新規事業の旅 その8 自分ごとか他人ごとか

2022年6月22日 水曜日

早嶋です。

今回のトピックは自分ごとか他人ごとかです。新規事業を開発する立場の違いを考えてみます。担当者が企業に属しているか、自分たちでお金を出して立ち上げようとしているかです。前者は、イントレプレナー、後者はアントレプレナーと呼ぶことにしましょう。

私も自分で事業を立ち上げた経験がありますのでアントレプレナーの経験や苦しさは体験しています。また、以前勤めていた企業や現在の顧客とともに新規の開発に従事させて頂いている部分がありますので、イントレプレナーのイメージもあります。

(イントレプレナー)
イントレプレナーは、既存事業が将来的にキャシュフローを稼げなくなる可能性の中、将来の稼ぎ頭を創出する目的でアサインされるケースが多いです。そして新規事業をどうやって自社で立ち上げるかを検討して、検討した結果、0⇒1を自分たちでつくる部隊。既にある企業に出資や投資をして、いわゆるM&Aを通じて新規事業を獲得するM&A部隊。そして、ベンチャー企業などに0⇒1の開発を委ね、自社の戦略に沿ってその事業アイデアを自社に取り入れることによって、双方にどの様なチャンスがあるかを鑑み、マイノリティ出資をする部隊の3つに分かれていきます。

(0⇒1部隊)
多くの方々のイメージは、新規事業部隊、すなわち、自分たちでアイデアをひねり出して0⇒1を創り出す役割とお考えでしょうが、当たり前ですが上手くいきません。もっと言えば、最初から上手くいくと考えてしまい、アイデアを実行しますが上手くいきません。経営陣や上司やメンターを含めて社内には、新規事業を起こした経験やノウハウを持つ方が皆無に近い状態ですから、結構孤独です。それでも、既存事業の計画通り、新規事業も一定の成果を求められるわけですからしんどいです。ただ、時間の感覚が既存事業と比較して成果を出すまでの猶予が短く、その可能性を突き詰めて継続することを中かな行いません。なし崩しに終了する企業もあれば、明確に撤退のルールを決め、合理的にその活動が終了します。そして新規事業失敗となるのです。

仮に、この事業を担当者自体がもっとやりたい!後ここまで出来たら、可能性があるのに!と思っていれば、会社を辞めてでもその事業を継続しようとするでしょうが、担当者も上手くいかないことに、どこかホッとする方が多いのでは無いでしょうか。そして多くの場合、その方々は既存のキャッシュフローが安定している事業、今は稼いでいるけど、将来は陰り始めるであろう部隊に戻って安心するのです。

(M&A部隊)
M&Aを活用して新規事業を考える場合。ここも問題がいくつもあります。当初から本コラムで書いているように、M&Aをするエリアが絞れていないけど、新規事業をM&Aで行うことが決まっています。そして何年かその取組をしている部隊は予算もついています。そして、別のグループでは0⇒1を自分たちで行い、別のグループではベンチャーに出資をして一緒に活動をする部隊もいます。そのためあくまでM&Aの部隊は支配権の異動をともなうM&Aをイメージして100%株式の取得をいつの間にかゴールにしています。本来、自分が主体的に新規事業を起こすためのM&Aという理解があれば、その方針に疑問を持ちますが、毎日持ち込み案件を整理して、トップに提言して、その企業の価値はあるのか?と問い続けられると、戦略どころか戦術まで忘れてしまい、いつしかM&Aすることがゴールになります。そしてついつい買ってしまうのです。

初めての場合、よくあるのは大きな案件をM&Aしてしまい、買ったときがその買収した会社の株価がピーク。その後、その企業の価値を減損するパターンです。その理由は明確で、買うことをゴールに設定しますので、そもそも案件を選定していない。持ち込み案件を買ってしまう。基本合意契約を締結した後の買収前調査(DD)も、その企業の単体の価値をはかり、リスクの洗い出しをしている。その際に、事業シナジーや買収した後の自社との整合性を考えることなどは皆無。そして何よりも、M&A責任者と買収を行った後に、その企業をマネジメントする部隊は殆どコミュニケーションを取っていないことです。

(出資部隊)
出資部隊も基本的には2つに分かれます。ベンチャーキャピタルを上手に活用する部隊と、そうでない部隊です。そうで無い部隊は、やはり持ち込み案件や自社でもLPとして参加しているVCの案件に出資をするケースです。この場合、複数のLPに対してGPがまとめて投資をするために、LP各々の事業シナジーなんて最初から考えません。そのためGPのゴールは出資した金額を大きくする、つまりキャピタルゲインのみなので、お金は儲かるかもしれませんが、新規事業などを生み出せません。

上手に活用する部隊は、VCをやらずに自分たちで投資するお金を全額出してGPと手を組み、LPとGPの1対1の形式を取る、CVCを作ります。この場合、投資をする企業の洗い出しをする前に、企業の戦略を整理して、将来的に事業シナジーを構築する分野に出資をして、少額の出資をして事業を構築して、既存の事業のキャッシュフローを考えながら新規事業を生み出す事を考えるので、0⇒1部隊やM&A部隊よりは上手くいきます。ただCVCの期間は通常10年ですので、短期的な事業計画に新規事業や事業シナジーで得た売上や利益の増大は期待しにくいという難点があります。

ここまで見てきた場合、結局、人から言われて、人のお金と、時給を確保してもらいながら試行錯誤をするため、どこか他人事で動いている方々が圧倒的に多いのです。そして近年は働き方改革の影響を受けており、資本政策や新規事業に関わっている部隊の人間であっても、その影響を強く受けています。ベンチャーや投資の世界は夜や朝や休日に動いている部分もあり、そこにキャッチアップしないという感覚です。一言で他人事の為せる技なのです。

(アントレプレナー)
では、自分たちでお金を出して、リスクを取って、時間をかける人はどうでしょうか。

まずは私の経験です。何となく自分の力で事業ができるという想いを温めて、その研究を仕事をしながら夜や朝や土日に1年近く構想を練りテストマーケを繰り返しました。その際に、当然移動してテストマーケをする費用や、試しに少額かけて実験する費用などは全て、少ない給与から賄っていました。当然、立ち上げたメンバも同様で、発生する費用は自分で補い、極力お金がかからないように工夫をしながら、必要なお金は使っていました。まだ出資を受けて、資金調達をして、動き出す段ではなかったからです。そして1年程度経過した時点で、ある程度これはやれる。というかこの先、二足のわらじを履いていても、その効果は分からない。ということで会社を辞め会社を立ち上げました。

会社を立ち上げるのは簡単です。それなりの手続きを完了したら誰でもできる作業です。しかし、事業を成立させるためには自分たちで考えたビジネスモデルを試行錯誤しながら実現しなければなりません。何度もブラッシュアップして議論した計画でも、いざやって見るとたくさんのボロがでるものです。初めての顧客を獲得するまでの営業も理想とかけ離れてとても上手く行きません。考えていたアイデアや商品も、計画通り作れないし、不具合の連発です。それでも数名の少ない仲間で日夜仕事をし続けます。残業休日プライベートという概念がそもそもないのです。その事業を成功させることしか考えていないからです。

(違い)
イントレプレナーは、事業のアイデアを実現するためのヒントが社内にゴロゴロ転がっていて、そのきになれば、会いたい顧客にもすぐに会えます。事業wお複数行っているのであれば、テストマーケを実現するのも難しくありません。しかし、あまり足を動かさずに、上記の取り組みは外部の業者に丸投げです。アントレプレナーは何もありません。だからこそ、必死になって考えて動き回るのです。この熱量の違いは今後の成果に大きな影響を与えるというのは確実です。

と考えると、新規事業をイントレプレナーで行う場合は、その事業が自分ごとと捉えるためにも、一部出資をするとか、転属する等のリスクを取らない限りその域で仕事をすることが難しいのでは無いかと思ってしまいます。一方で、そのマインドさえあれば、イントレプレナーは潤沢なリソースと既存事業のノウハウを使えるのですからなんてハッピーな環境なのか?と思ってしまいます。仮に失敗して、売上が入って来なくて、事業が赤字の状態が継続しても定期的に給与が保障されているわけです。なんて素晴らしい環境なのでしょうか。



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