早嶋です。
6月16日、旧暦でいえば今日は皐月二十一日。「皐月」とは、「水がさかんになる月」という意味を持つという。たしかに、山に入れば小さな沢が音を立て、田んぼでは水が張られ、蛙が鳴く。あらゆる命が、水を得てその姿を伸ばすことに気づく。
ベランダでは、バラが盛りを過ぎていた。一輪、また一輪と、花びらを落としながら、食卓に飾られること無く散りゆくバラが、どこか静かに、しかし確かに、何かを主張しているようにも見える。
バラの開花は、温度と日照に強く影響される。春の冷え込みから抜け出し、日照時間が延び、気温が15℃から25℃前後で安定すると、細胞分裂が加速し、一斉に蕾がふくらみはじめる。6月中旬は、四季咲きのバラであれば一番花が終わる頃。花が咲ききると、受粉の有無にかかわらずエチレンという老化ホルモンが分泌され、花びらを落とす「離層」ができることで、花は自らの終わりを準備する。それはまるで、次の新芽を咲かせるために、一度すべてを手放すようでもある。
隣の鉢には、紅葉がすでに青々と葉を広げていた。春先には小さな芽だったものが、今はすっかり空を覆う緑となり、風に揺れながら盛夏に向けてぐんと背を伸ばしている。
紅葉(もみじ)は春の新芽から、光合成を最も効率よく行う6月から7月にかけて葉を大きく展開する。特に梅雨時期の高湿度と適度な日差しが、光合成の代謝系を活性化し、葉緑体が増殖していくことで、葉の厚みや色の濃さが増していく。また、この時期に伸びる新梢は、気温と水分のバランスによって樹形を決める重要な成長期でもある。紅葉の葉が広がるのは、ただ見た目の変化ではなく、夏を越すための光と水の受け皿をつくっているということなのだ。
水鉢の中では、メダカが卵を抱え始めた。毎年、この頃になると、夜の気温が下がらぬ日を合図に、産卵が一気に活発になる。
メダカの繁殖は、日照時間と水温に支配されている。おおよそ日照が13時間を超え、水温が20℃を超えると、体内で繁殖ホルモンが分泌され、オスとメスがペアをつくる。特に気温が25℃前後に安定してくるこの時期は、繁殖のピークを迎える。水温の上昇は、水中の代謝を活性化させ、卵の成長を早める。そして、産卵の翌朝には、水草の間に小さな透明の卵がいくつも揺れている。その小さな命は、10日前後でふ化し、数ミリの稚魚となって水面をすべるように泳ぎ始める。
咲いて、実を結び、そして終わる。散って、次の芽を生かす。この循環のただなかに、今の季節がある。かつては、この季節を「夏」と呼ばずに、「田の頃」や「水の月」などと呼んだ。そこには、命の始まりと、次の準備とが混ざりあう静かな気配があったのだろう。
メダカが命をつなぎ、バラが散り、紅葉が空をめざして手を広げる。そのすべてが、ただ「自然のもの」としてあるだけで、なにひとつとして、無駄なものはない。いのちは、目立たなくても、着実に次へと渡されていく。