早嶋です。約2300文字。
フグレンコーヒーをご存知だろうか。
ノルウェー・オスロ発のカフェブランドだ。1963年創業。もとは小さなコーヒーショップとして始まった。ノルウェー語で「鳥」を意味する「フグレン」。その名の通り、ロゴには渡り鳥が赤く描かれている。やがてブランドは再構築され、北欧ヴィンテージ家具とスペシャルティコーヒー、そして夜にはカクテルバーへと姿を変える二面性を持つ空間へと進化した。
コーヒーショップから始まり、空間を商品として、時間の過ごし方を提案するノルウェーブランドだ。
現在はノルウェー本国に加え、日本、韓国、インドネシアなどに展開している。店舗数は世界で十数店舗規模で小さい。ただし、その展開がユニークだ。急拡大するチェーンではなく、直営を基本とし、世界観を崩さないことを最優先にしている。広告で拡散するのではなく、じわじわと確実に浸透させる。空間を商品としている理由は、家具の販売だ。勿論、豆の販売も、空間にフォーカスしたグッズ販売もある。しかし、フグレンコーヒーが提供しているのは、「北欧の時間」をその土地に提供しているのだと思う。
経営は非公開であるため、売上や利益の詳細は開示されていない。そこで業界水準から推測する。都市型スペシャルティカフェの客単価は900円から1,400円程度だ。顧客の幅は、1日200人から800人程度で、年間約360日営業とすれば、1店舗あたりの年商は概ね6,000万円から2億5,000万円程度のレンジだ。立地が強ければ3億円台も可能だ。
日本には東京を中心に複数店舗があり、神奈川、京都、福岡に展開している。仮に直営6店舗が平均1.5億円の年商と仮定すれば、直営合計で約9億円。さらに焙煎・卸・EC・物販を加味すれば、日本事業全体で12億円から18億円規模という推測は現実的だろう。巨大企業ではないが、文化ブランドとしては十分なスケールだ。
ところで、フグレンコーヒーは、なぜ日本を選んだのだろうか?
理由は単純だが深いと思う。北欧の世界観が、世界で最も正しく評価される市場が実は日本なのだ。日本は「デザインを消費できる国」だ。単に機能や価格ではなく、背景や思想に価値を見出す傾向がある。静けさ、余白、ミニマリズム、経年変化といった概念を理解する文化的素地が既にあるからだ。北欧ブランドにとって、日本は売上市場であると同時に、審査市場でもある。日本で受け入れられれば、世界で通用するという一種の認証が得られるのだ。
さらに、日本は小規模ブランドが戦える数少ない先進国市場でもある。アメリカは巨大であるが競争が過密すぎる。欧州は文化的親和性はあるが市場規模が小さい。新興国は単価が合わない。その中で日本は、単価が成立し、文化消費が成熟し、かつ多様なブランドが共存できる稀有な市場なのだ。
そして何より、日本は丁寧な直営展開が可能な国だ。スタッフ教育の水準(国民のベース素養)が高く、空間の設計思想を確実に守ることが可能だ。急拡大よりも世界観維持を優先するフグレンの経営哲学と相性が良いのだ。
その結果、日本は単なる海外拠点ではなく、アジア展開のハブとなる。ノルウェーから直接アジア各国へ飛ぶよりも、日本でブランドを確立し、その信用を持って広げる方が合理的なのだ。日本で成立した北欧ブランドは、アジアでも通用する。そうした戦略的意味を持っていると思う。
ここで比較対象として、スターバックスを挙げてみよう。
スターバックスは飲料(砂糖と牛乳と少しのコーヒー)企業であり、オペレーションの標準化とスケール拡大を武器に展開する。サードプレイスを提供する戦略がはまり世界中に展開しているが、実際は沢山のメニューから、何を飲ませるかが中心にある。一方、フグレンはどんな時間を過ごすかを販売しようとしている。回転率ではなく滞在価値。標準化ではなく個性。拡大しないことが強さになるモデルだ。つまり大企業は模倣出来ない対局だ。
スタバは既に生活インフラになっていて、特別と言いながらも大衆より少しアッパーの日常になっている。一方で、フグレンは文化インフラとしての挑戦を始めたばかりだ。規模は全く比較にはならないが、思想は対照的でとても興味深い。
そんなフグレンが、なぜ福岡に2店舗目を出すのだろうか?地方都市は他にもある。札幌、仙台、金沢、広島、岡山、熊本、鹿児島等々。しかし福岡は別格と見たのだろう。
福岡は若い。人口が増え、転入超過で、感度層の密度が高い。都市がコンパクトで、カルチャーが歩いて繋がる立地だ。そしてアジアに最も近い大都市であり、国際都市としてのポテンシャルは古代からミャクミャクと続く。海外から見れば、福岡は「第二の東京候補」に映る可能性があるのだ。
博多駅周辺は交通の結節点であり空港も近く、ブランドの入口となる。観光客やビジネス客に触れる場所だ。一方、赤坂・けやき通りエリアは生活圏であり、文化圏だ。大濠公園や美術館に近く、静けさがあり、都市の中に垣間見られる生活の空間が隣接する。繁華街から少し離れた余白のある立地。フグレンの思想と重なったのだ。
1店舗目が認知を作り、2店舗目が根付かせる。東京の展開を見ていると、おそらく3店舗目と複数展開を福岡でも視野に入れている可能性があると思う。店舗数をKPIに置いた展開ではなく、自社のブランドを確立しながら戦略的な配置行為を行うような感覚が見て取れる。
日本という市場でブランドを磨き、福岡という都市で文化を定着させる。おそらく、その次のステージで、アジアへと視線を伸ばすのではないだろうか。海外の目線から見たとき、福岡は単なる地方都市ではなく、既に東京に次ぐ拠点候補として映っているのだ。









