早嶋です。
今月の日経新聞に、コナカとサマンサタバサの記事が掲載されていた。
ーー日経新聞参照ーー
コナカは20日、子会社でバッグの企画・販売を手掛けるサマンサタバサジャパンリミテッド(サマンサJP)を7月1日付で完全子会社にすると発表した。サマンサJPは経営不振が続いており、完全子会社化で抜本的な立て直しを進める。
ーー参照終了(2024年2月20日の日経オンライン)
スキームは、株式交換。交換比率等は今後の交渉事で、コナカは完全子会社化し、サマンサJPは東証グロース市場から上場廃止になる。
サマンサJPの売上ピークは2016年で約450億、そこから減少を続け23年時点で約250億に。営業利益は同期間のピーク2015年で30億ちょっと、そこから8期連続の赤字に。23年5月にサマンサPJはコナカより18億円の資金調達を行い構造改革を急ぐも黒転できず。
サマンサタバサは94年の創業で、主力はバック。企画から製造販売まで手掛け、バック以外にジュエリーなど10ブランドを抱えるが、どれもピンとこない。10代から20代にフォーカスして人気モデルを積極的に活用して広告宣伝を展開し支持を得ていた。しかし2000年代頃より新たな客層にブランド訴求が出来ずに低迷していた。
2007年頃よりスマフォが主流になり、2015年頃より、若手の消費がより合理的になってきた。松竹梅のブランドがあった場合、梅のGUやユニクロや無印と末のルイヴィトンやグッチが顕著に人気が出て、竹の同ブランドはかなりの勢いで陰りを見せた。理由は、リセールにあると思う。
試しにメルカリでサマンサタバサといれると、商品は多数販売されているが、ほとんど売れていないのだ。この中間的なブランドのポジションは今後も極めて厳しいと予測できる。そこにコナカの出番だ。が、コナカのブランドポジションも中。得意分野は男性、それも紳士。カジュアル、ファションなど女性のブランドも展開しているが、ここは収益がでていない。なかなかシナジーが出にくい取り組みのように思える。
‘戦略’ カテゴリーのアーカイブ
事業シナジー
新規事業の旅99 2世と3世
早嶋です。
後継者問題が10年以上フォーカスされているが、日本の中小企業の多くは、そのファミリーが継ぎたいと思わない理由がある。売上が小さい、借財が大きくて経営者になった瞬間に肩代わりする可能性がある、今後の事業の発展性が見込めない等々だ。それでも、2世や3世がその事業を引き継ぐ頃は、専務や常務という肩書からスタートし、創業者が苦労してきた要諦を知らないままに経営を引き継ぐことが多い。
特に、創業者が戦後に事業を始めていれば、2世が引き継ぐ頃は最も事業が利益を高め、日本としても良い時代に引き継いでいるので、マイナスの側面をあまりしならい。そして、事業のピーク前後から3世に引き渡す頃には、ずいぶんと事業規模も縮小している。よく言われるように、創業者が礎を創り、2世が縮小させ、3世が盛り返さなければいけない状況にある。だ。
2世が経営者だった頃、3世候補は親(2世)が行っている商売に対して、何かしらの古臭さを感じ、他の親を羨む気持ちを持ちながらも高校、大学に行き、一流と名のつく企業に勤める。しかし、どこからしら甘やかされて過ごしたこともあり、社会の厳しい風当たりに耐えられなくなり、ふと創業者のおじいちゃんの顔が見え隠れして、実家に戻って親の後でも継ごうという考えで、3世としての道を歩みはじめる。一方で、3世は当初から事業を継ぐ気はなく今勤めている企業で大きな成果を出し自分のビジョンも持ちはじめている。そんな中、急に2世の父が病に倒れ、母親から実家に戻って事業を継いでほしいという経緯で、仕方なく事業をついで3世になった話も現実によく聴く。
この2世や3世に共通する大切なポイントは、なぜその商売の顧客が、その家業に対して対価を払い、事業として存続するためのキャッシュを生み出すことができているか。という商売で大切な根本を理解することなく、経営をしているフリをしているのだ。
例えば、20人くらいの規模だとする。創業者、もしくは2世(父)が社長で、その下には大抵の場合、社長の片腕がいて番頭として経営を切り盛りしている。息子として実家に戻った際は、肩書が常務取締役であったり専務取締役で始まることが多い。
20人も社員がいれば、何十年も先代や現社長と仕事をして部長止まりの肩書もいるだろう。ファミリーだからと言って、20代、30代そこそこがいきなり専務だの、常務だので内心、不満を持ち合わせる社員もいるだろう。しかし。多くは黙って旨にしまい込んでいる。
2世、もしくは3世として経営陣の立場になった息子は、現社長に経営の状況をヒアリングする。社長は、うまくいっている。売上は小さいが、利益は着実にでている。心配することはない。などと、極めて曖昧な話をする。息子も自分で商売を始めた経験が無いので、なんでうまく言っているのか、どのくらいの売上に対して費用がどの程度かかっており、それは適正なのか、などを調べる視点も無い。結果的に自分で考えることなく、なんとなくそのポストに収まって居心地の良い生活がはじまる。
20人の社員からは、専務とか常務とか言われるため、規模が小さくても、なんか心地が良くなる。地元の金融機関に行っても、専務とか常務とか言われながら、引き続き当行とよろしくね、などと話をされるので、なんだか自分が偉い感じを受けてしまう。そしてそのうちに、青年会議所だのローターリーだのに顔を出し始め、経営者ごっこをしている同じような立場の人とあつまり、勘違いは勢いをつける。
いつまで立っても、2世、3世は自分の頭と足と手で、自社の分析をして、課題を発見してそれを潰す試行錯誤を始めないのだ。世の中がダウンの時、この状況で家業が傾くのは目に見えているのだ。
2世、3世の共通の思考として、経営について問を立てても、先代が開拓した得意先からの仕組みが出来ていると得意げに応える。注文も一定が自動できて、リピードで一定の売上が確保できているのだ。利益に対しての問を立てても、少ないが、その状況が業界では当たり前なのだ。とかえってくる。そこになぜ、その仕組ができたのか?どのようにあ先代は顧客の獲得や取引先の拡大をしたのかと問うても、知らないし、自分で疑問を持ったことも無いような雰囲気をみせるのだ。
だからといって経営学修士を取って勉強しろとはならない。経営は泥臭く、常に試行錯誤をして、ちやほやされることではない。家族や社員や顧客。そして社会のために、自分たちが掲げた理念の実現のために、常に試行錯誤を続けることだと思う。そこに、現経営者が亡くなるタイミングで、ようやく気がついたとて遅いのだ。
先代や現経営者が構築した土台にのっかっても、成熟期や衰退期を迎える日本ではどうにもならない。あぐらをかいているにすぎないのだ。数年も立たずに会社がガタつくことは見えているのだ。
新規事業の旅98 エフェクチュエーション
早嶋です。
(エフェクチュエーションとは何か)
失われた30年。企業の多くは既存事業からなる事業モデルを中心に日々のキャッシュフローを稼ぎ出している。ただし、その事業は成熟期、時には衰退期を迎えつつあり、事業の持続を進めるためにも早急に新規事業を生み出すことが命題になっている。
事業家の中では、近年、エフェクチュエーションという概念が注目される。エフェクチュエーションは、経営学者のサラス・サラスバシー氏が著書「エフェクチュエーション:市場創造の実行理論」の中で提唱する理論だ。優れた起業家に共通する意思決定の在り方や考え方を体系化したものだ。企業内で新しい企画や販促方法の取組、新商品を生み出すなど、新規事業の立上げ以外に関わる人にとっても有用な意思決定プロセスで、広範囲に参考になる理論だ。
従来の研究では、起業家個人の特性として、本人の資質や性格、環境などを抽象的に説明した取り組みが盛んだった。しかし、サラス・サラスバシー氏は起業家の共通する思考プロセスを体系化し、誰でも後天的に学習できるメソッドにしたことで評価を得ている。現在活躍する多くの起業家が、最初に目標設定を行うのではなく、今ある手段から新たな可能性を創造するという従来とは逆張りのプロセスを提唱していることが特徴だ。
(これまでの問題解決アプローチ)
これまで多くの企業は先に目標を示してきた。例えば、「年間10億円」とか、「新規事業の開発で不足する5億の売上を確保」などだ。目標を先に設定して、それを達成するための最適な手段を後から検討する方法だ。
このアプローチは、コーゼーションと呼ばれ、具体的な将来を細かく予測して、現状とのギャップから目標達成の手段を考え、行動に落としていく手法だ。ご承知の通り、既存の事業の延長であれば、ある程度在りたい姿を具体的に示すことができるのでコーゼーションのアプローチは有効だった。しかし、近年は、VUCA時代と呼ばれ、将来に対しての不確実性が高まり、社会やビジネスの未来予測が極めて困難になっている。近年の成果を出している起業家の多くが、結果的にコーゼーションの対極のアプローチを取り成果を出しているため、結果にエフェクチュエーションに注目が集まっているのだ。
(エフェクチュエーションのアプローチ)
従来型のコーゼーションのアプローチは目的の達成のために、「自分たちは何をすべきか?」を考えたのに対して、エフェクチュエーションでは「自分は何ができるか?」を考える。そして、誰もが持つ3つの資源を洗い出しながら、自分が今持つ手段を視覚化する。
1. 自分は誰か(who they are?)
2. 自分は何を知っているか(who they know?)
3. 自分は誰を知っているか(whom they know?)
の3つだ。「自分は誰か?」の問いかけでは、自分自身の特徴や独自の魅力を明らかにして利用する。起業家やイノベーターに特定の能力や属性は存在せず、共通事項としては、自分が持っている能力を社会課題の解決などに適応させているのだ。
「自分は何を知っているか?」の問いかけでは、個人が持つ知識や経験を明らかにする。皆、それぞれが異なる背景やバックグラウンドや経験を持つ。それらを活用して社会課題の解決に適応させるのだ。
そして、「自分は誰を知っているか?」の問いかけでは、人脈の整理を行う。新しい取組の中で、チームが持つ人脈やネットワークやこれまで培った関係性を活用しながら取り組むのだ。
つまり、資源を洗い出し、実際に行動して、他者との関わりやつながりの中で相互作用を誘発させながら新たな概念を生み出すことがエフェクチュエーションのプロセスになるのだ。実際に行えば理解できるのだが、思わぬ可能性とアイデアを創造することになる。
コーゼーションとエフェクチュエーションは対局の概念で優劣を議論するのは無意味だ。0から1を創る新規の取組はエフェクチュエーションのアプローチが適しており、1から10のように既存の取組を拡大するためにはコーゼーションが有効なのだ。成長期はコーゼーションのみで良かったが、今の時代は、状況は場面に応じてエフェクチュエーションも活用することがポイントなのだ。
(エフェクチュエーション5つの原則)
冷蔵庫を開いて、中にある食材を見つけて、料理をスタートする。手持ちの資源やネットワークを生かして行動を始め、それで何ができるかを考えるエフェクチュエーションには5つの基本原則がある。
手中の鳥の原則(Bird in Hand)
許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
レモネードの原則(Lemonade)
飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)
(手中の鳥)
何かを行う際に、新たな手段を開発するのではなく、既存の手段を用いて取組むことだ。企業やチームが既に保有する人材のスキルや技術、ノウハウや人脈などをベースに問題解決を行う原則だ。冒頭に説明した通りで、新しい取り組みと構えずに、今ある資源を活用して新しい取り組みにチャレンジするだけなのだ。
(許容可能な損失)
先に失敗した場合に、どの程度の損出があるかを予め予測しておく。許容できる損失を明らかにすることで、大きな火傷を負うことなく取り組みができるようになる。トライ&エラーが出来ない場合は、いきなり大きな挑戦をして、後戻りが出来ないくらいに大きな失敗をして全てを失ってします。これを避けるために、先に限界を理解しておく原則だ。
(クレイジーキルト)
既存の取組では、自社のリソースを使って全てを行う発想で取り組んでいた。一方で、エフェクチュエーションではとにかくオープンソースで行う。あるものは活用するが、無いものは顧客でも取引先でも、隣の部署のリソースでもなんでも活用する。まさに形や柄が頃なる布を一枚に張り合わせる感覚でいく原則だ。
(レモネード)
アメリカのことわざに“When life gives you lemons, make lemonade.”がある。「辛いことがあっても、ポジティブに捉え考え行動して、望ましい結果を手に入れよう。」という意味だ。今ある資源の捉え方や視点を変えてポジティブに解釈して新たな発想につなげる原則だ。失敗は成功のもとであり、レモンをレモネードに変えていく思考方法と態度が大切なのだ。
(飛行機の中のパイロット)
状況に応じて臨機応変に行動をする原則だ。新たな取組を連続的に成功させる事業家や起業家は予測不能な事態に対して迅速に対応する。飛行機のパイロットもコックピットの中の様々な計器を確認しながらも、状況を冷静に判断し、臨機応変に対応を迫られる。
5つの基本原則を見たように、エフェクチュエーションそのものが、未来を発見して予測するツールではなく、チームの行動によって未来を構築する概念が理解できただろう。
参考資料:「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」 吉田満梨、中村龍太 共著 ダイアモンド社
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新規事業の旅97 今後のマーケティング
早嶋です。
スマートフォンが普及し、在りとあらゆるデータが基本的に収集できるようになり、マーケティングはデータ分析が当たり前になった。一方で、顧客との接点(コンタクトポイント)は多種多様になりマーケティング環境は複雑化している。そのような環境下、マーケターは短期的な利益の追求と同時に企業価値の向上に貢献すべく難題と向き合う日々を送る。さて、そんなマーケターは今後どのような取組をすべきだろうか。
(3つの特徴)
企業はミッションやビジョンを追求するために、その原資として必要なキャッシュを稼ぐ必要がある。キャッシュは売上から費用を引いた残りだ。同じような商品であれば、顧客は安いものを求める。一方で、価値を認めればそれなりの単価を支払う。そのため基本的に企業が探求すべき取組は独自の価値、つまり安く提供できる仕組みか、それ以外の価値を創造し提供し続けることが大切だ。
全国に同じような形態で事業を展開する企業の特徴は、次の3つがある。どこの企業も業過のトップをベンチマークしており、独自のポジションを確立できないでいる。今改めて自社や商品のポジショニングを明らかにすることが重要だ。
次に、仕組みとしてマーケティングが定着していない点だ。店舗系の事業であれば、売上拡大のために出店して、新商品を提供することで売上を獲得してきた。優れた商品を提供することで来店者が増し、その顧客に対してリピート策を講じるのだ。しかし、盲点はそもそも来店しない顧客にリーチできていないので、少子高齢化と共に顧客の総数が減少しはじめることだ。そのため来店しない顧客に認知を得る取組が重要になる。
最後に、比較的大きな組織で観察される特徴は、組織が連携せずに各々の機能が独立して縦割化されていることだ。企画は商品を考え、営業は商品を売り、カスタマーサクセスは、アフターフォローを行う。各機能は一見役割分担がきれいに行われているが、カスタマーサクセスから商品企画にフィードバックがいく仕組みがない。営業は常に値引きをしてノルマを稼ぐので、利益の貢献度合いが見えにくい。本来のキャッシュを最大化するための組織的な役割を全社最適に取り組めていないのだ。
(自社のポジション)
一定期間事業活動を行い、顧客が定着している企業は、独自のポジションが必ず定着している。大切なことは、そのポジションを再度言語化して、正しくマーケティング活動に活用することだ。そしてそのポジションをゼロから構築するのではなく、これまでの活動を見直し、実際に構築したブランド資産、顧客の声を確認し、顧客が求める要素を整理する。そして自社が取り組んだ競合との差別化について再び体系的に整理するのだ。
コカ・コーラは長い間、商品に「クラシック」と名前を付けていた。1886年に誕生したコーラ飲料は、1985年に企業独自の取組として新しいレシピを開発して「ニューコーク」を導入したのだ。しかし熱烈なファンはこれに憤慨した。自分達に馴染んだコーラが勝手に味を変えられたからだ。コカ・コーラ社は、結果的に従来のレシピに戻し、伝統的な味やレシピをたたえ「コカ・コーラ・クラシック」と名付けたのだ。
マーケティングを行う上で、自社のポジションを明確にすることは重要だ。通常は、市場分析と競合分析を行い、自社がどのように認知されているかを確認する。そして顧客の声を聴き、分析結果と自分たちが考えるポジションが一致していることを確認する。これらを文字や絵や音などを使ってポジションを概念化するために、商品や価格、流通や販売促進活動などの整合性を取るのがマーケティングの一連の仕事になるのだ。
ポジションとは、商品や企業のイメージをどのように表現するかの指針であり、そのポジションによってコミュニケーションの在り方やパッケージ、時には価格帯だって変わってくる。例えば、クラスに人気者がいたり、優等生がいたり、するがそれぞれが自分のポジション持ち、そのポジションを理解しながら行動をする状況を思い出して欲しい。
ちびまる子ちゃんの主人公、まる子が勤勉でお母さんからも怒られることが無ければ、それはまる子ではない。クラスの花輪クンが、貧乏で勉強もできなくてウジウジしていたらそれは別の登場人物になる。顧客のアタマの中にあるポジションを企業は理解して、それを適切に表現することが重要なのだ。
(マーケターの仕事)
モノが不足した時代は、マーケターの仕事は製造と捉えられた。情報格差があり地域差があった時代は広告宣伝がマーケティングと捉えられた。しかし、いつの時代でもマーケターの仕事は、長期的に利益を生み出す仕組み作りにある。そのために、自社のポジションを明らかにして、対象顧客に対して理想的なマーケティング・ミックスを提供するのだ。
マーケティング・ミックスとは、所謂4Pと言われるフレームワークで、商品、価格、流通、販売促進を俯瞰的に捉えて利益につながる施策を実行することだ。小手先で販促手法を変えても、ターゲットがずれていたら効果は薄い。どんなに素晴らしいコミュニケーション手段を持っていても、対象顧客がリーチできなければ売上に繋がらない。常に、事業全体を俯瞰して利益の追求を最大化する仕組みを考えることがマーケターの仕事になるのだ。
(データ化の落し穴)
スマフォが普及して、顧客情報を獲得するためのツールは、クレジットカードやハウスカードからアプリを顧客にインストールして頂く仕組みが定着した。そして、そこで蓄積したデータを活用して継続的に来店や購買を促す取り組みが当たり前にどの企業でも行われるようになった。
企業はアプリの利用データを分析して購買履歴を元にクーポンを発行したり、利用を促したりしている。しかし、この取り組みは、既に来店してその企業や商品を認知している顧客に限って行われていることを常に理解しなければならない。そしてどんなに優れた仕組みであっても、その取り組みは他社や競合も簡単に模倣ができる仕組みであり、自社のポジションを構築する活動につながりにくいことも理解しなければならない。
この一連の取組であるCRM(顧客関係管理)は、既存顧客とのコミュニケーションを改善して、顧客の再利用や再来店を促すこと、或は満足度を上げて解約率を解消する取組には有効だ。しかし、自社の差別化を実現し競争優位なポジションを確立するためのツールとしては弱い。
今のところデータの活用は、実際のマーケティングの施策がどのように効いたのかを検証し確認するためのツールとして捉えると効果が高い。この場合は、顧客データは非常に価値を生む。多くの企業は商品を市場に投下するまでの過程でデータ分析を駆使するが、一定の商品点数があり、実際に商品を投下しないと効果が見えない場合は特に、データを事後分析に活用すると良いのだ。
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新規事業の旅96 オープンイノベーションの打ち手としてのCVC
早嶋です。
成熟事業でキャッシュを得る企業の多くは新規事業開発に課題を持つ。一方で、新規事業開発を積極的に進めている企業は、事業開発の手法にオープンイノベーションを活用している。NEDOによるとオープンイノベーションは、”組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである”と語られる。
新規事業を開発する手段としては、完全に時前で行う方法と、外部リソースを活用する方法がある。オープンイノベーションは双方を融合した手法だ。企業が事業開発を自前で行う場合、いわゆるゼロイチのフェーズで、オープンイノベーションといいながら従来の思考、時間軸、ネットワーク、業界で議論をしがちだ。従い、セレンディピティ的な事象が起きにくく閉塞感を伴うことが多い。そもそも従来の延長で議論をして新規事業が開発できていれば、今苦しんでいないはずなのだ。
そこで本稿でも度々議論しているが、ゼロイチの次は何故かM&Aに希望を持つ。新規事業を買うことで解決しようと考えるのだ。が、繰り返し何度も言うようにM&Aは万能ではなく、簡単では無い。
そこで、いよいよオープンイノベーションを実施することになるが、どうもベンチャーだ!ということでベンチャーキャピタルと関係を強めて情報を集めようとする。この取組自体は間違っていない。ベンチャーキャピタルは様々な得意分野があり、その得意分野に関する情報と周辺の話は確実に集まってくるからだ。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)にお金を費やしても、なかなかオープンイノベーションでの自社事業展開に結びつかない。基本的なベンチャーキャピタルは、複数の資本家からLP投資を受け、その金額から運営費をまかないながら特定分野に投資をする。ベンチャー企業に出資をするのはVCで、LPとVCは通常10年の運用契約を結ぶ。
企業がLP投資をしてVCを通じてベンチャー企業に出資をすることは可能だが、基本的に複数のLPの話を聞いて合意をとって投資とはいかない。VCの目的は自ずと財務リターンを最大化することになる。
では、オープンイノベーションをどのように進めるのがよいのかだ。基本的には、自社や事業の現在から将来にわたる課題を整理しながら、その課題の解決ができるパートナーを都度さがしながら、提携しながら取り組むことを提案し続けることだ。
通常、ベンチャー企業はプロダクトを有することが多い。イノベーティブな技術や視点が異なるアプローチで商品開発を行っている。一方で、成熟した企業は組織を活用した営業力やこれまで培ってきた特定エリアのネットワークを有す。また製品の品質を向上したり、小規模生産を大規模生産に展開するなどを得意とする。そのため将来の課題を保管できる技術や製品やサービスの開発が終わり、テストマーケティングを行う前後で企業が提携をすることができれば、双方にメリットが出る可能性がある。
事業会社は事業開発が効率的に進み、ベンチャーは不足する資源を獲得すると同時に、将来の販売網を一部確保するなどが見えてくる。場合によっては、1年分程度の運転資金を獲得して、じっくりと事業化に専念できるようになる。
が、このような取組を事業会社が取り組んだとしても、1社、2社程度は良いが10社から20社くらい同時並行して進めるとなるとかなり苦労する。そこで、提携や協業を行いながら出資を続けるCVCの存在が非常見魅力的に見えてくる。CVCは、LP1社に対してGP1社の1対1で運営する。そのためGPは事業会社の投資目的を実現するベンチャー企業をリストアップの段階から一緒に協議して進め、ミドルリストの絞り込みを行う。
例えば、30億円規模のCVCであれば、1億から数億の投資を1年で3本程度行いはじめの5年で投資を終える。その中で、提携で終わり投資をしないベンチャーもあるし、出資提携を行いながら事業開発の協業を行うベンチャーもある。複数のベンチャーを毎月投資後もフォローをしながら事業シナジーと財務リターンの両方を獲得するようにGPが細かくベンチャー企業と行動をともにするのだ。
そう、一定の金額予算を確保して事業シナジーを生みながらオープンイノベーションを実施するために、CVCの活用は非常に合理的かつ魅力的なのだ。
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新規事業の旅95 情シス情事
早嶋です。
企業における基幹システム。企業は日常的に単一から複数の事業を運営する。その中で様々な情報が飛び交い、経営者は日々意思決定を強いられる。基幹システムはそれらを企業で統合し経営資源をより効率的に活用する目的で管理活用する仕組だ。そのため基幹システムの活用は戦略と紐づくべきだ。
経営資源は、ヒト、モノ、カネと言われる。ヒトに関しては、人事評価や給与計算、日常的な仕事の報告から、顧客管理まで多岐にわたる。モノに関しても、購買管理、在庫管理、生産管理、需要予測など様々だ。そして、カネに関しては、会計財務、原価管理、に加えて人的資本経営の各指標の判断など、膨大な情報を日々企業は管理している。
コンピューターが企業の中に組み入れはじめたのは1990年頃だ。当時は、今と比較できないくらい高価で物理的に大きく処理速度も驚くほど遅かった。それでも全てアナログで行っている作業をコンピューターに置き換えることで劇的な進化を感じる兆しがあった。95年にマイクロソフトが基本OSを発売する前後から、個々人がPCを使う文化が浸透し始め、2000年頃から、大手企業や進んだ企業は1人1台のPC割当が当たり前になっていく。
企業のシステムや情報管理を行う部隊はPCの歴史とともに始まる。情報シスと呼称され、従業員が一定数以上いれば必ずある部門だ。当初は、導入した高価なコンピュータにデータ入力し、機材を管理するのが主な役割だった。しかし、2000年頃より、社員ひとりひとりにPCが配布されるようになり、その手配やフォローなどを行う部隊に変わっていく。やがて、オンプレのサーバーに様々なデータを詰め込み、管理し活用する動きが出てくるが、この頃より情シス部隊のアップデートに限界がくる。日常的な社内インフラの問い合わせや雑務に追われるなか、基幹システムのような構想が世の中に出始めるのだ。
2000年頃より増設された情シス部隊。メーカーや商社や金融等、日々のテクノロジーを活用して情報で利ざやを稼ぐ企業は情シスの重要性を理解して、戦略部門とセットで採用教育育成を続けた結果、中枢の部隊となっている。しかし多くの企業は2000年頃に出来た部隊の仲間が継続して、戦略とは無関係に総務の延長のような仕事として、重要な部隊にも関わらず陽の目をみない部隊となる。その結果、情シス部門の高齢化が進み、2010年頃より、新規採用を始めるも、社員が根付かない現象を繰り返す。
理屈はこうだ。情シス部隊に採用された新卒は、最新のテクノロジーを学び、それらを駆使して大学やマスターで取り組んだような仕組みの構築や将来の社会インフラを変える取り組みなどを期待する。しかし、明らかに新卒の研修でも配属先での業務もレベルが低く、マネジメント層や上司がそもそもデジタルを理解していない。あるいは、理解している方はごく一部で、全ての社内の業務が集中するので、新人の教育どころではないのだ。
こんなもんかとSNSで他の同期やメーカーの情シスのことを調べると、どうも違うようだ。自分が居る部署がそもそも外れなのだ。と思い、転職していく。
企業も2010年頃より、情シスを強化してデジタル化、近年ではトランスフォーメーションを加えてDX化を試みるが、そもそも戦略の理解と現場や現業の上流工程や下流工程を理解しながら、どこをトランスフォーメーションすると良いかを構想できる人材が少ない。更に、それらを近年のテクノロジーでどのように応用的に解決できるか、アンテナを張る範囲が圧倒的に少ないのだ。結果、外注先に丸投げしてしまい、社内で採用、育成、強化する取り組みが疎かになったのだ。
何事もどっぷり浸かって、2年、3年本気で取り組めば大手企業に務める能力がある方は、手法や勘所はわかるのだが、専門外と言ってSIerに依頼するのだ。その際も、全体の使用決めや職場や事業や業界の課題を整理して、最低限目的などを共有できれば良いのだが、それも丸投げ。
ということで、大手SIerも真面目に取り組んだら採算が合わないので、仕事を欲する協力会社1合に依頼、1号は内容がわからないということで実績があると思う2号に丸投げ。結果、フリーランスでガンガン動いている数人が仕上げてしまうも、表に出ずに、手数料だけ抜かれて誰も幸せにならない構図が数年経過するのだ。
そんなときに、オンプレミス、つまりソフトやハードを自前で調達して自社に設置する運用形態から、クラウドサービスが登場していき、また現場がついてこれなくなっているのだ。大手SIerも知恵のアップデートが遅れ、丸投げした個人や協力会社2号はクラウドを武器に、それぞれが提供する資格を取り続け、常に知識と知恵と経験をアップデートした結果、下剋上の世の中になっている。
基幹システムの構築は戦略そのものだ。企業が生産性をあげて事業を遂行し、成長をしたいのであれば、都度その仕組や評価方法などもアップデートしていく。ここに皆が気がついているが、デジタルの理解が少ない経営者や管理者が多い企業は、自社で構築している少し前のオンプレ中心とした基幹システムを、クラウド中心の仕組みに総入れ替えする意思決定も出来ないのが現状だ。
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新規事業の旅94 通年採用のススメ
早嶋です。
新規事業。持続可能な社会の再構築。イノベーション。日本企業の多くが共通認識として掲げるスローガンだ。このような難しい社会の課題を解決するための人財戦略の多くは未だに新卒一括採用が幅を利かせる。
別の視点では、人財を資本と捉えて積極的に投資を行い、長期的な企業の利益に結びつける経営手法を上記の企業はセットで掲げる。従来のように経営資源であるヒトを費用として捉えるのではなく、資本と捉え投資をする中で価値を上げる資源と捉えている。
しかし、採用現場には大きな矛盾が生じているのだ。
人的資本経営を掲げる企業、イノベーションを連呼する企業。そのような企業が未だに新卒を人財調達の1丁目一番地に置いているからだ。しかも、就職活動の時期が早期化していることで、大学での学びが更に薄まっている。学士で就職をする学生は3年生の春、修士は1年生の春からインターンシップ活動に明け暮れる。大手企業も限りある人財資源をゲットするために、本業度外視の学生に唾をつけるのだ。修士は未だ良いとして学士の場合、これから大学の学びを本格化する時期だ。学生は、大学の授業やゼミよりもインターンや就活を優先している。そして、早々に就職のチケットを得た学生は学びをやめてしまっている。本末転倒なのだ。
同様の企業は、人財の多様性に加えて、グローバルで活躍する学生を求めている。が、留学の時期は3年生の後半から4年生にかけてが一般的で、インターンの活動と重なるため今の学生の思考では、留学の選択肢が薄れてきているのだ。同窓生は、その時期にインターンシップを経験して就職を有利に進めていると勘違いしてしまうからだ。
もっぱら、高校生にとって大学がゴールであり、大学生は就職がゴールのような幻想を抱く。更に学生時間にじっくり時間をかけて将来を見つめ勉学や遊びに励む余裕も希薄化している。そのような学生を資本と捉えて長期的に育てる企業も問題視すべきだが、この流れを変えることは難しいだろう。
20年前の学生は、NPO法人の活動に力を入れて、就活の材料として企業にPRしていた。今は学生起業部やベンチャー企業でのバイトに勤しみ、その経験を就活の材料として大手のチケットをゲットしようとする。学生からすると人生の中で新卒という1回限りのタイトルを最大限活用すべく努力しているのも分かる。
提案だ。企業人事戦士は新卒一括採用という古き良き次代の考え方を捨て、通年採用に軸足を移すべきではないだろうか。当然、新卒一括採用のコスパは最強だし、定着した文化なので一定のボリュームを効率的に確保できる手段だ。が、20年前と同じような忍耐力は今の学生にない。たくさん学生を採用して半分くらい残ればラッキーという考えでは、採用した人財を資本として認知するのも疑問だ。それよい通年採用にシフトして、全ての人財を一本釣りをしながらじっくりと人財=資本として向き合う方々とコミュニケーションを取る手法に軸足を移す時期がきているのではないか。
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新規事業の旅93 アップルのゴーグル型端末
早嶋です。
アップルが発表したゴーグル型の端末。価格は3,499ドル。金額を見ると高いと思おうかもしれないが、同社初のゴーグル型端末にかけた開発資金は数百億ドルとも言われる。過去の報道をみると1台あたりの製造原価は2,200から2,500ドル。仮にこれが正しければ、研究開発費の回収を度外視していることになる。
仮想空間技術の専門家でKKRのアドバイザーを務める米国ベンチャー投資家のマシュー・ボール氏の分析によると、
・アップルは18年頃より開発に着手
・以降米国で約1万2,300件の特許申請を行う
・上記の内、約5,000件はゴーグル型端末に関係する
・研究開発費は約400億ドル
とのこと。
当然、この技術はMACやアイフォンなど他の商品にも転用されるであろうが、実際に莫大な開発費をかけていることが分かる。
過去に、プリンターやコピー業界でも、莫大な開発費をかけ、初期は法人向けなど限定して高価格帯の市場に投入し、その後製造コストなどの削減や技術の改善を繰り返し、同様の機能を低価格で提供する戦略を取っている。結果、大衆市場においてもシェアを拡大し、結果的に開発コストも回収するのだ。
同様にスマフォやタブレットなどの電子製品も当初は高額でごく限られた市場向けにリリースした。そして同様のマカニズムで価格を下げ大衆を取り込む戦略を取っている。
近年では、テスラのEVも似たような価格戦略を取っている。はじめて上市したロードスターは約10万ドルを超える価格設定だったが、現在の主力車種のモデル3は約3万5,000ドルで販売している。モデル3の外観は別として、EVそのものの性能はロードスターよりも遥かにバージョンアップされている。
アップルのゴーグル型端末。機能も十分ではなく、価格も高い。が、市場に出すことで開発者の基盤をつくることもできるし、様々なデータを取得することができる。それらを更に現場の開発に応用して半導体や光学系の技術に投資を行い、最終的にはアイフォンのように大衆でも少し頑張れば手の届く価格設定を出してくれることに期待しよう。
(過去の記事)
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新規事業の旅92 コカ・コーラのダイナミックプライシング
早嶋です。
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJ)は自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討している。夜間に価格を上げる実験から始まり、立地や需要期に応じて価格を調整する方針だ。筆者は再び失敗すると考える。
コカ・コーラ社は1990年代後半に、米国の自動販売機でダイナミックプライシングの導入を計画していた。しかし、マスコミや競合他社から強烈な批判を浴びることになり計画は実行されなかった。当時の計画は気温が高いタイミングで価格を上げる作戦。しかし、商品の価値自体は変わらないので本当に飲みたい時に価値が上がる仕組みが消費者に受け入れられなくて批判の対象になったのだ。
昨今、IoTとクラウド、そしてAIを活用した予測で、全国に70万台ある自動販売機のデータを管理しコントロールするのは容易だ。しかし、コカ・コーラの自動販売機は、その瞬間を逃したら二度とこないような体験を売っているわけではない。街中、どこにでも設置してコカ・コーラのコンタクトポイントを増加する作戦がベースだからだ。従い、需要期に値上げをしようものならモラル的に「おかしいぞ!」的な攻撃を受け、しずしず企画を中止する姿が推測できる。
立地条件で価格を変える場合、一定の僻地(山の中、山奥、ホテルの廊下やロビー、スタジアム等)では高い金額が定着しているので、消費者は疑問を呈さないだろう。その場合は、リアルタイムではなく、通常値段が違うのだ。それが、状況に応じて金額が変化することを理解した多くの消費者は嫌気をさすだろう。
コカ・コーラの自動販売機は全国に約70万台あり、台数ベースではシェア3割を超える。つまり、特定の顧客を狙ってブランド展開を行っているわけではない。あくまでもマスマーケティングで全国民をターゲットとして様々な商品を展開している。となると、コカ・コーラのことを考えて理解して商品を買うという層がいたとしても、コカ・コーラの商売を満たすだけのパイは無い。
ならばポイントを付与するのはどうか。既に導入はある。15本買えば、1本無料で手に入るというプログラムだ。アプリをDLして該当の自動販売機で購入時にポイントを貯める。DL数自体は2022年6月時点で3700万件を超えている。しかし、金額が高い時に、ポイントが付くからと言ってわざわざ買うだろうか。これも考えにくい。むしろコカ・コーラはCoke ONアプリを活用してサブスクの事業を展開したいはずだった。Coke ON Passだ。月学2,700円で毎日1本、上限毎月31本まで買えるプログラムだ。このプランは1日1本の引き換えで制限があった。ケータイのデータ量のように持ち越しが出来ない部分と1日に1本しか買えないことが不満になり解約に繋がった。そこで新たにお得プランMAXなるプログラムを導入して1日2本までの引き換えに変更している。
ここまでの結果を見ても、コカ・コーラのマス層の顧客は金銭にやかましのだ。というより安いからと言って買うことはなく、高い場合は、一定の嫌悪感を示すのだ。仮に夜に10円安いから買うのではなく、たまたま通りがかって買う。しかし、立地や需要に応じて明らかにいつもよりも高いことが分かれば、わざわざ自動販売機で買わないだろう。コンビニやスーパーで買う購買行動にシフトするだけなのだ。自動販売機はコカ・コーラの努力でコモディティにしている。それらを今更理屈では可能なダイナミックプライシングに変えたとてうまくいかないのだ。
アパホテルのダイナミックプライシングが成功している理由と比較してみよう。アパの場合、特定のビジネスパーソンを相手にしている。その立地にどうしても泊まりたい一定数の理由を持つ人が、多少の価格の乱高下を気にせずに利用する。その理由は、金銭を払うのは宿泊する人ではなく、会社だからでる。さらに、支払い金額に応じてポイントが宿泊者に溜まり、宿泊者に定期的に現金で還元される。ダイナミックプライシングの上限も法人が許容する金額を見据えて設定している徹底ぶりだ。ダイナミックプライシングが適応できる商品や業界があるのだ。少なくともコモディティで、直接購買する人と消費する人がイコールの商材は適用しづらいのだ。
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新規事業の旅91 アパホテルのプライシング
早嶋です。
アパホテルはダイナミックプライシングを導入して、資産稼働率を最大限に活用している。一部屋の金額は6,000円から12,000円がベースで需要に応じて3万円前後まで変動する。もし6,000円の部屋が1.5万円を提示された場合、顧客は疑問を呈するであろうが、その際あなたはターゲットではないと言うことだ。
アパホテルの対象顧客はビジネスパーソンで一定の層だ。特徴は、自分でお金を払わないで、法人が支払うということだ。マーケティングにおけるターゲットは特定の個人を指す場合が多く、法人ターゲットの場合は組織を分析する必要がある。例えば次のようになる。
宿泊する人:実際に出張等でホテルを利用する社員
お金を出す人:法人、もしくはその社員の上司や経理
情報提供する人:宿泊する人に影響力を与える有人知人雑誌メディア等
アパホテルが提供する価値は、確実にその立地条件に泊まれることだ。主要な都市を歩いているとアパホテルの立地は良い。部屋を常に定価で提供した場合、ターゲット外の顧客が気ままに時折のイベントなどで利用し、空室と満室のギャップが想定外に発生する。通常は、値段が安いからそのホテルに泊まると考える顧客はいるだろうが、その場所が良いから泊まるという顧客は少なくなる。しかも多少高くても、その場所に泊まりたいという顧客は更に限定されるのだ。出張等でホテルを利用する社員の中には、一定のルーティンを満たしたい顧客もいる。そのような顧客が一定数確実にいるのだ。
更に、法人の場合、お金を出すの人は泊まる人と異なるのがポイントだ。社員からすると急な出張を命じたのは会社だから問題ないと考えるだろう。自分の財布が直接痛むわけではないので、非常に合理的な判断が可能になる。個人事業主や小さな会社の経営者だと、その立地が便利だからといって通常1万円で泊まっている部屋に3万出すくらいだったら、別のシティホテルや更に程度の良いホテルを候補にあげ探すだろう。そこまで一つのホテル銘柄にロイヤリティは無いし、身銭を切る感覚があるので選択肢を広げるはずだ。
更にだ。アパホテルは宿泊する人にポイントが付与される。しかもそのポイントは宿泊価格に連動する。極端な話、急に出張を命じたのは会社だし、皆が遊んでいる時に仕事をしているのだから良いだろう。という感覚と同時に、ポイントという効力が働いているのだ。ポイントは、個人の付与なので会社の管理下にもなく、会社も黙認する。
たかがポイント侮るなかれ。アパホテルのWebサイト(2024年1月7日時点)によると、以下のように解説がある。
ーー
①現金に換える【アプリ会員、アパカード会員】
「アパ直」経由の宿泊予約で、アパポイントを5,000ptためると5,000円をアパホテルフロントでキャッシュバックします。※アパ直参画ホテル、佳水郷、海外は、キャッシュバック対応はできません。
②宿泊料金につかう
「アパ直」経由の宿泊予約で、アパポイントを宿泊料金に充当できます。※100ptから100pt単位で利用可能です。1泊1室あたり1,000ptが利用上限となります。
ーー
かくしてアパホテルの超合理的な戦略は今後も邁進するのだ。
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