金融機関との付き合い方

2010年5月15日 土曜日

金融機関から資金調達をする場合、彼らがどのような手順で企業の評価を行っているかを知ることで、資金調達コストを引き下げる事ができる事が分かります。

企業に資金を提供する場合、かならず金融機関は次の3つのステップを踏みます。格付け評価、審査、自己査定です。

格付け評価では財務分析を中心とした定量分析と定性分析の2つがあります。財務分析では、直近の決算書の数値から財務指標を計算して、その企業の安全性・収益性・成長性・返済能力等を判定します。定性分析では、決算書に出てこない企業の営業力や技術力など企業の強みを判断します。

企業はこの分析により格付け評価されます。もちろん格付けが下の企業は、金融機関としては貸倒引当金の積み上げコストがかさむため、貸出を控えるでしょう。そのためリスクを取りたがらない金融機関としての行動は自然と格付けが上の企業に資金を優遇するというシナリオになります。

金融機関の審査は、企業審査と事業審査の2つがあります。企業審査は、貸し出す企業の企業力を評価するもので、順調な企業の収益状況をみるものです。特に将来に赤字が出るか否かの予測がポイントになります。仮にその企業が赤字になれば、審査の次のプロセスである事業審査で注目するキャッシュフローの見通しが立ちません。赤字はキャッシュフローをネガティブにするため、金融機関は嫌がります。返済財源や返済期間の予測を狂わせるからです。

事業審査は、仕入、賞与、納税、設備など事業に関するキャッシュフローの動きを把握します。企業の資金使途や返済財源の説明でキャッシュフローが明らかにならない限り、その事業審査の承認はおりません。この理由は、貸出=将来のキャッシュフローまでのつなぎ資金・立替資金とになされるからです。

もし企業の経営者が中小企業だからキャッシュフローの動きは重要でない!と思っていたら、金融機関にいざ交渉をする時にとても苦労するでしょう。金融機関は資金使途・返済財源を通してキャッシュフローを明確にした後でした貸出を実行しないからです。

自己査定は、金融機関自身のバランスシートにおける貸出の内容を吟味するものです。中小企業の場合、決算報告のそのほとんどを税理士や会計士に任せてっぱなしのところが多いです。このような中小企業は金融機関からの質問に答えられない事が多く、結果的に金融機関との取引を深める事が難しくなります。

そこで、金融機関は自己査定に沿った実体バランスシートを作成するために中小企業や資金を調達したい企業に情報の開示を求めます。例えば、減価償却、棚卸資産や固定資産の現存処理、貸倒引当金の処理、退職給付引当金の処理などです。これらをまじめに行うと、勘定科目の調整をするためにそのコストがかさみ、自己資本の毀損が生じて、調整したことにより、調整しないで税務申告用の決算を行った企業よりも実体が劣等になるのです。

自己査定担当者は、調整されたバランスシートを今度は機会的に定量分析するので情報開示したために債務者区分がランクダウンされる事も考えられます。正直者が損をする絵になっているのです。これは不合理ですね。

本来は、これを補うための定性要因分析があるのですが、自己査定評価を担当する金融側の人間が実体を知らないために、定性要因ではランクをアップする事ができないのです。機会的に評価を行い、実際の経営者と話をしていないから当然と言えばそれまでですが。

これをそのまま鵜呑みにすると、情報開示をした方が損した気分になりますが、仮に自己査定評価をする担当者が定性的な分析が行いやすいように企業が働きかける事が出来たら、評価のランクアップも可能ということです。

日頃から金融機関と付き合いを持ち、定性的な内容を示すために、企業の強みなどを文章で公開する理由はここにあります。経営計画書や経営計画改善書、日常的な経営活動を文章で示す資料等を定期的に金融機関にレポートする事は、将来の資金調達コストを引き下げる活動につながるのです。


早嶋聡史





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