早嶋です。
ロイターのニュースで東芝とキャノンと富士フィルムの状況を考えました。ワクワクしますね。
http://jp.reuters.com/article/toshiba-canon-idJPKCN0WB0MF
東芝はキャノンに独占交渉権を与えメディカルの売却を進めたい意向。東芝メディカルの医療機器に関する考え方の根底には、患者さんの体の内部に機器を入れないということ、ということで、
●画像診断装置(MRI、CT、PET診断、X線診断システム、超音波診断)
●検体検査機器
●整体センサー
の3部分で約4000億の売上、約300億の営業利益を出している。
※以下、数字は各社Webやこれまでの新聞等から拾っています。直近2015年の情報です。ある程度丸めています。
中でも画像診断装置についてはCTのシェアは国内ではダントツトップの約6割のシェア(次いでシーメンス、GE、日立、フィリップス)、MRIのシェアは国内では16%程度のシェア(GE、シーメンスが約3割、次いでフィリップス、東芝、日立)、超音波診断装置に対しても国内では日立、GEがともに約3割のシェアで東芝は3位の2割のシェアと国内の主要画像診断機のシェアは他の国内メーカーより圧倒的に良い成績です。
医療機器の世界の市場は35兆円オーバーで日本、西欧、北米、その他先進国で8割、BRICsと他の途上国で2割を占め、先進国は7%から8%程度の市場の伸び、新興国は9%から14%程度の伸びで、どちらの市場も成長まっさかりです。
従って、国内の市場で日立以外の医療機器メーカーが参入しようと思っても、そもそも出来ない、或いは再編がまだまだ進まない市場でした。参入するには医療機器の開発に加えて商流を押させる必要があり、自前で今から行っていたとしても、これだけの市場と魅力ですから古参の企業に一蹴されます。再編が進まない理由も市場自体が伸びているので互いにシェアを維持することでも売上は伸びていきます。ある程度のポジションがあれば他社を蹴落としてまで競いません。また、参入している企業に東芝のように超重大な事業が無い限り売却する意思は無いでしょう。
従って、キャノンや富士フィルムなどの光学機器メーカーとしては是非とも東芝に資本を入れて一気にこの分野に参入したいところですよね。ちなみに過去、同様にオリンパスの案件がありましたね。
ここからは東芝メディカルの画像診断機器のビジネスを中心に考えます。国内は東芝と日立がプレーヤーとして有力ですが、世界市場を考えた場合CTはシーメンスとGEで合わせて5割を占め、東芝が17%、フィリップスが11%、日立が4%です。
MRIの世界シェアはシーメンスとGEで合わせて5割を占め、フィリップスが15%、東芝が10%、日立が7%です。
超音波診断装置ではGEが22%、フォリップスが19%、東芝が14%、シーメンスが14%、日立が4%。
なので日本チームで世界で戦うのであれば日立がM&Aすることで日本企業が世界での優位性を高めることは可能です。が、今回名乗りを上げていないのか、紙面の報道に無いことをみると1)競合の日立さんだけには資本参加になりたくないという東芝メディカルの意思がある、2)キャノンや富士フィルムがより高く買ってくれるとよんだ、のかだろうと思います。
独占交渉権を得ているキャノンの売上は約3.7兆円、営業利益が3700億程度。オフィス機器が7割、カメラ・レンズが2割、産業機器が残り1割弱の構成です。直近20年の売上を見るとピークは2007年で4.5兆の売上、7000億の営業利益でしたので、期間を長くみると低迷しているといえます。
全体の構成の中でオフィス機器の売り上げはステイ、カメラ機器の売り上げは減少、産業機器は若干の成長というポートフォリオです。
オフィス機器の中で複写機複合機は世界で2位ですが、レーザープリンターやインクジェットプリンターは競争が激化して低価格化が今後進んでいく方向性。加えてプリンター事業の売上は事業部門や部単位で契約をしてリース契約というビジネスモデルから、顧客企業の拠点を一括受託して契約するMPSという方式に近年転換しています。そしてMPSでのシェアは国内では富士ゼロックスとリコーが圧倒的に強く、世界でもこの2社が力をつけています。
そう考えると光学機器メーカーとしては新たに新分野のポートフォリオが欲しいところでしょうが、キャノンは出遅れているという状況が見えてきます。或いは、他の光学機器メーカーよりも成績がよかったが故に、他の光学機器メーカーの事業ポートフォリオ再編の動きに追従しなかったのかもしれません。幸か不幸か、ビジネスはゴーイングコンサーン。今は良くても5年先を考えて動くのが戦略です。
他の光学機器メーカーはここ10年程度で自社の事業ポートフォリオの再編を模索、或いは一気にカイゼンしています。
リコーの戦略は全体の規模が大きいものでは無いので事業を商業・産業印刷に強化してMPSに集中して成果をあげています。
富士フィルムは医療・ヘルスケア事業を中核事業として成長させ、他にも電子部品や素材にも強みを持っており素晴らしいポートフォリオを構築しています。また富士ゼロックスを資本参加に加えオフィス機器も順調です。
コニカミノルタはオフィスと医療機関向けのソリューションにフォーカス。
カメラの競合であるニコンもマイクロスコープや理化学機器、医療機器などの強化を検討しています。
オリンパスは内科用の内視鏡で世界トップのポジションになり、半導体にも強みを出しています。
ということで、キャノンは医療分野や理化学機器分野の強化を勧めたくてウズウズしていたに違いありません。上記を総合的に考えるとキャノンかニコンが最も高値で買いたいはず。が、ニコンはキャッシュがありません。従って独占交渉権を先ずはキャノンに示して、ダメだった場合に富士フィルムに持っていくという流れは天晴ですね。
キャノンの時価総額は現時点で4.4兆円ですから、実際の企業の業績からしても高めです。今回の東芝メディカルの売上は4000億で営業利益が300億。M&Aのスタート価格としては10倍の3000億前後でしょうが、東芝はどうしても7000億円を欲しいとしている。損金の穴埋めをしたい、しかも3月末までに。
一方、キャノンとしてもこのチャンスは他に無いのでここでMAできなかったら事業ポートフォリオの不安を持ち越しになる。ですから倍払っても今株価が高くて市場が気がついていないから良いよね。ということで一番ドキドキしているのでは無いでしょうか。
また、仮にキャノンとの交渉が失敗したら、富士フィルムはかなり強い立場で交渉が出来るとおもいます。MAできれば更に医療分野が盤石になる。しかしキャノンよりも状況は良い。加えて今期末までの独占交渉件を握る最後の企業になる。東芝は来期に持ち越すよりはキャッシュを手にしたい。富士フィルムは条件を強めに示していた背景には、上記の考えがあったのかもしれません。
独占交渉権は3月18日まで。この動きは非常にエキサイティングな交渉となるでしょうね。
2016年3月10日 のアーカイブ
東芝に関するキャノンと富士フィルムの心境
2016年3月10日 木曜日
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