
新規事業の旅127 行動しないことの考察
2024年7月16日
早嶋です。(約2700文字)
“likability limited” この言葉だけでは読み取りにくいし、具体的な文脈を伴わないと理解が難しい。一般的には「限られた好感度」や「好感度の制限」という意味になるだろうか。例えば、人々が他者からの好感度を重視しすぎるあまり、本来の自分を出せない状況や、自分の意見や行動を敢えて制限してしまう場合などに使われる。
新規事業や新しい取組を行う際に、人の行動を抑制する理由は、自分の戦いがあると思う。多くの人が成功を目指して努力するよりも、失敗を恐れて行動を控えることを敢えて選択するのだ。アタマの中ではこのように考える。本当は、自分が行動していたら成功していたかもしれない。でも、実際は行動をしなかったから成功していないのだ。と。自尊心の塊である。が、そのような心理的な抑制が常に我々の行動をストップしているのだ。犯人は分かっている。恐怖と不安。完璧主義。自己効力感の低さ。そして社会的な圧力だ。
失敗に対する恐怖や不安が行動を抑制する要因となり、特に、失敗が自身の評価や他者からの評価に大きく影響する場合、リスクを避ける傾向が強くなる。自分が新規事業の部隊に入り、失敗があたり前と理解してもだ。無理もない、それまでは既存の事業で失敗を殆ど体験していない。むしろ、成功したと勘違いして仕事をしているからだ。既存の仕事の成功は、過去の諸先輩方が作り上げたベースの上にあることをもっと理解すべきなのだ。
何事も100点を取らなければ気がすまない人は、残念ながら向かないかもしれない。そもそも新しいエリアに100点が存在しないのだ。領域や概念がまだ完成されていない。何を持って100点にするかすらわからないのだ。しかし完璧主義の人々は、完璧な結果を出すことに固執するあまり、失敗の可能性を避けるのだ。完璧が存在しないのに、完璧に至らない結果を恐れて行動しない。もう、禅問答バリバリの行動ではないか。リスクを伴う行動を控える。考えてみると、アタマがちょいと良すぎるのかもしれない。
もちろん過信してはいけないが、自分の能力を信頼しないのもいけない。一定の自己効力感は必要だ。はじめての取組だから、誰だって始めから上手くはいかない。取り組む過程で時間はかかるがコツを掴むことができるかもしれない。だから行動してみよう。と考えて取り組むべきなのだ。が、実際は、自分の能力に対する信頼が低いがあまり、成功するための努力をするよりも、失敗のリスクを避けることを選ぶのだ。
とは言え、社会的な圧力は存在する。そもそも新規事業と言いながら一定のノルマがある。それが売上や利益に対して紐づくこともある。既存の事業と異なるので、評価の方法は異なると言いながら、実際は既存の評価と同じ物差しで計られる。アタマが良い人は新規をやれない。新規のリスクがあり、既存の同じ物差しで評価されたらネガティブになる可能性が高いことはすぐわかる。既存のように四半期ごとで評価されたら大きな挑戦はできないのだ。これは明らかに社会的な圧力だ。他者からの期待や評価を重視する文化や環境では、失敗することが恥とされることが多く、これが行動を制限する要因となるのだ。
この4つの犯人、すなわち、恐怖と不安、完璧主義、自己効力感の低さ、そして社会的な圧力から回避し、逆に成功するためにリスクを取ることや失敗から学ぶことが不可欠であり、これを理解し、克服することが重要なのだ。そのための手法も明らかにされている。小さな目標設定、失敗から学ぶ、自己効力感を向上させ、他者のサポートを構築するのだ。
いきなり大きな目標を設定する代わりに、達成可能な小さな目標を設定し、一歩一歩前進するのだ。人の心は慣性の法則と同じだ。止まっている物体を動かすエネルギーは莫大だ。そこで少しづつ勢いをつけるのだ。そして徐々に取り組むことで、逆に止められなくなるのだ。
失敗は成功のもとなのだ。偉大なバカボンのパパが言っている。失敗を避けるのではなく、失敗から学び、改善することを目指すのだ。テストの点数をばかりに目を向けてはいけない。自分が間違った傾向やポイントを理解して、その次に活かす活動を繰り返すことが大切だ。
当然に、このことを行うためには、一定の自己効力感を高めることが大切だ。お前はだめだ!なんでできないのだ!できるまでご飯を抜きますよ!すべて最低のフィードバックだ。このような逆境から立ち上がる人物はごくわずかだろう。人は一定の安全な環境が必要なのだ。その中で自分の効力感を育み育て高めることができる。
そのためには、第三者のサポートが不可欠になるのだ。失敗に対してもタイミング良くフィードバックを与え、それらから学びが得られる環境を与えてあげるのだ。
失敗を恐れるあまりに行動しない。かなり研究された分野だった。専門用語に”Atychiphobia”がある。失敗に対する強い恐怖を指し、この恐怖が原因で行動を控え、リスクを避けたりする状態を指す。また、ビジネスや心理学の文脈では、”procrastination”や”avoidance behavior”も関連する用語として使用される。”Atychiphobia”は失敗に対する極端な恐怖を指す心理学的用語で、行動や決定を先延ばしにしたり、回避したりする原因となる。”Procrastination”はやるべきことを後回しにする行動を指す。”Avoidance Behavior”は不安や恐怖を引き起こす状況や課題を避ける行動を指す。
なんだ、誰もが同じ心を持っており、誰もが恐怖を持っているのだ。そうかそうか。と捉えて、小さく始めるのが吉なのだ。知識は人をアタマでっかちにする場合もある。しかし、この手の学びや考察は知ることによって、行動がしやすくなる場合もあるのだ。
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新規事業の旅126 toleranceと遊び
2024年7月15日
早嶋です。(※約5100文字)
英語の表現に、”tolerance”がある。許容範囲や寛容さ、忍耐などを指す言葉だ。文脈により異なる意味を持つ。一般的な使い方について調べた。技術的な意味合い、社会的な意味合い、心理学的な意味合いがありおもしろい。
(技術的な意味合い)
製造や工学では、部品の寸法の許容誤差を指す。例えば、設計図には部品の寸法とともにその寸法がどれだけ誤差を許容するかが記載される。この許容範囲がトレランスだ。好きなアーティストにイサムノグチがいる。彼が35年間生み出し続けた竹の照明、AKARIがある。実に200種類以上のラインナップだ。現在、彼の商品は製造中止になっている。人気があり要望が多いのになぜと思う。彼のAKARIを再現する際の竹の品質、節の大きさや位置の指定。これらが設計の中に事細かく記載されているという。トレランスが小さく再現が難しいのだ。
技術の世界では、熟練する過程で、このトレランスが小さくなる場合がある。熟練した職人や技術者は、経験を積むことで作業精度が向上し、設計図通りに製品を製造する能力が高まる。彼らは、微細な調整や感覚を駆使して高精度な作業を行うことがでるようになる。ただ、この進化は諸刃の剣で、職人がいなくなれば、同じような仕様の商品が作れなくなるの。イサムノグチのAKARIでおきているの現象だ。
もちろん、CNC(コンピュータ数値制御)機械やロボットアームなどの進化により、機械加工の精度が飛躍的に向上している。これにより、設計図通りの精密な製品を一貫して製造することができるようになる。高度な測定技術や機器(例えば、三次元測定機やレーザー測定機)の導入により、製品の精度を正確に測定し、トレランスを厳密に管理することが可能になったのは事実だ。これが進めば、コピペが大量にできるようになる。でも面白いのは、コピペで作れば作るほど、1つあたりの価値が下がることだ。
熟練工は、長い時間の中で、自分たちが行う工程に工夫を凝らしてきた。現在の技術では統計的にプロセス制御を行う。製造プロセスにおいて統計的手法を用いて品質を管理することで、ばらつきを減らし、トレランスを小さくするのだ。有名なのはトヨタの生産方式だ。リーン生産方式は、無駄を排除し、効率を高める生産方式で、プロセスのばらつきを減らし、高精度な製品を製造することができる。
当然、複合的な要素もある。素材の向上だ。材料の品質が向上することで、製品の寸法安定性や加工精度が向上し、トレランスを小さくすることができる。ただ、ここは同じ商品を製造する関係者が、完成形を認識して、図面の中身を熟知する等が必要なので、上段でコメントしたことが効いて出来上がった結果だ。
同じ技術の世界でも、製造工学と薬理学では異なる。薬理学では、薬やアルコールの物質に対する身体の耐性を指す。使用者が同じ効果を得るために徐々に多くの量を必要とする状態だ。薬物に対するトレランス(耐性)が増加する理由は、身体が薬物に順応し、同じ効果を得るためにより多くの薬物が必要になるためだ。これは主に次のようなメカニズムがある。
薬物新陳代謝だ。長期間の薬物使用により、薬物を代謝する肝臓酵素が増加する。これにより、薬物が体内でより迅速に分解されるため、効果が減少し、より高い用量が必要になる。また、長期間の薬物使用で、神経細胞の受容体の数が減少する。業界では、ダウンレギュレーションと呼ばれ、これにより、同じ量の薬物では受容体に十分に結合できず、効果が減少するのだ。更に、脱感作という概念も説明される。受容体が薬物に対して敏感でなくなる現象だ。これにより、同じ量の薬物でも効果が薄れ、より多くの薬物を必要とするのだ。
他には、長期間の薬物使用により、神経伝達物質の放出や再吸収のメカニズムが変化する。例えば、薬物が神経伝達物質の過剰な放出を引き起こす場合、体はそれに対抗して神経伝達物質の合成や放出を減少させる。このため、同じ効果を得るためにより多くの薬物が必要になるというわけだ。後は、体が薬物の効果に慣れることで、行動的な適応が起こる。例えば、鎮痛剤の使用者が薬の効果に慣れると、痛みを感じにくくなる代わりに、薬物の用量を増やさなければならないことがある。最後に、1つの薬物に対する耐性が、同じカテゴリーの他の薬物に対しても耐性を引き起こすことがある。例えば、アルコールに対する耐性がある人は、他の鎮静剤や睡眠薬に対しても耐性を示すのだ。
技術的なトレランスは、熟練するとともに小さくなる。多くの要因が相互に作用した結果だ。熟練工の技術向上、機械と測定機器の進化、プロセスの改善、材料の品質向上、デジタル製造技術の発展などが、全てトレランスの縮小に寄与する。一方で、薬物に対してのトレランスは増加するのが面白い。身体が薬物の影響に適応するための生理学的および生化学的な変化が関与しているからだ。これにより、同じ効果を得るために薬物の用量を増やさなければならない皮肉がある。場合によっては、薬物乱用や依存症のリスクを増加させる。非常に興味深いのだ。
(心理的な意味合い)
心理的な意味合いでは、ストレスフルな状況や困難に対する耐性を指す。高いトレランスを持つ人は、ストレスに対してより適応的に対処することができる。心理的な側面でのトレランスはいくつかの視点がある。
大枠ではストレス耐性だ。個人がストレスフルな状況や逆境にどれだけうまく対処できるかを示す。高いストレス耐性を持つ人は、プレッシャーや困難な状況でも冷静に対応し、効果的な解決策を見つける能力がある。ストレス耐性は、心理的トレーニングやストレス管理技術を通じて向上させることができると言われる。
ストレスの中身を細分化すると、情緒的なストレスがある。強い感情や不快な感情に対する耐性だ。例えば、怒りや悲しみ、恐怖などの強い感情を感じたとき、それらを適切に認識し、コントロールし、破壊的な行動に走らずに対処する能力だ。情緒的トレランスは、自己認識や感情調整のスキルを通じて強化する。
未来に対する不確実性や予測不可能な状況に対して耐性を持つ不確実性を指すこともある。高い不確実性トレランスを持つ人は、変化や未知の状況に柔軟に適応し、不安や恐れを感じずに前向きに対処することができる。
目標と現状のギャップに対してのストレスもある。フラストレーションとする。目標達成に対する障害や失敗に対してどれだけ耐性があるかを示し、高いフラストレーショントレランスを持つ人は、失敗や困難に直面しても諦めずに努力を続けることがでる。
(社会的な意味合い)
社会的な意味合いでのトレランスは、他者の意見、行動、信条などを尊重し、受け入れる能力を指す。多様性のある社会ではトレランスが重要とされる。心理的なトレランスと社会的なトレランスは似たような概念にも聞こえるが、異なる。心理的なトレランスは、個人の内面的な耐性にフォーカスする。ストレス。つまり、感情、不確実性、フラストレーションなどに対する個人の対応力や耐性だ。一方で、社会的なトレランスは、他者や社会に対する寛容さにフォーカスする。他人の意見、信念、行動、文化、背景などを尊重し、受け入れる能力だ。
他人の意見を尊重するトレランス。他人が自分とは異なる意見を持つことを理解し、その発言の自由を尊重する。例えば、政治的な意見や社会問題に対する見解が異なる場合でも、その人の意見を尊重し、対話を通じて理解しようとする姿勢でだ。傾聴が得意な人は、自然とこのトレランスの許容が高くなると思う。他人の意見をしっかりと聴き、理解しようとする姿勢が求められるからだ。相手の話を遮らず、先入観を持たずに耳を傾ける。書くのは簡単で実践するのは一生かかる技術だ。
他者の信念を尊重するトレランス。他人が持つ宗教や信仰を尊重し、その信仰を受け入れる。異なる宗教を持つ人々が共存し、互いの信仰を尊重し合う社会だ。過去、縄文時代の日本社会はこのような文化の中、様々な価値観や文化や信仰を受け入れてきた。日本の神道のベースとなる信仰は、太陽信仰からはじまり、自然の畏怖を恐れ感謝し、受け入れた。自然とアニミズムが浸透して、結果的に多神教的な発想になったのだ。
ライフスタイルを尊重する考えもある。他人が選択するライフスタイルを受け入れることだ。結婚や子育て、キャリアの選択など、個人の生き方に対する尊重だ。ポイントは、法や倫理に反しない限り、他人の行動の自由を尊重し、干渉しないことだ。一方的に法を根拠にライフスタイルを尊重する輩は嫌いだ。重要なのはモラルで他者に迷惑をかけない範囲で自信のライフスタイルを尊重すると自然に周りに対しても、周りからも寛容にされると思うのだ。
異なる文化や習慣を持つ人々が共存する社会では、互いの文化を尊重し、学び合う姿勢もあってよい。異文化交流や多文化教育の推進は理にかなっている。他人の文化や伝統を理解し、それに対する敬意を持つことで、はじめて共存がスタートされる。自分が正しいと捉えるのではなく、それぞれが正しい。そのため、それぞれの視点や考える背景に理解や興味を示すことが大切だ。経済的な状況や社会的な地位に関わらず、すべての人を平等に扱い、その背景を理解する姿勢だ。これには異なる教育や家庭環境を持つ人々の背景を尊重し、理解しようとする行動も含まれる。
社会的なトレランスは、異なる意見、信念、行動、文化、背景を持つ人々を尊重し、受け入れる能力だ。多様な社会の中で互いに理解し、平和に共存することが可能になり、そのために、個々人が意識して他人の違いを尊重し、理解しようとする努力が求められるのだ。
(考察)
心理的トレランスと社会的トレランスには共通して寛容さを含む。心理的なトレランスは個人の内面的な寛容さを指し、社会的なトレランスは他者に対する寛容さを指す。そして、どちらも困難や違いに対する対応力を強調する。心理的なトレランスは個人的な困難に対する対応力を、社会的なトレランスは他者の違いに対する対応力を示す。
逆に異なる部分もある。心理的なトレランスは主に個人の内面的な問題や困難に対するものであり、社会的なトレランスは他人や社会に対する態度や行動に関わる。心理的なトレランスはストレス管理、感情調整、適応力などのスキルに依存し、社会的なトレランスはコミュニケーション、共感、多様性の理解などのスキルに依存する。
技術的なトレランスは、デジタルのように、完全に一致しなければ完成しないし、価値を生まない。アナログの良さは、そのトレランスの許容があるがゆえに、なんとなく相互依存している関係があるのではないか。人は元来、すべてを受け入れながらも、自分の領域を一定確保して均衡を図ろうとしているのではないだろうか。薬理学でみたように、徐々に受け入れの許容を増やしてしまう能力を持っている(薬の場合は、これがネガティブに働くことも多いが)。
0と1などの記号で定義される世界。すべてをアルゴリズムで規定され、完全に再現される世界。それよりも、元来自然を崇拝して、困難があるからこそのたまの幸せ等に価値をおきてきたアナログの世界が人の生きるべき方向ではないか。
兼ねてから、「あそび」という言葉が好きだ。トレランスの概念を日本語で表すに相応しいと思う言葉だ。ニュアンスとしては、余裕、許容、余白などを含む。技術的な文脈では、部品の寸法や仕様に対して多少の誤差を許容する余地があそびだ。あそびがあることで、現調でトラブルが生じても臨機応変に対応できるのだ。
機械的な文脈では、部品同士の接合部や可動部分において、動きやすさを確保するために設けられるわずかな隙間や緩みを指す。デジタルにあそばはないが、機械の動作を滑らかにするために必要な微小なスペースがあそびだ。あそびをもたせた機械の動きは非常に美しいと思い、時計を作ってみたい動機が生まれた。
一般的な文脈では、ある基準や範囲内で許される変動や誤差を指す。技術的な仕様や品質管理において、設計図や標準に対してどれだけの誤差が受け入れられるかを示す。スケジュールや計画にもあそびをもたせる。計画通りいってほしいが、なにか発生することを前提にする概念だ。ゆったりとしてよいでは無いか。
”tolerance”の翻訳がすっとはいらない理由が分かった。文脈に応じて適切な言葉や概念が逆点することもあるからだ。が、それらをあそびとすることで、私は一定の理解を得たと思う。
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新規事業の旅125 高尚なパーパスの落とし穴
2024年7月13日
早嶋です。
スタートアップでも既存事業でも、優秀な人材、特に若手人材を欲しいところだろう。そのような企業は高尚過ぎるぐらいのパーパスを設定しているが、結論から言えば、優秀な若手には響かないのだ。
For start-up seeking talent, a lofty purpose can backfire; by Murat Tarakci によると、応募者はバリューフィットよりも自信のキャリアアップのチャンスに重きを置いているのだ。新規事業周りの採用やスタートアップ周りの人事と仕事をしている中での肌感覚とも合致する。
「世界をより良い場所にしたい!」「●●な社会課題を解決する!」と言っても実際のスタートアップや新規事業の現場は超過酷だ。カオスだ。大変だ。市場や技術が不確実な中、かなり長い時間働く。それでも仕事をしたい人の理由は、あり得ない見返りか、そこで得られる自信の成長だ。綺麗事としてはバリューフィットと言いたいところだが、現実はやっぱり想像通りなのだ。
端的な話、スタートアップや新規事業での募集の際に、社会的な指名をあまりにも強調すると、候補者からは成長が遅く、しばらく成功する可能性が限られているな。と判断されるのだ。当然に、キャリアの機会や迅速な経済リターンを求める求職者からすると魅力が半減する。また、社会の訴求をためすぎると、個人の動機や欲求を脇に置くような企業と認識される可能性もあるのだ。
もちろん既存のキャッシュカウの事業を行っている企業はビジョンを謳うことはプラスだ。既に多くの従業員が働き、既に認知がある。一定の働きがいがある企業と捉えられ、一定の余裕があり、競争力や福利厚生が充実しているという印象を与えることだろう。
この論文は、事業会社が新規事業の人材に特化した場合に朗報だ。給与と成長機会をベースに、人材を探すというシンプルなルールが見えてくるからだ。
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為替の要因
2024年7月12日
早嶋です。
円安の要因を考えてみる。
要因として、まず資本流出がある。例えば日本人が外国株をドル建てで購入すると、日本円をドルに換金する。これにより円の需要が減少し、ドルの需要が増加する。結果、円の価値がさがり(円安)、ドルの価値があがる。今年1月から始まった少額投資非課税制度(NNISA)によって、長期的に定額で外国株を購入する動きが加速した。継続的にドルを買う動きが定着するため円安圧力は持続する可能性がある。
現在、最も大きな要因とされるのが金利差だ。日本と他国の金利差で、日本の金利が低い場合、投資家はより高い利回りを求めて他国の資産に投資する傾向がある。結果、円売りと外貨買いが進み、円安要因になるのだ。
経済指標もある。日本の経済成長が他国と比べて低い場合、円が売られる可能性が高まる。逆に、日本の経済成長が高まれば円高要因になる。これにあわせて、貿易収支も重要だ。貿易収支が赤字(輸入が輸出を上回る)になれば、外国通貨の需要が高まり円安になる。黒字(輸出が輸入を上回る)の場合、円高要因となる。
もちろん政策も関係する。日本銀行(BOJ)が緩和的な金融政策(例えば、量的緩和や低金利政策)をとると、円安の傾向が強まる。反対に、引き締め政策をとれば円高傾向になる。また財政政策として、日本政府の財政赤字が拡大すれば、円の信頼性が低下する。これは円安要因となることもある。
政治や地政学リスクもある。日本国内や世界各地での政治的不安定や地政学的リスク(例えば、戦争やテロのリスク)が高まると、安全資産とされる円が買われることが多く、円高要因となる。一方で、北朝鮮やロシア、中国の動きはどちらかと言えば日本に取ってネガティブだ。これらは市場のセンチメント分析と呼ばれる。市場の参加者のマーケットに対する強気や弱気などの市場心理から相場が動くことだ。上述のように、世界的なリスク回避の動きが強まると、安全資産とされる円が買われ、円高となる傾向がある。逆にリスクを取る動きが強まると、円が売られ、円安となることがある。
国際資本の動きも無視できない。海外投資家の動向だ。日本の機関投資家や個人投資家が海外に投資を行う場合、円を売って外貨を買うため、円安要因となります。これは冒頭切り出したNISAの動きだ。日本人以外の個人投資家や機関投資家が、日本株式の将来を鑑み、ドルを売って円建てで日本の株式を買えば円高要因になる。
後は、需給バランスだ。短期的には、為替市場の需給バランスが円安や円高に影響を与える。例えば、大規模な取引(企業の決済や投資ファンドの動きなど)が円売りや外貨買いに偏ると、円安が進むことがある。
つまり、為替の影響はとても複雑なのだ。円安や円高の動向を予測するために、上記の要因を総合的に考慮しても正確に予測することは難しいと思う。但し傾向や方向性を知ることはできるだろう。それから過去の歴史を見た場合、一定の考え方のベースにもなるかもしれない。そこで過去の円安の事例を調べてみた。
1971年、ニクソン・ショックだ。アメリカのニクソン大統領が金とドルの交換停止を発表(ニクソン・ショック)する。背景には、アメリカの金保有量が減少し日米との貿易赤字の拡大があったからだ。これにより、固定為替相場制が崩壊し、変動為替相場制に移行した。1971年以前は固定為替相場制で1ドル=360円だった。それがニクソン・ショック後、変動為替相場制に移行し円高が進行した。1973年には1ドル=270円台まで円高が進んでいる。
1985年、プラザ合意前だ。1980年代初頭、日本は貿易黒字を続け、円は高く評価されていた。しかし、1985年のプラザ合意以前は円安が進行した。要因として、日本と他国(特にアメリカ)の間での金利差が大きく、円売り・ドル買いが進んだためだ。プラザ合意前(1985年)の初頭には、1ドル=250円前後で取引されていた。プラザ合意後、急速に円高が進み、1986年には1ドル=160円台まで円高が進行した。
1995年には歴史的な円高反動があった。当時、1ドル=80円台前半まで円高が進行したが、その後の反動で円安が進んだ。日本経済がバブル崩壊後の停滞期にあたり、金融政策の緩和が進んだためだ。1998年には1ドル=140円台まで円安が進行した。
2013年、アベノミクスだ。安倍晋三首相の経済政策(アベノミクス)により、急速に円安が進行した。当時、大規模な金融緩和政策(量的・質的金融緩和)と財政刺激策が実施され、日銀のインフレ目標2%の達成を目指す金融政策が円安を促進する。アベノミクスが始まった2012年末から2013年初頭には、1ドル=80円台だったが、2013年末には1ドル=105円台まで円安が進行した。
2020年から2021年のCOVIT19パンデミックとその後(現在)だ。COVID-19パンデミックの影響で、世界的な金融市場が混乱し、一時的に円高が進んだ。そして、その後円安が進行している。世界的なリスク回避の動きにより円高が一時的に進み、その後の景気回復期待と日本の低金利政策の継続により円安が進行していると考えられる。2020年初頭のパンデミック発生時には1ドル=102円台まで円高が進んだ。その後の景気回復期待と日本の低金利政策の継続により、2021年には1ドル=115円台まで円安が進行し、じわじわ現在の160円になっている。
上記の歴史を振り返ると、1)日銀の金融政策(金利政策や量的緩和政策)、2)経済市場(日本の経済成長率や貿易収支の動向)、3)アメリカや他国の経済政策や金利政策や地政学リスクなどの国際情勢、4)世界的なリスクオン、オフの市場のセンチメント、5)そして日本からの資本流出や海外からの資本流入などの資本の動きの5つが円安(あるいは円高)の要因として複合的に影響していることが言える。
前提として私は為替の動きを予測することは非常に難しいと思っている。しかし、世の中のプロはそれぞ鑑みてか前提としているかは別として、以下のような要因や方法を用いて予測を日々頑張っている。
まずはファンダメンタル分析だ。経済指標として、GDP成長率、失業率、インフレ率、貿易収支などの経済データを分析し、通貨の価値を予測する。次に、金利政策として、各国の中央銀行の金利政策や金融政策を分析し、通貨の動きを予測する。更に、政治や地政学リスクとして政治的な安定性や地政学的リスクを考慮し、通貨のリスクを評価する。
次にテクニカル分析だ。まずはチャートパターンを調べる。過去の価格データを基に、チャートパターンを識別し、将来の価格動向を予測する。それからテクニカル指標として、移動平均線、相対力指数(RSI)、ボリンジャーバンドなどの指標を使用して、価格のトレンドや反転ポイントを予測する。
市場のセンチメント分析は、かなり難しいと思う。投資家の心理として、市場参加者の心理やポジションの偏りを分析し、過熱感や売られ過ぎの状況を把握する。ここにはニュースや噂などもあり、経済ニュースや市場の噂を通じて、短期的な価格変動を予測するのだ。
大きく3つの方向性での分析の概要を書いたが、為替予測の限界も見える。不確実性が高いことだ。為替市場は多くの要因に影響されるため、予測が困難だ。特に、突発的なニュースやイベント、例えば自然災害やテロや政治的不安定などは予測が難しい。それから短期的な価格変動はランダムウォーク理論(価格変動がランダムで予測不能)に従うことが多く、正確な予測が困難とされる。そして最後に市場の複雑性がある。為替市場は非常に複雑で、多くの市場参加者や取引戦略が絡み合い、これにより、単一の要因だけでの予測は限界があるのだ。
冒頭にNISAの話を書いた。今年1月に始まった制度により、1月から6月の海外株式やファンドの買越額が6.1兆円で、同期間の貿易赤字額が4兆円前後(1月から5月で3兆4550億円)なので影響はありそうだ。一部の専門家は、日本経済の構造的な円売り要因の1つに、輸出額が輸入額を下回る輸入超過状態を示す貿易赤字を指摘している。2011年の東日本大震災以降、エネルギー輸入が増え貿易赤字が定着しているからだ。その貿易赤字とNISAによる海外投資は同じくらいの金額だからだ。
ただ、NISAの話は、複数ある要因の一部にしか過ぎない。為替の予測はやはり難しいのだ。
新規事業の旅124 マネジメントの共通認識
2024年7月10日
早嶋です。
既存事業で成長に限界を感じた大企業は、新規事業の開発に乗り出している。しかし、明確な勝ち筋を見出せている企業は少ない。新規事業が目的になり、どのエリアでどんな目的で取り組むかの議論が浅いまま新規を求めているのだ。そのためアプローチの話題が選考する。
新規事業のアプローチは、ゼオイチ(自社で開発する)、M&A、提携出資がある。ゼロイチは、社内で成果を出した人材を中心にチームを作り取り組む。結果、中々うまれない。理由はいくつでもあるが、社内で成果を出した人材の多くが、現在の事業ポートフォリオでキャッシュカウの事業を任されている方々だ。10の事業を100にするのは得意だが、0から1を生み出すのは別の能力が必要なのだ。
そこでM&Aだとなる。が、良い案件は不動産と同じで既にM&Aで成果を出してきた企業にいち早く情報が流れる。案件を見つけ出して取引するFA業者も、初めての、そして戦略が不明瞭な事業会社に案件を持ち込んだとて意思決定が遅いので後回しにするのだ。しかし一定の企業がM&Aをすると宣言すると情報は集まりだす。今度は内部に問題が露呈する。M&Aを戦略的に行うと決めてみ、それらに対して、どのように案件を発掘して、投資して、その後成果を上げるかの道筋が極めて不明瞭になっていることだ。
M&Aで勝ち筋を見出している組織の特徴はシンプルだ。M&Aに関する話題は、小さくてもすべてトップにいれる。そして事前に整理した戦略に基づき、案件を断るか、じっくり精査するかを即判断する。精査する場合も、財務と経営と組織に強い少数で案件を判断するのだ。
最も、M&Aだと行っている組織の多くが、経営、財務、人事との取組が弱くて、互いが何をしているかあまり理解していない組織が多い。更に、日本は管理することを前提に進める取組が長らく続いたので、ファイナンスに明るい人材が少ないのだ。また経営もM&Aは、百貨店のように欲しい案件があって、選んでお金を払えば済むと考えているフシがある。自社に回ってきた案件は条件がわるく、それでも複数の企業と競わされていることも知らないのだ。
今後、成長事業を考える企業は、新任のマネジメントには上記のような議論は確実に提供することをおすすめする。
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新規事業の旅123 人事異動の落とし穴
2024年7月10日
早嶋です。
国内の企業を利益の大きな大企業と、小さい企業で分けてみる。大企業は普段ニュース等で見聞きし、新卒が挙って入社したい企業だ。その多くは上場している。数として国内では4000社程だ。企業総数が300万社程度あることを考えると、大企業はごく僅か。世の中は中堅中小企業が殆どなのだ。
大企業と呼ばれる企業の多くは、グループ会社を持ち、成長戦略を掲げている。そのため常に売上や利益の拡大を目指す。特に上場している場合、成長はストップできない。株価は将来その企業が稼ぐキャッシュフローの現在価値なので、成長を選択しない企業の株は下がることを意味するからだ。株価が下がれば他の企業から安く買収されるリスクもある。大企業の経営者は是が非でも成長を続けなければいけないのだ。
従い、大企業は一定の数値目標を掲げる。場合によっては明確な根拠がない場合もある。数値目標は売上を●億円、利益を●億円など、結構キリが良い数字を並べることが多い。今売上が270億円だったら来年は300億円とか。今売上が4200億円だったら2030年に5000億円とかだ。この売上や利益は親会社が1社単独で作るのではなく、グループ会社全体で達成する構図だ。例えば、現在グループでの利益を250億から2030年に向けて500億増やすとか、利益率を2倍にするとかなどだ。明確な根拠が先に来るよりは、一定のスローガンをい掲げ、そこに向けて一丸となって取り組むイメージが強い。グループで目標を掲げると、その達成は当然にグループ会社にもノルマとして降りてくる。グループ会社の経営計画も、現在の利益額を2030年に向けて2倍にする。とか、10億の利益を20億に増加するなど、すべてが本店の意思に比例した事業計画を基本に策定していく。不思議なのは、ここにポートフォリオの概念が薄いことだ。
事業ポートフォリオは、事業のカテゴリを、成長軸(高低)と規模軸(大小)で4つに分ける。成長が鈍化したフェーズで規模が大きい事業が最も理屈では実入りが良い。規模が大きくても成長が大きい事業は今後のキャッシュを得る目的で先行的に投資が必要でキャッシュは残りにく。このようなカテゴリ分けをしながらどの事業を伸ばし、どの事業に投資し、どの事業を縮小させるかが企業戦略のポイントになる。当然に、組織の規模が大きくなれば、事業会社に加えて、グループ会社も同様に議論をしなければならない。
が、実際は本店(親会社)とグループ会社のポートフォリオの管理を一緒に行っている企業が少ないように感じる。その理由は、グループ会社の統治と経営者の指名の仕組みにある。本店で一定の能力を持つ社員がすべて本店の出世コースに乗るとは限らない。本店の出世コース枠には当然に限りがある。事業部長や取締役などの役職数を考えてみればイメージできるだろう。そのため本店の出世コース枠と同様に、グループ会社の経営陣の枠も、多くの企業では本店からの人事が多い。
グループ会社にも規模の大小がある。規模が小さければ本店の課長クラスがグループ会社のトップになることもある。グループ会社の規模が大きければ本店の部長や取締役が経営陣になる。ただ、本店で部課長レベル、あるいは役員レベルであっても、既存の事業モデルの中で一定の拡大はできたものの、誰でも経営ができるわけではない。むしろ創造的な動きや経営者としての全体最適の視点は乏しく、結果的に経営者となってもその企業の従来の取組をひたすら管理する方向でしか舵取りを行わない。
グループ会社が既存事業の周辺であればまだ良いが、新規事業の目的で投資した会社であれば話が異なる。新規事業の軸として、将来の事業ポートフォリオのベースを作るべく成長を遂げなければならない。そのために迅速な意思決定や試行錯誤の連続、場合によっては発想を変えた取組など、既存事業の枠組みにハマってはいけないのだ。これらを加味した人選がされていないのだ。というか、本店にそのような人材が既に不足しているので事業の停滞があることを理解していないように思えるのだ。
その結果、どうなるか。本店からグループ会社の経営陣に参画するメンバーの多くが管理に走るのだ。自分が事業の内容を理解していないので、細かいことを突っ込まれないように、ひたすら管理レポートを詳細に上げることをグループ会社の部下に求め、自分は親会社にその内容を説明する役に徹するのだ。
更に本店の経営に参画しているメンバーの多くは、既に一定の事業モデルを管理する仕事がずっと続いた。全く異なる事業モデルや業界に入り、仕組みが殆ど出来ていないところからヒト、モノ、カネ、ジカンを工面して、ゼロベースで計画しながら試行錯誤して成果を出す経験など殆ど行っていない。新規事業の取組で試行錯誤しながら一定期間の産みの苦しみが理解できないし、体験したことがないので話が通じない。既存の管理の仕組みと同様に事業会社やグループ会社を見てしまうのだ。
つまり折角、既存の事業にメスを入れる目的で取得した新規事業やグループ会社が数年も立たない内に、完全に内向きに、管理することがベースの組織に変わってしまうのだ。そのクセ、目標値だけは高まる一方になってしまう。悲しいかなだ。
人事に対しては別の取組も観察できる。グループ会社などの人事は、本店と異なる事業モデルで、新たな成長や新たな分野の開拓をする役割もあっても良い。しかし現実は違う。また、本店からの人事も同じ経営者が3年とか5年以上も続かず、ころころ人事を変えてしまう。前任の社長が礎を作って次の成長に向けて動き出すと思ったら、別の新任の社長が1年間様子を見て、全く異なる計画にゼロリセットするなどが当たり前に行われている。そのためグループ会社の社員は、自分から積極的に動き、新たな提案をするなどは無駄だと思うフシが強く、動かない体質になってしまう。
整理すると、親会社はグループ会社に成長の余白を私て目標を提示する。しかし、実際に実現するためのメカニズムは自分たちが本店で行っているルールと同じやり方で管理するので、革新的だったグループkシアyの仕組みやメカニズムが数年で本店と同じように染まってしまうのだ。革新的な取組を経験したことがない本店の人事、報告に徹するマネジメント以外を知らない役者。更に、コロコロトップを変える本店の人事。すべてが成長をさせない仕組みになっているとしか考えきれない。不思議そのものなのだ。
もちろんグループ会社のプロパーで専務クラスまで上り詰めた方々はみな優秀だ。しかし、立場を考えると、親会社の経営者に迎合せざるを得ない。そして都度都度経営戦略を修正するため極めて短期的な取組でしか事業を動かすことができないでいるのだ。新規事業の取組に関してもだ。現場は思考停止し、眼の前の業務をただただ回すのが仕事になってしまう。提言をしても聞く耳がない、それだけ無駄だと学習してしまうのだ。
(過去の記事)
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「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
組織開発の中でポジティブな組織づくり
2024年7月4日
安藤です(公認心理師・Well-beingコーチ・1級キャリアコンサルティングとして活動中)
今回は、「組織開発の中でポジティブな組織づくり」についてです。
AI(アプリシエイティブインクワイアリー)をご存じでしょうか。
AI(アプリシエイティブインクワイアリー)とは、問いかけることで価値を見出したり強みを発見したりしながら、ポジティブに問題を解決する方法です。 これまで、多くの企業で採用されていた問題解決方法は、まず「できないこと」に注目するものでした。アブリシエイティブピンクワイアリーは、この考え方とは異なるアプローチで問題解決に導く方法です。
心理療法も、今まで原因に焦点をあててカウンセリング・コーチングを行っていたのが、昨今は、ポジティブ心理学を活用し、時間軸でいうと過去ではなく、“未来” にむけてどうしていったら個人も組織も“Well-being” になっていくかということを対話していっています。
もう少し詳しく説明をすると、AI(アプリシエイティブインクワイアリー)は、アメリカの大学教授であるデービッド・クーパーライダー氏と、国際NPO団体のひとつであるタオス・インスティテュートのダイアナ・ホイットニー氏が1987年に提唱した組織開発手法です。 アプリシエイティブ(Appreciative)は、「価値を見出す・認める」という意味を持ち、インクワイアリー(Inquiry)には「問いかける・質問する」などの意味があります。
もう少し、従来の組織開発手法との相違点についてお話をします。従来の組織開発手法は、課題に対して解決策を編み出すためのアプローチを取っていくやり方を指します。具体的には、まず、今起こっている課題や問題を特定し、原因を分析します。その後、課題や問題に対する解決策を考えるという流れで進めていきます。課題や問題が、弱みに起因している点が特徴です。
これに対し、AI (アプリシエイティブインクワイアリー)は 最初に強みや良い部分を明確にし、可能性をさらに活かす方法を模索します。ポジティブな視点で探求することで成功要因を見つけ出し、成果が上がるよう理想の状態に向けて計画を実行していく点が、組織開発手法と大きく異なるといわれています。
問題解決型アプローチとポジティブ・アプローチのやり方は、下記の通りです。
問題解決型アプローチは、問題を特定→原因分析→可能な解決方法を分析→アクション・プランニング
ポジティブ・アプローチは、本来の最高の価値を発見 → ありうる最高の状況をビジョニング → 「どうあるべきか」を対話する(そこに創造性のあるコミュニケーションが発生する)→ 「どうなっていくか」を革新する
*「ビジョニング」とは? 「その企業や団体が『どんな未来を信じているか』という独自のビジョンを掲げ、その世界を実現するために一気通貫しての行う活動の蓄積を『ビジョニング』と定義しています。
AI(アプリシエイティブインクワイアリー)が、昨今、注目を浴びているのは、VUCA時代 (Volatility(変動性) Uncertainty(不確実性) Complexity(複雑性) Ambiguity(曖昧性))が背景にあります。
社会情勢が不確実かつ不透明な現代で組織を成長させるには、個人を “資本” として捉え、「個人と組織」の共生が必然であり、 個人の能力・スキルを成長させる手法として活用してみられたらいかがでしょうか。
CX「感動体験」が長期的な業績向上をもたらす
2024年7月4日
高橋です。
私がコンサルティングをしている『営業プロセス研修』のエッセンスを、毎回お伝えしています。
今月のテーマは「CX感動体験が長期的な業績向上をもたらす」です。前回、CS(顧客満足)から新しいビジネスのヒントを見出すことをお伝えしました。今回はCSをさらにCX「顧客感動」のレベルに引き上げ、成果に結びつけることを考えます。
CX(Customer Experience)について確認しましょう。昨今、お客様のニーズは多様化しており自社の独自性や競合との差別化が難しい時代と言われます。そのような中、「顧客体験」をどのように向上させていくかが重要視されています。「顧客体験」とは商品やサービスを購入したり消費するプロセスで顧客が体験する価値を指します。CXはその「顧客体験」にどのような価値(経験価値)を持たせられるかということです。
例えば顧客がスーツを購入する場合、スーツそのものの質の良さや着心地だけでなく、「ネットで検索すると自分の欲しかったスーツがすぐに見つかった」「店員の対応が素晴らしく気分よく試着できた」「買った後も寸法のお直しに応じてくれた」「次の購入に使えるクーポンや特典がもらえた」など様々なポイントでお客様に「また買いに行きたい」と思っていただける工夫をすることです。
CXを考える上で大切なことは、顧客の立場で何をしてほしいのか、何をしてもらうと感動レベルになるのか想像することです。顧客がしてほしいと思うであろうことを前もって準備して実行する、そういった取り組みが顧客の期待を越えた「感動」を届けることになります。
事例を見てみましょう。
東京ディズニーランドは「夢の国」として感動の宝庫ですが、小さなことからもCXを提供しています。おつりが300円で百円玉3枚の時、手のひらに3枚をミッキーマウスのように並べて返してくれるそうです。またレストランのテーブルに用意されたナプキンはミッキーとミニーをかたどった折り方で食事を感動体験へアップグレードしています。このように小さな感動や驚きがクチコミで評判となりファンの中で「また行ってみたい」となります。
スターバックスはただコーヒーを提供しているわけではありません。スタッフのフレンドリーなあいさつや応対、ゆったりとくつろげるソファ、センスの良い音楽、などすべてが「サードプレイス」家庭でもない職場でもない、自分らしくいられる第三の居場所を提供しています。つまりスターバックスの空間そのものがCXを体現していると言えるでしょう。
このように顧客の感動を呼ぶ取組みCXが、ファンを作り、そのファンがクチコミや評判でさらにファンを作るという好循環を生み出します。一度ファンになっていただくと、広告をしなくても、キャンペーンにお金をかけなくてもリピートしていただける、離れないお客様になっていただけるのです。長期的に見て、CXでファンを作ることが業績の安定と企業の発展に寄与します。
お客様にどのような感動体験を提供できるか、一度考えてみられてはいかがでしょうか。
営業プロセス、営業研修、人材育成、セールスコーチなどをご検討の経営者・経営幹部・リーダー・士業の方はお気軽に弊社にご相談ください。
新規事業の旅122 アントレプレナーとイントレプレナー
2024年7月1日
早嶋です。(約4200文字)
(アントレプレナーとイントレプレナー)
続けて発音すると舌を噛みそうになるが、アントレプレナーは起業家でイントレプレナーは社内起業家だ。アントレプレナー(Entrepreneur)は、独立して自分のビジネスを立ち上げる人を指す。今の職を辞めて、新しい事業を開始することが多い。イントレプレナー(Intrapreneur)は既存事業の内部で新しい事業やプロジェクトを推進する人を指す。企業内での起業家精神を発揮し、新しいアイデアや事業を育てる。どちらも新しいアイデアを追求して、リスクを取る時点に置いて共通している。一方で活動の立場が異なる点に差異がある。
(メリットとデメリット)
双方のメリットとデメリットを整理した。参照して欲しい。
アントレプレナーのメリット
ヒト: 自分でチームを選び、自由に採用・組織編成が可能
モノ: 必要なリソースや設備を自分で選定し、投資を得る
カネ: 事業の収益は自分に帰属し、資金調達の自由度が高い(投資家やベンチャーキャピタルからの調達など)
ジカン: 自分のペースで仕事を進めることができ、スケジュール管理も自由
イントレプレナーのメリット
ヒト: 既存組織の内で人材リソースを活用可能、必要に応じて社内の専門家に相談・協力が可能
モノ: 既存の設備や技術を利用できる、新たな投資が不要な場合が多い
カネ: 企業内の予算や資金を活用できる、個人での資金調達のリスクがない
ジカン: 企業のサポートを得ながら進める、比較的安定した環境でプロジェクト進行が可能
アントレプレナーのデメリット
ヒト: チームの立ち上げには時間と労力がかかる、適切な人材の確保が困難
モノ: 初期投資が大きくなることが多く、必要な設備や技術を揃えるのにコストがかかる
カネ: 資金調達が難しい場合や、資金繰りに失敗した場合のリスクが高い
ジカン: 初期段階では長時間労働が必要と、プライベートの時間が犠牲になる
イントレプレナーのデメリット
ヒト: 組織内での人材選定や組織編成に制約があり、自由度が低い
モノ: 既存のリソースや設備に依存するため、新たな技術や設備導入が難しい
カネ: 予算に依存する、資金使用に制約があり、迅速な対応が難しい
ジカン: 企業の方針やスケジュールに従う、自分のペースで進めることが難しい
(アントレプレナーとイントレプレナーの特性)
これらからアントレプレナーとイントレプレナーの得手不得手が見えてくる。業種や業界、事業内容についてある程度法則めいたことが言えないだろうか。
アントレプレナーが成功し易い業種や業界や事業内容は、技術革新だ。スタートアップは、新しい技術やビジネスモデルを迅速に取り入れることが特徴だ。大きな組織はスピードが遅いので難しさを感じざるを得ない。昨今はクラウドの発達で、プログラミングやソフトウェア開発など、小規模でも始められ、迅速な市場投入が可能だ。バイオテクノロジーもAIやクラウドの活用によってスピード感が重要になりアントレプレナーが立ち回りやすい。
資本が小さくても良い業界もアントレプレナー向きだ。例えば、コンサルティングやデザインなど、初期投資が少なくても始めやすい。オンラインショップの立ち上げも比較的低コストで可能だ。それから大企業が狙わないニッチ産業は基本だ。特定のコミュニティや特徴にフォーカスした顧客に特化したサービス提供等は、大きな組織はぼんやりとしか対応しない。アントレプレナーとしては始めやすい領域だ。
イントレプレナーが成功しやすい業界は大規模な資本を必要とする事業だ。何らかのテクノロジーを展開する際、大規模な設備投資が必要になる。製造業などは、既存のリソース活用を行いながら資本利用するほうが有利だ。エネルギー業界なども同様だ。発電施設や配線網の設置には莫大な時間とコストが必要になる。
それから規制が厳しい業界なども、イントレプレナーが向いていると思う。金融、医薬などは規制やコンプライアンスが厳しい。既存の企業内で新サービスを立ち上げ、業界や政府と交渉を進める方が良い。新薬の開発も長い時間と多くの資金が必要だ。既存のリソース活用は有利に働く。
同じ文脈で、既存の経営資源が活用できる事業もフィットする。消費財などは、一定の認知度を得た企業が新商品を投入するほうが市場にリーチし易く初期の購買を誘いやすい。メデイアなども既存のプラットフォームを活用する場合は、展開はしやすくなる。
アントレプレナーは、技術革新が求められる業界や、少ない資本で始められる事業内容がトッカリとしては良い。また、ニッチ市場は大手企業は無視しているので初期の競争優位を築きやすいのだ。一方、イントレプレナーは大規模な資本が必要な業界や、規制が厳しい業界、既存のブランド力を活用できる事業内容で成功しやすい傾向がある。
(資金調達)
ただし、上記は資金調達を無視している。アントレプレナーの醍醐味は出資を受けて資金調達をすることだ。もちろん、イントレプレナーも同様の可能性はあるが積極的に資本政策を活用した発想に及びにくい。理解を深めるために外部の資金を活用するメリットとデメリットを整理する。
メリットは複数ある。まずは資金調達によるリソース確保だ。アントレプレナーが外部から資金を調達する際に、信用が低いので金融機関から大きな金額は引き出せない。そこで一定のリスクを鑑みるベンチャーキャピタルやビジネスエンジェルなどを通じて資金を調達する。当然、出資した個人や組織は、将来その事業が成長して株価が高くなることを期待するので、事業に関する情報や人脈を紹介したり提供したりする。結果的に必要な設備や人材が集まりやすくなる傾向がある。
十分な資金調達は、スケール拡大を促進する。資金を適切に活用して事業を急速に拡大し、大きな市場を狙うことができる。もちろん他に、資金を研究開発や製品開発に投資し、市場投入までの時間を短縮することもできる。既に商品ができていれば、その認知と販促に資金を投じて販売を増やすこともできる。
一方でデメリットも存在する。外部の投資家から出資を受けることで、経営の自由度が制限される可能性だ。投資家は、将来の株価を高める方向で支援をしたがるが、アントレプレナーとして不都合になる場合も想定される。ベンチャーキャピタルなどは、資金を他から集めて、それを投資する。そのため投資した企業のガバナンスを強化する方向性が強まる。経営の透明性や資金使途の具体化は、初期のアントレプレナーにとっては体制整備がコストとなる場合もある。
当然、資金を大規模に投じるとリスクも増大する。事業スケールを大きくすると、従来と異なるオペレーションや体制が求められる。ただこれは成長する組織は必ず通る道でもある。
アントレプレナーが出資を受け大規模な取り組みを行うことで、事業を急速に成長させることは可能だ。出資者のネットワークや経験を活用して事業を加速できる可能性は魅力的だ。一方で、出資を受けることで新たな責任やリスクが発生する。当たり前だが、成長ステージに応じた適切な計画とマネジメントはどの道必要なのだ。
(資金調達を得やすいアントレプレナーの特徴)
実際、出資を外部から受ける際、誰でも彼でも資金調達ができるわけではない。最後に、どのようなアントレプレナーが結果的に出資を受けやすいか特徴を整理してみた。
1つ目は、酷だが過去の成功だ。シリアルアントレプレナーは過去に成功した経験があるので2回目、3回目の起業を連続的に行う。そのため経験が増し、その結果資金調達がしやすくなる。ただ、この条件を持つ人はごく限られるので2つ目以降の王道を参照して欲しい。
まずは概念的な要素で明確なビジョンと戦略だ。一定の資金を人に投資するのは美談だ。やはり一定の頷ける要素は欲しい。その代表が長期的なビジョンと具体的な戦略だ。話を聞いて、投資と将来の可能性がイメージできることは必須だ。ここには展開する事業構造や市場構造の理解も無いよりはあった方が説得力がます。市場、競合、マクロ環境の洞察を行った上で、自分たちの仮説が立証できる可能性を示すのだ。
次は、属人的な要素だ。強烈なリーダーシップとチームを管理する能力を見る。ビジョンが大きいほど、大規模な組織になる。その際に、リーダーシップとチーム管理する能力、あるいはそのネットワークを持っているかを見られる。可能性が大きいと判断するとチームを提供する投資家もいるが、大抵の場合、そこまで手厚いフォローを始めからしない。
そして、何よりも口先、顎先で終わらないことを信じたい。アントレプレナーの行動力と結果を検証して前進するエネルギーに投資する。ビジョンや戦略が秀逸でも、その取っ掛かりはアントレプレナー以外はできない。その一歩目を泥水を飲みながらでも行っているかを見ている。出資が集まれば行います。的な人材には残念ながら可能性を1ミリも感じない投資家が多いと思う。
後はあえて色々書くとすると柔軟性や適応力だ。ただ実行力がある方の多くは、その行動の結果を適宜検証して修正していくので、結果的に柔軟な対応を取れる人材が多い。出資を受け、大規模な取り組みに進む際に、計画通り進まないことが殆どだ。その際の状況対応や戦略変更等は要素として必要だ。ただ、出資をする際に判断ができないので、今、もしくは資金調達の交渉をするまでに、当人がどのように行動したかの過去からしか判断できない。
最後は、コミュニケーション能力だ。当然、投資家にビジョンや戦略を整理して伝えている時点で一定の高いコミュニケーション能力を保有している。少ないチームで試行錯誤してその取組をチームや利害関係に伝え議論が出来ている時点で一定のコミュニケーション能力を担保していることになる。
今回はアントレプレナーとイントレプレナーの特徴について考察した。企業内でイントレプレナーを養成する場合の参考になるのでは無いかと思う。ここまで改めて整理した結果、イントレプレナーにとって、最も重要な要素は、今行動しているか?に尽きると思う。頭でっかちで計画や企画ばかり書き、口八丁、手八丁で上司を口説くだけの人間はあまり役に立たないと思うのだ。
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新規事業の旅 121 必要は発明の母
2024年6月30日
早嶋です。
熊本で新規事業の議論をしている際に、「蛸」の話を聴いた。蛸の消費が世界的に増え、環境要因で漁獲高も減り、結果的に価格が高騰しているそうな。将来、たこ焼きが超高級食品になるというのだ。
実際、いくつかサイトを調べて見ると、タコの消費量は世界的に増加している。複数の要因が見えた。まず、タコの需要は特にアジア、ヨーロッパ、北アメリカで高まっているのだ。例えば、アジアでは、日本、韓国、中国などの国々での消費が顕著で、ヨーロッパでは、スペインやイタリアが主要な消費国だ 。アジアの需要は休息な産業の発展と人口の増加で、胃袋が増加していることは想像し易い。
タコの市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)3.3%で成長すると予測されている。この成長は、タコが健康的で持続可能な食品としての認識が高まっていることに起因されているようだ。特に、低脂肪で栄養価が高いタコは、健康志向の消費者に人気が出てきたのだ 。
このような傾向が高まれば、タコの養殖も盛んになってくるのだろう。が、タコは難しいようだ。養殖技術一般に言われることだが、タコの生態系を再現するのがハードだ。タコは非常に複雑な生息環境を持つ。彼らは隠れ家や複雑な岩場を好み、こうした環境を人工的に再現するのにコストがかかるのだ。
また、タコは肉食で、特定の種類の甲殻類(エビやカニ)や魚を食べることを好む美食家で、これらの餌を安定供給すること事態コストが高いことを想像できる。更に、タコの成長速度は遅く、繁殖も自然環境下では季節的なので、養殖環境での繁殖を促進する技術がまだ確立されていないのだ。繁殖の成功率を高めるためには、適切な温度、光、栄養の管理が必要なことは分かっているが、まだ道半ばとか。
成長が遅いのと知的能力は比例するのだろう。タコは非常に賢く、パズルを解く能力や物を操作する能力がある。従い、養殖施設から逃げ出す可能性がある。彼らは狭い隙間を通り抜けたり、蓋を開けたりすることなど朝飯前なのだ。更に、知的能力が高いせいか、ストレス環境に非常に敏感だ。ストレスがかかると、自分の足を食べる自己切断(オートファジー)や、他のタコと共食いする行動を取ることがあり、養殖の実現の課題となっている。そして、タコは一般的に単独で生活する生物で、他のタコと一緒に飼育すると、互いに共食いするリスクが発生するのだ。特に、食糧不足や高ストレスの条件で顕著だとか。
タコに関しては、養殖で解決する将来はまだまだ先だと思う。
ところで、タコのように天然資源で獲得等が難しくなると、通常は養殖や代替などの事業が盛んになっていく。これらの理由を整理してみた。過剰な漁獲や環境破壊により、野生の魚資源が減少し、持続可能な漁獲が難しくなること。魚資源を巡る競争が激化し、漁獲量を確保することが難しくなる場合。タコやマグロのように、国際的な漁業権の争いが影響することもある。そして環境。気候変動や水質汚染などの環境変化により、魚の生息環境が悪化し、漁ができなくなることだ。最後にコストだ。天然の魚を獲るコストが上昇し、経済的に養殖の方が有利になる場合だ。
食料資源にフォーカスしたが、エネルギー資源はまた別の視点が加わって面白い。例えば、石油市場では、埋蔵量だけでなく需要と供給のバランスが重要な役割を果たす。石油の価格は、基本的には需要と供給のバランスによって決まり、需要が高まり供給が追いつかないと価格が上昇し、逆に供給が過剰で需要が低迷すると価格が下がる。石油の価格が上がれば、採掘コストが高い油田や技術的に難しい地域での採掘も経済的に実行可能となり、新たな埋蔵量が実質的に増えることがある。これは、価格が上昇することで、高コストの石油資源が商業的に利用可能になるためだ。新しい採掘技術や探査技術の進歩もある。結果、経済的に不可能だった埋蔵量が利用可能になり埋蔵量が増えるのだ。米国のシェールオイルの採掘技術の進歩はまさにこの事例だ。後は市場の期待と投資の関連もある。石油価格の上昇は、新たな探査や採掘プロジェクトへの投資を促進する。そして長期的には供給の増加に繋がる。また、逆に価格が低迷すると、探査や採掘の投資が減少し、将来的な供給に影響を与える可能性も当然あるのだ。
半導体等に用いられるコバルトや他の希少資源も興味深い。供給が特定の国に依存している場合が多く、結果的に、代替品の開発や新しい供給源の発見が進む可能性が高いのだ。技術革新により従来の資源を必要としない代替材料や製造プロセスが見つかることがある。半導体産業では、シリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)といった新素材の利用が進んでいる。使用済み製品から希少資源をリサイクルする技術が進展することで、新たな採掘に頼らずに資源を確保できる取り組みもある。特に、電子廃棄物からのコバルト回収技術が進んでいる。もちろん、地質調査や新しい採掘技術の進展により、以前は経済的に採掘が難しかった場所から新たな資源を採掘できるようになることも今後あるだろう。特定の国が資源供給を制限すると、その資源の価格が上昇する。この価格上昇は、他の企業や国々にとって新たな供給源の探索や代替品の開発を促進する強力な動機となる。各国政府は、戦略的な資源供給を確保するための政策や規制を導入し、国内の資源開発の奨励や国際協力の促進が進むのだ。
天然資源としてタコ、石油、コバルトなどの希少資源について考察を深めたが、多くの要因が組み合わさることで、特定の資源に依存しすぎるリスクを軽減し、代替品の開発や新しい供給源の発見が進むのだ。これらを整理すると、次のような議論としてまとめることができる。ここは新規事業を生み出す際の着目点としても意味ある視点だ。
(資源依存)
組織が外部の資源に依存する程度が組織の行動や戦略に影響する。特定の資源に対する依存が高い場合、組織はその資源を確保するために特定の行動を取る傾向がある。
(代替効果と価格弾力性)
資源価格の上昇で、その資源の代替品を見つける動機が強まる。価格弾力性の高い市場では、価格の変動が消費者行動に大きな影響を与える。
(技術革新と資源代替)
技術の進歩は、新しい材料や製造プロセスの開発を促進し、従来の資源に対する依存を減らす。これは技術革新や創造的破壊として理論されている。
(サプライチェーン理論)
サプライチェーンの管理と最適化に関する考えだ。特定の資源供給が制約される場合、企業は他の供給源を探したり、供給チェーンを多様化することでリスクを管理していく。
(地政学的なリスク)
資源の供給が特定の国や地域に依存する場合、その地政学的リスクを管理する必要がある。資源の多様化やリサイクル技術の推進が考えられる。そして環境保護や持続可能な資源利用を重視すると、限りある資源を持続可能な方法で利用し、将来の世代のために資源を保護する動きが加速するのだ。
必要は発明の母。ピンチの状況がトリガーになって、新しい物質や概念、代替品や技術が生まれるのだ。
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