
腕時計とリトルハイア
2019年6月17日
早嶋です。
ジョブ理論の概念にビックハイアとリトルハイアがあります。ジョブとはそもそも、『特定の顧客が、特定の状況で成し遂げたい進歩』です。顧客は何らかの状況において、何らかの問題を抱えており、それを解決したいと思っています。
一方、企業が特定の顧客をターゲットに選定する。そして特定の状況から顧客の成し遂げたい進歩を推定する。現状とその在りたい姿を埋めるための商品を提供する。流れは簡単ですが、実現するためには相当の時間がかかります。
当初は、企業が提供する商品というのは顧客のジョブを解決するためのものという思想に基づいています。しかし、実際は実現するまでに時間がかかるので、開発費を回収したい思いが強くなります。その結果、顧客のジョブの解決よりも、目先の販売にフォーカスしてしまうのです。
ビックハイアとは大きな雇用という意味で、ジョブ理論では顧客が商品を主に使用、あるいは購買するタイミングや状況を示します。しかし顧客はその商品を購買することが目的ではありません。その商品を使用する過程において、自分が抱えているジョブを解決する目的で購入しています。従って、本当にジョブの解決を提供するという目的を企業が抱えるとすれば、企業はビックハイアに加えて、その後のフォローであるリトルハイアに注力することが大切なのです。これは当たり前のように聞こえるのですが、とっても企業にとって難しいのです。
私は新たな試みとして数年前よりスイス高級腕時計のメゾンを立ち上げています。スイスは、昔からの伝統を守りながらも常に革新を追い求めた新たな機械式時計を研究開発する市場が成り立っているエリアです。
我々の基本コンセプトは、日常的に身につけるドレスウォッチです。奇をてらうデザインではなく、シンプルでエレガント,
飽きがこなくて、毎日付けるための堅牢さを持ち合わせた時計です。
日常的なドレスウォッチにこだわる背景は、長年使用したその時計を次の世代に受け継いで欲しいからです。世の中、便利になり、全ての記録がデジタルに変わっています。そんな時代でも、『父親がこの時計を着けて頑張っていたんだ。』そんなストーリーを子供や次の世代のユーザーに受け継いでもらいたいと思います。そのため、100年先でも修理や調整ができることが重要です。
機械式時計の革新は常に進んでいます。しかし一方で伝統的な手法を大切にする理由は修理とメンテナンスが100年後でもできるようにです。壊れたら新しい物を取り替えるのではなく、古くて良いものを次の世代にも使ってもらう。そんな発想はまさにリトルハイアそのものだと思います。
月々1万円で塾長の早嶋と日々報道される時事やニュースを中心に議論を繰り返し経営や起業に必用な視点や視座を身につけブラッシュアップしましょう。完全に閉ざされた空間(会員限定のネット議論)なので安心した議論が365日24時間可能です。
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少子高齢化のファクト
2019年6月16日
早嶋です。
今後の人口統計から以下のようなことが乱暴ですが推察できます。
●出生数は今後90万人/年を割る
●死亡数は140万人/年を超える
●自然減で50万人/年程度になる
都道府県で2019年5月現在で鳥取県が56万人で最下位の人口です。今後、一つの県単位の人口が減っていくことを考えると少子高齢化の実態がよく分かるとおもいます。現在の人口が1.26億人ですから20年で1,000万人規模の人口が減ることが予測できるのです。そして、人口のバランスを鑑みると70歳以上の割合も上昇していくことがわかります。
日本の出生数と出生率は、第一次ベビーブーム期(1947年〜49年)は年間約270万人(出生率:4.3)あり、次いで第二次ベービーブーム期(1971〜74年)は年間約210万人(出生率:2.1)ありました。1975年に200万人(出生率:2.0)を割り、以降毎年減少を続けています。
1984年には150万人を割り、2016年に統計を取り続けて以来はじめて100万人を割る約98万人で2018年は91.8万人(出生率:1.42)でした。
対局の死亡数は戦後最多の136万人で9年連続上昇しています。高齢化の影響で2012年以降死亡者の7割は75歳以上で、2018年10月時点で65歳以上の割合は約29%です。ちなみに2018年の出生数から死亡数を引いた自然減は44.4万人です。
結婚も6年連続で減少で58.6万組で戦後最小です。平均初婚年齢はここ14年同じで夫23歳、妻29歳です。
下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり
2019年6月15日
早嶋です。
年を重ねても、同じ時間を過ごした仲間は常に当時と同変わらない感覚を持ち、憧れの年配の御仁との差は縮まりません。そしてその年になっても常に自分が幼いように感じてしまいます。
少し前にこんな記事がありました、日経新聞です。俳優の福山雅治とサザエさんの波平さんが同い年だと。なるほど、思い出せば手塚治虫のブラックジャックに描写されていた当時の50歳は白髪か薄毛で場合によってはヨボヨボでヨロヨロでした。
50歳と言えば敦盛の一説を思い出します。信長公記によれば、織田信長は幸若舞の演目の一つ、敦盛を良く演じたと言われます。『人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。』
小さい頃、信長の時代は、人生50年だったんだと勘違いしていました。実際は下天(もしくは化天)は仏教の世界観の中の六欲天の一つで、そこの住人の寿命と人間を比較した歌でした。天上界の一昼夜が人間界の800年に相当することを人間の寿命と比較した歌です。
織田信長の享年は47歳で、桶狭間合戦で今川義元を打ったのは27歳だったそうです。下天からするとあっと言う間の年月でしょうが、やはり今の我々世代は幼いと感じてしまいます。
サザエさんの設定で、公式プロフィールを見ると磯野波平は54歳で威厳と貫禄たっぷりのお父さんとあります。私が小学校の頃の50代は石原裕次郎。正しい記憶ではありませんが兄貴的な要素で売り出していたと思います。
長崎出身ということだけで福山雅治を注目していますが、今の50歳のアイコンとも言えます。圧倒的に若いしかっこよさを感じます。
医療の進歩か文明の力か、はたまた個人の精神年齢が低下したのか。いずれが正解かは置いておき、50歳のおじさん像はずいぶんと変化しているのだと思います。
自分自身の中で見つける
2019年6月14日
早嶋です。
小学生の頃に始めて意識した年上はボーイスカウトのお兄さん。野外でロープを起用に結びテントをさらりと設営する。重い荷物を物ともせずに険しい山道を掛けていく。自分が同じ年頃になったとき、当時のボーイスカウトのお兄さんよりもなんだか頼りないと思っていた。
中学生で意識した年上は甲子園児。炎天下の中、互いに真剣に直向きにトーナメントを戦う姿がすごいなと思った。自分が高校生になった頃、同じような感覚で何かに取り組むことを想像した。しかし、そんなことはなくなんとなく普通の高校生のような感じしかしなかった。
高校生になり相撲の横綱が20代で誕生し、サッカーやスポーツの第一線の選手の多くが20代だということを意識するようになった。そして歴史の世界でも同じ年頃で起業し、戦いの英雄になっていることを知った。そしていざ自分が大学生になり感じたことは何となく頼りの無い自分だった。常に何かを何となく無意識に追いかけていることが正しいのかモヤモヤした。
新入社員になり、自分の教育係の3年目の先輩がえらくかっこよく写った。他の先輩もバリバリ仕事をしていて成果を出している姿がカッコいいと思えた。自分がその年になった頃、周りと比較することが正しいのかと考えはじめるようになった。いつも追いかけるのではなく自分と向き合うことが大切ではないかと。研究職からキャリアチェンジを決め、ゼロから経営の勉強をあじめた。
ある程度の年齢や経験を積めば、そのさきは何も関係ない。誰が偉いというのも無い。その世界をずっと一生懸命に行ってるヒトは、その世界観を十分に表現する顔つきになっている。そのヒトが当たり前だと思って語ることも、他の周囲の方方からするとかっこよく映る。そんなもんだと思えるようになった。
20代の後半で独立した。そのときは何でも出来ると思い、態度もなんだか偉そうになったのでは無いかと振り返る。一方で20代という事実を隠したくて、ひげを生やして年上に見えるような雰囲気を一生懸命に作った。経営者を相手にする仕事だったので、対象層が読むであろう本を夜通し読みまくっては知識の武装をした。一夜城の知識は薄っぺらだということがバレていると思いながら、なんとかハッタリをかまして30代に突入する。
自分の考えや相手の考えを整理しながら方向性を切り分ける。そんな仕事が続くと、自分ができることと出来ないことがある程度見えてきて、出来ないことを出来ないと正直に言えるようになった。すると、周りからの相談業務やコンサルの依頼が徐々に増えてきた。商品は知識ではなく自分自身だったんだと気づき始めた。
ようやく自分を自分として捉えて、自然体に構えられる回数が増えてきた。それでも、始めての取り組みや金額が大きな仕事はまだまだ比較をしてしまう自分がいる。が、そんなときは自分をだいぶ客観視できるようになったのは年の功でもある。
売り切りと継続モデル
2019年6月13日
早嶋です。
従来、任天堂はハードであるゲーム機を開発して、ソフトであるコンテンツを切り売りして収益を得ていました。スマートフォンの登場によって、コンソール型のゲームマシンは、スマフォセントリックの思想が強くなり、専用のハードを使うのではなく、スマフォをハードとして活用して、他はソフトの処理で対応するという流れになってきました。
5Gが完全に普及すると、スマフォを介してクラウド上のハイスペックなマシンを介したゲームが可能になることから、コンソール型の事業モデルはいよいよ終盤を迎えることが予測できます。すでに、米国の巨大IT企業は矢継ぎ早にゲーム事業に参入しており、サブスクリプションサービスを中心とした事業モデルで打って出ています。
任天堂は2017年3月に発売したコンソール型のゲームマシンであるスイッチによって業績をあげています。直近の決算見込みは売上高が1兆2500億円、営業利益は2600億円です。しかし、内訳を見るとゲーム機と関連ソフトの販売が9割を占めており、将来の事業モデルを鑑みると雲行きの怪しさを感じます。機器単体売りの事業は常に業績の浮き沈みが激しく、開発資金を投じたからと言って確実に回収して収益を上げることができないからです。
当然、任天堂もサブスクリプション事業を開始しています。18年9月から300円/月のゲーム事業です。19年4月時点の会員は980万人。年間の単純売上は350億と推察できます。全体の事業からするとまだ3%程度。ソニーや他の企業と比較すると遅れは否めません。
理由は様々あるでしょうが、いわゆるイノベーションのジレンマで、既存のコンソール事業が成功を収めていたために、新たな事業の投資や可能性の評価が企業内で理解されていても、合理的に判断をすると、既存のコンソールとソフト開発に資金を投じたほうが、今の利益を最大化できると判断していたのでしょう。
サブスクリプションの事業モデルは、安定的な収益もありますが、メーカーとしては、直接エンドユーザーの情報を握ることができる点です。従って、今後は課金時に手に入れた、そして継続的に収集しているエンドユーザーの情報を活用してゲームを中心にしたエンタメを如何に提供できるか、企画できるか、行動できるかがカギになるでしょう。
売り切りの発想で、事業モデルだけを切り替えても、サブスクリプションの本質を理解して事業に展開しなければ米国のIT事業者にはずっと追いつけないと思います。
百貨店の衰退
2019年6月12日
早嶋です。
百貨店は、若い新卒採用に力を入れて、40代、50代の過去に戦ってきた同士を切り捨てて、自分たちの成長を目指しています。しかし、ネットの台頭によって、不動産を建てて、場所を貸すという事業モデル自体が成り立たなくなっています。
エニグモが運営しているバイマ。海外には駐在員が30万人以上も住んでおり、バイマはその奥様を中心にサイトのバイヤーになって頂くというアイデアを実現しています。そもそも駐在員になる奥様はお目が高く、現地に長いこと住んでいる利点を活かした目利きができます。
バイヤーは、日本の顧客層をイメージして、この商品は売れる!と思った商品を提案します。現在バイヤーは全世界に13万人いて、バイマの会員は2019年1月末時点で614万人います。ビジネスモデルは、バイマの運営会社が顧客とバイヤーをネット上でマッチングして支払い等の手続きは代行。販売価格は仕入れ価格にバイマとバイヤーの手数料を乗せて販売するため、従来の百貨店のように卸の手数料と陳列にかかるコストが不要です。
昔は情報ギャップがあり、カリスマバイヤーが世界を巡っていましたが、13万人の目には流石に叶いません。百貨店にバイヤーはいますが、昔のように世界を飛び回る気鋭もコストもかけることができず、バイヤー向けの展示会で商品を仕入れるのみです。従って、百貨店の品揃えは必然的に面白みがなくなります。
また、世界的にハイブランドは自ら情報発信とリテール機能を強化しているため、百貨店の店舗で集客をせずとも、自分たちで直接集めるノウハウを身に着けています。ということで百貨店の従来の事業モデルはすでに崩れているのです。
これからは、プロティアン・キャリア(変幻自在)
2019年6月10日
安藤です。
最近、企業からの研修だけでなく相談事が増えているのも “パワハラ” です。そこでみえてくるのは、日頃の関係性を築けていない、いわばコミュニケーション不足です。コミュニケーションに関わる研修は以前から実施されていますが、実際は、心理アセスメントだけ実施し、その後の本来のコミュニケーションをどのようにとっていくのか、関係性をどう築いていくのかという具体的な点についての習得が不足しているように感じています。
部下他他者との関係性をうまくやっていくことは管理者としてはマネジメントとしては、必須スキルと考えます。“パワハラ”に繋がる要因としては、どうしても昔のやり方にとらわれ“変化”することを受容できていない現状があるようです。
MIT教授 ダニエル・キム氏が、“関係の質を高める必要性”を ①関係の質:お互いに尊重し、一緒に考える → ②思考の質:気づきがある、面白い → ③行動の質:自分で考え、自発的に行動する→④結果の質:成果が得られる → ⓹関係の質:信頼関係が生まれる。と提唱しています。
生産性を上げているためには、正に職場・現場が“グッド・サイクル”で循環していくことがマネジメントです。
「マタギドライブ」あまり、耳にしない言葉です。”マタギ”とは、主に東北地方の山間部に在住していた、クマや鹿など大型動物を集団で狩って生活する人達のことです。
『これからの時代は、人々が ”マタギ” のように課題狩りをして、AIを始めとするテクノロジーが ”猟銃” になる社会だと。落合陽一氏が述べています。
『変わりゆく時代、私達はなにをするべきか』今までの常識+固定観念にとらわれない柔軟な フラットな視点が必要になってきているのではないでしょうか。
コーチング、カウンセリングを統合したメンタリングを個別に実施しています。“頭と心”をスッキリさせるとともに、現場で生じている案件に基づき問題・課題解決をしていきます。
ご興味・ご関心のある方また、気軽に弊社にご相談くださいませ。
6月の講座は、出張が続くためお休みいたします。
7月またよろしくお願い致します。
デジタルタレントの出現
2019年6月3日
早嶋です。
某企画である企業のウィスキー事業部と仕事をする機会がありました。結果、その企画は流れました。しかし飛ぶ鳥を落とす勢いのウィスキー事業部とネットワークができたのは一つの成果でした。ウィスキーは沢山作ろうとしても時間がかかります。また、今投資をしても10年後に今の勢いが続くかわかりません。そう捉えると非常に難しい事業の一つです。
そもそも数年前のウィスキーは、有名銘柄でも格安店舗に並んでいました。若者のアルコール離れとともに衰退事業とされていました。しかし、ドラマの影響と隣国でウィスキー人気に火が付いたのをきっかけに日本でもブームが再来します。
これまで伝統的なマス広告はテレビでの発信&有名人の起用が多かったですが、近年は変化しています。ウィスキーの代表的な企業であるサントリーは、その取り組みに注目があつまりま。燦鳥ノム(さんとりのむ)はそれを象徴する取り組みでしょう。商品のPRをネットの世界で行う際に、キャラクター自体を自社で作りあげているからです。
デビューから約10ヶ月。Youtubeの公式チャンネルの登録は現時点で9.5万人を超えています。サントリーのキャラクターが歌い、踊り、トークをします。商品の宣伝は積極的に行わずたまにプロダクト・プレイスメントの要領でチラッと紹介する程度です。メーカーがデジタル芸能事務所に転じたのです。
ネットの世界では、ユーザーが何か興味があれば自分から積極的に検索して情報を得ていきます。従って興味をもってもらうためのきっかけさえあれば、詳しい説明はいらないのです。企業は、Web情報に情報を集約しておけばよいのです。
先日の日経新聞では、ネットアイドルの事について「昭和のアイドルは憧れの存在、平成は会いに行けるアイドル、そして令和はいつでもどこでも検索できるアイドル」と書いていました。うまいですね。
前から思っていましたが、テレビCMのスポンサー料のビジネスモデルは企業が損をする仕組みだと思います。芸能事務所は広告代理店を通じて無名のタレントを売り込みます。スポンサー料をあまり払えない、だけどマスに露出したい。そのような場合、無目のタレントを起用して認知を得ようとします。
しかし、無名なタレントも企業の認知とともに露出する割合が増えます。そして有名になります。有名になればそのタレントの指名料があがり、スポンサー料が高騰します。育てた企業は、そのタレントを起用するためには高額のスポンサー料を払わないと使えません。そしてあたかも見捨てられます。より高いお金を払う企業が出現してタレントは移りゆくのです。しかし、そんなタレントも人間。たまに不祥事を起こして一気に業界から干されます。
歴史を振り返っても、同じことを繰り返してニュースを起こすのがメディアです。あたかもわざと行っているかのようです。企業は、どうして気づかないのかなーと思うばかりです。しかし、ネット時代になり、メーカー自身がデジタル芸能事務所に転じていけば、初期の投資も全て自社のPRにつながるという算段で、今後小さな企業も同じようなことを行うかもしれません。
考え方によっては、広告代理店も、タレント業界も、商売上がったりですね。NHKや他のバラエティでもデジタルタレントがタレントと共演している絵をたまに見るようになります。まぁ、今後はUUUMのように新たなメディアやタレントを統括する代理店が出現して、そこがコレまでの芸能事務所に置き換わって行くのでしょうね。
インタビュー調査だけの限界
2019年6月3日
原です。
これまでは、インタビューによる調査のメリットを書いてきました。
しかし、アンケート調査やグループインタビューを正しく実施したとしても、本質的な顧客の声を聞くことには限界があります。
なぜならば、「人は自分で言語化できることしか話せない」からです。
自分のニーズを言語化するためには、そのニーズを明確に認識している必要があります。更に他人に説明できる概念として頭の中で構造化されている必要があります。
ハーバード大学ビジネススクールのジェラルド・ザルトマン名誉教授の「心脳マーケティング(藤川佳則・阿久津聡訳/ダイヤモンド社/2005年)によると、「人間の行動のうち、自分で認識しているのは5%程度しかない。」と書かれています。
つまり、人は自分自身のことであっても、ほんの一部のことしか言語化できない。語れないのです。この限界を補うためには、「人の行動を観察する」ことが必要なのです。
筆者は、グループインタビューの前には、試作品や企画への体験モニターを実施します。
理由は、行動観察により参加者が言語化できない漏れの部分を把握するためです。
例えば、クッキングスタジオ(料理体験のサービス)調査のケースです。
インタビュー参加者へは、グループインタビューを実施する直線に30分程の料理体験をしていただきました。
体験中、筆者は参加者の行動を観察しながらメモをとりました。
続いてのグループインタビューでは、最初に「一番楽しかったこと」、「困ったこと」について参加者全員に質問しました。
そうすると、「自分で作れて楽しかった。素材が良いので美味しかった。」、「待ち時間があった。」など、ほとんどの人が似たような短い言葉を発言されました。
続いて、筆者は参加者Aさんに質問しました。「最初、Aさんは1人で料理を作っていましたね。その後、Bさんに話かけBさんと一緒に料理を作りはじめましたね?」。
そうするとAさんは思い出したように、「そうそう、1人よりも2人で一緒に作れたことが、とても楽しかったです。専業主婦なので、普段はあまり他人と会話することが少ないのです。今日の料理体験は、とてもリフレッシュできました。」と楽しそうに話されました。Aさんは、自分のニーズに気づき言語化できたから具体的に話せたのです。このAさんの発言から新しい仮説を考えることができます。例えば、「専業主婦をターゲットにした場合、料理だけでなく他人との会話を望んでいる。会話が多くなるような体験コースのプログラムを作ろう。」などです。
更に参加者Cさんにも質問しました。「Cさんは、料理の順番を待っている間は、少し退屈そうでした。その時、何かメモを書き始めましたね?」。
そうすると、Cさんは思い出したように、「そう言えば、料理の順番を待っている時間がもったいないと思いました。なので、自分の順番を待っている間に自分なりの創作レシピを考えて紙に書いていました。最初にレシピを作成して、参加者でレシピを見せ合うと楽しいと思います。」でした。Bさんも、自分のニーズに気づき言語化できたから具体的に話せたのです。このBさんの発言から新しい仮説を考えることができます。例えば、「固定したレシピによる料理体験ではなく、自由にレシピのアイデアを考え共有し、創作料理を楽しんでいただく」などです。
筆者は、特別に高度な調査手法をしていません。モニターの皆さんを観察していただけです。そして、参加者全員の「楽しそう、困ってそう」に関する質問項目をメモに書いていただけです。本人は、その「楽しい、困った」に気づいていないだけなのです。
このように、「人は自分の行動を自分ではあまり把握できていないのです」。
だから、顧客の声を聞く調査では、人の行動観察とグループインタビューの組み合わせが有効なのです。
聞きすぎることのリスク
2019年5月31日
原です。
マーケティング調査でのモニター顧客は、調査対象に関連する商品やサービスについてある程度の情報や経験があります。
おかげさまで、顧客の声を聞くことで、さまざまな価値ある情報を得ることができます。
しかし、目的の達成、その後の戦略・戦術立案に活かそうとするときは、顧客の声を聞きすぎることに、注意しなければなりません。
特にマニアックな人の声を聞きすぎることは危険です。(ただし、マニアックな人がターゲットの場合は例外です。)
マニアックな人は、インタビューで話を聞いていくと、どんどん要望が高度になることがあります。
例えば、調味料開発に関するグループインタビューのケースです。
グループインタビュー参加者の中には、「料理人の家庭で育ち料理もできるし、多種類な調味料のことには詳しい」人がいました。
グループインタビューでは、自宅に保管している調味料の話をはじめました。
調査対象の商品に対する要望も高度かつ厳しい意見を述べます。もちろん、高度な意見や厳しい意見はとても貴重です。しかし、「その商品に詳しい人の意見だから」と安易に意見を取り入れても、売れる商品になるとは限りません。
そういうことから、筆者は、このマニアックな参加者さんに次のような質問しました。この商品を「ほしいですか。買いたいですか。」そうすると、「ほしくない。買いたくない。」と回答されました。理由を聞くと「自宅にある調味料を組み合わせれば、自分でも作れる。調味料を自分で作ることにこだわりがある。」と言われました。要するに、この時のマニアックな参加者さんは、要望は言うけれど買わずに自分で作るのです。結局、要望を聞いて開発しても、その商品を買ってくれないのです。
それに、他のインタビュー参加者さんからは、そこまで高度でなくても良いという意見が多かったです。
このように、詳しい人の声を聞きすぎると、商品がどんどん複雑化・高度化していきます。その結果、売れない商品になることがあります。
戦略立案にあたって顧客の声をどこまで活かすかは、調査側の判断力や戦略的な思考力が必要です。
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