早嶋です。
PBR1倍割とはどのような意味なのか。日本企業で上場している企業は、今後、どのようなことを行えば良いのだろうか。そして市場の株高は今後も継続するのだろうか。
上場企業がPBR1倍割れの状態は、端的に言えば、「今すぐ会社を畳んで、手持ちの資産を全部売却して、お金に換えたほうが良い」と判断される状況だ。しかし上場する企業約3,300社の内、実に約1,800社がPBR1倍を割っているのが今の日本だ。東京証券取引所がPBRの低迷する上場企業に対して改善策を開示実行するようにする要請は、経営者に対して当たり前の行動を促すことになる。それは王道である利益率の改善とキャッシュを生み出す事業に投資しキャッシュを生み出すことなのだ。
国内株式市場がバブル崩壊後33年ぶりに高値をつけている。背景の1つにPBR(株価純資産倍率)の指標改善を目指す企業や東京証券取引所の試みに関する記事が多い。ざっくり言うと、従来の日本企業は、財務の安全性に注力しており、利益を出す体質を作り出せずにいた。
(PBR)
PBRは、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)で、企業が保有する資産の価値と現在の株価を比較した指標だ。PBRが高いと資産を有効活用していることがわかる。これは買い手から考えると割高で、逆にPBRが低いと資産の活用をしていないと判断でき、買い手からみると割安に見えるのだ。
多くの投資家は様々な株価指標を分析し、株式の売買を繰り返し、利ザヤを稼ぐ。もちろん長期的にその企業を信頼してリターンを得る発想もあるが、PBRが1を割る時点で長期的な可能性は薄いと判断される。
PBRの指標は1倍が下限だ。当然、地銀などのように構造的に成長が期待しにくい業種でPBRが1倍を常に割続ける業界もある。但し、本来この手の事業モデルの企業は上場がそもそも向いていない業種ともいえる。
PBRを算数で表すと、以下のようになる。
PBR = 株価 / 1株純資産 = 時価総額 / 純資産
PBRは1倍だから、10倍だから良いという指標ではない。しかし上場企業であれば1よりも低いというのは致命的なのだ。
PBR1倍割れの理由は、数式から考えて2つの理由が考えられる。株価が低い場合か、純資産が多い場合だ。株価は、将来稼ぎ出すキャッシュフローの現在価値の合計で計算することができる。そのため株価が低い企業は長期的にキャッシュフローを生み出す力が弱い、つまり利益を出せていないと解釈できる。
一方、純資産が多い企業は、財務の安全面では安心材料となる。リーマンショックや一連のコロナなど、世の中の状況が不安定な場合でも企業は体力が担保され持続できる余地があるからだ。しかし上場企業の真骨頂は過去の資産で長く食つなぐことではなく、その資産を将来に投資して更に高いリターンを継続的に上げ続ける行動にある。
ここまで読むとPBR1倍割れの企業は、純資産の規模の割に利益を出せていない企業ということが分かる。資産が厚くても、それに準じた利益を出せばPBRは1を超えるからだ。企業目線ではPBRが1を割ることは何ら悪くない。しかし投資家目線で見た場合は異なる。投資した企業が、投資した金額に見合わず、利益は低い状態が続いているのだ。当然、投資家からすると、「資金の使い道が無いのであれば、株価に還元しなさい。」となる。ここにキャッシュを眠らせておくよりも他の発展する可能性がある企業に再投資した方がよりキャッシュを得ることができると考えるからだ。そのため上場企業がPBR1割れの状態は、今すぐ会社を畳んで、手持ちの資産を全部売却して、お金に換えたほうが良いと判断されるのだ。
(PBR1を割る企業)
2023年6月19日時点で石油元売りのコスモエネルギーホールディングス(以下、コスモ)のPBRは0.55倍だ。旧村上ファンド系の投資会社は、同社に対して「10年後、20年後のコスモのあるべき姿、石油業界のあるべき姿をきっちり議論できる社外取締役を入れるべきだ」として社外取締役選任議案を提出しているがコスモは反対している。しかし、この議論は至ってシンプルで企業そのものが解散価値に等しいから経営能力にクエスチョンマークを示しているのだ。
直近のIRを確認すると、売上2.8兆円に対して以下の実績だ。
・営業利益1,600億円
・純利益680億円
・純資産6,600億円
・時価総額3,700億円
純資産6,600億円に対して時価総額が3,700億円でPBRは0.6倍を下回る。株主目線からすると会社を畳んで現金化した方が株主は大幅に得するという主張だ。村上氏はここをついて提案をしているにほかならない。
大日本印刷は2023年4月10日に「PBR1倍超を経営目標に掲げ、成長分野への投資を積極化させる」と報道があったのは記憶に新しい。従来から万年割安株とある意味ディスられている。しかし、これは衝撃でもあった。上場企業の目標としてPBR1割は有り得なく、1倍を超えることは当たり前なのだ。むしろ純資産が多いことよりも、将来の利益が望まれずに株価が下がっているのだ。市場からは全く期待されていないことになる。
仮に、経営陣がP/L(損益計算書)しか注視していないのであれば、PBRの分母である活用していない資産を理解していないことになる。企業として不安定な状況を見据え資産を蓄えることは大切だ。しかし長期的にキャッシュを生む兆しがないのであれば外部投資家を締め出し頼らない資本政策を進めればよいのだ。これは良い、悪いの話ではなく意思決定の話で、上場廃止すればよいのだ。上場はゴールや目的ではない。単なる資本政策の一手であり、資金調達のための選択肢に過ぎない。
(王道は利益率と利益)
企業の純資産は、端的に言えば現在の清算価値に相当する。仮にこの瞬間に事業をとじた場合、いくらキャッシュが残るかを示す金額だ。株主目線では、企業が事業を畳んだ場合に、どの程度の純資産相当を受け取る権利があるかを把握することができる。
仮に純資産が10億あるのに、時価総額が5億であれば、今すぐ事業を清算すると株主は10億受け取ることが可能だ。PBR1割れで、例えば0.5というのは、その株式の価値がバーゲンセールの50%という状況なのだ。
日本経済は長期の低迷を続け、上場企業約3,300社の内、23年3月末でPBR1割の企業は約1,800社と半数以上が上場している企業として落第点なのだ。三菱UFJフィナンシャル・グループ、日産自動車、ホンダなどの有名企業もPBR1倍から遠い。欧米では上場会社の10%から20%はPBR1割だが、日本史上の半数以上は明らかに高すぎる数値と言える。
総じて東京証券取引所がPBR低迷企業に対して改善策を開示実行するようにした要請はプラスに働くと思う。従来の姿勢から日本の上場企業が利益をより意識した経営に傾くからだ。実際、最近の海外投資家の目線も日本株に動き、株高につながっている側面も観察できる。
但し、本来は利益率と利益額そのものを増やさなければ意味がない。多くの伝統的な上場有名企業は、手っ取り早く自社株買いを行い小手先のテクニックでその場をしのぐ行動を観察できる。しかし自社株買いは1度終われば効果は無く、本質的にPBR倍率を高めるためには株価を上げるしかない。そのための王道はキャッシュをより効率的に叩き出すことだ。
既存の事業で得た利益を、成長分野に投資し、収益力を高める。既存の事業やDX等の研究と実現をすすめ圧倒的に生産性を高め利益率を改善する。従来のようにキャッシュを貯め込む経営は見捨てられることになる。PBR1倍は当然であり、2倍、3倍と目指すことが求められ、できなければ上場を辞めるべきなのだ。
参考資料
・2023年3月期決算短信 コスモエネルギーホールディングス株式会社
(過去の記事)
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新規事業の旅55 PBR1割れを考える
2023年7月14日 金曜日
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