グランドセイコー①

2020年3月5日 木曜日

早嶋です。

ーー2020年3月5日 日本経済新聞 抜粋
セイコーホールディングス(HD)は6月、主力の高級腕時計ブランドの「グランドセイコー(GS)」から過去最高額となる2千万円(税別)のモデルを発売する。これまでの最高価格(800万円)の2.5倍だ。3年前からブランドの再構築に取り組み、既存のブランドの価値観にとらわれない20~30代の「ミレニアル世代」の新興富裕層に着目した結果、ウオッチ事業の収益力は上向いている。スイスブランドの牙城は果たして崩せるか。
ーー抜粋終了ーー

100円、800円の商品があった場合、100円は安く感じて、800円は高いと思います。ここに、100円、800円、2000円の商品があった場合800円の商品は高いという感覚が鈍くなりますよね。2000円の商品が800円の価値を変えてしまったのです。コントラスト効果といって、ヒトは絶対的な比較が苦手です。そのため提示された範囲内で比較して価値を図る傾向を無意識に行います。100円と800円では700円の差を脅威に思い、800円を「高!!」と感じるでしょう。しかし2000円の登場で800円がなんだか普通に見えてくるのです。

グランドセイコーは前回のブログでもコメントしていますが最高です。今回のプライシングとさらなる高級路線への舵切りはいいですね。大好きです。2千万の時計の販売数は10本ですから販売できても2億です。長野の特別な工房で特別な職人が手作業で組み立てている。手間と暇と技術の塊です。セイコーの19年3月末の売上は1400億で利益は100億
(※1)ですので、10本という本数はあくまでも象徴的な商品にしているに過ぎないですね。

時計の見た目はサファイアとダイアをあしらっていますが、精度を更に詰めている点も凄いと思います。最大持続時間が8日で精度は平均月差10秒。2019年に発表された800万円のモデルは最大持続が3.5日で平均月差が15秒。時計の世界でこの躍進は大変すごいと思います。

腕時計の世界において、実に面白いことが起きています。1980年代ころまではスイスの機械式時計が最高峰でしたが、セイコーが開発したクオーツ式時計の技術と普及によって一瞬は高級クオーツ式時計が一世風靡しましたが、やがてこの機構はコピペがきいて量産が聴くようになり最終的には時計の部品としては100円から1000円くらいで最高の精度の時計がつくれるようになったのです。

そこにスウォッチが登場します。10,000円程度のクオーツ式時計をパリコレやミラノコレクションの様式を真似て、時計の本体ではなく、ケースやベルト、時計全体のデザインを頻繁に変えて年に何本も新しいモデルを出し続けたのです。これはブームになスウォッチは莫大な富を得ました。その富は、当時クオーツ式の出現によって衰退していく機械式メーカーの買取原資に充てられました。スウォッチは、機械式メーカーに資本を投じ、開発やブランドコンセプトには口を挟まずに、グループの参加に入れて時計業界全体を盛り上げる取組を行ったのです。

バブルが終焉し、日本のパワーも低迷した2000年代、世の中がITの世界に突入すると、徐々に昔から変わらない機械式時計が世界中で注目を集めるようになってきました。スウォッチなどのコングロマリットは、ブランドの価値を高めるために自分たちの存在は消し、それぞれの機械式メーカーの良さを全面に出すことで、機能追求から価値を追求する人々に広く受け入れられたのです。

当然、セイコーは自身が開発したクオーツ式のモーブメントが不調になり始めます。そこで再び力を入れたのが機械式の技術です。ただそこはセイコー。機械式の技術とクオーツ式の技術を融合させたスプリングドライブという機構を開発したのでした。グランドセイコーはこの機構を使って、機械式だけど極めて正確。でもデジタルではないというポジションを構築しはじめます。

当初は、セイコーの廉価版の時計と部隊は同じ、少なくとも違いを付ける取組をグランドセイコーは行っていなかったと思いますが、数年ころより本格的にグランドセイコーを一つのブランドとして、セイコーから切り離す取組を開始しています。

再びセイコーの売上をみてみましょう。2019年3月末で連結で2500億円で時計事業は1400億円をしめています。何よりも連結全体の利益は90億で、時計事業単体の利益は100億ですから、他の事業が足を引っ張る状況になっているのです(※1)。セイコーとしては半導体設備の投資低迷で電子デバイス事業が停滞。一方で近年の時計事業の躍進が明らかになっているのです。

続く。
こちらの参照(日本勢の時計の売り方



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