日本版・選挙推し活モデル

2025年8月11日 月曜日

早嶋です。2100文字です。

近年、米国のトランプ政権はラストベルトの有権者層を可視化し、選挙の主役へと押し上げることに成功した。その戦略は、単なる政策論ではなく、感情や誇りに注目し、日常の中に「推し活」的な関与を埋め込むという、参加型のモデルの実践だった。

参政党は、この構造を日本流にアレンジしていると考えられる。DIYスクールや街頭演説の配信は、政治に無関心だった層をまず「知る」という入口に導く。そして短いスローガンや身近なテーマで共感をつかみ、イベントやグッズを通じて仲間意識を醸成する。結果、支持は政策の細部ではなく「この人、この仲間、この雰囲気を推す」という感情の構造に移っていく。

日本では米国ほど激しい対立軸を前面に出さず、「守るもの」や「誇りの回復」といったソフトな感情トリガーを軸にしている点も特徴だ。食の安全や子どもへの支援、アイデンティティの再確認といったテーマは、専門的な政策知識がなくても「守るべき大事なこと」として受け止められる。

さらに、選挙期間だけでなく365日活動を続ける「常時キャンペーン化」も、日本版推し活モデルの重要な要素だ。動画や講座で知識を積み上げ、地元コミュニティで仲間と会い、定期的に接触を持つ。これは、参政党が「政治活動」を超えて「生活の一部」に政治を組み込もうとしている証左でもある。

こうした一連の流れは、単発のアピールや選挙戦術だけでは成立しない。無関心層を巻き込み、関与層へと育て、さらに熱狂的な拡散者に変えていくには、入口から出口までを設計する体系が必要になる。そこで整理したのが、次の5つの要素である。

(推し活型選挙戦略の5要素)
1.ファネル型の階段設計
無関心層 → 関心層 → 参加者 → 熱狂的支持者 → 拡散者。
各段階で必要なコンテンツや接点を設計し、徐々に関与度を上げる。

2.感情トリガーの設定
「守る」「奪われている感」「誇りの回復」「未来像」の4層で感情を刺激し、政策論より先に心を動かす。

3.常時キャンペーン化
選挙の有無に関係なく、演説・配信・イベント・グッズを通じて日常的接触を維持する。

4.推し活コミュニティ運営
小単位の仲間グループを作り、交流やストーリー共有で推しを自分ごと化させる。

5.成功条件の確立
感情の可視化、参加ハードルの低さ、象徴的リーダーの存在、仲間との接触頻度。
この4つを同時に成立させる。

(2020〜2025年の歩みとモデル適用)
2020年、参政党はYouTubeチャンネル「政党DIY」を母体として誕生。DIYスクールを通じて政治や社会問題を学び合う場を作り、無関心層を政治の入り口に誘った。初期は小さなコミュニティだったが、オンライン講座や街頭演説配信を重ね、政策よりも「この人たちに共感できる」という感覚を広げていった。

2022年の参議院選挙では比例代表で約177万票を獲得し、神谷宗幣氏が当選。国政政党としての地位を確立した。この選挙では、街頭とネット配信を融合させ、短いスローガンと生活に直結するテーマで関心層を一気に引き上げた。

2023年の統一地方選では県議や市議の当選が相次ぎ、地方に根を張る基盤が形成された。議員がDIYスクールを受講し政務活動費で計上する事例もあり、教育と動員のパイプラインが制度的に機能し始めていた。地方議員は地元の集まりを拠点に支持者との距離を縮めた。

2024年の衆議院選挙では比例で3議席を確保し、国政での存在感をさらに拡大。2025年の参議院選挙では議席を二桁に伸ばし、「躍進」と評された。海外メディアも「日本版トランプイズム」として紹介している。

参政党の5年間の動きを、この推し活型選挙戦略のモデルに照らしてみると、その対応は非常に明確だ。まず、①ファネル型の階段設計では、YouTube配信や街頭演説で知る段階をつくり、そこからDIYスクールの受講、党員登録、地方選への立候補、そして国政当選へとつながる昇格ルートを描いてきた。

次に、②感情トリガーとしては、子どもへの月10万円給付や教育国債、食の安全といった「守る」テーマを前面に押し出し、同時に「奪われている感」や「誇りの回復」を物語化することで、専門知識の有無に関わらず感情で理解できる構造を作っている。

③常時キャンペーン化も際立つ特徴だ。選挙の有無に関係なく、DIYスクールや講演会、通信講座を継続的に展開し、非選挙期でも接触の機会を途切れさせない。

さらに、④推し活コミュニティ運営では、地方議員や支部を核に小単位の仲間づくりを進め、地域イベントや勉強会などを自発的に展開している。これにより、地元から国政までをつなぐ下支えが形成された。

そして、⑤成功条件の確立として、感情を可視化するテーマ設定、参加ハードルの低さ、象徴的リーダーの存在、仲間との接触頻度の高さという4つの条件が揃い、無関心層を熱狂的支持層へと変えていったのである。

上記からわかるように、2020年から2025年までの参政党の歩みは、教育と動員が一体化したパイプライン、地方と国政の相互補完、感情と物語による関与設計が連動した、日本版「選挙推し活モデル」の実証例である。従来の政治の外にいた人々を政治の舞台へと引き上げる、この構造は他の政治運動や地域活動にも応用可能では無いだろうか。



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