新規事業の旅98 エフェクチュエーション

2024年2月20日 火曜日

早嶋です。

(エフェクチュエーションとは何か)
失われた30年。企業の多くは既存事業からなる事業モデルを中心に日々のキャッシュフローを稼ぎ出している。ただし、その事業は成熟期、時には衰退期を迎えつつあり、事業の持続を進めるためにも早急に新規事業を生み出すことが命題になっている。

事業家の中では、近年、エフェクチュエーションという概念が注目される。エフェクチュエーションは、経営学者のサラス・サラスバシー氏が著書「エフェクチュエーション:市場創造の実行理論」の中で提唱する理論だ。優れた起業家に共通する意思決定の在り方や考え方を体系化したものだ。企業内で新しい企画や販促方法の取組、新商品を生み出すなど、新規事業の立上げ以外に関わる人にとっても有用な意思決定プロセスで、広範囲に参考になる理論だ。

従来の研究では、起業家個人の特性として、本人の資質や性格、環境などを抽象的に説明した取り組みが盛んだった。しかし、サラス・サラスバシー氏は起業家の共通する思考プロセスを体系化し、誰でも後天的に学習できるメソッドにしたことで評価を得ている。現在活躍する多くの起業家が、最初に目標設定を行うのではなく、今ある手段から新たな可能性を創造するという従来とは逆張りのプロセスを提唱していることが特徴だ。

(これまでの問題解決アプローチ)
これまで多くの企業は先に目標を示してきた。例えば、「年間10億円」とか、「新規事業の開発で不足する5億の売上を確保」などだ。目標を先に設定して、それを達成するための最適な手段を後から検討する方法だ。

このアプローチは、コーゼーションと呼ばれ、具体的な将来を細かく予測して、現状とのギャップから目標達成の手段を考え、行動に落としていく手法だ。ご承知の通り、既存の事業の延長であれば、ある程度在りたい姿を具体的に示すことができるのでコーゼーションのアプローチは有効だった。しかし、近年は、VUCA時代と呼ばれ、将来に対しての不確実性が高まり、社会やビジネスの未来予測が極めて困難になっている。近年の成果を出している起業家の多くが、結果的にコーゼーションの対極のアプローチを取り成果を出しているため、結果にエフェクチュエーションに注目が集まっているのだ。

(エフェクチュエーションのアプローチ)
従来型のコーゼーションのアプローチは目的の達成のために、「自分たちは何をすべきか?」を考えたのに対して、エフェクチュエーションでは「自分は何ができるか?」を考える。そして、誰もが持つ3つの資源を洗い出しながら、自分が今持つ手段を視覚化する。

1. 自分は誰か(who they are?)
2. 自分は何を知っているか(who they know?)
3. 自分は誰を知っているか(whom they know?)

の3つだ。「自分は誰か?」の問いかけでは、自分自身の特徴や独自の魅力を明らかにして利用する。起業家やイノベーターに特定の能力や属性は存在せず、共通事項としては、自分が持っている能力を社会課題の解決などに適応させているのだ。

「自分は何を知っているか?」の問いかけでは、個人が持つ知識や経験を明らかにする。皆、それぞれが異なる背景やバックグラウンドや経験を持つ。それらを活用して社会課題の解決に適応させるのだ。

そして、「自分は誰を知っているか?」の問いかけでは、人脈の整理を行う。新しい取組の中で、チームが持つ人脈やネットワークやこれまで培った関係性を活用しながら取り組むのだ。

つまり、資源を洗い出し、実際に行動して、他者との関わりやつながりの中で相互作用を誘発させながら新たな概念を生み出すことがエフェクチュエーションのプロセスになるのだ。実際に行えば理解できるのだが、思わぬ可能性とアイデアを創造することになる。

コーゼーションとエフェクチュエーションは対局の概念で優劣を議論するのは無意味だ。0から1を創る新規の取組はエフェクチュエーションのアプローチが適しており、1から10のように既存の取組を拡大するためにはコーゼーションが有効なのだ。成長期はコーゼーションのみで良かったが、今の時代は、状況は場面に応じてエフェクチュエーションも活用することがポイントなのだ。

(エフェクチュエーション5つの原則)
冷蔵庫を開いて、中にある食材を見つけて、料理をスタートする。手持ちの資源やネットワークを生かして行動を始め、それで何ができるかを考えるエフェクチュエーションには5つの基本原則がある。

 手中の鳥の原則(Bird in Hand)
 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
 クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
 レモネードの原則(Lemonade)
 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)

(手中の鳥)
何かを行う際に、新たな手段を開発するのではなく、既存の手段を用いて取組むことだ。企業やチームが既に保有する人材のスキルや技術、ノウハウや人脈などをベースに問題解決を行う原則だ。冒頭に説明した通りで、新しい取り組みと構えずに、今ある資源を活用して新しい取り組みにチャレンジするだけなのだ。

(許容可能な損失)
先に失敗した場合に、どの程度の損出があるかを予め予測しておく。許容できる損失を明らかにすることで、大きな火傷を負うことなく取り組みができるようになる。トライ&エラーが出来ない場合は、いきなり大きな挑戦をして、後戻りが出来ないくらいに大きな失敗をして全てを失ってします。これを避けるために、先に限界を理解しておく原則だ。

(クレイジーキルト)
既存の取組では、自社のリソースを使って全てを行う発想で取り組んでいた。一方で、エフェクチュエーションではとにかくオープンソースで行う。あるものは活用するが、無いものは顧客でも取引先でも、隣の部署のリソースでもなんでも活用する。まさに形や柄が頃なる布を一枚に張り合わせる感覚でいく原則だ。

(レモネード)
アメリカのことわざに“When life gives you lemons, make lemonade.”がある。「辛いことがあっても、ポジティブに捉え考え行動して、望ましい結果を手に入れよう。」という意味だ。今ある資源の捉え方や視点を変えてポジティブに解釈して新たな発想につなげる原則だ。失敗は成功のもとであり、レモンをレモネードに変えていく思考方法と態度が大切なのだ。

(飛行機の中のパイロット)
状況に応じて臨機応変に行動をする原則だ。新たな取組を連続的に成功させる事業家や起業家は予測不能な事態に対して迅速に対応する。飛行機のパイロットもコックピットの中の様々な計器を確認しながらも、状況を冷静に判断し、臨機応変に対応を迫られる。

5つの基本原則を見たように、エフェクチュエーションそのものが、未来を発見して予測するツールではなく、チームの行動によって未来を構築する概念が理解できただろう。

参考資料:「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」 吉田満梨、中村龍太 共著 ダイアモンド社



(過去の記事)
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