「わかるということ」 〜複雑な環境に対応するために〜

2022年5月9日 月曜日

◇初めて社会に出て…

原田です。

20年程前、大学を卒業し、社会人になって衝撃を受けました。それは、やっている仕事の意味がまったくわからなかったことです。

上司から指示は出ます。1日でやるべきことは決まっています。しかし、なぜこういうことをやるのかわかりません。自分の仕事と、周りの仕事とのつながりもわかりません。そして、自分の仕事で、どれだけ利益が出ているのかもわかりません。

社会人になって、1年くらい働いて、少し落ち着いて周りをみることができるようになりました。その時、思ったことは、みんな実はわかっていないのではないか?ということです。みんなわかっているふり(あるいはつもり)をしているだけなんじゃないかということです。
 
そして現在、社会人になって20年以上経ちました。仕事柄、実に多くの種類の仕事に関わりました。その中で、自分なりにわかったことは、多くの仕事が、みんなのわかっているふり(あるいはつもり)、で成り立っているということです。

◇ビジネスで求められる「わかる」ということ

大企業の中堅社員になれば、人は自分の仕事はわかっていると思います。しかし、そのわかっているは、1)自身のセクションの仕事の手順を覚えている2)実務固有の経験が蓄積されている3)いくつかのフレーズが頭の中にはいっているということです。

1)手順、2)経験、3)フレーズの3つ。この「わかる」が標準的だと思います。仕組みができあがった大企業はこういうわかり方で十分なのかもしれません。
 
3)フレーズとは、「月末は在庫を減らす」、「粗利は20%確保する」、「歩留り率は98%以上」など職場で一般的によく使われる言葉です。このようなフレーズは多くの職場で飛び交っています。しかし、それは断片的なものです。会社の全体的な構造のなかで、そのフレーズがどういう意味をもつのか、わかっている人は少ないです。

もし、部下が疑問に思って、上司に、「なぜ月末は在庫を減らさないといけないのですか?」と聞いても、納得のいく答えが返ってくることはないと思います。その上司も、かつての上司からそう言われたのです。なので、自身もそう言っているのです。

本来、ビジネスで求められる「わかる」は、全体像を構造的に把握することだと思います。ビジネスの要素と、その要素のつながりでつくられた構造と、その振る舞いがわかることです。

図のような、構造と振る舞いの関係がわかっていれば、ビジネスの生産性を高めるアクションを考えることができます。新たな要素を取り込むことができます。また、他者に対し、相手がわかるように説明することもできます。




◇多くの会社でおきていること

多くの場合、ビジネスの規模が大きくなるに従い、全体像は誰もわからなくなります。わからない人が、組織の上層部に上がり、その下にわからない人が配属されます。ビジネスというシステムの中に誰も知らない空白地帯のようなものがでてきます。そして、その空白地帯は、だんだんと大きくなっていき、業務の断片化が進みます。いわゆるタコツボ化です。

いくら優秀な人間でも、断片化されたシステムのなかではできることに限りがあります。古い体質の大企業であればわかる人は全体の2割以下だと思います。2割の人が何かやろうとしても、8割の人の抵抗にあい、物事は進みません。

複雑化するビジネス環境のなかで、それを補うはずのテクノロジーも、職場のタコツボ化を進めていると思います。なぜなら上の立場の人がわかっているふり(あるいはつもり)をするだけだからです。最新のテクノロジーを前にして、「いや実はわからないんですよ…」とは言えないですよね。これではDX化など進むはずがありません。

◇会社のビジネスがわかること

自社のビジネスがわかることは、かなり大切なことだと思います。自社のビジネスがわかることとは、その全体像を把握するだけでなく、相手に応じてその構造、振る舞いをしっかりと説明できることです。もちろん自社が属する業界の構造までわかる必要があります。

ビジネスの世界では、常に新たなテクノロジーや、流行りの言葉が生まれています。こうした複雑化するビジネス環境の中で、新たな概念をひたすら追いかけるのではなく、まずは自社のビジネスのことをみんなが理解しているか、あらためて確認する必要があると思います。ビジネスを理解するために有効なのがバリューチェーンの概念です。自社だけでなく、顧客、協力会社も含めて描くことで、組織の共通認識を確認できます。

このようなことに取り組みためには、実はみんなわかっていないことに気づく必要がありますが…。



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