ネーミングライツの落とし穴

2025年11月11日 火曜日

早嶋です。約1500文字。

多くの企業が地域貢献の一環として、地元のスポーツ大会や文化イベントに協賛していると思う。そこには、地域との絆を深めたい、社会に還元したい、という善意がある。更には、地元の親御さんに会社の名前を知ってもらい、将来的に自社に入社してもらったら嬉しい、と考える企業もいるだろう。だが、実際のところ、その「善意」が逆効果になる場面が増えているように思う。

たとえば、10年間で気候が大幅に変わっている。猛暑の中での大会運営や天候判断の難しさなど、スポーツイベントや文化イベントの運営にも多様な経験が必要になっている。本来、このようなマネジメントは運営側の責任だ。しかしそのようなイベントに協賛し、イベント名の冠に企業名を出している場合は、参加者や保護者は確実に、その企業に責任を求めると思う。

たとえば、「第15回・早嶋コンサルソフトボールカップ」とかであれば、「なんでコンサル会社なのに、現場が混乱しているのだ?」とか。「第20回・早嶋弁当サッカー大会」とかであれば、「何で弁当を扱う企業なのに、弁当の到着が遅いんだ?」とか。だ。実態として運営に関与していないので、大会名に冠があれば「主催者的な責任」を負っているように現場の利害関係者からは思われるのだ。

企業にとっては、「お金を出して名前を貸しているだけ」でも、社会的には「大会の一部を担っている」と認識される。ここにネーミングライツの盲点があるのだ。名前を出すということは、運営責任の一部を世間的に背負うということなのだ。特に、SNSでリアルタイムに情報や不満が拡散される時代では、「関係がない」と言い切るのは難しい。「第20回・早嶋ガスホールディングス親子スポーツイベント」は、大雨の中、強行開催をして、何を考えている!的なコメントを、企業名を関して発信されるのだ。

しかも、実際の地域大会の多くはボランティアや地域の有志が中心で、プロのイベント運営者ではない。スケジュールの乱れ、連絡の遅延、対応の不統一などは、ほぼ避けられない。だが、そうしたトラブルの矛先が「冠企業」に向くという構造は、意外と多くの企業が想定していない。更に、支社単位での協賛の場合は危うい。地元では「○○株式会社の大会」として広まっているが、本社はその存在すら知らないだろう。ところがクレームや苦情は「企業全体」への印象を損ねる。これはブランドリスクそのものだ。

もし、協賛企業がB2C型であれば、たとえば小売、金融、住宅、教育など、大会運営の不満や不手際の印象が直接的に冠企業へのマイナスの感情へ発展する。大会の不手際と商品サービスの印象が結びつき、「あの会社は対応が悪い」となる可能性も十分に考えられる。企業は「地域のため」と思って協賛しても、消費者は「企業の責任」と受け止めるのだ。ここに大きな乖離がある。

わたしは、これからの地域協賛は「名前を出す」より「共に運営する」時代に変わるべきだと思う。たとえば、協賛企業が大会の情報発信をサポートしたり、暑さ対策として給水ステーションを提供したり、あるいは大会中止や変更の際の連絡網づくりをデジタルで支援する等だ。そうした参加型協賛ができれば、単なる冠スポンサーではなく、運営の信頼を支えるパートナーになれるのだ。ネーミングライツは「宣伝」ではなく「共責任」だと認識しなければならない。その覚悟がないまま名前を貸すことは、思わぬリスクを招く。地域に根ざす企業ほど、この構造的なリスクを一度整理しておいた方がいいと思う。



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