早嶋です。
情報の民主化が進んでいる。インターネットのおかげだと言われるが、結果的に将来は情報格差の縮小によって、経済格差は無くなるだろうか?
私は無くならないと思う。情報の民主化は、文字の発明、言語の発明がルーツだとしたら、インターネットの有無に関係なく昔からあった。それにも関わらず当時から経済格差が生じている理由は、当人の好奇心にこそ格差があるからだ。
インターネットやスマフォの普及により、情報の民主化が進んでいる。これまで一部の役割や職種しかアクセスできなかった情報も簡単にアクセスできるようになった。SNSの普及により誰でも自由に情報を発信することが可能になり、特定の情報を価値の源泉として優位な状況を得ることが従来よりも難しくなる。結果的に情報格差の縮小につながったのだ。
ただし情報格差の縮小の恩恵を得ている人は前提として、意思がある。自分で情報を集める目的があり、情報収集し、その情報の真偽を確かめる。情報をベースに意思決定し、行動する。意思がない人は、情報の民主化のメリットはあまり受けていないとも考えられる。
理由は簡単で、まだ誰も自分の都合とタイミングで、自分が必要と思う情報を提供してくれないからだ。仮に、そのような状況を作れている人は、自分の意思で初動を起こし、必要な情報が集まる仕組みを日々研究している。情報の価値はタイミングと受け取る当人の判断による。どんなに優れた情報でも、相手が興味を示さない、相手が自分にとって必要だと思わないかぎり、単なる雑音になるからだ。
この議論はマーケティングにおける価値の考え方に似ている。ある商品の価値を決めるのは提供する企業ではない。対価を払う顧客だ。企業が優れた商品を作り顧客に提供しても、その顧客が価値を感じなければ商売は成り立たない。顧客が何かを必要としている、何かを達成したいが出来ないと感じている、或はもっと楽に何かをこなしたいと思っている。著書である実践ジョブ理論では、そのような概念を「ジョブ」と捉え、顧客が商品を購買する理由は一定のジョブを解決するためだと説明した。つまり、商品とは顧客の問題を解決する何かと定義できるのだ。顧客が問題を抱えているのであれば、その問題を解決する、或は手助けすることが商品であり、タイミングよく供給できなければ商売は成り立たない。
戦後、焼野原から始まった日本の経済は全てが不足状態だった。企業は分析することなく様々な不足の部分を商品化して顧客に提供した。当時は、企業が提供する商品は間違いなく、顧客の不足を補う役割を果たしていたのだ。経済が復興すると欧米の情報が国内に入ってきて憧れを持つ日本人が増大した。人口爆発も相成り、日本企業の多くは欧米を模倣する商品を提供し商売を拡大させる。一通り経済が発展し日本人の多くが諸外国のトップクラスと同様の生活水準になった頃、商売にとって肝心な不が無くなってしまう。
そこで開発された手法が「あったらいいな」の提供だ。今、不を持たないプラスマイナスゼロの状態の顧客に対して、より良い世界を提案することができれば、現状とその世界に対してギャップ(問題)が生じる。「あったらいいな」の提供は欲求を創造喚起し問題を発生させてしまう手法なのだ。しかし、この取り組みは莫大な認知コストが必要になる。基本的に現状に満足する顧客は、自分から積極的に何かを求めることが無いので、企業側から顧客にアプローチする必要がある。当然、コミュニケーションを行うにはコストがかかるのだ。
ここで話を情報の民主化に戻そう。実は情報の民主化はインターネットによって始まった分けではない。既に昔から始まっていたのだ。それは文字の発明であり、印刷の発明だ。インターネットの普及は1960年代からだが、一般的な大規模な普及は1990年代後半だ。
一方で書籍の普及は奈良時代(710年から794年)以降で、当時中国から文化の伝来により漢字文化が根付き、書物や経典が広がった。当時の書物は貴重品であり、書物の複製や普及は平安時代(794年から1185年)からはじまった。平安時代の後期は貴族や僧侶たちによる書写文化が盛んに行われ多くの書物が作られた。
近代的な書籍の普及は江戸時代(1603年から1869年)の出版文化の発展による。江戸時代は木版印刷技術や活版印刷技術が進歩し、書籍の大量生産が可能になった。庶民が娯楽を含め情報を自由に見られるようになったのはこの頃からだ。ただ当時の1年に得られる平均的な文字情報は、新聞紙面1ページから2ページ分程度と言われたぐらい、物量が圧倒的に少なかった。
現在は、膨大な文字情報がアナログ以外にWeb情報などデジタル情報でも氾濫するようになった。国内では年間に十数万から数十万程度の書籍や専門書、雑誌等が出版されている。新聞やネット記事など、情報に溢れているのだ。それにも関わらず、情報格差は続いている。
その理由は何だろうか。私はひとつの仮説を強く持つ。好奇心の格差だ。好奇心は一般的に年齢が若い時に高く、徐々に減少していき、再度高齢者になると高くなる傾向が知られている。従って、一般的には若い人の好奇心は高いと思われている。しかし、日本人の若者に限って言えば、はじめから好奇心が高い人の母数が少ないのだ。
教育社会学者の舞田敏彦教授がOECD国際成人力調査の生データを独自分析された結果がある。各国の20歳から65歳の大人に、「新しいことを学ぶのは好きですか?」という共通の質問を行い分析する調査だ。例えば日本とスウェーデンを比較した時、若年層の知的好奇心は高く、年齢と反比例して好奇心が減少する様子が分析された。しかし、衝撃的な事実が見えた。それは日本人の20歳の好奇心のレベルがスウェーデンの65歳と同じということだ。肌感覚若者や特にZ世代のやる気の無さを感じている読者も多いと思うが、好奇心の格差が影響していると考えることもできるのだ。
星新一の短編小説、「盗賊会社」の中の一編、「あるエリートたち」に新しいゲームを開発するために選抜されたエリート社員の話がある。エリートを気候の良い重役用の保養施設に閉じ込め、仕事をさせずに暇な時間を与えたのだ。あまりにも暇を持て余すエリートたちは何やら遊びを考え始め、気が付くと時間を忘れてゲーム作りに没頭する。会社の狙いはまさにゲーム開発をエリートにさせることだったのだ。
人から言われて育ってきた人間は、自分で問いを立てない。言われたことを、指示された範囲内で取組むのだ。余計な情報になんてアクセスしない。一方、問いを立てる人間は、問いの答えを媒体関係なく探し自分で考え続ける。1つの問いが明らかになれば、再び複数の別の或は深堀された問いが生まれ、止むことなく考え続けるのだ。アクセスする情報量も年齢に比例して膨大になる。
子供の頃、暗くなっても近所の山で遊んでいた。ある時は、大きな穴をひたすら掘り続け、どれだけの深さを掘れるかを楽しんだ。穴を掘り続けていた期間は、建設現場を観察して、どうやったら楽に効率的に穴を掘れるか観察する。そしてそこで考えたアイデアを試してみるのだ。
意味もなく遊び、没頭する中で、自然の原理を理解して、それらを調べ、先人が様々な方法で体系化している概念があることを知る。そして、それらを活用して役に立つことも、全く役に立たないことも知る。そうやって、興味を持って、実際に行動をしながら知識を知恵に変換する。昔は遊ぶものが無かったので、必死になって考えたのかもしれない。
若者やZ世代がかわいそうなのは、満たされていると勘違いしていることにあるかも知れない。全ては2次情報で得ることはできない。行動すると世界が広がり。視点が変わる。格差社会と他人のせいにせず、自分で問いを立て楽しみながら答えを探す。それが出来ればどの世界でも重宝される人材になれると思う。
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2023年7月 のアーカイブ
新規事業の旅56 情報の民主化と経済格差
新規事業の旅55 PBR1割れを考える
早嶋です。
PBR1倍割とはどのような意味なのか。日本企業で上場している企業は、今後、どのようなことを行えば良いのだろうか。そして市場の株高は今後も継続するのだろうか。
上場企業がPBR1倍割れの状態は、端的に言えば、「今すぐ会社を畳んで、手持ちの資産を全部売却して、お金に換えたほうが良い」と判断される状況だ。しかし上場する企業約3,300社の内、実に約1,800社がPBR1倍を割っているのが今の日本だ。東京証券取引所がPBRの低迷する上場企業に対して改善策を開示実行するようにする要請は、経営者に対して当たり前の行動を促すことになる。それは王道である利益率の改善とキャッシュを生み出す事業に投資しキャッシュを生み出すことなのだ。
国内株式市場がバブル崩壊後33年ぶりに高値をつけている。背景の1つにPBR(株価純資産倍率)の指標改善を目指す企業や東京証券取引所の試みに関する記事が多い。ざっくり言うと、従来の日本企業は、財務の安全性に注力しており、利益を出す体質を作り出せずにいた。
(PBR)
PBRは、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)で、企業が保有する資産の価値と現在の株価を比較した指標だ。PBRが高いと資産を有効活用していることがわかる。これは買い手から考えると割高で、逆にPBRが低いと資産の活用をしていないと判断でき、買い手からみると割安に見えるのだ。
多くの投資家は様々な株価指標を分析し、株式の売買を繰り返し、利ザヤを稼ぐ。もちろん長期的にその企業を信頼してリターンを得る発想もあるが、PBRが1を割る時点で長期的な可能性は薄いと判断される。
PBRの指標は1倍が下限だ。当然、地銀などのように構造的に成長が期待しにくい業種でPBRが1倍を常に割続ける業界もある。但し、本来この手の事業モデルの企業は上場がそもそも向いていない業種ともいえる。
PBRを算数で表すと、以下のようになる。
PBR = 株価 / 1株純資産 = 時価総額 / 純資産
PBRは1倍だから、10倍だから良いという指標ではない。しかし上場企業であれば1よりも低いというのは致命的なのだ。
PBR1倍割れの理由は、数式から考えて2つの理由が考えられる。株価が低い場合か、純資産が多い場合だ。株価は、将来稼ぎ出すキャッシュフローの現在価値の合計で計算することができる。そのため株価が低い企業は長期的にキャッシュフローを生み出す力が弱い、つまり利益を出せていないと解釈できる。
一方、純資産が多い企業は、財務の安全面では安心材料となる。リーマンショックや一連のコロナなど、世の中の状況が不安定な場合でも企業は体力が担保され持続できる余地があるからだ。しかし上場企業の真骨頂は過去の資産で長く食つなぐことではなく、その資産を将来に投資して更に高いリターンを継続的に上げ続ける行動にある。
ここまで読むとPBR1倍割れの企業は、純資産の規模の割に利益を出せていない企業ということが分かる。資産が厚くても、それに準じた利益を出せばPBRは1を超えるからだ。企業目線ではPBRが1を割ることは何ら悪くない。しかし投資家目線で見た場合は異なる。投資した企業が、投資した金額に見合わず、利益は低い状態が続いているのだ。当然、投資家からすると、「資金の使い道が無いのであれば、株価に還元しなさい。」となる。ここにキャッシュを眠らせておくよりも他の発展する可能性がある企業に再投資した方がよりキャッシュを得ることができると考えるからだ。そのため上場企業がPBR1割れの状態は、今すぐ会社を畳んで、手持ちの資産を全部売却して、お金に換えたほうが良いと判断されるのだ。
(PBR1を割る企業)
2023年6月19日時点で石油元売りのコスモエネルギーホールディングス(以下、コスモ)のPBRは0.55倍だ。旧村上ファンド系の投資会社は、同社に対して「10年後、20年後のコスモのあるべき姿、石油業界のあるべき姿をきっちり議論できる社外取締役を入れるべきだ」として社外取締役選任議案を提出しているがコスモは反対している。しかし、この議論は至ってシンプルで企業そのものが解散価値に等しいから経営能力にクエスチョンマークを示しているのだ。
直近のIRを確認すると、売上2.8兆円に対して以下の実績だ。
・営業利益1,600億円
・純利益680億円
・純資産6,600億円
・時価総額3,700億円
純資産6,600億円に対して時価総額が3,700億円でPBRは0.6倍を下回る。株主目線からすると会社を畳んで現金化した方が株主は大幅に得するという主張だ。村上氏はここをついて提案をしているにほかならない。
大日本印刷は2023年4月10日に「PBR1倍超を経営目標に掲げ、成長分野への投資を積極化させる」と報道があったのは記憶に新しい。従来から万年割安株とある意味ディスられている。しかし、これは衝撃でもあった。上場企業の目標としてPBR1割は有り得なく、1倍を超えることは当たり前なのだ。むしろ純資産が多いことよりも、将来の利益が望まれずに株価が下がっているのだ。市場からは全く期待されていないことになる。
仮に、経営陣がP/L(損益計算書)しか注視していないのであれば、PBRの分母である活用していない資産を理解していないことになる。企業として不安定な状況を見据え資産を蓄えることは大切だ。しかし長期的にキャッシュを生む兆しがないのであれば外部投資家を締め出し頼らない資本政策を進めればよいのだ。これは良い、悪いの話ではなく意思決定の話で、上場廃止すればよいのだ。上場はゴールや目的ではない。単なる資本政策の一手であり、資金調達のための選択肢に過ぎない。
(王道は利益率と利益)
企業の純資産は、端的に言えば現在の清算価値に相当する。仮にこの瞬間に事業をとじた場合、いくらキャッシュが残るかを示す金額だ。株主目線では、企業が事業を畳んだ場合に、どの程度の純資産相当を受け取る権利があるかを把握することができる。
仮に純資産が10億あるのに、時価総額が5億であれば、今すぐ事業を清算すると株主は10億受け取ることが可能だ。PBR1割れで、例えば0.5というのは、その株式の価値がバーゲンセールの50%という状況なのだ。
日本経済は長期の低迷を続け、上場企業約3,300社の内、23年3月末でPBR1割の企業は約1,800社と半数以上が上場している企業として落第点なのだ。三菱UFJフィナンシャル・グループ、日産自動車、ホンダなどの有名企業もPBR1倍から遠い。欧米では上場会社の10%から20%はPBR1割だが、日本史上の半数以上は明らかに高すぎる数値と言える。
総じて東京証券取引所がPBR低迷企業に対して改善策を開示実行するようにした要請はプラスに働くと思う。従来の姿勢から日本の上場企業が利益をより意識した経営に傾くからだ。実際、最近の海外投資家の目線も日本株に動き、株高につながっている側面も観察できる。
但し、本来は利益率と利益額そのものを増やさなければ意味がない。多くの伝統的な上場有名企業は、手っ取り早く自社株買いを行い小手先のテクニックでその場をしのぐ行動を観察できる。しかし自社株買いは1度終われば効果は無く、本質的にPBR倍率を高めるためには株価を上げるしかない。そのための王道はキャッシュをより効率的に叩き出すことだ。
既存の事業で得た利益を、成長分野に投資し、収益力を高める。既存の事業やDX等の研究と実現をすすめ圧倒的に生産性を高め利益率を改善する。従来のようにキャッシュを貯め込む経営は見捨てられることになる。PBR1倍は当然であり、2倍、3倍と目指すことが求められ、できなければ上場を辞めるべきなのだ。
参考資料
・2023年3月期決算短信 コスモエネルギーホールディングス株式会社
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新規事業の旅54 サーキュラーエコノミー
早嶋です。
(循環型経済)
サーキュラエコノミー。日本語では循環型経済、ご存知だろうか。昨今の資源不足、環境リスクが高まるなか、持続可能な経済成長を目指し社会問題の解決を図る動きが加速している。そのような中、経済社会は、大量生産、大量消費、大量破棄を前提とした直線型経済(リニアエコノミー)からリサイクルを活用し、廃棄までの寿命を短くするリサイクル経済を経て、資源の効率的・循環的な利用により廃棄物ゼロを目指す循環型経済にシフトしている。
循環型経済の原則は、「廃棄物や汚染を生み出さない設計を行う」こと、「製品や原材料を使い続ける」こと。そして「自然のシステムを再生する」ことの3つだ。廃棄ゼロを目指すため、製造の超上流工程にもメスが入る動きが従来と全く異なる。ここからも西欧諸国の本気度合いが分かると思う。
(背景)
経済産業省の各資料から「資源制約・リスク」には次の主たるファクトがある。
1.世界人口は22年に約80億人で50年に向けて97億人に
2.世界の資源採掘量は15年の約880億トンが50年1,830億トンに
3.地政学問題による調達リスクが増大
4.上記関連の児童労働は5歳から17歳で20年時点で約1.6億人
同様に、「環境制約・リスク」には次の通りだ。
1.11年から20年で1.09度の地球温暖化が進む
2.世界の廃棄量は20年に141.2億トンで50年に320.4億トンに
3.海洋プラスチックは50年に生息する魚の量を超える推計がある
4.脊髄動物の個体群が地球全体で1970年から2018年の間に平均69%減少
一方、個人や地域、国家は成長機会を探り、コロナ後の成長産業の模索や技術革新の活用によるビジネスモデルを活用した機会を探っている。環境省の各資料では持続可能な経済成長の取組は欧州が先行し、同時に環境ビジネスにおいて国際競争力の獲得を目指していることがわかる。
欧州では、10年に成長戦略「Europe2020」で資源効率性向上のためのロードマップを作成。15年にサーキュラ・エコノミーパッケージで廃棄物の65%をリサイクルする、関連雇用を200万人うむ、6000億ユーロの経済価値を目標に掲げた。18年にプラスチック戦略で30年に使い捨てプラスチックを廃止とする。20年にサーキュラエコノミー行動計画で廃棄物のでない製品設計を目指している。
これに対して国連は15年にSDGsで持続可能な開発目標を発表。20年に海洋プラスチックごみ対策実施枠具に合意している。日本では1990年から2000年代に容器包装や家電などのリサイクル法を施行。19年にプラスチック資源循環戦略を発表。21年に循環経済への移行を投資家が評価する指針を経済・環境省で発表した。中国では17年に環境発展引領行動で資源生産性を対15年比で15%向上させ、資源リサイクル産業を3兆元(約60兆円)などの目標設定をしている。米国は21年に国家リサイクル戦略で30年までに固形廃棄物のリサイクル率を50%に高める。
上記の背景の中、アクセンチュアなどの資料では、30年の循環型経済の市場規模は4.5兆ドル(約500兆円)と見込まれ、関連するベンチャーやスタートアップ投資の伸長を予測している。
(欧州の事例)
循環型経済の先進事例は欧州に多数あり、地域ごとに推進しているのが特徴だ。
グラスゴー(スコットランド)では、企業の循環経済戦略によるサーキュラー指定の実現を目指す。都市のマテリアル・フローを可視化する取組をすすめている。
アムステルダム(オランダ)では、50年に100%循環経済への移行を目指す。市と先進メトロポリタン研究所が推進し、土地開発における循環基準を策定、公共調達の要件を見直している。
ブリュッセル(ベルギー)では、資源効率を高める経済の刺激策と起業家精神の向上により雇用創出を目指す。15にも及ぶ政府部門と60の産学官連携機関が都市の代謝に関する調査を実施、食品廃棄物や小売業等のワークショップを頻繁に開催している。
オスロ(ノルウェー)では、30年までにCO2排出量を対90年比で95%削減する。ゼロエミッションの公共交通ネットワークを構築し、EV普及、公共バスの30%に代替燃料を使用、市内中心部の700箇所の駐車場を廃止している。
ストックホルム(スウェーデン)は、01年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約を採択、16にも及ぶ分野で環境目標を設定。食品廃棄物の義務化を行い、市内バスはバイオ燃料を使用する。
欧州ではマテリアル・フローの分析が進み、上流から下流にかけて、どの業界からどの程度廃棄物が排出されるかを可視化する。これによりボトルネックとなる費用対効果が高い取り組みに優先順位をつける準備ができている。
小さな事業として、食品廃棄物を中心とした食品レストランの展開、消費者が部品を交換して利用ができるスマフォメーカーの台頭などもある。更に、ブロックチェーンとAIを活用した廃棄物コンサルを行う企業もいる。
オランダの大手金融機関のAMROは施設建設を行う際、使用後の解体を前提とした工法を取り入れている。廃棄する将来を考え、バックキャストの手法で設計レベルに影響を与えたのだ。
商品購入後は廃棄等の動きが把握できなくなることから、サブスクの仕組みを使った月額利用の事業モデルが急速に普及している。スウェーデンの家電メーカーのエレクトロラックスはサブスクを普及させることで部品の交換、修理、使用後の破棄から部品の回収とリサイクルまでをメーカー主導で実現させている。オランダの電機メーカーフィリップスは、法人向けの照明でLEDライトを無償交換し、10年間のメンテナンス契約を結ぶことで、削減した電気量を按分する事業を展開している。
大量生産、大量廃棄が問題視されるアパレル産業も動きが加速する。ZARA(スペイン)は自社商品の補修サービスを開始し、店頭で不要な衣服を回収している。H&M(スウェーデン)は修理用の当て布やワッペンを販売し25年までに全ての包装とパッケージをリユース、リサイクル、または堆肥可能な素材に変更する。
アディダス(ドイツ)は21年に発表した100%再生可能なランニングシューズで熱可塑性ポリウレタン(単一樹脂)を材料に全パーツを作成。使用済の靴を回収、洗浄、分解、粉砕、溶解することで再樹脂化でき、再び商品の原料として利用する。
イケア(スウェーデン)は、製品を使い捨てる発想から寿命延長させる取組を行う。一人暮らしで使用した棚を、家族が増えたら追加購入する。組み合わせて使用できる設計で、ライフスタイルに合わせて家具を調整することで長期間使用する思想を取り入れたのだ。
今後、所有から利用にフォーカスした事業が加速し、稼働しない商品をシェアし、無駄に購買させない取り組みも普及する。製品はファッションから廃棄を無くす機能にフォーカスされ、超上流工程の現在料調達や製造、そして超下流工程の使用後の廃棄、回収までを俯瞰したフローが重視される。これが出来ていない企業は、将来的に課税や何らかの制裁を与えて、先行している欧州企業が優位に立てる状況を確立するのだ。
参考:2023年6月向研会定例勉強会サーキュラ・エコノミー
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新規事業の旅53 新規事業のベストミックス
早嶋です。
新規事業をM&Aで始める取組は上手く行きにくい。
M&Aは売り手に取っては、成長が望めないことを理解して出口の一つとして売却する。そのため、買い手が新規事業目的で買収しても、成長は考えにくい。ましてや、買い手はその分野のノウハウも無いため、かろうじて維持するのが関の山だ。
買い手がM&Aで成功するパターンは、同業者の買収だ。成長フェーズの場合は、買い手のシェアや資源を獲得でき、成熟期や衰退期の場合は、規模の経済で効率を上げることができる。仮に買収価格が高い場合は、同業の事業なので買い手はシナジーを予測が出いれば買いだ。売り手の事業が赤字であっても、事前のDDでシナジーによって収益が改善する場合はなおさらかいだ。1円譲渡+負債の引き継ぎ等で手出し無く事業の規模が大きくなる。
買い手が新規事業を買収する場合は、最近だとIT関連、バイオ関連、自動制御関連、環境関連だろう。でも少し考えると分かる通り、そのような成長市場の事業を売り手がそもそも売却するだろうか。基本否だ。そのため、買収することが出来ないか、出来たとしても超高値になるだろう。また、仮に買収出来たとしても、買い手でマネジメントするノウハウが無いだろうから、その事業に資本を入れた瞬間が株価が最高値で、それから価値が下がる可能性が大いに考えられる。
もし、それでも新規をM&Aで行いたいのであれば、マイノリティ出資や提携から始めるのが良い。買い手に取ってノウハウが無くても、買い手は営業力があったり、既存の顧客に提案してテストマーケティングができるなど、資本提携先に対してもメリットがでる場合がある。そもそもイケイケのベンチャーは常に資金難に苦しむ。そのためプロダクトを作り込むことに多くの資金と時間と人材を費やすため、総じてマーケティングや営業が弱い。また、その後のカスタマーサクセスなどに資源を費やすことも無いだろう。
そこに対して、出資とともにマイノリティの株式を引き受け、同時にその営業やフォローの面で協力関係を結ぶのだ。資本が大きく、規模が大きい買い手は、ゼロイチは苦手でも、すでにある事業を成長させることはこれまでも行っているので得意分野だ。また、組織のガバナンスや顧客の管理などベンチャーが苦手とする分野も保管できる場合が多い。
このようにM&Aは一つの選択肢で、ゼロイチ、提携、出資、M&Aを総合的に捉えて新規事業を実現することが現実的な解になる。
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新たな ダイバーシティ&インクルージョン
安藤(公認心理師)です。
今回は、「新たな ダイバーシティ&インクルージョン」です。
昨今、『Diversity,& Inclusion』から、『Diversity, Equity & Inclusion社会の実現に向けて』 という言葉に変化してきています。“Equity” が加わりました。要は、『多様な違い“Diversity”を、互いに理解しあい“Inclusion”、公正に扱われる“Equity” ことにより、誰もが等しく機会を得て活躍・推進できる社会を創る。』ということです。
背景には、①VUCAの時代を乗り越えるためには、多様な人(価値観・発想・視点)により、イノベーションを起こすこと、あるいはリスクに対応することで、企業の持続性を担保するため、②Diversity&Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン)が、企業に根付き、制度が整うのに10年は必要であり、世界の変化を考えると長期的な視点で取り組まなくてはいけないこと。③Diversity&Inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン)に取り組まないことは、企業にとって、マイナスにつながること。がとりあげられています。
ダイバーシティの必要性 としては、時代の大きな流れとともに、人材と働き方 の多様性を推進することは、企業にとって欠かせないものになってきています。東京商工会議所では、中小企業 にとっての多様性の必要性について、企業における人材活用の現状等を交えながら、①グローバル化、②労働力人口の減少、③個人の 価値観の多様化、という3つのキーワードを示しています。
また、ダイバーシティ&インクルージョン推進に関する企業・経済界の取組は、進行中であり、経済界として初めて、ダイバーシティ・インクルージョン社会を実現するうえで、重要なファクターの一つであるLGBT(性的マイノリティ)に焦点を当て、適切な理解・知識の共有と、その認識・受容に向けた取り組みを推進すべく提言しました。
経団連では、①女性の活躍推進 ②若者・高齢者の活躍推進 ③働き方改革 ④高度外国人材の受け入れ促進 ⑤バリアフリー社会の実現を掲げています。
しかし、ジェンダーギャップ指数2023の数値を見ると、順位は更に下落しています。
世界経済フォーラム(WEF)は6月21日、「ジェンダーギャップ指数2023」を発表しました。全体で146カ国中125位と、2022年よりもさらに悪化し、経済で123位、政治で138位と引き続き低い状態が続いています。前回のスコアが0.650に対して、今回のスコアは0.647とスコアはほぼ横ばい。にもかかわらず順位が改悪したということは、世界の動きに対して、日本の改善が遅々として進まぬ状況を如実に表しているといえます。もっと言えば、2006年の開始当初の日本スコアが0.645で115カ国中80位だったことを考えると、日本はこの20年近くの間、ダイバーシティ―ついてはほぼ何も進まなかったともいわれています。
これから、DE&I=Diversity, Equity & Inclusionを促進していくためには、多様な人の自立支援制度(法定雇用率に関わる制度の柔軟な運用/外国人の獲得定着を促す制度の拡充など)や環境整備は必須ですが、他、マイノリティが合わせるのではなく、マジョリティから意識改革と行動変容が必要であること、 人々の価値観の変化や多様な生き方(暮らし方、働き方)に合わせワーク・イン・ライフへシフト(社会:多様な人のコミュニティへの受入れ、個人:多様な生き方へマインドセットと行動を変容)が基本となることがあげられています。
そのためには、働き方改革と共に、生き方の多様化に対応した取り組み推進(リモートワークなどの導入・拡充)長期的視点に立ち、DE&I=Diversity, Equity & Inclusion(の意識、文化の浸透に向けた取り組み推進が求められています。具体的には、“相互理解から相互成長へとつながる場づくり” などがあります。まずは、各自 “アンコンシャスバイアス” に気づくことからスタートし、一緒に働くプログラムの構築していくことからスタートしてみることをお勧めいたします。
部下・後輩が自ら働きたくなるサーバントリーダーシップの姿勢
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今回のテーマは「部下・後輩が自ら働きたくなるサーバントリーダーシップの姿勢」です。前回サーバントリーダーシップについて、その成り立ちや特徴をご紹介しました。今回はサーバントリーダーシップ的な部下・後輩の指導方法についてお伝えします。
最初にサーバントリーダーシップのおさらいです。サーバントリーダーシップとは「奉仕型」のリーダーシップのことで、支援や動機づけ、権限委譲、働く環境を整えることで一緒に成果を出すリーダーシップのあり方です。つまりリーダーはメンバーのサポートに徹します。
リーダーシップと言うとチーム全体をまとめて率いていくイメージですが、育成や指導においてはその基本単位はあくまでも一対一の関係性です。サーバントリーダーシップにおいても、部下・後輩の育成は、それぞれの個性や特徴に合わせた育成方針や指導方法が大切です。
例えば、飲み込みの早い部下もいれば、じっくり考えて納得しないと行動に移せない部下もいます。一律に「早くやれ!」と指示しても、行動できる部下もいれば、できない部下もいるわけです。どちらにも特徴があり、どちらが良い悪いというわけではないでしょう。大切なことは、その部下の特性を知って、それに合わせた指導や育成方針をとることです。そのようなやり方なら部下は安心して、自ら率先して業務に取り組むことができるようになります。
また最近の新入社員や若手社員に見られる傾向ですが、価値観が多様化し、ひとつの価値観に偏った指導や育成は難しいということです。例えば、上司が自分の考え方に固執することやこれまでのやり方、過去の成功体験へのこだわりは、今の時代に合わなかったり若手社員には理解されないことが多いです。
会社が「お客様第一主義」を掲げていても、個人的には「自己の成長」に主眼を置いている人もいれば、売上や利益など「数字」にこだわる人もいるでしょう。会社としての基本方針に従うのは当然としても、各個人の価値観や目標も加味した育成方針や指導方法をとることが、サーバントリーダーシップのポイントです。そうすることで部下・後輩が自ら働きたくなるはずです。
さらに、普段からのコミュニケーションも重要です。特別なことではなく、毎日のあいさつやちょっとした雑談、立ち話、休憩時間などのコミュニケーションで人間関係を構築することは可能です。また定期的な面談、1on1ミーティングも有効です。また日報を使っていらっしゃる会社は充実したいですね。ただの業務報告ではもったいないので、交換日記として会社の方針や個人の考え方、抱えている課題など共有したいところです。
以上のように、部下・後輩の個別の特徴や強みをとらえた上で、それぞれの能力を伸ばす育成方針や指導方法を取り、成長をサポートするサーバントリーダーシップを取り入れてみられてはいかがでしょう。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
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