早嶋です。約2500文字。
連日、ハリウッドの巨大再編についてブログを書いている。トランプ政権の動き、パラマウントとスカイダンス、そしてネットフリックスによるワーナー買収。この一連の流れは、理解したつもりになっても、翌日には新しい情報が更新されていて、全体像が再び揺れ動く。そのスピード感が面白いと思うし、同時に「これは単なる企業買収ではなく、政治の力学そのものだ」と改めて感じている。
早嶋が1回目と2回目に書いたブログは、パラマウントを率いるデービッド・エリソンとその父ラリー・エリソン、そしてトランプ政権の関係について整理した。パラマウントの買収資金には、クシュナーの投資会社や、中東の政府系ファンドまで参加していること。こうした背景から、わたしは「トランプはパラマウントを後押ししているのではないか」と仮説を立てた。
ところが、その翌日。フォーブスが一本の記事を出した。読んでみると、まるでトランプがパラマウントを批判しているように見える内容だった。CBSの番組『60ミニッツ』で、自分に批判的な議員のインタビューを放送したことに対し、トランプは激怒し、新しい親会社(パラマウント・スカイダンス)を名指しで責めたのだ。記事を読むだけなら、「トランプはパラマウントなど支持していない」とも取れる書きぶりだ。
このフォーブスの記事を読み、わたしも一瞬、最初の仮説が揺らいだ。しかし、その後、色々一人ブレストを重ねた結果、トランプの動きには二層構造があると考えた。ここがとても重要だと思う。トランプは、個人的なレベルでは、パラマウントが持つCBSを長年敵視している。報道姿勢が気に入らない。『60ミニッツ』が自分を批判した。そこで、怒りの感情にまかせて「パラマウントは何も改善されていない」と投稿した。フォーブスの記事は、まさにこの「感情のレイヤー」を切り取っているのだと思う。
一方、政治的なレイヤーでは話がまったく違う。ネットフリックスによるワーナー買収が進めば、ストリーミング市場のシェアが30%に達する。市場支配力が強くなり、司法省も懸念するほどだ。トランプ政権は、この巨大なネットフリックスを警戒している。そこで、トランプは「この買収は問題になる」「私が関与する」と介入の意志を表明したのだろう。
日経新聞の記事がここを書いてくれている。これが重要なアップデートだ。日経の記事を読むと、パラマウント・スカイダンスとトランプ政権の距離は極めて近い、と明確に書いてある。ラリー・エリソンは共和党の大口寄付者であり、トランプの古くからの友人だ。エリソン家とパラマウントが一体となってワーナー買収に動く。資金面でも、クシュナーが動き、中東の政府系ファンドが動く。つまり政治的ネットワークが買収の背後にある。
ということは、フォーブスが切り取った個人的な怒りの投稿と、日経が報道した政治的な支援構造は、矛盾しているように見えて、実はまったく別のレイヤーの話をしているだけなのだ。早嶋はこのあたりを整理して腑に落ちた。
つまり、次のように整理できる。トランプは、個人レベルではパラマウント(正確にはCBS)を嫌っている。しかし、政治レベルではパラマウント陣営を支援している。
この二層構造を理解すれば、今回の動きがようやく整理できると考えた。政治的なM&Aの本質も見えてくる。企業の買収は、トップの感情やSNSの投稿で揺れ動くような安直なものではない。政治ネットワークと金の流れがすべてを決める。今回の案件は、その典型例のように見える。
さらに、日経が伝えた内容でもうひとつ重要だったのは、パラマウントの動きだ。彼らはネットフリックスに対抗して、16兆円という巨額の上積み提案をした。これは単に意地になっているのではなく、政治の風向きを読んだ上での勝負に見える。
なぜなら、規制当局(司法省、FTC)を動かせるのは政権だからだ。現在の政権はトランプであり、その周辺は明らかにパラマウント寄りだ。ネットフリックス案は市場シェアの問題で厳しい審査を受ける。一方、パラマウント案には「米映画産業の保護」「ハリウッドの再建」という言い訳が立つ。政治的に推しやすいと思う。だからこそ、パラマウントは金額を上げてでも勝負に出ている。企業の戦略というより、政治の戦略に近い。
ふり返えると、最初に書いた「トランプはパラマウントを後押ししているのでは?」という仮説は、結果的には間違っていなかった。ただし、その後押しは感情的な支持ではなく、トランプ陣営のネットワークが編み込まれた政治的支援という意味だろう。そして、フォーブスの記事が示したのは、トランプの感情面の発言。日経の記事が示したのは、トランプの政治的判断。この二つを総合すると、今回の買収戦の力学が整理出来たように思えた。
最後に、この件で強く感じたのは、ハリウッドの再編はもはや文化産業の話ではなく、政治と金融が完全に絡んだ国家戦略ということだ。ネットフリックス、パラマウント、スカイダンス、そしてワーナー。アメリカの映像産業を巡る戦いは、その裏に政治的な思惑が折り重なっている。
一連の議論を通じて、トランプの言動をそのまま表面的に捉えると、まったく違う印象になってしまうこともよくわかった。SNSでの怒りの投稿に振り回されると、全体構造を見誤る。政治レイヤーと感情レイヤーは切り分けて読まなければいけないという教訓だ。ハリウッド再編の行方は、ここからさらに動くだろう。規制当局がどう判断するのか。トランプがどの程度関与してくるのか。そして両社の提案に乗った資金の流れがどこへ向かうのか。M&Aの世界では、最終的に勝つのは金額ではなく、政治の風向きと根回しだ。
もう少しこのテーマを追ってみたいと思う。









