宮崎牛のブランディング

2012年9月28日 金曜日

早嶋です。

黒毛和牛と言えばチャンピオンは何と言っても松坂牛。このクラスになれば正直、味の差よりも感情的なブランドの差、つまり松坂という牛、名前に対するあこがれがそのまま価格に反映していると思います。その意味では松坂のブランド価値はたいそうなものですね。まさに、黒毛和牛会のチャンピオン!

九州は土地柄、牛を育てている農家が多く、その牛にご当地の銘柄を付けて、各地域が黒毛和牛を一生懸命宣伝しています。伊万里牛、佐賀牛、長崎牛、宮崎牛、豊後牛、鹿児島牛。実に多数あります。これは九州を離れたところでも観察できます。そして、殆どのご当地黒毛和牛がチャンピオンの座を狙っています。つまり、松坂牛を追い越せ追い越せ!です。これは圧倒的に差を付けられている2位以下の戦略とは反します。

松坂牛は誰もが認めるチャンピオンクラスの黒毛和牛なので、他のご当地和牛が松坂牛に対抗して牛の宣伝をすればするほど、認知が少ないぶん、消費者は松坂牛のイメージが濃くなります。そう、圧倒的に差を付けられているときに、チャンピオンと同じ戦略を取るとこれは逆効果になるのです。従って、2位以下の黒毛和牛は、チャンピオンと同じようなマーケティングを取れば取るほど自爆してしまいます。

ではどうするか?取るべき方法はチャレンジャーの戦略かニッチャーの戦略かフォローワーの戦略です。どれが良いのか?はそのご当地の黒毛和牛の環境や立ち位置によって異なります。

例えば宮崎牛を考えてみましょう。

宮崎牛は、生産から販売を一括管理している数少ない黒毛和牛の銘柄です。牛の生産と言う観点から見れば北海道、鹿児島、宮崎がそれぞれ10%〜15%をしめ、後は他の産地です。一方、黒毛和牛にフォーカスすると鹿児島と宮崎で半数を占めています。そういう意味では宮崎も鹿児島もチャンピオン級なのです。更に基畜(もとちく)と言って黒毛和牛を各産地で飼育する場合の基となる子牛の多くは宮崎から出荷されています。ということは、多くのブランド牛のDNAは宮崎牛なのです。但し、こんなことを知っている消費者はいなく、産地のネームバリューによって何となく美味しいイメージにお金を払っているのです。まあ、そんなものでしょう。

因に、現在の宮崎牛の戦略はチャンピオンの模倣です。宮崎牛の4割は大阪、3割は東京、1割を福岡に出荷しています。残りは地元や他の地域です。東京、大阪、福岡にはJA宮崎の出張所があり、宮崎牛の普及に力をいれています。また、東京と福岡には宮崎牛を食べられるレストランがあり、JA宮崎が運営しています。JA宮崎が東京、大阪を選んでいる理由は、やはり消費地として市場が大きいからでしょう。しかし、ここには盲点があると思います。

大阪の立地条件を考えると、関西には神戸牛、但馬牛、そしてもちろん松坂牛が陣取っています。黒毛和牛の地位に宮崎の名前を浸透させようとしても、大阪は容易ではないことが分ります。圧倒的にブランド価値が他より低いからです。東京はどうでしょうか?おそらく日本で一番良い食材が集まる場所なので、やはり激戦地区であることは間違いありません。東国原知事がいなくなったいま、宮崎のブランドは過去のもの、宮崎牛の名前もワンオブゼムでほぼ無名に近いと思います。

結果、これ以上の消費が東京や大阪で伸びることは考えにくいです。一方、福岡はどうでしょうか?黒毛和牛のチャンピオンはやはり松坂牛。しかし、実際は流通量が小さいので福岡にはあまり出回っていません。そのため黒毛和牛は佐賀牛、宮崎牛、豊後牛、鹿児島牛、長崎牛が陣取っています。ではどれが消費者のイメージが良いか?それは佐賀です。理由は、単に隣の土地で近い、というのが当てはまると思います。特に佐賀牛が特別なマーケティング活動を行っているわけではないからです。ってことは、ここに少しだけ頭と知恵を働かせれば佐賀以外のご当地和牛は十分にシェアを広げることは可能だと思います。もちろんそれを佐賀が最小に行うことが一番容易な訳ですが。

因に佐賀牛は全ての肉質をA5級で勝負しています。宮崎牛はA4以上。なんとなく一般消費者からするとA5級と聞けば美味しそうなイメージですね。この投球の表し方は、AからCがあります。C等級の内はいわゆる品質が悪い肉です。B等級は自然に育ったような脂の乗った肉牛で、実は牛肉本来の姿がこれ。では、A等級は?イメージはフォアグラです。態々メタボリック気味に育てて、普通に育ったB等級の肉と比べてさしがタッぶり入っています。そしてA1からA5は数字が大きくなるにつれてさしが多くなります。何故か日本人はさしの入った脂たっぷりの肉が好きですよね。従って値段も高く取引されるのです。

黒毛和牛の値段は、チャンピオン級の松坂牛のA5級の値段をベースに、他の肉質の就き方、産地のネームリューなどを加味して付けられるようです。従って、同じA5急でも地域や産地によって若干値段のバラツキがあるようです。因に、肉のプロ、卸のプロ、農家のプロが松坂牛のA5級とA4級を食べ比べたとて、違いが分る人は少ないと思います。同様に、松坂牛と他のご当地牛のA5クラスの肉を食べ比べてもブラインドの状態では、やはり同じ。違いが分らないでしょう。そのくらい、黒毛和牛のA4、A5クラスは良く育てられているのです。

因に価格の評価です。ザックリとした評価ですが、黒毛和牛でA5クラスの肉を比較すると、松坂牛、神戸牛、但馬牛、米沢牛は100gあたり3,000円〜。一方、宮崎牛、佐賀牛、鹿児島牛は2,500円〜です。これがA4級になると松坂牛、神戸牛、但馬牛、米沢牛は100gあたり2000円〜、宮崎牛、佐賀牛、鹿児島牛は1500円〜。

チャンピオンクラスとそれ以下の黒毛和牛ではA5級でグラムあたり500円前後、A4級でも500円前後安く取引されているのです。宮崎や鹿児島の黒毛和牛が安く取引されているのは、他にも供給量が他の黒毛和牛よりも多いこともあると思います。

そこで、整理します。A5級の松坂牛とA4級の宮崎牛を素人が味覚のテストをブラインドで行った場合、ほぼほぼ味の違いは分らないでしょう。プロだって肉質をじっと観察しないと分らないからです。しかし、実際の価格の差は2倍。これは実に面白いと思います。

宮崎牛の強みは、全国に基畜として提供している、生産量も他の黒毛和牛よりも圧倒的に多い、実際ブランドを隠した場合、味の違いに大きな優劣は無い。そして、実際は等級が同じだと500円くらい安く取引される。これらを踏まえて、宮崎牛が取れるポジションは、”日常的に食べられる松坂牛”では無いでしょうか?佐賀牛が松坂のポジションを狙ってA5級で勝負している側で、宮崎牛はA4級で勝負する。すると、他の肉よりも価格が安く見え、かつ、松坂の半分の価格に見せることができます。しかし、実際の食べた味覚は、違いが分らない。

安定供給と大量飼育の力をベースに、リーゾナブルだけど旨い!それは基畜として全国に出荷していることが何よりの証明です!などと理由を付ければ明確です。実際美味しいのは間違いないのですから。

さて、上記のシナリオを取れる県は鹿児島も可能です。しかし、何となくマーケティングがへたな県です。ただ、宮崎が有名になったのは東国原知事以降。JAさんがおおわく見ながら、自分たちの立ち位置を考えたマーケティングを行えば、新たなポジションで十分に消費を増やす可能性がまだまだある。農業はそんな市場だと思います。



コメント / トラックバック2件

  1. 椿事 より:

    面白い分析ですね。
    私は途中まで読み、「うまさは松坂級、価格は半分」みたいなキャッチコピーを考えました。でも、宮崎の関係者は、松坂牛との比較を良しとするでしょうか。「宮崎は、宮崎だ」と思わないか。ホンダが最新の高級車を売り出す場合、「レクサス以上の乗り心地」と表現しないのと同じです。
    さらに読み進めると、「日常的に食べられる松坂牛」と書かれていました。
    「松坂牛」という名称を借りないで、何とか、このポジショニングを打ち出せないか。ここにコピーラーターの仕事が生まれるんでしょうね。

  2. biznavi より:

    ポジショニングのコンセプトですので、是非、よさそうな表現を!

    ちょうど同じように、シャンパンと同様に厳しい品質管理をおこなっているスペインのCAVAがあります。ここもCAVAを売るのではなく、日常的に飲めるシャンパンとうたっていれば良いのにと良く思います。

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