ESG投資と食品業界

2021年6月11日 金曜日

早嶋です。

ESGは、環境、社会、ガバナンスの英語の頭文字をとった造語で、昨今の企業の成長においてこの3点が必要だという考え方です。当初企業は、環境や社会を鑑みないで自社の成長を考えていましたが、社会をベースに取り組む以上、結果的に社会に優しい循環型の経済を構築することが、結果的に長期的な成長とリターンを及ぼすことを学習しました。

そのうえで昨今、ESGの視点が薄い企業は大きなリスクを抱えます。長期的な成長が出来ないことに加えて、SNS等で情報が自由に開示される中、ESGに反することで非買運動がおこる可能性すらあるからです。更に、投資家の観点からするとESGに反する企業は、結果的に消費者からパッシングを受け長期的なリターンを上げにくくなることから、対象から外される傾向が強まっています。

2000年代頃はCSRが標榜され始め、2015年頃から民間を中心にSDGsが活発になります。そして投資の世界でもSRI、社会的投資責任という考えが普及したのです。

ESGに対しては諸にESG投資という言葉もあります。当初は投資対象の1つのジャンルであえて強烈に社会的に影響を与える企業に対しての投資を指していました。しかし、昨今は上述の通り社会や環境を無視した事業モデルは継続しにくく、かつESGに貢献する企業は結果的に財務リターンが高く、投資リスクが小さいことを証明する研究が多数でてきました。それを受けて起業でも持続可能性、サステナビリティという言葉を連呼するようになったと思います。

先日、フィナンシャルタイムの記事で以下のような主張がありました。

– ネスレの食品や飲料の大半は、一般的に認識されている「健康」の定義に合致しない。
– 加工食品や飲料のうち、国際的な健康基準を満たすものは、わずか37%だった。

これが2000年頃だったらおそらく問題にならなかったでしょうが、先のESG投資という概念を鑑みるとネスレのリスクが露呈されたことになります。記事では、幹部のプレゼンの中に、「我々の製品とカテゴリをいくら刷新しても健康的にならない」とあったとのことです。

そもそも健康とか環境に優しいという概念で製品を作ると、食品であれば添加物を加えること自体がNGでしょうし、そうしなければ賞味期限など恐ろしく短くなるでしょう。当然、今の世の中にフィットした物流システムをゼロベースで見直さなくてはならない可能性も出てきます。

また、人の味覚を錯覚させるためには、油と糖と塩を通常よりも多く使用することで実現できることを食品メーカーは知っています。当然、そのような食品を摂取し続けると、普段の人間が1日の摂取に必要な量をはるかに多く取ってしまうのです。

合理的に考えて、健康食品の対極が大手企業が大量に製造する食品なのです。勿論大手企業ですから、研究所などで味の特徴を変えずに塩分や糖分、油の仕様を工夫する取組を行っています。しかし未だに、そのような製品が世の中に上市しないことは、すなわち難しいのか、大量生産に乗せるコストに合わないのかのどちらかなのです。

ネスレは、このことをボード会議で取り上げ、メディアに報告しているくらいですからまだましな方だと思います。赤い炭酸を提供している企業や甘いチョコレート風のお菓子を提供している企業。そしてお湯を注いだら直ぐに食べられる便利さを提供している企業などは、この取り組みが飛び火しないことをただただおとなしく待っているのではないでしょうか。

しかしESG投資、そしてSNSでの情報が流れ始めることがきっかけに、無視することよりも正面から対応していると出る釘になった方が賢明だと思います。いずれにせよ食品業界の闇はしばらく明けないと思いますが。



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