早嶋です。
モラトリアムとは返済猶予制度ともいわれ、中小企業向けの融資や個人の住宅ローン返済を猶予するための法律です。借入返済を今すぐせずに、少し待って、と金融機関に言えるというのが大きなメリットでした。リスケジュールと異なり銀行が行う格付けが下がらないというのが当時の触れ込みでした。
そもそもの目的は中小企業及び住宅ローン利用者に対して金融の円滑化を図り、国民経済の健全な発展というもの。中小企業等で金融機関に対して債務弁済が難しくなった場合、当該債務の返済負担軽減を金融機関に申し出ました。その際、中小企業の事業について改善、再生の可能性を勘案して、できる限り貸し付け条件の変更、旧債の借り換え、当該債務を消滅さえるための株式取得などを行うよに勤めるという内容です。
民主党に政権交代して金融担当相に就いた亀井静香・国民新党代表(当時)が強硬に導入を主張、中小企業金融円滑化法として実現されました。法令により、一斉に返済を猶予するモラトリアムの実施は、借りた資金を返せるのに返さない(モラルハザード)企業等がでる可能性もあるとということで導入当初は反対論が多かったはず。
そこで個別の融資案件毎に金融機関が審査して返済条件を見直すというルールができました。これによって表面上のモラルハザードを回避しようと言うのです。しかし、実際はざる。中小企業の要望があれば、できる限り返済条件の変更に応じるといるという努力義務がいつしか、金融担当相の繰り返す指示により、義務になるかのごとく金融機関が受け入れ始めたのです。
結果、膨大な件数の融資条件の見直しが行われます。申し出があった企業の経営状況を把握して、理解して、見込みがある等と勘案することむせず、只只モラトリアムを実行する始末。ひん死状態の中小企業にとってはありがたい話ですので、成立した2009年12月から申し込みは殺到。実際、金融機関にとっても、貸し付け条件の変更やDESなどによって、多額の損失で発生していた債務超過が解消される可能性があるということで、追加融資を進んで実行しました。
ある小売店は、近隣にオープンした量販店の影響を被り売上が従来の2/3に減少、2期連続で赤字を計上して債務超過になりました。事業収支による借入金の返済は不能に、しかし小売店の代表が個人貸し付けで返済を行い、アフターサービスに力を入れて赤字を解消するという事業計画を練り直します。金融機関は、代表からの借入金を自己資本とみなして債務超過とならず、特段の問題のない貸付先として評価しました。
ある製造メーカーは、技術本意で売上を伸ばしていましたが、昨今の急激な円高に対応が遅れ債務超過に転落します。省力化やグローバルビジネスに対応するために融資を受けたくても出来ません。そこで金融機関は技術力を評価して、新たな事業計画をベースに、資本性借入金への条件変更を認め、債務超過を一気に解消します。ある種のDESの実行です。資本性借入金の金利は業績連動型となっており、投資効果が現れるまでは金利負担は低く、それだけ資金繰りが楽になりました。
モラトリアムは、先延ばしという意味が含まれ、戦争や天災等で債券の回収が困難になった場合、信用制度の破滅を防ぐために返済に猶予を与える仕組みです。モラトリアム法は、信じられないような救済事例が星の数ほど存在します。しかし、これには期限があります。2013年3月。駆け込み需要の懸案以上に恐怖なのは、期限後に顕在化する大量の倒産事例の発生です。
金融庁のまとめによると、法律が施行された2009年12月から中小企業で融資条件の見直しを申請したのは、累計で313万社を超えます。そのうち見直しが実行されたのは289万社以上。申請した企業の9割以上が実行された計算になります。そして、その債券の総額は約79兆円。内訳も、地銀や第二地銀などの地域銀行が130万件、37兆円あまり、信用金庫が98万件、18兆円あまりです。
正確な数字が良く分っていない背景に、同じ融資で条件見直しを複数回行うなどの重複があり、実際の債券額のどの程度がモラトリアムの対象となり潜在的な不良債権になっているのかが不明なようです。しかし、多くの専門筋は40万社、80兆円の融資が潜在的に不良債権になっていると指摘しています。
そのような最中、銀行の株式保有の5%ルールが見直されています。一般事業会社への出資上限を20%まで引き上げるというのです。モラトリアムが終了すると、金融機関にDESを推進させるかのように、貸し出しを資本に変えなさいと言わんばかりの金融庁のお達し。
例えば、未上場企業で資本金が3000万円で負債が5億円等はざらにあります。ここに5%のルールが崩れたら、DESを行い金融機関が株式を保有するのです。しかし、実際は、金融機関もDESの行使を拒むと思います。倒産する企業が目に見えているのに解は無い。もちろん、DESを行っても金融機関は損をするだけです。
国も、金融機関も、政府もなす術がないのです。言えるのは当時の金融担当相の亀井静香が原因ということだけ。自民党は直ちに何をすべきかを決めなければ、安倍政権が訴えた経済の立て直しの直後に最悪の倒産件数を記録することになります。民主党3年間に埋められた時限爆弾にスイッチが入ったかのごとく。
結局、倒産すべき企業を無理くり延命させることに要因があったのです。企業倒産は絶対の悪ではありません。経済活動の中で競争によって強弱ができることは自然な姿。企業は互いに切磋琢磨しなければ資本主義経済は成立しません。倒産する企業が世の中にとって必要不可欠な場合は、会社更生法によって再生が図られます。融資をしている銀行は債権放棄をし、株主が減資で利益を失います。これらも経済活動の正しい側面です。
モラトリアムはそれらを意図的に止めてしまった結果です。本来は倒産して整理される債券だけがつり上がり、金融機関から見ると不良債権が際限なくふくれ上がる。ゾンビのような企業がはびこってしまう。それを金融機関も支えることが出来なり共倒れする。そして国がケツを拭くはめに、つまるところ結局は国民のツケとなる。我々の税金が原資となるのです。
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モラトリアム
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