21世紀の人材戦略

2018年4月23日 月曜日

早嶋です。

21世紀、企業人の多くが先を見通せない時代になってきました。20世紀はエクセレントカンパニーの時代と言われ、共通の企業文化、組織文化、収益モデルをもった優良企業を多くの組織が研究して模倣。それによってある一定の成果をあげることが出来ました。

当時の代表企業であったGE(ゼネラル・エレクトリック)は時代の変化に対して危機的な状況であり、2001年から同社の最高経営責任者(CEO)を務めたジェフリー・イメルト氏も退任に追い込まれました。

石油業界は今後5年から10年もすると売る商品がなくなります。内燃機関を主軸とした自動車が電気自動車に変わり、自動車のガソリン需要そのものが激減するからです。現在3万件あるガソリンスタンドは典型的な衰退産業です。

電気自動車の普及は、自動車のコモディティ化と自動化の促進を意味します。所有からシェアの文化が加速されると、自動車のシェアを促進する法人企業が現われ、個人が車を所有する動きが減少します。これに合わせてカーディーラーという概念が法人向け専用になり、個人向けのビジネスは極端に縮小していくでしょう。

損保業界は代表する企業の収益をみると半数は自動車関連です。当然、自動運転やカーシェアになると個人が直接損保会社に問い合わせて保険に加盟する機会そのものが減少します。現状、個人の自動車保険を担当している部隊は不要になるのです。

百貨店の存在意義もかなり薄れています。ネットショッピングの台頭によって、店頭にいかなくても好きな商品が購買できるようになりました。アパレル業界はZOZOTOWNが一人勝ちです。海外商品はバイマの登場によって国内と海外の内外価格差が極端に少なくなり、百貨店が3割以上のマージンを取っていることに疑問を持つ消費者が急増しています。

金融業界だって先が見通せません。日本は規制によって金融機関がかなり守られていますが、中国や他の国と同じように金融の世界にフィンテック企業が参入すれば、間違いなく殆どの金融機関の存在意義が急速に失われていきます。

2000年のゴールドマンサックスのニューヨーク本社では600人ものトレーダーが大口顧客の注文に応じて株式を売買していました。しかし現在残っているトレーダーは僅か数人です。代わりに200人以上のコンピューターエンジニアによって運用される自動株取引プログラムがトレーダーの大部分を担っているのです。

20世紀は世界中が資本を基に、全てを所有することでビジネスを行ってきました。常に大きくなり、拡大していくためにリアルの資産が必要だったのです。しかもエクセレントカンパニーに代表される企業を模倣し、追い越せ追い抜けのコピペのビジネスモデルで多くの企業が収益を上げることが可能でした。

しかし、21世紀は坂の上の雲がどこにあるのかさえ分からないことが前提です。多くの経営者が5年先に自社のビジネスがどうなっているか、明確に解を持っていないのです。従って方向が分からないので戦略を立てにくい時代になっています。

また20世紀と違い、電子的な取り組みのおかげで資産を持たずに、特徴的な何か1つ或は複数の能力を持つことで、後は変動的に、資産を保有せずとも全世界でビジネスを展開することが可能になっています。従って21世紀型の人材戦略という概念が新たに生まれてきたのです。

21世紀の人材戦略は20世紀の対極になります。人材はコア社員に絞り、それ以外の人材は外部人材を活用するか、アウトソースするか、自動化を視野に入れるからです。変化の激しい21世紀は、腰を据えて資産を持つと急激な変化に対応することができません。そのため、基本的なコンセプトは身軽であることです。

20世紀は人材に対しても量がモノをいう時代でしたが、21世紀は技術やアイデアやコンセプトなどをごく少数の人数が絞り出し、IoTやAIやロボットを駆使しながら展開することができるため少数の精鋭がビジネスを促進することが可能です。20世紀がエクセレントカンパニーだったとしたら、21世紀はエクセレントパーソンにフォーカスすることが経営者の視点として重要なのです。

日本の人材戦略は20世紀の発想に基づいています。大量一括新卒採用を繰り返して行っていることも理由で、組織に先にメンバーがいます。そのため、先ずはメンバーの能力を詳細に調べ、能力に応じて仕事の振り分けを行います。人事制度も新卒一括採用、定年退職を基本に構築されています。

従って、常に今いる人材を効率的に稼働させるべく仕事を割り振るメンバーシップ型の人材戦略が基本になっているのです。これはプロダクトアウトの発想とも言えますね。

一方、欧米企業は仕事に人を振り分けるジョブ型のスタイルをとっています。先に組織の仕事が定義され、組織の仕事を細かくジョブに振り分けていきます。そして採用はジョブに必要な技能や能力を持つ人が担当するのです。

従って一括採用という概念はなく、必要な仕事に必要な人材を確保してアサインするため、採用のタイミングは新規事業の開始か欠員が出たタイミングになるのです。社員のキャリアアップも社内公募か転職という明確な基準と仕組みで実現されるのが通常です。

ここまで読んでみて、「おや?」と感じた人も少なくないと思います。というのも現在の人づくり革命も働き方改革も人材を流動化、変動費化する方向ではなく、より固定化する方向性に動いているからです。しかし世の中の動向をみる限りでは、組織を拡大して社員に仕事を振り、稼働させる発想では非常に危険なのです。

今後は、会社の業務に必要な業務と不必要な業務を仕分けして、必要な業務のみを自社のコア社員にまかせ、残りは現社員と同時に、外部人材、アウトソース、自動化を積極的に考慮しなければ変化とそのスピードに対応できにくくなるのです。

21世紀は20世紀と確実に異なっています。経営者は危機感として感じるのではなく、意識して積極的に行動することが大切です。これまで通りの経営はすなわち収益の減少ではなく、経営自体が淘汰されると考えることが大切です。

そのために改めて自社の経営ビジョンを整理して、真に必要なリソースを見きわめ再整理することが重要です。コア事業に専念して、ノンコア事業は社員を含めて保有しないことがポイントです。外部人材、変動費、クラウドソーシング、AIやロボットの活用を検討します。

最後にコアビジネスに対しては少数のコア人材を採用育成していきます。大量採用、一括教育を止め必要な人材の要件を先に決めてから個別採用を進めます。仮に該当者がいない場合はヘッドハンティングも視野に入れて行動します。20世紀型の人事は何度も言うように会社にとっても弊害になるのです。



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