新規事業の旅177 ポッドキャストの未来

2025年5月4日 日曜日

早嶋です。(約1900文字)

(情報収集の変遷とポッドキャストの再来)
日常的な情報収集の方法は、この数十年で劇的に変化してきた。かつては、読書、つまりは活字による収集、が主流で、リアルな対話や現場での体験も重要な情報源だった。しかし、2000年頃からWebが市民権を得て、インターネットで調べるという行動が急速に一般化した。

さらに、2007年に登場したiPhoneによるスマート革命は、情報の扱い方を一変させる。スマートフォンの普及により、誰もがネットに常時接続し、即時に情報へアクセスできるようになったからだ。その後、SNSが登場し、文字だけでなく、写真、動画、音声といった多様な表現手段がネットの主役になった。

文章を読んで情報を得るスタイルから、動画や音声で理解するスタイルへと、情報消費の重心が移動していったのだ。文字による情報は、実のところスピードと密度という意味では非常に効率的であると私は思う。しかし、若者を中心に「文字を読まない」「読めない」傾向が強まり、結果的に動画が主流の情報媒体として台頭したのだ。

文章を求める場合は、若者の間ではX(旧Twitter)が主要な選択肢となっている。そして、スマートフォンとイヤフォンという組み合わせが日常化するにつれ、一時は過去のテクノロジーと見なされていたポッドキャストが、再び注目を集めるようになった。

(ポッドキャストの起源と復権)
ポッドキャストという言葉は、2004年頃に登場した。私はアップルが始めたと思っていたが、正確にはアップルが始めたサービスではない。しかし「Podcast」という名称は、「iPod」+「broadcast」を掛け合わせた造語で、iPodの普及とともに広まった経緯だ。その意味では、アップルの影響は大きかった。

当時、音楽を“所有”する文化から、インターネット経由で“持ち歩く”時代へと移行しつつあった。ソニーのウォークマンはカセットテープという物理的媒体に依存していたが、iPodは初期には内蔵ストレージ(HDD)に音楽を保存し、やがてネット接続によるストリーミングへと進化する。

この流れの中で、音楽の売り方も変わった。1曲100円〜150円で販売されていた音楽は、月額1000円程度の“聴き放題”というサブスクリプションモデルに収束していくのだ。これがSpotifyなどの登場と成功を支える土壌になったのだ。

(誰もがメディアになる時代)
現在では、SNS、YouTube、ポッドキャストといった多様な媒体が乱立し、プロ・アマ問わず誰もがメディアとして発信できる時代になった。スマートフォンひとつあれば、動画も音声も、簡単に世界中に届けることができる。つまり、私たちは「一億総ジャーナリスト」の時代に突入したのだ。世界に発信できるという観点からすると「80億総ジャーナリスト」の時代とも言える。

Spotify(こちらはスウェーデン発の音楽ストリーミングサービスで、2008年に正式サービス開始)が、ポッドキャストの配信機能を拡充し始めたのは2019年頃からだ。当初、自社アプリ内だけで完結する形だったが、やがてRSSを通じてApple PodcastsやAmazon Musicと連携できる仕組みを整えていく。

一方、YouTubeはもともと動画での情報発信に特化したプラットフォームであるため、音声のみのファイル(MP3など)を直接アップすることはできない。そのため、YouTubeでポッドキャストを配信する場合には、音声を動画形式(MP4など)に変換し、静止画と組み合わせて投稿するのが一般的な方法となる。

とはいえ、YouTubeもポッドキャスト市場に本格参入しており、2023年には「YouTube Podcasts」という機能を強化し始めている。ただし、SpotifyのようなRSS配信との連携は現時点では限定的だ。

(ポッドキャストの未来)
今後、ポッドキャストがさらに普及するにつれ、配信者側の「利便性」が競争力の鍵になる。RSSによって複数のプラットフォームに一括で配信できるSpotify陣営の方が、現時点では有利だ。

YouTubeがもし、音声コンテンツに対してRSS連携を許可するような仕様変更を行えば、状況は変わるだろう。しかし、それはYouTubeが今の“動画王者”というポジションを捨て、オープンな音声配信に踏み込む覚悟を示すことになる。

そう考えると、現時点ではSpotify陣営が「ポッドキャスト配信のプラットフォーム」としての覇権を握っていると見るのが妥当だ。

(ポッドキャスト配信)
アップルのポッドキャストはこちら
アマゾンのポッドキャストはこちら
スポティファイのポッドキャストはこちら

(過去の記事)
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