新規事業の旅199 「横の関係」が通じないときのリーダーの振る舞い

2025年7月16日 水曜日

早嶋です。1700文字。

横の関係が理想だ、強くそう思う。人と人とが、役職や地位を超えて、相互の尊厳を土台にしながら、感謝と信頼をもとに関わる。それがうまく機能すれば、組織は自律性と創造性にあふれ、誰かが誰かを支配せずとも、健やかに前へ進んでいける。

が、現実は世知辛い。そうならない場面の方が多いかもしれないのだ。

たとえば、部下が学習しようとしない。言ったことが理解されない。組織が目指す理念に共感しないどころか、価値観が真逆でさえある。また、本人がそもそも短期的な報酬しか求めておらず、長期的な成長には関心を示さない。

こうした状況の中で、「対等に信じ合おう」「感謝を大切にしよう」と言ったところで、手応えがない。むしろ空回りするだけだ。このような時、リーダーはどう向き合えばいいのだろうか。

まず大切なのは、「横の関係は、相手との合意によって初めて成立する」という厳しい事実を認識することだ。いくらこちらが誠意をもって接しても、相手がその関係性を理解しない、あるいは受け取らないのであれば、それは単なる独りよがりになるからだ。だからこそ、関係の土台ができていない状態では、いきなり横を求めないという現実的な態度が必要になる。

では、代わりに「縦の関係」に戻るべきなのかだが、答えはノーだ。縦に戻るのではなく、段階を設けて関係性を育てていくことが答えになる。

まず、こちらがやるべきことは、相手の関心とレベルを正確に把握することだ。相手がどこまで理解できていて、どこからが不明瞭なのか。何を大切にしていて、何に共感できないのか。つまり、教えるのではなく、相手を深く読み解くことが最初の一歩になる。

そして、その上で、相手の現在地に合わせた最小限の期待値とルールを共有するのだ。ここで大事なのは、期待はするが、理想は押しつけないということだ。相手の成長に過度な幻想を抱かず、今の状態でも守るべき基準と、果たすべき責任を明示する。それが、「尊重しながら管理する」という、現実的なリーダーの姿勢だ。

この段階では、「評価」も必要になる。ただし、それは「優劣のラベリング」ではなく、「行動のフィードバック」であるべきで、「君はダメだ」「期待外れだ」ではなく、「こういう行動は、今の組織の方向とずれている」「ここは助かった、ありがとう」と、行動ベースで事実を返すのだ。この繰り返しが、「縦ではないが、まだ横でもない」中間地帯の信頼をつくるのだ。

こうして、行動→フィードバック→納得→変化というサイクルが少しずつ生まれたとき、初めて相手の中に、「自分で考え、選び、成長していく」準備ができる。その時が来てはじめて、横の関係は姿を現す。

つまり、「横の関係」は信じるべき理想ではあるが、「今、ここで相手が受け入れられるとは限らない」という現実を、リーダーは冷静に引き受けなければならない。その上で、関係性の成熟に応じてリーダーシップを変化させていくという柔軟性こそが、本当の意味での強さだと思うのだ。

そしてもうひとつ忘れてはならないのは、「諦めるという選択」もあるということだ。どれだけ丁寧に関係を育てようとしても、それを拒絶する人もいる。その場合、「信じ続けること」よりも、「線を引くこと」の方が、双方にとって優しい判断になることもある。

リーダーの役割とは、理想を語ることではなく、現実の中で「どこに関係を育てられる余地があるか」を見極め、
そこに静かに火を灯していくことだと思う。その火が大きく育つかどうかは、時と状況と相手次第だ。相手のコントロールは出来ないが、「関係を育てるという意思をもった関わり方」を、自ら選び取ることはできるのだ。

信じる。でも押しつけない。期待する。でも理想は強要しない。フィードバックする。でも人格は否定しない。そして、育てられる関係には根気よく向き合い、育たない関係には静かに距離をとる。

そうした関係との向き合い方自体が、ある種の「徳」なのかもしれない。リーダーシップとは、管理技術の話ではなく、「どう関わるか」の美学の問題なのだと、最近、私は思うようになった。



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