早嶋です。超長文(5000字程度)です。
日本のメーカーがなぜ近年急激に力を失っているのかという点をざっくばらんに考察。早嶋の私見もふんだんに入れていますので、そのつもりでお読みください。
日本メーカーは元々から技術部門や研究分と製造部門がとても強かったです。当初、多くのメーカーは機能部制を取ってきており、技術部門や製造部門というようなくくりで企業を分けマネジメントを行っていました。そのため技術や製造のトップは会社のボードメンバーでもあり、社内に対しての声も比較的強かったと思います。
1980年代は、今のように情報の流れや物流が整っているわけではなかったので、ポーターが提唱したように全てのバリューチェーンを自社で抱えることが競争優位を見いだす一つのポイントでした。従って、当時成長遂げていた大きな企業ほど、すべてのVCを自社でかかえ揃えていきました。
しかし日本の成長は90年頃をピークに徐々に減少に向かい始めます。人口が減り始め、生産年齢人口が少なくなり、お金を持っているそうである高齢化が将来に対する漠然として不安のため、お金をセイーブし始めたのです。ちまたでは失われた20年と言われますが、その間、技術や製造を重視するマインドは大きく変わりません。あいかわらず製造方法やや技術の向上を唯一の成長の一助とみなし資源を注ぎます。従って、世の中の大きな構造変化に対してあまり注視されることはありません。
2000年頃から始まるIT革命に対しても、技術を強化するためのIT、製造を強化するためのITという認識での導入が強く、バリューチェーンやサプライチェーンの再変遷という大きなビジネスモデルそのものを見直すという取り組みが遅れました。ERPなど全社を統合するパッケージも言葉として出て来ていましたが、部門間の壁や事業部間の壁が高く、導入して十分な成果を出した企業は少なかったのです。その背景にもやはり製造や技術の人間が強く、全社的な視野が狭く、発想自体が部分最適になっていたこともあったのでしょう。
そんな中、開発と企画と販売マーケティングを自社で行い、製造は大手のEMSに託すというような企業が出現します。あるいは、製造だけを請け負う企業。販売やアフターサービスだけに集中する企業など、従来のVC全てを1社で行うのではなく、そのなかでもっとも得意な部分に絞ってビジネスを行う企業が徐々に増えてきます。1980年代の情報の流れと物流に対しての摩擦が緩和され、自由に企業間を超えたやり取りができるようになったからです。
当時の日本企業はまだメーカー主体でした。ですから製造と工場を抱えてなんぼの企業という考えが暗黙的になされていました。しかし、製造量が減少して工場の稼働率が低下することで利益率が悪化します。また、元々からオーバースペックぎみの開発コンセプトだったため、顧客や市場にフォーカスするよりも技術を優先する動きが無意識に定着していたため、競合する海外のメーカーよりも利益率が低状態が継続していました。更に、技術で何でも出来るが故に顧客の要望に応えすぎるあまり、都度開発して都度製品化を繰り返していました。海外は技術がついていかない部分もあったのか、毎回ゼロから要望を聞くのではなく、ある程度できた技術を活用して、汎用性を高めることにフォーカスします。従って顧客にはその汎用性の中での提案を受け入れるようになったのです。結果的にソリューションを含めた商品の標準化が進むことになり、高い利益率を確保できる仕組みが生まれていました。
この日本のメーカと海外企業のメーカーの利益率の違いは明瞭です。利益率の違いは、株価の違いに反映され、高い株価を得た企業は、自社にとって将来的に脅威になるビジネスに対して先行的に投資して、自らの仲間にしていくことを覚えます。また、ゼロから開発するという従来の方法に加えて、既に確立されている技術に資本を入れて時間とノウハウを買うM&Aを積極的に戦略の選択しに取り入れました。企業の成長が飛躍的に高まり、ますます効率的な仕組みができるようになってきました。
ビジネスの理論にイノベーターのジレンマがあります。気がつかないうちに、メインストリームの技術や商品コンセプトが全く違った技術や商品コンセプトに置き換わる現象です。企業の規模が大きすぎて、イノベーションの存在は認識しているのですが、部門最適になっていた企業の意思決定の遅れにより、業界では無名の企業がそのイノベーションを武器に徐々に市場のシェアを奪い始めます。当時小さいイノベーションが本当に将来に大きな市場となり、既存の市場をひっくり返す可能性があることを数字で予測することができない。従って、大企業は様々なステークホルダーに対してそのことを示すことができない。走行するうちに意思決定がおくれるのです。また、大企業は自分たちの規模感にあった市場でないと十分な収益を生むことが出来ないと考えるため、既存のメインストリームにフォーカスして、将来自分たちを崩壊に導くであろう可能性に目をつぶってしまうのです。そしてそのイノベーションが徐々に市場に導入されて、数字の予測がシュアになること、つまりようやく大企業が本腰を入れたときは既に時遅しでフォローワーになることもできず、業界もろともシュリンクしていくのです。
更に、メーカーにとっての常識が大きく変わりました。一つは、シェアという概念です。メーカーのこれまでの発想では、自分たちで作った技術は自分たちでクローズにして、それを飯の種にして儲ることでした。しかしシェアの発想がソフトウェアの世界に定着してオープンソースという概念が生まれました。皆でどんどん新しい考え方や技術を共有することで、いいものを加速度的に良くしていこうという発想です。新しい技術はつねに公開されます。興味のある技術者はその技術にアクセスして実際の動きや概念をためします。そして、その技術の進歩に対して非営利のコミュニティーができて、日夜議論が繰り広げられます。仮にその技術にバグがあれば、気がついたヒトが修正するため、一気に精度が上がっていくのです。その技術は、ネット検索によってアクセスでき、その技術の活用の仕方や理屈が記述されています。新しく何かを作る場合は、その技術をベースに作ったり、組み合わせたりすることで、ソフトウェアの生産性が一気に向上加速したのです。
当初、この動きはソフトの世界だけだと考えられていましたが、ついにハードの世界までやってきます。きっかけを作った方々は沢山いますが、イーロンマスクの事業が大企業を震撼させる存在になったのは、その動きの一部にしかすぎないと思います。
製造業の競争のルールを変える技術に3D技術があります。例えば、機械式時計などをスキャンします。MRIのように何枚も輪切りにすることができるとします。そして、その輪切りの図をミクロン単位の薄いシートとみなして重ねていきます。すると理屈の世界では全く同じ機構が即座にコピーすることができるのです。例えば、従来のように大量生産をする場合は、部品の型をとって鋳造した部品に材料を流し込んで生産する技術がコスト的にも優位でしょう。しかし、テスト的に部品を開発する場合に、このやり方を取ってしまえば、どうしても一つの部品あたりのコストが高くなります。毎回毎回、部品をつくるために型を削って鋳造しているからです。そこで、もともと3Dデータで設計した図面ですから、それをそのまま3Dプリンターに接続して部品を出力するという発想が出て来たのです。従って、開発にかかる時間とコストが一気に安くなります。これによって、資本の大小に関わらずアイデアや企画をできる小企業が一気にメーカーに参入してくる時代がやってきたのです。しかも彼らはそれが良いものとして出来上がると自前の工場を持たずに、EMSになげ、販路が無いときはアマゾンやイーベイを使って販売するものですから規模は小さいにしろ大企業からすると目障りな存在になったのです。
大企業がこの動きが出来ないのが、開発は同じ仕組みで出来ても、頭が固い組織や、これまでの品質管理のルールから、オープンになっている技術が社内の品質管理マニュアルでクリアになっているのかということで都度都度ゼロから技術を作らざるを得ない仕組みを作ったことです。そしてその考え方は特に日本企業や日本の規制ではネガティブに反映されている場合がおおいです。ソフトウェアやハードウェアもそうですが、新薬や医療機器もしかりです。日本で素晴らしい技術があっても、国に申請して許可が出る間に、他の国の許可が先にでるため技術を商品に転換できない苦労があります。
日本での大型のソフトウェア開発もにたような制約と苦しみを持ち自ら首を絞めている部分があります。製造で培った品質管理のルールがベースなので近年のオープンソースやシェアの発想がなかなかありません。従って全てのアルゴリズムや昨日をゼロからコーディング、開発する必要があります。ある分野では世の中3.0ぐらいのバージョンが主流になっていてもゼロから構築なので1.0くらいのバージョンしか出来上がりません。しかも自社の単価の高い社員をほぼフルフルに使っているので人件費は非常に高騰します。結果的に新しくソフトを発表しても世の中が既にバージョン4.0になっているのにバカ高い価格でバージョンは1.0というあり得ない話がありえているのです。
製造業を苦しめた要因はソフトの進展もありますが、この根本はデジタル化が加速したことでしょう。これまではヒトの手で最終調整をしなければ出来ないものが多く、その設計から施行、組み立てに至ってかなり凄腕の技が必要でした。しかし、徐々にそのノウハウが半導体と製造マシーンに置き換わります。すると、何かの製品を分解したら、チップと一部の電子部品に分かれるようになります。更に、製造マシーンも資本力があればお金で調達することができます。昔だったら同じハードを持っていても、それを活用するソフト、ヒトの手が無ければ作ることはできませんでした。が、今は部品と製造装置を購入すると、理屈の世界ではモノができてしまうのです。
スピードもトップ企業が一生懸命開発した商品も半年もしないうちに半導体に技術が集約され、そのチップが世の中に出回ります。従ってはじめから研究開発をあきらめた企業は3ヶ月から6ヶ月の遅れを計算して新商品を出すことができるようになったのです。当然、開発期間とそこに関わる資金を比較すると、数ヶ月のブランクは値下げという方法で補われます。開発や研究コストをかけていないので、その分の値段を下げても後発メーカーは利幅を取りやすくなるのです。もちろん全ての商品でこのサイクルがおこる訳ではありません。比較的技術レベルが成熟して、一般消費者からしてその違いが分からなくなった商品は起こりえる可能性が高いのです。例えば、家電製品や近年ではパソコン。そのうちスマートパッドやスマフォもコモディティとしてメーカー関係なく同じようなものになると思います。
こうなると、技術者というよりは、当初は部品と製造装置にゆだねられるわけですから国外の企業がそのような仕組みで製造部門だけを一気に引き受けるようになりEMSのような企業が出てきました。当初は彼らも部品を沢山安く仕入れて、組み立てるだけですが、世界中から組み立てや製造の依頼が殺到するようになるので、そこの分野に対しての技術が蓄積され、いつしかメーカーレベル、あるいはそれ以上の製造技術を確立するようになります。1社で1つ作っているとすると、その会社には1つの製造経験しかのこらないので技術の進歩もそれなりです。しかしEMSは100社の製造を行いますので100の経験が集まります。従って技術レベルが飛躍的に向上していくのです。近年の大きなEMSはメーカーの製造に加えて研究開発部門も持つようになり、まさにアウトソーズ先として脅威な存在になったのです。
さぁ、それでも全てを自分たちで作り、全ての技術をクローズドにして、全ての商品を自分たちでうるのか。いま、そのようといを正面から考えている企業で意思決定が出来ていない企業は、一気に取り残されて業界からいなくなる可能性もあると思います。
2015年2月 のアーカイブ
日本のメーカーで観察される過去から将来
バイオの新製品
ソニーから分社化したバイオ。新たに新製品を発表しているが、その狙いめはプロユース。が、記事でも特徴つけているポジションはアップルが最も得意とするところではないか。となると、そこからシフトする顧客に響くか否かは徹底的に重要。が、アップルのことに対してのベンチマークも見えず記事とおりの展開に疑問。
かならずアップルのアンチ層がいるとしてもそこと従来のソニーファンを加えてもやはり厳しいと感じる。
現在の新商品の流れにくわえて、将来の方向性をどう捉えて、どのように舵をきっていくのか、その考えを是非聞いて見たいと思った。
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1502/17/news071.html
成長国での成長目標
日立製作所はアジアでの積極展開に対してインドの成長を10%の目標を掲げています。が、インドの現在に成長が10%程度とすると、その成長に乗っかるということで企業としての伸びを表明していることではありません。
市場が伸びてるマーケットにおいて一定以上のプレゼンスを発揮するためにはその倍くらいのスピードでの成長計画を持って挑まなければ、市場でなかなか露出していかないでしょう。ということで、20%程度の成長を目標として動くことが大切だと思います。
ーー
日立製作所の東原敏昭社長は16日、2016年度から18年度までの次期の中期経営計画期間にインド事業で年率10%以上の成長を目指す方針を表明した。現行中計の年200億円規模の投資を継続し、「インドをアジア、中東、アフリカの生産ハブにしていく」と強調。鉄道車両や信号の工場建設を検討することも明らかにした。
参照:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ16IH1_W5A210C1TJ2000/
ーー
日本の米
日本の米の消費量は、1960年頃のピーク、年間1100万トンをピークに現在の700万トンまでジワジワと低下しています。人口は、1960年頃は1億ないくらいで、現在は1.2億人。
これらから一人当たりの消費量は、1960年頃のピークが年間に120キロだったのが現在では60キロの半分にまで減っています。
しかも米に対しての作り方は当時から大きな変化はありません。これは工業の世界から考えた場合です。基本的に守られた業界であるため集約化、転作など抜本的な改革は進んでいません。零細小規模の農家が今でも粛々と米の栽培を続けているため非効率さは否めません。
現在、国内の米農家の経営者は132万人程度です。果物農家の経営が26万人、野菜が48万人、酪農が2.5万人、ブロイラーが1万人、肥育牛が7万人を考えると、米農家はものすごい数がいることが分かります。
一方で、その米を作っている米農家の平均所得は458万円で、その所得の内訳は農業所得が14%、農業外所得が40%、年金所得が46%となっています。ちなみに、果物農家の平均所得は447万円でそのうち農業所得は44%、野菜農家は551万円で農業所得は48%、ブロイラーが615万円で農業所得は82%、酪農は794万円で農業所得は84%、肥育牛は1326万円で農業所得は83%です。
つまり、現状の米農家は実態の1割程度の収入割合で、収入の半分を年金、その半分を農業以外の収入によって生計を建てているのです。
仮に今後、TPPが成立して、関税が緩やかになくなっていくことを考えると、この状況では、日本の米は本当に大丈夫?となっていくでしょう。
ただ、農地を集約化して、マネジメントのスタイルを取り入れ、勘からデータを取り入れた農業に変換すると簡単なことですが、仕組みやしがらみが複雑で、それもなかなか進まないと思います。
参照:向研会に参加して
ウーバー
早嶋です。
今回はスービック、マニラと2都市を訪問して複数のビジネスミーティングを重ねてきました。スービックマニラ間の移動はハイヤー、スービッックの中の移動はパートナーの車、マニラでの移動はパートナーの車と運転手を手配いただきました。しかし最終日のマニラから空港までの移動はウーバーを活用してみました。
時間と場所と行き先を伝えて運転手さんにコンタクトして終了。予定の朝7時の5分くらい前にホテルに到着。行き先などを確認して、ストレスなく空港まで届けて頂きました。事前にその運転手さんの情報が分かり、過去の利用客の声もわかるのでタクシーを流しで拾うよりずいぶんと安心です。
道中、運転手さんにウーバーのことを訪ねました。フィリピンでウーバーが広まり始めたのは2年前で、当初は20台くらいだったそうです。フィリピンのタクシーはだいぶ改善されましたが、それでも確率の話で、悪い運転手に遭遇することがあります。運転手さんも、以前は大企業の専属運転手として仕事をしていた経験があり、出張でフィリピンにくる人の送迎を主に行っていたそうです。その時にも出張者が何度となくフィリピンのタクシーにだまされたと話される方が途絶えなかったそうです。
その後、レストランのウェイターの仕事に就き、英語を覚えながらキャリアビジョンを考えたそうです。そのレストランではマネジメント職につくためには一定以上の学歴が必要で、現場からの叩き上げでは将来のキャリアが見えていたのでウーバーにチャレンジしたようです。現在、ウーバーを始めて3ヶ月。一時的な顧客に加えて、定期的に利用する顧客などもいるそうです。
ウーバーのビジネスモデルは急激に世界中に広がっています。中には、ウーバーを利用した人のトラブルが報告されていますが、そのような国や地域のタクシーと比較した場合の安全の高さは一目です。
彼と道中話したのは、ウーバーの中でも特に安全面、信頼面、タクシーとしての素行を持った仲間を集めた組織化です。組織に入れるための基準を作り、その組織に属しているウーバーの運転主を大企業ではなく中小企業でフィリピンに進出する経営者を中心にアテンドする発想です。こちら側は、安全な運転とウーバードライバーを紹介。通常はウーバーを使って仕事をしてもらい、空港の送迎など、比較的長距離の場合は事前にウーバーのドライバーの日程を押させる。フィーもウーバーの料金よりは高くするが、自分でハイヤーを手配するよりは安く設定するというものです。次回、こちらも合わせてつめてみます。
フィリピンについての雑感
早嶋です。
フィリピンでのビジネスで歴史的な理解、宗教の理解は大変大きいと思います。各書籍では様々な要因があって現在のフィリピンを作り上げていると記述されていますが、ここでは複雑な事象を自分なりの解釈を加えて簡単に捉えてみました。
フィリピンは過去400年に渡り、スペインの支配下で、その後50年間アメリカの支配を受け、最後に4年程度日本の支配を受けています。フィリピン人のことを指す、フィリピーナという言葉は元来、フィリピン生まれのスペイン人を指す言葉でした。アメリカがある前に、スペインの支配が長かったことは、フィリピンの文化を形成する家庭で非常に大切なものだと思います。
言葉にしてしまえばどこでも当てはまりますが、フィリピンの方々と接していて、洗練された感覚の裏に迷信深いものを感じたり、地味好きかと思いきや派手好きであったりと相反するようなことが様々です。
フィリピンの文化や感情や行動を理解するときに、植民地の理解とともにいくつかのポイントを整理しておくと良いと思います。それぞれ家族、面子、信仰、お祭りです。それぞれが互いに絡み合った特徴ですので重複していることもあります。
■家族
まずは家族です。家族を大切にする思想は先住民から受け継いだ価値観かも知れません。多くの話を総合すると、どうも家族は個人よりも優先順位が高いようです。誰か家族の中で困っている人がいれば、優先してその人を助けます。両親は子供に対して必要なモノを提供します。当たり前かもしれませんが学費やビジネスを立ち上げるための費用や車や住宅の費用など、出来る限り援助をしています。
面白いのはその後です。成人した子供は両親の面倒を見続けます。子供が仕送りしたお金は両親が自由に使い、また困っている家族に自由に配分する感覚です。ですから、家族から独立するような発想が乏しいし、逆にそのような行動をすると一般的に変人扱いされるようです。結婚しても両親と同居して暮らし続ける方が多いのもその影響があるのでしょう。
フィリピン人の価値観の一つにウタン・ナ・ロオブがあります。直訳は内側の負債という意味です。絶対に完済されることの無い負債で、自分の両親と後援者に対して絶対的な恩義があり、自分を育ててくれた目上の人に対して過度なまでの忠誠心を示す価値観です。
家族のつながりの背景には宗教も密接に絡んでいます。多くの家族には、教父(ゴットファザー)と教母(ゴットマザー)がいます。洗礼、堅信礼、結婚式などの節目のイベントで永久に教子の後見人になっていきます。そして教父と教母は教子の面倒を一生みていくのです。例えば、両親が医者や弁護士である友人に自分の子供の教父と教母になってもらうことも珍しくありません。これによって自分の子供が生活に困らないようにできると思うのです。
家族のつながりは経済界でもかいま見ることができます。フィリピンのトップ1000社の多くはファミリービジネスです。今回、ビジネスミーティングを行った企業も全て家族経営の組織でした。実際に名刺交換をすると同じ名字を持つ人間でボードメンバーを固めています。
面白い価値観にパキキサマというものがあります。これは家族など多数の集まり、つまり組織に対して自分の意思を譲歩するものです。従って組織の中で強調してうまくやっていくことが価値観として定着しています。この価値観はアメリカ文化の対局です。その部分はフィリピン人からすると受け入れがたいものだと思います。
そしてカババヤンという考えも大切です。フィリピン人は同胞、同国人、同郷人などに対してつよいつながりを認識しています。従って、何かのつながりがある方に対しては特別待遇をしてくれます。
今回の滞在でカババヤンを強く感じました。紹介して頂いた経営者は友人ととても親しい関係にあり家族ぐるみでつきあっています。その友人の紹介がきっかけでボードミーティングに参加できました。滞在中も懇切丁寧にケアして頂きました。ここまで手厚くして頂いたのは、フィリピンの人の文化として残っていることだったのでしょう。
■面子
他のアジア人もそうですが、フィリピンの人は非常に面子を大切にされている印象を受けます。自分や相手の恥を避けるために言動や行動に様々な面白いことが表れています。例えば会話の中に非常にあいまいな受け答えが時々あります。イエスという言葉の中に、どっちなのか実際は分からないという状況です。しかし面子ということを考えると、例えばその誘いを断ってもいけないし、だからと言って、いけなくなる可能性もあるし。というような心情が働いたイエスが多々あります。これはノーも同様ですね。
考えてみるとこれはyes but no, no but yes, というように日本人にもある感覚だと思います。従って我々からすると若干の戸惑いはあるものの違和感は少ないかもしれません。一方、欧米人からすると沢山の誤解を生む原因の一つになっている鴨知れません。
この面子は、フィリピン人の消費スタイルにも一部表れています。経済状況よりも自分の面子を大切にするあまり、借金をしてまでも盛大なセレモニーをしてみたり。自分をもっとよく見せようとしてファッションや美容にお金を費やしたり。見栄っ張りの裏にはそのような文化的な背景があるのではと推察しました。
友人はフィリピンで美容関連のビジネスをしていて不思議に思ったことが何度もあると話していました。平均的な給料が3万円から4万円のOLが毎月客単価1万円の美容室に来ているからです。これはもっと自分を良く見せたいという考え方の典型で、日本人的なお金の使い方とはまた違った感覚があるのですね。知識として知っておくと後々のフィリピンビジネスに有用だと思いました。
■信仰
冒頭でも書きましたが、400年という長い間、スペインの支配とともに定着したのがカトリック教文化への信仰です。高速で地方にいけば夕方になると敬虔な信者が協会に向かう状況を頻繁に観察することができました。フィリピンの社会構造の基盤となっていると考えてよいと思います。日常生活からビジネスのスタイル、時には政治に対してもその影響が浸透していると思います。
中でもバハラナという言葉が面白く思います。神様がなんとかしてくれるという意味で、ケセラセラのように何とかなるさ、沖縄の何くるなるさのようなイメージです。少し飛躍しますが、これがベースにあってフィリピンの人は先の計画ができにくい、今がなんとかなれば問題ないと考えてしまうのではないでしょうか。
良くフィリピン人の特徴に宵越しのお金は持たないという話題があります。貯蓄をしないで給与もきれいに毎月使ってしまう国民性です。この楽観的な発想は、フィリピンの経済を今後も押し上げていくでしょう。人口ボーナスによって経済が発展するなかで、将来もなんとかなるさという勢いでドンドン消費が増えていく。そう考えると、完全に消費が冷えきっている日本企業から考えるとものすごくうらやましい市場に見えてきてしょうがありません。なにせ最近の若い日本人は給与の半分を貯蓄にまわして将来に備えているのですから、逆にフィリピン人からすると理解されないことだと思います。
■お祭り
何と言ってもお祭りが好きな国民性です。葬儀の席でもお祭りごとにしてしまうと聞きます。皆で黙するように故人を憶うという日本の対局です。しかも1日だけではなく、棺を埋めた日から9日間は祈りを捧げながら毎晩家族や仲間で集まってごちそうを食べるそうです。
そして最も華やかなイベントがクリスマスです。日本では11月の中旬くらいからクリスマスの飾りが見られるようになりますが、フィリピンでは9月頃からクリスマスにかけての準備が始まります。そして多くの企業が12月にもう一ヶ月分の給与を社員に支払う風習があります。このお金を使って更に一気にお祭り騒ぎをするという文化が定着しています。
お祭りの際は、極端な話、借金をして、皆が食べきれない量の料理を注文して贅沢しながら楽しみます。実に愉快なハッピーな国民性なのです。
ドーナッツ戦争
セブンイレブンを筆頭にコンビに業界がドーナッツの販売を始めています。さて、あなたがドーナッツを販売しているミスドの立ち位置だったらどうするか?
結論を先に言うと、コンビニがコンビニの店舗内でドーナッツを販売するということは、コンビニの顧客がサンドイッチを買う代わりに店内のドーナッツを選択するということであって、コンビニの周りのミスドの顧客がわざわざコンビニのドーナッツを買いにいくとは考えにくい。急激にシフトするとは考えにくい。従って、慌てないことが大切。
ミスドを展開しているダスキンの売上の6割はクリーンケア、残りの3割程度がフード事業。フード事業のほとんどがミスドの部門で、フード部門は収益が悪化して赤字になりつつある状況だ。更に、近年のドーナッツ市場は低迷し続けている。
ミスドの強みは何と言っても、各店舗でドーナッツを作っており、3時間以上たったドーナッツは処分されるという新鮮さを持っていること。この店内調理の強みがドーナッツの鮮度、食感を支えており、間食マーケットに食い込んで来た。更に長年にわたるミスドグッツとキャンペーンを組み合わせたマーケティング手法にたけている。
現在、ミスドの店舗は全国で1400程度で、店舗あたりの売上が年商7,000万円程度まで落ちている。今回、ミスドの強敵となるコンビニは100円コーヒーを導入してあっという間に1,000億の市場を作り上げていることを考えると脅威になることは間違いない。
コーヒーとドーナッツの相性は良い。そこでセブンイレブンは去年の11月に工場で集中調理したドーナッツをテスト展開。これに続き、ファミマは袋入りドーナッツを展開、ローソンは店内で2種類の調理展開を始めている。
セブンイレブンはミスドをベンチマークしていることが明確なほど商品を模倣している。そして、ほとんどの商品をミスドの3割から4割安い価格に設定して徹底的なコスト勝負を仕掛けている。
さて、ミスドだったらどうするか。ミスドは全国に1400店舗に対してセブンイレブンは17,000店舗、ローソンでも12,000店舗はある。規模の経済で勝負しても確実に負けるためコスト勝負はあきらめるべき。
大きな方向性として、真っ向勝負か戦わないかの2つの方向性がある。真っ向勝負は上述のように負けが分かっている。であれば、戦わない戦略。
方向性として、例えばコーヒーを提供している店舗にフレッシュなドーナッツを提供する側にたつということが考えられる。例えば、都内には100店舗以上のミスドがあり、つまりこれは100店舗以上のドーナッツの工場を持っていることになる。そこからコーヒーを提供しているショーップにドーナッツをおろすという考え方だ。
全国で見てもミスド1400店舗に対して、喫茶店は約7万店もあり、コーヒーで有名なスタバのフードは正直最悪であることは有名。ここにドーナッツが食べられたらそれはスタバファンからするとうれしいでしょう。
ファミマやローソンも頑張って自社で作らないで、ミスドにドーナッツを売ってもらうことでセブンイレブンと逆に差別かができるという考えもできる。
ミスドの立地条件からだと、自転車やキャリーで楽々ドーナッツを近隣の店舗に配送することも可能。
というような逆転の発想も持つこともできる。
参照:大前ライブ
最新記事の投稿
最新のコメント
カテゴリー
リンク
RSS
アーカイブ
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年2月
- 2006年1月
- 2005年12月
- 2005年11月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月