新記事業の旅その33 ストレッチ目標

2023年1月25日 水曜日

早嶋です。

社歴が長くなると事業を展開し、複数の事業を経営することになる。
その理由はいくつかある。例えば、
・企業全体の業績の標準化
・衰退事業の補完
・企業の成長や企業価値向上
・余剰キャッシュの再投資
・経営者や株主の願望
・シナジー創出
などだ。

一方で、事業のメカニズムを考えると、新たな事業を創造するタイミングは創業期を除けば、少し異なる。止まっている物体に加速度を与える必要があるからだ。それは既存の事業が安定的にキャッシュを稼いでいる間に、そのキャッシュを新規事業に投資するという現場では理解不能な取り組みを支持されることになるのだ。しかも、安定している事業において改革を促し、10人で仕事をしていた内容を5人とか3人とかに減らされるのだから現場は意味不明を連発するだろう。そのために、多くの場合、社員や組織のマインドセットは重要だ。

そこで企業の多くはストレッチした目標を掲げる場合が多い。例えば、
・現在の売上600億を2030年までに1000億に!
・現在の売上600億を既存で100億増やし、新規で300億増やして100億に!
等々だ。

ストレッチ目標を掲げる理由は、現状に対してのメッセージで非常に重要だ。しかし、掲げてリだけの組織が多い。企業は、そのメッセージを経営者から現場に伝えたら、伝わっている、理解すると勘違いする。しかも1回でだ。しかし、多くの場合、現場は見向きもしない。むしろ何事も無かったのように過ごす。

ストレッチ目標を掲げることのメッセージには、現状のやり方では出来ないから、新たなやり方であったり、全く異なる視点で行動してね。というメッセージにもなる。が、そもそも現場がその必要性を1mmも理解していない。止まっている物体は外圧が働かないと動かないのだ。

どんなにトップが大きな数字を掲げても、現場は細分化された仕事の流れとあまり変化しない目標数字に対して、従来の延長で大丈夫だろうと何となく考えるのだ。自分に都合が悪い解釈は意図的に排除する。仮に、現場に数字が到達したとしても、現状とのギャップが大きすぎて、初めから無理と決め込んでいる場合もある。

トップはストレッチ目標を掲げた場合、
・その数字を掲げた理由と現状を維持した場合の実際の状況の説明
・ストレッチしたギャップがどのくらいあるのかの明示
・そのギャップをどのように埋めるかの大きな方針

は最低示すべきで、
・そのギャップを達成するためにトップのコミットメント
・同様に、マネジメント層の具体的なコミットメント
・そして、それらを実現するためのメカニズム
を現場の隅々にまで、根気よく、何度も、期間をかけてコミュニケーションすることが大切だ。

初めは無理と決め込んでいたマネジメントや現場の一部が動き始めると、少しづつであるが可能性が可視化され、トップがコミュニケーションしている状況が、より解像度高くみえてくる。そして、それを頑張って半年から1年程度繰り返すことで、確実にその半年前とか1年前の現状よりも状況が良くなっている。加速度がついた物体は動き始めると動き続けるのだ。

ただ、動き出した状態になれると次はその変化が見えなくなる。そこで、トップは意識的に現場や事業、会社全体の行動における状況の変化を示し、半年前や1年前との違いを示し、劇的な変化につながっていることを現場や社員やマネジメントに共有することも責務だ。

この経験を積んだ組織は5年から10年は挑戦を続けるようになる。同時に辛い状況を進んで受け入れ改革することが当たり前になる。辛い状況や課題が沢山整理された状況は、解決すると勝機につながると捉えるからだ。

トップは、ストレッチ目標を示すだけではだめなのだ。トップは、そこに向けて具体的な方針と継続的な行動を現場の隅々に見せることが大切で、動き出したら、検証した取り組みと成果に対してもチームに示しながら一体感を演出することも仕事なのだ。

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