人材育成を阻む日本の現状

2020年1月8日 水曜日

早嶋です。

追い越せ追いつけの時代はトップの国や地域や企業を模倣すれば良く、誰かが考えたことを正確に早くコピペすることで富を得ることが出来ました。しかし今は目指す姿がなく皆混沌としています。しかも矢継ぎ早に技術革新が起き業界構造が大きく変わりキャッチアップするのが大変な時代です。

そんななか、人材育成の手法は大きな変化もなく、職務を度外視した新入社員大量採用に重きを置き、戦略なきままに様々な経験を積ませてから配置を考えるという手法が蔓延しています。そして育成の手法も専ら育成能力を得に持つわけでもない先輩社員が名ばかりのOJTを繰り返すのみです。

内閣府の2018年度経済財政白書によると日本企業は1人あたりの人的資本投資の2/3をOJTに費やしています。人材教育はOJTとOFF-JTと自己啓発の3種類があります。中で企業が投資して行う人材育成はOJTとOFF−JTです。

OJTに力を入れているということは社外研修や職場を離れた研修に大きな後れを取っていることを意味します。厚生労働省の2018年労働経済分析ではOJTを除く企業の人材育成投資のGDPに占める割合を調べています。米国は2%弱、フランスは1.8%程度、ドイツは1.2%に対して日本は0.1%と極めて低い割合です。

企業にとって人材育成は将来の事業ポートフォリオ実現のための大切な手段です。過去の能力や知識を常に刷新し続け人材を強化することが企業の稼ぐ力や競争力を増加させることにつながります。しかし日本企業の人材育成は世界基準でみると明らかに後進国なのです。

では、なぜこのような状況になっているのでしょうか。考えられるのは企業戦略が脆弱なことです。経営者は常に将来の事業に投資をして、将来のキャッシュフローを増大させる責務があります。しかし多くの経営者は短期敵な思考で自ら既存のポートフォリオを変革することを積極的に行いません。人材戦略は企業戦略に紐づくので結果的に人材への投資もあまり考えられていないのです。

次に考えられるのは人事部門の専門性の低さです。グローバルカンパニーでは、人事の専門知識や学位を持つ人材が担うのが当たり前ですが日本は違います。言葉は悪いですが人事の知識や経験が乏しい素人がたまたま配属されて過去の模倣を繰り返すだけなのです。したがって未だに新入社員を採用して接遇研修や読み書きそろばんのようなトレーニングを繰り返すことに時間と資本を費やしています。

日本にある独特の人事制度も関係すると思います。年功序列や入社年次による雇用管理システムです。経済成長していた頃は、事業拡大とともに新しいポストが生まれました。そのためある程度仕事をしている人はそのポストにつかなければ仕事が回りませんでした。しかし成長が低迷してもその仕組が残っています。役割が変わらないのに年齢と共に役職が付き評価が高まるという実に不思議な仕組みです。

厚生労働省の2018年賃金構造基本統計調査によると日本企業の男性社員の賃金ピークは50歳前半で約43万円/月です。これは25歳後半の賃金の1.7倍に相当します。この悪しき制度がはびこるあまり若手が能力を発揮しても評価されないし、若手の能力を積極的に活用する思想も乏しいものになっています。もっというと能力に関係なく年齢で評価がなされるため何もせずに年を取るのをじっとまつ忍耐力の強い社員が増えるばかりなのです。

伝統的な日本企業は今でも戦後の新卒一括採用、大量雇用を信じています。そして信じられないことに職務を明確にしないままに未だに雇用を続けています。明確な人材育成方針が無いのは一般に幅広く経験を積ませてから配置を考えるという30年以上も前の考え方から脱しきれていない部分があるのです。

このような環境では間違いなく尖った能力を持つ人材や高度な専門性を持つ人材は育た無いでしょう。仮に職務を明確にして専門性の高い人材を一本釣りしようとしても、労働組合が許しません。自分たちよりも年齢の低い社員の給与が自分たちよりも高いことが理解できないのです。

こう考えると日本の組織は将来に渡って構造的に良くなる気配がしませんね。本来、現在のような環境下では職務を明確にした上でその能力を有する人材を採用するという手法に変えないと生き残れません。当然、その前提として企業は明確な進むべき方向性を明らかにして、達成のために不足する能力を採用と育成によって埋めていく考え方に転換することが重要です。今の考え方を変えない限り、今後も状態が良くなることは無いでしょう。



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