エスノグラフィック・マーケティング

2010年10月25日 月曜日

エスノグラフィック・マーケティング。エスノグラフィック、聞きなれない言葉と思いますが、人類学の手法を応用してマーケティングを行う手法や考え方全般を示します。

エスノグラフィーとは、社会学や文化人類学で行われるインタビューや観察によるフィールドワークと調査記録をまとめた文書をさします。特徴は、事前に仮説を立てずに定性調査を重ねて豊富な情報から仮説を見つけ出すことです。従来型の消費者調査が仮説検証型とすれば、エスノグラフィーは仮説発見型といえるでしょう。

人類学者は未開の地に入り込み、そこに住む人々と生活を共にすることで、特異に見えるモノゴトの背後にある共通の構造を見つけ出します。そのための手法は大きく2つあります。観察する人類から極めて遠い位置に立つ方法と、その社会に身を置く方法です。

■P&Gの事例
P&Gは社員が数日間、消費者の家族と共に過ごしてあたかも人類学者のように消費者を観察するプログラム、Livin’ it(リビン・イット)と、小売店を手伝いながら買い物客が何を買って、何を買わないかを観察するプログラムWorkin’ it(ワーキン・イット)を実施しました。

実際にこれらの手法から生まれた商品にダウニー・シングル・リンスがあります。メキシコでは住居用の洗剤であったダウニーのシェアが伸び悩んでいました。そこでLivin’ itとWorkin’ itの両方の観察プログラムを実施しました。

そこで分かったことは、通常の洗濯には大量の水を必要とするが、その水を用意することがその地域ではとても大変な労力であったことでした。メキシコの低所得者であった対象消費者は、洗濯の際に大量の水を運ぶという重労働があったのです。そこでダウニー・シングル・リンスはすすぎの回数を1回に減らす商品として大ヒットを飛ばしたのです。

■花王の事例
花王の生活者研究センターは、2007年秋から2008年3月まで半年間かけて観察やインタビューなどを実施し「アンチエイジング(抗加齢)に関する消費者の考え方や行動理由を理解すること」を目的にエスノグラフィーをとりいれています。これらの調査結果は、花王のマーケティングや商品開発などに活かされています。

■大阪ガス
大阪ガスでは、商品を販売するイベント会場で、来場者が商品ポスターの前に立ち止まるように仕向けるため植木の位置を変えました。これによって、その商品の売上高を3倍に伸ばした実績があります。これもエスノグラフィーを用いた結果を基に行った結果でした。またあるセミナーでは、受講者のしぐさを観察しました。受講者のしぐさと、講師の発表の撮影内容を照らし合わせて分析をすすめることで、プレゼンテーションの進め方やセミナーの運営方法の改善点を見つけ出したといいます(日経情報ストラテジー参照)。

■ノキアの事例
ノキアはインドの携帯電話市場に参入するときにエスノグラフィック調査の手法を採用しました。同社は、既存製品を投入する前にまず消費者の行動を直接観察しました。そこからインドの消費者の独自のニーズである防塵、懐中電灯、偏光スクリーン、手が汗ばんでいても滑らない機能を携帯電話に取り入れ話題を呼びました。(ラップに携帯電話が包まれて使用されていた!)

また販売チャネルにも応用しています。大型小売店が携帯電話の販売に対して消極的であることを知ったノキアは、起業家マインドが旺盛な個人の露天商人に注目しました。彼らのニーズ、動機、販売スタイルを観察し理解したことによって、ノキアは屋台で果物を売るかの如く携帯電話を素早く普及させる流通システムの構築に成功したのです。





早嶋聡史






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