早嶋です。約2300文字。
ポッキーが立体商標を取得した。そのニュースをみて立体商標に関して整理したので忘備録としてブログにまとめておく。
今回、ポッキーが立体商標を取得した目的は、「形そのものがブランドだ」と公に認めさせることだ。実際、立体商標を取得するのは時間も根気も要る。
ポッキーは、1966年から続くあの形が、文字やロゴ抜きで出所表示として機能する、と特許庁に認められた。登録番号は第6951539号。食品で中身の形状だけが保護された事例は少なく、今回も長年の販売や広告に裏打ちされた識別力(周知著名性)の立証がカギを握った。ここが難所で、単に奇抜な形というだけでは足りず、「形だけでそれと分かる」ことを客観的な証拠で積み上げる必要があった。
制度の話を少し整理する。日本で立体商標が制度化されたのは1997年。機能を確保するための形や、一般的・装飾的な形は原則NG(商標法3条1項3号・6号)。そのうえで、長年の使用により形だけで自他商品識別力を獲得した場合には、例外的に登録が開く(3条2項)。この例外ルートでどれだけ説得できるかが勝負になる。審査基準や運用文書にも、3D形状の同一性判断や取得識別力の考え方が細かく落ちている。
食品分野でも前例はある。明治は「きのこの山」(2018年、登録6031305号)と「たけのこの里」(2021年、登録6419263号)で中身の形状のみの立体商標を通している。自社の発表でも、食品で形状のみの登録は日本に少なく、両者はその稀少な例だと位置づけられている。つまり、ポッキーはこの系譜に連なるのだ。
容器の世界的古典はコカ・コーラのコンツアーボトルだ。日本でも裁判所判断を経て「形だけで識別し得る」とされ、3Dマークが認められる流れを切りひらいた。ヤクルトのプラ容器も同様で、知財高裁が2010年に形そのもので識別できると認め、登録に道がついた。両者は日本の3D商標実務を語るうえで外せない節目だ。
プロダクト本体が登録されるケースも着実に増えている。G-SHOCKは2023年、ロゴ無しの時計の形そのものが3D商標として登録(6711392号)。「四半世紀以上の継続使用により識別力を獲得」との評価だ。ホンダのスーパーカブは2014年、国内で乗り物として初の3D商標という快挙で、車体のシルエットがそのままブランドとして法的に認められた。
容器と言えば、キッコーマンの卓上びん(赤キャップのあの形)。2018年、日本でロゴなしの容器自体が3D商標に登録。まさに形だけでも認識できることの公的なお墨付きで、同社は公式にそう説明している。
こうした流れは店舗外観にも波及している。出光のガソリンスタンドやファミリーマートの店舗外装など、建築・店舗の場の形が立体商標として登録された例もある(店舗外観はロゴや文字を併せた態様が多い)。「見た瞬間にどこの店か分かるか」を、商標の言葉に落として守るアプローチだ。
では、なぜ企業はそこまでして形を守るのかだ。理由はシンプルだ。第一に、PB(プライベートブランド)や模倣品への抑止力が段違いになる。名称を変えられても形の無断使用で差止めの土俵に乗れる。第二に、越境ECや並行輸入を含む国際流通での通関差止の根拠が増える。明治は実際に税関への輸入差止申立てを運用しており、商標権の威力を実務で示している。第三に、商標は更新により半永久に守れる(10年更新)。意匠の存続期間を超えて、ブランドの顔つきを守り続けることができる。
もちろん、何でもかんでも登録できるわけではない。機能確保のための形(例えば噛み合わせ、握りやすさ等が主目的の形状)や、単なる美観のための造作は本来機能・審美の範囲として排除されやすい。玩具分野では、LEGOの人形などをめぐる日本の審決・審判でも、形が商品自体を普通に表示するにとどまるとして厳しく見られている。だからこそ、使用実績と認知データの積み上げがものを言う。
食品の中身そのものが通るケースは今もレアだ。明治は自社の資料で、「食品分野の形状のみの立体商標は日本で7例に限られる」と明言している。ポッキーは、この狭い門をまた一つ押し広げた格好になる。
歴史で振り返ると、コカ・コーラ瓶やヤクルト容器の裁判例が、3条2項(使用による識別力)を実務に根づかせ、そこにキッコーマンの卓上びんや明治の中身形状、G-SHOCKやスーパーカブといったハードプロダクトが続いた。いずれも「形だけで分かるか」を正面から問われ、広告・売上・市場シェア・露出、そして大規模な認知調査まで、地道な証拠が鍵を握っている。
そして今回のポッキー。スティックの比率や見た目を一貫して守り抜いたからこそ、形が記号になった。PB対策、輸入模倣対策という守りの意味合いはもちろん、ブランド資産の明文化という攻めの意味も大きい。形そのものを公式にPockyらしさとして宣言し、将来のコラボや海外展開、派生商品の設計自由度まで含めて、交渉力と抑止力を手に入れたことになる。
最後に、これから立体商標を狙うなら、教訓は三つある。1)発売当初から形を戦略変数に置き、一貫して磨き続ける。2)広告と露出で形の刷り込みを図り、必要なら第三者機関の認知調査で裏づける。3)機能・審美目的の説明は慎重に。形の意義を「出所表示」に寄せて語る。実務の基準は厳密で、3Dは例外で取得の可能性があることを前提に考えておくことだ。