早嶋です。
成熟事業でキャッシュを得る企業の多くは新規事業開発に課題を持つ。一方で、新規事業開発を積極的に進めている企業は、事業開発の手法にオープンイノベーションを活用している。NEDOによるとオープンイノベーションは、”組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである”と語られる。
新規事業を開発する手段としては、完全に時前で行う方法と、外部リソースを活用する方法がある。オープンイノベーションは双方を融合した手法だ。企業が事業開発を自前で行う場合、いわゆるゼロイチのフェーズで、オープンイノベーションといいながら従来の思考、時間軸、ネットワーク、業界で議論をしがちだ。従い、セレンディピティ的な事象が起きにくく閉塞感を伴うことが多い。そもそも従来の延長で議論をして新規事業が開発できていれば、今苦しんでいないはずなのだ。
そこで本稿でも度々議論しているが、ゼロイチの次は何故かM&Aに希望を持つ。新規事業を買うことで解決しようと考えるのだ。が、繰り返し何度も言うようにM&Aは万能ではなく、簡単では無い。
そこで、いよいよオープンイノベーションを実施することになるが、どうもベンチャーだ!ということでベンチャーキャピタルと関係を強めて情報を集めようとする。この取組自体は間違っていない。ベンチャーキャピタルは様々な得意分野があり、その得意分野に関する情報と周辺の話は確実に集まってくるからだ。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)にお金を費やしても、なかなかオープンイノベーションでの自社事業展開に結びつかない。基本的なベンチャーキャピタルは、複数の資本家からLP投資を受け、その金額から運営費をまかないながら特定分野に投資をする。ベンチャー企業に出資をするのはVCで、LPとVCは通常10年の運用契約を結ぶ。
企業がLP投資をしてVCを通じてベンチャー企業に出資をすることは可能だが、基本的に複数のLPの話を聞いて合意をとって投資とはいかない。VCの目的は自ずと財務リターンを最大化することになる。
では、オープンイノベーションをどのように進めるのがよいのかだ。基本的には、自社や事業の現在から将来にわたる課題を整理しながら、その課題の解決ができるパートナーを都度さがしながら、提携しながら取り組むことを提案し続けることだ。
通常、ベンチャー企業はプロダクトを有することが多い。イノベーティブな技術や視点が異なるアプローチで商品開発を行っている。一方で、成熟した企業は組織を活用した営業力やこれまで培ってきた特定エリアのネットワークを有す。また製品の品質を向上したり、小規模生産を大規模生産に展開するなどを得意とする。そのため将来の課題を保管できる技術や製品やサービスの開発が終わり、テストマーケティングを行う前後で企業が提携をすることができれば、双方にメリットが出る可能性がある。
事業会社は事業開発が効率的に進み、ベンチャーは不足する資源を獲得すると同時に、将来の販売網を一部確保するなどが見えてくる。場合によっては、1年分程度の運転資金を獲得して、じっくりと事業化に専念できるようになる。
が、このような取組を事業会社が取り組んだとしても、1社、2社程度は良いが10社から20社くらい同時並行して進めるとなるとかなり苦労する。そこで、提携や協業を行いながら出資を続けるCVCの存在が非常見魅力的に見えてくる。CVCは、LP1社に対してGP1社の1対1で運営する。そのためGPは事業会社の投資目的を実現するベンチャー企業をリストアップの段階から一緒に協議して進め、ミドルリストの絞り込みを行う。
例えば、30億円規模のCVCであれば、1億から数億の投資を1年で3本程度行いはじめの5年で投資を終える。その中で、提携で終わり投資をしないベンチャーもあるし、出資提携を行いながら事業開発の協業を行うベンチャーもある。複数のベンチャーを毎月投資後もフォローをしながら事業シナジーと財務リターンの両方を獲得するようにGPが細かくベンチャー企業と行動をともにするのだ。
そう、一定の金額予算を確保して事業シナジーを生みながらオープンイノベーションを実施するために、CVCの活用は非常に合理的かつ魅力的なのだ。
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‘戦略’ カテゴリーのアーカイブ
新規事業の旅96 オープンイノベーションの打ち手としてのCVC
新規事業の旅95 情シス情事
早嶋です。
企業における基幹システム。企業は日常的に単一から複数の事業を運営する。その中で様々な情報が飛び交い、経営者は日々意思決定を強いられる。基幹システムはそれらを企業で統合し経営資源をより効率的に活用する目的で管理活用する仕組だ。そのため基幹システムの活用は戦略と紐づくべきだ。
経営資源は、ヒト、モノ、カネと言われる。ヒトに関しては、人事評価や給与計算、日常的な仕事の報告から、顧客管理まで多岐にわたる。モノに関しても、購買管理、在庫管理、生産管理、需要予測など様々だ。そして、カネに関しては、会計財務、原価管理、に加えて人的資本経営の各指標の判断など、膨大な情報を日々企業は管理している。
コンピューターが企業の中に組み入れはじめたのは1990年頃だ。当時は、今と比較できないくらい高価で物理的に大きく処理速度も驚くほど遅かった。それでも全てアナログで行っている作業をコンピューターに置き換えることで劇的な進化を感じる兆しがあった。95年にマイクロソフトが基本OSを発売する前後から、個々人がPCを使う文化が浸透し始め、2000年頃から、大手企業や進んだ企業は1人1台のPC割当が当たり前になっていく。
企業のシステムや情報管理を行う部隊はPCの歴史とともに始まる。情報シスと呼称され、従業員が一定数以上いれば必ずある部門だ。当初は、導入した高価なコンピュータにデータ入力し、機材を管理するのが主な役割だった。しかし、2000年頃より、社員ひとりひとりにPCが配布されるようになり、その手配やフォローなどを行う部隊に変わっていく。やがて、オンプレのサーバーに様々なデータを詰め込み、管理し活用する動きが出てくるが、この頃より情シス部隊のアップデートに限界がくる。日常的な社内インフラの問い合わせや雑務に追われるなか、基幹システムのような構想が世の中に出始めるのだ。
2000年頃より増設された情シス部隊。メーカーや商社や金融等、日々のテクノロジーを活用して情報で利ざやを稼ぐ企業は情シスの重要性を理解して、戦略部門とセットで採用教育育成を続けた結果、中枢の部隊となっている。しかし多くの企業は2000年頃に出来た部隊の仲間が継続して、戦略とは無関係に総務の延長のような仕事として、重要な部隊にも関わらず陽の目をみない部隊となる。その結果、情シス部門の高齢化が進み、2010年頃より、新規採用を始めるも、社員が根付かない現象を繰り返す。
理屈はこうだ。情シス部隊に採用された新卒は、最新のテクノロジーを学び、それらを駆使して大学やマスターで取り組んだような仕組みの構築や将来の社会インフラを変える取り組みなどを期待する。しかし、明らかに新卒の研修でも配属先での業務もレベルが低く、マネジメント層や上司がそもそもデジタルを理解していない。あるいは、理解している方はごく一部で、全ての社内の業務が集中するので、新人の教育どころではないのだ。
こんなもんかとSNSで他の同期やメーカーの情シスのことを調べると、どうも違うようだ。自分が居る部署がそもそも外れなのだ。と思い、転職していく。
企業も2010年頃より、情シスを強化してデジタル化、近年ではトランスフォーメーションを加えてDX化を試みるが、そもそも戦略の理解と現場や現業の上流工程や下流工程を理解しながら、どこをトランスフォーメーションすると良いかを構想できる人材が少ない。更に、それらを近年のテクノロジーでどのように応用的に解決できるか、アンテナを張る範囲が圧倒的に少ないのだ。結果、外注先に丸投げしてしまい、社内で採用、育成、強化する取り組みが疎かになったのだ。
何事もどっぷり浸かって、2年、3年本気で取り組めば大手企業に務める能力がある方は、手法や勘所はわかるのだが、専門外と言ってSIerに依頼するのだ。その際も、全体の使用決めや職場や事業や業界の課題を整理して、最低限目的などを共有できれば良いのだが、それも丸投げ。
ということで、大手SIerも真面目に取り組んだら採算が合わないので、仕事を欲する協力会社1合に依頼、1号は内容がわからないということで実績があると思う2号に丸投げ。結果、フリーランスでガンガン動いている数人が仕上げてしまうも、表に出ずに、手数料だけ抜かれて誰も幸せにならない構図が数年経過するのだ。
そんなときに、オンプレミス、つまりソフトやハードを自前で調達して自社に設置する運用形態から、クラウドサービスが登場していき、また現場がついてこれなくなっているのだ。大手SIerも知恵のアップデートが遅れ、丸投げした個人や協力会社2号はクラウドを武器に、それぞれが提供する資格を取り続け、常に知識と知恵と経験をアップデートした結果、下剋上の世の中になっている。
基幹システムの構築は戦略そのものだ。企業が生産性をあげて事業を遂行し、成長をしたいのであれば、都度その仕組や評価方法などもアップデートしていく。ここに皆が気がついているが、デジタルの理解が少ない経営者や管理者が多い企業は、自社で構築している少し前のオンプレ中心とした基幹システムを、クラウド中心の仕組みに総入れ替えする意思決定も出来ないのが現状だ。
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新規事業の旅94 通年採用のススメ
早嶋です。
新規事業。持続可能な社会の再構築。イノベーション。日本企業の多くが共通認識として掲げるスローガンだ。このような難しい社会の課題を解決するための人財戦略の多くは未だに新卒一括採用が幅を利かせる。
別の視点では、人財を資本と捉えて積極的に投資を行い、長期的な企業の利益に結びつける経営手法を上記の企業はセットで掲げる。従来のように経営資源であるヒトを費用として捉えるのではなく、資本と捉え投資をする中で価値を上げる資源と捉えている。
しかし、採用現場には大きな矛盾が生じているのだ。
人的資本経営を掲げる企業、イノベーションを連呼する企業。そのような企業が未だに新卒を人財調達の1丁目一番地に置いているからだ。しかも、就職活動の時期が早期化していることで、大学での学びが更に薄まっている。学士で就職をする学生は3年生の春、修士は1年生の春からインターンシップ活動に明け暮れる。大手企業も限りある人財資源をゲットするために、本業度外視の学生に唾をつけるのだ。修士は未だ良いとして学士の場合、これから大学の学びを本格化する時期だ。学生は、大学の授業やゼミよりもインターンや就活を優先している。そして、早々に就職のチケットを得た学生は学びをやめてしまっている。本末転倒なのだ。
同様の企業は、人財の多様性に加えて、グローバルで活躍する学生を求めている。が、留学の時期は3年生の後半から4年生にかけてが一般的で、インターンの活動と重なるため今の学生の思考では、留学の選択肢が薄れてきているのだ。同窓生は、その時期にインターンシップを経験して就職を有利に進めていると勘違いしてしまうからだ。
もっぱら、高校生にとって大学がゴールであり、大学生は就職がゴールのような幻想を抱く。更に学生時間にじっくり時間をかけて将来を見つめ勉学や遊びに励む余裕も希薄化している。そのような学生を資本と捉えて長期的に育てる企業も問題視すべきだが、この流れを変えることは難しいだろう。
20年前の学生は、NPO法人の活動に力を入れて、就活の材料として企業にPRしていた。今は学生起業部やベンチャー企業でのバイトに勤しみ、その経験を就活の材料として大手のチケットをゲットしようとする。学生からすると人生の中で新卒という1回限りのタイトルを最大限活用すべく努力しているのも分かる。
提案だ。企業人事戦士は新卒一括採用という古き良き次代の考え方を捨て、通年採用に軸足を移すべきではないだろうか。当然、新卒一括採用のコスパは最強だし、定着した文化なので一定のボリュームを効率的に確保できる手段だ。が、20年前と同じような忍耐力は今の学生にない。たくさん学生を採用して半分くらい残ればラッキーという考えでは、採用した人財を資本として認知するのも疑問だ。それよい通年採用にシフトして、全ての人財を一本釣りをしながらじっくりと人財=資本として向き合う方々とコミュニケーションを取る手法に軸足を移す時期がきているのではないか。
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新規事業の旅93 アップルのゴーグル型端末
早嶋です。
アップルが発表したゴーグル型の端末。価格は3,499ドル。金額を見ると高いと思おうかもしれないが、同社初のゴーグル型端末にかけた開発資金は数百億ドルとも言われる。過去の報道をみると1台あたりの製造原価は2,200から2,500ドル。仮にこれが正しければ、研究開発費の回収を度外視していることになる。
仮想空間技術の専門家でKKRのアドバイザーを務める米国ベンチャー投資家のマシュー・ボール氏の分析によると、
・アップルは18年頃より開発に着手
・以降米国で約1万2,300件の特許申請を行う
・上記の内、約5,000件はゴーグル型端末に関係する
・研究開発費は約400億ドル
とのこと。
当然、この技術はMACやアイフォンなど他の商品にも転用されるであろうが、実際に莫大な開発費をかけていることが分かる。
過去に、プリンターやコピー業界でも、莫大な開発費をかけ、初期は法人向けなど限定して高価格帯の市場に投入し、その後製造コストなどの削減や技術の改善を繰り返し、同様の機能を低価格で提供する戦略を取っている。結果、大衆市場においてもシェアを拡大し、結果的に開発コストも回収するのだ。
同様にスマフォやタブレットなどの電子製品も当初は高額でごく限られた市場向けにリリースした。そして同様のマカニズムで価格を下げ大衆を取り込む戦略を取っている。
近年では、テスラのEVも似たような価格戦略を取っている。はじめて上市したロードスターは約10万ドルを超える価格設定だったが、現在の主力車種のモデル3は約3万5,000ドルで販売している。モデル3の外観は別として、EVそのものの性能はロードスターよりも遥かにバージョンアップされている。
アップルのゴーグル型端末。機能も十分ではなく、価格も高い。が、市場に出すことで開発者の基盤をつくることもできるし、様々なデータを取得することができる。それらを更に現場の開発に応用して半導体や光学系の技術に投資を行い、最終的にはアイフォンのように大衆でも少し頑張れば手の届く価格設定を出してくれることに期待しよう。
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新規事業の旅92 コカ・コーラのダイナミックプライシング
早嶋です。
コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJ)は自動販売機でダイナミックプライシングの導入を検討している。夜間に価格を上げる実験から始まり、立地や需要期に応じて価格を調整する方針だ。筆者は再び失敗すると考える。
コカ・コーラ社は1990年代後半に、米国の自動販売機でダイナミックプライシングの導入を計画していた。しかし、マスコミや競合他社から強烈な批判を浴びることになり計画は実行されなかった。当時の計画は気温が高いタイミングで価格を上げる作戦。しかし、商品の価値自体は変わらないので本当に飲みたい時に価値が上がる仕組みが消費者に受け入れられなくて批判の対象になったのだ。
昨今、IoTとクラウド、そしてAIを活用した予測で、全国に70万台ある自動販売機のデータを管理しコントロールするのは容易だ。しかし、コカ・コーラの自動販売機は、その瞬間を逃したら二度とこないような体験を売っているわけではない。街中、どこにでも設置してコカ・コーラのコンタクトポイントを増加する作戦がベースだからだ。従い、需要期に値上げをしようものならモラル的に「おかしいぞ!」的な攻撃を受け、しずしず企画を中止する姿が推測できる。
立地条件で価格を変える場合、一定の僻地(山の中、山奥、ホテルの廊下やロビー、スタジアム等)では高い金額が定着しているので、消費者は疑問を呈さないだろう。その場合は、リアルタイムではなく、通常値段が違うのだ。それが、状況に応じて金額が変化することを理解した多くの消費者は嫌気をさすだろう。
コカ・コーラの自動販売機は全国に約70万台あり、台数ベースではシェア3割を超える。つまり、特定の顧客を狙ってブランド展開を行っているわけではない。あくまでもマスマーケティングで全国民をターゲットとして様々な商品を展開している。となると、コカ・コーラのことを考えて理解して商品を買うという層がいたとしても、コカ・コーラの商売を満たすだけのパイは無い。
ならばポイントを付与するのはどうか。既に導入はある。15本買えば、1本無料で手に入るというプログラムだ。アプリをDLして該当の自動販売機で購入時にポイントを貯める。DL数自体は2022年6月時点で3700万件を超えている。しかし、金額が高い時に、ポイントが付くからと言ってわざわざ買うだろうか。これも考えにくい。むしろコカ・コーラはCoke ONアプリを活用してサブスクの事業を展開したいはずだった。Coke ON Passだ。月学2,700円で毎日1本、上限毎月31本まで買えるプログラムだ。このプランは1日1本の引き換えで制限があった。ケータイのデータ量のように持ち越しが出来ない部分と1日に1本しか買えないことが不満になり解約に繋がった。そこで新たにお得プランMAXなるプログラムを導入して1日2本までの引き換えに変更している。
ここまでの結果を見ても、コカ・コーラのマス層の顧客は金銭にやかましのだ。というより安いからと言って買うことはなく、高い場合は、一定の嫌悪感を示すのだ。仮に夜に10円安いから買うのではなく、たまたま通りがかって買う。しかし、立地や需要に応じて明らかにいつもよりも高いことが分かれば、わざわざ自動販売機で買わないだろう。コンビニやスーパーで買う購買行動にシフトするだけなのだ。自動販売機はコカ・コーラの努力でコモディティにしている。それらを今更理屈では可能なダイナミックプライシングに変えたとてうまくいかないのだ。
アパホテルのダイナミックプライシングが成功している理由と比較してみよう。アパの場合、特定のビジネスパーソンを相手にしている。その立地にどうしても泊まりたい一定数の理由を持つ人が、多少の価格の乱高下を気にせずに利用する。その理由は、金銭を払うのは宿泊する人ではなく、会社だからでる。さらに、支払い金額に応じてポイントが宿泊者に溜まり、宿泊者に定期的に現金で還元される。ダイナミックプライシングの上限も法人が許容する金額を見据えて設定している徹底ぶりだ。ダイナミックプライシングが適応できる商品や業界があるのだ。少なくともコモディティで、直接購買する人と消費する人がイコールの商材は適用しづらいのだ。
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新規事業の旅91 アパホテルのプライシング
早嶋です。
アパホテルはダイナミックプライシングを導入して、資産稼働率を最大限に活用している。一部屋の金額は6,000円から12,000円がベースで需要に応じて3万円前後まで変動する。もし6,000円の部屋が1.5万円を提示された場合、顧客は疑問を呈するであろうが、その際あなたはターゲットではないと言うことだ。
アパホテルの対象顧客はビジネスパーソンで一定の層だ。特徴は、自分でお金を払わないで、法人が支払うということだ。マーケティングにおけるターゲットは特定の個人を指す場合が多く、法人ターゲットの場合は組織を分析する必要がある。例えば次のようになる。
宿泊する人:実際に出張等でホテルを利用する社員
お金を出す人:法人、もしくはその社員の上司や経理
情報提供する人:宿泊する人に影響力を与える有人知人雑誌メディア等
アパホテルが提供する価値は、確実にその立地条件に泊まれることだ。主要な都市を歩いているとアパホテルの立地は良い。部屋を常に定価で提供した場合、ターゲット外の顧客が気ままに時折のイベントなどで利用し、空室と満室のギャップが想定外に発生する。通常は、値段が安いからそのホテルに泊まると考える顧客はいるだろうが、その場所が良いから泊まるという顧客は少なくなる。しかも多少高くても、その場所に泊まりたいという顧客は更に限定されるのだ。出張等でホテルを利用する社員の中には、一定のルーティンを満たしたい顧客もいる。そのような顧客が一定数確実にいるのだ。
更に、法人の場合、お金を出すの人は泊まる人と異なるのがポイントだ。社員からすると急な出張を命じたのは会社だから問題ないと考えるだろう。自分の財布が直接痛むわけではないので、非常に合理的な判断が可能になる。個人事業主や小さな会社の経営者だと、その立地が便利だからといって通常1万円で泊まっている部屋に3万出すくらいだったら、別のシティホテルや更に程度の良いホテルを候補にあげ探すだろう。そこまで一つのホテル銘柄にロイヤリティは無いし、身銭を切る感覚があるので選択肢を広げるはずだ。
更にだ。アパホテルは宿泊する人にポイントが付与される。しかもそのポイントは宿泊価格に連動する。極端な話、急に出張を命じたのは会社だし、皆が遊んでいる時に仕事をしているのだから良いだろう。という感覚と同時に、ポイントという効力が働いているのだ。ポイントは、個人の付与なので会社の管理下にもなく、会社も黙認する。
たかがポイント侮るなかれ。アパホテルのWebサイト(2024年1月7日時点)によると、以下のように解説がある。
ーー
①現金に換える【アプリ会員、アパカード会員】
「アパ直」経由の宿泊予約で、アパポイントを5,000ptためると5,000円をアパホテルフロントでキャッシュバックします。※アパ直参画ホテル、佳水郷、海外は、キャッシュバック対応はできません。
②宿泊料金につかう
「アパ直」経由の宿泊予約で、アパポイントを宿泊料金に充当できます。※100ptから100pt単位で利用可能です。1泊1室あたり1,000ptが利用上限となります。
ーー
かくしてアパホテルの超合理的な戦略は今後も邁進するのだ。
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新規事業の旅90 提携と出資
早嶋です。
新規事業の作り方として、自社で全てを行うゼロイチがある。現社長がアントレプレナーで現役バリバリで新規ビジネスを創出しているのであれば、ゼロイチの成長は一定の可能性が見込める。
一方で、日本企業の多くはサラリーマン社長だ。実際に新規事業をゼロから立ち上げた経験よりも、誰かが立ち上げた事業を倍、10倍に伸ばす取り組みや、低迷した企業のテコ入れをして業績を取り戻すなどの課題解決が得意だ。
と考えると、多くの企業は新規事業のアプローチとしてゼロイチ以外のオプションも必要だ。その方向性は提携や出資だ。ゼロイチを創造したい分野で既にリードするベンチャーや何らかの技術やノウハウを持つ企業とタッグを組み、一緒に事業を加速する手法だ。
ベンチャー企業は、何らかのイノベーションや新しい切り口を活用して、急激な成長を目指す比較的若い企業だ。アイデアを事業化すべく日々取り組むが、多くの企業が運転資金の確保に苦しんでいる。
資金調達はDebt(借りて調達する方法)と、Equity(新株の割当と引き換えに資金を調達する方法)、そして補助金など国や自治体から調達する方法がある。ベンチャー企業の立場からDebtでの調達はリスクが有るため、Equityや補助金に頼るのケースが多い。
投資サイドから考えた場合、ベンチャー企業に闇雲に投資することはない。リスクを取れば高いリターンが得られる定石はあるが、皆がそのような投資をしない。その際に便利な考えに投資ラウンドの概念がある。
エンジェル、シード、アーリー、ミドル、レイターなどのステージに企業の成長ステージを分けて投資を検討するのだ。アーリー頃よりベンチャー企業は上場を意識する。そこでプレシリーズA、シリーズA、ミドルをプレシリーズB、シリーズB、レイターをシリーズC、上場をシリーズDと呼ぶこともある。
エンジェル投資は設立間もない企業に投資をするフェーズだ。事業会社の特注からするとこのフェーズの投資はありえない。リターンや事業シナジーが全く読めないからだ。そのため個人投資家や縁故による投資が多い。
シリーズラウンドは、スタートアップ企業が最初にベンチャーキャピタルなどの外部投資家から投資を得るフェーズだ。ほぼ無名だがプロトタイプが完成し、市場での評価を始める段階だ。このフェーズで事業会社が投資する場合、自社のリソースを活用し協力する、市場評価のテストがし易い資源を持ち合わせる、現時点での課題解決によって自分たちの事業シナジーが見込める場合などだ。この場合、ファイアンスリターンよりも事業リターンを共に分かち合う可能性がある。
シリーズAラウンドは、通常一定のユーザー顧客がいて、プロダクトの追加開発や販路拡大にEquityを使い資金調達をする。ベンチャーからすると、このラウンドは本格的な資金調達で重要な投資フェーズにもなる。また、この段階ではPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成している状況だ。プロダクトが顧客の課題を解決できる適切な市場で受け入れられている状況を達成している状況だ。従い、ポテンシャルが高いベンチャーは多くのベンチャーキャピタル(VC)から既に幾重にもコンタクトがある状態だ。
出資や提携を視野に新規事業を開発したい企業が、いきなりこのフェーズの企業とネットワークを構築するのは難しい。そのためベンチャーキャピタルに出資して情報を集めながら徐々に自分たちの足で稼ぐやり方を研究する。通常は、新規事業を専任で取り組む部隊があり、そこの課長がセンスがあり足も動かせる状況にあっても、自社で直接コンタクトができるようになるまでに5年以上の歳月が必要だ。そこで、一定の資金がある企業は自社で同様の機能をもつCVCの検討や準備に取り掛かるのだ。
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新規事業の旅89 ダイナミックプライシング
早嶋です。
ダイナミックプライシング。これは、需要バランスに応じ商品価格を高頻度に変更する仕組みだ。ホテルや航空業界では1980年頃より導入されている。自由化に伴い座席価格を航空会社が管理できるようになり、米国航空会社は季節や休祝日などの座席需要にあわせて価格を変化させたのが始まりだ。
この動きは、欧米を中心に広がった。ツアー料金、高速道路、電気料金などの商材にも拡大していく。日本では、ホテルや観戦チケット、ネット小売業等で導入が進み、ネットの普及とデータ取得が容易になり始め実店舗での導入事例も出始めている。
JALやANA、他の航空業界のチケット価格を見ると、盆暮正月やGW、シルバーウィークなどのチケットが高騰している。ホテルや宿泊業業界でも同様だ。ゴルフ場などでもシーズンによってプレー料金が異なっている。ここに対して大っぴらに文句を言う顧客はすくない。一定の文化として定着しているのだ。
USJは2019年頃よりダイナミックプライシングを導入し始め、細かな価格変更の導入で収益を改善している。アパホテルは立地条件毎に近隣のイベントとリンクして金額を瞬時に細かく設定する仕組みを取り入れている。例えば、近隣のホテルが1万円の部屋しか空きがなくなったことが分かれば、自分たちのホテルの部屋を1万1千円に値付けし販売するのだ。
手法は、航空業界や他の宿泊業界と変わらないのに、頻度や粒度が一定の顧客から不満の対象になっているのは事実だ。しかし、USJもアパホテルも需給バランスを近年のデータ分析の技術を活用し超合理的に実現している事例に過ぎない。当然に、固定費かさむ事業モデルで空気を貸すよりは安く提供するし、可能性が高い場合は高値で交渉することで収益を最大化できるからだ。
ホテル、飛行機、アミューズメント施設等々。一定時間に一定人数しか利用が出来ない設備投資型の事業は固定費が大きく、利用客がいない場合も、一定の固定費を負担しなければ事業が成り立たない。そのため需給バランスに応じながら価格をダイナミックに調整することで営業利益を最大化することができるのだ。
ここまで読んで顧客のことを考えていないのではと思う方もいるだろう。しかし顧客は一般的な言葉になったが企業における顧客はあくまで企業が定義した顧客だ。全ての市場にいるポテンシャルを顧客としているのではなく、その中から絞った一定の顧客を定義しているのだ。
例えば、従来の顧客は価格が一定だと思っている。あるいは、盆暮正月は高いが、普通の日に、隣の街でコンサートがあるから急に値段が上がるなんて。。という状況には嫌悪感や不信感を感じる顧客も居るだろう。一方で、金額に関係なく、その立地条件で一定のサービスを常に受けたい顧客もいるだろう。どちらの顧客が正しいかといえば、どちらも正しいのだ。
ダイナミックプライシングはまさに戦略だ。正しいか間違いかの判断はない、合法だし、合理的だ。しかし自社がターゲットにしている顧客にその合理性を説明して受け入れてもらうことができなければ導入できないだろうし、全てにいい顔をしてきた企業は到底意思決定はできないのだ。
戦略は正しい、間違いの判断を追求するのではなく、する、しないを決定する取り組みなのだ。このように考えたら日本企業、しかも固定費を沢山かかえて事業をおこなう取り組みを行っている企業の多くはダイナミックプライシングの議論をしたとしても、結局は意思決定できずに、業界全体の様子を見ているろころだろう。一部の意思決定できる企業のみが導入して、まさに先駆者的な益を獲得しているのだ。
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新規事業の旅88 よく見る風景
早嶋です。
新規事業に関わるかな、比較的規模が大きい組織の中でよく見る景色がある。
・新規事業の方向性を示さない
・新規事業は飛び地を意識している
・新規事業は若手に任せている
・新規事業の担当者が既存事業のことを知らない
・M&Aで新規事業をなんとかできると思っている
(新規事業の方向性を示さない)
経営者の仕事は、事業ポートフォリオをどうするかだと思う。企業が掲げるミッションを達成するために自社のビジョンを示すが、その実現には既存、あるいは将来の事業ポートフォリオをどうしたいかの意志が極めて重要だ。そしてこれらを議論して意思決定することそのものが企業戦略になる。しかし、企業全体として新規事業を進める分野を絞り、資本をどのくらい投下すべきかの議論をせずに、新規事業に取り組む組織を多数観察している。
(新規事業は飛び地を意識している)
アンゾフのマトリクスがある。顧客や市場と、商品(製品・サービス)や技術を2軸に取り、既存と新規で軸の広がりを表現することで4つの領域ができる。新規事業とした場合、新規顧客✕新規商品のイメージ、いわゆる飛び地の事業を立ち上げる認識をなんとなく持ち取り組む企業が多い。が、うまくいく確率が極めて低い。城跡としては、既存顧客や市場に対して、ちょいと新しい商品や技術を提供することで商品や技術の領域を増やし、次のその取組をちょいと新しい顧客や市場に提案して売上を作るのだ。この行動を継続的に繰り返す中で、一定の時間軸が経過した場合、結果的に新規顧客✕新規商品の飛び地の事業ができているのだ。いきなり飛び地を目指すのではなく、プロセスをクリアにしていくことが大切だ。
(新規事業は若手に任せている)
新規事業だから若い社員の発送に任せたいという気持ちは分かる。しかし実際は、年齢を取った社員はアイデアや発想がなくて諦めている、若手よろしくね。的な丸投げにも聞こえる。しかしもし若手が新規事業を行うような要件を持っているとしたら、そもそもあなたの会社にはいらないだろう。と思うのだ。大きな組織で仕事をするのではなく、自分でベンチャーを始めるか、そのような組織にはじめから入り、能力を発揮しているはずだからだ。
(新規事業の担当者が既存事業のことを知らない)
若手を交えたチームを組むことが多いことにも関係するが、自社の他の事業がどのようなメカニズムで収益を挙げているのかを理解していないチームがあまりにも多い。従い、自社が有する資源を考えないで、まっさらのアイデアを出しまくる。一見よさそうだが、資源を有効活用しても難しい取り組みが、更にハードルが高くなっていることに気がついていない。活用する、しないは別にして、自社の資源や特徴や強みを徹底的に理解することが大切なのだ。
(M&Aで新規事業をなんとかできると思っている)
残念ながらM&Aは、これ以上収益を上げることが出来ないから、出口戦略の一手として売却を考えるのが売り手の発想だ。一部、成長過程において、安定株主のもと資本を入れてもらい成長を加速したいと考える売りては確かにいる。が、そのような企業は成長期の事業をバリバリ行っていて、普段からベンチャーや様々な資本家とやり取りをしている企業だ。それ以外の普通の事業会社がM&Aで新規事業を仮に変えたとしても、とても高い金額になるし、買ったあとのマネジメントができないので、M&A後、企業価値を落とし負ののれんの償却をする始末になるのだ。
新規事業を始めるためには、少なくとも自社のポートフォリオをどうするかを明確にして、新規事業の領域を企業として戦略的に決めることが最低限必要だ。その上で、自社で行う部隊、提携や資本提携を進める部隊、そしてM&Aを進める部隊の3つの手法を連携しながら進めていくのがポイントだ、。どれがあたるか分からないので、新規の立ち上げに対してもポートフォリオを組むのだ。そして、一定の期間で使える予算を確保して、丹念で使うのではなく期間で使えるような柔軟な資本を準備する。加えて、新規事業に携わる人財の評価を既存と分ける。一定期間の関与度合いに応じて、新規の評価を行うことがポイントだ。単年度や四半期で成果がでないからだ。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」
新規事業の旅87 無線給電
早嶋です。
東芝は12月5日に、マイクロ波を使い非接触で電力を給電するシステムを開発した。
(概要)
– 離れた場所に無線で狙いを定めて電力供給が可能
– 周辺で使用している無線LAN(Wi-Fi)通信と干渉しない
すごい技術だ。電子化が進む中、充電は常に課題に挙がっていた。この技術は、工場の製造現場や物流倉庫などにおけるDX可を更にすすめることになる。センサを付けてデータを取得してサーバーに送る際、各センサに電力を供給する必要があった。バッテリーか有線で電力を供給する必要があるため仕掛けが大掛かりになる。それが、今回の技術を活用することで、設置が非常に簡略化される。ありとあらゆるデータを連続的にクラウドにためてデータを解析する仕掛けが飛躍的に高まることが分かる。
IoT同士のデータは、10m以内であればBluetooth等で通信が可能だ。クラウドに送信する場合は、短距離の無線規格で情報を端末に集約して、その端末からクラウドに通信を行うなどの工夫をすると通信代も節約できる。この手の技術は別分野で進んでいる。
今回の東芝の技術が世の中に実装されるのは法的な整備を見て2025年頃になる。工場、物流、農業、医療、教育、道路交通、インフラ等々、ありとあらゆる業界でデータ化が当たり前の世界が日常になり、リアルタイムで現状を把握し、将来をシミレーションする世界がやってくる。
ワクワクするね。
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