インタビュー調査だけの限界

2019年6月3日 月曜日

原です。

これまでは、インタビューによる調査のメリットを書いてきました。
しかし、アンケート調査やグループインタビューを正しく実施したとしても、本質的な顧客の声を聞くことには限界があります。
なぜならば、「人は自分で言語化できることしか話せない」からです。
自分のニーズを言語化するためには、そのニーズを明確に認識している必要があります。更に他人に説明できる概念として頭の中で構造化されている必要があります。
ハーバード大学ビジネススクールのジェラルド・ザルトマン名誉教授の「心脳マーケティング(藤川佳則・阿久津聡訳/ダイヤモンド社/2005年)によると、「人間の行動のうち、自分で認識しているのは5%程度しかない。」と書かれています。
つまり、人は自分自身のことであっても、ほんの一部のことしか言語化できない。語れないのです。この限界を補うためには、「人の行動を観察する」ことが必要なのです。

筆者は、グループインタビューの前には、試作品や企画への体験モニターを実施します。
理由は、行動観察により参加者が言語化できない漏れの部分を把握するためです。
例えば、クッキングスタジオ(料理体験のサービス)調査のケースです。
インタビュー参加者へは、グループインタビューを実施する直線に30分程の料理体験をしていただきました。
体験中、筆者は参加者の行動を観察しながらメモをとりました。
続いてのグループインタビューでは、最初に「一番楽しかったこと」、「困ったこと」について参加者全員に質問しました。
そうすると、「自分で作れて楽しかった。素材が良いので美味しかった。」、「待ち時間があった。」など、ほとんどの人が似たような短い言葉を発言されました。

続いて、筆者は参加者Aさんに質問しました。「最初、Aさんは1人で料理を作っていましたね。その後、Bさんに話かけBさんと一緒に料理を作りはじめましたね?」。
そうするとAさんは思い出したように、「そうそう、1人よりも2人で一緒に作れたことが、とても楽しかったです。専業主婦なので、普段はあまり他人と会話することが少ないのです。今日の料理体験は、とてもリフレッシュできました。」と楽しそうに話されました。Aさんは、自分のニーズに気づき言語化できたから具体的に話せたのです。このAさんの発言から新しい仮説を考えることができます。例えば、「専業主婦をターゲットにした場合、料理だけでなく他人との会話を望んでいる。会話が多くなるような体験コースのプログラムを作ろう。」などです。

更に参加者Cさんにも質問しました。「Cさんは、料理の順番を待っている間は、少し退屈そうでした。その時、何かメモを書き始めましたね?」。
そうすると、Cさんは思い出したように、「そう言えば、料理の順番を待っている時間がもったいないと思いました。なので、自分の順番を待っている間に自分なりの創作レシピを考えて紙に書いていました。最初にレシピを作成して、参加者でレシピを見せ合うと楽しいと思います。」でした。Bさんも、自分のニーズに気づき言語化できたから具体的に話せたのです。このBさんの発言から新しい仮説を考えることができます。例えば、「固定したレシピによる料理体験ではなく、自由にレシピのアイデアを考え共有し、創作料理を楽しんでいただく」などです。

筆者は、特別に高度な調査手法をしていません。モニターの皆さんを観察していただけです。そして、参加者全員の「楽しそう、困ってそう」に関する質問項目をメモに書いていただけです。本人は、その「楽しい、困った」に気づいていないだけなのです。
このように、「人は自分の行動を自分ではあまり把握できていないのです」。
だから、顧客の声を聞く調査では、人の行動観察とグループインタビューの組み合わせが有効なのです。



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