早嶋です。
ダイナミックプライシング。これは、需要バランスに応じ商品価格を高頻度に変更する仕組みだ。ホテルや航空業界では1980年頃より導入されている。自由化に伴い座席価格を航空会社が管理できるようになり、米国航空会社は季節や休祝日などの座席需要にあわせて価格を変化させたのが始まりだ。
この動きは、欧米を中心に広がった。ツアー料金、高速道路、電気料金などの商材にも拡大していく。日本では、ホテルや観戦チケット、ネット小売業等で導入が進み、ネットの普及とデータ取得が容易になり始め実店舗での導入事例も出始めている。
JALやANA、他の航空業界のチケット価格を見ると、盆暮正月やGW、シルバーウィークなどのチケットが高騰している。ホテルや宿泊業業界でも同様だ。ゴルフ場などでもシーズンによってプレー料金が異なっている。ここに対して大っぴらに文句を言う顧客はすくない。一定の文化として定着しているのだ。
USJは2019年頃よりダイナミックプライシングを導入し始め、細かな価格変更の導入で収益を改善している。アパホテルは立地条件毎に近隣のイベントとリンクして金額を瞬時に細かく設定する仕組みを取り入れている。例えば、近隣のホテルが1万円の部屋しか空きがなくなったことが分かれば、自分たちのホテルの部屋を1万1千円に値付けし販売するのだ。
手法は、航空業界や他の宿泊業界と変わらないのに、頻度や粒度が一定の顧客から不満の対象になっているのは事実だ。しかし、USJもアパホテルも需給バランスを近年のデータ分析の技術を活用し超合理的に実現している事例に過ぎない。当然に、固定費かさむ事業モデルで空気を貸すよりは安く提供するし、可能性が高い場合は高値で交渉することで収益を最大化できるからだ。
ホテル、飛行機、アミューズメント施設等々。一定時間に一定人数しか利用が出来ない設備投資型の事業は固定費が大きく、利用客がいない場合も、一定の固定費を負担しなければ事業が成り立たない。そのため需給バランスに応じながら価格をダイナミックに調整することで営業利益を最大化することができるのだ。
ここまで読んで顧客のことを考えていないのではと思う方もいるだろう。しかし顧客は一般的な言葉になったが企業における顧客はあくまで企業が定義した顧客だ。全ての市場にいるポテンシャルを顧客としているのではなく、その中から絞った一定の顧客を定義しているのだ。
例えば、従来の顧客は価格が一定だと思っている。あるいは、盆暮正月は高いが、普通の日に、隣の街でコンサートがあるから急に値段が上がるなんて。。という状況には嫌悪感や不信感を感じる顧客も居るだろう。一方で、金額に関係なく、その立地条件で一定のサービスを常に受けたい顧客もいるだろう。どちらの顧客が正しいかといえば、どちらも正しいのだ。
ダイナミックプライシングはまさに戦略だ。正しいか間違いかの判断はない、合法だし、合理的だ。しかし自社がターゲットにしている顧客にその合理性を説明して受け入れてもらうことができなければ導入できないだろうし、全てにいい顔をしてきた企業は到底意思決定はできないのだ。
戦略は正しい、間違いの判断を追求するのではなく、する、しないを決定する取り組みなのだ。このように考えたら日本企業、しかも固定費を沢山かかえて事業をおこなう取り組みを行っている企業の多くはダイナミックプライシングの議論をしたとしても、結局は意思決定できずに、業界全体の様子を見ているろころだろう。一部の意思決定できる企業のみが導入して、まさに先駆者的な益を獲得しているのだ。
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‘戦略’ カテゴリーのアーカイブ
新規事業の旅89 ダイナミックプライシング
新規事業の旅88 よく見る風景
早嶋です。
新規事業に関わるかな、比較的規模が大きい組織の中でよく見る景色がある。
・新規事業の方向性を示さない
・新規事業は飛び地を意識している
・新規事業は若手に任せている
・新規事業の担当者が既存事業のことを知らない
・M&Aで新規事業をなんとかできると思っている
(新規事業の方向性を示さない)
経営者の仕事は、事業ポートフォリオをどうするかだと思う。企業が掲げるミッションを達成するために自社のビジョンを示すが、その実現には既存、あるいは将来の事業ポートフォリオをどうしたいかの意志が極めて重要だ。そしてこれらを議論して意思決定することそのものが企業戦略になる。しかし、企業全体として新規事業を進める分野を絞り、資本をどのくらい投下すべきかの議論をせずに、新規事業に取り組む組織を多数観察している。
(新規事業は飛び地を意識している)
アンゾフのマトリクスがある。顧客や市場と、商品(製品・サービス)や技術を2軸に取り、既存と新規で軸の広がりを表現することで4つの領域ができる。新規事業とした場合、新規顧客✕新規商品のイメージ、いわゆる飛び地の事業を立ち上げる認識をなんとなく持ち取り組む企業が多い。が、うまくいく確率が極めて低い。城跡としては、既存顧客や市場に対して、ちょいと新しい商品や技術を提供することで商品や技術の領域を増やし、次のその取組をちょいと新しい顧客や市場に提案して売上を作るのだ。この行動を継続的に繰り返す中で、一定の時間軸が経過した場合、結果的に新規顧客✕新規商品の飛び地の事業ができているのだ。いきなり飛び地を目指すのではなく、プロセスをクリアにしていくことが大切だ。
(新規事業は若手に任せている)
新規事業だから若い社員の発送に任せたいという気持ちは分かる。しかし実際は、年齢を取った社員はアイデアや発想がなくて諦めている、若手よろしくね。的な丸投げにも聞こえる。しかしもし若手が新規事業を行うような要件を持っているとしたら、そもそもあなたの会社にはいらないだろう。と思うのだ。大きな組織で仕事をするのではなく、自分でベンチャーを始めるか、そのような組織にはじめから入り、能力を発揮しているはずだからだ。
(新規事業の担当者が既存事業のことを知らない)
若手を交えたチームを組むことが多いことにも関係するが、自社の他の事業がどのようなメカニズムで収益を挙げているのかを理解していないチームがあまりにも多い。従い、自社が有する資源を考えないで、まっさらのアイデアを出しまくる。一見よさそうだが、資源を有効活用しても難しい取り組みが、更にハードルが高くなっていることに気がついていない。活用する、しないは別にして、自社の資源や特徴や強みを徹底的に理解することが大切なのだ。
(M&Aで新規事業をなんとかできると思っている)
残念ながらM&Aは、これ以上収益を上げることが出来ないから、出口戦略の一手として売却を考えるのが売り手の発想だ。一部、成長過程において、安定株主のもと資本を入れてもらい成長を加速したいと考える売りては確かにいる。が、そのような企業は成長期の事業をバリバリ行っていて、普段からベンチャーや様々な資本家とやり取りをしている企業だ。それ以外の普通の事業会社がM&Aで新規事業を仮に変えたとしても、とても高い金額になるし、買ったあとのマネジメントができないので、M&A後、企業価値を落とし負ののれんの償却をする始末になるのだ。
新規事業を始めるためには、少なくとも自社のポートフォリオをどうするかを明確にして、新規事業の領域を企業として戦略的に決めることが最低限必要だ。その上で、自社で行う部隊、提携や資本提携を進める部隊、そしてM&Aを進める部隊の3つの手法を連携しながら進めていくのがポイントだ、。どれがあたるか分からないので、新規の立ち上げに対してもポートフォリオを組むのだ。そして、一定の期間で使える予算を確保して、丹念で使うのではなく期間で使えるような柔軟な資本を準備する。加えて、新規事業に携わる人財の評価を既存と分ける。一定期間の関与度合いに応じて、新規の評価を行うことがポイントだ。単年度や四半期で成果がでないからだ。
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新規事業の旅87 無線給電
早嶋です。
東芝は12月5日に、マイクロ波を使い非接触で電力を給電するシステムを開発した。
(概要)
– 離れた場所に無線で狙いを定めて電力供給が可能
– 周辺で使用している無線LAN(Wi-Fi)通信と干渉しない
すごい技術だ。電子化が進む中、充電は常に課題に挙がっていた。この技術は、工場の製造現場や物流倉庫などにおけるDX可を更にすすめることになる。センサを付けてデータを取得してサーバーに送る際、各センサに電力を供給する必要があった。バッテリーか有線で電力を供給する必要があるため仕掛けが大掛かりになる。それが、今回の技術を活用することで、設置が非常に簡略化される。ありとあらゆるデータを連続的にクラウドにためてデータを解析する仕掛けが飛躍的に高まることが分かる。
IoT同士のデータは、10m以内であればBluetooth等で通信が可能だ。クラウドに送信する場合は、短距離の無線規格で情報を端末に集約して、その端末からクラウドに通信を行うなどの工夫をすると通信代も節約できる。この手の技術は別分野で進んでいる。
今回の東芝の技術が世の中に実装されるのは法的な整備を見て2025年頃になる。工場、物流、農業、医療、教育、道路交通、インフラ等々、ありとあらゆる業界でデータ化が当たり前の世界が日常になり、リアルタイムで現状を把握し、将来をシミレーションする世界がやってくる。
ワクワクするね。
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新規事業の旅86 スケールする前後の組織
早嶋です。
成長戦略を取らない企業は、将来のキャッシュフローが低迷することを意味し、株価が低下する。資本家はもちろん、事業を執行する側も都合が悪い。一方で、新規事業で安定したキャッシュを生み出すことは簡単ではない。
企業の成長は、アイデアだけではどうにもならず、資金や実行するための人材が必要だ。資金提供者はデットの場合は利息と元本保証。エクイティの場合はキャピタルゲインと配当を期待する。当然にそのような事業は、顧客や市場から求められ需要と供給のバランスを調整し続ける体力が必要だ。
新規事業の場合は、その挑戦が将来に向かい、今は実現が厳しくとも将来に実現する可能性が高まればエクイティによる資金は調達しやすくなる。それは、将来の顧客、つまり市中にいる一般消費者の生活の向上や質や豊かさにつながる。このような挑戦がある限り、世の中は便利になり続ける。
そのために事業化は、現在取り組む事業をスケールさせる必要がある。チマチマ取り組んでも、投下した資本を回収することができない。更に、同じようなイノベーションは模倣されるので、一定の可能性が見えた時点で資本を大きく費やす必要もある。
ここに新規事業のジレンマが現れる。新規の創造や仕組みを作るまでの取り組みは試行錯誤や個性やユニークさが求められる。一方で、プロダクトが出来て、一定のテストマーケティングで確認できた後は、標準化、仕組化、汎用化が鍵になる。同じような取り組みを横展開する、コピペして広域で実現可能な状態を作る。ここには個性が邪魔になる場合が発生する。
これまで新規で創造で実力を発揮した社員、0⇒1(ゼオイチ)よりも、従来の枠の中で10⇒20⇒100を続けた社員が活躍できる可能性が高まる。事業がスケールする前後に、従来の新規部隊人材がモヤモヤして個性を活かせないと感じるが、役割がことなることを理解すべきだ。これは事業を執行する側も叱りだ。
スケールに移行する前後は、従来から取り組んで新規チームとコミュニケーションを取りながら、本人の意向や特徴を踏まえて、スケールの取り組みに残すか、新たなイノベーションの開発に異動させるかを判断する。さもなければ、そのような社員が自分の役割をマイナスに感じ始め組織をでる結果になる。
新規でイノベーションを創造する役割と、イノベーションを標準化して仕組みに落とす役割。役者が違うのだ。全社は個人や個性や創造性が重要で、後者は標準化や汎用性が大切だ。スケールの次期は、異なる2つの塊が、汽水域のように混じり合う。どちらが淡水でどちらが塩水かを見極めながら事業の思考者は組織を構築するのが肝になる。
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新規事業の旅85 生成AI1年の誕生日
早嶋です。
ChatGPTが公開されて1年が経過し、生成AIの活用は着実に浸透している。経営者や創造的な仕事をする方の多くは、生成AIと対話することで考えの整理やヒントが芽生えると言う。従来は人を通じて壁打ち相手をしていたのが、ここ1年は生成AIもその仲間の一人になっている。
生成AIは普通の言葉でコンピューターを操作できるのが特徴だ。一方で、その活用は企業や個々人で様々でアイデア次第だ。仕事の軽減、効率化の裏には仕事を奪われる恐怖や自分の存在感を下げるおそれなどが葛藤して保守的な企業ほど導入の遅れが目立つ。仕組みを理解すると機密情報の漏洩のリスクは低く、著作権侵害などの取り組みは進行中であることがわかる。紙媒体や自社のネットワーク技術で情報が漏れないリスクが遥かに高いかなどは議論せず、新しい技術の負の面のみをみる傾向は今も昔も変わらないのだ。
新しい技術の導入の鉄則は、「やってみなはれ」だと思う。例えば企業の中で優秀な10人をピックアップして、プロジェクトをスタートする。生成AIを活用して日常の業務効率を10倍、100倍上げる成果を求めるなどゴールを設定する。モノが分からない場合は、まずは使ってみて、成約を設けず一定の予算と権限を与えて遊んでみるのだ。
一般的に、商談資料の作成や営業実績との分析、議事録の要約や、毎日の日報、週報、月報の作成補助や要約、市場調査などの活用はすぐに応用できることが分かると思う。後は、一定の使用領域を決めて上げれば、従業員にはプロンプトのコツを研修や動画などで提供してOJTを行うと、一定の成果が目に見えて出ることが分かる。企業によっては、生成AIの活用を一定限定して、社員は特定の命令を出したり、文章を指示するだけで、所望の成果がでるように丁寧に誘導するチームもいる。プロントの雛形をある程度準備しておくなどだ。
複数の企業の導入を見ていると、技術的なバックグラウンドがなくても利用率は6割を声、業務の効率があがり時間の削減につながっているという報告を聴く。
コンサルや情報を分析する企業においては、まずはリポート作成などの作業を激変させている。景況や個人消費、企業の各活動項目等、従来人がデータベースから読み取り要約していた作業をAIで読み取り、タイトルの提示、項目の提示、要約例の提示をするのだ。後は、編集担当者が体裁を整えてレポートの大枠が完成するのだ。ただし、コンサル等、情報を売る企業は、その正確性が課題だ。何も工夫を加えないと、生成AIは関連性をベースに文章を作成するので、人間が読むと事実とは異なる文章を提示する可能性もある。そこで、引用元を明確にして、原典を確認しやすくするなどの仕組みが現在、有効な手段として取り入れられる。このような作業を人が行ったとしても、レポート作成の時間は半減し、ファクトのチェックにより多くの時間を避けるようになっているので効率も高まっている。
生成AIが出た当初、米国の経済学者は雇用の約半数は生成AIによって奪われると主張された。実際、上述のように業務によってもばらつきはあるだろうが、4割から6割が生成AIを活用することで効率的になり仕事の質が高まっている印象を受ける。奪われるという発想よりも、補完関係になっているとも考えることができる。
米国スタンフォード大学の研究者が示した見解がある。AI関連の特許が、ソフトウェアのアルゴリズム生成やロボットの制御など、比較的高いレベルが要求される分野において多いという指摘だ。つまり近年のAIは物理的な作業よりもコーディングや創造的な仕事が得意で、これは高いレベルを必要としない仕事は依然として人の手が必要になるという示唆だ。
また、生成AIを活用した実験で、元々文章力が高い人がChatGPTを活用して書いた文章と、文章能力が低い人が活用して書いた文章では、生産性の工場は能力が低い人が圧倒するという実験結果もある。カスタマーサクセスでの応用事例でも、生成AIを活用し始めると成績上位者よりも中から低位者の成績が高まっているという。
つまり、生成AIの活用を自分の能力や仕事の種類によってうまく補完関係を見つけ出せれば、従業員のスキルを一様に底上げすることができるということが見えてくる。
例えば、頭の回転が早いが、報告書や指示書の作成が苦手な人には、文章作成やレポート作成の手伝いをAIを使って行うことで、より創造的な仕事に時間を活用することが可能だ。逆に、テレオペレーターのように言われた事は正しく伝える事ができるが、自分で考えることが苦手な方には、AIが的確な指示や判断をすることで、その内容を相手に正しく伝えることができるようになる。従来難しいとされていたカリスマ的なサービスも一定のレベルの人であればAIとタッグを組むことで成績を底上げすることができるのだ。
セールスエリアなどは、顧客の抽出や次のアポイントのタイミングをAIが行うことで、営業のイチ番地である商談により多くの時間を充て成果を出すことも可能だ。また、カスタマーサクセスを他の部隊に渡すことによって、総合的な管理や気遣いが不要になり、一定のスキルを持つ営業でもAIとチームの活用によって全体の成績を上げることができるようになった。
という事は、まだまだしばらくはAIが完全に仕事を奪うのでなく、自分が苦手な分野にうまくAIを活用して、得意な分野に仕事をフォーカスするツールとして捉えると、後数年は気楽に仕事ができると思う。その先は、また状況を鑑みながら取り組むしかないだろう。仮にAIがすべての仕事を奪ったとしても、経済は今より豊かになっていることだろう。その時はベーシックインカムを受けて、自分な好きな時間を好きなだけ過ごせることができて、それはそれでハッピーだ。
何事も悲観的にみるのではなく局面を見て自分を変化させる柔軟性が大切なのだ。
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新規事業の旅84 ベンチャー企業
早嶋です。
ベンチャー投資は、今後成長が見込まれるベンチャー企業に投資をし、上場などを出口戦略として大きなリターンを狙う投資だ。
典型的なベンチャー企業は8年程度を費やして上場を目指す。会社設立は1,000万円程度の資本金ではじめ、6ヶ月程度で事業アイデアをカタチにするための資金を集める。シードステージと呼ばれ、そのアイデアに対して企業価値5億を想定して1億程度の資金を調達する。その資金で1年程度で実際のアイデアを実現するプロトタイプを作り出す。
次に、起業から1.5年程度で、プロトタイプの商品を実際に販売して自分たちが立案するビジネスモデルを確立するフェーズに移る。いわゆるアーリーステージと呼ばれ、この頃の資金調達では企業価値30億円程度を見込み、5億程度の資金を調達して1.5年分の運転資金に充てる。このフェーズは、テストマーケティングを繰り返しながら、ビジネスモデルが成立することをカタチにする大切なフェーズだ。
設立から3年程度の資金調達のフェーズでは、確立したビジネスモデルで市場シェア1位とか2位を獲得するフェーズだ。ミドルステージと呼ばれ、この頃の資金調達は企業価値50億円相当で8億程度の資金を調達する。そして、その資金を1年程度の運転資金に充て、サービスの認知と営業やマーケティングを加速する。事業によっては海外への展開もスタートする。
この間でイメージ通りの流れになれば、徐々に赤字の状態を解消して黒字化するフェーズに移行する。調達した資金を燃やすのではなく、株式上場に向けて4年程度位の期間を費やして収益を出し始めるのだ。そして時価総額150億円程度で約8年程度の期間をかけて上場するのだ。そして最後はレイトステージと呼ばれる。
ベンチャー企業と中小企業の違いは赤字で沈み込んでジャンプする様だ。ベンチャー企業は、起業してから利益や出資金を全て事業投資に注ぎ込む。プロダクトを作り、テストマーケを行い、徹底的に営業や宣伝にお金を費やし仕組みを創るのだ。この間の赤字を上場する前の4年程度で黒字化して一気に利益体質の企業に変えていくのだ。
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新規事業の旅83 ペット保険にAmazon参入
早嶋です。
Amazonがペット用の保険に参入する。11月1日より申込が始まる。商品は「わんにゃん保険」。現時点でAmazonで検索しても出てこないので、報道の通り、初期はテストマーケティングをしている。曰く、18歳以上のアカウントで申込を無作為に抽出して一部の消費者に提供して、本格的に12月の中旬頃よりサービスを展開するという。
ペット保険の市場規模は1,000億円程度とされ、各社の保険商材をみると5歳の小型犬で2,500円から5,000円の月額課金だ。ペット保険に参入する企業は20社程度あり、最王手はアニコムHD。
国内で飼育されているペットは犬猫合わせて1500万から2,000万匹とされ、新型コロナウィルス禍で21年のペット(犬猫)の新規飼育頭数は過去最大の88万匹強が増えている。1,000億程度の保険市場も数年前は500億円規模だったので、規模自体は小さいにも関わらず成長事業になっている。
直近の動きでは、
・22年7月にチューリッヒが少額短期でペット保険の販売を開始
・23年1月にアフラックがグループ内のペット保険を引継ぎ営業開始
・23年3月第一生命がペット保険のアイペットHDを子会社化
・23年3月東京海上日動がアニコムHDと資本提携
・23年4月オリックスがペットメディカルサポートの保険を販売開始
等々、各社の動きが活発だ。ただ、人間を相手にした市場規模と比較して遥かに小さく、大手に取って手間がかかる割には収益の貢献度は低い業界だ。それでも人間の保険商材が縮小し、ペットを通じて飼い主や家族との接点を取る動きを重視するのだろう。
生保協会の発表では、22年3月末での人様の保険等収入の規模は32兆円。コロナ前の19年と比較して1割程度減少している。各社の経営は苦しくなり、より合従連衡が進み淘汰されることも予測できる。
一方で、新規参入の中小にとってはニッチではあるがそこそこ規模が大きい。ただ、自社の商材を知って頂くためのプロモーションコストが高くなかなか収益を出せないというのが現状だったと思う。
そこにAmazon。飼い主の多くは、Amazonでペット関連のグッツを買っているであろう。そこに対してペット保険を提案できるのだ。しかも過去の購買履歴からペットのサイズ、ペットへの愛情、ペットの年齢などを推定するのも用意だ。Amazonがペット保険の代理業務を始めれば、一定数の販売シェアを獲得する可能性が高いことが他人の目から見てもわかる。
ペット業界や保険業界からすると、Amazonの動きがただただきになるのではないか。そのうち、本丸の人様の領域にも入ってくれば、保険商材の提案も大きくかわるかもしれない。
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新規事業の旅82 バックキャスティング
早嶋です。
2024年問題。企業の中で様々な動きがあるなか、ユニ・チャームは商品の包装を更に工夫することで輸送効率を高める取り組みをしている。26日の日経新聞によると、大人用の紙おむつで、従来よりもパッケージの幅を12から13%圧縮したという。この改善でトラックで運搬する場合、搬出できる商品の従来比で1割以上増やすことができる。
おむつは不織布とウエストのゴム、それらを接着する接着剤で構成される。今回の小型化には、超音波を使って熱を発生させ接着剤を使わずに不織布とゴムを接着する技術を新たに採用したという。
この取り組みは、欧州で進められている循環型経済に対しての準備にもなると筆者は考える。欧州では2030年に向けて多くの商品(プラ、アルミ、ガラス等の商品や容器など)の完全循環を目指すという方針だ。接着剤などは、リサイクルする際の分別や回収が非常に手間になるので、ここの見直しを5年以上先をめがけて企業は取り組む必要があると思う。さもなければ欧州で売ることができないからだ。
ユニ・チャームが2024年問題を重視して取り組んだのか、そのさきの2030年の循環型経済を考えて取り組んだかは不明だが、企業として5年10年で世の中を予測してそのヘッジをしていることは間違いない。そんなに簡単に実現できる技術では無いからだ。考えて見ると、運送の問題で2024年問題などと言われているが、マクロ状況を見ていて少し先に労働人口が減ることは誰でもわかることだ。
このような手法はバックキャスティングと言われ、確実に起こりうる将来や可能性を考えて、今から手を打つ取り組みや手法だ。が、世の中、そんなにお利口さんではなく、目の前の仕事に追われていて時間が来ればなんとななると思っている思考がまん延しているようにも感じる。M&Aの世界でも跡継ぎ問題、後継者問題と称されるが、なんてことはない。経営者の想像力の欠如で、20年先の出口戦略を考えずに準備をしていないだけなのだ。
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新規事業の旅81 部下の視野と視点の狭さはあなたの鏡
早嶋です。
経営者やトップマネジメントは、自分たちの部下や社員に対して「視野が狭い、視点が低い」などと口にする。しかし、その根本は日常の自分たちのマネジメントが作り出した結果であることを理解すべきだ。
戦略の教科書の始めの項には、大抵ミッションとビジョンと事業計画の関係が記されている。戦略立案の際に、ミッションを確認し、その達成に向けたビジョンを整理することと。ミッションは企業の中で普遍であり、抽象度は高いが社会的な使命や企業の存在意義を示す。ビジョンは、その達成の経過地点を示すもので3年から5年先、あるいは100周年や2030年など、切りの良い時間軸で、定量的な目標を示すことが多い。売上や利益、事業ごとの内訳やシェアなどだ。
そしてビジョンを達成するために事業計画や中期経営計画を練り込み、この計画を基に事業年度の行動を規定していくのだ。
が、「視野が狭い社員が多い!」とボヤキが聞こえる企業になればなるほど、トップマネジメントや一部の管理職しか事業計画の中身を知らない。中間管理職以下社員は、事業計画を理解せずに、従来の延長で仕事に取り組んでいるのだ。
そして管理職が実は経営計画の理解不足であったり、戦略の理解ができておらず、結果部下に対してコミュニケーションが取れていない場合もあるのだ。自分が理解していないから部下や現場にも伝えることができないのだ。また、「伝えている!」という場合も、実際は経営計画などのダイジェスト版を掲示しただけとか、回覧板で回したなど、間接的なコミュニケーションに頼り、しかも部下の理解度を確認することもしないのだ。
視野を広く、視点を高くするためには、限られた仕事の流れ、つまりバリューチェーンの一部の仕事に邁進する社員に対して時折、教育が必要だ。OJTやOFFJTを活用し、自分たちの事業モデルがどのような背景で成り立ち、自分たちの部署が、全体のビジネスモデルの中のどの部分を担っているかを定期的に共有するのだ。社員がおのずから会社の全体像を知る行動に出るなど稀なのだから。
時間軸に対しても同様だ。社員は評価が四半期毎のノルマの達成など、短いスパンに限定されていることが多い。そのためマネジメントは、期のはじめや節目節目に、会社が見ているビジョンを達成した状況を社員に自分の言葉で語りかけることが大切だ。実際に、具体的なイメージは社員の想像力を掻き立てることになるし、イメージが明確であれば、現状と比較した場合の問題も明らかになって来る。
そして管理職の役割は、まさに将来を創ることだと意識しなければならない。過去の仕事をするのではなく、将来の在りたい姿に近づくための行動を取り、時折社員を巻き込むことに意味があるのだ。
このようなトップの基で数年育った社員は、自ずと全社、少なくとも事業部全体のことを考えた上で、今の任務をこなす視点になるのだ。しかも短期的な成果に加えて、常に事業計画で示された年度や少し先の将来の事業を捉える考えも持つようになる。
起業して間もない頃、ソフトバンクアカデミーで戦略の講師を務めていた。当時の孫さんは100年先を当たり前に見ていた。そのため勉強会に参加していた部長職は30年先を普通に語り、課長職は10年と時間軸が短くなるものの、他の企業と比較した場合の時間軸の長さは歴然だった。上述した考えを当時から体現していたのだ。
マネジメントが自分の部下や仲間に対して視野を広げ、視点を上げるコミュニケーションや教育なしに、「視野が狭い、視点が低い」というのは、自分自身に責任があると言わざるを得ないと理解できただろう。
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新規事業の旅80 業務提携と資本提携
早嶋です。
(前回(ゼロイチとM&A)までの確認)
例えば、企業の売上が70億で、数年後に100億を達成するという挑戦的な目標を掲げた企業があるとする。既存の事業が複数あり70億の売上を達成しているが、稼ぎ頭の事業は既に成熟期を迎えている。通常は、事業を継続させるのも難しい局面だ。
ここに対して、不足する売上をM&Aで賄おうとしても、結論から言えば、そのような案件が売りに出ていること自体が極めて稀である。仮に買収することが出来たとしても、その事業をマネジメントすることが難しく、買収した時の企業価値が最高値で減損する結果になることも多く観察できる。特に新規エリアでM&Aを行えば、事業会社から買収企業をマネジメントできる人材も限られており、戦略的なシナジーを出すことは非常に稀だ。
企業は、ミッションやビジョンの実現のために成長を選択するし、成長をあきらめる企業は衰退する以外ない。しかし常に新規事業を自助努力だけで行うゼロイチだけでは実現は難しいため、外部リソースを取り入れて成長を目指すM&Aも必要だ。既存事業の売上を増やす目的であればシナジーが読みやすく買収前調査のリスクも許容できる。しかし新規事業となると、実際は困難を相当伴う覚悟も必要なのだ。
基本は、自社の成長の方向性を議論して整理する。現状と在りたい姿のギャップを確認する。その不足する経営資源は、時間なのか、ノウハウなのか、経験なのか、販路なのか、何らかの技術なのか。兎に角、不足するギャップを徹底的に整理して可視化し具体化することが重要だ。ゼロイチか、M&Aかなどは手段であり、目的が不明確な企業は案外と多いのだ。当然、他の方向性でギャップを埋める手段として提携や出資も見えてくるだろう。
(業務提携)
在りたい姿に対して、現状とのギャップが整理できれば、それをどのように埋めるかが論点になる。自社でやるか、他社でやるかだ。その過程において、3つ目の選択肢が業務提携や資本提携だ。
業務提携とは、企業同士が業務内容について提携することを指す。生産提携、技術提携、共同開発、販売提携などだ。2社以上の企業が契約によって対象とする業務で協力しあうのだ。
生産提携などは、従来製造したことが無い製品を、工場や機械投資、そしてノウハウを蓄積することなく、既に製造が可能な企業と提携して製造することが可能になる。
技術提携などは、特許や知財などの利用を互いに許諾してクロスライセンスを結んだり、他のノウハウなどを互いに提供したりする。通常、特許で公開した技術以外は、企業機密で内容が企業の外に出ることはない。そのようなノウハウを共通の目的を持ち互いに利用できるようにするのだ。
共同開発は、技術や人材を互いに提供し合い、何らかの研究を共同で行う。研究は足が長い作業で、時間や資本をかけたところで必ず商品化されるものではない。そのため、2社以上が集まって巨力しあうことで、開発のスピードを高め、リスクを分散することができる。
販売提携は、提携する企業が互いに販売ルートを共有して、販路を拡大する際に活用される。販路があるということは、過去の営業活動と蓄積した信用があるため、新規に販売ルートを開発して新たな商品を提案するよりもはるかにコスト(お金、時間、苦労等)を下げることが可能だ。
以上、自社の不足するギャップが明確になっている場合は、提携する企業を見つけて、解消できないかを考えるのも必要なオプションだ。提携は互いに組むことでスケールメリットやシナジー効果が生み出せるのであれば検討しない手はないオプションとなる。
(資本提携)
業務提携は、事業の一部を共同で行うが、利益配分の仕方については明確に事細かく約束をしておかなければ紛争になる可能性もある。また、業務提携は情報や技術を一部共有して取り組むため、両社の関係が良好であることが前提だ。しかし関係が悪化した場合、既に共有された情報や技術は元に戻すことは出来ない。都合が悪いこともあるのだ。
そこで資本関係を結ぶことで、業務提携という単なる契約関係よりもより強固な関係性を構築する方法が資本提携だ。資本提携は2社以上の企業が互いに業務面や資金面で協力し提携関係を構築する手法だ。一方の企業が提携先の企業の株式を取得する、或はそれぞれの企業が株式を持ち寄り、提携関係を構築する。
新規事業を開発したい企業は、通常業歴が長く一般的な信用はベンチャーよりはるきあに強い。また、販路や販売後のフォロー体制など歴史とともに形成される資産を多数保有する。一方、ベンチャー企業や中小企業は、何らかの技術開発や新商品を有していたとしても、販売力や製造力、場合によっては販売後のフォロー体制が脆弱な場合ががあるなど、大企業と大きく異なる。
このように何らかの経営に問題を抱える企業にとっては、資本提携の形式で出資を受けることで与信が高まり、自社のボトルネックを解消することにつながる場合もあるのだ。
資本提携では、ある企業が他の企業に(あるいは互いに)出資し、互いの独立性は保たれる。具体的には、資本を受け入れる側の企業が資本を出す側の企業に対して第三者割当による新株発行などを行い、一定数の株式を与える。新株発行により、一方が他方の株式の1/3を超える株式を取得すると、株主総会の特別決議(定款変更、事業譲渡、合弁の承認等、会社経営の重要な決定について要求される)の拒否権が生まれる。この場合、買収(子会社化)されたのと変わらないため、業務資本提携の場合は、双方の独立性を保つために株式比率を1/3未満に設定する。
(メリット)
資本提携の目的は、双方の企業の支援にある。互いに強固な関係を結びながら、販路拡大や製造、場合によっては商品開発などを進めることができる。出資する側は、自社にないノウハウを獲得し、実際に新規事業に結び付けることができるか小さく実験できるのだ。
仮に、M&Aで一気に買収した場合は、経営権は獲得できるが、買収前の調査で検討した以上に事業統合が上手くいかない、実際に想定した新規事業のシナジーが得られない場合もある。一方、資本提携の場合、1/3以下の株式取得で進めるため、M&Aと比較すると出資金は少なく、実務を通じてシナジーを確認することが可能だ。大型の案件を進めるには不安だが、提携より強い関係を構築したい場合は、最良の選択肢となるのだ。
更に、資本提携をすすめながら、実際にシナジーを出す過程で、よりその事業に対しての資金需要が高まった場合、交渉をしながら優先的に追加出資をするなど、徐々に出資割合を高めて、子会社にしていくことも検討可能だ。
なにより、M&Aの場合は、買収前調査はあくまで紙ベースの判断になるが、少額でも出資して、人材を派遣するなどして、業務を取り組むことで、出資先の企業の状況を実業務ベースで半年から1年かけて入念に調査することもできるのだ。
(まとめ)
新規事業を始める際のオプションとして、ゼロイチとM&Aに加えて、提携や資本提携を同時に検討することが大切だ。一方で、事業会社の多くは資本政策に関連する業務は少なく経験も乏しい。積極的にアドバイザーや経験者を雇用して、自社の新規事業開発にも幅広い視点で臨む覚悟が経営者には求められるのだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
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