新規事業の旅64 小売とマーケティング

2023年7月27日 木曜日

早嶋です。

店舗系事業の成功要因は何でしょう。一言で立地という時代は昔の話。地元に密着しながらも複数の媒体を活用した取り組みで、顧客本位に事業を行う。という当たり前のことがポイントになります。

(企業主体の4P)
有用なマーケティングのフレームワーク(考え方の枠組み)に4Pがあります。1960年にエドモンド・ジェローム・マッカーシーによって提唱された概念で、マーケティングを議論する際の4つの視点です。商品(製品やサービス)に関する方針のProduct、価格に関する方針のPrice、流通や商流や情報の流れを決めるPlace、そして販売促進に関するPromotionです。

モノが無かった時代は、商品(Product)が重視され、上流工程の研究や製造が企業の成功要因とされました。作れば売れたのです。モノが溢れると、今度は商品の認知がカギになり販売促進(Promotion )が注目されます。今と違い情報は僅か、そのため1980年代から1990年代は、広告代理店が中心となり、マス広告が普及します。日本の経済成長がピークとされた1996年前後、市場には似たような商品が溢れ、認知活動も進みます。そのため価格競争が激化して価格(Price)が重視されました。

(顧客主体の4C)
それぞれのPがバラバラだと上手くいかないという概念は当初から在りましたが、2000年前後より、「企業が商品を提供するのではなく、顧客の問題解決をするために企業がある。」という顧客志向の概念が脚光を浴び始めます。4Pの概念は、1990年代にロバート・ローターボーンが提唱した4Cの概念に言い換えられます。

4Pを企業側の視点とすると、4Cは顧客側の視点です。商品は顧客の問題を解決するモノなので価値(Customer Value)と捉え、価格はコスト(Cost)と捉えます。流通は顧客に取って利便性(Convenience)を提供し、一方的な販売促進ではなく、双方でコミュニケーション(Communication)することが大切とされました。

製品やサービスの購入により得られる価値に加えて、購買前後の体験や購買後のフォローを含みます。そして、感情的に得られる気分や優越感なども価値として考えます。

コストは商品の購入において重要な判断材料です。更に検討する苦労や流通に関わる苦労、取り付けや実際に使い始めるまでに必要な労力も加味して考えるとより顧客に寄り添った考えになります。価格の調査や割引情報、ポイント等を付加する取組もコストの範疇です。

優れた商品と価格帯が合理的でも入手困難な状態では購買に至りません。そのため顧客の購買前後の利便性までを考えることが大切です。小売店の陳列棚を見ると、商品をただアピールしたい企業の思惑が赤やオレンジなどの目立つパッケージに現れます。しかし、顧客はそれらを自分の家の素敵な空間に置きたいとは考えません。この流通に関する利便性の視点を変えるだけでも、様々な改善アイデアが出てきますね。

最後はコミュニケーションです。企業と顧客を継続的に結びつけ、意味ある意思疎通をタイミングよく行うことが大切です。企業は一方的に沢山の情報を届けようと考えます。しかし顧客に対して、顧客のタイミングで、わかりやすく伝えることが大切です。

(近年の小売の変化)
小売業界を見ていきます。2000代、4Pの概念が4Cの概念になり企業主体から顧客主体にシフトしました。しかしながら小売業界ではまだ4Pの中のPlace、すなわち立地条件が成功の鍵でした。理想の立地条件を探し、多額の費用をかけて出店を行います。そのため小売業は資金力がモノをいう世界でもありました。因みに2000年と言えば、当時の森首相がIT革命を「イット革命」と発音した映像が蘇ります。まだITを「アイティー」と呼ぶ文化が無かったのです。

ここにインターネット革命が風穴をあけます。ネットの普及と同時に2007年頃より始まったスマートフォン革命も小売業に大きな変化を与えます。誰もが気軽に情報を検索し、行きたい場所に行けるインフラの整備と共に、プラットフォームで気軽に商品検索と比較購買ができる環境が生まれたのです。この変化により立地条件の重要性は低下していきます。

ドットコムバブルの象徴でもある米国Amazonは、店舗を持たずに消費者と商品を結びつける事業形態を書籍販売から開始します。そしてその裏ではひたすら物流の整備を進めます。小売業の秘訣が立地から物流にシフトしたのです。米国ではAmazon、日本では楽天のような企業が小売業者と顧客を結びつけるビジネスモデルを確立します。

小売業者はプラットフォームの中で知名度が上位になることや、カテゴリの中で1位を取ることが販売の鍵だと考え広告宣伝費を費やします。また、購買者の評価を上げることにも躍起になり、プラットフォームの囲い込みが始まります。そのような中、中古品やオークションはヤフー、個人(素人)間の出店はメルカリ、法人事業のマーケットプレイスはモノタロウ、ナショナルブランドを購入する場合はヨドバシカメラなどと、Amazonや楽天一強の世界に競合が次々に登場して、目的によって顧客が媒体を選択する世界が始まりました。

(D2Cの始まりと終わり)
インターネットの世界でも小売業は進化し、顧客向けブランドを展開する企業や小規模事業者は従来のプラットフォーム(電子商取引サイト)を活用せずに、直接顧客と取引をする販売に注目するようになります。D2C(消費者直接取引)と呼ばれるモデルです。

D2Cの立役者はカナダのECプラットフォームであるショッピファイです。小規模の小売業者でも簡単にD2Cが実現できるように顧客情報等の管理業務、決済機能、配送インフラなどの各種サービスを提供しAmazonや楽天に対応できる仕組みを提供したのです。米国や欧州を中心にD2C企業が躍進して大量の投機マネーも流入して一大ブームが起こりました。

D2Cの特徴は、SNSを活用してブランドの認知度を上げ、顧客の興味を獲得します。そして、自社のサイトに誘導し顧客データベースを獲得。直接商品を販売して、きめ細かいアフターフォローを展開します。

しかしこのブームも長く続きません。SNSを活用し、似たようなコミュニケーション戦略と、商品は違えども、どこも同質のマーケティング戦略に顧客は定着することなく、D2C企業は顧客獲得に苦戦するとともに、投資家からも見放されていきます。費用をかけて広告宣伝が出来なくなると新規顧客の流入がストップして自社のビジネスの成長が下火になるという脆弱なモデルが露呈したのです。

コロナを発端に、ウクライナとロシアの戦争、中国のゼロコロナ政策による物流の停止、エネルギー価格や部品価格と配送料の高騰などが次々に連鎖しています。顧客はモノが欲しいけれども部品や物流の停滞で商品が不足し手元に届かず、結果的に物価が上がる現象が発生しています。D2C企業の直撃は、これに加えてSNSの広告ポリシーの急激な変更と広告料の値上げで追い打ちをかけられました。

(リアルとバーチャルの境目)
米国のウォルマートは、リアル店舗を活用したD2Cの開発を進めオンラインで注文した商品を店頭で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)をすすめています。一方のAmazonはリアルの世界から実店舗の世界へ拡張を進めています。今後は、リアルの店舗とバーチャルの取組が融合するオムニチャネルが当たり前になると、その土地にしかない希少性に益々価値がでてくるかもしれません。ひょっとして立地で始まったPは、流通に変わり、しばらくはローカライゼーションにフォーカスされるかもしれないですね。

(過去の記事)
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