新規事業の旅39 金融リターンではなく事業リターン

2023年3月13日 月曜日

早嶋です。

SVBファイナンシャルグループ傘下のシリコンバレー銀行が3月10日に金融破たんした。10年に及ぶ金融緩和局面の終了とともに金融システムに変化が出ているように見える。投資家はこれらの影響が他の金融市場に飛び火しないように警戒を強めている局面だろう。

そのシリコンバレー銀行が破たんに至った背景はざっと次の通りだ。

・設立目的は、シリコンバレー界隈のテック企業への融資
・が、テック企業は株式調達による資金調達でカネ余り
・その資金をシリコンバレー銀行に預金
・テック企業への融資は思うようにいかないが預金が増える
・そこで、その資金で長期国債や住宅ローン担保証券を中心に債券投資
・テック企業の経営悪化に伴う預金の取り崩しが始まる
・預金利回りとFRBの利上げで利ざやが縮小し負債と資産のミスマッチが起こり思ったよりも稼げなくなる
・信用不安が起こり、一気に預金流出が加速し破綻

本来のビジネスモデルでは稼げなかったが、一連のカネ余りで資金が調達でき債権投資で利ザヤを得てしまったことがいけなかった。事業が成り立たないのに、カネだけが集まっている状況だったのだ。

シリコンバレー界隈ではここ10年くらい、とにかくお金が集まりお金が余る状況が続いて、その資金を元本に本業ではない事業で儲かってしまい、判断軸が失われた状態が続いたのだ。

多くの大企業は、次の成長のために新規事業への投資枠を掲げている。既存事業は決して潤沢ではないが、両利きの経営を目指し、新規資金を準備するのだ。一方で、その資金をどの領域に投資し、どのような事業を次の稼ぎ頭にするのか、どのような事業モデルが良いのかの議論はあいまいなまま、資本政策を続ける企業も多い。事業の成長よりも、投資した資金のキャピタルゲインに目が行き本質を失っているのだ。

通常の事業会社は、財務リターンで収益を増やすことが目的ではなく、事業を通して、その事業リターンで社会に貢献をしながら収益を得るのが本来だ。事業の目的や存在意義は確認しながらの資本政策、当たり前だが今一度確認したいところだ。


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