早嶋です。
鉄鋼大手にとっても非常に厳しい1年になると思います。7年ぶりにベアゼロの春季交渉という記事が日経にありました。
ーー2020年3月9日 日本経済新聞
日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の鉄鋼大手3社は、2020年の春季労使交渉でベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を見送ることを決めた。ベアゼロは7年ぶりとなり、20年度、21年度とも見送る。
ーーー
記事には世界の景気停滞の影響が示されていました。自動車などを中心に鉄鋼需要が低迷しているのです。特に生産国の中国は一連の貿易摩擦から今のコロナの影響で経済が著しく冷え込んでいます。
先日のニュースで日本製鐵の2020年3月期が最終赤字4,400億の赤字見通し。というのがありました。そこで呉製鉄所を閉鎖するという内容です。業界全体に同じように景気の波が押し寄せ、JFEスチールや神戸製鋼も同様に業績は悪化しています。
業界団体のサイト等をみると、鉄鋼メーカーの組合印は高炉大手だけでも約5万人いて、鉄鋼、造船、重工業などの基幹労働組合全部を入れると約20万人以上で自動車や情報通信産業などについて多い業界です。
では、なぜ鉄鋼業界にここ1年が非常に厳しくなるかです。日本の粗鋼生産は約1億トン/年で、インドが1.1億トン/年。そして中国は約10億トン/年の生産です。日本は主要な鉄鋼メーカーは数社ですが、中国の場合は100社くらいあり、去年から続く米中貿易摩擦に続いてコロナの影響で生産した粗鋼がダボついている状況です。
この状況が続くと考えられる状況は、中国以外に対して粗鋼を投げ売りすることです。現在、1トンあたりの鋼材は1トンあたり8.5万円前後で、中国の鋼材は7万円前後です。仮に、中国の粗鋼が中国外の市場に出回れば、ただでさえ鉄が余っている状態でこの景気後退局面ですから鉄の生産が不要になります。
仮に中国の経済が3割り程度ダウンしたとすると、必要な鉄が比例して3割あまると仮定すると3億トンもの鉄が余ってしまうのです。この鉄の量は日本の年間の生産量の3倍ですから、目も当てられない状態が来るかも知れません。
ベアゼロは直近の日本経済のことだけではなく中国の鉄の需要も加味した数字だと思います。少し、ここ1年が不安です。
参照:World Steel Association
2020年3月 のアーカイブ
日本の鉄鋼業界
グランドセイコー③
早嶋です。
グランドセイコーはターゲットをミレニアル世代に一部フォーカスしているようです。ブランドの先入観がなくグランドセイコーに対しては機能を語りたくなるそうです。ロレックスはオヤジ時計。そんなスイス時計とは違う顧客層を狙うと中村社長は何かの記事でコメントしていました。
まぁ、実際は従来のスイス時計、高級時計の層に対して直球でアプローチしてもまだかなわないということを素直に認めているのでしょうね。そこで若者や女性や従来の高級時計を身にまとわない顧客セグメントにフォーカスをする。というのは上手な言い方だと思います。
ただグランドセイコーのブランドイメージを急に広げている印象を受けて、やっぱり昔のセイコーがブランドを作っているんだろうな。とちょっぴり残念な気持ちになる部分も否めません。スポーツモデルも、レディースも。メジャーリーガを起用してアピールする。どこに芯をもっているのかなーと思う場面も多々あります。が、それを含めてグランドセイコーが世界に勝負をしているところは嬉しいですよね。
グランドセイコーのブランドコントロールの中で特に残念だと思う点は利益率を向上させるために部品を共有化する。と宣言している点です。1万円の時計を売っている人たちの発言で100万円とか1,000万円の時計を売る人は言っちゃいけない発言だと思います。一方で、職人が秘境でじっくり手間暇かけて組み上げている作品が他方ではコストカット。まだまだセイコーの冠が抜けていないですよね。
海外の高級時計の多くは独立系ではなく高級ブランドを牛耳るコングロマリットの傘下です。従って、それぞれの時計の部門がどのくらい売り上げて、どのくらい利益を出しているのかを知ることができません。業界の人からすると時計とその作り方や中身や本数を見ればお財布どころは分かりますが、それを出さない品の良さを知ってほしいと思います。半導体向けにコストカットしている部隊の隊長が高級時計の管理をすることはよろしいことでしょうが、その取組を広報するとは、”やばい”でしょう。
ともあれ私はグランドセイコーは大好きですし、今後も日本を代表するブランドになってほしいと思います。ただ、技術はグランドセイコー、宝飾はクレドールとした場合、機能の追求だけで2,000万円だったら良かったのかな?と思いました。ダイアやサファイアは綺麗だけど、そっちの方向性はクレドールかなと。
グランドセイコー②
早嶋です。
3年前グランドセイコーはブランド革命をはじめます。セイコーの時計ブランドはチープカシオのようなセイコー5。GPS時計に代表されるアストロン。ダイバーズモデルのプロスペック。他にもルキアやブライツやプレサージュなど非常に沢山ポートフォリオを持っていました。ここにグランドセイコーも含まれましたが、それを切り分けたのが3年前です。
当初は、販売網や広告を一緒にしていたと思いますが、徐々にその整理が結果を出しています。これまでは直営に加え、いろんな卸にグランドセイコーを提供していたようですが、ようやく流通の制限も管理できるようになっています。加えて米国とフランスに現地法人も作っています。ブランドコミュニケーションもセイコーとは切り分け、グランドセイコー独自のWebサイトを立ち上げ、ロゴにもSEIKOの文字を外すなど一通りのセオリーを踏襲しています。
プライシングについても明確です。従来は20万円前後のエントリーモデルもありましたが、価格帯を50万円前後をエントリーモデルにするなど引き上げています。更に言えば、グランドセイコーを体現するスプリングドライブやザラツ研磨の技術ももっと使用範囲を狭めて他のセイコーとの違いを出せば良いとも思いますが、難しいところでしょうね。
興味深いのはクオーツ式を出して低価格化を招いたセイコーが世界の機械式時計の体力を弱らせた。しかし、そのメーカーの復活によって、セイコーは逆に体力を失う。そして再度、機械式に手を出してスイスを凌駕しようとしているセイコーがいるということです。そして価格に対しては安くしない。という徹底ぶり。素敵ですよね。
時間を見るための道具としての時計はもはや不要です。皆スマフォを持っているし、時計型のコンピューター、いわゆるスマートウオッチはバイタルの管理や気圧や天候の把握まで出来てしまう天才です。そこに時間を見るためだけに100万円以上の価値を出すこと自体狂っていると思う人もいるでしょう。
しかし私は思うのです。今何時だろうな。という時間は古代から人が制したいと思っていても、なかなか出来ず、正確に刻むことは出来ても早めたり、遅くしたりすることは出来ない概念なのです。その時間は今後も人が追求してもなかなか解明できないし、その時間を止めることも出来ない。
1,000円のチープカシオでも時間は分かります。スマフォを見れば超正確な時間を知ることができます。でも、自分がずっと使っていた愛着のある機械がある程度正確な時間を教えてくれる。そしてその時計は100年も200年も前から時間を刻み続けている。ひょっとして、それは自分の父親が同じように使っていたかも知れない。時間をコントロールすることは出来ないけれど、世代を超えても同じ機械が同じリズムで歯車を回して時間を告げてくれる。そんな感覚は半導体からは来ないでしょうね。それが時計の世界なのです。
皆が2000万円の時計を買うことは無いでしょうし、物理的に難しいです。自分がいいなと思った時計。できれば壊れても修理ができる。半導体の交換という概念ではなく物理的な部品の交換で100年も200年後も一定の技能を持っている人だったら動かすことができるアナログの技術。使い捨てが当たり前になっている今、同じものを大切に世代を超えて使い続けるという物語は年齢を問わず受け入れられると思います。
グランドセイコー①
早嶋です。
ーー2020年3月5日 日本経済新聞 抜粋
セイコーホールディングス(HD)は6月、主力の高級腕時計ブランドの「グランドセイコー(GS)」から過去最高額となる2千万円(税別)のモデルを発売する。これまでの最高価格(800万円)の2.5倍だ。3年前からブランドの再構築に取り組み、既存のブランドの価値観にとらわれない20~30代の「ミレニアル世代」の新興富裕層に着目した結果、ウオッチ事業の収益力は上向いている。スイスブランドの牙城は果たして崩せるか。
ーー抜粋終了ーー
100円、800円の商品があった場合、100円は安く感じて、800円は高いと思います。ここに、100円、800円、2000円の商品があった場合800円の商品は高いという感覚が鈍くなりますよね。2000円の商品が800円の価値を変えてしまったのです。コントラスト効果といって、ヒトは絶対的な比較が苦手です。そのため提示された範囲内で比較して価値を図る傾向を無意識に行います。100円と800円では700円の差を脅威に思い、800円を「高!!」と感じるでしょう。しかし2000円の登場で800円がなんだか普通に見えてくるのです。
グランドセイコーは前回のブログでもコメントしていますが最高です。今回のプライシングとさらなる高級路線への舵切りはいいですね。大好きです。2千万の時計の販売数は10本ですから販売できても2億です。長野の特別な工房で特別な職人が手作業で組み立てている。手間と暇と技術の塊です。セイコーの19年3月末の売上は1400億で利益は100億
(※1)ですので、10本という本数はあくまでも象徴的な商品にしているに過ぎないですね。
時計の見た目はサファイアとダイアをあしらっていますが、精度を更に詰めている点も凄いと思います。最大持続時間が8日で精度は平均月差10秒。2019年に発表された800万円のモデルは最大持続が3.5日で平均月差が15秒。時計の世界でこの躍進は大変すごいと思います。
腕時計の世界において、実に面白いことが起きています。1980年代ころまではスイスの機械式時計が最高峰でしたが、セイコーが開発したクオーツ式時計の技術と普及によって一瞬は高級クオーツ式時計が一世風靡しましたが、やがてこの機構はコピペがきいて量産が聴くようになり最終的には時計の部品としては100円から1000円くらいで最高の精度の時計がつくれるようになったのです。
そこにスウォッチが登場します。10,000円程度のクオーツ式時計をパリコレやミラノコレクションの様式を真似て、時計の本体ではなく、ケースやベルト、時計全体のデザインを頻繁に変えて年に何本も新しいモデルを出し続けたのです。これはブームになスウォッチは莫大な富を得ました。その富は、当時クオーツ式の出現によって衰退していく機械式メーカーの買取原資に充てられました。スウォッチは、機械式メーカーに資本を投じ、開発やブランドコンセプトには口を挟まずに、グループの参加に入れて時計業界全体を盛り上げる取組を行ったのです。
バブルが終焉し、日本のパワーも低迷した2000年代、世の中がITの世界に突入すると、徐々に昔から変わらない機械式時計が世界中で注目を集めるようになってきました。スウォッチなどのコングロマリットは、ブランドの価値を高めるために自分たちの存在は消し、それぞれの機械式メーカーの良さを全面に出すことで、機能追求から価値を追求する人々に広く受け入れられたのです。
当然、セイコーは自身が開発したクオーツ式のモーブメントが不調になり始めます。そこで再び力を入れたのが機械式の技術です。ただそこはセイコー。機械式の技術とクオーツ式の技術を融合させたスプリングドライブという機構を開発したのでした。グランドセイコーはこの機構を使って、機械式だけど極めて正確。でもデジタルではないというポジションを構築しはじめます。
当初は、セイコーの廉価版の時計と部隊は同じ、少なくとも違いを付ける取組をグランドセイコーは行っていなかったと思いますが、数年ころより本格的にグランドセイコーを一つのブランドとして、セイコーから切り離す取組を開始しています。
再びセイコーの売上をみてみましょう。2019年3月末で連結で2500億円で時計事業は1400億円をしめています。何よりも連結全体の利益は90億で、時計事業単体の利益は100億ですから、他の事業が足を引っ張る状況になっているのです(※1)。セイコーとしては半導体設備の投資低迷で電子デバイス事業が停滞。一方で近年の時計事業の躍進が明らかになっているのです。
続く。
こちらの参照(日本勢の時計の売り方)
成功報酬
早嶋です。
成功報酬での仕事は、成約した際の金額はそれなりに十分な対価を頂きます。その反面、成約しない場合は双方に取って大きな痛手です。クライアントは目的達成が出来ませんし、コンサルは報酬を受け取ることが出来ません。互いに、成功に向けてジカンという資源を最大限に活用していますがそのリターンが得られない結果です。
当然、双方とも仕事を始める前に十分に互いの契約内容に理解を示した上での契約ですから、その結果がどのように終わろうと互いを攻めることは出来ません。
M&Aの業務は、特に案件規模がそこまで大きくない場合は成功報酬で受ける場合が多いです。売却側のアドバイザーについた場合、売却出来ないクライアントは、経営不振に元々陥っている可能性があるので、成約出来ない場合の状況は想像の通りです。従って、アドバイザーも闇雲に契約を結ぶことは割けますし、明確に伝えることが正義だと思って仕事をします。
近年、M&Aの話題は何かすごく良い一手のように多方面で書かれています。しかし、ハッピーリタイアでの売却は以前と少なく、経営不振を補う一手として、苦肉の策として売却を決心する売り手が以前として多いです。
だからこそ、正直に現状を把握した上でクライントと向き合う一つようがあるのです。また、仮に契約して互いに業務をスタートした場合、クライアントとアドバイザーの関係は対等であるべきだと思っています。どちらも上や下という概念はなく、チームとして進める。
案件を整理してノンネームシート等で営業活動を行います。近年はWebでの告知が進み、プラットフォームなども整理されてきたので通常の案件化できるものであれば反応は一定数は戻ってきます。しかし、ハッピーリタイアでオークション形式でも問題無いような良質な案件はほとんど無く、多くが難しい課題を抱えたままの状態で案件化しています。
そのためアドバイザーとしては、そのつどの反応に一喜一憂など出来ません。基本合意を締結して、買い手の買収前調査(DD)を終え、そこから怒涛の如く浴びせられる質問と要求を整理して交渉をまとめていく。そして最終合意を締結してクロージング要件をすべて満たして着金を確認する。その瞬間までは緊張が続きます。
アドバイザーはボランティアで行うのではありません。仕事として行います。交友関係が仮にあったとしても、FA契約を提携した以上は互いにパートナーであり、それ以上の関係はありません。厳しいように言われる分もありますが、それだけ互いに真剣に仕事をしていても成功しない場合もあるのです。
ただ、どのようなときであれ、互いをパートナーとして認めねぎらう気持ちは大切だと思います。成功しても、失敗しても、結果がどうなれ、アドバイザーはこれでもかというほどクライアントのことを考えて仕事をしています。従って、そこにココロがあることが大前提なのかなと思います。
トイレットペーパーと物流
早嶋です。
トイレットペーパーが不足しています。一連のコロナウィルスに乗じたデマがSNSで拡散され、見えない恐怖と戦う社会が反応したためです。
一方、経済的な見方をすると、他にも要因があります。2020年3月3日の日経新聞によると、その本質は物流にあるとのことです。
ーー引用ーー
メーカーに在庫はあるのになぜ店頭で品薄なのか。同工業会は「一時的な注文の集中に卸などの物流が対応しきれていない」と解説する。日用品卸大手のあらたによれば、在庫はメーカーや卸などの倉庫で分散保管される。「紙製品はかさばるため一度にトラックに積める量が限られ、補充には時間がかかる」と明かす。
ーー引用終了
◾見た目の原因
* トイレットペーパーやその他の原料が中国輸入に依存しているため品薄になるというご情報がSNSで拡散し、それに反応した消費者が買いだめ行動をおこした。
* 政府や業界団体は「在庫は十分にある」と火消しをするも店頭では品薄が続き、結果、消費者の買いだめを助長する。
◾新の原因
* 注文の急増に対応するも工場から店舗までの物流が機能していない。
◾解説
トイレットペーパーなどの製造を行う大手の情報によると主要工場はフル稼働状態が続きます。一連のトイレットペーパー騒ぎもありますが、今の時期は花粉の時期。そのため通常のフル稼働に加えて更に在庫を抱えて製造しているメーカーもありました。
政府も沈静化を図るためにトイレットペーパーの在庫も原料の仕入れも十分にある説明をされています。実際、19年の国内出荷に占める中国からの輸入製品の割合は1.3%程度です。
トイレットペーパーに関わるサプライチェーンは、
①原料⇒②製造⇒③倉庫⇒④物流⇒⑤店舗⇒⑥消費者
となっています。現在、⑥消費者と⑤の店舗で不足しており。①原料はOK、②製造もOK、③倉庫もOKという状態です。ということで③倉庫と⑤店舗の間を結ぶ④物流に問題があるのです。
メーカーは商品を作ったそばから販売するわけでは無いので、作り置きをするか、卸のような流通業者に一度提供するかで需要のコントロールをします。この機能は物流の大きな役割の一つです。しかし企業は徹底的に無駄をなくすために効率追求しますので、製造と在庫と流通のバランスを常に調整しています。
今回の店舗での一時的な品薄状態が短い期間で発生したことにより通常の流通で設計されている届ける機能が麻痺しているのです。そこにトイレットペーパーという商品の特徴も影響が大きいと思います。
形状を考えると、そこそこ体積がある。軽い。しかし、その割には安い。紙製品はかさばるために一度にトラックに詰める量が限られています。紙の需要があると言ってもすぐにトラックに乗せることが難しいのです。
加えて3月は引越しシーズンです。物流業者も紙のみを専業で運搬するわけではなく、やはり資源としてのトラックを最大限活用してリターンを得るためには、その時期に最も単価が高い仕事に振り分けるのが経済合理性でいう筋です。そのため今は引越にトラックが集中しているため、紙が不足しているからといってトラックの枠がなかなか確保出来ないのです。
報道等の様子を鑑みると、小売店からトイレットペーパーのメーカーや卸には通常の4倍の注文がきているそうです。通常の4倍を余裕を持って確保している物流であればその時点で成り立たないでしょう。ということで物流が完全に機能していないということが原因です。
◾今後の予測
となれば、物流が滞るということをベースに考えると、トイレットペーパーと同様の商品は徐々に同じように店舗への流入が滞る可能性があります。そこで又誰か心無い人がデマを流して一時的な過度な需要を創り出すとその商品の需給バランスが崩れ、更に流通が滞ってしまう。という悪循環が想定されます。
小中学校の休校が始まって3日間程度ですが、この状況が2週間続き、春休みに突入します。季節の緩みと同時に気の緩みも出ると思いますが、ここは皆が協力しあってクリアして、次の明るい将来に備える時期としてじっくりインプットするなどをしないと、予測出来ない困難が次々に発生するかも知れません。
法人営業の商品は顧客の商売繁盛
早嶋です。
法人顧客が提供している商品は、そのメーカーや商社が実際に販売している商品そのものではなく、対応している顧客(法人)の商売が上手くいくお手伝いです。
例えば、クライアント先で肥料を提供している会社があります。この法人のクライアントは農家を顧客にする小売店です。すなわち法人営業で形態はBtoBtoCです。
肥料提供会社(B)⇒小売店(B)⇒農家(C)
上記の例に例えると肥料提供会社が提供している商品は肥料そのものではありません。小売店が農家に対して事業を展開するお手伝いをすることです。つまり肥料提供会社が提供する商品(肥料)を小売店に卸すことで、小売店は農家への販売が容易になり、更に農家の収入が増えることが言えればすべてがハッピーになります。
例えば、肥料提供会社の社員に対して商品(肥料)の特徴を効くと次のように回答があります。
1)肥料をコートしている素材が特殊
2)肥料は一定期間の間同じように土壌に染み込む
3)初期の根がある時期に効果が高く収穫まで持続する
等々です。これは確かに商品説明としては正しいですが、肥料提供会社が説明すべきは、小売店が農家に販売できる理由です。つまり顧客のメリットを最大限明確にする必要があります。この時の顧客は、小売店と農家を分けて明確に示すことがポイントです。
実際のクライアントの商品は上記の1)から3)のような商品特徴がありますが、他社の肥料を100とした場合、クライアントの肥料は250の価格です。クライアントの営業はその価格差2.5倍に対して説明が出来ず、高いから売れないといいます。
しかし、例えば標準的な畑で1から2反程度の畑できゅうりを栽培しているとします。通常の肥料だと、その畑で10袋分の肥料を使って、収穫できるきゅうりは15〜20トンです。そしてクライントの肥料を使えば、同様の規模だとやはり10袋必要ですが、収穫できるきゅうりは25〜30トンです。
通常の肥料は10袋で20,000円程度に対して、クライントの肥料は10袋で50,000円します。これまで商品説明をしても小売店には納得されず高いと一蹴されていました。しかし、一方でその肥料の良さを理解して農家に販促している小売店もいたのです。
その理由は、単位面積当たりの肥料の量やまく回数は同じでも、収穫できる作物が通常の1.5倍〜2倍になるという実績を知っているからです。普通の相場でのきゅうりを考えると、20トン程度の売価は500万円程度ですが、これが30トン収穫できると750万円程度の売上を確保できるのです。
つまりエンドユーザーへの顧客のメリットは十分にあるのです。肥料は3万円の価格アップですが、売価のギャップが250万円もあることを考えると非常に投資効果が高い肥料と言えるのです。
一方で、小売店にもメリットがあります。通常の肥料は20,000円で販売しても小売店に残る利益は1割り程度の2,000円程度です。しかしクライアントが販売する肥料は2割程度の利益があるため、同じ10袋の販売で小売店は5,000円から10,000円の益を獲得することができるのです。
総合して考えると、見た目のコストは高いのですが、小売店にとっても農家にとっても非常に割の良い商品だということがわかるのです。それでもクライアントの営業は、はじめは値段が高いから売れ無いと思っていました。
しかし、実際は商品知識だけ、あるいは技術的なことは理解して営業されいましたが、小売店の実態やそのさきの農家の収益までを言及して考えていなかったことで、販売ロスを過去から繰り返していたのです。
商品説明では売れません。法人営業が顧客に提供する商品は、商品そのものではなく、顧客の商売繁盛なのです。
第1段階の顧客モニターマーケティング調査(解説)
原です。
今回は、第1段階の顧客モニターマーケティング調査(テキスト分析)を事例により解説します。
事例内容は、料理スクールビジネスをスタートして間もない中堅の食品小売業の調査です。新規顧客の集客に向けたニーズ把握を目的に、顧客モニターマーケティング調査を実施しました。
1回目顧客モニター5名は、安心安全の食材や料理に興味がある方を募集したところ、20代の大学生から40代主婦やOLの女性が集まりました。
モニター体験とグループインタビューは、依頼企業の店舗内で実施しました。
調査当日は、企業担当者から料理スクールのコンセプトを説明。モニター参加者からの質疑応答を終え、実際に1時間のスムージー作りを体験して頂きました。その後、モニター参加者5名と弊社司会者によるグループインタビューを2時間実施しました。
以下に、1回目グループインタビューからのテキスト分析を説明します。
(1)語の出現回数
グループインタビューよる発言キーワードからは、「体験」、「参加」といったワードの出現回数が多いです。次いで、「材料」、「作業」、「美味しい」「表示」が多く、新サービスのことを話すうえで、これらの語にグループインタビューに参加したモニターの関心が高いです。
語の出現回数(図)
(2)共起ネットワーク
共起ネットワークからは、「体験」、「参加」、「作業」、「材料」などの単語と共起しているグループの存在が確認されます。
(共起ネットワークのグループごとの解釈)
共起ネットワーク(図)
(3)テキスト分析からの課題
①「体験」、「短時間」、「帰れる」、「特典」が共起されており、コンパクトでお得感のある体験が求められる。
②「参加」、「子供」、「作る」、「企画」が共起されており、子供を交えた企画も求められている。
(4)課題からの短期的改善策
・作業の役割分担、流れが明確で円滑なイベント進行。
・交通アクセスの確保(アクセスしやすい人、またはアクセスを気にしない人を対象としたイベント開催)。
(5)テキスト分析結果からのターゲットを絞った展開
③「体験」、「短時間」、「帰れる」、「特典」が共起されており、コンパクトでお得感のある体験が求められる
④「参加」、「子供」、「作る」、「企画」が共起されており、子供を交えた企画も求められている
⑤ビューティ企画は華やかなイメージ
⑥「作業」、「流れ」、「役割」、「分担」が共起されており、イベント時の円滑な進行が重要
⑦「駐車」、「車」、「無料」、「広い」が共起されており、交通アクセスが重要
■上記③から⑦のメインターゲット層イメージ
●食の安全と健康への関心がある層
・リタイア後の男性(60代~)
・20代後半から40代の幼児を育てるママ
●自己投資に関心がある層
・美意識の高い30代以降の独身女子
以上、第1段階の顧客モニターマーケティング調査分析結果から、短期的な改善策「料理体験での作業の役割分担、流れが明確で円滑なイベント進行」を取り入れ、第2段階の顧客モニターマーケティング調査でテストすることを検討しました。
心の理論・メンタライジング
安藤です。
ここ数年前から人事担当者から相談を受ける中で一番多いのは、職場内でのコミュニケーションの問題です。 そこで、今回は、「心の理論・メンタライジング」についてお書きします。
『心の理論』とは、他者の行動の背後には「心」の存在があるとする理論です。Premack&Woodruff(プリマックとウッドラフ)が示しました。彼らは、チンパンジーが餌を持っていないように振る舞う欺き行動から 「心の理論」の存在を仮説化していきました。つまりは「心の理論」とは、ヒトや類人猿などが、他者の心の状態、目的、意図、知識、信念、志向、疑念、推測などを推測する心の機能のことです。他者の目的・意図・ 信念・推測などの内容が理解できていれば「心の理論」を持っていると見なします。
Dennettは子供が「心の理論」を持つと言えるためには、他者がその知識に基づいて真であったり、偽であったりする志向や信念をもつことを理解する能力、すなわち誤信念を理解することが必要であると指摘しました。これに基づきWimmer&Perner(ヴィマーとパーナー)は心の理論の有無を調べるための課題、すなわち誤信念課題(False-belief task)を行いました。この課題を解くためには、他人が自分とは違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できなければなりません。
また、「メンタライジング」は、自己と他者の精神状態に注意を向けることを指します。
Allenら(アレン)は、「行動を、内的な精神状態と結びついているものとして、想像力を働かせて捉える・ 解釈すること」としています。自分や他者の精神状態に注意を向け、その精神状態についての認識を心にとどめおいて、考えたり吟味したり感じたりすることであり、この自分自身や他者の感情について注意を向けて考えている時(精神状態を認識している時)に「メンタライズしている」と表現します。
①「心で心を思うこと」②「自己や他者の精神状態について注意を向けること」③「誤解を理解しようとすること」④「自分自身をその外側から眺めること、他者をその内側からみつめること」⑤「(何か/誰かに)精神的性質を付与すること、あるいは精神的に洗練させること」などが重要とされています。
もうお分かりだと思いますが、「心の理論・メンタライジング」は、人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力です。メンタライジングの始まりは、乳児期初期の社会的知覚だと考えられています。すなわち、人に対する志向性から始まり、母子関係に代表される二項関係、さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立(共同注意などがその代表的現象です)、そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続いていくとされています。上記の①から⑤が不足すると基本的な人と人関りが苦手になり、他者とのコミュニケーションが円滑にいかないことに繋がっていくと考えられます。
キャリアドッグ,EAP,心理学を活用したコミュニケーション研修,EQ研修,メンタルヘルス研修ご興味・ご関心がある方は気軽に弊社にご相談くださいませ。
一回の顧客を一生の顧客に
高橋です
毎月この1か月間にお会いした人、会社の中から、私が選ぶ The most impressive Meeting(最も印象に残る出会い)を皆様にご紹介してまいります。
今月のテーマは「一回の顧客を一生の顧客に」です。
今回は、カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)のシステムを開発している企業の社長との会話から、お客様とのつながりについて紹介します。
その企業は医院に特化したCRMを開発していますが、そのシステムを導入した医院はとても繁盛しています。それは一度診療した患者に定期的に来院していただく「仕組み」、一例を挙げると定期健診のお知らせ、毎月ニュースなどの情報発信、バースデーカードなど、を作り上げるからです。しかもシステムのおかげでスタッフの負担を極力かけずに済むので、その分本来の医療に専念でき、さらに顧客満足度が向上し、また来院するという好循環が生まれています。
その社長とお話しをしていると、これからのマーケティングに必要なことが明白でした。新規顧客を開拓するコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかると言われます(1:5の法則 ベイン・アンド・カンパニー、フレデリック・F・ライクヘルド)が、日本は人口増による高度経済成長の右肩上がり時代は終わり(デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」)、今後国内市場の先細りを考えると、既存顧客との関係・維持強化に重きを置くのは当然でしょう。
経営コンサルタントの小宮一慶さんは著書「小宮一慶の実践!マーケティング」の中で、リレーションシップマーケティングにおける顧客の6段階分類を紹介しています。
●最初の段階は「潜在客」商品・サービスを買ってもらう前の段階
●そこから、商品・サービスを買うと「顧客」となり、
●さらに、商品・サービスが良いということで頻繁に買ってくれるようになると「得意客」となる
●さらに、「ここの商品しか買わない」という人は「支持者」と呼ばれ
●さらに、「あのお店はいいから行ってみたら」と人に勧めてくれるのが「代弁者」
●さらにその上に「パートナー」と呼ばれる人。その会社のファンで手弁当で手伝ってくれたり、「一緒にやりたい」と代理店になってくれる人
このように、「潜在客」→「顧客」→「得意客」→「支持者」→「代弁者」→「パートナー」と顧客との関係性をいかに深めていくかが企業にとって重要になります。
では、どうすれば顧客との関係性が深まるのか、方法はいくつも考えられるでしょう。「予想を上回る」と言いますが、まずは自社の商品・サービスに満足していただくことは当然の前提として感動のレベルまで高めることができれば「代弁者」「支持者」になってもらうこともできるでしょう。
また顧客から信頼され「心の距離」を縮めるためには、コミュニケーションの回数を増やすことが効果的です。心理学で人は接触回数が多いほどその相手に好感を持ちやすいことがわかっています(ザイオンス効果)。その上で「あなたは特別だ」と一人ひとりの顧客を特別扱いするコミュニケーションができればファンになってもらうことも可能でしょう。
多くの顧客がいるのに、そんなに頻繁かつ個別対応できないと考えられる方もおられるでしょうが、そこで最初に話した企業が提供するCRMなどのIT化・AI化で可能な範囲が大きく広がり成果を生み出しています。昔は大企業にしか使えなかった高価なコンピューターや特殊なシステムが、いまでは安価に手軽に手に入る時代です。クラウドを利用すれば、常に最新のシステムが安全に使用できますし、ビッグデータも無料で使えるものがたくさんあります。中小企業にとって戦いやすい時代になりました。私共もこのチャンスを逃す手はないと考え、自社にもクライアントにも積極的にCRMやリレーションシップマーケティングを取り入れてまいります。
「一回の顧客を一生の顧客に」
セールスプロセス、営業研修、経営戦略、CRMなどにご興味ご関心のある経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
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