理由に訴訟が起こるのか?」と驚くだろう。日本ではあり得ないからだ。しかし、アメリカでは極めて一般的だ。むしろ、訴訟を起こさないほうが不自然なくらいだ。
アメリカの集団訴訟(クラスアクション)は、建前としては「消費者保護」のためだが、実態としては弁護士ビジネスの巨大市場だ。クラスアクションを主導する法律事務所は成功報酬で動く。勝訴や示談になれば巨額の報酬が得られる。だから、世の中で注目を浴びている大型M&Aや巨大企業の問題には、ほぼ必ずと言っていいほど「訴訟」という形で弁護士が群がる。利用者の怒りが背景にあることもあるが、それ以上に、弁護士が事件性を嗅ぎつけて仕掛ける側面が強いと思う。
つまり、今回の訴訟は、アメリカの制度と文化を理解すれば、「想定内の騒ぎ」なのだ。Netflixはこれまで何度も値上げを重ね、2011年の月額8ドルから現在は18ドルまで上がった。その積み重なった値上げへの不満も、こうした訴訟の火種になっている。
だが、この訴訟は買収の本質にほとんど影響しない。これは単なるノイズなのだ。M&Aの本丸は、もっと別のところにある!
(パラマウントが仕掛けた「M&Aとしては極めて高度な一手」)
ここからが本番だ。Netflixはワーナーを720億ドルで買収することで合意したと報じられた。しかし、そこに対して、パラマウント(正確にはパラマウントとスカイダンスの連合)が「1084億ドルを提示する」という対抗案を持ち込んだ。Netflixよりも約5兆円以上高い価格で買収に名乗りを上げてきたのだ。
この構図だけ見ると、「パラマウントが勝つのでは?」と思うかもしれない。しかし現実はそんなに単純ではないと思う。なぜなら、この進行は 通常のM&Aプロセスでは起こり得ない動きと思ったからだ。
通常の大型M&Aの流れは以下になる。
●まず買収額について双方で大まかな合意(LOI:Letter of Intent)
●買収額がまとまれば「独占交渉権」を与える
●独占期間中は、売り手は他社と交渉できない(No-shop 条項)
●売り手が途中で他社に乗り換えるなら Break-up fee(違約金)が発生
●DD(デューデリジェンス)を経て最終契約を締結(DA)
これが世界共通の流れだ。
つまり、大型のM&Aというのは、最初の金額提示で勝負がつくわけではない。むしろ、そこからが本番なのだ。買い手と売り手は、まず「この条件であれば話を進めましょう」という大枠の合意を交わす。しかし、この段階ではまだ法的な拘束力は弱く、あくまでも話を始めるためのメモ書きのようなものだ。
そこから、買い手が本気で動く場合は「独占交渉権」を求める。これは、売り手が他の企業と並行して交渉しないように封じる制度だ。売り手の立場からすれば、他社との競争を断ったまま特定の相手と話を進めることになるので、リスクがある。そのため、独占期間に入るときは、「もし途中であなたが他社に乗り換えるなら違約金を払ってくださいね」というブレークアップフィーを設定するのが一般的だ。
この独占交渉が結ばれてはじめて、買い手は本格的なデューデリジェンスに入る。売り手の内部資料をすべて開示させて精査し、財務状態、法務リスク、事業の将来価値などを徹底的に分析する。DDは長いと数カ月かかり、その後に最終契約(DA)を結ぶという流れになる。ここまで進んではじめて、「買収が決まった」と言える。
こうしたプロセスを見ても、通常ならNetflixが買収額を提示してワーナーと合意したと報じられた時点で、普通は独占が走るはずだ。しかし今回は、それが無い。だからこそ、パラマウントが後から堂々と割り込んでくることができた。この構造こそが、今回の買収劇を理解するうえで最大の違和感で本質なのだ。
つまり、Netflixがワーナーと金額合意したにもかかわらず、独占交渉権が付いていないのだ。通常なら、720億ドルという巨額のディールで、独占を付けずに他社と競わせ続けるということはまずあり得ない。
独占交渉がなければ、破談になっても Break-up fee が発生しない。つまり、ワーナーはいつでもパラマウントに乗り換えていい。Netflixがリスクを一方的に負う、極めていびつな状態だ。これは合理的ではないし、通常のM&Aの常識からは外れていると思うのだ。
ではなぜ、ワーナーは独占交渉を結ばなかったのか?そしてパラマウントはなぜ、このタイミングで高額提案を持ち込めたのか?ここの深堀りが、今回の一連の動きの中でワクワクする(と早嶋が思う)部分だ。
(オラクル、スカイダンス、クシュナー、中東ファンド……政治と資本が絡む「地政学的M&A」)
今回のパラマウント連合による買収提案の背景には、「ただの企業再編」では説明できない構造があると思った。むしろ、政治、国家、財閥、巨大ファンドが絡み合った三位一体の動きに見えるのだ。
パラマウントを率いるデービッド・エリソンは、オラクル創業者ラリー・エリソンの息子だ。オラクルとトランプ陣営は近い関係にある。そして、今回の買収資金の中には、トランプの娘婿ジャレッド・クシュナーが運営する投資会社の資金が含まれている。さらに、サウジ、アブダビ、カタールという中東の政府系ファンドが揃って参加している。
デービッド・エリソンの存在を軽く見てはいけない。彼の父であるラリー・エリソンは、オラクルという巨大企業をつくり上げたアメリカ有数の富豪であり、政治的な影響力も非常に強い。トランプ政権のときには、デジタル政策や軍関連のIT案件をめぐり、オラクルがホワイトハウスに頻繁に出入りしていたことが知られている。
特に、TikTokをめぐる問題でオラクルが買い手候補として名前が挙がったとき、ラリー・エリソンのトランプ支持が背景にあったと多くのメディアが報じた。つまり、オラクルは政権との距離が近い企業の代表例だ。今回、スカイダンス(デービッド・エリソン)が前面に出ているとはいえ、その後ろにはオラクルの影がうっすら見えてくるのだ。
それだけではない。買収資金の一部には、トランプの娘婿であるジャレッド・クシュナーが運営する「Affinity Partners」が関与している。クシュナーは政権時代、中東外交で中心的な役割を果たした人物だ。サウジのムハンマド皇太子(MBS)とは特に親密で、退任後すぐにサウジから巨額の資金を託されたことはよく知られている。Affinity Partners そのものが、アメリカ国内では政権人脈の投資会社として見られている。つまり、純粋な金融投資というよりも、政治的なネットワークが資金調達の根幹にある会社だ。
そこに加えて、サウジのPIF、アブダビのADIA、カタールのQIAという三つの政府系ファンドが揃って参加している。これも異例だ。中東の政府系ファンドは、それぞれ国家戦略としての投資ポートフォリオを持っているため、通常は国ごとに狙いが違う。サウジは文化産業への長期投資に積極的だが、カタールはスポーツやエネルギー、アブダビはアセットマネジメントが中心といった具合に役割分担がある。それが今回は三者同時にハリウッドの案件に乗っている。これは偶然ではなく、クシュナーを中心にした政治ネットワークと、アメリカ右派に近い資本陣営が結節点になって動いていると考えたほうが自然なのだ。
映画やドラマというコンテンツ産業は、単なるビジネスではなく、国家の文化影響力そのものだ。中東諸国は、次の時代の文化輸出やコンテンツ支配を本気で狙っている。そこにアメリカ右派の政治家や財閥が手を結び、「ハリウッドの再編」という巨大なテーブルの上で資金を動かしている。今回の買収劇は、企業のM&Aというより、国家や政治勢力がコンテンツ産業の主導権を取りにいく地政学的な争奪戦に近いのだ。
どうだろう。これほど政治色の強い資本連合がハリウッド企業買収に動くというのは、非常に異例だと思わないか。しかも、ここには明らかな伏線があった。トランプは7日の時点で、Netflixによるワーナー買収について「市場シェアが問題だ」とわざわざコメントしているのだ。
要するに、Netflix とワーナーは、独占禁止法的に問題がある、と政権が言い出したのだ。一方、パラマウントとワーナーは再編として扱われやすく、政治的に通しやすいようにも見える。しかも、パラマウント案にはトランプ側近・中東ファンドが出資している。
トランプが「Netflix案は危ない」と発信することで、間接的にパラマウント案を後押しする構造になっている。とも言えるのだ。更に、こうも読める。クシュナーの案件を通したい!そこで、Netflix案を牽制する。加えて、中東ファンドも喜ぶ。オラクルとの関係も強まる。
邪だが、早嶋はこのように感じてしまった。
●息子(クシュナー)を応援したい!
●中東系ファンドも喜ぶ!
●Netflixのシェアに問題があるという名目も立つ!
という構造だ。
まさに、政治、財閥、国家ファンドの利害が一致した地政学案件として動いているように見えるのだ。
一方で、ワーナーの取締役会はパラマウント案の「資金調達ルート」を懸念していると報じられている。これは単に資金の確実性を疑っているだけではないと思う。国家ファンドが入ると、編集の自由や政治的中立性が問われる。ハリウッド企業としてのブランドリスクを考えれば、これは当然の懸念だ。
つまり、ワーナーの取締役会は、より高い価格を提示したパラマウント案に惹かれつつも、政治的リスクの高さに怯えているという状況だろう。ここまで来ると、今回の買収劇はもはや通常のM&Aではないといえると思う。
(この買収劇は「競争入札 → 独占 → 契約」という普通の流れではない)
最後に、M&Aの実務の観点から今回の流れを再び整理してみる。
通常なら、
●競争入札で勝者が決まる
●独占交渉へ進む
●Break-up fee を設定する
●最終契約へ進む
だ。
しかし今回は、
● Netflixが勝ったはずなのに独占交渉がない
● パラマウントが対抗案を出せている
● Break-up fee が存在する気配がない
● ワーナーは両者を比較検討中という立場を続けている
これはつまり、現時点のNetflix案は「非拘束型LOI(Non-binding LOI)」である可能性が高いということだ。だからこそ、パラマウントは自由に入札できたし、ワーナーは乗り換え可能なのだ。つまり、Netflixは勝ったのではなく最初に合意しただけなのだ。ここから先は、政治の風向き、ファンドの動き、中東マネーの意思、トランプ政権の独禁法判断、そして株主価値の最大化とドロドロしたドラマが生で展開されるだろう。これらが絡み合いながら決まっていくのだ。
そう、今回の買収劇は、企業間の戦いではなくなったのだ。アメリカ右派と中東政府ファンドとハリウッド再編という三位一体の巨大力学がぶつかり合う、稀に見るディールに発展しているように見えるのだ。
さぁ、Netflixがどう動くのか。パラマウントが本当に買い切るのか。政府がどこまで介入するのか。そしてワーナー取締役会はどちらを選ぶのか。
いずれにせよ、これは単なるM&Aではなく、国家と企業が垂直に交差する巨大な物語の序章なのだ。間違いなく、歴史に残るレベルのメディア再編をリアルタイムで見ているのかもしれない。このお話こそ、サブスクで視聴し続ける価値のあるプロダクトなのだ。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
ネットフリックスがワーナー買収へ。世界の「ポスト・ストリーミング時代」が始まる
2025年12月9日
早嶋です。約7600文字。
ネットフリックスがワーナー・ブラザースをM&Aする。このニュースが現実になりつつある。既に報道でも具体的な条件まで公表されている。まず、事実関係を整理してみる。
(現時点でのファクト情報)
ネットフリックスはワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)の「映画・テレビスタジオ」と「HBO(Home Box Office
:1972年に誕生した米国初の有料チャンネル)/Max(大衆向け・総合型ストリーミング)などのストリーミング事業」を買収することで合意。取引の形は現金と株式の組み合わせで、企業価値ベースで約830億ドル(エクイティ価値で720億ドル)規模と言われている。1株あたり23.25ドルを現金で、4.5ドル相当をネットフリックス株で支払う内容だ。
一方で、CNNやDiscoveryチャンネルなどのケーブルテレビ網は「Discovery Global」という別会社にスピンオフされ、ネットフリックスはそこには手を出さない。ワーナー側はケーブルを切り離し、スタジオとストリーミングだけをネットフリックスに売るのだ。
契約には巨大なブレークアップ・フィー(違約金)も設定されている。もし規制当局の審査などで取引が頓挫した場合、ネットフリックスは58億ドルをWBDに支払う。WBD側にも28億ドルの違約金が設定されていると言われ、両社とも本気度は高い。
スケジュールは、まずWBDがDiscovery Globalのスピンオフを2026年第3四半期までに完了させる。その後、12ヶ月から18カ月かけてネットフリックスによる買収をクローズする流れだ。早ければ2026年末から2027年頭には「ネットフリックス+ワーナー」という新しい怪物企業が誕生する可能性があるのだ。ここまでが前提の事実だ。
(ストリーミング業界の勢力図)
では、このディールが本当に「独占禁止」に抵触するレベルなのかどうか。考えるために、まずストリーミング業界の勢力図を整理してみた。
早嶋の頭の中では、「動画配信=ネットフリックス」というイメージが強かった。実際、数字を見てもネットフリックスの規模は桁違いだ。2024年の売上高は約390億ドル。2015年には約68億ドルだったので、10年足らずでほぼ6倍に成長した計算だ。加入者数で見ると、2023年末時点で約2億6,000万人、その後も伸び続け、2025年5月時点では3億人超と報じられている。そのうち約9,400万人が広告付きの低価格プランだ。広告付きプランだけで、ひとつの巨大なテレビネットワーク並みの規模になっているのだ。
地域別に見ると、2024年時点で売上は北米(米国+カナダ)が約174億ドル、EMEA(欧州・中東・アフリカ)が約124億ドル、ラテンアメリカが約48億ドル、アジア太平洋が約44億ドル。北米がいまだ最大だが、加入者数ではすでにEMEAが北米を抜き、ラテンやアジアもじわじわと存在感を増している。
ライバル側に目を移そう。アマゾン・プライム・ビデオは、2025年時点でプライム会員ベースだと全世界で2億から2億6,000万人規模と推計される。映像だけを切り出した正確な数字は開示されていないが、ストリーミング市場でのシェアは世界全体で2割前後とされ、ネットフリックス、ディズニーと並ぶ「トップ3」の一角だ。
ディズニーは、Disney+単体で見ると2025年時点で約1億2,000万から1億2,500万の加入者を持ち、HuluやESPN+を含む「ディズニーのストリーミング全体」で見ると2億人近い利用者を抱えている。2024年にはストリーミング部門が黒字化し、直近の四半期ではディズニー+Huluの加入者が1億9,600万と報じられている。
ワーナー側のMax(旧HBO Max)も、単独で見ると約9,500万加入者という推計がある。ここにネットフリックスが持つ3億人規模のベースが重なったとき、市場シェアはどう見えるのか。グローバル全体では、アマゾンやディズニー、YouTube(厳密にはSVODではないが、視聴時間ベースでは巨大なライバル)も含めると「ネットフリックス一社が全部を食う」という世界にはまだなっていない。
しかし、世界は「グローバルだけを見ていれば良い」ほど単純ではないと思う。ブラジルを例にとると、この国はすでに「世界第二のネットフリックス市場」だと言われている。オムディアの分析によれば、2025年時点でブラジルにおけるネットフリックスの加入者は約2,060万人で、オンライン有料動画市場のシェアは約30%。次いでアマゾン・プライム・ビデオが14%、ローカル勢のGloboplayが10%を握っている。
韓国では事情が少し違う。ここではネットフリックスが視聴シェアでトップを走りつつも、地元勢のTVINGやCoupang Playが猛追している。2024年半ば時点で、TVINGは約420万から520万加入者、韓国プレミアムVOD市場全体の16%前後のシェアを持つとされる。
中東・北アフリカでは、MBCグループの「Shahid」がサブスクリプションと広告付きの両方で圧倒的な存在感を持っており、2024年時点で有料会員は約480万人、MENA地域のSVOD加入者の約2割強を押さえている。
つまり、わたしたちがイメージする「ネットフリックス対ディズニー、アマゾン」というグローバル三つ巴の構図の裏側には、ブラジルでのGloboplay、韓国でのTVING、中東のShahidのように、「各国ごとのローカル王者」がしっかりと存在している世界だということだ。
(独占禁止法が懸念される3エリア)
これまでの議論でわかるように、今回のネットフリックスとワーナーのディールで独占禁止の懸念が強く出るのは、米国、欧州、ラテンアメリカの3つのエリアだ。
まず米国。ここは言うまでもなくネットフリックスの最大市場であり、HBO/Maxも強い。しかも、政治的な意味でも「象徴的」な市場だ。トランプ大統領は、買収発表直後から「ふたりをくっつけるとシェアが大きくなりすぎて問題になるかもしれない」と何度も発言している。本人いわく、この案件について自分も審査プロセスに「関与する」と明言しており、DOJ(司法省)やFTC(連邦取引委員会)の独立性をめぐっても議論を呼んでいる。
米国の反トラストの世界では、ざっくり言えば「市場シェア30%」というのが一つの目安だ。もちろん、それを超えたから即アウトではないが、そこを大きく超えると「本気で解体や条件付き承認を検討しましょう」というモードになる。今回のディールで問題になっているのは、Netflix+HBO Maxを足し合わせると、米国の有料ストリーミング市場のシェアが30%を明確に超えるのではないか、という点だ。実際、トランプ周辺や業界アナリストのコメントでも「30%超」が繰り返し言及されている。
さらに、映画館サイドからも反発は強い。ワーナーは「ハリー・ポッター」「DC(DCコミックス:スーパーマン、バットマンなどのアメリカの漫画)」「指輪物語」「マッドマックス」など映画館のドル箱IPを多数持っている。ネットフリックスは基本的に「劇場よりもストリーミング」を優先してきた企業だ。彼らがスタジオごと抱え込むことで、「劇場公開作品が減る」「条件が悪くなる」と警戒するのは当然だろう。映画館業界の団体や一部の監督たちは、「作品の多様性が失われ、クリエイターの交渉力も落ちる」と強く反対を表明している。
欧州は、少し違う視点だ。欧州委員会は、ITプラットフォームに対する規制でも先頭を走っており、メタやTikTokに対しても独禁・デジタルサービス法で強い姿勢を取っている。その文脈で、「米国発の巨大プラットフォームが、欧州でも映像コンテンツまで握るのか」という警戒感がある。今回のディールも、欧州委員会が正式に審査に入ることはほぼ確実で、場合によってはHBOや一部のチャンネルを特定の国では切り離すような「行動措置」を求めてくる可能性が高い。
ラテンアメリカ、とくにブラジルでは、状況は異なる。さきほど触れたように、ブラジルのNetflixシェアはすでに有料オンライン動画で約30%。ここにHBO Maxのシェアが上乗せされると、単純合算では4割前後に達する可能性が高い。もちろん、実際の審査ではYouTubeや無料広告付きサービス(FAST)も含めて市場を定義するかどうかで数字は変わる。しかし、「Netflix+HBO=ブラジルのオンライン映像の半分近くを押さえる構図」は、政治的にも世論的にも相当インパクトがある。ブラジルの競争当局CADEが、このディールを素通りさせるとはわたしには思えない。
こうして見ると、「独占禁止の本丸」は米国とEUであり、その延長線上にブラジルを中心としたラテンアメリカがある、という構図が見えてくる。
(ネットフリックスの戦略)
ネットフリックスはこのハードルを乗り越えるために、どのような条件を提示しうるのか。ここから先は、ある程度、早嶋の推測も含め、現実的なオプションをいくつか考えてみた。
1つは、「HBO Maxの扱い」を柔らかくする方向だ。たとえば、米国や欧州では、一定期間にわたってHBO Maxを完全にはネットフリックスの中に統合せず、ブランドもアプリも残したまま「グループ内の別サービス」として運営する。料金も別、ログインも別。裏側の技術やレコメンド、広告販売だけを統合して効率化する、というパターンだ。これはすでに一部メディアで「サービスの運営上は別にする」と報じられており、ネットフリックス自身も「HBOのブランドと劇場公開は守る」と強調している。
2つ目は、「コンテンツの開放」だ。つまり、自社プラットフォームだけにワーナー作品を囲い込まない、という約束をする。たとえば、ブラジルではGloboplayやローカル局にも一定割合でライセンスを続ける、欧州では地場の放送局や他のSVODに対してもワーナー作品の放映権を提供し続ける、といった条件だ。これは過去のメディア合併でもよく使われてきた「ライセンス義務」に近い発想で、規制当局からすれば「コンテンツの窓口がネットフリックスだけになる」ことへの懸念を和らげる効果がある。
3つ目は、「地域ごとの切り売り・パートナーシップ」だ。極端な話、ラテンアメリカの一部地域では、HBO Maxのブランドや運営を共同出資会社に移し、そこにローカル勢(たとえばグローボなど)を資本参加させるようなスキームも考えられる。これは、将来、ネットフリックスが本当にグローバルで4割・5割というシェアに近づいたときに、「いくつかの地域はジョイントベンチャーや提携モデルで運営する」という逃げ道にもなる。
4つ目としては、「価格と広告の約束」がある。たとえば、買収後一定期間、主要市場での値上げを行わない、あるいは広告付きプランの料金を据え置く、といったコミットメントだ。これは消費者保護の観点から政治的にアピールしやすく、米国の議会や欧州議会に対する「見せ札」としても意味を持つ。
現実には、これら複数の条件を組み合わせて、「完全統合までは時間をかける」「一部地域ではライセンス開放やパートナーシップを維持する」「短期的には値上げもしない」といったパッケージとして提示していくと思う。今回のディールには、もし頓挫した場合の58億ドルという巨大な違約金がある。そこまでのリスクを取るからには、ネットフリックス側も、かなり柔軟に条件を飲む覚悟があるはずだ。
(ネットフリックスがワーナーを取り入れて実現したいこと)
ネットフリックスがワーナーを手に入れたい理由は何だろう。早嶋は、ポイントは大きく3つあると思う。
1つ目は、言うまでもなく「IPの塊」を取りにいく動きだ。ハリー・ポッター、DCユニバース、ゲーム・オブ・スローンズ、HBOの高品質ドラマ群。これらは単なる作品ではなく、世界中にコアなファンを抱えるIP資産だ。シリーズ作品、スピンオフ、ゲーム、テーマパーク、グッズ、あらゆる方向に展開できるポテンシャルの塊だ。ネットフリックスはこれまで、自社オリジナルで『ストレンジャー・シングス』や『イカゲーム』のようなIPを育ててきたが、その多くはまだ歴史が浅く、ディズニーのマーベルやスター・ウォーズほどの厚みはない。ここにワーナーのIPが乗っかると、「グローバルIPの厚み」という意味で、一気にディズニーと同等かそれ以上のポジションに近づく。
2つ目は、「スケールと交渉力」の問題だ。映像コンテンツのビジネスは、制作費も配信コストも年々膨らんでいる。ネットフリックスはすでに年間170億ドル前後のコンテンツ投資を行っており、2025年以降は180億ドル規模に増やすと見込まれている。ここにワーナーの既存スタジオや制作ラインが入ってくれば、製作スケジュールの平準化や、グローバルでの著作権管理の統合などで、かなりのコスト削減余地が出てくる。実際、ネットフリックスは「3年目までに年20億ドルから30億ドルのコストシナジー」を公表している。
また、IPホルダーとしての交渉力も変わる。たとえば、ゲーム会社やおもちゃメーカー、テーマパーク運営会社とのライセンス交渉の場面で、「ネットフリックス自身がスタジオと配信を握っている」という構図は非常に強い。ディズニーが自社スタジオとディズニープラスを持っているのと同じように、ネットフリックスも「コンテンツから配信まで自前で回せる」企業になる。
3つ目は、「時間と不確実性をショートカットする」狙いだと思う。これまでのネットフリックスは、大型M&Aを避け、自社制作とライセンスでジワジワと勢力を広げてきた。だが、ここ数年でディズニーやアマゾンだけでなく、アップル、YouTube(YouTube Premium)、さらにローカル勢も力をつけ、ストリーミング市場の成長速度は鈍化している。その中で、今から同じペースでIPを育てていても、「ディズニー+マーベル+スター・ウォーズ」の組み合わせにはそう簡単には追いつけない。
ワーナーを丸ごと取りにいくことは、まさに「時間を買う」行為だ。すでに100年近い歴史を持つ映画会社、テレビスタジオ、HBOというブランド、そして膨大なライブラリー。それを一気に自社のビジネスに組み込むことで、「2030年代を見据えたポジション取り」を一気に前倒しするのだ。早嶋は、今回のディールの本質はそこにあると思う。
(M&Aが成立した後のネットフリックス)
ここまで議論した条件と調整を経て、12ヶ月から18カ月後に買収が成立したとしたら、ネットフリックスはどんな姿になっているだろうか。
まず、「世界最大の映像ストリーミングサービス」という肩書きに加えて、「世界有数の映画・テレビスタジオを併せ持つIPコングロマリット」になる。ディズニーはテーマパークと古典アニメとファミリーIPを軸にした巨大企業だが、ネットフリックス+ワーナーの組み合わせは、もう少し「大人向け」の色が強い。HBOの大人向けドラマ、DCのダークなヒーロー、ゲーム・オブ・スローンズのような過激なファンタジー。そこに、ネットフリックスが得意とする韓国ドラマやスペイン発のスリラー、ドキュメンタリーなどが混ざる。多様性という意味では、ディズニーとは違う方向の「世界の縮図」が出来上がる気がする。
ビジネス面では、売上規模は単純合算で500億ドルに近づき、フリーキャッシュフローは80億ドル超に達すると見込まれる。広告付きプラン、ゲーム事業、ライセンス収入を含めると、もはや「サブスク企業」というより、「IPを起点にした複合エンターテインメント企業」と呼んだほうが近い姿になるだろう。
ライバルの反応も当然激しいはずだ。ディズニーは、さらなるコスト削減とIP活用の深堀り(ゲーム、体験型イベント、リアル施設など)に一段と舵を切るだろう。アマゾンは、プライムビデオ単体ではなく、「ショッピング+映像+音楽+ゲーム+クラウド」というエコシステム全体の価値を前面に押し出し、「ネットフリックスと真正面からサブスクで戦うのではなく、生活全体のプラットフォームとして戦う」という戦略を一層強めると思う。
ローカル勢も黙ってはいない。ブラジルのGloboplayは、ディズニーとの共同制作やスポーツ中継、ニュースとの連携をさらに強化して、「ブラジル人にとって一番身近なプラットフォーム」というポジションを固めにいくだろう。 韓国ではTVINGとCoupang Playが合従連衡しながら、Kドラマとスポーツ、バラエティを武器に「ローカル最強」を目指す。中東ではShahidが、アラブ圏のローカルコンテンツとニュース、スポーツを束ねるハブとしてさらに成長するだろう。
つまり、ネットフリックスがワーナーを飲み込んだとしても、「全世界で一強」という世界がすぐに訪れるわけではない。むしろ、「グローバルに2社から3社の巨大プレイヤー」と、「各国ごとのローカル王者」が共存しながら、時に提携し、時に戦うという構図がしばらく続くのだと思う。
ただし、その中でネットフリックスが握るカードは、やはり別格になる。3億人を超える会員基盤、ワーナーのIPとHBOブランド、そして自社のデータとレコメンド技術。これらをどう組み合わせるかで、映像コンテンツの「意味」と「価値」の付け方が、これから大きく変わる可能性がある。
作品がヒットするかどうかは、もはや脚本と演技だけではない。どの国で、どのタイミングで、どの層に、どの順番で提示するか。その「編成」と「編集」の力こそが、次の10年の競争領域になっていく。ワーナーを手に入れたネットフリックスは、そのゲームの盤面をかなり自分に有利なように組み替えることができるだろう。
今回のディールが最終的に認可されるのか、それともどこかの規制当局がストップをかけるのか。現時点では誰にもわからない。ただ1つ確実なのは、この1年から1年半にわたる攻防が、「ポスト・ストリーミング時代」の勢力図を決定づけるイベントになる、ということだ。
DVDからストリーミングに移行した第一幕のさらに先、「ストリーミング同士が統合していく第二幕」の入り口に立っている。ネットフリックスとワーナーの交渉は、その象徴的な一手になるはずだ。この物語の結末は、ネットフリックスが放映するどの番組よりもワクワクする。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
プロダクトは一流、顧客体験は昭和
2025年12月6日
早嶋です。約6700文字
キャノンの新商品。RF45mm F1.2を予約購入した。R6Mark3と共にリリースされたバラマキレンズのようで、大玉の明るいレンズなのにコストパフォーマンスに優れた商品だ。キャノンの直販サイトから注文した。いつものように商品の発送時期が不明だ。「やっぱりCanonの顧客対応は昔と変化がない」と、妙な既視感も同時にやってくる。
キャノンのオンラインショップにログインして購入履歴から問い合わせフォームを開く。普通なら、すぐに購入した商品の問い合わせができると期待するが、問い合わせのシステムとの連携がなく、初めから個人情報や注文番号を入力しないと問い合わせが出来ない。諸々入力を済ませ商品の配送状況を問い合せる。
数日後、サポートから届いたのは、こんなメールだ(要約)。ご本人様確認のため「CAから始まる注文番号」をメールで教えてください・・・。
いやいや、その画面を見ているのはそちらではないのか、と思いながら。再びキャノンの購買サイトにログインし、購入履歴を開き、「CA0……」で始まる番号をコピペして返信する。
その結果返ってきたのは、発送予定は現時点でお示しできる情報がなく、かなりお時間をいただく見通しです。という、極めて「教科書的」な回答だった・・・。
ここまでのやり取りを経験して、改めて思った。単にオペレーターの問題ではない。CanonとCanonマーケティングジャパン(以下CMJ)の構造とシステム設計の問題だと。以下、その仮説を整理しつつ、競合各社との比較も交えながら、丁寧に整理した。
(CanonとCanonマーケティングジャパンの関係)
まず僕が商品を予約購入して、商品の状況を把握する際にやり取りする相手を整理したい。
Canon Inc.(キヤノン株式会社)
本体はグローバルな製造・開発会社で、事業はPrinting/Medical/Imaging/Industrialなどの事業部で構成されている。最新のアニュアルレポートによると、2023年の売上は4兆1,809億円、そのうち日本向けが約9,016億円、海外向けが約3兆2,794億円だ。
Imaging Business Unit(イメージング事業)
デジタルカメラ、交換レンズ、コンパクトカメラ、ネットワークカメラなどを束ねる事業だ。2023年の売上は約8,616億円、税引前利益は約1,464億円で、売上構成比でみてもCanon全体の中核事業の一つだ。
Canon Marketing Japan Inc.(キヤノンマーケティングジャパン)
日本国内における販売・マーケティング・ITソリューションを担う会社だ。現在はCanon本体の完全子会社。オフィス機器やコンシューマ向け製品、産業機器などを、日本市場向けに「売る・サポートする」役割を持つ。
オンラインショップでRFレンズを購入し、サポートとやり取りしている相手は、このCMJのお客様相談センターだ。Canon本体(開発・製造)とは別会社で、当然ながら社内のシステムもKPIも異なる。この「製造会社」と「国内販社」の分業そのものは、家電メーカーや自動車メーカーでもよくある構造だ。問題は、その構造とシステム設計が2025年の顧客体験の水準にまったく追いついていないという点だ。
(ログインしているのに、もう一度すべて聞かれる理由)
今回の体験を整理すると、UXとしてはこんな流れだ。
●Canonオンラインショップにログイン
●購入履歴から問い合わせフォームへ
ふつうなら「注文番号」や「名前」は自動で入っていてほしいが、すべて入力を求められる。数日後の返信で、さらに「CAから始まる注文番号をメールで送ってください」と言われる。
ここから推測できるのは、オンラインショップの会員情報・注文情報と、問い合わせ窓口のシステムが「ほぼつながっていない」ということだ。サポート側は、メールで送られてきたテキスト情報だけを手掛かりに検索しているのだ。「本人確認の3点セット」が内規として絶対になっており、その運用にシステムが最適化されているという構造だろう。Canon側から見れば、個人情報保護・なりすまし防止の観点から「本人確認の厳格運用」が優先されているのだろう。コールセンターのオペレーションを、機械的なルールに落とし込んで属人性を減らしたいという「内部効率」の論理が働いているはずだ。
しかしユーザー視点で見れば、ログインして購入履歴から問い合わせている時点で、
「誰が」「どの商品」について問い合わせているかは、すでにCanon側で握っているはずだろう?という感覚になる。
ここに内部最適と顧客体験のギャップがあるのだ。これはおそらく、CMJ側の顧客管理システムと、オンラインショップの注文管理システムが技術的にも組織的にも統合されていない(あるいは統合への優先度が低い)ことの現れだと早嶋は考えた。
(Canonのビジネス構造とカメラ市場の変化)
さきほど触れたように、Canonのイメージング事業は約8,616億円の売上と、1,400億円超の利益を稼ぎだす大きな柱だ。さらにニコンや各種調査をまとめたレポートによれば、2023年の交換レンズ付きカメラ(ILC)の世界シェアは、Canonが実質5割近いと言われている。ミラーレスに限っても、2023年時点でCanonは約41%、Sonyが32%、Nikonが13%程度というデータもある。つまり、「市場全体が縮小している」とはいえ、Canonのカメラ事業は依然として売上も利益も大きく、マーケットシェアもトップというのが現状だ。
Canon全体の売上を地域別に見ると、2023年はざっくり以下のような構成になっている。
●日本:9,016億円(全体の約22%)
●アメリカ:1兆3,124億円(約31%)
●欧州:1兆1,112億円(約27%)
●アジア・オセアニア:8,557億円(約20%)
イメージング事業だけの地域別内訳は開示されていないが、ネットワークカメラや監視用途などのB2B需要も含めると、北米・欧州の比重はかなり高いと考えられる。
一方で日本は、人口構造や所得構造を考えても、「プロ・ハイアマチュアの密度は高いが、ボリュームとしては頭打ち」な市場だ。
ただ、Canonは「プロ向け」と「一般ユーザー向け」の売上比率を公表していない。これはSonyもNikonも同様で、「プロ」「コンシューマ」の線引き自体が難しいという事情もあるだろう。ただし、スマホのカメラがここまで進化した今、 「日常スナップ」はほぼスマホに置き換わっている。それでもわざわざ高価なフルサイズボディと大口径レンズを買う人は、
①プロ
②プロ並みに投資できる金持ちアマチュア
に大きく二分される。この仮説は、統計以上に現場感覚としてかなり妥当だと思う。デジタルカメラ市場全体も、2020年以降は底打ちし、ミラーレスと高付加価値レンズを中心に緩やかな成長に転じているというレポートもある。つまり、今の高級カメラ市場は、「プロ」+「金持ちアマチュア」の財布を、各社が奪い合っている
と言い換えてもいい。そのときCanonの現在の方針、超プロダクトオリエントで、顧客体験は販社任せ、が最適なのかどうか、というのが今回の問いだ。
(Sony/Nikon/OM System/Panasonicをざっくり比較)
Sonyは少し特殊な存在だ。カメラ本体は「エレクトロニクス&エンタテインメント」系の事業(ET&S)に入る一方、イメージセンサーはImaging & Sensing Solutions(I&SS)として別事業で巨大な売上を持つ。Appleをはじめスマホ各社にセンサーを供給しながら、自社のαシリーズに最新センサーをいち早く搭載できる。ここにCanonやNikonにはない強みがある。
マーケティング面でも、動画・Vlog・クリエイターを明確なターゲットに据え、YouTube/Instagramでのインフルエンサー施策、直営のソニーストアや体験イベントを通じて、「ガジェット好き・クリエイター層」の顧客体験をかなり丁寧に設計している印象が強い。プロダクトはもちろんハイレベルだが、製品スペックと顧客体験をセットで設計しているという点で、Canonとは性格が違う。
Nikonは一時期かなり厳しい状況に追い込まれたが、ここ数年は中高級ミラーレスに絞り込むことで収益性を回復させつつある。2023年度の全社売上は約6,281億円、そのうちイメージング事業はミラーレスとレンズの高付加価値化で増収・高収益を維持している。ただし規模はCanonやSonyに比べれば小さく、 「限られたリソースでZシステムを磨き込む」という戦略にならざるを得ない。
プロダクトは非常に良いが、全体の構造としてはCanonと同じく強いプロダクトオリエント+販社主導の顧客接点という印象だ。
オリンパスのイメージング事業は2021年に切り離され、現在はOM Digital Solutionsとして独立している。各種インタビューを読むと、彼らは明確に、小型・軽量・防塵防滴アウトドア・野鳥・登山・ネイチャーといった用途にフォーカスし、「ど真ん中のマス」ではなくニッチの厚みを積み上げる戦略を取っているのが分かる。
マーケティング的には、顧客セグメントをかなり絞ったプロダクト・ポジショニングで、巨大なシェアを狙うより「好きな人が徹底的に好きでいてくれるブランド」を目指しているように見える。
PanasonicのLUMIXは、グループのエンターテインメント&コミュニケーション事業の一部として位置づけられ、デジタルカメラだけでなくプロ用AV機器や放送機材などと一体で事業運営されている。Leicaとの提携による「L² Technology」でレンズ・ソフトを共同開発し、Lマウントアライアンスという「陣営戦略」でシステムを維持する。シェアとしては世界全体で数%レベルだが、動画・シネマライクな画づくり、クリエイター向けの機能性で一定の支持を得ている。
(Canonの「超プロダクトオリエント」とCMJの分断)
ここまでをざっくり整理すると、Canon本体は「Imaging=プロダクトの塊」としての強さでトップシェアを維持。CMJは国内販売とサポートを担うが、システムとマーケティング設計が古い。競合は、規模の差はあれど、 プロダクト+顧客体験+クリエイター・コミュニティを束ねて設計している。
と、そんな構図が見えてくる。僕の仮説では、Canonは意識的か無意識かは別として、プロ向けの一部にはきめ細かく、一般ユーザーには「販社仕様」で対応するという二層構造になっている。プロ・報道・スポーツ用には、CPSなどの専用サポートがあり、 新製品の先行貸出やイベント招待も含めて「手厚い」。一方で、オンラインショップでレンズを買った一般ユーザーは、 「CMJのお客様相談センター」という汎用窓口を通る。
ここで問題になるのは、「オンラインで数十万円のレンズを買うハイアマチュア」が後者に分類されているという点だ。高級カメラ市場が「プロ+金持ちアマチュア」で成り立っているのだとすれば、この層は本来、航空会社でいう「上級会員」に近い扱いを設計すべき顧客だ。しかし現状のCanonでは、購入履歴とサポート履歴が分断され、顧客の資産(ボディ・レンズの所有本数や単価)も把握されておらず、その結果、すべての問い合わせが「一見さん扱い」になっている。
これが、今回の「CA番号を教えてください」から始まる一連の体験の裏側にある、構造的欠陥だと早嶋は見ている。
(もし僕がCanonのマーケティング責任者だったら)
ここからは完全に妄想だが、もし早嶋がCanonのマーケティング側にいたら、プロダクトオリエントを維持したうえで、顧客体験をどう再設計するかを考えてみたい。
デジタル統合ももちろん必要だが、高級カメラの場合、お金と時間に余裕があるハイアマチュアは、わざわざ店に行く。だから早嶋なら、Appleがそうしたように、Sonyも行っているように国内では 東京・大阪・名古屋(+できれば福岡)、そして海外ではCanonが強い北米・欧州の主要都市に、フラッグシップストアを置く。
そこでは、
●ボディ・レンズのフルラインナップを「触って・撮って・比較できる」
●プロ写真家による少人数ワークショップ
●メンテナンス・センサークリーニング・レンタル
●自分の機材構成や撮影ジャンルに応じた「パーソナルコンシェルジュ」
をセットにして、「Canonを使う生活そのもの」を体験できる場にする。
そして、顧客の機材保有状況と購入履歴にもとづいて、航空会社のマイルプログラムのようなステータス制度をつくる。
●ボディ・レンズの合計投資額
●購入頻度・イベント参加履歴
●オンラインショップでの活動
に応じて、
●専用サポート窓口(電話・チャット・メール)
●新製品の優先試写会・貸出
●センサークリーニングや簡易チェックの無償枠
などを段階的に付与する。
重要なのは、「あなたはCanonにとって大事な顧客です」と、行動で伝えることだ。
そして、今回のような問い合わせ体験を根本から変えるには、
●CMJのオンラインショップ
●お客様相談センターのCRM
●保証書・修理履歴のデータベース
を、最低限の粒度で結合することが必要になる。
ログインして購入履歴から問い合わせた時点で、オペレーター画面には、 「誰が」「どの商品について」「どんな履歴を持って」問い合わせているかが 最初から表示されている。本人確認は、ログイン済みであれば最小限の確認事項だけですむ。という状態に持っていく。ここまでやって初めて、「Canonはプロダクトだけでなく、顧客体験もプロ仕様だ」と言えるようになるのだ。
(今回の考察で「分かったこと」と「まだ分からないこと」)
最後に、今回の一連の議論を整理しておきたい。
●事実として確認できること
Canon本体とCanonマーケティングジャパンは別会社であり、 CMJは日本国内における販売・マーケティング・サポートを担う完全子会社である。Canonのイメージング事業は約8,600億円の売上と高い利益を持つ中核事業であり、 世界の交換レンズ付きカメラ市場でもトップシェアを維持している。地域別売上を見ると、アメリカ・欧州での売上規模が大きく、日本は全体の2割強にとどまる。
Sony/Nikon/OM System/Panasonicは、それぞれ
●Sony:センサー+動画+クリエイターで攻める
●Nikon:中高級に絞ったプロダクトシフト
●OM:アウトドア・野鳥などニッチ特化
●Panasonic:動画とLマウント連合
という明確なポジショニングで戦っている。
早嶋が体験したように、CMJのオンラインショップとサポート窓口は、 ログイン済み・購入履歴からの問い合わせであっても、 再度注文番号や個人情報を要求する運用になっている。
●仮説レベルに留まるもの
Canonのイメージング事業の中で、 プロ市場とアマチュア市場がどのくらいの比率なのかは、公開情報からは分からない。ただしスマホの影響を考えると、「高付加価値ゾーン=プロ+金持ちアマチュア」が主戦場になりつつあるという仮説は、かなり妥当だと思う。
オンラインショップ・CRM・修理データベースなどがどの程度連結されているかは外部からは見えない。 ただし、今回のようなUXを見るかぎり、 「少なくとも顧客が期待する水準までには統合されていない」と推測できる。Canonがこの状態を「意図して」プロ向け/一般向けで差別化しているのか、単にプロダクトオリエントに全振りしていて、 顧客体験やデータ統合に投資してこなかった結果なのか、 は現時点では判断できない。
RF45mm F1.2という、アマチュア以上をターゲットにしたレンズを買ったユーザーが、サポートの入口では「一見さん」と同じ扱いを受ける。このギャップは、単なる不親切というレベルを超えて、「Canonは誰を大事な顧客と見ているのか?」という問いを突きつけてくる。
プロダクトとしてのCanonは、世界のトップランナーだ。だからこそ、顧客体験の設計もトップランナーであってほしい。今回の問い合わせ体験は、そんなことを改めて考えさせてくれる、良いきっかけになったのだと思う。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
大手のエースが地場企業でパフォーマンスが出せない構造的な理由
2025年12月4日
早嶋です。約4400文字。
地場企業で比較的売上規模が大きな企業と仕事をしている際に度々似たような出来事に遭遇する。それは中央の大企業で絶賛されていたエースが、地場企業に入った瞬間に、機能不全に陥る現象だ。
これらの研究のキーワードは、
●組織の情報処理能力(Information Processing Theory)
●スキルの非互換性(De-skilling / Re-skilling paradox)
●HRO(High Reliability Organization)とローカル企業の違い
●文化適応(Cultural Fit)のズレ
●タレントミスマッチ(Skill–Environment Misfit)理論
● 探索と活用(Exploration vs Exploitation)」の視点
等をベースに議論ができるエリアだ。
バス会社やタクシー会社などの交通インフラ系、SSや飲食や小売などの店舗事業系、建築や土木などの業種等々。地場に密着して、一定の規模で多角化する企業に良くみられる。この因果や理由を理解しておけば、優秀な人材の採用に対しての心構えと活用の仕方が自ずと見えてくるだろう。
まずは、イメージを持っていただきたいので大手企業で優秀だったAさんの地場企業での失速ケースをみてみよう。
(大手企業で優秀だったAさんが地場企業で失速するケース)
Aさんは、誰が見ても優秀だった。大企業に20年。王道のキャリアパスを経験している。商品開発、マーケティング、会計分析、営業企画、どの部署に異動しても結果を出してきた。部長クラスの役職で、社内からの信頼が厚かった。そんなAさんに転機が訪れる。
「地元に戻りたい」「家族との時間を増やしたい」「もっと事業の最前線に立ちたい」
40代に差し掛かり、そう考えるようになったAさんに、地方大手の社長から声が掛かった。その社長も、もともとは大手企業出身者。自分が良いと感じた人材を、これまでも定期的に引き抜いてきていた。
地場企業と言っても企業規模は、売上1,000億超で社員も数千人はいる。規模だけを見ると、Aさんが長らく務めた大手企業と大きく変わらない。Aさんは、社長から「この事業をまるごと任せたい」と役員待遇での採用だった。Aさんは胸が高まり、第二のキャリアをスタートした。
ところがだ。半年経っても、1年経っても何も動かない。状況が変わらないのだ。Aさんは毎日忙しくしている。朝から店舗を回り、夜は本社で資料を作る。会議にもよく出席し、前任者よりも丁寧に現場と対話をしている。だが、事業が動く気配がない。
社長は思う、「Aさん、優秀なんだけどなぁ。なんで成果が出ないんだろう?」
現場の社員は、「Aさん、良い人だけど。結局、何をしたいのかわからない」
Aさん本人も悩んでいた。「事業の全体像がわからない」「商品別の収益資料はどうなっている?」「店舗別の管理会計は?」「業務フローは、どこかにまとまっていませんか?」しかし、答える人はいないのだ。
この企業は、バス事業、タクシー事業、SS(ガソリンスタンド)、飲食店、携帯販売事業など、多角的に事業を展開している。だが、商品企画は中央の企業が担い、地場企業は運用の役割に徹している。そして、管理会計の整備、KPIの言語化、教育体系、データ基盤等は、いずれも整っていない。数字は勘で動き、教育は背中を見て学べだ。意思決定は暗黙知と歴史と人間関係で行われる。
Aさんは、突然「地図のない世界」に放り込まれたのだ。そして、1年が経つ頃、Aさんは、静かに力を失っていくのだ。優秀だったAさんは、なぜまったく動けなくなったのか。これは本人の問題ではない。構造的な問題なのだ。
(大企業のエースが地場企業で動けなくなる理由)
ケースを読んで、そんなことがあるんだ。と思う読者も、そうそうと頷く読者もいたと思う。ここでは、そもそもの違いを整理しよう。
■大企業と地場企業はOSの根本がう
企業の表面的な規模は似ていても、OS(情報の整備度・組織インフラ・文化)はまったく違うのが大企業と地場の大手だ。
大企業のOSはこうだ。
●収益管理は綺麗に整整理されている
●事業別、地域別、商品別、担当別に数字が取れる
●分業化が進み、スペシャリストが揃う
●IT投資が進んでいる
●業務マニュアルが整い、誰でも見える
●合理性が貫通しやすい文化
●教育の仕組みがある
一方で、地場企業のOSだ。
●店舗別・商品別の数字が取れない
●過去データが残っていない
●業務フローは長年の経験
●IT化が遅れ、情報が散在
●教育はほとんど属人的
●合理性よりも関係性が優先される
つまり、仮に売上規模が同じ1,000億企業であったとしても、OSが違えば世界がことなるのだ。そこに気づかず、Aさんを経営陣に据えてしまうと、ほぼ確実に動けなくなるのだ。
■整備された構造の中で最適化された人材
これまでAさんは、大企業という整った構造の中で能力を発揮してきた。大企業の特徴はこうだ。
●データは揃っている
●リサーチも社内で完結できる
●従い、一定の分析力があれば答えが出る
●組織が大きく、関係者が多い
●資料を作れば意思決定は進む
●問題の定義がしやすい
つまり、大企業の人材は、こういう世界で最適化されているのだ。
一方、地場企業は、大手企業と異なるのだ。
●そもそもデータがない
●業務フローも整備されていない
●やたらと暗黙知が多い
●そもそも何が課題かが不明
●改革よりも歴史の方が重たい
●合理性よりも関係性が重視される
そのため、Aさんの最大の武器である構造化された世界での分析力は、前提条件がないと発揮されないのだ。
■大企業出身者は「わからない世界を歩く」ことが苦手
地場企業の経営は、従い常に手探り感が必要だ。それは以下のような特徴につながる。
●現場ごとに文化が違う
●歴史、縦社会、関係性が絡む
●人によって言うことが違う
●物事が言語化されていない
●何が本当のKPIか分からない
そう、このような組織世界では、「探索的な知性」「フィールドワーク」「暗黙知の抽出」が求められる。大企業の人材は、この能力を鍛えられていない場合がある。組織そのものが既に構造化され最適化されているからだ。そのためAさんを責めるべきことではなく、単に前提条件が違うだけの話なのだ。
■地場企業の多角化は大企業よりもとても複雑
地場企業は、バス、タクシー、飲食、SS、介護、携帯販売、不動産、建設事業など、多岐にわたる業界構造が異なる事業を同じ本社機能で抱えている。その複雑さは大企業の比ではない。そして、その一つひとつの規模は大企業の事業と比較して小さい。更に、管理会計の概念が乏しく結構などんぶり勘定なのだ。Aさんは、業界構造も経験もないため、構造を掴むことすら出来ないのだ。
(Aさんの扱いについて)
では、そのようなAさんを、会社はどのように扱うべきか?だ。これまで見て来た通り、大企業のエースが、必ずしも地場企業大手で活躍できるかは難しい。むしろ企業の構造(OS)が異なるため失速するケースが多いのだ。むしろ失敗しないほうが不思議だとも思えて来る。では、どう使うかだ。
まずは、Aさんと経営陣から外すことが重要だと思う。Aさんはトップとして機能しないからだ。責任ではなく、そもそも役割が異なる。地場企業のトップは、泥の中に入り、暗黙知を拾い、現場と一緒に仮説を立て、組織の骨格を作り、人間関係の温度感を読み取り、バラバラの情報を構造化し、仕組みを作る。
そんな組織のOSづくりが求められる仕事だ。Aさんは、このタイプではないのだ。これは能力の欠如ではなく仕様の違いなのだだ。
■Aさんを参謀として再配置する
通常、Aさんは、以下の領域で無類の強さを発揮する。それは、既存データの分析、
行政や本部との交渉、提案書・報告書の作成、全社プロジェクトの企画、新規施策のロジック構築、会議資料の整備、人を巻き込むための理論化等だ。
これは地場企業が苦手としてきた領域だ。Aさんがここを補完すれば、組織は一気に強くなる場合が多いのだ。
■Aさんには必ず現場の翻訳者を付ける
Aさん単独では、現場は動かない。現場はロジックより温度感で動くからだ。だから、Aさんの横に、「現場の右腕」が必要になる。それは、古参の部長や統括店長などのナンバー2の幹部の存在だ。
こうした人物が、Aさんの論理を現場語に訳し、現場の声をAさんに訳し戻す。この翻訳こそ、地場企業のマネジメントにおける核心だ。ただしAさんがそのナンバー2から認められない場合は、この仕組みは成り立たない。関係構築の力があるかはAさんの資質によるからだ。
■Aさんの評価指標を成果から基盤整備へ変更する
Aさんの評価を、売上や利益に置いてはいけない。Aさんは基盤整備型の人材なのだ。評価は次のようなジョブを与えてあげると良い。管理会計の整備、データ収集の仕組み作り、業務フローの可視化、本部調整の円滑化、新規施策の企画、会議体の整理、報告資料の体系化等々だ。
これらは、短期的には利益に見えにくいが、長期的には企業の資産になるのだ。
■Aさんに限定ミッションを与える
Aさんには、広範な責任ではなく、範囲を絞ったミッションを与えないといけない。本来は、丸投げできる人材だと思って採用しているが、OSが違う世界では機能不全に陥る。そのためはじめは限定した役割から初めて、OSに慣れてもらう目的もある。たとえば、管理会計の立ち上げ、ITツールの導入など期間と内容を決めて徹底的に動いてもらう。そして、徐々に全社プロジェクトのPMや新規事業の企画(実行は別)など役割を増やしていく。その過程で、本部との交渉役や多岐にわたる事業、たとえば店舗改善プロジェクトや現場の見える化などの勘所がわかるようになるのだ。
Aさんは「複雑だが整っている領域」では力を発揮するのだ。地場企業が苦手な領域だ。
(Aさんの活かし方)
大企業出身のエリートを地場企業や地場の大手が輝かせるには、配置が極めて重要だ。99%はその要因と言っても過言ではない。大企業で優秀だった人材が、地場企業でも優秀とは限らない。ひどい場合は、無能扱いされることもある。だが、これは完全に誤解なのだ。
Aさんのような人材は、整備された世界で圧倒的なパフォーマンスを出すアプリなのだ。そのため泥の世界でOSを作る人材とは、まったく別の生き物と考えて扱うべきなのだ。使い方さえ間違えなければ、大企業経験者は地場企業にとって最強クラスの戦力になる。Aさんが失速したのは、能力の問題ではない。配置とOSの不一致なのだ。そしてここを理解するだけで、地場企業の人材活用は劇的に精度が上がると思う。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
新規事業の旅 全集
2025年12月3日
こちらは現在連載している「新規事業の旅」の全部のリンクです。
Youtubeは、本ブログを動画に再編集して配信しています。
早嶋聡史のYoutubeはこちら。
ポッドキャストでも配信しています。
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
新規事業の旅(1) 旅のはじまり
新規事業の旅(2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(4) M&Aの成功
新規事業の旅(5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(6) 若手の教育
新規事業の旅(7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(9) 採用
新規事業の旅(10) NBとPB
新規事業の旅(11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(12) 山の登り方
新規事業の旅(13) ポジションに考える
新規事業の旅(14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(15) 偶然と必然
新規事業の旅(16) キャズムを超える
新規事業の旅(17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(18) アンゾフ再び
新規事業の旅(19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(23) 道具の使い方
新規事業の旅(24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(32) 需要と供給
新規事業の旅(33) ストレッチ目標
新規事業の旅(34) 複利の効果
新規事業の旅(35) 人間は機械の一部になる
新規事業の旅(36) デジタルの弊害を受け入れる
新規事業の旅(37) 会社を居場所に置き換える
新規事業の旅(38) システム化された社会
新規事業の旅(39) 金融リターンではなく事業リターン
新規事業の旅(40) サービス業の苦悩
新規事業の旅(41) 3つの財布
新規事業の旅(42) グループ企業の試練
新規事業の旅(43) 思考と行動
新規事業の旅(44) デジタルバッジ
新規事業の旅(45) デジタル化とOC
新規事業の旅(46) ジョブ発見のコツ
新規事業の旅(47) 器と魂
新規事業の旅(48) Z世代の高級品
新規事業の旅(49) アニメ界のSPA企業が覇者になる日
新規事業の旅(50) PBR1割れの衝撃
新規事業の旅(51) 新規事業の創造3つの方向性
新規事業の旅(52) 別の視点で見るイノベーションのジレンマ
新規事業の旅(53) 新規事業のベストミックス
新規事業の旅(54) サーキュラーエコノミー
新規事業の旅(55) PBR1割れを考える
新規事業の旅(56) 情報の民主化と経済格差
新規事業の旅(57) セキュリティの今後
新規事業の旅(58) サステイナブル経営
新規事業の旅(59) Z世代のアプローチ
新規事業の旅(60) ドローン事業
新規事業の旅(61) ノンカスタマー
新規事業の旅(62) プランB
新規事業の旅(63) Z世代
新規事業の旅(64) 小売とマーケティング
新規事業の旅(65) 高齢者をターゲットにした事業
新規事業の旅(66) ベンチャーキャピタルの実態
新規事業の旅(67) 新規開発の落とし穴
新規事業の旅(68) 覚悟を持って取り組む
新規事業の旅(69) 売れるモノが良いもの
新規事業の旅(70) 性善説と性悪説
新規事業の旅(71) 保身に走らない
新規事業の旅(72) 中国リスク
対立を望まない
新規事業の旅(73) サステナビリティ経営
新規事業の旅(74) ストックオプション
新規事業の旅(75) ゼロイチとM&A
新規事業の旅(76) TAM/SAM/SOM
新規事業の旅(77) 近くと遠く/全体と細部
新規事業の旅(78) 逆境を乗り越えるリーダー
歴史は繰り返す
新規事業の旅(79) ラストイチマイルの柔軟思考
新規事業の旅(80) 業務提携と資本提携
新規事業の旅(81) 部下の視点と視野の狭さはあなたの鏡
新規事業の旅(82) バックキャスティング
新規事業の旅(83) ペット保険にAmazon参入
新規事業の旅(84) ベンチャー企業
衝動買い合戦
新規事業の旅(85) 生成AI1年目の誕生日
グランドセイコーのブランディング
新規事業の旅(86) スケールする前後の組織
新規事業の旅(87) 無線給電
新規事業の旅(88) よく見る風景
新規事業の旅(89) ダイナミックプライシング
新規事業の旅(90) 提携と出資
新規事業の旅(91) アパホテルのプライシング
新規事業の旅(92) コカ・コーラのダイナミックプライシング
新規事業の旅(93) アップルのゴーグル型端末
新規事業の旅(94) 通年採用のススメ
新規事業の旅(95) 情シス事情
新規事業の旅(96) オープンイノベーションの打ち手としてのCVC
新規事業の旅(97) 今後のマーケティング
新規事業の旅(98) エフェクチュエーション
新規事業の旅(99) 2世と3世
そのショッパー有償ですか?
新規事業の旅(100)自分事と他人事
テルモンの一貫性
新規事業の旅(101)最近の経営企画
新規事業の旅(102)ドーミーイン
新規事業の旅(103)誰もわからない
新規事業の旅(104)運とリスク
新規事業の旅(105)経済的なインセンティブの大切さ
新規事業の旅(106)スタートアップと採用
新規事業の旅(107)エクイティにおけるインセンティブ
新規事業の旅(108)イノベーションとCVC
新規事業の旅(109)書店の敵は私学進出(アマゾンじゃなかった)
ファイナンス関連の書籍
新規事業の旅(110)30年の停滞
新規事業の旅(111)30年停滞の要因
新規事業の旅(112)30年停滞からの学び
新規事業の旅(113)ワイガヤ再び
新規事業の旅(114)地域を盛り上げる前の分析の視点
安部修仁語録
2代目ジャパネットタカタ
経営者QA 事業承継の際の覚悟、組織からの協力のポイント、大きな決断の覚悟の背景
経営者QA リーダーシップ 育成
新規事業の旅(115)足るを知る
新規事業の旅(116)継続は力なり
新規事業の旅(117)実践の妨げとなる心の豊かさ
新規事業の旅(118)学習性無力感
新規事業の旅(119)学習性無力感を克服するアプローチ
新規事業の旅(120)実践は時間と努力の変数
新規事業の旅(121)必要は発明の母
新規事業の旅(122)アントレプレナーとイントレプレナー
新規事業の旅(123)人事異動の落とし穴
新規事業の旅 (124)マネジメントの共通認識
為替の要因
新規事業の旅(125)高尚なパーパスの落とし穴
新規事業の旅(126)トレランスと遊び
新規事業の旅(127)行動しないことの考察
新規事業の旅(128)先延ばし
新規事業の旅(129)ベンチャー企業と中小企業
新規事業の旅130 設立から上場までの物語
新規事業の旅131 台湾事情2024その1物価
新規事業の旅132 台湾事情2024その2背景
新規事業の旅133 台湾事情2024その3再び物価
新規事業の旅134 北海道事情2024
国家観の再構築
新規事業の旅135 不祥事の元祖と原因と対策
新規事業の旅136 スタートアップと大企業
新規事業の旅137 提携や資本業務提携の契約
新規事業の旅138 LLCとKK
新規事業の旅139 やり抜けない人材排出の背景と打ち手
新規事業の旅140 創発する組織の会議
新規事業の旅141 高級時計ブランドのはじめ方
新規事業の旅142 グリーンファンド
エアラインの業界構造
新規事業の旅143 アニメ産業の現状と課題
新規事業の旅144 勘違いをぶっ壊せ
新規事業の旅145 テーマパーク
新規事業の旅146 自分と部下の育成方法
新規事業の旅147 ハルメクに学ぶ新規事業の初め方
新規事業の旅148 観光公害と言わないで正面から向き合う
中東情勢の理解
新規事業の旅149 世代ごとの消費の特徴
新規事業の旅150 リユースマーケット
新規事業の旅151 価格と向き合う
新規事業の旅152 人的資本経営
新規事業の旅153 脱東京で成長を加速する
新規事業の旅154 オールドメディアの終焉
新規事業の旅155 マーケティング(2Cと2B)の基礎理解
新規事業の旅156 若手とベテランの壁
新規事業の旅157 NDAを結ばない時
新規事業の旅158 小規模農業者向けの流通プラットフォーム
学びの意味
新規事業の旅159 車社会
新規事業の旅160 消費と浪費
新規事業の旅161 ストア派哲学
新規事業の旅162 単一と統合の生態系
新規事業の旅163 問題設定の大切さ
中途半端な正義
新規事業の旅164 脇毛とマーケティング
プレートの連鎖は考えにくい
新規事業の旅165 アメリカの終焉
新規事業の旅166 新しいことのはじめ方
新規事業の旅167 支援と投資のスタンス
新規事業の旅168 中国は金融戦争を仕掛けるか
新規事業の旅169 重要な取組が出来ない構造
新規事業の旅170 AとBのジレンマの処方箋
新規事業の旅171 増加する組織再編
新規事業の旅172 青を焼くか、重ねるか。文化と技術の対話の先。
新規事業の旅173 次の時代の生存戦略
新規事業の旅174 コメ価格高騰の裏側と、これからの日本の米市場
新規事業の旅175 ガソリン価格の高騰の本質
新規事業の旅176 民主主義が絶対主義になる時
新規事業の旅177 ポッドキャストの未来
最近の考古学の研究成果
新規事業の旅178 企業が思考停止に陥る理由とジョブローテーションの制度疲労
新規事業の旅179 生成AIがかえる都市の機能とカタチ
宗教改革から500年
新規事業の旅180 昭和100年
TSMCがもたらした変化
新規事業の旅181 グループ再編の現場の理想とリアル
新規事業の旅182 地方タクシー会社の未来
新規事業の旅183 PMIの失敗要因
新規事業の旅184 植物カルチャーの進化と熱狂の正体
新規事業の旅185 両利きの経営と時間をつなぐ仕事
新規事業の旅186 米問題に関する構造的課題とその処方箋
定着こそ最強の採用戦略クリニックが人を育成するためにすべきこと
新規事業の旅187 ブランドの3要素と成長戦略
新規事業の旅188
新規事業の旅189 少子高齢化と倫理の断絶
新規事業の旅190 アニメ業界における版権主権モデル
新規事業の旅191 シンギュラリティの隠蔽と創造の円環
新規事業の旅192 医療法人の運営と実態
新規事業の旅193 書く行為から見る未来
新規事業の旅194 個人が主導する情報時代の到来
継続は力なり
新規事業の旅195 モビリティ支配権をめぐる争奪戦
新規事業の旅196 ホワイトカラーの再変遷とAI時代の組織デザイン
新規事業の旅197 知識労働にもスマイルカーブ
新規事業の旅198 「貢献」と「利他」のあいだ
新規事業の旅199 「横の関係」が通じないときのリーダーの振る舞い
新規事業の旅200 MBOとOKR
虚構の政治
新規事業の旅201 未来と現実のギャップに苦しむテスラ
新規事業の旅202 権威の終焉とオーセンティック・リーダーシップ
新規事業の旅203 役員の覚悟と姿勢
不安定という制度を輸出するアメリカ
日本版・選挙推し活モデル
新規事業の旅204 ヒューマノイドの今後の考察
新規事業の旅205 ポッキーの立体商標
新規事業の旅206 日本企業の構造的な惰性
新規事業の旅207 ソフトバンクがインテルに出資する理由
新規事業の旅208 SHEIN制裁が映し出す規制機関の存在論
公務員のマネジメントに思う
新規事業の旅209 20Wで世界を制御する人間
新規事業の旅210 人間の進化と悩み
新規事業の旅211 AI導入の本質
首相交代
新規事業の旅212 独占禁止法に思う
最低賃金1,500円がもたらす構造的なシナリオ
米国の構造的なリスク
真実と虚構の間
箱と運営の両軸
ABOHA
H-1Bビザとアメリカの選挙
新規事業の旅213 暗黙知の形式化と活用
新規事業の旅214 破壊と維持と創造
地方と都市部と人材育成
新規事業の旅215 デジタル選挙の課題
新規事業の旅216
新規事業の旅217 組織布教のフレームワーク
採用・定着・出戻りを循環として設計する
日本の米の価格構造
新規事業の旅218 IPの創造
新規事業の旅219 抹茶の定義と言語化の必要性
新規事業の旅220 変えない攻めと変える攻め 牛丼とプロレス
新規事業の旅221 ガチャガチャの事業構造
新規事業の旅222 日本の世界における立ち位置と為替
新聞のトランスフォーメーション
ブランド価値と株価 比例しそうで、しない関係
ポルシェは、いまどこにいるのか
イデオロギーがマイルド保守に向かう理由
ネーミングライツの落とし穴
労働時間と一人あたりGDPの関係
センチュリー:トヨタ5番目のラグジュアリーブランド
ジョブ型社員の解雇に見る今後の組織戦略
映画アニメファンド
最近の若者はすぐに辞めるは「嘘?」
スクイーズアウトという制度
子ども食堂の未来は?
なぜスタバのEチケットはあんなに使いづらいのか?ブレイケージ(未使用残高)で毎年2億ドル超近く利益を出すスタバの経済学
本社と現場の権限配分
大手のエースが地場企業でパフォーマンスが出せない構造的な理由
プロダクトは一流、顧客体験は昭和
ネットフリックスがワーナー買収へ。世界の「ポスト・ストリーミング時代」が始まる
ワーナー争奪戦はM&Aではない!政治と資本が交差する地政学ディールそのものだ。
新規事業の旅223
新規事業の旅224
新規事業の旅225
新規事業の旅226
新規事業の旅227
新規事業の旅228
新規事業の旅229
(時にまつわるブログ)
スイス産業とその歴史・その1
スイス産業とその歴史・その2
腕時計とリトルハイア
日本勢の時計の売り方
スイスの腕時計事情
時計の動きに注目
グランドセイコーとブランディング
システム化した社会
グランドセイコーその1
グランドセイコーその2
グランドセイコーその3
タイミングこそ全てだ
グレーマーケット
GSを最高のブランドにするために
選択と集中・発散と自立
日本のメーカーで観察される過去から将来
自己プライミング
ウブロ
エネルギー源は健康と愛
デジタル機器
近年の社会的変化
視点
サラリーマンもサマータイムを
華麗なる小さな国ルクセンブルク
父曰く
ナイキとアップルウォッチ
ビックベン
色の所有
ペルソナとイメージング
脳のウォーミングアップ
導線
ペルソナ
ブランドコントロール
プロダクト・プレイスメント
パルミジャーニとエルメス
本社と現場の権限配分
2025年12月2日
早嶋です。
本社と現場、本店と支店。その権限をどちらに寄せるべきかという議論は、昔から組織の永遠のテーマのようだ。しかし昨今、この問いそのものがズレ始めていると思う。その理由は、単純だ。市場の変化が圧倒的に速くなり、一方でリスクや規制はむしろ強まった。現場で拾える情報の価値は高まり、本社が抱える責任の重さも増した。つまり、現場の即応力と本社の統制力、この二つを同時に求められる矛盾した時代になってしまったのだ。
そのため、昔のように「本社主導か、現場主導か」という二項対立で組織を決めてしまうと、どちらも機能不全に陥る。いま求められているのは、権限の総量をどちらに寄せるかではなく、速度、再現性、データの扱い、リスクの質という4つの軸に照らしてどのプロセスを、どちらが担うべきかを丁寧に分解することだと思う。
では、この4つの軸を前提に、業界が変わると権限配分はどう姿を変えるのかを、製造業、インフラ、金融、公務員、サービス業、そして地方に多くの拠点を構える企業という6つの領域を取り上げ、それぞれの構造的な違いをベースに考察したい。
実務に関わる多くの読者は、自社の「当たり前」が実は業界固有の構造であったことに気づくきっかけになれば嬉しく思う。
(製造業──「標準化された本社」と「改善する現場」が共存する世界)
製造業において、権限配分の核を成すのは品質と安全だ。製品そのものが物理的であり、ミスが許されない。ゆえに生産技術、品質管理、安全衛生、設備投資といった領域は、本社が強い統制権を持つべきだ。この点では業界間の差はほとんどなく、グローバルでも同じ構造が確認できる。
だが一方で、現場の改善活動は現場にしかできない。生産計画の微調整、不良発生時の判断、段取り替え、ラインの改良などは、現場の速度と思考が価値を生む。工場という組織は「標準化された本社」と「改善する現場」が二階建て構造でかみ合うと、一気に強くなる。この二つの層がズレると、どれだけ理念を掲げても実績は積みあがらない。
製造業は、現場と本社が役割で分かれ、能力で補完する典型的な産業だと思う。
(インフラ──「止めない」ために権限は本社へ集中する)
電力、ガス、鉄道、通信等。この領域に共通する最優先事項は止めないことだ。サービスが止まるということは、社会の基盤が揺らぐことを意味する。だからこそ、安全、法令遵守、技術基準、設備更新の判断基準などは、本社が一手に握らざるを得ない構造になる。
災害が起きたときの緊急対応は現場の役割だ。しかし、その背後にある戦略的な設備投資や政府との調整、保安規程の設計は本社が担うことが合理的だ。ここに現場裁量を広げすぎると、意図せぬ事故が起こり、企業全体が揺らぐことになる。
インフラ産業は、他産業とは異なり、権限の分散よりも責任の集中が優先される。ここが最大の違いだ。分権化すればするほど現場は楽になるが、社会の安全保障としてはむしろ危うくなるのだ。
(金融──市場感とリスク管理が常にぶつかる世界)
金融業はとても不思議な構造を持つ。支店の現場は顧客との接点であり、情報の源泉だ。しかし、本社は巨大なリスク管理の機構を抱えている。金融庁の規制、コンプライアンス、信用リスク、AML(マネーロンダリング対策)、商品設計。これらは完全に本社側の世界であり、現場が関与できる余地はほとんどない。
その一方で、地域の経済を知り、企業の実態を掴み、個人の背景を読み取るのは支店の力量だ。数字では測れない信用の手触りは、どうしても支店の裁量に依存する。
つまり金融は、本社と現場がどちらも正しい構造を持つ稀有な業界だ。本社はリスクの視点で正しく、現場は顧客接点の視点で正しい。両者の摩擦やギャップをどう調律するかで、その金融機関の競争力が決まる。
(公務員──公平性と地域性が常にせめぎ合う)
行政の世界では、法令の扱いに例外が許されない。公平性、透明性、手続の平等性。これらを守るために、本庁(=本社)の権限は必然的に強くなる。予算編成、制度設計、監査、情報公開は、本庁が一元的に持つほかない。
しかし、省庁・自治体がいくら原則を決めても、最終的に住民と向き合うのは現場だ。地域特性や住民の事情を理解し、生活課題に寄り添う役割は、どうしても現場の力に依存する。
公務領域は、現場の裁量を広げれば不公平が生まれ、本庁が統制しすぎると住民に寄り添えないという構造的ジレンマを抱える。民間企業とはまったく違う、独特の権限配分の世界が広がっている。
(サービス業──顧客価値の中心は圧倒的に現場にある)
飲食、ホテル、小売、介護、コールセンターなど、サービス業全般に共通する鉄則は、顧客価値のほぼすべてが現場で生まれるということだ。接客、身のこなし、クレーム対応、空間の空気感、瞬時の判断。これらはどれも現場の判断力と人間力に依存する。
本社はブランドを守り、商品戦略や価格設計を行い、教育とIT基盤を整える。しかし、実際に価値が生まれる場所は現場だ。だから、この業界では本社が権限を握りすぎると、一気に組織が弱くなる。現場の自由度を奪った途端、顧客にとっての魅力が消えてしまうからだ。
サービス業は、本社と現場の役割がはっきり分かれた例だと思う。ブランドは本社がつくり、価値は現場が生む。この二つが適切に分離されると、とても強い組織になる。
(地方に多拠点を持つ企業──地域差こそ価値なのか、それとも統一性こそ価値なのか)
地方に多くの拠点を構える企業は、最後のタイプとして非常に興味深い構造を持っている。たとえば、地方商社、建設、医療・介護、運輸、通信、インフラ子会社などが該当する。
この領域で決定的に重要なのは、「地域差そのものが価値になるのか、それとも全国一律の品質が価値になるのか」という問いだ。
地域によって顧客の気質、行政の姿勢、インフラ、水道、交通、人口動態、競合環境が全く異なる企業では、現場の判断能力が圧倒的に重要になる。地域ごとに「最適解」が違うため、本社の指示がそのまま通用しないからだ。
一方で、安全基準、労務、法務、IT、設備投資、全社最適の取り組みは本社が握るべき領域になる。これは地域差が関係ない。ルールは一つでいい。
つまり、多拠点企業の本質は、「現場の差異が価値なのか、統一性が価値なのか」を冷静に見極め、その上で権限の境界線を引くことに尽きる。
(総括)
本社と現場の権限配分は、もはや、どちらが強いべきか、という単純な議論では立ち行かない時代に入った。速度を求める領域は現場に寄せ、再現性や安全が価値になる領域は本社が握る。データは全社で集め、リスクは質によって線引きする。そして、業界構造によってその最適解が大きく変わる。
●製造業は、標準化された本社と改善する現場の二階建てで強くなる。
●インフラは、止めないために権限の集中が不可欠だ。
●金融は、市場感とリスク管理という相反する力を調律する産業だ。
●公務員は、公平性と地域性の綱引きが永遠のテーマになる。
●サービス業は、顧客価値の中心が現場にある。
●多拠点企業は、地域差が価値なのか統一性が価値なのかを見極め、構造を設計すべきだ。
権限というものは置きどころではなく、設計の問題へと進化した。この視点を持てるかどうかが、これからの組織の強さを決める重要なポイントになる、と思う。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
なぜスタバのEチケットはあんなに使いづらいのか?ブレイケージ(未使用残高)で毎年2億ドル超近く利益を出すスタバの経済学
2025年12月1日
早嶋です。約7900文字。
(スタバのEチケット)
前提として、多くの読者はスタバの「eGift」や「Eチケット」を使ったことがないと思う。ざっくり言えば、LINEやメール、各種SNS経由で送れるデジタル版ドリンクチケットだ。スタバ公式のeGiftは、オンラインで700円・500円などの金額指定のドリンクチケットや、ドーナツなどに使えるフードチケットとして購入できる。送る側はスマホ上で相手を選び、メッセージカードを選び、決済すれば、相手にURLつきのメッセージが届く。受け取る側は、そのURLを開くとメッセージカードとともに「ドリンクチケット」が表示され、レジでQRコードを提示して使う。そんな商品だ。
ここでポイントになる仕様を、事実ベースで押さえておく。
●eGiftは1枚のチケットにつき、1つの商品としか引き換えできない。複数の商品に分割して使うことはできない。
●おつりは出ない。700円のチケットで590円のドリンクを買っても110円はどこかに消える。差額を次回に繰り越すこともできない。
●有効期限がある。公式の利用規約では「発行日から5ヶ月以内の当社が指定する期日まで」とされており、期限を過ぎると自動的に無効になる。もちろん返金はない。
●チケットはスタバカードへのチャージには使えず、モバイルオーダーにも基本的には使えない。店頭レジでQRコードを読み取ってもらう必要がある。
つまり、スタバいわく、「金券」ではなく、あくまで「1回限りの商品引換券」として設計されている、ということだ。
(体験した際のモヤモヤ感)
実際の利用フローは紙のクーポンより複雑だ。LINEギフトで受け取った場合を例にとると、LINEのトークからスタバeGiftのURLを開く。メッセージカードが表示され、その下にドリンクチケットが並ぶ。使いたいチケットをタップするとQRコードが表示される。そして、レジでそのQRコードを読み取ってもらう。
iPhoneの場合、チケット画面から「Apple Walletに追加」ができるが、ウォレットに保存できても、それがなんtの使えない。スタバの公式ヘルプでは、eTicketやQRコードをスクリーンショットで保存して使うことは推奨しておらず、「お会計の際にご利用いただけない場合もございますので、ご利用時に表示したeTicketをご提示ください」とある。そのため、現場のスタッフによっては、「Apple Walletの画面ではなく、LINEで届いた元の画面を見せてください」と案内するケースが出てくる。
そう、ユーザー体験は一気に品雑化するのだ。レジ前でウォレットを開き、店員に「LINEの元画面を」と言われ、トーク一覧に戻り、どのトークだったか探し、ようやくQRを出す。混んでいる時間帯なら、後ろに並んでいる人の視線も気になる。たかがコーヒー1杯を買うのに、ここまでアプリの中を往復しなければならない。「デジタルでスマートに」のはずが、実際はUIの迷路を彷徨うはめになる。
今回私が体験したのは、典型的な「700円ドリンクチケット」だった。仕様として、1枚のチケットで1つの商品、差額の繰り越し不可、というルールがあるので、700円以内のドリンクを1杯だけ買うしかない。
たとえばこういうシーンだ。700円のチケットを持っている。普通にコーヒーだけなら、トールで500円から600円台に収まる。だったらドーナツも一緒に買って、合計780円だな。「チケット700円分+差額80円を現金かカードで払おう!」と考えるのは、人間として自然だと思う。しかし、ここで「1枚のチケットにつき1商品」の壁が立ちはだかる。
コーヒーとドーナツ、2つまとめて精算しながら1枚のチケットで700円分を充当することはできない。チケットを使えるのは、どちらか片方だけ。実際に私が遭遇したときも、「コーヒー2つで700円程度にして差額は払う」と考えたが、速攻でNGを食らう。
さらにややこしいのは、「700円ドリンクチケット」と「ドーナツチケット」の2枚を同時に出したときだ。最初、スタッフは「この2枚を同時には使えません」と言い切った。ところが、レジを操作し直し、奥で誰かに確認した結果、「やっぱり使えます」という結論に変わった。つまり、現場のオペレーションが仕様に全く追いついていない。
更に、有効期限の話もあった。このときのチケットは有効期限がその日までだった。しあbらくラインでもらったことを覚えていて何かのタイミングで使って見ようと思い出した。直感的には「今日が期限なら、今日まとめて2枚使って終わらせたい」と思ったのだ。しかし、スタッフの口から出てきた言葉は、「有効期限があるので、チケットは別の日に使われるのがいいと思います!」という、謎のアドバイスだった。私がレジ前でもたついていて、要領を得ていないのはわかる。レジの後ろに待ち行列があるのもわかる。令和のiPhoneを使った購買体験を準備したのはスタバなのに、なんかとても申し訳ない気持ちになる。それを見計らったかのような提案。店員の目は作ったスマイルで目は笑っていない。
(最低に近い顧客体験のファクト整理)
いや、今日が期限だからこそ、今日使わせてくれ、と思うわけだが、その感覚はどうやら共有されていない。こうして私は、最低に近い顧客体験を、見事に味わうことができた。仕様としての「ややこしさ」と、そこから生まれる違和感。ここまでを、いったん感情を抑えて「事実」として並べてみる。
●eGiftは1枚につき1商品にしか使えない。
●チケット金額内であっても、複数商品への分割利用はできない。
●おつりは出ないし、残額の繰り越しもできない。
●有効期限は発行から5ヶ月以内で、期限切れになっても返金はない。
●モバイルオーダーでは原則使えず、店頭レジでのQR提示が必須。
●スクリーンショット利用は公式には「非推奨」で、店舗によっては受け付けない。
●店舗によっては同一会計で使えるチケット枚数に上限(例えば2枚)が設けられているという利用者報告もあり、現場の説明も統一されていない。
そして、ここに人間の行動側の要素が重なる。
●LINEのトーク内で埋もれ、どのスレッドにチケットがあったか分からなくなる。
●ウォレットに入れたものの、店舗側が「LINEの元画面を」と要求し、行ったり来たりする。
●スクショで保存しても、店舗によっては「お受けできません」と言われるリスクがある。
●「いつか使おう」と思っているうちに、有効期限が過ぎる。
私だけが「面倒だ」と感じたのかと思って、別の場面で何度か話題にしてみた。た追えば、経営者の集まり。都市部で日常的にスタバを利用している層の集まり。普段はほとんどスタバに行かない層の集まり。
いずれの場でも、eギフトの利用体験は総じて満足度が低かった。「期限切れで結局使わなかった」「アプリの中でどこに行ったか分からなくなった」「何となく面倒で放置した」といった話が、いくつも出てきた。送られてうれしくはあるが、使い切る前に忘れてしまうパターンが、かなりの割合で存在している。
ここまで来ると、感覚としてはこうなる。「これは、スタバが意図的にややこしくしているのではないか?」と。
(金券ではなくドリンクチケットという戦略)
スタバ側の合理性を考えるとき、重要なのはeGiftが金券ではなく商品引換券として設計されていることだ。「金券」のように扱うと、会計・税務のルールは一気に重くなる。前払式支払手段としての扱い、残高管理、未使用残高の処理、返金の扱い等々、金融商品に近いルールが適用されてくる。一方、「指定商品の引換券」として設計すれば、より自由度が高く、企業側にとって都合のいい運用が可能になる。
実際、スタバのeGift利用規約では、「有効期限内に使えなかった場合でも返金しない」「スタバカードへのチャージはできない」と明記されている。つまり、使われないまま期限切れになったeGiftの売上は、そのままスタバの収益になるのだ。ギフトカード業界では、こうした未使用残高を「ブレイケージ(breakage)」と呼ぶ。スタバはアメリカ本社の開示でも、ギフトカードの未使用残高に関して「ブレイケージ収益」を計上している。
2025年春の報道によれば、スタバはプリペイドカードやロイヤルティ残高として約18.5億ドル(約2,800億円)の顧客前払金を抱え、その一部が毎年「未使用のまま」残り、年間で2億ドル超(約300億円)がブレイケージとして利益に寄与しているとされる。これは全社売上約362億ドル、営業利益率15%前後という規模の中で、おおよそ利益の4%程度を占める数字だという指摘もある。
要するに、「使われなかった分」は、ほぼコストゼロで利益になるのだ。その構造を、スタバはグローバルに持っている。eGiftも、その一種として設計されていると考えるのが自然だろう。
(欠陥仕様なのに修正しない)
ここで、一旦整理してみる。ユーザーから見れば、eGiftの体験は明らかに分かりにくく、使い勝手が悪い。店舗オペレーション側も仕様を完全に理解しきれておらず、現場で混乱が生じている。それにもかかわらず、eGiftという仕組みは何年も継続され、改善のスピードも遅い。これは「現場が不勉強だから」では説明しきれない。スタバほどデータドリブンな企業が、このレベルの顧客不満を本社レベルで把握していないはずがないからだ。それでも、仕様が大きく変わらないのであれば、そこには企業側の明確な意思があると考えるべきだろう。
●1枚のチケットで1商品に限定させる
●おつりは出さない
●分割利用も認めない
●有効期限を策略的に設定する
●利用フローはデジタルに閉じ紙クーポン化させない
こうした仕様が組み合わさると、ブレイケージは自然に増える。「700円分あるから、今度スタバ行ったときに使おう」と思う。でも、その「今度」がなかなか来ないのだ。気づいたときには、有効期限が切れていて、あるいは、LINEの底の方でチケットが眠ったまま忘れられてしまう。eGiftの設計を、顧客目線で見れば「欠陥仕様」と呼びたくなる。しかし、スタバ本社の目線で見れば、「多少不便でも、ブレイケージと送客の両方を生む優秀なプロダクト」となるのだろう。
(売上構造から見える「甘い飲み物の会社」という正体)
ここから議論を、スタバ全体の収益構造に広げてみよう。スタバの会社全体の売上構成を見ると、世界の直営店ベースで、売上の約7割前後がドリンク、2割から3割がフードやその他商品とされる。2024年の開示でも、直営店の売上のうち飲料が74%、フードが23%、その他3%という構成が示されている。つまり、売上の大半は「飲み物」で稼いでいるのだ。フードやマグカップなどの物販もあるが、あくまでサブという構造だ。
では、その「飲み物」の中身はどうか。スタバのドリンクメニューをざっと眺めれば分かるように、いわゆる「ブラックコーヒー」だけを売っている会社ではないのだ。ラテ、モカ、マキアート、フラペチーノ各種、季節限定の甘いドリンク(代表的なのがパンプキンスパイスラテ)等々。
こうした甘味系・ミルク系ドリンクが、客単価を大きく押し上げている。パンプキンスパイスラテだけを見ても、2003年の発売以来、アメリカを中心に文化的現象と言えるレベルのヒットとなり、スタバの売上拡大に大きく寄与してきた。おそらく、あなたの周りのスタバ利用者を思い浮かべても、「毎回ショートサイズのドリップコーヒーだけ」という人は少数派だろう。
感覚的な仮説として、飲料売上全体を100とするとブラックに近いコーヒー類(ドリップ・アメリカーノ等)が1割から2割。甘めのミルク系・フラペチーノ系ドリンクが残りの大半という比率になっていると考えても、大きく外れてはいないはずだ。
さらに、単価の差がここに乗ってくる。シンプルなコーヒーは、トールサイズで数百円台前半。甘いラテやフラペチーノは、トールからグランデで600円から800円台。サイズを上げれば上げるほど、単価は上がる。原価構成を考えると、シロップやホイップ、ミルクの追加はコストに比べて高粗利になりやすいのだ。
スタバの財務データを見ると、全社レベルの営業利益率は年によって変動はあるものの、おおむね15%前後で推移している。この数字を支えているのは、コーヒー豆単体のビジネスというより、むしろ「砂糖とミルクと視覚効果をまとったドリンクの高マージン構造」だと考えるのが自然だ。
(「甘いものを大きくしたくなる」心理と、経済合理性)
人間の心理から見ても、スタバの設計は極めて巧妙だ。700円のドリンクチケットを持って店に入ると、多くの人はこう考える。「せっかくなら、いつもよりちょっと良いものを飲もうかな」と。ここで、「ブラックコーヒーをショートで」にはなかなか行かない。有料カスタマイズや、サイズアップ、期間限定フラペチーノに目が行く。
●ホイップを乗せる
●シロップを足す
●グランデやベンティを選ぶ
こうして、金額をきっちり使い切る方向に心が動く。スタバラバーズは、eGiftの攻略を得意げに説明して、「700円を使い切るために有料カスタマイズやサイズアップを活用するんだ!」と誇らしげに語る。経済合理性の観点から言えば、シンプルなコーヒーは原価に対して価格差がそこそこ。しかしシロップやホイップの追加は、原価に対する価格差がさらに大きい。サイズアップも、追加される飲料の原価よりも、価格の上昇幅の方が大きい。
つまり、顧客が「せっかくだから」と甘く・大きく・派手に注文するほど、スタバの利益率は上がる構造になっている。eGiftは、その「背中を押す」役割を果たす。
「700円分あるから、今日はフラペチーノにしよう」とか、「せっかくなので、トッピングも追加しよう」と。
このとき、チケット金額をちょうど使い切ることに小さな快感があるかも知れない。しかし、ブレイケージでキャッシュをゲット出来なくても、その裏側では、スタバ側は高利益商品の販売比率と客単価を上げつづけているのだ。
冷静に言えば、スタバは「コーヒー屋」の顔をしながら、実態としては高利益の甘味系ドリンク会社として収益を積み上げている。
(依存構造と「第三の場所」というの魔法)
もちろん、砂糖とミルクだけがリピートの理由ではない。スタバが強いのは、マーケティング、文化、社会心理学、建築、都市の文脈を総動員して、「第三の場所」という物語を作り続けている点だ。
●家でも職場でもない、居心地の良い場所
●ノートPCを広げて仕事をしている(風の)自分
●スマホとスタバカップを並べて写真を撮る自分
●「丸の内で働いている私」「都心で頑張るフリーランスの私」という自己陶酔
極端に言えば、高級バッグや高級レストランほどの出費はできないが、600円から800円のスタバなら頑張れる。それでいて、長時間座っていられる。Wi-Fiと電源がある。周りも似たような「頑張っている人(風)」に見える。
結果として、スタバは多くの人にとって、「自分の居場所をコスパ良く確保できる空間」になっているのだ。ここで重要なのは、お金が潤沢ではない層ほど、スタバに長居する傾向があるということだ。
自宅にワークスペースがない、会社に残りたくない、でもどこかで「仕事している自分」を確認したい。そのとき、スタバはちょうどいい。
●高級オフィスワーカーの下で働く大多数
●都市生活に憧れる地方の若者
●「意識高い系でありたい」と思うが、本格的なラグジュアリーには手が届かない層
ひょっとして、こうした人々の承認欲求、孤独、自己陶酔を、スタバは見事に吸い上げているのでは無いか。eGiftは、その中にさらに「ギフト」という文脈を差し込み、他者から「頑張ってね」と言われた気がする。そのチケットを手に、スタバという舞台に足を運ぶ。そこでまた「頑張っている自分」を演出する。
スタバは、砂糖とミルクの依存構造だけでなく、都市のライフスタイルと承認欲求の依存構造も同時に作っているのだと思う。
(スタバのターゲット層)
ここまで見てくると、スタバのターゲット像はかなり輪郭がはっきりしてくる。高級ブランドをバンバン買える層ではない。かといって、完全な低所得層でもない。高級バッグは買えないが、スタバなら「頑張っている自分」を演出できる。自分の場所を本当の意味で所有することはできないが、スタバで長居することで、自尊心を維持できる。それを「生産的な自分」だと、半ば本気で思っている。
視覚的にも、スタバは徹底している。ロゴの入ったカップ。写真映えするドリンクの色と層。店内の木材と照明、音楽。
これらすべてが「私はスタバでコーヒーを飲んでいる=それなりに良い暮らしをしている」という錯覚を上手に支えるのだ。そしてeGiftは、その世界に「デジタルギフト」という入口を付け加えた。送る側は数タップで完結する。使う側は、アプリを掘ったり、有効期限を気にしたり、レジ前で画面を切り替えたりしなければならない。
そこに、私はどうしてもこういう構図を見てしまう。送り手の手間は徹底的に軽く、受け手の体験は微妙に面倒で、期限切れや残額を通じてスタバだけが最後に得をする。
(スタバは「悪い会社」ではない)
ここまで書くと、「スタバ、ひどい会社だな」と感じる人もいるかもしれない。
しかし、私はそうは思っていない。むしろ、極めて戦略的で、利益志向がはっきりしていて、それでいてターゲット層にはそう思われないように、自分たちのイメージを設計している会社だと捉えている。
実態は高利益の甘味系ドリンク会社。収益を支えるのは、砂糖・ミルク・視覚的演出・「第三の場所」という魔法。ギフトカードやeGiftではブレイケージを巧みに取り込み、年間で数百億円レベルの「使われなかったお金」からも利益を生む。それでも、多くの人は「おしゃれなコーヒー屋さん」として好意的に受け止めている。
こういう会社は、マーケティング・財務・空間デザイン・デジタルプロダクトのすべてが一つのストーリーに束ねられている。だからこそ、スタバのeGiftに違和感を覚えたとき、それを単なる「使いにくいクーポン」として片付けるのはもったいないと考えた。むしろそこには、スタバという企業が大事にしている「本音の設計思想」が、むき出しのまま乗っているように見えたのだ。
(魔法の外側の視点)
私自身、スタバを完全に否定する気はない。偶に利用する。便利な場所にあり、ちょっと時間を潰すにはちょうど良い。エスプレッソをさっと飲んで10分もしないうちに店を出るだけなら、極めて合理的な場所だ。
ただ、今回eGiftを使ってみて、改めてこう感じた。顧客体験よりも、収益構造を優先する設計が、プロダクトの細部にまで染み込んでいるということ。それでも多くの人は、その魔法の中で楽しそうに過ごしている。そのギャップこそ、現代の消費社会の一つの縮図なのだろうと。
スタバのeGiftにモヤッとした人は、それをただの「使いづらいチケット」として忘れてしまうのではなく、一歩引いて「自分はどういう魔法をかけられてしまったのか?」を問いただしてみると良い。一度、魔法の外側に立ってみると、いつものフラペチーノが、少し違って見えるかもしれない。
(早嶋聡史のYoutubeはこちら)
ブログの内容を再構成してYoutubeにアップしています。
(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら。
アマゾンのポッドキャストはこちら。
スポティファイのポッドキャストはこちら。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
最新記事の投稿
カテゴリー
リンク
RSS
アーカイブ
- 2026年1月
- 2025年12月
- 2025年11月
- 2025年10月
- 2025年9月
- 2025年8月
- 2025年7月
- 2025年6月
- 2025年5月
- 2025年4月
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年2月
- 2006年1月
- 2005年12月
- 2005年11月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月










