無形資産へのシフトの結果

2020年4月23日 木曜日

早嶋です。

事業買収を行う場合、実物の有形固定資産に対しては明確な記述対象となるけれども、その他の顧客との信頼関係やブランドの価値や製造ノウハウや集客ノウハウなど、実際に事業に必要不可欠な資産は表現がむずかしい。それらを認識して資産と上げると無形資産となります。

例えば、ある会社を現金1,000で買収します。資産や負債の正味の時価が600でした。通常のれんは差額で算定されるので、無形資産の認識がなければのれんは400です。一方無形資産が300だと認識されていれば、のれんは100です。

国の勢いや状況を示す国内総生産GDPは、消費、投資、政府支出、純輸出の価値の合計で、最近まで全て有形資産でした。しかし経済は有形資産よりもソフトや企業間の取り決め事項や社内のノウハウの蓄積など無形資産に価値がシフトしていると思います。これらは1960年代とか70年代にアルビン・トフラーがポスト工業化で非物質的なモノが経済にインパクトを与えることを推定していたこともあり、当時から広く受け入れられた概念だったようです。

2000年頃より始まったIT革命、2007年頃より始まったスマートエコノミー。実態経済だけでは記述ができない新たな経済空間に対して大前さんはニューエコノミーという概念を提唱しました。当時、企業の研究者だった私は、なんとなく研究アイデアや特許のことを言っているのかな?と思った程度だったのを思い出します。

無形資産に対して、他の文献や書物を読んでいると、メリーランド大学のチャールズ・ハルテン氏が2006年のマイクロソフト社の研究をした話がわかりやすかったです。当時の市場価値は2500億ドル。バランスシートでは総資産700億ドル。うち600億ドルが現預金や金融資産でした。工場や設備などの伝統的な資産は30億ドル。

同氏はマイクロソフト社の帳簿を分析精査して無形資産を特定したのです。それらは製品開発や研究開発に投資して生み出したアイデアやデザインやブランド価値や社内の仕組みや研修で得られた人的リソースなどでした。その際、彼は無形資産を3つに分けています。

1)コンピューター情報、2)イノベーション財産、そして3)経済能力でした。これらの分類をすすめる中で、無形資産を生み出すための無形投資について、従来の有形投資との違いがいくつか整理されました。「無形資産が経済を支配する」の著者ジョナサン・ハスケル他は、その特徴が4つあると言っています。そのなかで3つのサンクコスト、スピルオーバー、そしてスケールはピンと来ました。

1つ目は、無形資産はサンクコストが多いことです。M&Aなどでもよくありますが、店舗を居抜きで譲渡する場合と営業権を付けて譲渡する場合では価値が異なります。有形資産だけで考えると、什器や店舗の造作や車両などは一応市場で売買することができます。しかし、一定期間経っても営業権付きで売買できない場合(そもそも無形資産的な価値はなかったかも!)も多々あります。

実際、その店舗独自の運営マニュアル(あるいは考え方)や顧客対応術などを他社が価値を見い出さない場合もあるからです。これらはサンクコストとなり、回収が実際に難しい手の資産への投資はデットでの資金調達はかなり弱いです。その理由も、何かあったときに資金が回収できないからです。

2つ目は、スピルオーバー、つまり波及効果です。コンサルティングの商売ではじめて知った意味のある言葉「ぱくって、ぱくって、おりじなる(PPO)」です。なんとも含蓄のあることばですが、まさにスピルオーバーです。無形であるがゆえに、開発者以外も基本的には容易に活用することができます。

アイパッドもアイフォンも、今となっては殆ど同じような商品を他社がガンガンだしています。その御蔭で一般ピーポーは経済合理性が高くなっていることもありますね。

3つ目は、スケーラブル、つまり拡張可能性です。ウーバーなどの事業がピシャリです。あるエリアや国でアプリを開発して事業モデルを確立すると、アプリはiOSかアンドロイドに乗せると事実世界中に。そして、そのビジネスモデルは国や地域の規制はあるものの、一気に横展開が可能です。無形固定資産で売上を立てる場合は、売上を倍にするためには投資も2倍でしたが、無形資産の場合は拡張の自由度が全くことなります。

当然、誰かがスケールが大きな事業を行うと、2つ目のスピルオーバーが効いてきて、模倣が始まります。ウーバーに対してはグラブが相当します。結果、かなり激しい戦いが生じて、世界に数社の企業が生き残るという結果が見えてきています。

最後はシナジーです。これは無形を組み合わせることで威力を発揮するという話ですが、固定資産においける事業においても同様なので、私はジョナサン・ハスケル氏にここは共感できませんでした。

ただし、上記の3つの特徴は経済や社会に対して、一般人からするとより便利に、そしてより安価に利用できるようになる一方で、長期的な投資が抑えられるという現象も観察されるようになります。その実態はカネあまりにも代表されます。世界中のお金は、より効率的でよりリターンの高い事業に投資されます。これまでは、投資と比例してリターンが補償されていました。しかし、上述した事例によって、無形資産での事業はある一定の投資額は必要になりますが、固定資産を主体とする事業から比較すると小さな投資額で大きなリターンを埋めるようになります。

そうすると、実は利益を得た後に再投資するとなっても、投資する先が無くなってくる。という現象が起きるのではないかと思います。この状態が続くと、お金は余っても使う対象が少くなるので結果低金利の状態が発生します。固定資産主体の経済学、つまりオールドエコノミーでは、お金の調達コストが下がれば投資が増えると考えるでしょうが、これが無形の実態がない経済、ニューエコノミーでは金利を下げても投資先がそもそも無くなっている。あるいは、既に投資は十分に行われている状態になってしまっているのです。

逆に、直近の数年はITカンパニーのジャーゴンに騙されて、そこらへんのIT会社に対して分けのわからん金額をぶっこむ投資家が増えていましたが、この現象も理解できます。無形資産への投資は、リスクが有る分、そのスケール感が従来の投資よりも半端なく大きいから投資家はなんとなくお金を出してしまっている状況が続いていたのです。

もう一つ。無形資産で収益を上げる企業は、ますますスケールするので、そのレバレッジを生かして実態経済の会社をガンガン資本傘下におさめて行きます。GAFAに代表される企業が稼ぐ収益が半端なく、従来の企業の殆どを彼らでまかなってしまう現実です。




参照:無形資産が経済を支配する 東洋経済新報社 ジョナサン・ハスケル他著



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