日本勢の時計の売り方

2017年6月12日 月曜日

早嶋です。

セイコーウォッチは高級ブランドのポジションを更に明確にするためにグランドセイコー(GS)をメインにロンドンに英国初の直営店を出店します。GSの中心価格は60万円で機械式とスプリングドライブ方式を揃え、クオーツ式が20万円台です。最近はセラミックス素材の時計や彫金を施した100万円以上の価格帯の時計も充実しています。海外の店舗75を2019年3月までに100店舗体制にして国技での高級時計の市場に真っ向から勝負する方針です。

対してシチズンは2008年に米国ブローバの買収、2012年に80万円前後の時計を手がけるアーノルド&サンの親会社スイスブローサHDも買収、去年は欧州ブランドのフレデリック・コンスタントを買収してブランドポートフォリオを固めています。更に、自社のブランドを高めるために機械式時計の最高峰の技術でもあるトゥールビヨンを100%東京メイドというコンセプトで2本限定で販売しています。

一方Gショックのカシオは徹底的に中間層の中国や東南アジアでのブランド構築を進めています。17年3月末での販売本数は850万本、今期は中国でのネット販売にも力を入れ900万本の規模を予測しています。

国内の主要時計メーカーが国外を攻めるのは明確な理由があります。国内事業が芳しくないのです。そこで世界の主要腕時計の輸出国の輸出数量を見てみました(※1)。それによれば時計の輸出数量のピークは2004年で約18億本。現在は、香港の輸出量がピーク時の半分以下になっていて、全体でも10億本を割っています。中国は2006年頃より横ばいで約6億本と全体の6割以上をしめ、現在でも最も輸出されている国です。

一方で、数量は減少しているものの、主要時計輸出国の金額ベースは増加しています。数量ベースがピークだった2004年の輸出金額は凡そ160億ドル、2014年がピークで450億ドルまで伸びているのです。単純に計算すると数量が16億本から10億本に、金額が160億ドルから450億ドルですから1本あたりの単価が約5倍の45ドル程度になっていることが言えると思います。

別の統計で世界の携帯契約数を見てみました(※2)。2000年は10億台を割っていた契約数が2015年時点で70億台を超えています。世界の人口(※3)は2000年時点で約60億人、2015年時点で70億人ですので単純計算では1人1台携帯の契約があるのです。実際は、1人で複数台を契約している人がいるので、上記のように皆持っていると考えるのはよくありませんが、単純に時間を知るデバイスを誰でも持っていることになります。

時計は、単に時間を知らせる道具として捉えた瞬間にフマフォに置き換えられてしまう。従って、時計に何か別の感情的な価値を捉えた人が敢えて購買するようになるため、値段が上がり、数量が減っていると考えることができると思います。

上記から総合して考えると、時計の方向性は、1)完全に上にふった高級化、2)中国のマス層や東南アジアを中心とした、或いは今後のアフリカを狙った中間層向けの商品と徹底した低価格化、そして3)スマフォの競合、もしくはフマフォの代替器としてのデジタル化の方向性が考えられるでしょう。

GSは完全に1)の高級化を邁進。しかし、母体のSEIKOは2)の中間層から低価格までを同じSEIKOで進めているため、いくらGSといっても、レクサスのように上手くブランドイメージを確立できないのではと思っています。理由は、母体の規模です。トヨタは20兆円の規模で世界有数の自動車グループの中、ハイエンドのブランドを立ち上げました。それでも世界で認知されるには10年、BMやベンツと比較されるようになったのは近年の話です。

SEIKOは王者ロレックスを少なからずとも意識しているでしょう。こちらの売上は4000億規模、対してSEIKOはグループ全体で1300億。真っ向勝負をするのであれば、中途半端なブランドは削って行き、全てにおいて高級といポジションを取らなければ中途半端な立ち位置が続き苦しい経営を強いられると思います。

ブランドとしてはGSの他にアストロン、ガランテ、プロスペックスなど特色のあるものはあります。が、高級ラインを意識するあまり宝石を埋め込んで値段をあげる。金ピカにしてエグゼクティブラインと称すとやや品の無さで価格を釣り上げているようにも思えます。一方で、昔の品番を忠実に復刻しながら技術は最新という手法も取っています。同じSEIKOのグループの中でやり方がバラバラで全く噛み合っていないように感じるのです。

シチズンはブランドポートフォリオを確立してマルチで戦う戦略です。1)と2)の両方を狙っていると思います。高級ブランドは欧州勢のブランドで、中間層向けをボリュームではシチズンで狙い、全体のブランドイメージを底上げるために世界一薄いソーラーウォッチや100%東京のトゥールビヨンを出しています。課題は、日本のマネジメント能力で海外のブランドポートフォリオを管理できるかです。特に高級品の時計を魅力あるように見せるための販促活動はスイス勢が最も得意とする領域です。元々のブランドの意思を尊重しながらも独自のメリットを出せるかがポイントになると思います。

SERIKOがロレックスなら、シチズンはスウォッチグループをイメージしているのかもしれません。スウォッチグループの全体の売上は6000億から7000億。複数のブランドとターゲット層を組み合わせながらブランドポートフォリを構築して、日本勢が1980年代にデジタル化の波で機械式メーカーに大打撃を与えたころから伝統的な統計メーカーに資本を入れて大きく育った企業です。このポジションを狙うのもかなり苦戦が強いられるでしょうね。因みにシチズンの売上規模は1600億円です。

カシオは伝統的に情報化が得意でした。数千円のチープカシオを武器に途上国や中間層の人々にブランドネームを売り2)を基軸に、今後は3)にも力を入れていくと思います。実際にネットにつながるスマフォ不要の時計なども精力的に発売しています。

しかし、この領域は既に時計メーカーの戦いからエレクトロニクスメーカーの進出が激しく技術のアップデートがカシオ単体でできるかがポイントです。主要エレクトロニクスメーカーは全体の規模では1兆をゆうに超えています。他するカシオは1700億の規模。R&Dや将来の投資のことを考えると全方位的な商品は戦略的にも難しいと思います。

※1:スイス時計協会『スイスと世界の時計産業』参照
※2:国際電気通信連合の統計資料を参照
※3:国連人口統計を参照



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