本音が出ない1on1は、失敗ではなくスタート地点だ

2026年1月28日 水曜日

早嶋です。約2800文字。

1on1をやっているのに、部下が本音を話してくれない。「質問が悪いのか?」と悩む管理職は本当に多い。しかし、それは失敗でも何でもない。理由は、まだ関係構築が出来ていないのだ。部下は「この上司は安全かどうか」を見極めている最中かもしれない。沈黙はやる気のなさではなく、長年身につけた自己防衛の可能性がある。1on1は本音を引き出す場ではなく、本音が出ても大丈夫な関係をつくる場だ。焦りは禁物だ。時間をかけて「受け皿」をつくることが大切だ。

(1on1で本音が出ないのは失敗ではない)

企業で1on1を扱う際、初期に出る質問がある。「部下が本音で話してくれいない」だ。これは、1on1を導入する職場で、必ずと言っていいほど聞く悩みだ。多くの管理職が、真面目に取り組んでいるからこそ出る概念だ。

はじめ、この相談を受けたときは意外に感じた。というのも、そこには1つの前提があるからだ。それは、「1回の面談で、本音が出るはずだ」だ。或いは、互いに何でも話せる関係であるという前提だ。多くの管理職は、自分が部下だった時代から、面談=課題確認の場として経験してきた。目標進捗、問題点、対策等々。つまり「話し合い」というより「確認作業」に近いものだった。さらに、自分は考えを相手に言語化でき伝えることができる人間だ。そして、比較的どのような上司とも関係構築をすることが出来ている。従い、プロジェクション的に目の前の部下が出来ないことが理解できないのだ。だから、「聞けば出てくるはずだ」とか、「本音が出ないのは、質問のせいだ」と考えてしまうのだ。だが現実の職場は、そんな単純な構造ではないのだ。

部下の立場で見てみよう。「1 on 1 ?」「これは評価に影響するのか?」「弱みを見せて損をしないか?」「この上司は本当に話を聞く人なのか?」等々を考えるだろう。悩む管理職以上に、管理職に信用を置いていない部下が一定数いる可能性がある。そもそも、上司と部下の関係性が確立していない場合だ。初めて1 on 1を導入する組織の部下にとっては、「本音を話す場」ではなく、「この上司は安全かどうかを見極める場」になっていることが多いのだ。だから本音が出ないのは失敗ではない。むしろ、関係づくりが始まったばかりだという、自然な状態なのだ。

本音とは質問テクニックで引き出すものではない。本年は、上司と部下との関係性の結果として、出てくるものなのだ。

(沈黙が続く理由)

もう1つ多い質問がこれだ。「何を聞いても、特にないです、としか言わない部下がいます。」だ。例えば、ある建設現場での1on1のイメージだ。30代の作業員で、仕事は真面目だが、面談では毎回こうなるという。

上司:「最近、プロジェクトの様子はどう?」
部下:「・・・特にないです。」
上司:「困っていることはある?」
部下:「・・・ないです。」

このやり取りが続くそうだ。上司の内心はこうだ。「あれだけ工程が押していたのに…?」「何も感じてないのか?」「やっぱり、やる気ないのかな…?」

だが実際は違うと思うのだ。部下の立場からすると、これまでの現場で身につけてきた生き方がある。文句を言うな。自分のことは後回しにされる。現場は黙って動くもの。上司に弱みを見せるな。

つまり、「考えていない」のではないのだ。「余計なことは言わないほうが安全」だと学んできた結果かもしれないのだ。さらに背景には、意見を言う文化がなかった。上司には従うものだと教えられてきた。発言して怒られた経験が多々ある。自分の考えを言葉にする訓練をそもそも受けていない。そう、沈黙は怠慢ではなく、本人なりの誠実な自己防衛の可能性なのだ。

上司がやりがちな取り掛かりの質問だ。「どう思う?」「本音は?」「意見は?」等々。一見、正しい質問に見えるが、これは話す訓練を受けていない部下にとっては、いきなり難問になってしまう。先も述べたが、管理職になる人材の言語能力と部下の言語能力を同じと捉えない方が良い。簡単な質問なのにと思っても、部下にとって、「答えを考えて、それを相手に正しく整理して説明する必要のある質問」、いわゆるオープンクエスチョンは、超難問なのだ。信頼関係が互いにあり、かつ言語化に慣れている人には有効だが、そもそも関係が出来ていない、緊張した関係の中、話す経験や能力が高くない人材にはハードルが高すぎるのだ。

そこで、質問の仕方そのものを変えることで幾分解消する場合もある。例えばこんなイメージだ。

上司:「今日の作業、やりやすかった?やりにくかった?」
部下:「…やりにくかったです。」
上司:「そうか。それはどこがやりにくかった?」
部下:「工具、ちょっと合わなかったです。」

実際は、こんなに簡単に変わるものではないが、ポイントは、最初に選択肢があるとか、感覚レベルで答えられる問い、或いは正解がわかりやすい質問で会話やキャッチボールの勢いをつけることだ。いきなり「どう思う?」と深い海のそこを探るような質問ではなく、まずは足の着くくらいの浅瀬のレベルで試すのだ。話すことに慣れていない部下にとって、また考える経験が浅い部下にとって、1on1は面談であると同時に、「自分の考えを言葉にする練習の場」でもあるのだ。

(傾聴はスキルではなく態度)

傾聴というと、ついスキルの話になりがちだ。相槌の打ち方、オウム返し、質問の技法。もちろんとても大切な概念だ。ただ、現場でまず問われるのは技術より態度なのだ。

部下の話を評価しない。悩みに対して闇雲にすぐ解決しようとしない。相手の話を途中で取り上げない。これらはテクニックというより、上司の心構えに近い。多くの管理職は、部下が何かを言えば「どう直すか」「どう改善するか」とすぐ解決に向かう。が、1on1の場面では、それが逆効果になることがある。目的は会話を進めることでも、答えを出すことでもなく、相手が話しやすくなる状態をつくることだからだ。

上司が解決の仕組みになると、部下はだんだん話さなくなる。一方で、上司が受け皿になれると、部下は少しずつ言葉を重ね始める。最初は断片的でいい。まとまっていなくていい。その「言ってみても大丈夫だった」という経験の積み重ねが、後の本音につながっていくのだ。1on1は上司というより、部下のための時間にするのだ。

多くの管理職が誤解しているが、1on1は情報収集の場ではないということだ。部下が「この上司は味方かどうか」を見極める場だと思った方がいい。本音が出るかどうかは、上司の質問力ではなく、部下の中での評価で決まる。つまり、焦る必要はないのだ。1回で変わらないのが普通だ。3回、5回、10回と重ねていく中で、ある日ふとした瞬間にポロッと本音が出る。そのタイミングは上司がコントロールできるものではないが、準備はできるもの。それが日々の向き合い方だ。

この積み重ねが、やがて職場の雰囲気を変える。相談が早くなり、違和感が共有され、小さな異常が表に出るようになる。その結果として安全や品質にも影響していく。1on1は一見するとやわらかい活動に見えるが、実は現場マネジメントのど真ん中で、現場で起きている情報をつぶさに拾い上げる仕組みの人となのだ。



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