
やる気を高める考え方と行動
2020年3月23日
早嶋です。
モチベーションが上がる時ってどのようなときですか?と尋ねた時に上がる上位に目標を自分で決めて挑戦しているとき。と回答される方が多々います。実際に目標を上手に設定することは組織やリーダーシップでも研究が進んでいます。
1981年、カナダの心理学者アルバート・バンデューラは算数が苦手が小学校中学年の子供40名を集めて実験を行いました。実験は40人の子どもたちに、7回に分けて42ページの問題を解かせます。その際に子供を3つのグループに分けました。
A:毎回最低6ページ終わらせようと伝える
B:7回で42ページ終わらせようと伝える
C:できるだけたくさんやろうと伝える(具体的な指示なし)
結果、グループA、B、Cの順に問題集を終わらせることが出来たのです。ちなみにAは74%、Bは55%、Cは53%が無事に問題集を終わらせました。
Bは通常結果目標とか遠隔目標と言われます。マラソンで例えると42.195kmです。結果目標は最終的に達成すべき成果お意識させるため非常に大切です。しかし、行動を毎日、あるいは一定期間コツコツと積み上げている手の仕事や取組に対しては、結果目標だけでは上手くいきません。
そこで大切になるのが通過目標とか近接目標です。通過目標は、結果目標を達成するためのマイルストーンで、達成すべき小さな目標です。マラソンで例えるとまずは5km、そして10kmといった具合です。通過目標を細かく達成することが全体の結果目標につながるイメージをもたせ達成感とともに”できるぞ!”とやる気を保つことが大切です。
上記の実験では、Aは最終的な問題集のクリア(結果目標)と同時に6ページという通過目標を示したため全体よりも平均で2割の小学生が達成できたと説明できます。一方で、BやCのグループは目標設定(結果目標)は立てたものの、通過目標の設定が無く、結果的に達成度合いが低かったのです。
ここで通過目標の設定についてもポイントがあります。それはその積み上げが結果目標に到達するというイメージが常に持てることです。人は結果が予測できたとき(結果予期)は”できるかも”という高揚感が高くなります。また、通過目標を達成するための行動をイメージできる(効力予期)とやる気が出てきます。
このような研究を整理してみると、人がやる気を高めるためには、1)自分の成功体験を持っている、2)他人の成功体験を知っている(疑似体験)、3)勇気づける言葉を知っている、あるいはかけられている、4)心身の状態が良い。と言われています。
そして上記4つのポイントの内、最も重要視されるのが成功体験です。自分で成功できれば自身につながるというのは当たり前のようですが、他者の疑似体験を知っているというのもとても大切なのです。
1985年、心理学者のデール・シャンクとアントワネット・ハンソンは自分よりも立場が上の人の成功体験を知ることよりも、同じくらいの立場の人が成功した体験を知っているときのほうが、自己交換力が高まることを実験で示しています。
一方で、自己学習をしているときに成果が出ない場合は、急激にやる気が出なくなる経験を多く積んでいることでしょう。これは学習性無気力と呼ばれます。この時は、身近な自分を応援している人の言葉がパワーを発揮します。上記の3つ目のポイントの他人の支援そのものです。他社の支援があったり、他社に相談することで、その人のやる気がもとに戻り、再び行動を続けようとするのです。目標達成のための行動持続には、感情的なサポートや他社の支援も大切なのです。
私は、やる気に関しては慣性の法則を信じています。そもそもやる気なんて存在しない。だから、するか、しないか、だと。やる気がでないのではなく、していないからやる気が出ないだけだと思っています。そのために、とにかく何かやり始める。というのがポイントです。すると行動しているからやる気になっている。という状態になり、自己交換力が高まるのです。ちなみに、このような動機づけは着手動機づけと呼ばれているようです。
更に私は、先に言い出しっぺすることもします。つまり、自分が掲げた目標を、周囲の人に話をすることで、なんとなく自分を追い込んで行動するのです。ある意味プレッシャーを掛けて自分を動機づけする手法です。これは宣言効果と呼ばれます。
一方で、目標宣言を行うこと自体が、やる気の喚起に対して逆効果を生む場合もあります。2009年にドイツの心理学者ピーター・ゴルヴィツァーは法学者を目指す32人に実験を行いました。学習意欲を問うアンケートで「できるだけたくさん勉強したい」という内容を答えて頂いているのです。そこで学生を2つのグループに分けました。
A:アンケート結果を他者に見せた上で回収
B:アンケート結果を他者に見せずに回収
その後、AとBに対して様々な対照実験を繰り返した結果、Bの方が平均的に良い成績を収めたのです。これらは代償行為と呼ばれるようになりました。ある欲求が達成されないとき、別の欲求を達成して満足する行為です。目標達成に対して、他者に目標宣言することで満足してしまい、実際に行動をしなくなるというのです。不言実行というのも実は有効というのがここから導かれます。
私の場合で当てはめると、追い込むために他者に目標宣言をする前に、その準備をモクモクとしている。その時は、他者に知られないようにコソコソと取り組む。そしてある程度見えたところで他者に宣言して最後の追い込みをする。というのがこれまでの人生の中で多かったです。
ミラーリング効果
2020年3月21日
早嶋です。
1999年、米国にの心理学者ターニャ・チャートランはある実験を行っています。大学生を集め写真をみて、その内容をペアの相手に言葉やジェスチャーで伝えるというゲームを行います。写真は敢えて説明できにくい抽象的なモチーフを使っています。
ペアの女性はしかけ人で、説明者と同じ動きをするAと、説明者の説明をただ聴くというBのペアで実験を行っています。実験後、ペアの相手をどの程度好ましく思うか、どのくらいスムーズに進んだかなどを10段階で評価しました。結果、自分のジェスチャーを真似たAがBよりも平均的に高感度も、プロジェクト進行具合もスムーズだと捉えた結果になりました。
ジャスチャーや話し方が自分とにていると人は親近感を持つのです。これはミラーリング効果と呼ばれ同じ行動をする人は性格も近いだろうと親近感が高まると考えられます。ミラーリング効果はカウンセリングや営業、マーケティングにおいて活用できます。
商談を上手くすすめたい場合、相手がよく使う単語をこちらも使ったり、相手の言葉を繰り返して話をすすめるなどの方法です。商品の販売促進活動の一環で試食や試用をする際に、体験者が話した言葉や動きを嫌らしく無い程度に真似して商品の説明をすることで、相手に親近感を抱くなど、様々に活用できます。
マーケティングでは、顧客を心理状況や思考特性によっていくつかのセグメントを作り、そのセグメントの特徴を活用してプロモーションなどを行う場合もあります。例えば物事を判断して感情を表に出さない人に対しては、商品のメリットを簡潔に整理してプレゼンすることが大切です。逆に物事を断言せずに、感情を表に出す人に対しては、リスクが無いことを丁寧に説明することが大切です。
マーケティングで顧客を分析する際に、ミラーリング効果の力を活用するイメージをはじめから持っておくとアプローチの仕方と、取組に対してのアイデアが様々に生まれてくることでしょう。
単純接触効果
2020年3月20日
早嶋です。
営業活動において、積極的に営業する方がいた場合、最後はその人の熱意に折れて契約をする。なんて話になることはありますね。もちろん、提案する商品が悪くなく、顧客もその商品を欲していたという前提はあるとしても、積極的な営業が何らかの決め手になったことは否めません。
1968年、米国の心理学者ロバート・ザイアスはある実験を行っています。学生72名に対して様々な写真を繰り返し見せ、後でその写真の中の人物の高感度を調べる実験です。結果、見せられた回数が多い人をより好ましいと感じる傾向が強いことが分かりました。
当然人は好みがあるでしょうが、それ以上にたくさん接する回数がある方をより好ましく感じるのです。この実験は人物以外にも図形や外国語の単語、意味のない抽象的な概念など様々な対象でも同様の効果が得られています。
上記は単純接触効果、若しくはザイアス効果と呼ばれます。接触回数が多い対象は無意識に記憶します。記憶とは、認知形成のための準備状態のことで、記憶によって認知するスピードが早くなるのです。そこに脳がミスリードします。これだけ早く認知できるから自分に取って好ましいものに違いない、と。
企業がマスに向けてテレビコマーシャルをヘビーで流したり、マス広告を大量に行ったりして単純なブランド名や商品名やイメージを繰り返す目的はここにあります。記憶させることによって認知的流暢性、つまり勘違いを起こさせ購買に結びつけようとしているのです。
アフター・コロナ
2020年3月16日
早嶋です。
米国のコロナウィルスの感染拡大も止まりませんね。日本時間で16日の17時時点で3,100人の感染、60人に死者です。トランプ大統領は13日に国家非常事態宣言を出しています。か悪地域や国への渡航規制も強くなり欧州の過去14日間滞在の外国人の入国禁止阻止などで、週末の米国主要空港は欧州からの帰国者で大混雑でした。
入国審査で帰国者は至るところで濃厚接触になっていると思います。これが引き金になって、今後2週間で更にアメリカ内での感染爆発が引き起こるのでは無いかと思います。この意思決定を行ったトランプ政権は結構ピンチだと思います。もちろん正解は無いのでしょうが。イタリアの感染の広がりを見ると、米国の今後の広がりは人口比でざっと5倍くらいです。米国でこの数値の感染者と死者が出るとインパクトは大きいと思います。
一方、中国政府の対応は世界中から避難の的になるのではと思います。なぜか勝利宣言なんぞを出して、今や中国は安全だ。他の国や地域からの入国を拒否する。などと言っています。ことの発端は中国なのに、その責任をあたかも他国になすりつけるかの言動です。そして少し怖いのは、ウィルス持ち込み責任をアメリカだと言っている点です。
米国では、きっとここ2週間で急激に感染者数が増えると思います。その時期になれば、確実に米国民の怒りが中国に向かうでしょう。これまでの米中関係なんかかわいいモノでしょうね。今回の中国政府の対応に対して、少なくとも他の地域や国に対しての対応を見ている限りでは、誰もが「ふざけるな!」と思うでしょう。中国は他国からの関係や様々な圧力との戦いを今後は背負う必要が出てくるでしょうね。
参考:
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56817890W0A310C2000000/
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59678
CLO
2020年3月14日
早嶋です。
2008年のリーマンショックの年、米国では政府系の会社が金融危機で国有化されリーマンブラザーズが破綻しました。当時のローン担保証券で借金を束ねて新たなカタチのデリバティブが金融筋では「やばい」となりました。結果、株価が急落して「もうだめだ!」という状況が蔓延していた状況を思い出します。その後リーマンブラザーズが発行していた債権保全のための発行会社であったAIGが破綻に追い込まれ、借金漬けの金融の弱さが一気に広がったのです。
米国株の記録的な弱気相場。コロナ危機が発端ではあると思いますが、今回のガンはローン付き担保証券であるCLOでは無いかと思います。CLOは各付けが低い企業の融資をまとめて取引するローン担保証券です。これらの担保付き証券はKKRやカーライルといったプライベートエクイティ(PE)が多く手掛けており、彼らの投資案件の資金源にもなっています。
リーマンショックの時もそうですが、常に世界は借金漬けで投資家はだましだましゲームを繰り返しているようです。従って投資家は景気が悪化するサインには常に敏感で、仮にそのタイミングがきたらCLOの購入には慎重になります。結果、銀行はローン自体を抑制せざるを得なくなります。その結果、上述のPE会社は借り入れコストが跳ね上がるので、相当数のディールが減少します。
ロイター社の記事によれば米国のCLO市場は2012年以降2倍以上に成長して6500億ドル規模を誇ります。そしてJPモルガンの見立ては2020年中に発行残高が1兆ドルを突破すると予測していました。
きっかけは思わぬところからやってきたのです。コロナです。常に借金漬けなのでリスクを感じながらも金融は動いていました。当初から米国の景気後退懸念や経済を巡る全般的な不安感などが募り、投資家がCLOに対してもっと高い利回りを要求する懸念がありました。そうすると、CLOの新規発行はやがてとまります。
同様に格下げも厄介です。CLOの設計上、ある一定の格付け資産が含まれると評価の仕方が異なってきます。通常は原資産のローンを額面で評価しますが、一定の格下げがくれば資産の時価評価が求められるようになります。当然、時価は額面を大きく下回ります。そのためCLOの資産評価が目減りくらいの企業の格下げが非常にリスクなのです。
過去スタートアップの会社がとてつもない倍率で取引がされていましたが、金融筋は資金を集める手段があったのです。負債を使って成長を加速させる。それがすごい勢いで成長してユニコーンなどの言葉が出てきました。しかし物理原則の基本と一緒で高い倍率はいつかは低くなり元に戻るのです。そのきっかけがコロナでハイルート債であるCLOが影響している。と思うのです。
一度マイナスに動き始めたら止めることはできないと思います。状況としても長引くでしょうね。不要不急の投資は控えられるでしょうが、本当に価値のある付加価値のあるものは当然に継続的な投資の対象になる。その結果、社会はまた新たな世界になり変化していく。そして、何らかの仕組みが作られ借金での成長はまた違う姿ではじまる。学習をしているようで学習していない。規模が大きすぎて小さい会社はどうにもならない。こことしての力と信用を継続的に構築して一定のリスクヘッジをする。このあたりがやはり大切になってきていることが証明されますね。
損保支払い自動化
2020年3月12日
早嶋です。
保険とITが融合するインシュアテックという言葉があります。今朝の日経からの引用です。
ーーー日本経済新聞 2020年3月12日ーー
損害保険ジャパン日本興亜は2021年に一部の自動車保険を対象に、保険金の支払いを無人化する。契約者が撮影した写真などで人工知能(AI)が査定額を算出し、人を介さずに保険金の支払いまで終えるため、休日や深夜でも保険金が支払える。
ーーー
上記の取組によって、担当社の人で不足を補うとのことです。こちらの仕組みを活用するのは、年間17万件程度の事故のうち、車両全壊や軽微な損傷など3万件の約2割の事故が対象です。
おそらく事故をおこした時、アプリ等でその状況と写真や動画等で保険会社に伝えるのでしょうね。後はAIによって保険額等の査定と支払い手続きを行う。スマフォになれた方に取っては便利でしょうね。
同サービスの導入によって支払い期間に2週間要していた時間が30分程度まで短縮されるといいます。損保会社からすると圧倒的に人件費を下げる効果もあるのでしょうね。
若しくは、今後、徹底的にAIが自動車側に適応した時に、自己そのものが起きなくなる。その時は損保の仕事に従事している人の圧倒多数の仕事がなくなることを予見して徐々に仕事を減らしているのかも知れませんね。
日本の鉄鋼業界
2020年3月9日
早嶋です。
鉄鋼大手にとっても非常に厳しい1年になると思います。7年ぶりにベアゼロの春季交渉という記事が日経にありました。
ーー2020年3月9日 日本経済新聞
日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の鉄鋼大手3社は、2020年の春季労使交渉でベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を見送ることを決めた。ベアゼロは7年ぶりとなり、20年度、21年度とも見送る。
ーーー
記事には世界の景気停滞の影響が示されていました。自動車などを中心に鉄鋼需要が低迷しているのです。特に生産国の中国は一連の貿易摩擦から今のコロナの影響で経済が著しく冷え込んでいます。
先日のニュースで日本製鐵の2020年3月期が最終赤字4,400億の赤字見通し。というのがありました。そこで呉製鉄所を閉鎖するという内容です。業界全体に同じように景気の波が押し寄せ、JFEスチールや神戸製鋼も同様に業績は悪化しています。
業界団体のサイト等をみると、鉄鋼メーカーの組合印は高炉大手だけでも約5万人いて、鉄鋼、造船、重工業などの基幹労働組合全部を入れると約20万人以上で自動車や情報通信産業などについて多い業界です。
では、なぜ鉄鋼業界にここ1年が非常に厳しくなるかです。日本の粗鋼生産は約1億トン/年で、インドが1.1億トン/年。そして中国は約10億トン/年の生産です。日本は主要な鉄鋼メーカーは数社ですが、中国の場合は100社くらいあり、去年から続く米中貿易摩擦に続いてコロナの影響で生産した粗鋼がダボついている状況です。
この状況が続くと考えられる状況は、中国以外に対して粗鋼を投げ売りすることです。現在、1トンあたりの鋼材は1トンあたり8.5万円前後で、中国の鋼材は7万円前後です。仮に、中国の粗鋼が中国外の市場に出回れば、ただでさえ鉄が余っている状態でこの景気後退局面ですから鉄の生産が不要になります。
仮に中国の経済が3割り程度ダウンしたとすると、必要な鉄が比例して3割あまると仮定すると3億トンもの鉄が余ってしまうのです。この鉄の量は日本の年間の生産量の3倍ですから、目も当てられない状態が来るかも知れません。
ベアゼロは直近の日本経済のことだけではなく中国の鉄の需要も加味した数字だと思います。少し、ここ1年が不安です。
参照:World Steel Association
グランドセイコー③
2020年3月7日
早嶋です。
グランドセイコーはターゲットをミレニアル世代に一部フォーカスしているようです。ブランドの先入観がなくグランドセイコーに対しては機能を語りたくなるそうです。ロレックスはオヤジ時計。そんなスイス時計とは違う顧客層を狙うと中村社長は何かの記事でコメントしていました。
まぁ、実際は従来のスイス時計、高級時計の層に対して直球でアプローチしてもまだかなわないということを素直に認めているのでしょうね。そこで若者や女性や従来の高級時計を身にまとわない顧客セグメントにフォーカスをする。というのは上手な言い方だと思います。
ただグランドセイコーのブランドイメージを急に広げている印象を受けて、やっぱり昔のセイコーがブランドを作っているんだろうな。とちょっぴり残念な気持ちになる部分も否めません。スポーツモデルも、レディースも。メジャーリーガを起用してアピールする。どこに芯をもっているのかなーと思う場面も多々あります。が、それを含めてグランドセイコーが世界に勝負をしているところは嬉しいですよね。
グランドセイコーのブランドコントロールの中で特に残念だと思う点は利益率を向上させるために部品を共有化する。と宣言している点です。1万円の時計を売っている人たちの発言で100万円とか1,000万円の時計を売る人は言っちゃいけない発言だと思います。一方で、職人が秘境でじっくり手間暇かけて組み上げている作品が他方ではコストカット。まだまだセイコーの冠が抜けていないですよね。
海外の高級時計の多くは独立系ではなく高級ブランドを牛耳るコングロマリットの傘下です。従って、それぞれの時計の部門がどのくらい売り上げて、どのくらい利益を出しているのかを知ることができません。業界の人からすると時計とその作り方や中身や本数を見ればお財布どころは分かりますが、それを出さない品の良さを知ってほしいと思います。半導体向けにコストカットしている部隊の隊長が高級時計の管理をすることはよろしいことでしょうが、その取組を広報するとは、”やばい”でしょう。
ともあれ私はグランドセイコーは大好きですし、今後も日本を代表するブランドになってほしいと思います。ただ、技術はグランドセイコー、宝飾はクレドールとした場合、機能の追求だけで2,000万円だったら良かったのかな?と思いました。ダイアやサファイアは綺麗だけど、そっちの方向性はクレドールかなと。
グランドセイコー②
2020年3月6日
早嶋です。
3年前グランドセイコーはブランド革命をはじめます。セイコーの時計ブランドはチープカシオのようなセイコー5。GPS時計に代表されるアストロン。ダイバーズモデルのプロスペック。他にもルキアやブライツやプレサージュなど非常に沢山ポートフォリオを持っていました。ここにグランドセイコーも含まれましたが、それを切り分けたのが3年前です。
当初は、販売網や広告を一緒にしていたと思いますが、徐々にその整理が結果を出しています。これまでは直営に加え、いろんな卸にグランドセイコーを提供していたようですが、ようやく流通の制限も管理できるようになっています。加えて米国とフランスに現地法人も作っています。ブランドコミュニケーションもセイコーとは切り分け、グランドセイコー独自のWebサイトを立ち上げ、ロゴにもSEIKOの文字を外すなど一通りのセオリーを踏襲しています。
プライシングについても明確です。従来は20万円前後のエントリーモデルもありましたが、価格帯を50万円前後をエントリーモデルにするなど引き上げています。更に言えば、グランドセイコーを体現するスプリングドライブやザラツ研磨の技術ももっと使用範囲を狭めて他のセイコーとの違いを出せば良いとも思いますが、難しいところでしょうね。
興味深いのはクオーツ式を出して低価格化を招いたセイコーが世界の機械式時計の体力を弱らせた。しかし、そのメーカーの復活によって、セイコーは逆に体力を失う。そして再度、機械式に手を出してスイスを凌駕しようとしているセイコーがいるということです。そして価格に対しては安くしない。という徹底ぶり。素敵ですよね。
時間を見るための道具としての時計はもはや不要です。皆スマフォを持っているし、時計型のコンピューター、いわゆるスマートウオッチはバイタルの管理や気圧や天候の把握まで出来てしまう天才です。そこに時間を見るためだけに100万円以上の価値を出すこと自体狂っていると思う人もいるでしょう。
しかし私は思うのです。今何時だろうな。という時間は古代から人が制したいと思っていても、なかなか出来ず、正確に刻むことは出来ても早めたり、遅くしたりすることは出来ない概念なのです。その時間は今後も人が追求してもなかなか解明できないし、その時間を止めることも出来ない。
1,000円のチープカシオでも時間は分かります。スマフォを見れば超正確な時間を知ることができます。でも、自分がずっと使っていた愛着のある機械がある程度正確な時間を教えてくれる。そしてその時計は100年も200年も前から時間を刻み続けている。ひょっとして、それは自分の父親が同じように使っていたかも知れない。時間をコントロールすることは出来ないけれど、世代を超えても同じ機械が同じリズムで歯車を回して時間を告げてくれる。そんな感覚は半導体からは来ないでしょうね。それが時計の世界なのです。
皆が2000万円の時計を買うことは無いでしょうし、物理的に難しいです。自分がいいなと思った時計。できれば壊れても修理ができる。半導体の交換という概念ではなく物理的な部品の交換で100年も200年後も一定の技能を持っている人だったら動かすことができるアナログの技術。使い捨てが当たり前になっている今、同じものを大切に世代を超えて使い続けるという物語は年齢を問わず受け入れられると思います。
グランドセイコー①
2020年3月5日
早嶋です。
ーー2020年3月5日 日本経済新聞 抜粋
セイコーホールディングス(HD)は6月、主力の高級腕時計ブランドの「グランドセイコー(GS)」から過去最高額となる2千万円(税別)のモデルを発売する。これまでの最高価格(800万円)の2.5倍だ。3年前からブランドの再構築に取り組み、既存のブランドの価値観にとらわれない20~30代の「ミレニアル世代」の新興富裕層に着目した結果、ウオッチ事業の収益力は上向いている。スイスブランドの牙城は果たして崩せるか。
ーー抜粋終了ーー
100円、800円の商品があった場合、100円は安く感じて、800円は高いと思います。ここに、100円、800円、2000円の商品があった場合800円の商品は高いという感覚が鈍くなりますよね。2000円の商品が800円の価値を変えてしまったのです。コントラスト効果といって、ヒトは絶対的な比較が苦手です。そのため提示された範囲内で比較して価値を図る傾向を無意識に行います。100円と800円では700円の差を脅威に思い、800円を「高!!」と感じるでしょう。しかし2000円の登場で800円がなんだか普通に見えてくるのです。
グランドセイコーは前回のブログでもコメントしていますが最高です。今回のプライシングとさらなる高級路線への舵切りはいいですね。大好きです。2千万の時計の販売数は10本ですから販売できても2億です。長野の特別な工房で特別な職人が手作業で組み立てている。手間と暇と技術の塊です。セイコーの19年3月末の売上は1400億で利益は100億
(※1)ですので、10本という本数はあくまでも象徴的な商品にしているに過ぎないですね。
時計の見た目はサファイアとダイアをあしらっていますが、精度を更に詰めている点も凄いと思います。最大持続時間が8日で精度は平均月差10秒。2019年に発表された800万円のモデルは最大持続が3.5日で平均月差が15秒。時計の世界でこの躍進は大変すごいと思います。
腕時計の世界において、実に面白いことが起きています。1980年代ころまではスイスの機械式時計が最高峰でしたが、セイコーが開発したクオーツ式時計の技術と普及によって一瞬は高級クオーツ式時計が一世風靡しましたが、やがてこの機構はコピペがきいて量産が聴くようになり最終的には時計の部品としては100円から1000円くらいで最高の精度の時計がつくれるようになったのです。
そこにスウォッチが登場します。10,000円程度のクオーツ式時計をパリコレやミラノコレクションの様式を真似て、時計の本体ではなく、ケースやベルト、時計全体のデザインを頻繁に変えて年に何本も新しいモデルを出し続けたのです。これはブームになスウォッチは莫大な富を得ました。その富は、当時クオーツ式の出現によって衰退していく機械式メーカーの買取原資に充てられました。スウォッチは、機械式メーカーに資本を投じ、開発やブランドコンセプトには口を挟まずに、グループの参加に入れて時計業界全体を盛り上げる取組を行ったのです。
バブルが終焉し、日本のパワーも低迷した2000年代、世の中がITの世界に突入すると、徐々に昔から変わらない機械式時計が世界中で注目を集めるようになってきました。スウォッチなどのコングロマリットは、ブランドの価値を高めるために自分たちの存在は消し、それぞれの機械式メーカーの良さを全面に出すことで、機能追求から価値を追求する人々に広く受け入れられたのです。
当然、セイコーは自身が開発したクオーツ式のモーブメントが不調になり始めます。そこで再び力を入れたのが機械式の技術です。ただそこはセイコー。機械式の技術とクオーツ式の技術を融合させたスプリングドライブという機構を開発したのでした。グランドセイコーはこの機構を使って、機械式だけど極めて正確。でもデジタルではないというポジションを構築しはじめます。
当初は、セイコーの廉価版の時計と部隊は同じ、少なくとも違いを付ける取組をグランドセイコーは行っていなかったと思いますが、数年ころより本格的にグランドセイコーを一つのブランドとして、セイコーから切り離す取組を開始しています。
再びセイコーの売上をみてみましょう。2019年3月末で連結で2500億円で時計事業は1400億円をしめています。何よりも連結全体の利益は90億で、時計事業単体の利益は100億ですから、他の事業が足を引っ張る状況になっているのです(※1)。セイコーとしては半導体設備の投資低迷で電子デバイス事業が停滞。一方で近年の時計事業の躍進が明らかになっているのです。
続く。
こちらの参照(日本勢の時計の売り方)
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