モチベーションは下げないようにする

2026年2月2日 月曜日

早嶋です。2200文字。

モチベーションの大前提は次の視点をもつことだ。モチベーションは「上げる」ものではなく、「下げないようにする」という点だ。いわゆる衛生要因の発想に近い。給与、安全、労働時間、人員配置、仕事の明確さ。こうした土台が保てていない状態では、人は前向きになる前に防御モードに入る。やる気以前に、保身が前提にくということだ。これはいわば「何によって変わるか」、つまり外的条件の話になる。モチベーションのWhatの領域だと言ってもいい。環境が人の状態を左右するのは間違いない。ただ、ここだけ整えても、人が自分から動き出すとは限らない。

モチベーションには、「どう関わるか」のHowの領域もある。同じ仕事でも、上司の関わり方で部下のモチベーションが変わるのだ。上司の関与があるか無いかを、部下が感じるか否かで、モチベーションが変わる。承認欲求であるとか、期待なんかが関連する。あいつは評価されて、俺は評価されていないなどの公平理論の文脈にもつながる。また、仕事をしている中で「昨日よりもできるようになった」と感じられるかどうかも大きい。学習理論や強化理論の話になるが、要は自分の行動と結果がつながる実感があるかどうかだ。見られている、認められている、成長している。このHowの領域は、まさに上司が如何に部下と関わるかの世界だ。

そして、3つ目がある。最も根源的な問いだ。それは、なぜ人は内側から動き出すのか、というWhyの領域になる。最近の心理学的なアプローチでは、モチベーションの源泉は外側ではなく内側にあるとされる。自己肯定感、心理的安全性、自分はここにいていいという感覚が前提にあり、その上で「自分は役に立っている」「必要とされている」「任されている」と感じたとき、人は自発的に動き始めると言う。つまりモチベーションは、命令で引き出すものではなく、条件が整ったときに内側から湧いてくるものなのだ。

What(環境)、How(関わり方)、Why(内側の状態)。この3層を分けて考えると、やる気がない人を「性格」のせいにしなくて済む。多くの場合は、その人の問題ではなく、環境か関わり方か、あるいは自己効力感が育っていないだけなのだ。

マネジメントと議論を繰り返している中で、現場で良く起きている事例をいくつか見てみよう。

例えば、建設現場だ。無理な工程がやる気を奪う。これはWhatが欠けている状態の事例だ。あるプラント工事の現場、工程が詰まり納期が押している、人員も不足する、残業が続いている、作業員の一人が次のように発言する。

「言われたことはやりますけど、もう考える余裕がないです。」

これは怠慢ではない。明らかにベースが崩れている状態だ。安全リスクが高く、体が疲れ切り、段取りが見えない。この状態で「やる気出せ」は無理だ。この状況をクリアするための取組として行ったのは、気合を出すことではない。工程の組み換えと応援要因の追加だ。現場からは状況の理解とともに自分たちの作業工程の安全性を守っているという態度を見て一定の心の状態に戻ったのだ。しばらくすると、現場から自然に改善提案が出始める。やる気は「作る」より「出せる状態を作る」ほうが早いのだ。

次は、インフラ整備の現場だ。これは上司の眼差しが届いていない、放置されている感覚から来た事例だ。つまりHowによるモチベーションの低下だ。道路保全チームの若手。彼は黙々と仕事をするが、改善提案をちっとも出さなかった。会社は、一定期間に必ず提出するルールを持っていたのにだ。そして、上司は「受け身なタイプ」として部下にレッテルを張っていた。

マネジメントとモチベーションや部下との関わり方の議論をした後、上司は自分から部下に声をかける行動を始めた。「この前の誘導、事故ゼロだったな。あれ、お前の配置判断良かったぞ。」と。若手は少し驚いた顔をしたそうだ。「見てたんですか?」的な。その後、ヒヤリハットの報告が少しづつ増えたそうだ。承認は甘やかしの側面と捉える場合もあるが、状況や部下によっては、自信の存在の確認にもなるのだ。

清掃会社の事例だ。自分は価値がないという思い込み(Why)だった。大型施設の清掃リーダー。ベテランだが常に次のような発言をしていた。「自分なんて裏方ですから。」と。幾分自分たちの仕事を下にみた感情だった。やはりトレーニング中の上司から以下のような話を切り出してもらった。「この施設、クレーム少ないのはお前の段取りのおかげだと思うぞ。」的な。本人は黙った後、ぽつりと言った。「そんなふうに言われたの初めてです。」と。それ以降、若手への指導が増えたと言う。人は「自分が役に立っている」と感じた瞬間に変わる場合もあるのだ。

事象や状況は変われど、多くの現場でも起きているのは同じことだ。モチベーションが下がるのは「無力感」が強くなったときだ。モチベーションが動くのは「自分は役に立っている」と感じたときだ。上司の仕事はやる気を入れることではなく、無力感を減らすことだ。環境を整え、関わり方を変え、その人の中にある「使っていない力」を引き出してあげるのだ。観念的だが、そんなマネジメントもあると思うのだ。



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