新規事業の旅179 生成AIが変える都市の機能とかたち

2025年5月8日 木曜日

早嶋です。約1700文字。

アメリカのテック企業が、再び出勤を義務づけ始めた。Google、Apple、Amazon、Metaといった巨大企業が、コロナ禍で推進したリモートワークを後退させ、「週3日以上出社」を原則にし始めている。Amazonに至っては、2025年から週5日出社という方針だという。一見すれば、これはオフィスでの協働を重視し、企業文化や生産性を高めようとするまっとうな戦略に見える。が、本音はどうか。

生成AIが台頭する今、ホワイトカラーの仕事の多くは、そもそも「出社しなくてもできる」どころか、「AIがやった方が速くて正確」という時代だ。Metaのザッカーバーグは「プログラミングはもうAIでできる」と明言し、GoogleではAIチームに60時間出社せよという強いメッセージが投げかけられている。

だが、そうまでして出社を促すのは、もしかすると「出社の必要がある」と言い張らないと、保有している巨大オフィスビルが無価値になってしまうからではないだろうか。Apple ParkやAmazon HQ2のような、数千億円規模のモニュメント的オフィスは、その存在を正当化する理由が必要になるのだ。

真実はこうかもしれない。生成AIは、オフィスワークのほとんどを代替する。だから、出社しないといけない仕事そのものがなくなる。オフィスという建物自体が意味を失うのだ。だとすれば、「出勤が大切」という主張は、時間稼ぎで最後の抵抗に見えるのだ。

丸の内、六本木、シリコンバレー、そして世界の主要都市。これらの街に立ち並ぶ巨大ビル群には、人が集まり、顔を合わせ、仕事をしていた。今、その機能はクラウドとAIに取って代わられようとしている。オフィスは、そもそも「集まること」が価値だった。が、もし本当に顔を合わせることが重要なら、週に一度の社内飲み会の方が効果的かもしれない。そうなればオフィスは、社内バーやスタバと合体した「コミュニティ空間」に変わっていく。出社は労働ではなく交流になり、オフィスは職場ではなく共創空間になるのだ。

都市の価値は、これまで「オフィスに人が集まること」だった。しかし、生成AIが主役になる現在から未来は、都市の中心はデータセンターや発電所になるだろう。AIが働くには、膨大な電力とデータが必要になるからだ。つまり、人が集まる場所ではなく、電力とデータが集中する場所こそが、新たな都市の中核になるのだ。

日本でいえば、もはや丸の内が止まっても国は動くが、印西(データセンター群)が止まれば日本全体が麻痺してしまう。それほどに、都市のインフラは変質しているのだ。都市とは、人が集まり、情報が交錯する場だった。だけど、これからは、人の代わりにAIが集まり、情報が処理され、結果が分配される場所になる。

では、このような変化において、東京と福岡はどのように変化するだろう。結論から言えば、東京は儀式としての出勤が残る街になり、福岡は都市機能のサイズがちょうど良いまちになると思う。

東京のオフィスワーカーの多くは、「調整」「報告」「儀礼」といった、非効率でも人間関係を前提とした業務に従事している。生成AIがそれらを代替可能にしても、日本のビジネス文化はすぐには変わらないだろう。なぜなら、日本において会うことは、実務よりも信用や信頼を意味するからだ。そのため、東京では「出社=業務」ではなく、「出社=信頼構築」という象徴として、しばらくは出勤が残り続けるのだ。しかし、少子高齢化と労働人口の減少により、「無駄を減らす圧力」は確実に強まると思う。従い、徐々に東京もまた、物理的な出勤から解放される構造に移行せざるを得なくなるだろう。

一方で福岡は、東京のような巨大なオフィス集積地ではなく、生活と仕事と遊びがバランスよく混ざった都市構造を持つ。スタートアップや個人事業主、地場企業も多く、そもそも「巨大なオフィスに通勤する文化」自体が薄かった。だから福岡で起こるのは、「出勤の消失」ではなく「オフィスの再定義」だ。共創の場としてのオフィス。人と人がつながる空間。カフェや居酒屋やホテルラウンジと混ざり合う、新しい職場の形だ。福岡には、そんな未来を試す柔らかさがあると思う。



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