早嶋です。
投資の仕方や意思決定の仕方は皆異なる。人は基本的に同じではなく違う。世代も、育った環境も、地域も文化も食生活も全て違う。結果、人は他人と異なる知識と経験と素養を持つ。考え方が異なることが当たり前だ。
知識は学習によって補うことができるが、個々人が生きた中の体験は、間接的な学びよりはるかに説得力がある。従い、投資に対しての考え方やスタンスも異なるのだ。
一方で、自分の経験をベースに議論を進めると、その考えが自分の中でマジョリティになる。当然だ。強烈な説得力の中で他を知ることが無いからだ。しかし仮に人口が80億人だとしたら、個人の考えは誤差だ。同じ知的レベルであっても、この母数を考えると投資に関する考え方が大きく異なって然りだ。
整理すると、我々は個々人の体験に基づき、異なる視点をとして物事を判断する。結局、誰も世の中の事業の仕組みを完全に理解できていない。無数に存在する仕組みの中でごく僅かな部分しか経験できないからだ。
一方で、判断をする際の傾向地は少しは分かりつつある。一つはいつ生まれたかだ。個々人が生涯にわたる投資判断は、その人がどんな時代に生まれたか、そしてその時代に経験した取組に左右されるという。
インフレ率が高い時代に育った人は、その後の人生で株式に投資する額が多くなる。今の50から60代前半のバブル世代は、いまのZ世代と比較するとお金に対しての考え方や使い方が明らかに異なる。豊かで快適な生活を求め、Z世代から考えると大盤振る舞いする豪快な投資をしている用に見えるはずだ。
1990年代後半から2012年頃に生まれたZ世代は、世の中(少なくとも国内)の目まぐるしい経済変化を体験していない。はじめからインフラが整い、貧富のさが少ない。そんな中で特段努力しても報われない。そのような思考が投資判断に影響するのだ。
更に、投資判断において面白い側面がある。人は、経験に加えて投資判断を下す際に、その時点で得た情報を自分の世界観に取り込み正当化することだ。FBから日々流れるエセ情報でも、確実な筋から得られた情報でも、当人には関係ない。独自の世界観で判断を下し、自分の中のストーリーに埋め込んで自分自身を納得させるのだ。
少し話を飛躍させよう。結果、我々は経済的な判断が苦手だと考えても良い。その理由を別の視点でみると歴史が浅いことに気がつく。お金は昔からあったが、世界で初めての通貨制度は紀元前600年頃。現在トルコのリュディア、アリュアッテス王がつくったとされる。しかし、投資という概念はこの時間軸でみるとごく最近だ。
老後をゆとりを持って生活するという概念は2世代前頃からで、第二次世界大戦迄は、基本的に多くの人が死ぬまで働いていた。老後の人生を豊かにはじめる投資判断も、学資ローンを受けてその後の人生を考える判断も、投資家から資金調達をしてベンチャー企業を行う判断も、極めて歴史が浅いのだ。
歴史が蓄積されたものではないので、個々人の中で合理化されるストーリーが正しく思うのだ。投資というお金のゲームは新しく、皆がおかしなことをしている。20年から50年程度の経験しかない金融システムに対して、独自の経験に基づき、その時々の意味に自分の判断基軸を交えて合理化しているだけなのだ。
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新規事業の旅103 誰もわからない
新規事業の旅102 ドーミーイン
早嶋です。
出張先でドーミーインを探すことが多々ある。仕事仲間がいつもドーミーインを予約していた。なんでまた、そんなホテルを推すのか、モノは試しに宿泊したのが始まりだった。なるほど、はまる。
基本、出張先のホテルは2つに分けている。しばらく滞在して、ホテルのロビーでの打ち合わせが必要な場合と、ただ泊る場として使う場合。前者は、ホテルはランクが上がり、後者は、快適、清潔、便立地であれば狭くてもどうでもよいと思っている。
時にはアパホテルだったが、価格が需要によって変動するので、その場所を確保する必要性がない場合はスルーだ。他のビジネスホテルは、都内の地下鉄系、JR系、独立系と諸々似たようなコンセプトでどこでも良く差を感じない。
が、ドーミーインはなんか違う。
北海道から長崎まで90拠点以上の宿泊施設を運営する同社。他のビジネスホテルと異なる差別化ポイントが複数あるのだ。
・ロビーでのコーヒーサービス(機械セルフで無料飲みほ)
・充実した洗濯機(使ったことないが)
・天然温泉の大浴場とサウナ
・湯上りのアイスクリーム
・夜食に名物夜鳴きそば(もちろん無料)
・時間帯によって、乳酸菌飲料の提供
・宿泊世代を意識した充実漫画本コーナー
そして、何よりも朝食だ。どの拠点に行っても、ご当地を意識した朝食ブッフェを楽しめる。宿泊金額から考えるとバリューだ。たとえ、一泊の仕事でも、ご当地の名物は朝食会場で一通り食べることができて、なんちゃってでもその雰囲気を楽しめる。
ドーミーインを展開する共立メンテナンスは、学生寮や社員寮の運営事業を母体とする。基本的に、宿泊して終わりではなく、一定期間そのエリアで過ごす学生や社会人に対して生活全般を提供してきた。つまり常にリトルハイアにフォーカスしているのだ。
ビジネスホテルは、アパホテルの事例でも紹介した通り、一見さんを相手にする事業というよりは、そのエリアで不定期に宿泊するリピーターの心をつかむのがカギになる。そのためビックハイアの満足を獲得するよりも、リトルハイアにフォーカスすることがとても大切だと思う。
ドーミーインは宿泊顧客に対して、「第二の我が家」を価値として提供すると聴く。宿泊事業のマネジメントには、特定の状況における「顧客のあったらいいな」を追求し、宿泊サービスを日々改善しているのだ。
例えば、
・シャレオツの間接照明ではなく、天井設置のシーリング照明
ターゲット層は、日本的な庶民文化で育った層、やっぱりその照明が家のようでくつろげるのだ。
・ベットメイキングは高級ホテルと異なり、足を自由に動かせるかけ布団風のデュベスタイル
ベットメイキングの後に、毎回布団をつかんで足を引っ張って、布団とベットを離して、足を開放させる動作が不要だ。こちらのほうがやっぱりくつろげるのだろう。
・館内のパジャマはパンツと上着が別々のタイプ
・スリッパで館内を移動できるように、若干立派なスリッパ
要は、チェックインの後に、パジャマに着替えて、風呂やサウナで汗を流し、そのあともスリッパで館内を自由に移動できる空間を提供したのだ。もちろん、この層にハマらない顧客は度外視しているだろう。特定の顧客をターゲットにしているのだ。
差異化のポイントは、他社と異なる違いを作ること。つまりベターの戦いではなく、ディファレントの提供だ。そのことをよく研究しているのか、改善のマネジメントも独自の手法を持つ。通常視察は、他社のライバル店の宿やホテルを見に行く言葉をさすが、同社は違う。他の自社店舗を見に行くことを視察と表現するのだ。
各地で行われる会議の前に、マネジメントは必ず前泊で自社の他の管轄のホテルに宿泊する。そして風呂、サウナ、アイス、夜鳴きそば、朝食など、すべてのコンテンツを満喫し顧客として体験する。同時に、部屋の中では、ちょっとした仕事をして、電源や照明、部屋の備品などを顧客目線で確認する。そこからのインサイトをベースに次の「あったらいいな」を提案する。
ドーミーインのように全国で90以上の宿泊施設を展開する場合、自社サービスを徹底的に調べて特定の顧客層の立場でn=1分析を地道にくりかえすことには意味があるのだ。このn=1分析は、何もホテルの支配人だけの取り組みではない。副支配人、一般社員も含めて日々顧客目線でサービスを追求しているそうだ。そのチャンスは毎月の月例で、自由に気づきやインサイトを発言提案する心理的に安全な場が確保されている。なるはや提案の場合は、マネジメントや部長職に部下から直電があり、提案されることもあるという。
以下、社員やワイガヤでやってみよう的に開始された取組の例だ。
・池袋はアニメの生地ということで大浴場のBGMにアニソンを起用している。
・御殿場のドーミーインは一般顧客の利用が多く個別サウナの提供や部屋から愛車を愛でる部屋などを展開する。
・調べていくとご当地グルメの朝食も各現場が工夫して提供しているという。
・青森のドーミーインでは地元の作家とコラボしてサウナソングを作った、これが評判で他にも展開する計画を持つ。
ナショナルブランドでありながら、ご当地感がたんまりあるドーミーイン。同社のマネジメントは、インディーズ的な感覚を残しつつ、ナショナルブランドとしての展開をする。常に、特定の顧客のあったらいいなを考えて現場でテストを繰り返す。
まさに、顧客のジョブの解決を日々行う企業のぐっとな事例だと思う。
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テルモンの一貫性
早嶋です。
マーケティングにおける哲学は、徹底的に一貫性を持たせることだと思う。SDGsが流行っているので自社もその取り組みの波に乗る。国連本部が販売するSDGsバッチを10個セット$35で購入して社員がつける。悪くはないが、それはマーケティングではない。
自社が戦略として打ち出したポジションを実現するために、自社の顧客に対して徹底的に4P を検討して提供する。その中で、試行錯誤をしながらチューニングを施す。SDGsそのものはすごく重要で、持続可能な社会を構築するために企業も持続する必要がある。企業が提供する製品やサービスによって社会が回る側面が多々あるからだ。
ハリウッドスターであるレオナルド・ディカプリオも出資するシャンパーニューメゾンのテルモンは、マーケティングを体現する企業の一つだ。1912年に創業で「母なる自然の名のもとに」をメゾンのモットーに掲げ、オーガニック農法や二酸化炭素排出量の削減などを徹底したブドウ畑を守りながらも、トレーサブルなシャンパーニューを提供している。
テルモンが所有するブドウ畑は22ヘクタール(東京ドーム5個分)で、ブドウ畑とその周辺の生態系と環境保護に配慮している。2022年には、ぶどう畑の約8割に対してオーガニック認証を得ている。シャンパーニュの製法は創業時から受け継がれ伝統的な手作業で行われている。
テロワールは伝統的な少量生産のアルチザンに加えて、サステナビリティにも力を注ぐ。テルモンのエチケットには、トレーサビリティの証明がされ、ボトルナンバーからボトリング年、糖分量、ブドウ品種、ビンテージ、製法、メゾンのマニュフェストまでが明記されている。このように情報を開示しているシャンパーニューは他にないのだ。
更に徹底している。テルモンは一般的な限定ギフトボックスがない。その理由はすぐに廃棄させられるものだからだと言う。ボックスを廃止することで、無駄な二酸化炭素の排出を減らすことができるので実行している。また、テルモンのボトルにもこだわりがある。リサイクルガラスを使用しているのだ。ロゼワインなど、色を確認する必要のあるガラスも今後リサイクル可能なグリーンボトルにシフトする。ワインの輸送も海運のみにし、すべてにおいて一貫したこだわりを持ち合わせている。
そのショッパー有償ですか?
早嶋です。
近年、環境を配慮する傾向が強いあまり、店頭で顧客に配布する袋(ショッパー)が有償になっている。金額にすると数円から数十円なので大した金額ではないが、店員の無機質な対応が気になると共に、一定のブランドであれば、そのブランドに対して嫌悪感すら抱く場合もある。
ショッパーは、百貨店やモール等、一定の層が集まる場では、プロモーションとして活用できるツールでもあった。環境理由に、一方的にショッパーを配布しない取組に疑問を持ったことは無いだろうか?
百貨店の中にあるブランドショップと同じブランドで、先日訪れたアウトレットモール店舗でも、紙袋のショッパーが有償だ。疑問だ。ショッパーの紙袋を意識するよりも、つくりすぎたアウトレットの商品を見直すべきだ。アウトレットを出さない生産計画を考慮した方が、よっぽど環境に負荷がかからないのでは無いかと考えてしまう。(もちろん顧客として、アウトレットはいわばテーマパークのようで、その存在が無くなるとそれはそれで寂しいが。)
アウトレットモールは通常、郊外に店舗を構える。顧客は車でその場所まで行く必要がある。仮に一定のB級品が発生したら、それはWebショップで提供する方が環境に配慮できる。そんなことを考えながら、ショッパーが有料、しかも環境を考えてと言われた瞬間に苛つきを覚える。環境配慮ではなく、ショッパーで地味に利益をとっているように感じてしまうのだ。
繁華街やモール等では、ショッパーを持つ顧客が歩くだけで、その店舗やブランドを宣伝することになる。ずいぶんと昔の話だが、六本木ヒルズが出来たタイミングで、歩いている人は皆GAPと書かれたショッパーを持って歩いていた。戦略的に、大きめのGAPのショッパーを配布し、既に購入している商品などを、”親切に”、GAPの大きな袋に詰め替えてくれたのだ。(上述した百貨店とアウトレットのブランドはGAPではない。)ショッパーに、ロゴや企業メッセージを印刷することで、店舗外の多くの人々に見てもらう機会を増やす。店舗街を歩く人々がショッパーを持つことで歩く宣伝マンになり、認知度を増やせるのだ。
人の心理についてコメントする。数千円の買い物でも、数万円の買い物でも、その場で10%でも5%でも割り引いてくれると地味に嬉しいものだ。逆に、会計の際に、わかっていても、毎回袋の値段を聞かれ、サイズを聞かれる行為にうんざりする。高級店舗であれば、勝手に選んで勝手に価格に反映したところで、文句は言わない。なのに、敢えて聞かれる。プロ意識の欠如とも感じる。
企業が環境に配慮すべきことは理解しちえる。重要だ。しかしだ。顧客に対して有償のショッパーを提供することをエコフレンドリーとして顧客が喜ぶかなのだ。そのような顧客がそもそも、あたなのブランドを敢えて買うかなのだ。企業として是非議論してほしい。
その議論の際に、否定的な有償ショッパーの障害を3つ示す。
1.ブランド露出の減少
2.顧客満足度の低下
3.競争上の課題
特に、2つ目、3つ目はポイントだと思う。有償ショッパーの導入により、会計時に更に、金額を請求されたと感じることだ。行動経済学では、ピークエンドの法則と言われる。人はある出来事に対して、感情が最も高まる瞬間と、最後の印象で全体の印象を判断するという法則だ。買い物でブランドショップで素晴らしい商品を見つけて購入した瞬間は、最も嬉しい感情だろう。一方で、小さな金額なのだが、その心意気が気に食わなくて、ショッパー有償のたびに、ネガティブな感情が蓄積して、その結果、そのブランドに嫌悪感を抱くのだ。
行動経済学にはナッジという概念がある。軽く肘先でつつくとか、背中を押す程度の意味だが、ナッジはその積み重ねが結果的に人の意思決定に大きな影響を与えるということだ。無意識かもしれないが、ショッパーの、会計時のあの感覚が、ブランドロイヤリティを激下げするのだ。
ライバルが同じように有償のショッパーを配布しているとき、パタゴニアの事例は参考に値する。ショッパーは有償だが、そのショッパーを後日店舗に持って来ると、いつでもその金額を返金してくれる。(今も継続しているかわからないが。)この取組は素敵だ。環境にも意識しているし、環境の理解者にはとてもフレンドリーというメッセージをしている。
要はそのブランドの一貫性に辻褄があっていない感じを受けるのだ。例えば、路面店では雨の日、傘用のビニールを店頭で配布し、そのビニールに濡れた傘をいれることを要求する。殆濡れていなくても、強制的にいれるように指示する店舗すらある。ちょっとみてすぐ出るのに。そのビニール袋に対して対価を請求する店はない。が、確実にそのような店は、ショッパーや店舗の袋を有償にしている。ここにギャップを感じるのだ。
やみくもにショッパーを有償にするのではなく、自社のブランドの立ち位置や他社とのポジションの違いを検討した上で、ショッパーを限りなく有効活用するのか、何も考えないで有償にするのか。などを議論してほしい。他社が考えなしショッパーを有償にしているとする。自社が敢えてショッパーを無償にしたただけで、競争上の優位を勝ち得ることだって現在は考えられる。
要は何も考えずに一律みんながやっているから。という態度は一定のブランドロイヤリティを感じる店舗に対しては極めて危険な取組になることを指摘したい。
パルミジャーニとエルメス
早嶋です。
スイスのノバルティス製薬グループの創業者一族で、世界有数の財団にサンド・ファミリー財団がある。当然にこのような背景を持つ財団であれば医療制度の向上や教育制度の支援を行うと思うだろう。サンド財団はその中で、芸術の支援の一環として同財団が所蔵する時計やオートマタ(からくり人形などの機械)などの修復や管理をミッシェル・パルミジャーニに一任した。
ミッシェル・パルミジャーニは「神の手」を持つ時計師という枕詞がつくほどの技術を有す。スイス高級時計の神秘に惹かれ、時計の修復を学んだパルミジャーニは、クオーツ時計が世の中に登場し伝統的な時計製造業が危機に陥るさなかの1976年、修復専門のアトリエを構えた。修復の仕事を繰り返す中で、パルミジャーニは過去の傑作時計を先生に機構を深く学び、時計づくりの叡智と技術を極めていく。そして1980年に希少な時計コレクションを有する冒頭のサンド財団と出会ったのだ。
時計の修復をする過程で様々な部品工房や職人との関係を大切にしながら関係を強化していき、やがてそのネットワークが時計生産体制の基礎となっていく。そして1996年にサンド財団の全面的な資金援助の下、パルミジャーニ・フルリエをスタートさせた。時計業界では水平分業型で製造する手法と製造工程の95%以上を自社で行うマニュファクチュールの手法があり、パルミジャーニ・フルリエは後者の手法を取った。修復から得た知見や美意識を形にしたモデルは、黄金比に基づくプロポーションと過去の機構からヒントを得た様々な機構が同社の特徴となり比較的新しい時計メゾンであるが、近年では存在感を示すブランドになっている。
パルミジャーニとサンド財団は、時計製造の文化と技術を未来永劫継続的に残し、そして発展させていくためにマニュファクチュールの戦略を取る。ケースメーカー、回転部品や文字盤メーカーなど、次々と傘下にすることで、オート・オルロジュリー(高級複雑時計製造)を製造する体制を整えた。現在では、脱進機もグループ内のアトカルパ社により製造される。
時計業界の内側から見ると、急激なマニュファクチュールへのM&Aは少々やり過ぎ感を感じるものもいるかも知れない。しかし、パルミジャーニは同業者からの外部受注も引き受けている。それがヴォーシェ(Vaucher Private Label)だ。自社では製造できない高品質なムーブメントを若い時計ブランドやミクロブランドに提供するのだ。
そのヴォーシェ一押しのムーブメントは5400シリーズだと思う。スモールセコンドとマイクロローターを搭載した3針ムーブメントだ。パルミジャーニ・フルリエの代表作であるパルミジャーニ・トンダ1950など、自社ブランドでも幅広く展開しているムーブメントだ。我々、パリス・ダコスタ・ハヤシマの処女作モデルである紺碧(KONPEKI)、そして2024年2月にデビューする鏡餅(KAGAMIMOCHI)も同シリーズのムーブメントを載せている。
他の高級メゾンも同ムーブメントの採用は多く、例えばエルメスのスリム・ドゥ・エルメスもそうだ。このモデルは、ドンツェ・カドランのエナメル文字盤の仕様でファッションブランドの粋を超え、機械式高級腕時計として認知された。それもそのはず、エルメスはヴォーシェ・フルリエの株式を25%保有しており確固たる資本業務提携の関係だからなのだ。
(時にまつわるブログ)
スイス産業とその歴史・その1
スイス産業とその歴史・その2
腕時計とリトルハイア
日本勢の時計の売り方
スイスの腕時計事情
時計の動きに注目
グランドセイコーとブランディング
システム化した社会
グランドセイコーその1
グランドセイコーその2
グランドセイコーその3
タイミングこそ全てだ
グレーマーケット
GSを最高のブランドにするために
選択と集中・発散と自立
日本のメーカーで観察される過去から将来
自己プライミング
ウブロ
エネルギー源は健康と愛
デジタル機器
近年の社会的変化
視点
サラリーマンもサマータイムを
華麗なる小さな国ルクセンブルク
父曰く
ナイキとアップルウォッチ
ビックベン
色の所有
ペルソナとイメージング
脳のウォーミングアップ
導線
ペルソナ
ブランドコントロール
プロダクト・プレイスメント
グランドセイコーのブランディング
早嶋です。
グランドセイコーは高級時計市場参入のため戦略を明確に実行している。オメガより人材を招き、職人技や日本らしさを全面に表現したポジションを取り、若年層にフォーカスした取り組みを行っている。
超高級時計といえば、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、A.ランゲ&ゾーネ、ブレゲ、ブランパン、ロジェ・デュブイなのだ。各々の時計ブランドは独自の伝統や歴史、技術を有し、時計を見るなりブランドが分かるほどの個性があり、愛好家から指示されている。
時計のイメージはスイス時計が圧倒的な地位であることは皆さんの想像通りだが、高級ブランドのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、リシュモングループなど欧州勢の勢いは強い。その中で、グランドセイコーは高級時計ブランドの牙城を崩そうとしている。日本人として嬉しい限りだ。
現在、グランドセイコーは、5,000ドルから1万ドルの価格帯で頭角を現している。現在円がとても弱く75万円から150万円程度と聴くと、腕時計に価値を見出さない人からすると高いと思うだろう。普段から時計愛がある人は、高級時計としてはリーゾナブルな価格帯だ。
ただ、上記高級ブランドの時計は、ステンレスのケースでも200万円前後に価格が高騰した。コロナの3年間、スイス時計業界も大きな影響を受け、加えて人手不足で職人が足りない状況が続く。更に、スイス時計の水平分業の体制も、大手コングロマリットにより合従連衡が進み、小さなケースメーカーや針メーカー、文字盤メーカーやインデックスメーカー等、次々に大手参加に吸収されている。大手ブランド傘下になり、部品一つひとつの値段も高騰している。
またマクロの視点で見ると、機械式時計の職人は、アナログ産業ど真ん中であり、若手の成り手の少なさと、職人に成るまでの時間がかかるが故に、急激な人手不足に悩まされているのだ。そこで大手時計メーカーを筆頭に、堂々と価格を上げ、そこに円安が続き、海外時計の価格高騰が止まらないのだ。
グランドセイコーは1960年代、セイコーの上位モデルとして販売が開始され、2010年に海外展開を始めた。当初はロレックスと同等の1万ドル前後を狙ったが、うまくいかなかった。2017年にオメガの米国法人だった社長をヘッドハントし、米国販社のテコ入れを始めた。
当時は、消費者にも流通業者にもグランドセイコー=ちょっと高いセイコーという認識で、セイコーの延長にしか過ぎなかった。当時、全米で4,000店舗のセイコー販売店があり、グランドセイコーの販売戦略は安易なものだった。4,000店舗の中で売れ行きが良い30店舗を選び、そこにグランドセイコーを卸すだけだったのだ。プロモーションも基本的にセイコーと同じ。いくら中身が良いとて、それは売れないだろう。と当時から筆者は提言していた。
そこで米国での販売店を30店から15店に絞り、更に、高級時計を販売している店舗に売り込みをかけ、セイコーと異なる独自の販売網を確立しはじめたのだ。ターゲットもロレックスとずらした。高級スイス時計の主要顧客は40代から50代の高収入層。グランドセイコーはその若年層に絞った。旗艦店舗も東海岸ではなく、西海岸のLAに出店。IT技術者で収入に余裕があり、グランドセイコー独自のスピリングドライブなどの技術に興味を持つ層に勝負をかけたのだ。スピリングドライブは、機械式とクオーツのハイブリットの機構でセイコー独自の技術だ。他者は追従できない。イノベーションを受け入れる西海岸にあえて絞り、伝統的なマーケティングと異なる取り組みを行ったのだ。
高級品のマーケティング・ミックスは、兎に角徹底的に絞ることだ。グランドセイコーは、開発力があり、次から次に新しいモデルを出す。ただ、まだまだポジション的には弱い。Webを見ると商品ラインナップは現時点でも234商品もある。まだまだ商品点数は多いと思う。24年1月に新たにNYに旗艦店舗を出すが、もっと希少性を出すなどしてブランドの価値を高めないのが不思議だと感じる。
GSを再考の時計にするために
日本勢の時計の売り方
グランドセイコー①
グランドセイコー②
グランドセイコー③
父曰く
ウブロ
スイスの時計事情
腕時計とリトルハイア
スイス時計とその歴史①
スイス時計とその歴史②
現場の心理的安全性の確保(店舗事業5)
早嶋です。
店舗ビジネスにおいて、集客機能や顧客管理、それから店舗ごとの係数管理は全てデジタル化され、本部が一括して行うようになります。従来は、店舗毎に店長がいて、顧客管理や、店舗の商品の管理、それからスタッフ管理等を行っていました。
例えば100店舗の何らかの店舗事業を行っていた企業は、本部スタッフ数名で100店舗の管理を行い、顧客の来店履歴や利用履歴に応じて、SNSや他の媒体を組み合わせた顧客の集客を行うようになります。そのため店舗の仕事は、本部が送客をした後のオペレーションになります。従来は店舗毎にプロジェクトを行い、イベントの企画や顧客のリピートを考えたり、新規の開発を行っていましたが、それが不要になるのです。
当然、店舗の管理体制や店長の役割が大きく変わります。というか店長そのものが不要になり、5店から10店舗単位で店長を管理していたスーパーバイザーも不要になります。店長の役割があるとしたら、店舗のスタッフの心理的な安全性を常に確保しながらケアすることでしょう。そのため従来は企画力や簡単な財務の知識が必要でしたが、これらは全てコンピューターと本部が一括で行うようになるので、見方がわかれば専門知識や経験は不要です。代わりに、相手のことを慮れる、気遣いができる能力が格段に必要になります。
この能力を持っている人は、今の店長ではなくパートやバイトや社員など、雇用形態に関係なく持ち合わせている、ヒューマンスキルの高い方に仕事の役割をお願いするのがベストになると思います。本部から仕組みなどで店舗に送客された顧客が、店舗での体験を最高に心地よくするケアができ、時々の重要員の気持ちの変化や心の変化に適度にケアできる人材が必要になります。
店舗のDX化は、現場スタッフの心理的な安全性の心のケアを同時に進めていかなければ、単に作業に追われる場所になってしまいます。効率的に顧客が来店でき、リピートできるようになっても、しばらく現場での人間のやり取りはなくなることは無いでしょう。効率化によって得られた資源を現場のヒューマンタッチな取り組みにフォーカスするイメージを持っている経営者はデジタル化に対応してもしばらくは事業を継続できることでしょう。
これまでの店舗事業のブログ
対前年比管理を見直そう(店舗事業1)
本部が集客機能を持つ(店舗事業2)
DXの目的を設定する(店舗事業3)
現場の組織と評価を見直す(店舗事業5)
現場の組織と評価を見直そう!(店舗事業4)
早嶋です。
見かけの仕組みを良くしても、顧客の満足度はあがりません。
先日、ピアノを買いに行きました。電子ピアノです。諸事情から購入したくなり、妻が調べてとある店舗に在庫の確認連絡を。ネットで購入しても良いのですが、既存のピアノの代替で、今のピアノとは別の部屋に置く目的からキータッチを実機で確認したかったのです。
電話口に出たお店の方が、色々な質問をしてくれて、随分と沢山の情報を提供しました。そしてその日の午後にショップに来店することに。で、店舗に行くとその方は、別の仕事で不在。別の店員に状況を説明するものの、その電話の対応は全く店舗で共有されていません。店舗のスタッフは4名程度おり、人手が不足している状況でも有りません。
私の仮説ですが、店舗店員が情報共有していない理由は、個々のポイント稼ぎが背景にあると思います。自分が接客した方からの売上により、自分の成績が左右する。その場合、インセンティブは個人につくので、組織で対応することなく、自分の都合でモノゴトを考えがちです。
20年前のように、店舗来店と接客が大きな因果で売上に直結した次代もあったでしょう。でも現在は、ネット、SNS、来店、イベント、チラシ等、ありとあらゆるコンタクトポイントが存在しており、来店時には顧客が既に情報武装している場合も大いにあります。興味を持って調べている顧客に様々な角度から対応できる店舗スタッフもそうそういません。そう考えると店員が貢献する分量も20年前と大きく異なっています。
もちろん、ITを活用して個人のIDをベースに購買前と中、そして後の追跡をしている店舗は別でしょうが、多くの伝統的な店舗事業はまだまだそこのレベルにいきません。
しかし、多くの店舗事業は一部デジタルマーケティングを導入しており、店舗ではDX対応をしよう!と少なくとも掲げています。その場合、顧客の動線を鑑み、KPIとして店舗スタッフの売上に比重を置くことは無意味です。顧客が店舗に行った際の体験に不具合が生じるからです。むしろ店舗は来店した顧客が気持ちよく買い物体験をすることに集中すべきなのです。そうすると個人のKPIに接客した顧客の売上を設定することは愚の骨頂になるのです。
理想は、電話を受けたAと店舗で偶々接客をしたBが情報を連携して、顧客が望む接客をすることです。この理解がなければDXとかIT機器に投資をしても、顧客体験が高まるどころか低下をまねきます。
今の組織や評価軸は10年以上前の仕組みを脈絡と受け継いで見直しをしてない場合、今の戦略に対して大きなギャップがあることを認識して整備し直すことをおすすめします。
保険とリトルハイア
早嶋です。
保険会社のミッションは、顧客本位を据え「一生涯のパートナー」や、「確かな安心いつまでも」などを唱えていますが、従来の顧客のコンタクトポイントはビックハイアのみでした。つまり、契約前の営業、契約時、契約の更新時、保険を利用するときです。しかも、実際に保険を使うときは、こちらから連絡をしない限り分からないという状態です。
それが近年のDX化によって、ようやくミッションに掲げる顧客のリトルハイアに真にフォーカスする動きが開始されます。つまり、契約してからをすたーととして、本来の一生涯のパートナーや確かな安心をいつまでも提供することが可能になるのです。そしてこれは顧客にとっても喜ばしいことになります。
仕組みは簡単です。保険に加入した顧客の健康に関わるデータと保険料が連動することで、顧客は保険料を下げることができ、企業は実質的な金額を得ることで保険の仕組みを効率的に運営することができます。現在はほぼ人口100%に近い人がスマフォを持ちます。これらを媒体に日々の健康に関わるデータを集め、保険会社と連動することができれば、双方に取ってメリットが高くなる仕組みです。
国内でこのような仕組みを導入する際は、いくつかの規制がネックになるため大手保険会社は人口ボーナスが今後期待できる東南アジアで同様のサービスを開始します。過去の日本と同様、経済発展に伴い健康意識も高まり市場としてもフィットすると判断しているのでしょう。
この手の取り組みは保険料の割引以外にも、日々、顧客が連絡を欲しいタイミングで保険会社が顧客にコンタクトができるようになります。すでに中国の平安保険が進めている領域ではありますが、まさかのタイミングが起こる前に予防した取り組みを保険会社が中心になってすすめることができるのです。
従来の保険会社はリスクをへらす目的で、参考にするデータは過去の健康診断の結果を基にするしかありませんでした。しかし、日々顧客の健康に関するデータをモニタリングすることができれば、適切な保険料の設定がリクスなしに容易にできます。また、数値の変化をモニタリングすることで将来発生するリスクを下げることも可能です。例えば、体格指数(BMI)などの数値の変化をみながら糖尿病や生活習慣病のリスクを予見して、罹患しないようにアドバイスすることも可能です。データの連携が可能になれば医師やスポーツトレーナーと共有することで様々な助言を受けることも可能になります。
登場人物が多岐にわたり、様々な規制が目に浮かびますが、この取り組みは一大マーケットとなる東南アジアで先行的に実験して欲しいものです。このような取り組みは、アップルやグーグルが主導権を握るのか、保険屋さんが握るのか、あるいは病院や健康を提供する企業が握るのか。我々消費者にとってはどこが覇権を握っても良いのでサービスフィーが下がり、みんなのデータによってみんながより健康に過ごせる世の中の実現につながれば嬉しいことですよね。
– 三井住友会場は国内損保としてアジア進出に先行。日本企業の現地法人の顧客からベトナムを中心にアジア各国の個人向け市場を開拓して生損保両方の拡大を目論む。
– グーグルは20年に保険分野に参入して、個人デバイスから得られたデータを活用した保険サービスを開発中。
– 住友生命保険は18年に南アフリカのディスカバリーと組み、アプリと組み合わせた健康増進型保険を発売。
– SOMPOひまわり生命保険は原則すべての個人保険を健康増進型に切り替える計画を掲げる。
– 東京海上日動あんしん生命保険やジャストインケース(東京・中央)も国内で同様の販売実績がある。
囚われのない素直な心で聞く
原です。
ビジネスを取り巻く環境の変化が早く複雑な時代、顧客の声は、企業の問題解決やマーケティング活動が顧客重視の傾向になればなるほど、貴重な情報源ととらえられるようになってきました。
私の最近の経営相談でも、「顧客の声をもっと自社のビジネスに活用したいのですが、具体的にどのようにしたら良いでしょうか」という相談を受けることが増えてきました。
私は、これまでに多数の「顧客の声」を活用したマーケティング調査に取り組みました。そして、企業の製品開発・サービス開発や改良、自治体政策課題研究など多様な問題解決の解決策提案に役立てています。
調査結果から明らかに見えてきたことは、企業側が提供している商品やメッセージに対して、消費者が誤解しているケースがとても多いのです。
企業側が「知っていて当たり前」、「伝わって当然」と思っていることも、顧客は意外と分かっていないものです。
つまり、企業側と顧客側にギャップ(誤解という問題)があるのです。
ギャップが生じているなら、それを解決しなくてはいけません。そのためにはどうすれば良いでしょうか。
問題点は、「あるべき姿」と「現状」のギャップを分析することで発見できます。まずは、「現状を知る」ことから始めます。つまり、「顧客の現状を知ること」なのです。顧客は、何を意識しているのか、何に価値を感じているのか、企業側が商品や広告を通じて伝えたメッセージをどのように感じるのか。そのように意識し感じる理由はなぜなのか。これらの顧客の現状を知ることが、ビジネスの問題を解決するための第一歩となります。
顧客の現状を知るには、グループインタビューなどの顧客の声を聞くことが「素直な」方法です。
松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)創業者の松下幸之助氏は、次のように述べています。
「世間、大衆の声に、また部下の言葉に謙虚に耳を傾ける。それができるのが素直な心である。それを自分が正しいのだ、自分のほうが偉いのだということにとらわれると、人の言葉が耳に入らない。周知が集まらない。いきおい自分一人の小さな知恵だけで経営を行うようになってしまう。これまた失敗に結びつきやすい。素直な心になれば、物事の実相が見える。それにもとづいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということも分かってくる。なすべきを行い、なすべからざるを行わない真実の勇気もそこから湧いてくる。」(引用:「実践経営哲学」著者 松下幸之助)
私は、大学生の頃から松下幸之助氏の著書を何度も読み返しています。
インタビューで顧客の現状や実態を把握することは、問題を発見し、それを効果的に解決していくための土台となります。インタビューの重要性、有効性を認識し、机上で悩む前に「素直に顧客の声を聞く」姿勢がとても大切です。
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