消費者が購買に至るまでの流れにには気持ちの変化があります。
この考え方は古くから消費者行動論の中で定説とされています。問題認識→情報検索→評価・選択→購買→購買後評価、です。これは、AIDMAやAMTUL、AISASなどに応用されていますが、消費者の心理や行動に応じてプロセスに分け、そのプロセスに応じたマーケティングを行うという意味では同じです。
先日、次のような経験をしました。1件はシャツ屋さん、1件はスーツのオーダー屋さん。どちらも嫌な経験です。
シャツ屋さん。お店に入るなり、店舗の中に入った瞬間に、『シャツのサイズはお分かりですか?』と。この一言で急に店舗の商品をゆっくり見る気持ちがなくなりました。というか、いろいろな商品を見てみたいのに、なんだか見てはいけないの?となったのです。
このときの心理状況です。まずはゆっくり見せてよ!何かあったら、声をかけるから。もしくは、そわそわするから。そのタイミングで声をかけて頂ければパーフェクト、と。
スーツのオーダー屋さん。お店に入って、シャツをオーダーしたいと話ました。1枚10000円〜の商品なので、安いとは言えません。すると、席に案内されて、何かオーダーシートを渡されます。そこに、記入してください。です。名前や住所などの基本情報かと思えば、どのようなシャツか、襟の形などを、オーダーの手続きを紙でチェックするシートでした。
これって、話を聞いてもらいながら、お店の人が買いてくれれば良いのに。仮に、シャツの価格が5000円程度、つまり、既製のシャツの量販品の価格より若干高い価格であれば納得できます。しかし、その店はオーダーをうたっていて、価格も安いとは言えないのです。であれば、それなりの対応をしてカウンセリングするようにシャツの好みや用途、そして個人の趣味などを聞いてくれれば良いのに、と。
結局、2店とも購買に至りません。
1件目は、マニュアル化されたというか、毎回、同様の提携文句を顧客に話をしているのだろうな?と感じ、2件目は提供している商品と提供している接客の仕方に乖離を感じました。
お店の人にたいして1万円は1つの商品でしょうが、顧客にとって様々な価値があります。その事を汲みとってサービスを提供することも大切なことだと思います。
2011年4月 のアーカイブ
気持ちの変化に応じた接客対応
国際化戦略
近年の経済状況で、国内企業の関心毎の一つに、グローバル戦略があります。その理由は殆どが、国内市場の飽和と縮小でしょう。
これまでの国際化は、日本を中心にして、標準化させていくグローバル化が主流でした。一方、各国毎にローカル化していくという考え方もありました。そして、そのどちらが良いのか?よく議論されていたと思います。つまり、標準化すべきか?適応化すべきか?です。
レビットは、1983年の論文「市場のグローバリゼーション」で「世界全体が大いなる力に突き動かされて、同質化に向かっている」と言いました。この主張は、世界は一つになり、「全世界を一つの市場と見なして、すべての人に同じ製品を同じように販売する」ことが可能ということを言っています。
トーマス・フリードマンも、『地球は平らだ』と考えよとフラット化する社会で主張しています。例えば、インドのバンガロール、インフォシスというIT企業の会議室で壁一面に広がる巨大な40面のスクリーンに圧倒された経験などが本に書かれtいます。その事例では、世界のどの拠点からも生の映像を通じて会話ができ、ブロードバンド環境や通信テクノロジーの進展によって世界はフラットになった…と続きます。
一方、ゲマワットは言います。今後の主要な論点は「セミ・グローバリゼーション」だと。彼は、レビットやフリードマンのグローバリゼーションに関する主張を「グローバリゼーション津波論」と名付け、それに対して「世界はフラットではない」と提唱しています。
セミ・グローバリゼーションとは、世界は半分くらいしかグローバル化していないという前提です。彼の論文には、様々なデータで、世界はわずか10%程度しかグローバル化していないと結論づけています。そこで、ローカル化する事と、グローバル化する事を進出する国と自国の違いをベースに戦略を立てて行こう!と唱えているのです。
従来の国際経営戦略論を大別すると、①「いまや世界市場は均一化したグローバル市場である」とする国際的な差異を無視したいわゆるグローバル戦略論⇒現地化を否定、本社に権限を集中するアプローチと、②「海外地域市場の差異や特殊性にこそ戦略的意味がある」として「ローカルに考え、ローカルに行動する」ローカル戦略論⇒権限の現地委譲による現地化アプローチがありました。
今後は、①と②のハイブリットを考えながら戦略を立てて行こうと言うのがゲマワットの主張です。
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英国人の考え
英国紳士教育の言葉の中に次のようなものがあります。
Don’t panic or keep calm and carry on.
どのような状況においてもパニックになることなく落ち着き、そして黙々と行動をを続けることです。
新しいスタイルの起業
小さな起業を始めませんか?
ブレスト部では5月9日にアップルストア福岡天神店で、学生、社会人向けに『新しいスタイルの起業』というテーマでワークショップを行います。起業のスタイルには様々なものがあります。バブル絶頂期からITバブルの時期はIPOを目指す起業、10億、100億のビジネスを創造しよう!という意気込みのもと、資本力にモノを言わせたイケイケドンドン的な起業が目立ちました。
この印象が強いのでしょうか?ブレスト部に集まる投資案件の多くはイニシャルの投資額がまだまだ高額のものが多いのです。テストフェーズを無視して一気にメインストリームのビジネスでの成功シナリオを描く。たしかにビジネスプランを描いている時はわくわくしますが、実際に動いていない新しいビジネスがそこまで行くでしょうか?
一昔は投資は、そのビジネスのポテンシャルに可能性を見出して期待していたでしょう。しかし昨今のビジネス環境では先ず、そのような投資はありえないでしょう。もし実現したいのであれば、成長期の国に映ることでしょうか。
もしくは、先ずは形を作ることです。ブレスト部が推奨しているモデルです。いきなり億のビジネスを目指すのではなく、ひとり分、数人分が生きていける起業から始めます。まずはどのような規模でもいいので実績を作るのです。投資会社としても、形があり、その延長上にヴィジョンや可能性があるビジネスに対してはリスクが読みやすくなるでしょう。
この時、重要なことは、ハートマネーをつぎ込むことです。起業家としてまずは自分の責任ではじめるのです。ここはいくらでもいいでしょう。とにかく地道に形を作ってひとり分でも良いから稼ぐのです。自分が考えている最小限のアイデアで。
詳しくは5月9日にアップルストア福岡天神店に18時にお集まりください。直接皆様とワークショプをさせていただきます。
※ブレスト部
弊社を含む数社が集まり、小さな起業を応援する活動を行っています。詳しくはFacebookのファンページを参照ください。
http://www.facebook.com/pages/ブレスト部起業アイデアをブレストハンズオン型のエンジェル投資/124806177589080
経営者の仕事
経営者の仕事。様々にありますが、その中でも大きなことは将来を見るとこだと思います。何?と思う方もいるかも知れません。企業をどのようにしていきたいのか?なぜ、今の会社の経営者を行っているのか?
それぞれに理由があるでしょうが、将来の会社の方向性を決めるのは社長です。そして、その方向性がなければソコソコ安定していくことは出来るでしょうが、何かあったとき、例えば有事の時は持たないでしょう。
大学卒業はスタートライン?
先日、BBTボンド大学MBAプログラムをこれから受講する方にお会いしました。6月からの受講に際して、ボンドの実態がどのようなモノなのか、ざっくばらんにお話したい、とのことでした。そこで、ボンドでの生活やカリキュラム、受講の仕方、スタディーツアー、ネットワーク、キャンパスの話など、情報共有しました。
少し前に、ボンド大学のカリキュラムのペイドパブに強力させて頂きました。こちらはBBTボンド大学MBAプログラムの宣伝を兼ねて、日経ビジネスに掲載されています。ボンド関係者は3人。私を含め、各々がボンドで学び、自分のビジョンを達成するためのツールとしてMBAを使っていました。今回のインタビューはJMAA(日本M&Aアドバイザー協会)の設立メンバーが、なぜボンドで学び、協会を立ち上げるに至ったのか?についてインタビューを受けています。
もう少し前に、ボンド大学の卒業祝賀会に参加しました。ボンド大学の公式な集まりは数年ぶりのタイミングでした。久々に参加しても、ネットワーク上でやり取りを行っているため、初めて会うのに既に面識がある方が数名いました。ディプロマを取った卒業生のスピーチで、目的意識が強かった方は、既にボンドでの経験をどのように活用するのかのビジョンがありました。一方、残念ながら意識が低かった方は、これから何をするのかを考えていく、というようなコメントでした。
早嶋は、ボンド大学で経営を学び、今はそれを実践しながら、仕事を創っています。これはボンド大学だけではなく、全てにおいて言えることです。大学や塾、習い事は何のために行うのか?明確でないまででも、目的を持って行っている人と、目的が無くなんとなく行っている人では、その過程を終了してからの活動に大きな違いが出ていると思います。
大学も叱りです。目的が曖昧なまま卒業すると、そこで学んだことを活かすことができずに、もとの自分に戻っています。卒業することをゴールにしている人は別として、卒業して何をするのか?在学中にしっかり考えながら取り組むことが大切だと感じます。
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事業承継の落とし穴
企業の後継者問題にたいしての相談がふています。
そのなかでいくつか共通点があります。まずは、漠然とご子息に企業を承継しようとしているけれども、そのタイミンをいつというヴィジョンを共有出来ていない。そのため、ご子息の方は、なんとなくつぐのかな?という程度の意識で、一方では自分の夢を見つけ、それに向かってすでに進み始めている場合があります。このタイミングで父親から会社を継いでほしいと投げかけられても気持ちが揺れ動くことでしょう。
継承で悩んでいる経営者は非常に優秀なのですが、一方で社員に継承する事をはじめから考えていない場合が多いです。従って、社員の教育という意味ではかなり手薄感を感じます。もし、仮に社内で後継者を作るという意思があれば、ある程度の年数をかけて複数の社員を選び、経営者としての教育を施すことは可能です。教育は年数を要しますが、一定の効果はあるでしょう。
企業は人間の寿命よりもはるかに長く存続します。従って、自分がいつまで社長として会社を経営するのか?いつのタイミングで会社をどのようにするのか?ファミリービジネスとして継承するのか?第三者に継承するのか?あるいはM&Aをして売り抜けるのか?精算するのか?何らかの方針を出来る限り早いうちに決めて置くことが大切です。
コレはexiteプランと言います。時間があれば、その時間を使って、自分がしたいようにする準備ができます。しかし、急に何かがあり、準備をしていない場合、非常に条件が悪いので、多くの場合、後味の悪い結末になります。
他人に継いで貰う場合、そのビジネスをある程度仕組みとして組織に定着させて置く必要があります。仮に、社長の人脈で社長のセンスで経営をしていて、それが社長の中に溜まっていたら?おそらく継承させてもうまくいかないでしょう。また、この場合、第三者としては継承するモノが無いので条件を厳しめに要求するのか、あるいは断ることでしょう。
継承するという事は、会社がまず、仕組みとして機能する事です。従って、社長がいなくても会社が運営されている姿を作ることがりそうです。そのためには、長期的なヴィジョンがまずは必要です。そして、そのヴィジョンを達成するタメの戦略です。どのように達成するのか?というプロセスを描いておきます。最後に、そのプロセスを実現するタメに経営資源である人、モノ、金をどのタイミングでどのように配分するのかを考えておきます。
まさに経営戦略そのものですね。
グローバルマインド
題名の「グローバルマインド」という名で某メーカーの社員に対してワークショップを実施しました。日本の多くの企業が今後グローバル化する事を必須と掲げていますが、実際どのような備えをするとよいの?ということに大して、マインドを持っていただくという目的です。マインドですので、大きな方向性はありますが、はっきりとコレ!という答えはありません。
中でいくつか議論した内容で興味ふかいものを紹介します。
異文化、というキーワードが出ました。そもそも日本の文化とはなんだろう?文化というものはインタンジブルなもので、かつ多くの要素が複雑にからみ合っています。さらに、普段は意識していないのでなかなか自分たちの文化と問われても何と明確に語れる要素でもないとおもいます。理屈を超えて存在するものかもしれません。日本の外交を見ていると、なにやら下手くそだな!と感じるモノがあります。議論されている対象が理屈や数字のみに執着して、相手国の中に存在する理屈を超えた感情を無視している点です。これは2国間の歴史やこれまでのやりとりを理解していない部分も多くあるでしょう。また、互いの文化的な背景を度外視して理屈と数字のみで歩み寄ろうとしていることも問題でしょう。
労働について。西洋の概念では、そもそも労働は刑罰や懲罰の概念で一種のパニッシュメントとして捉えられていました。アダムとイブのエピソードで楽園を追放された時点から労働が始まった、なる流れはまさにこの事を示しています。一方日本では、古くから働くこと自体が自然と一体になることのように捉えられていました。農業でも鉱業でも自然から得られるものに人間が参加して造物するという概念です。そのために労働に対してある種の喜びを感じるような考え方が古来からありました。
日本人の起源について。大きく2つの捉え方が通説となっています。ひとつは南方、東南アジアやミクロネシア、ポリネシア、ニューギニアなどから移住してきた農耕民族の流れ。ひとつは、北方のユーラシア大陸のモンゴルなどから中国、朝鮮半島を経由してなんかしてきた騎馬民族の流れ。これらが縄文文化(騎馬民族)と弥生文化(農耕民族)の2つの流れを特徴付けています。面白いと感じるのは、デイナミックでエネルギッシュな性格の騎馬民族と静かでシンプルな農耕民族の考え方がミックスされて日本の文化の基礎を構築しているのです。
建物に対する考え方。西洋の建物、例えばパルテノン神殿やローマ神殿などは石で造られており非常に頑丈です。その建物自体のハードが永久の時をこえても存続し続けています。一方日本の神殿は一時的なもので非常に壊れやすいです。木造という特徴も背景にありましょうが、壊れてもまた同じ建物を作れば良いという発想で建築されていました。日本人の考え方としてタンジブルなハードよりも、モデルやシステムと言ったインタンジブルなものでハードは変わっても、ソフトな部分はそこに存在するという発想で永遠に続けることを選んできました。短に日本の家は30年という発想も実は、このような背景と関係があるのかな?と感じたところです。
個か全体か。この考え方の違いは大きいです。日本文化は常に個人ではなく全体の状況やに重きをおいて考えられています。対して西洋では、個の責任にを尊重していることで全体の調和よりも個を尊重する文化がみに染みているのでしょう。
シンメトリーとアシンメトリー。完全と不完全。日本庭園を見るとよくわかります。多くの庭が左側が高く右側が低くなっています。左右対称の構図よりも左右非対称です。海外の宮殿や大きな庭は多くの場合左右対称です。茶の湯の文化に代表されるように、茶碗ひとつでも完成品よりは少し歪な形に美を求めます。日本はもともと不完全なモノに自然の力を感じ、そこに美を意識してきたのです。
公開か非公開か。ここも興味ふかいです。日本のエロスはほとんどの場合、隠されています。これは隠れた部分に奥ゆかしさを感じ、より強い空想のなかに表現できると信じていたのです。一方で、西洋は言うまでもなくオープンですね。
ざっくばらんと議論した内容を書きましたが、異文化を理解する事は何か。決して文化を均一化することではありません。どっちが良いか、どっちが悪いか、白黒を付けるものでもありません。それぞれの違い、特殊性、背景を知り、理解することで初めて互いが理解する立場に立つことができます。そして違いがあることを理解して初めて互いがコミュニケートできるようになるのです。
表面と奥行き
本日、明日の2日間、某メーカーの新入社員研修に参加しています。全部で600名の参加者ですので数回に分けたワークショップです。内容はグローバルマインド。
ポイントは、グローバル化に向けての心構え。クライアントから次の5つについて考えてもらうように事前に打ち合わせしています。
・自分の考えを持つ力
・考えを分かりやすく相手に伝える力
・自分自身を律する力
・日本の文化と異文化の違いを受け入れる力
・語学
議論をしている中で次のようなお話が出てきました。なぜ、継続的に成長する必要があるのか?
以下、早嶋の考えです。若い時は、単純に外見が良ければよいと言う考えもありました。しかし、会社を始め、様々な方々とお話をさせて頂く機会が増えるにつれ考え方がかわります。
ただ単に、理想とする人のまねをしても、表面的な部分を取り入れても、センスや外見は磨かれますが、奥行きが出てきません。
なんの為に自分にインプットしていくのか?それは自分の内面を磨くためかも知れません。特に最近意識していることがあります。経営のインプットに加えて文化的な側面を取り入れることです。
マーケティングは人の心理的な部分が強く作用するので理論に加えて心理学や脳科学、社会学などインプットを行っていました。
ただ、これだけでは自分の内面が磨かれないのです。そのために文学や歴史など、これまであまり興味が無かった分野にも見識を広げることを行っています。美術館に行き絵を見る事、旅行をしてその風土にふれること。
様々な事に触れる。楽しむ。感じる。
このような事もきっと年を重ねるとその人の奥行きにつながっていくのではないでしょうか。
ルーベンス恐るべし
17世紀のヨーロッパでもっとも活躍した画家のひとりとして知られるルーベンス。フランドルに居を構えながら、イギリスやフランス、スペインといった当時の強国の王侯貴族からの注文に応じて、生涯に3000点を超す作品を残していると言われます。
ルーベンスの絵の特徴は当時の表現とは異なり、動きの多い劇的な構図、人物の激しい動き、華麗な色彩、女神像に見られる豊満な肉体表現など、バロック絵画の特色が十分に発揮されています。さらに黒を色彩のひとつとして積極的に用いていることも注目されます。
と、ここまではよく絵画の世界でも書かれていますが、彼は別の才能があったのと思います。もちろんアーティストは第一ですが、マーケティングの才能と商才です。
アーティストとしての才能です。彼が売れっこ作家であった理由は、単純にアーティストとしての才能が買われたこともあるでしょう。例えば、フランダースの犬の中に出てくるネロ少年が死の間際に最後に見た絵画、キリスト降下。
強烈な色彩と明暗のコントラスト、動きのある表現と演出力。見た人の心に強く訴えかける力があります。去年の暮れにベルギーのアントワープに行って実物を見ました。と言っても、アントワープ大聖堂の中に当日はミサのため入れず、入口から少し見た程度です。それでも、赤と黒の色彩が目に飛び込んできたのを覚えています。
しかし同時期には沢山の競合がいたのも事実です。そんな中、様々な国で何故、これほどまでに活躍したのでしょう。彼は、生涯にわたり3000点以上の作品を残しています。こんなに描くことが出来るものでしょうか?
単純に彼が絵の修業を始めたとする14歳頃から亡くなった1640年までの約50年間に制作活動を行ったとしても、1年に60点以上の作品を描いたことになります。これは1か月に5枚のペース、週に1枚以上のペースで書き続けなければ不可能な点数です。
ここに彼のマーケティングの才能と商才の秘密がありました。キーワードは工房です。彼の多くの絵画制作を実現することが出来たのは工房の存在でした。現在では、1人の画家が下絵から完成まで、ひとつの作品に全て1人で行うことが当たり前でしょう。
しかし、ルーベンスの時代は違っていました。ルネサンス以降成功した画家の多くは、宮廷や協会の天井画や壁画などの大作、個人からの注文に至るまで、幅広い注文に応える必要がありました。ルーベンスのように人気作家は、常に注文に追われ、まず1人で全てをこなすことが不可能だったのです。
そこに誕生したのが工房です。従ってルーベンスは優秀な画家であったと同時に、当時は工房の経営者でもあったのです。おそらく同時代に活躍していた多くの売れっ子画家は同様に経営の商才もあったのでしょう。
ルーベンスは単に注文を取って工房で仕上げる。という流れではなく、製作の依頼を受けると先ずルーベンス自身が注文の意向を依頼主から直接にヒアリングしました。そしてその主題に応じて全体の構造を練ったのです。その後、ルーベンスが描いた小さな下絵を依頼主に届け、更に相手からの要望に応じて手直しを加えるという手順を踏んでいたのです。
この流れはまさに顧客志向そのものですよね。さらに、きめ細かい対応に応じ切れたのも彼の絵の表現力に加えて、高いコミュニケーション能力があったと思います。
現在では、生き生きとした躍動感あるした絵は、時として完成した本画よりも高い評価が付いていることもあるのは上記の理由でしょう。ルーベンスに限っては、下絵は間違いなく本人が描いているからです。
かといって本画は手を抜いているわけではないのです。ルーベンスは下絵で注文の了承が取れたら、工房では弟子たちを動員して、本画の製作に入ります。工房には色彩に優れた弟子や背景を専門にした弟子など、様々な得意分野の弟子がいました。
彼らに丸投げすることなく、更に下絵から依頼主の要望を100%かなえるために弟子と協議しながら、本画の大画面を活かすために、下絵よりも効果的な構図や色遣いを臨機応変に仕上げていったのです。
実際、1人では仕上げることが出来ない大作でも、ディレクションをしながら細かな配慮に基づく変更なども、効果的な演出を出すためには、ルーベンス自身が作成の最後まで積極的にかかわっていたのでしょう。
ルーベンス。単に絵の才能を持った人物だけではなく、工房をまとめるリーダーであり、クライアントの要望をかなえるためのマーケターでした。そして工房を経営していくための経営者としての顔も持っていたのです。素晴らしい人物だったのでしょうね。
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